巡りゆく星たちの中で > 星影に咲く

廃棄セクターE-07。空気がまだ不安定で、時折、鉄の匂いが風に乗って流れてくる。
その片隅、配線の束を慎重にまとめていたユナは、手元の工具に視線を落としたまま、静かに息を吐いた。

ユナ「……このコネクタ、こっちで合ってる……よね……?」

小さな独り言が漏れる。周囲に人影は少ない。
それでも、いつものように心臓が速く打っていた。

そのとき——

カナタ「うん、合ってるよ。それ、ラッチ外す前に電圧確認しないと危ないけど」

ユナはびくりと肩を震わせ、反射的に距離を取った。

ユナ「……ご、ごめんなさい……っ」

カナタ「えっ? いや、謝らなくていいよ。驚かせたなら、ごめん」

そこに立っていたのは、カナタ──最近、修復班に加わった少年だった。
赤錆に染まったツナギの袖をまくり、手に古びたスキャナを持っている。
ユナは彼の顔をまともに見られず、視線を配線に戻した。

ユナ「……カナタ、さん……」

カナタ「“さん”はいらないよ。同い年くらいでしょ? 僕も、ここに来たばかりだから」

ユナはそっと、頷いた。



何度かカナタと作業を共にする機会が増えていった。
彼は決して無理に話しかけたりはせず、でも、ユナが質問すると丁寧に答えてくれた。
機械の音にユナが小さく震えると、そっと近くにいてくれた。

カナタ「ユナ、これ試してみる? コネクタの圧力感知、簡単だよ」

ユナ「……うん……やって、みたい……」

そうした日々の中で、少しずつ、ユナの中にあたたかい何かが芽生えていった。



ある日の休憩時間。資材室の裏、使われなくなった冷却管の上に並んで腰掛けながら、ふたりはパック飲料をすすっていた。

カナタ「ユナって、夜、ちゃんと眠れてる?」

ユナ「……ときどき、こわい夢……でも、前より……減った、かな……」

カナタ「よかった。僕も似たような感じだからさ。……でも、ユナが笑ってると、すごく安心する」

ユナ「……わたし……笑ってる、かな……」

カナタ「うん。最近、すごく」

ユナ「……カナタ……さん……じゃなくて……カナタ」

カナタ「おっ。呼んでくれたね」

ユナ「……ありがとう……その、いつも、そばにいてくれて……」

カナタ「うん。これからも、そうするよ」



技術主任「ユナ、最近動きが安定してるな。まるで別人みたいだ」

ユナ「……ちがいます。わたしは、わたしのまま……でも、今は、ひとりじゃないから……」

カナタの名前を出すことはなかった。
でも、その笑みは、すべてを物語っていた。



夜。居住区の小さなベランダから星を見上げる。

ユナ「……あの星……きれい……」

カナタ「“星影”、って名前らしいよ。僕たちの未来に似てるって言ってた」

ユナ「……未来……」

カナタ「うん。傷ついた後でも、まだ輝くって」

ユナは、ゆっくりとカナタの手に、自分の手を重ねた。

ユナ「……わたしも……カナタとなら……未来が、見られる気がする……」

星影の下。
その言葉が、ふたりの新しい始まりを告げていた。
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最終更新:2025年07月25日 23:09