イズモ「セトルラーム側も言ってた通り、そろそろ職員としての移民受け入れとかして人口増やさないとね。」
綾音「あ~やっぱりか…。人数が少ないから、他の星系や次元からのサポートが必要ってわけね。」
イズモはため息をひとつつきながら、視線をデータパッドに移し、その中の「人口拡大計画書」を確認する。画面にはすでに必要とされる職員のリストが並んでいたが、それにしても、この小さな臨時本部でこなせる範囲には限界があった。
イズモ「そろそろ1年経つころだし、いつまでも職員3人というわけにもいかないでしょ?」
綾音「確かに…。」
(彼女はしばらく考え込むように腕を組んだ後、視線をイズモに向ける)
「じゃあ、どうしよう?やっぱり公募するしかないのかな?」
イズモは少しの間、黙って考える。目の前に立ちふさがるのは、技術者やエシックスオフィサー、そしてアンドロイドの再構築エンジニアなど、多岐に渡る職種の専門家たち。彼らを受け入れるための体制を整えることが急務だった。
イズモ「ああ、頼んだよ。自分は共立機構にそういう人材がいないか、少し聞いてみる。今後の未来因果解析士やクロノストラテジストが必要になってくるだろうし。」
綾音「うん、わかったわ。私の方でいろいろと探してみる。」
(彼女は手元にあったデータパッドを持ち上げてスクロールしながら、しばらく独り言のように続ける)
「未来因果スキャンを担当する人材か…ここに来て、次元間での安定性が大事になってくるし。」
綾音は次元間移民を迎え入れるための計画書に目を通しながら、改めてその重要性を感じていた。彼女がペンを走らせると、イズモもデータパッドに向かって迅速にキーを打ち込んでいく。二人の間に静かな緊張が漂う中、会話の間も絶えず思考が働き続ける。
イズモ「
ピースギア申請局が動き出せば、さらに多くの希望者が集まるはずだ。面接もクロノシミュレーションを使って評価できるし、ある程度の自動化はできる。」
綾音「でも、あくまで評価基準を守りながらだよね。あの再起動教育が本当にうまく機能するかがカギになる。私たちの世界では倫理誓約書が特に重要だし。」
イズモはふと顔を上げ、外を見つめる。星々が微かに光り、星系間のポータルが静かに開かれ、未だ見ぬ次元からの希望者が今まさにこの星系に向かっているかもしれない。
イズモ「でも、あの再構築エンジニアがいないと、受け入れたアンドロイドの整備が難しいからな…。やっぱり、まずはそこだな。」
綾音「ええ、だってあのアンドロイドたち、記憶が…ほとんど壊れてる状態だから。再統合のプログラムが機能しなければ、誰も納得しないだろうし。」
その時、イズモはふと思い立ち、データパッドを閉じる。
イズモ「よし、これで計画書は完成したな。」
(彼はふっと微笑んで、立ち上がり、部屋の隅に置かれている大きなデータ端末に向かう)
「後は、ピースギア倫理委員会に送っておくべきだな。」
綾音「そうね。私も契約書の草案をもう一度確認し直すわ。」
外壁を薄く照らす星系の光が、モニター越しに淡く差し込んでいた。イズモと綾音の手によりまとめられた人口拡大計画書と倫理順守契約書は、電子署名と共にデータバンクに格納され、ピースギア申請局の回線を通じて各星域に向けて発信された。
その静寂を破るように、廊下から軽い足音が響いた。扉が開き、
KAEDEが慎重な面持ちで部屋に入ってくる。
KAEDE「イズモ、綾音。外部接続ノードから、ノーデンス・ブリッジ放送網への転送が完了しました。24次元語での翻訳確認も済んでいます。」
イズモ「ありがとう、KAEDE。…あとは本当に来るかどうか、だな。」
綾音(やや緊張気味に微笑む)「来なかったら、私たちでロボットに混ざって全部回すだけよ。」
KAEDE「冗談としても、現実になり得る比率です。現在、アンドロイド100体中17体が損傷.....イズモさんも創造で作ってますが、どうしても外交等で出てるときに損傷した際、新規の整備員が来なければ…補修が追いつきません。」
イズモは無言でディスプレイを見つめた。表示されるのは、星系ごとの難民キャンプの衛星画像。中には、古びたコンテナハブのそばに並ぶ廃棄アンドロイドの山もある。
綾音(そっと立ち上がって窓辺に寄る)「この星も、ずいぶん静かになったわね…。でも、また“声”が増えると思うと、少し楽しみかも。」
イズモ「声だけじゃないさ。彼らは“未来の痕跡”を持ち込む。ピースギアにとって、それは予測を困難にする反面…可能性でもある。」
綾音「その可能性に、私たちがどう向き合うか、ってことね。」
そのとき、通信モニターが小さな音を立てた。第一波となる申請データが、
共立世界統一データバンクを経由して到着した。
KAEDE「1件、優先申請です。申請者:識別番号SR-3483。状態:機能停止アンドロイド(回復可能)。所属不明。人格安定指数:0.642。未来適合性:許容範囲。」
イズモと綾音は視線を交わす。
イズモ「始まったな。」
綾音「ええ。最初の1人…じゃなかった、最初の“希望”ね。」
そして彼らは、新たな仲間を迎える準備を整える。これまで静かだったピースギアの拠点に、再び多様な声と息吹が戻りつつあった。
最終更新:2025年07月13日 16:32