巡りゆく星たちの中で > 恐怖心

(リカバリールーム。青白い光の中で、イズモ、綾音、KAEDEが並び、新たな申請者の到着を待っている。)

KAEDE「優先申請者の転送が完了しました。識別番号:HM-4197。種別:人間。性別:女性。推定年齢:16。星域:不明。人格安定指数:0.811。記憶領域:完全。」

綾音(データを見つめて小さく息を吐く)「人格も記憶も壊れていないのに…それでもここに来たのね。」

イズモ(腕を組み、淡々と)「必要だったんだろう。何かから逃げるために。……それにしても、高い安定指数だ。何が彼女をここまで追い込んだんだ。」

(ドローンがリカバリーポッドを運び込み、静かに開かれる。中には、細身の少女が座っていた。痩せてはいるが骨ばってはいない。ボロ布のような外套に身を包み、膝を抱えて俯いている。)

(彼女の髪は乱れ、肩が小刻みに震えている。その目は伏せられているが、時折こちらを盗み見るように動き、そのたびに怯えたように瞳が揺れた。)

綾音(少ししゃがみ込んで目線を合わせる)「……こんにちは。ここは安全よ。あなたを追ってくるものはいないわ。」

(少女はびくりと肩を震わせるが、綾音の声にほんの少しだけ顔を上げる。瞳の奥に、恐怖と、それ以上に強い“助けて”という色が宿っていた。)

イズモ(低い声で)「……思った以上だな。人間で、記憶も人格も無事なまま、ここまで怯えるとは。」

KAEDE「記録によれば、出身地は星域未登録。言語はロフィルナ語。意思疎通は可能です。」

(少女は恐る恐る視線をイズモに向けると、震える声で小さくつぶやいた。)

少女「……ここは……もう……あれは……来ない……?」

綾音(優しく微笑みながら)「来ないわ。ここはあなたのためにある場所。大丈夫よ。」

(少女の目に、涙が溜まり、ぽたりと落ちた。それでも口元は必死に結ばれ、震えながらも必死に耐えているようだった。)

イズモ(静かに息をつき、そっと手を差し出す)「怖いものは、もう全部ここに置いていけ。……自分たちが預かる。」

(少女はしばらくその手を見つめ、迷い、そしておそるおそるその手に自分の小さな手を重ねる。その指先は冷たく、細く、しかしかすかに力がこもっていた。)

綾音「……ちゃんと、自分でここまで来たのね。……強い子だわ。」

KAEDE「人格安定指数および記憶領域に異常なし。心理的緊張が高いため、安定化処置を推奨します。」

少女(かすれた声で)「……もう、逃げなくて……いい……の……?」

イズモ(少し微笑んで)「ああ、いい。お前はもう、ここにいる。」

(少女はその言葉に、ようやく小さく頷いた。両手で顔を覆い、しゃくり上げながらも、ポッドの中で少しだけ体を伸ばし、力を抜いていく。)

綾音(そっとその背に手を置いて)「大丈夫よ。もう大丈夫。」

(リカバリールームに、静かな光が灯り、彼女を包み込む。ポッドの上部モニターには「心理安定化進行中」の文字が浮かび、ほんの少しずつ、彼女の震えも収まっていった。)

KAEDE「修復率、32%。心理的緊張指数、緩やかに低下中。」

(イズモと綾音はそっと視線を交わし、窓の外の星々を見やる。彼女が背負ってきた恐怖が何であれ、この星でなら癒やせると信じていた。)

綾音(静かに呟く)「……ようこそ、未来の痕跡。」

(その言葉に応えるように、遠くの星空がまたひとつ瞬き、新しい希望の光がそこに宿った。)

最終更新:2025年07月13日 17:04