拠点・司令室。窓の外は共立公歴602年の夜空に星が散らばり、遠くにはポータルが青白く光る。室内ではホログラムが揺らぎ、綾音とイズモが戦況データと合意書を並べて見ていた。綾音の胸には司令徽章が輝き、イズモはその横で腕を組み、無言で彼女を見守っている。
綾音(ゆっくりと息を吐き、ホログラムに目を落とし) 「……正式に来たわね、セトルラームとの共同研究職員派遣。」
ホログラムの中に、派遣予定の職員リストと予定される研究分野が青い光で浮かぶ。静かな電子音が断続的に鳴り、部屋を満たす。
イズモ(窓の外を見ながら) 「悪くない取引だ。全面的な技術開示を求めてこなかっただけ、向こうも現実をわかってる。」
綾音は椅子にもたれ、長い髪が肩越しに流れ落ちる。目の奥に僅かな緊張が見える。
綾音 「それでも、向こうの連邦から来る視線は……好意と敵意が混ざってる。職員を送る以上、誰を選ぶか、慎重にならないと。」
イズモがホログラムを指先で操作し、リストをスクロールする。複数の名前が光の中で浮かび上がる。
イズモ 「技術班からは五名。未来因果班から三名。防衛班からは……二名か。」
綾音が立ち上がり、窓辺まで歩いていく。窓の外にはポータル艦エルニウスが静かに待機しているのが見える。
綾音(星空を見上げながら) 「ヴァンス大統領は、互恵関係と言ったけれど……私たちはまだ、客人でしかないのよ。」
窓の外で航路管制灯が明滅し、遠くで艦船のシルエットがゆっくり動く。綾音はその光景に目を細める。
綾音 「派遣される彼らが、何を見て、何を感じるか。……私たちの未来は、そこにかかってる。」
イズモは机の上に肘をつき、ホログラムから視線を外す。低く、しかし穏やかな声で
イズモ 「お前が決めたことなら、俺は支える。だが、俺はこう思う……まだ、どこかで向こうも試してる。」
綾音は背中越しに彼を見て、軽く頷く。
綾音 「ええ。だからこそ……行かせるの。私たちは、向こうに歩み寄れるって、示さないと。」
室内の照明が少し落ち、ホログラムの青白い光がより強く二人を照らす。壁際に並べられた資料の山が、薄く影を作る。
綾音(手元のデータパッドを持ち、ページをめくるようにスクロールしながら) 「……鉱石輸出担当の経済班からも二名。B.N.Sゲート航路担当の通信班からも一名。総勢十三名。……彼らが、私たちの名刺代わりになる。」
イズモは小さく笑い、少し肩を竦める。
イズモ 「皮肉なもんだな。俺たちは技術で交渉して、結局、最後は人を送る。」
綾音はイスに戻り、深く腰掛け、徽章に手を添える。
綾音 「……人を信じるのは、怖いわ。でも、私自身が選んだ道よ。」
ホログラムの中に、セトルラームの旗が淡く揺らぎ、署名済みの合意文書が投影される。その文面が青い光の粒になって宙に舞い、床に影を落とす。
綾音(視線を床に落としながら、低く) 「……誰も、彼らを犠牲にするために送るわけじゃない。彼らが、未来の橋になる。」
イズモがそっと歩み寄り、窓越しに見える艦隊を見上げる。遠くに、セトルラームの観測艦が星の間を移動しているのが見える。
イズモ(低く、しかしはっきりと) 「……なら、俺もその橋を支える。たとえ、途中で崩れそうになっても。」
綾音が一瞬だけ笑みを見せ、ホログラムを閉じる。星の光が二人を包み、室内が静寂に戻る。
綾音(徽章に触れたまま、ゆっくりと) 「……この星の未来に、命を懸ける価値があると、彼らに証明してみせる。」
ホログラムが完全に消え、窓の外でポータルが明滅する。遠くに見える航路灯の列が、ゆるやかに未来への道を示しているようだった。
イズモ(背を向け、扉へ向かいながら) 「じゃあ……行かせよう。俺たちの、最初の橋を。」
綾音は椅子の背に寄りかかり、深呼吸して星空を見上げる。青白い光が頬に当たり、瞳に決意の色が浮かぶ。
綾音(小さく、しかし力強く) 「……行ってらっしゃい。」
その言葉が、静かに司令室に響いた。
最終更新:2025年07月25日 14:00