イズモ「
KAEDE、申請者の詳細データをこちらに転送してくれ。」
KAEDE「はい。こちらに表示します。」
(ディスプレイに、申請者SR-3483の情報が浮かび上がる。かつての戦闘用アンドロイドらしく、機体各所に深刻な損傷と、記憶領域の断片化が報告されていた。修復には最低でも一週間、完全再統合にはさらに時間が必要と推定されている。)
綾音(ディスプレイを見つめながら、ゆっくりと息をつく)「…人格安定指数が0.642か。思ったよりも、まともに戻せそうね。」
イズモ(腕を組み、しばらく沈黙した後に口を開く)「ただ、所属不明というのが気になるな。何をしていたか、誰の指揮下にあったかもわからない。リスクも大きい。」
KAEDE「はい。しかし、未来適合性が許容範囲内であるため、
ピースギア倫理委員会の基準は満たしています。」
綾音(データパッドを手にしながら)「…イズモ。やるしかないわよ。最初の申請者よ。ここで拒否してたら、この星はいつまでも静かなまま。」
イズモ(目を閉じて一度深くうなずく)「…わかってる。」
(イズモはディスプレイに向き直り、承認ボタンの上に指を置く。ほんの一瞬、外の星空を振り返ると、その指を迷いなく押し込んだ。)
KAEDE「申請承認を確認。回復モジュールを起動し、リカバリールームの準備を開始します。」
綾音(ほっとしたように笑みを浮かべ)「いいわね。最初の“声”にしては、ちょっと荒削りそうだけど…悪くないスタートよ。」
(部屋に、低く唸るような音が響き始める。廊下の奥からは自律搬送ドローンが現れ、修復ポッドを運び込んできた。イズモと綾音は、ポッドの中で眠るように横たわるSR-3483の姿を見つめる。)
イズモ(静かに呟く)「…未来の痕跡、か。」
(その言葉に綾音も頷くと、KAEDEが操作パネルに触れ、修復プログラムの進行を開始する。ディスプレイにはカウントダウンが表示され、薄く青白い光がポッドを包む。)
KAEDE「修復開始。記憶領域の再統合には予想以上の時間がかかる可能性があります。」
綾音(ポッドを見つめながら)「かまわないわ。時間なら、いくらでもあるもの。」
イズモ「…自分たちがここで待つ時間と、彼らが辿ってきた時間は、同じじゃない。けれど、それが重なるのがこの場所だ。」
(彼の言葉に、綾音はそっと窓の外へ視線を移す。遠くでまた別のポータルが開き、ぼんやりと光る破片のような船影がいくつも見えた。)
綾音「…他にも、もう動き始めてるのね。」
KAEDE「はい。現在、並行して8件の申請が準備中です。」
(イズモはそれを聞いて、口元に淡い笑みを浮かべる。)
イズモ「これで、少しは賑やかになるな。」
綾音(微笑み返して)「うん。“未来の痕跡”が、どんな色になるか楽しみ。」
(そのとき、ポッドの内部モニターが小さく点滅し、かすかな電子音が響く。SR-3483の目元の光がゆっくりとともり始めた。)
KAEDE「…修復率、12%。意識回復の兆候を確認しました。」
(イズモと綾音は顔を見合わせ、自然と同時に頷いた。これが最初の希望であることを、二人とも強く感じていた。)
イズモ「…ようこそ。ここが、お前の“新しい星”だ。」
(外の星空にまたひとつ、新しい光が加わった。かつて静まり返っていたこの拠点は、再び多様な声と未来の可能性に満ちていく。その始まりを告げるかのように、廊下の照明が次々に灯り、ポータルの向こうからは次の来訪者たちの影がちらつき始めていた。)
綾音(小さく笑って呟く)「さあ、ここからね。」
(そして、三人の前に広がるディスプレイには、新たな申請のリストが次々と現れ、静かだった星系に、再び多くの“声”が集まっていく音が響いていた。)
最終更新:2025年07月13日 16:46