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巡りゆく星たちの中で > すれ違い

ピースギア臨時本部・広域会議室。
午前。
半円状に配置された机を囲み、管理層だけでなく中間管理職、各班のリーダーまでが集められていた。
壁面には衝突記録とトラブル統計がホログラムで投影され、数値の赤が否応なく目に入る。

イズモ「……またか。先週の生活支援班と防衛班の衝突記録、これで十件目だ。」

綾音「前より明らかに頻度が上がってるわね。原因は、ほとんどが配給物資と警備範囲の優先権でしょう。」

KAEDE「記録によれば、生活支援班が許可なく立ち入り制限区域へ進入し、防衛班から警告射出弾を受けた事例も確認されています。」

会議室に低いざわめきが走る。
現場の緊張が、数値として可視化されていた。

イズモ「……正直に言う。これまでトップ層でまとめてきた方針が、現場まで届いていない。」

生活支援班リーダー「理想は理解しています。しかし実務を見てください。食料配布量は日々増え続けている。警備エリアを一つ一つ気にしていたら、配給が止まるんです。」

防衛班リーダー「だからと言って、無断侵入を許すわけにはいかない。突然踏み込まれたら、こちらは最悪を想定して動くしかないんだ。」

中間層の班長が、静かに口を開く。

中間層班長「……両方の言い分はわかる。ただ最近、班同士で直接調整せず、何でも倫理委員会に投げている傾向が強い。」

綾音「各班が、それぞれ独自の判断で動きすぎている……?」

中間層班長「ああ。再教育プログラムの履修率も全体で七一%。忙しさを理由に、三割近くが未履修だ。」

KAEDE「再教育未履修率が高い班ほど、トラブル発生率が上昇しています。」

イズモは目を伏せる。
理念と現実の乖離が、重く胸に沈んだ。

イズモ「……規約があっても、機能しなければ意味がない。倫理委員会だけで管理するのは限界か。」

沈黙。
その中で、整備班の若い職員がぽつりと呟いた。

整備班員「……そもそも、ピースギアって何のためにあるんですか。平和とか理念とか言っても、結局は星系管理と難民対策のためだけじゃないですか。」

空気が張り詰める。

防衛班リーダー「おい、それは――」

イズモ「……いい。止めるな。」

視線を向け、静かに続ける。

イズモ「今、組織全体が目的を見失いかけている。だからこそ聞こう。」

整備班員「下の職員は、上の決定に振り回されるだけです。理念より目の前の修理、倫理より現場対応。『死よりも無力化を』? 正直、そんな余裕はない。」

KAEDE「理念順守率、直近九十日で一九%低下。」

中間層班長「理想が現場に合っていないんだ。再教育や規約より、まず回るルールが必要だ。」

イズモはゆっくりと息を吐き、目を閉じた。

イズモ「……確かに。その通りだ。」

数秒後、目を開き、全員を見渡す。

イズモ「ピースギアは、戦闘よりも平和を選ぶ。その方針は変えない。だが、現場が回らなければ、それはただの飾りだ。」

綾音「具体策は?」

イズモ「各班の権限を再調整する。上からの一括命令だけでなく、班同士が直接連絡し、即時調整できる仕組みを作る。」

KAEDE「倫理委員会承認が必要な案件は、リスクレベル三以上に限定。平時対応は現場判断とします。」

生活支援班リーダー「……それなら、動きやすくなる。」

防衛班リーダー「再教育は?」

綾音「実務と並行可能な短縮コースを新設する。義務化した上で、週次で進捗確認を行う。」

イズモ「全部門横断の試験運用を始めよう。名称は“統合実務連絡班”。」

会議室の空気が、少しずつ緩む。
頷く者、不安げに息を吐く者。
だが、停滞していた流れは確かに動き始めていた。

整備班員「……わかりました。やってみます。」

KAEDE「統合運営モデルの未来因果解析を開始可能です。」

イズモ「頼む。」

会議室の外では、新たな輸送船団が到着し、廊下を行き交う職員たちの足取りは、ほんのわずかに軽くなっていた。

最終更新:2025年12月16日 20:49