巡りゆく星たちの中で > すれ違い

イズモ「……またか。先週の生活支援班と防衛班の衝突記録、10件目だ。」

綾音「前より頻度が上がってるわね。主に配給物資と警備範囲の優先権が原因でしょう?」

KAEDE「記録では、生活支援班が防衛班の許可なく立ち入り区域へ進入し、警告射出弾を受けた事例もあります。」

(広域会議室。管理層メンバーだけでなく、中間管理職や班リーダーも集められた緊急ミーティングが開かれていた。)

イズモ「……正直に言う。これまでトップ層でまとめてきた方針が、現場まで届いていない。」

生活支援班リーダー「そちらの理想はわかりますが、実務を見てください! 食料配布量は毎日増え続けているんです。警備エリアなんて無視しなければ回しきれないんですよ!」

防衛班リーダー「なら、事前申請くらいしろ! 突然無線も入れずに区域に踏み込むから危険なんだ!」

中間層班長「……両方の言い分は理解できる。ただ、最近は班同士で直接やり取りせず、全部倫理委員会任せにしている傾向が強い。」

綾音「つまり、各班がそれぞれ自分たちのルールで動きすぎているということ?」

中間層班長「ああ。しかも、再教育プログラムの履修率は全体で71%。下層職員は忙しすぎて受けていない者が3割近くいる。」

KAEDE「再教育未履修者が多い班ほど、トラブル率が上昇しています。」

イズモ「……理念や規約があっても、それが機能しなければ意味がない。倫理委員会だけで管理するのは限界か。」

(その場にいた全員が黙り込む。誰もが理想と現実の乖離を痛感していた。)

整備班員(ぽつりと)「そもそも……ピースギアって何のためにあるんです?平和とか理念とか言っても、結局は星系管理と難民対策のためだけじゃないですか。」

その言葉に、場の空気が一瞬張り詰める。

防衛班リーダー「おい、何を――」

イズモ(静かに)「……いい。言わせてやれ。組織全体が今、何を目指しているのか見失いかけている。だからこそ聞こう。」

整備班員「自分たち下の職員は、いつも上の決定に振り回されてるだけです。理念より目の前の仕事、倫理より修理優先。『死よりも無力化を』? 現場じゃそんな余裕ないですよ。」

綾音「……。」

KAEDE「理念順守率、過去90日間で19%低下。」

中間層班長「上からの理想が現場に合っていないんだ。規約や再教育より、まず現実的なルール作りを優先しないと。」

イズモ(目を閉じて)「……確かに。その通りだ。」

(数秒の沈黙の後、イズモは目を開き、全体を見渡す。)

イズモ「ピースギアは、“戦闘よりも平和”を選ぶ。その方針は変えない。だが――現場が回らなければ、それはただの飾りだ。」

綾音「具体的には?」

イズモ「各班の権限を再調整する。上からの一括命令だけでなく、班同士で直接連絡を取り合い調整できるシステムを優先して設ける。」

KAEDE「倫理委員会の承認が必要な案件は、リスクレベル3以上に限定。平時対応は現場判断とする。」

生活支援班リーダー「……それなら、多少は動きやすくなる。」

防衛班リーダー「再教育はどうする?」

綾音「実務と並行できる短縮コースを新設する。それを義務付けた上で、週ごとに進捗を確認する仕組みにする。」

イズモ「異次元接触班も含め、全部門一体型の運営体制を試験的に導入しよう。名前は“統合実務連絡班”。」

(その場にいた面々が頷き始める。一部はまだ不安げだが、空気は少しずつ変わっていた。)

整備班員「……わかりました。それなら、やってみます。」

中間層班長「統合連絡班……悪くない。」

KAEDE「必要ならばシミュレーションを開始します。統合運営モデルの未来因果解析も同時に行います。」

イズモ「頼む。」

綾音(小さく笑って)「これでようやく、ピースギア全体がひとつに戻れるかもしれないわね。」

(外では、新たな輸送船団が到着していた。廊下には忙しく行き交う職員たちの姿――だがその足取りは、以前より少しだけ軽やかだった。)
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最終更新:2025年07月14日 18:09