ルドラトリス宇宙空港の待合ホールは、セトルラーム共立連邦の威厳を体現する荘厳な空間に他ならない。透明なドーム型の天井は星々の光を浴し、銀河の輝きを惜しみなくホールに注ぐ。床には銀河図を刻んだモザイクタイルが広がり、冷ややかな光を放って足音をそっと飲み込む。金属とガラスの構造物が冷徹な美学を漂わせ、遠くで自動運搬機の低く唸る音が宇宙の脈動のごとく響いていた。
メレザは優雅に周囲を見渡す。深紅のローブが星光に映え、鮮やかな色彩で揺れた。「いよいよね……心の準備はよろしくて?」彼女の鋭い視線が綾音とKAEDEを捉え、静かな緊張感を漂わせる。肌には微かな決意が宿る。
「ええ、未知の分野ではあるけど今までの経験が活かせれたらとおもいます。」綾音の声には未知の試練への覚悟が滲む。ホールの喧騒を背に、穏やかな微笑みを浮かべ、星光が瞳に決意を映し出す。
KAEDEは綾音の傍らで控えめに頷く。機械生命体の無機質な外見とは裏腹に、決意が静かに宿った。「お二人のサポートができたらとおもいます。」視線はホールの奥で動く人影を捉え、微かな警戒を漂わせる。
メレザの視線が宙に浮かび、思案の色を深める。「彼は結局、連れてこなかったのね……」指先でローブの裾をつまみ、静かなリズムを刻んだ。星光が髪に柔らかな影を落とし、神秘的な雰囲気を醸し出す。
「リスク管理の結果です。」KAEDEの冷静な断言が響く。ホールの遠くで護衛隊の動きを鋭く捉え、一切の曖昧さを許さない。
ホログラムパッドを手に取るメレザ。星々の光がパッドの表面で揺らめ、指先が触れるたびに光の波紋が広がる。「ふむ……これはちょっと、相談なのだけど、今回の交渉は、共立機構全体の案件とするべきなのかしら?それとも、共立機構におけるピースギアの案件とするべき?どう思う?」彼女の声はホールの喧騒を静かに切り裂いた。
「基本的には共立機構におけるピースギア案件との認識で問題ないです。」KAEDEは一呼吸置き、明確に答える。確かな力強さが声に宿り、ホールのざわめきを圧倒する。
メレザの瞳が鋭く光る。「それで良いのね?後戻りはできないですよ。」パッドを軽く叩き、緊張感を際立たせる。ホールの光がローブに鮮やかな輝きを添え、存在感を放つ。
「ええ、今回はあくまでも共立機構におけるピースギアの立場を確定させるのが主な目的なのでもんだいないです。」綾音は落ち着いて頷く。背後のドームから星光が揺らめき、彼女の輪郭を優しく縁取る。
ーーー
ホールの中央にヴァンスが現れる。セトルラームの大統領としての威厳を湛え、金色の装飾が施された軍服が照明を眩く反射する。「共立連邦へようこそ。私がセトルラームの大統領です。」背後には護衛の兵士が整然と並び、空港の喧騒が一瞬で静寂に呑まれる。堂々とした歩みがモザイク床に重厚な響きを刻んだ。
綾音は一歩進み出し、丁寧に頭を下げる。「ヴァンス・フリートンさん、今日はわざわざ自分たちのためにお時間を作っていただきありがとうございます。」礼儀正しい仕草に弱さはなく、星光が髪に柔らかな輝きを添える。
口元に狡猾な笑みを浮かべ、ヴァンスは綾音をじっと見つめた。視線がメレザに移り、探るような光を帯びる。「こちらこそ。私もずっとお待ちしておりましたよ。あなた達ピースギアの訪問を。……ふむ、どうやら情報通りのようだね。この恐ろしさで有名な女性を連れてくるとは。ふふふ。中々やりますな。」護衛隊の微かな動きが場の緊張感を高める。
「恐ろしさは余計ですよ。大統領閣下?私はあくまでも補佐としての努めを全うしているに過ぎないのだから。当然、外交交渉の答えはこちらの綾音さんが担います。」メレザは眉をひそめ、冷ややかな視線を投げる。ローブが光を吸い込み、静かな怒りを湛える。
ヴァンスは手を軽く振って笑う。「なるほど、なるほど?つまり今回の案件は、共立機構におけるピースギアの立場を確認しにきたと。そんなところでしょうか。」軍服にホールの光が輝き、余裕と挑戦が交錯する。
「ええ、おおかたその認識で問題ないです。」綾音の落ち着いた声が響く。護衛隊の動きが緊張感を織りなし、場の空気を引き締めた。彼女は静かな決意を込めて続ける。「こちらとしてもイズモさんから預かった任務を全うしていく所存です。」
顎に手を当て、ヴァンスは思案する。「ふむ。では、どこぞの国と同じやり方ではなく、今回は貴方方ピースギアの代表代行として、直接交渉に参加するわけですね。光栄なことです。」星光が彼の存在感を際立たせ、計算された仕草が場の雰囲気を支配する。
満足げに頷き、ヴァンスは手を広げる。「素晴らしい。しっかりと私達のことを分析したうえでの訪問と見受けられる。あわてずに、ゆっくり、お話しましょう。」護衛隊が動きを止め、空気が微かに和らぐ。
「ええそうしましょう。」綾音は軽く微笑む。ヴァンスの背後で待機する兵士を一瞥し、警戒を保つ。
メレザが一歩下がり、軽い皮肉を込める。「まあ、お硬い話は後でいくらでもできるでしょう?まずは……」視線はホールの天井で揺らめく星光に吸い込まれる。
「うむ、こちらの重要施設を見てもらってから、本題に入るとしよう。」ヴァンスが言葉を遮り、護衛隊に視線を送った。威厳と遊び心が混じった声が響く。
「……そうですね。」メレザは一瞬黙り、静かに頷く。ローブが光を冷たく反射し、警戒を隠さない。
綾音が場の空気を和らげる。「そうですね。立ち話もあれなので歩きながら話しましょう。」自然な仕草がホールの喧騒に溶け込む。
「ふふ……それでは、軍の同志諸君!丁重に、案内をして差し上げなさい!」ヴァンスは豪快に笑い、護衛隊に指示を飛ばす。星光が軍服に眩い輝きを添え、ホールに活気が戻った。
ーーー自動運転車・車内
黒革のシートと淡い青の照明が織りなす静謐な空間が、自動運転車の車内を満たす。窓の外ではルドラトリスの巨大な構造物が流れ、星々の光が車体に揺らめいた。「…盛大なもてなしが嫌われるであろうことは承知済みでしょうに。やってくれるわね。」メレザはシートに深く腰掛け、窓の外を見つめる。深紅のローブが車内の光を吸い込み、指先がシートを叩くリズムが緊張感を刻む。
「イズモが来ないことを想定済みだったとも解釈できますね。」綾音は窓の外を眺め、冷静に分析する。声に戦略を練る緊張感が滲み、星光が輪郭を優しく縁取る。
軽く首を振るメレザ。「これも一種の主意返しでしょう。威圧とまではいかなくても共立連邦の余裕を演出しているのでしょうね。」視線は遠くの構造物に留まり、思案の色を深めた。
「イズモが来ても来なくてもって感じだったんですね。」綾音はシートに背を預け、軽く頷く。窓の外の光を追い、微かな警戒が宿る。
メレザの視線が鋭くなる。「気をつけて。あの男はプライドの塊みたいな存在だから。かといって派手に敵対するのも得策ではないですからね。」車内の照明がローブに冷たい輝きを添え、警告の色を帯びた。
「いまのところ、警戒はしてますけど敵対する理由はないのでそこは問題ないです。」綾音は穏やかに微笑み、冷静に応じる。声が車内の静けさに溶け込み、星光に照らされる。
一呼吸置き、メレザが戦略を提案する。「まずは先方の出方を見つつ、慎重に今後の理論展開を選択しましょう。」指がシートを叩き、慎重なリズムを刻んだ。
ーーー特異科学研究所
特異科学研究所のエントランスは、白と銀を基調とした無機質な聖堂のようだ。中央の巨大な球体ディスプレイではエネルギー体のシミュレーションが揺らめき、微かな振動音が空気を震わせる。壁面の幾何学模様がセトルラームの技術力を静かに誇示する。「さて、ここが我が国の頭脳と言っても過言ではない。特異科学研究所です。」ヴァンスは堂々と歩みを進め、誇らしげに手を広げる。軍服が照明を反射し、威厳を放つ。
メレザが球体を一瞥し、皮肉を込める。「なるほど。自国の技術をひけらかしたいのですか?」ローブがディスプレイの光を冷たく跳ね返し、鋭い雰囲気を漂わせる。
「いやいやいや、厳しいことを仰る。違いますよ。綾音殿、あなたはこの国との提携可能性を模索しているのではありませんか?」ヴァンスは笑いながら手を振る。声に余裕と挑戦が混じり、研究所の空気を支配する。
「それに関してはこの訪問次第ですかね。」綾音は冷静に答える。球体の光を追い、微かな好奇心が瞳に宿る。
ヴァンスは目を細め、探る。「この後の流れ次第ってことかな?そうすると、技術自体には特に興味はなさそうだが、ではなんのための訪問なのだろう。よもや、冷やかしにきたわけでもあるまい。」計算された仕草が光に映える。
「たしかに貴国は、かなり高度な技術を持ってらっしゃいますが提携の有無に関しては話は別です。」綾音は一呼吸置き、慎重に言葉を選ぶ。声が研究所の静けさに響き、星光の残響を思わせた。
「うむ、その通りだが。私としても、何も無意味にここに連れてきたわけではない。重要なのは、ここで双方の理解を深め、相互協力の可能性を高めることなのだから。そうでしょう?メレザ殿。」ヴァンスは球体ディスプレイを指し、護衛隊が微かに反応する。
「非の打ち所のない対応ですわ。その通りでございます。」メレザは軽く微笑み、皮肉を隠す。ディスプレイの光に視線が吸い込まれた。
ヴァンスが綾音に視線を戻す。「まぁ、この女性に何を吹き込まれたのか知らんがね。あなた達ピースギアはもっと直接的な情報に触れるべきだろう。そして、自らの意思で判断すると良い。」微かな挑発が声に混じった。
「たしかに、自分たちピースギアはまだまだこちらに来て日が浅い。情報も整理し来てない部分も多いので、判断材料も一方的に与えられた情報に過ぎない。だからどちらが正義であるということもなければ、その考え自体が戦争の種になってきた。」綾音は力強く応じる。研究所の光が揺らめき、言葉に重みを加えた。
感心したようにヴァンスが頷く。「うむ。どうやら貴方はこちらの想像以上に賢明な人物のようだな。この外交儀礼を弁えない女とは違う。」目に評価が滲んだ。
「貴方のその傲慢さが多くの不幸を招いてきたんです。この程度のことは黙って受け取るのが礼儀というものです。」メレザは即座に反論し、冷ややかな視線を投げる。ローブが光を鋭く反射した。
「多くの不幸とは何か?本件とは何の関係もないことだ。後にしたまえ。……綾音殿。この女性は貴方のサポートに相応しいのかね?この大統領命令により、席を外してもらうこともできるが……」ヴァンスは眉を上げ、声を低くする。空気が張り詰める。
対する綾音はきっぱりと言い切った。「メレザさんには自分たちが共立機構において無知な点を突かれたり、外交的不利を被らないようにするためお願いしたので個人的な主観や性格等は関係ありません。」声が静けさを切り裂く。
満足げに頷くヴァンス。「よろしい。では、引き続き同行してもらうが、見たまえ。まずは当研究所が誇るバブルレーン理論を研究するセクションである。このエネルギー体がなんなのか、知りたいかね?」緊張が解け、和やかな空気が戻る。
「ええ。」綾音は興味を隠さず答える。球体ディスプレイの光が瞳に映り、好奇心が静かに輝く。研究所の無機質な空気が彼女の声に微かな響きを添えた。
ヴァンスはディスプレイを操作し、エネルギー体を拡大する。「うむ。平たく説明するとだな、これはあなた達が11次元と呼ぶ空間の亜種にあたるエネルギーとして解釈してほしい。つまり、この球体そのものが一つの空間を形成し、ワープ理論、その他軍事転用などあらゆる技術に応用できるんだよ。」誇りが声に滲む。軍服が照明を眩く反射し、情熱が空間を満たす。護衛隊の微かな動きが緊張感を漂わせる。
「ええ。バブルレーンと呼ばれる異空間を生成し、利用してると。」綾音の声が探求の響きを帯びた。球体の光が輪郭を柔らかく縁取り、思索の深さが静かに漂う。
「そして、この空間はただの多層次元ではないんだ。そちらのポータル技術と同じくワープにも活用できるし、当然、銀河間渡航にも応用できる。しかし、私達の感覚からするとこれそのものは特別なものではない。おそらく、この認識は共有できるだろうと私は見ているのだがね。どうだろうか。」ヴァンスは熱を帯びて言葉を重ねる。軍服に映る光が堂々とした存在感を放ち、研究所の静けさに活気を吹き込む。
綾音は一呼吸置き、核心に切り込む。「理論に差はあれど、やってることは同じと。」視線が球体の光を追い、鋭い洞察が宿る。護衛隊がわずかに動き、緊張の糸を張った。
「やっていることが同じだからといって、提携が無意味とは限らん。私が何を期待しているのか?お分かり頂けるだろうか。」ヴァンスは笑みを深め、交渉の糸口を探る。微かな挑戦が声に混じり、空気を引き締めた。
「先ほど、銀河間渡航にも応用できるとおっしゃいましたが、現状公式的に実行してる艦艇がいない。そうなるとあえてやってないか、リスクが高すぎるかの二択と考えられますが、どちらですか?」綾音は慎重に、鋭く切り返す。視線がヴァンスを真っ直ぐ捉え、決意が漂う。球体の光が瞳に映り、未来への思索を照らした。
「良い質問だ。正直に答えよう。その両方だよ。ただし、あなた達にも恐らくは解明できない現象がこの世界にはある。神々の防壁というものだ。以前のデモンストレーションでは奇跡的な確立で成功させたのか、あなた達の極めて優秀な計算能力によるものか。私には分からない。だが、重要なのはそこではない。この場での提携を投資と捉えるか、あるいは拒絶し、私達があなた達の技術水準に到達または凌駕するのを静観するか。その選択を問うているんだ。この話は双方にとって、有益なものになると私は踏んでいるのだが……メレザ殿。あなたは、どう思う?」ヴァンスは堂々とした仕草で言葉を締めくくる。軍服が光を輝かせ、護衛隊の動きが緊張感を高めた。
メレザは冷ややかな笑みを浮かべる。「どうも何も、平和維持軍ですらリミッター付きでの提携にとどまっているのですよ。それを超えて直接的な技術交渉に持ち込むとは。傲慢にもほどがあるのではなくて?」警告が声に響く。ローブがディスプレイの光を冷たく跳ね返し、警戒心が際立った。
「まぁ、そうだろうな。だが、いずれにせよ私達はあなた達の水準に到達するだろう。その時になって協力姿勢に転じても……後は分かるな?」ヴァンスは肩をすくめ、余裕を見せる。声が静けさを支配し、自信が空間に満ちる。
綾音は静かに、断固として線を引く。「こちらとしては技術提供に関しては平和維持、平和利用にのみしか提供できない。それは前に共立機構に提出した出来事によるものがあるためで、これはどんな相手あろうと譲る気はないです。」視線がヴァンスを貫き、研究所の光が決意を際立たせた。
「うむ。当然のことですな。我々とて無理に全てを明らかにせよとは言っていない。なぜなら、それは互いの信頼関係の上で構築されるべき事柄なのだから。まぁ、焦る必要はないんだ。まずはリミッター付きでの提携を承認し、その上での段階的な提携レベルの引き上げを提案するが、如何かね?もちろん、平和目的の利用についてもきちんと協議し、不必要な軍事転用が起こらないことを約束しよう。」ヴァンスは頷き、提案を重ねる。仕草が緊張を和らげ、穏やかな空気が流れた。
「火器管制ロックさえつけてもらえれば提携自体はやぶさかではないです。」綾音は一瞬考え、条件を提示する。声が光に響き、確かな意志が漂う。球体の揺らめく光が瞳に映った。
「話の通じる相手で良かったよ。うむ、後は我が国のサービスをこれからたっぷり享受してもらって、その管理能力の高さを知ってもらうことだな。」ヴァンスは豪快に笑い、手を叩いた。研究所の空気が動き出し、活気が広がる。軍服が光を輝かせ、勝利の雰囲気が漂った。
「綾音さん?本当にいいのね?それで。交渉の遡上にあげるのは何もワープ関連だけではないのよ。通常の経済協定に留めることだってできるんだから。」メレザは綾音に視線を向け、確認する。ローブが光を冷たく反射し、警戒心が際立つ。
「ええ。いつかはこうなる国も現れるしそれならこちらが有利なうちに締結した方がいいと思います。」綾音は決意を固め、冷静に応じた。球体の光を追い、確信が瞳に宿る。
「うむ、賢明な判断である。素晴らしいスタートを切ったな。」ヴァンスは大きく頷き、成功を宣言した。軍服が光を輝かせ、堂々とした存在感を放つ。
メレザはヴァンスをじっと見つめる。「私は見てますよ。貴国の一挙手一投足を。」鋭い視線が空間を切り裂き、警戒が響いた。
「そう構えるな。安心したまえ。ちゃんと共立機構とも協力的に管理できる体制を目指していくのでな。」ヴァンスは笑みを崩さず、余裕を見せる。声が静けさに溶け込んだ。
「貴方の口からそれが聞けるなんて。随分と、丸くなったのね。」メレザは鼻を鳴らし、皮肉を込めた。ローブが光を跳ね返し、姿勢が際立つ。
「それは褒め言葉として受け取っておこう。」ヴァンスは目を細め、穏やかに締めくくった。研究所の光が軍服に柔らかな輝きを投げかけ、幕引きを演出した。
最終更新:2025年07月03日 23:27