イズモ「セトルラーム側も言ってた通り、そろそろ職員としての移民受け入れを始めないと、人口が増えないな。」
簡易本部の執務室。
仮設とはいえ、壁面いっぱいに展開されたモニターが星系データを映し出している。
綾音「あー、やっぱりその話になるか。」
「人数が少なすぎるものね。他の星系や次元からのサポートが必要になるのは自然かも。」
イズモは小さく息をつき、視線をデータパッドへ落とす。
表示されているのは《人口拡大計画書》。
必要人員、職種、受け入れ条件が整然と並ぶが、どれも今の臨時本部には重い数字だった。
イズモ「もうすぐ一年だ。」
「いつまでも職員三人で回せる規模じゃない。」
綾音「確かにね。」
腕を組み、少し考え込んでから顔を上げる。
「となると……公募、かな。」
イズモはしばらく黙り込む。
技術者、エシックスオフィサー、再構築エンジニア。
さらに未来因果解析士やクロノストラテジスト。
受け入れるには、体制も覚悟も必要だった。
イズモ「公募は必要だな。」
「俺は共立機構に人材の心当たりがないか聞いてみる。」
「今後は時間軸や因果に踏み込む局面が増える。」
綾音「わかった。」
データパッドを操作しながら頷く。
「私は移民候補の洗い出しを進める。」
「次元間の安定性を扱える人材は必須ね。」
二人は無言で作業を続ける。
キーを打つ音と、ペンが走る微かな音だけが室内に響く。
イズモ「
ピースギア申請局が本格稼働すれば、希望者は増える。」
「面接もクロノシミュレーションである程度は自動化できる。」
綾音「でも、評価基準は絶対に崩せない。」
「再起動教育と倫理誓約が機能しなければ意味がないもの。」
イズモは顔を上げ、窓の向こうの星々を見つめた。
静かに回転するポータルが、遠い次元と繋がっている。
イズモ「それでも、再構築エンジニアは最優先だな。」
「アンドロイドの整備が追いつかない。」
綾音「ええ。」
「あの子たち、記憶がほとんど壊れている。」
「再統合が失敗すれば、誰も納得しない。」
イズモはデータパッドを閉じた。
イズモ「……よし。」
「計画書はこれで完成だ。」
立ち上がり、壁際の大型端末へ向かう。
イズモ「倫理委員会にも送信しておく。」
綾音「私は契約書を最終確認するわ。」
星系の淡い光が室内を照らす。
電子署名された書類は、ピースギア申請局の回線を通じ、各星域へと発信された。
そのとき、廊下から足音。
扉が開き、
KAEDEが入ってくる。
KAEDE「外部接続ノードから、ノーデンス・ブリッジ放送網への転送が完了しました。」
「二十四次元語翻訳も問題ありません。」
イズモ「ありがとう。」
「……あとは、本当に来るかどうかだな。」
綾音「来なかったら、私たちで全部回すだけよ。」
KAEDE「冗談でも、現実的です。」
「現在、アンドロイド百体中十七体が損傷状態です。」
「整備員が来なければ、補修が追いつきません。」
イズモは黙ってディスプレイを見る。
映し出されるのは、各星系の難民キャンプと廃棄されたアンドロイドの影。
綾音「この星、静かになったわね。」
「でも……また声が増えるなら、悪くない。」
イズモ「声だけじゃない。」
「彼らは未来の痕跡を運んでくる。」
綾音「その可能性に、どう向き合うかね。」
通信モニターが短く鳴った。
KAEDE「申請、第一波です。」
「優先申請一件。」
「識別番号SR-3483。機能停止アンドロイド。回復可能。」
イズモと綾音は視線を交わす。
イズモ「始まったな。」
綾音「ええ。」
「最初の一人……最初の“希望”ね。」
静かだった拠点に、新しい息吹が入り込もうとしていた。
最終更新:2025年12月16日 20:41