「これって一体どういう仕組みなんですかぁ?」
ふんわりとした声を上げたのはフラウさんだった。青色の瞳が目の前の箱状の物体を興味深そうに見つめていた。
彼女の横で自慢げに腕を組んでいるのはヴァントちゃんだった。耳をぴくぴくさせながら、フラウさんの横に立っている。ラヴァンジェの国家元首ともあろうフラウさんに尊大そうな態度を取れるのはクラックである彼女くらいのものだろう。
「ふふーん! 古典術式学の原典から古代語を分析して、オリジナルに組み替えたものなの!」
「なんかよくわからないですけど、すごそーですね!」
「そうよ! 本当は規制禁呪なんだけど申請するのめんどいし、『機関』の人間の一人や二人くらい私に掛かれば倒せるから別に良いかなって思ってね」
「なんか聞いちゃいけないことを聞いた気がしますが、聞かなかったことにしますー」
フラウの呆けたような声とともに彼女たちの後ろでドアが開く。入ってきたのはフャウ姉だ。いつもどおり、服装だけはガーリーで可愛いがまとう雰囲気は粗野だった。
「何やってんだ?」
「ヴァントさんの魔術発明を見せてもらっていたんですよ、騎士様」
「その……騎士様って呼ぶの止めてくれねぇか? 座りが悪ぃんだ」
「でも、フャウさんは騎士家系の出自ですから、こういうのが正しいと思うのですが……」
「はあ……つくづく人間じゃないやつと付き合うのは難しいと思わされるな」
「それってアタシも入ってるわけ?」
「あ? 耳掴むぞ、ゴラ」
ひっ、とヴァントちゃんは怯えて少し退く。一方、フャウ姉は机に近づいて箱状の物体に顔を寄せた。
「これが魔術発明なのか?」
「え、ええ、この天才クラック――カーンソンド・ヴァント・サンドレーム・レームドロット様が作った魔術機械がこれよ! 名付けて、『目玉焼き君1号』!」
「お前……可愛いな」
フャウ姉はふと思ったことを言っただけなのだろうが、ヴァントちゃんは完全に顔面を赤くして照れて言葉も出せない様子になっていた。
そんな彼女をよそにフャウ姉は箱を突きながら、先を続ける。
「んで、こいつは何が出来るんだ? 全自動目玉焼き機とかなのか?」
「ああ、騎士様、それには触れないほうが良いですよ」
「は? なんでだ?」
「それは触れた生物を全て目玉焼きにする機械なんですよ」
BOMB! フラウさんが説明を終えた瞬間、冗談のような音とともにフャウ姉は煙に包まれる。煙が落ち着くと、そこには巨大な目玉焼きが屹立していた。
「な、な、な、な゛ん゛じ゛ゃ゛こ゛り゛ゃ゛!?」
「目玉焼きがしゃべったー!?!?」
「目玉焼きじゃねぇよ!! アタシはフャウ様だ、てか、戻せ!!」
「うーん、人間だと主体は残るから目玉焼き化するのは現象上だけなのね。これは改良の余地ありかも」
「冷静に考察してんじゃねぇーーー!!」
べちんべちん、目玉焼きが跳ねるような音が聞こえた。恐らく、人間の姿であれば地団駄でも踏んでいるようなところなのかもしれない。
フラウさんはニコニコしながら跳ねている目玉焼き――もといフャウ姉に青色の瞳を向ける。
「あらあら、美味しそうな目玉焼きですね。食べてもいいですかー?」
「ダメに決まってんだろ!?」
「てか、フラウ、あんた魔法意思主体なんだから、食事必要ないんでしょ?」
「あー、そうでしたぁ……でも、人並みに食事とかしたいじゃないですか」
「そんなことは良いから、アタシを元に戻せよぉおおおおおおおお!!!」
フャウ姉の悲鳴が響く中、彼女たちは数時間歓談を続けたという。なお、フャウ姉は現象魔術師機関の魔法警察に発見され、無事人間の姿に戻れたという。違法術式の利用がバレたヴァントちゃんは宮廷魔術師評議会から大目玉を食らったとさ、めでたしめでたし(?)
最終更新:2021年06月26日 02:41