廃棄セクターE-07。
かつて補給線が集中していた区画は半ば崩落し、今も空気が不安定だった。
鉄と焦げた樹脂の匂いが風に乗り、配線の束が床を這うように広がっている。
その片隅で、ユナは膝をつき、慎重にケーブルをまとめていた。
指先は器用だが、呼吸は浅い。
工具を握る手に、わずかな震えが残っている。
ユナ「……このコネクタ……こっちで、合ってる……よね……?」
独り言は、錆びた空間に吸い込まれた。
人影は少ない。
それでも、背後が気になって、心臓の音だけがやけに大きい。
そのとき——
カナタ「うん、合ってるよ。でも、それ、ラッチ外す前に電圧確認しないと危ない」
ユナはびくりと肩を跳ねさせ、反射的に一歩退いた。
ユナ「……ご、ごめんなさい……っ」
カナタ「えっ。あ、違う、謝らなくていい。急に声かけて、ごめん」
そこに立っていたのはカナタだった。
最近、修復班に加わったばかりの少年。
赤錆に染まったツナギの袖をまくり、古いスキャナを手にしている。
ユナは彼の顔を見られず、視線を配線へ落とした。
ユナ「……カナタ……さん……」
カナタ「“さん”はいらないよ。たぶん同い年だし。僕も、ここ来たばかりだから」
ユナは、小さく頷いた。
胸の奥に、わずかな緊張と安心が同時に広がる。
それから、作業を共にする日が増えた。
カナタは無理に踏み込まず、必要なことだけを静かに伝える。
機械音が響くたびにユナの肩が強張ると、何も言わず近くに立った。
カナタ「ユナ、これ試してみる?圧力感知、慣れると楽だよ」
ユナ「……うん……やって、みたい……」
少しずつ、作業が怖くなくなった。
同時に、胸の奥に温度が生まれていく。
休憩時間。
資材室裏の冷却管に並んで腰掛け、パック飲料をすすった。
カナタ「ユナ、夜は眠れてる?」
ユナ「……ときどき、こわい夢……でも……前より、減った……」
カナタ「それなら、よかった。僕も似た感じだからさ。……ユナが笑うと、安心する」
ユナ「……わたし……笑ってる……?」
カナタ「うん。最近、ちゃんと」
ユナ「……カナタ…………カナタ」
カナタ「呼んでくれたね」
ユナ「……ありがとう……その……そばに、いてくれて……」
カナタ「うん。これからも、そうする」
後日。
技術主任「ユナ、最近安定してるな。別人みたいだ」
ユナ「……ちがいます。わたしは……わたしのまま……でも、今は……ひとりじゃ、ないから……」
名前は出さなかった。
けれど、その表情が、すべてを語っていた。
夜。
居住区の小さなベランダ。
ユナ「……あの星……きれい……」
カナタ「“星影”って呼ばれてる。傷ついた後でも、光る星だって」
ユナ「……未来、みたい……」
カナタ「うん。僕たちの、ね」
ユナは、そっと彼の手に触れた。
ユナ「……わたし……カナタとなら……未来が、見られる気がする……」
星影の下。
その言葉が、ふたりの始まりを静かに告げていた。
最終更新:2025年12月16日 21:12