拠点・司令室。
深夜。
窓の外には漆黒の宇宙が広がり、無数の星が静かに瞬いている。
その淡い光が司令室の内部にまで届き、ほの暗い空間を縁取っていた。
壁沿いに並ぶホログラムパネルが青白く輝き、天井には光の筋がゆらゆらと揺れている。
司令席に座るイズモは、肘掛けに腕を預けたまま宙を見つめていた。
戦況ホログラムが淡く点滅し、低い電子音が規則的に響く。
その音だけが、この部屋がまだ「機能している」証のようだった。
音もなく扉が開き、綾音が静かに入室する。
綾音「……まだ起きていたのね。」
イズモは背もたれから身体を起こし、ゆっくりと振り向く。
目元には疲労が滲んでいるが、口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
イズモ「……こんな夜に眠れるほど、神経は太くないさ。」
綾音は彼の隣に立ち、戦況ホログラムを見下ろす。
青白い光が頬を照らし、彼女の表情の硬さを浮き彫りにする。
綾音「……ようやく、落ち着いてきたわね。」
イズモは短く息を吐き、視線をホログラムから外す。
窓の向こうで、星々がゆっくりと瞬いている。
イズモ「ああ……だが、俺にはわかっている。もう、この席に座るべきじゃない。」
綾音は一瞬だけ目を見開き、すぐに戦況図へと視線を戻す。
赤い点が消えては現れ、くすぶる不安を今も示していた。
綾音「……どうして、そんなことを言うの。」
沈黙。
ホログラムがわずかに揺れ、電子ノイズが空気を切る。
イズモ「俺は守れなかった。いや……見えていなかった。」
彼の声は低く、かすれていた。
イズモ「あの武装蜂起の時、司令として指示を出していたつもりだった。だが実際は、誰の声も聞いていなかった。」
綾音はそっと彼の肩に触れる。
その温もりが、冷え切った空間にわずかな重みを与える。
綾音「……あなたがいたから、ここまで来られた。あなたが支え続けた時間がなければ、誰も立ち直れなかった。」
イズモは小さく首を横に振り、目を閉じる。
ホログラムの光が、彼の横顔を冷たく照らす。
イズモ「それでも……ここまでだ。この席は、綾音のほうが相応しい。」
綾音は息を呑み、司令席を見つめる。
革張りの椅子が静かに軋み、時間が一瞬止まったように感じられた。
綾音「……私は、待っていたのかもしれない。あなたが、その言葉を口にするのを。」
イズモは立ち上がり、胸元の司令徽章を外す。
金属が光を反射し、小さな煌めきが室内に散った。
イズモ「頼んだ、司令。」
綾音は徽章を受け取り、静かに胸に留める。
その表情に、迷いはなかった。
綾音「……改めて言うわ。私が、この星を守る。」
イズモは窓の外の星空を見上げ、小さく頷く。
イズモ「その言葉が聞けてよかった。」
綾音は司令席に座り、ホログラムを操作する。
共立機構へ、トップ交代のデータが送信される。
室内の光が柔らかく変わり、戦況図の赤点が次々と収束していく。
綾音「……この星に、二度と血を流させない。」
背後で、イズモは静かに目を閉じた。
二人の視線の先、宇宙に浮かぶ星々がひときわ強く輝いていた。
最終更新:2025年12月16日 20:57