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巡りゆく星たちの中で > 派遣

拠点・司令室。
共立公歴602年の夜。
厚い強化ガラス越しに、星々が散らばる宙域と、青白く脈動するポータルが見える。
この星系を外界と繋ぐ唯一の門だ。
室内では立体ホログラムが低い駆動音を立てながら揺らぎ、戦況データと外交文書が空間に並んでいた。

司令席の前に立つのは綾音。
胸元には司令徽章が光り、彼女がこの拠点の意思決定者であることを静かに主張している。
その隣で腕を組むイズモは、一歩引いた位置から全体を見渡していた。
彼は前線指揮も裏方調整も知り尽くした存在だ。

綾音「……正式に来たわね。セトルラームとの共同研究、職員派遣の要請。」

息を吐くように言葉を落とし、ホログラムへ視線を向ける。
空中に浮かんだのは派遣予定者のリストと研究分野。
量子航行理論、次元安定化技術、未来因果観測。
どれも、この星系の生存に直結する領域だった。

イズモ「悪くない条件だ。全面的な技術開示を要求してこなかっただけ、向こうも現実を理解してる。」

窓の外へ目を向けながら言う。
星の向こうには、他連邦の思惑と監視が確かに存在している。

綾音「それでも……視線は一色じゃないわ。好意と敵意が混ざってる。」
「職員を送る以上、誰を選ぶかで、こちらの評価も決まる。」

椅子に背を預けた瞬間、肩越しに流れる長い髪が揺れる。
指先は無意識に緊張を帯びていた。

イズモはホログラムを操作し、名前の列をスクロールさせる。

イズモ「技術班から五名。」
「未来因果班から三名。」
「防衛班は……二名で十分だろう。」

その選定は冷静で、しかし現実的だった。
彼は数字の裏にある現場の負荷を理解している。

綾音は立ち上がり、窓辺へ歩く。
外にはポータル艦エルニウスが静かに待機していた。
この派遣を実際に運ぶ、橋そのものだ。

綾音「ヴァンス大統領は互恵関係と言った。」
「でも私たちは、まだ歓迎される同盟国じゃない。……客人よ。」

航路灯が規則正しく明滅し、艦影がゆっくりと移動していく。
その光景に、彼女は目を細めた。

綾音「派遣される彼らが、何を見て、何を感じるか。」
「それで、この星の未来が決まる。」

イズモは机に肘をつき、視線を外す。

イズモ「お前が決めたなら、俺は支える。」
「だがな……向こうもまだ、俺たちを測ってる。」

綾音は振り返り、短く頷く。

綾音「だからこそ行かせる。」
「歩み寄る意思があるって、示さなきゃならない。」

照明が落ち、ホログラムの青白い光が二人を照らす。
壁際に積まれた資料は、ここ数週間の激務を物語っていた。

綾音「経済班から鉱石輸出担当を二名。」
「B.N.Sゲート航路の通信班から一名。」
「総勢十三名。」
「彼らが、私たちの名刺になる。」

イズモ「結局、最後に信用されるのは人だってことか。」

綾音は司令席に戻り、徽章に指を添える。

綾音「……人を信じるのは、簡単じゃない。」
「でも、逃げないって決めた。」

ホログラムにセトルラームの旗が浮かび、署名済みの合意文書が展開される。
青い光の粒子が宙を舞い、床に淡い影を落とした。

綾音「誰も犠牲にするために送るわけじゃない。」
「彼らは、未来へ渡す橋。」

イズモは窓の前に立ち、遠くを航行する観測艦を見上げる。

イズモ「……なら、その橋が折れないよう、俺も支える。」

綾音はわずかに笑みを浮かべ、ホログラムを閉じた。
室内は静寂に包まれ、星の光だけが残る。

綾音「この星の未来に、命を懸ける価値があるって。」
「必ず、証明する。」

イズモは背を向け、扉へ向かう。

イズモ「行かせよう。」
「俺たちの、最初の橋を。」

綾音は深く息を吸い、夜空を見上げた。

綾音「……行ってらっしゃい。」

その言葉は、司令室に静かに、しかし確かに残った。

最終更新:2025年12月16日 21:06