綾音「……未来因果スキャンの結果が出たわ。今のままでは、技術を巡る国際紛争の発生確率が、約45%にまで上昇している――っていう報告よ」
ヴォルカン「……45%か。それは、僕たちだけの問題じゃない。セトルラームをはじめ他国と対立する可能性も随分高まっているということか」
綾音「ええ。スキャンでは、現行の技術共有方針や外交姿勢、情報の非対称性、不信の蓄積――これら全てが組み合わさって、シナリオごとに因果的連鎖を解析している。そして、どの未来を見ても“緊張”が一定ラインを超える確率が4割強あるの」
艦橋の照明が薄暗く、静けさの中、ただ冷気だけが漂い、空気は重く鈍く、時間の流れまで止まったようだった。
オペレーター「司令、各シナリオ別の要因構成比も出てます。『技術の差別的供与』が支配的因子として24%、『監査コードの非公開』が18%、『第三者的検証制度の欠如』が11%……残りは細々した外交摩擦因子です」
ヴォルカン「つまり、偏った情報開示と第三者制度の不足が、主なトリガーか」
綾音「そう。これを改善しなければ、未来の因果相関が“暴走”してしまう……。けれど、どこから手をつければいいのか。信頼関係の再構築を始めたばかりなのに、その段階が整う前に事態が悪化する可能性もある」
薄暗い艦橋に、資料のページめくる音だけが響く。綾音は窓の外、朧げな都市の輪郭を見つめたまま、続けた。
綾音「未来因果スキャンでは、三段階の対応案をシミュレートしてる。第一案は“段階的技術共有体制の強化”。第二案は“国際監査機関への加盟と第三者監査プロトコルの起立”。第三案は“共有情報の一部をセトルラームや他国にも実装可能な形で開放する”。各案で紛争確率はどう変わるかというと、第一案で約30%、第二案で22%、第三案では18%まで低下するわ」
ヴォルカン「なるほど……段階的な対策しか道はないんだな。それでも一割台にはなるのか。ちなみに、その他の低減要因は何だ?」
オペレーター「“相互協力演習”“共同技術研究プログラム”“セトルラーム研究者の査読参加”などですが、これだけでは効果が薄く、組み合わせてこそ効果があるようです」
その説明に、綾音は軽く頷いた。そして、艦橋のモニターに映る都市の靄が、次第に冷たい朝光に溶け込んでいくように見えた。
綾音「情勢描写としては、まるで都市全体が“膠着”し、不安が静かに輪郭を持ってうごめいている感じね。都市の靄は霧のように漂い、人々の心にも同じようにまとわりついている。でも、その霧を抜けようとする“朝の光”が少しずつ差し込んでいる──そういうイメージ」
艦内の空気もまた変わった。オペレーターたちはかすかに背筋を伸ばし、綾音の言葉が重さだけでなく、希望を帯びていることを感じていた。
ヴォルカン「これで、実際に提案書を送るのか?」
綾音「うん。返信文を起草し直す。『我々は共に歩む意思を持っている。信頼と協力を礎として、段階的かつ透明な技術共有体制を築きたい』と。そして、その後に第三者監査と、セトルラーム側の協力研究機関にも査読者として参加してもらうボーナス・プログラムを提案するわ。それが最も因果確率を下げるし、外交的にも最も現実的な妥協案になる」
沈黙の後、ヴォルカンが穏やかに微笑んだ。
ヴォルカン「綾音司令、あなたの決断が、未来を少しでも違う因果に導くかもしれない」
艦橋の窓外、都市はついに靄を抜け、高層ビルの輪郭が鮮明になり始めていた。朝陽の光がガラス面を反射し、白く強い光となって差し込む。その光の中で、綾音とヴォルカン、そして艦の仲間たちの顔が淡く輝いていた。
綾音「これが、私たちの選択の始まりよ。未来因果スキャンが示した“約四十五パーセント”という数字は、単なる警告ではない。変わる可能性を示す指標でもある」
窓に映った光と影が交錯し、指先で資料を指しながら、綾音は静かに締めた。
綾音「だから――私たちは動く。それが、今の私たちにできる未来への“照射”なのだわ」
最終更新:2025年08月02日 22:07