第594話:エピローグ(続く世界) 作:◆5Mp/UnDTiI
聖創学院大附属高校の旧校舎。その傍にある池のほとりで。十叶詠子はいつものように微笑みを浮かべ、携帯電話を耳に当てていた。
その首には包帯が巻かれている。儚げな雰囲気を持つ彼女がそんな装飾をしていると、まるで重傷を負っているような錯覚を覚える――とはいえ、実際に首を切断されかけたのだと気づく者は皆無だろうが。
周囲には誰もいなかったが、詠子は指し示すように己の首元を指さしてみせた。
「これは"無事"の内に入るのかな?」
『"アレ"に首を刎ねられて生きているのだから、そう言っても差し支えないだろう』
携帯電話のスピーカーから、神野陰之の声が響く。
『あの舞台の成立には『私』以外にも多くの要素が関わっていた。あの舞台での影響を全て無くすことは不可能なのだよ』
神野陰之は並ぶ者無き強大な存在だが、それはあくまでこの世界に限っての話だ。同等、あるいはより強大な力や性質を持つ者や勢力が、いくつもあの舞台には干渉していた。
ルルティエの『神』。クエス。ロード・オブ・ナイトメア。あの方。紅世。ぽいもの。神人。虚空牙。大禍つ式。太上老君――
直接的に神野側に協力していた者、神野達を止めようとしていた者、観察程度に留めていた者と関わり方は様々だが、観測された時点で干渉が発生する。その無数の影響を完全に排することは、如何に神野といえども難しかった。
「他の人たちは、無事に帰れたのかな?」
『さて。何を以て"無事"とするかにもよるが――見てみるかね?』
神野の声に導かれて、魔女は池のほとりから歩みを進めた。向かう先は旧校舎の外壁。そこにはめ込まれた窓硝子の一枚が、校舎の中ではない、別の光景を映し出している。
そして、魔女はその光景を見る。
その首には包帯が巻かれている。儚げな雰囲気を持つ彼女がそんな装飾をしていると、まるで重傷を負っているような錯覚を覚える――とはいえ、実際に首を切断されかけたのだと気づく者は皆無だろうが。
周囲には誰もいなかったが、詠子は指し示すように己の首元を指さしてみせた。
「これは"無事"の内に入るのかな?」
『"アレ"に首を刎ねられて生きているのだから、そう言っても差し支えないだろう』
携帯電話のスピーカーから、神野陰之の声が響く。
『あの舞台の成立には『私』以外にも多くの要素が関わっていた。あの舞台での影響を全て無くすことは不可能なのだよ』
神野陰之は並ぶ者無き強大な存在だが、それはあくまでこの世界に限っての話だ。同等、あるいはより強大な力や性質を持つ者や勢力が、いくつもあの舞台には干渉していた。
ルルティエの『神』。クエス。ロード・オブ・ナイトメア。あの方。紅世。ぽいもの。神人。虚空牙。大禍つ式。太上老君――
直接的に神野側に協力していた者、神野達を止めようとしていた者、観察程度に留めていた者と関わり方は様々だが、観測された時点で干渉が発生する。その無数の影響を完全に排することは、如何に神野といえども難しかった。
「他の人たちは、無事に帰れたのかな?」
『さて。何を以て"無事"とするかにもよるが――見てみるかね?』
神野の声に導かれて、魔女は池のほとりから歩みを進めた。向かう先は旧校舎の外壁。そこにはめ込まれた窓硝子の一枚が、校舎の中ではない、別の光景を映し出している。
そして、魔女はその光景を見る。
◇◇◇
「ところで知ってる? 神様ってさ、モトラドを差別するんだよ」
土埃を巻き上げながら、ろくに舗装もされていない道を一台のモトラド(※注、二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。
当然、モトラドはそれ単独で走ったりしない。それに跨がって運転しているのは若い旅人だった。サイズの合っていない古びたコートを来たその旅人が、呆れたような声を上げる。
「君も新興宗教にはまったのかい、エルメス」
少し前に発った国で、このモトラドはとあるカルト教団に盗まれたのだった。
旅人がどうにか"説得"して取り返し、こうして次の国に向かっているのである。
「まさかー。信仰するなら、モトラドを差別しない神様を信仰するよ。キノは心当たりない?」
「生憎、神様の知り合いはいないからね」
キノと呼ばれた旅人が小さく笑いながら呟いた。
「ところで、差別って何をされたの?」
「人間のお願いしか叶えないって言うからさ。じゃあ本来のボクの持ち主であるキノの願いを叶えてよ、って言ったんだ」
「その割には撃ち合いになったけど」
「叶ったから撃ち合いになったんだよ」
「別に僕はトリガーハッピーじゃないよ、エルメス」
「そういう意味じゃ無いんだけどなぁ」
ぼやくエルメスの言葉を、キノは聞き流した。エルメスもまた、詳しく説明することはない。
「まあいいや。それより、ありがとね、キノ。ボクを必要としてくれて。あと、銃を振り回してまで取り返しに来てくれて」
「大変だった。今度は攫われそうになったらちゃんと逃げてよ」
「無茶言わないでねー」
そうしてキノとエルメスは、排気音を響かせながら走って行った。
土埃を巻き上げながら、ろくに舗装もされていない道を一台のモトラド(※注、二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。
当然、モトラドはそれ単独で走ったりしない。それに跨がって運転しているのは若い旅人だった。サイズの合っていない古びたコートを来たその旅人が、呆れたような声を上げる。
「君も新興宗教にはまったのかい、エルメス」
少し前に発った国で、このモトラドはとあるカルト教団に盗まれたのだった。
旅人がどうにか"説得"して取り返し、こうして次の国に向かっているのである。
「まさかー。信仰するなら、モトラドを差別しない神様を信仰するよ。キノは心当たりない?」
「生憎、神様の知り合いはいないからね」
キノと呼ばれた旅人が小さく笑いながら呟いた。
「ところで、差別って何をされたの?」
「人間のお願いしか叶えないって言うからさ。じゃあ本来のボクの持ち主であるキノの願いを叶えてよ、って言ったんだ」
「その割には撃ち合いになったけど」
「叶ったから撃ち合いになったんだよ」
「別に僕はトリガーハッピーじゃないよ、エルメス」
「そういう意味じゃ無いんだけどなぁ」
ぼやくエルメスの言葉を、キノは聞き流した。エルメスもまた、詳しく説明することはない。
「まあいいや。それより、ありがとね、キノ。ボクを必要としてくれて。あと、銃を振り回してまで取り返しに来てくれて」
「大変だった。今度は攫われそうになったらちゃんと逃げてよ」
「無茶言わないでねー」
そうしてキノとエルメスは、排気音を響かせながら走って行った。
◇◇◇
強い日差しが降り注ぐ砂漠の上で、火乃香は大の字になって寝ていた。
無論、このままでは遠からず死ぬだろう。寝転がってまだ数分だが、既に全身は汗でベトベト。脱水症状まであと10分というところか。
『ここ数日、奇行が激しいが』
寝転ぶ火乃香の傍らに停車している砂上戦車のスピーカーから、ボギーの呆れたような声が響く。
『自殺するつもりなら、その前に済ませておいて欲しいことがある』
「例えばー?」
『私を次のユーザーに引き会わせる手続きなどだ』
「薄情者ー、ご主人様の後を追うくらいの気概はないのかー」
ぐったりと腕を掲げ、抗議の声を上げる火乃香。
だがすぐにぐにゃりと腕を脱力させ。砂の上に叩き付ける。砂が波のように跳ねて、しかしすぐに収まった。
僅かな静寂を挟んで、火乃香がぽつりと呟く。
「なーんか大事な約束を忘れてる気がしてさ……」
『またそれか』
火乃香がその類の台詞を言うのは、この一週間で17回目だ。最初の一日で6回を消費したので、頻度こそ落ちてはいるが。
半月ほど前、特急の仕事が舞い込んだ。とある街に、可能な限り急ぎで伝染病のワクチンを届けて欲しいというものだ。
通常なら2週間かかる道のりを、凶悪な巨大蠍のコロニーがある危険地帯を突っ切ることで半分以下に短縮した。気のレーダーを常時張り巡らしながらのデューン・ランに、さしもの火乃香もグロッキー状態になり、しばらくはその街で休息を取ることになったのだ。
火乃香を宿に預け、ボギーは無茶をさせた砂上戦車のメンテナンスを手配していたのだが――その時、慌てて修理工場の受付に駆け込んできた火乃香が口走ったのが、先の言葉というわけだ。
『仕事の契約なら、私が記憶している。君の口約束までは全てを保証できないが』
「そういうんじゃないんだよなー」
『そもそも誰との約束だ?』
「それを覚えてたらこんな苦労はしてないでしょ」
『処置無しだな』
実際、そこからエンポリウムまでとんぼ返りして、火乃香は知人に総当たりしたらしい――ミリィやパイフウ、トーイ・ジョーイやケヴィン。極めつきは、蒼い殺戮者としずくのコンビだ。この二人は査察軍の中でも特殊な立ち位置にあり、そう簡単に会うことは出来ない。おかげで直属の管理者にあたる浄眼機に借りをつくることになった。
普段の火乃香ならば、絶対にやらない選択だ。浄眼機本人も、貸しを作れた喜びよりも、困惑の方が強かったように見える。
砂の上から動こうとしない火乃香を車外カメラで捉えながら、ボギーは強硬手段を取ることにした。火乃香が寝転がっている側のハッチを、エアロックまで含めて開放する。
貴重な動力を使って生み出された、快適な冷たい空気が一瞬だけ火乃香の頬を撫で、そして砂漠に飲み込まれていく。さしもの火乃香も、相棒のこの暴挙には驚いたようで、すぐさま立ち上がった。
「ちょっと、何やってんのさもったいない!」
『ほう。つまり君の行為はこれよりも生産的というわけだ』
「う……」
僅かに呻いて。
火乃香はがしがしと汗と砂にまみれた髪を、指先で乱暴にかき混ぜた。「あーもー!」と苛立ちを吐き出して、
「……ごめん。あたしが悪かった。街に戻ろっか」
『約束は思い出せたか?』
「いんや、全然。本当に、大切な約束だった気がするんだけどさ……」
砂を適当に払って戦車に乗り込んだ火乃香は、操縦席に腰を下ろすと、背もたれに体重を預けた。
何故、自分がこうも焦っているのか――火乃香は内心、その理由を理解していた。
おそらく、このままでは自分はこの約束を思い出せない。
それどころか、きっと遠からず忘却自体を忘れてしまうだろう。どこかの誰かと交わしたこの約束は、日常の中に埋もれていってしまう。二度と掘り返されることは無い。
日干しになりかけていたのも、そんな恐怖に抗おうとした結果だ。自分をいじめ抜けば思い出すのでは無いかと、藁にもすがる気持ちだったのだ。
『不甲斐ない主人に協力してやりたい気持ちはあるが、それよりも浄眼機からの依頼を片付けねばな。厄介な仕事だぞ。下手に借りなど作るからだ』
「ごめんってば……で、どんな仕事だっけ?」
『まったく君という奴は……簡単に言えば、人探しだな』
「人探しぃ? それのどこが厄介な仕事なのさ?」
『場所が石の街で、捜索対象が一夜にしてゲットーを半壊させた最有力容疑者だと聞いても同じことが言えるか?』
「……うげぇ」
石の街は査察軍すらうかつには足を踏み入れられないほどの危険地帯だ。ゲットーとは、さらにその中でも一際物騒な地区のことを指す。
加えて、そこを短時間で吹っ飛ばすような化け物が相手というのなら、間違いなく厄介事だ。
「あのヤロー、足下見やがって……」
『次からはもう少し思慮深くなることだ』
嫌味に頬を膨らませる火乃香を余所に、ボギーはモニタ上に資料を展開した。事件が起きた具体的な位置。破壊痕の画像。そして、
「……ん?」
火乃香の目に留まったのは、一枚の写真だった。
被写体は、ひとりの少女だ。砂漠には似つかわしくない、色素の薄い肌と髪。右目を隠すように前髪を伸ばしている。
『それが容疑者だな。破壊された地区から逃げるところを目撃されている』
「こんな小さな子が、どうやって石の街のど真ん中で暴れ回るっていうのさ」
『それを調べるのも仕事の内だ……とはいえ推察するに、君の居合いのような、鍛えて身に着けた技の類ではないだろうな。これほどの力を完全に制御できるなら、逃げる必要もあるまい』
「身の丈に合わない力に振り回されてる女の子……か」
どうしてか、写真から目を離せない。
そんな火乃香の様子をカメラで見て取ったのか、ボギーが尋ねてくる。
『なにか気付いたことでも?』
「昔、どっかで会った気がしてさ」
『場所が場所だ。他人の空似という奴ではないのか』
「……そうかもね。ま、とりあえず出してよ。ついでに、適当に起こして」
呟いて、火乃香は操縦席を立ち、キャビンへ向かう。
同時、ボギーが戦車を発進させた。エンジン音が高まり、車体が軽快に砂の上を滑り出す。
「いいさ。約束も、その約束を結んだ奴も、生きてりゃ、いつか思い出せるだろうし」
誰かに作った返しきれない借りを、いつか返すために。その借りによって生かされたこの命を、無駄にしないために。
そのためにも今は、目の前の依頼に集中しよう。
目標は、世界から追われている、小さな破壊者。
何となく、放っておいてはいけない気がする。そんな根拠のない直感を信じながら、火乃香はベッドの上で目を閉じた。
無論、このままでは遠からず死ぬだろう。寝転がってまだ数分だが、既に全身は汗でベトベト。脱水症状まであと10分というところか。
『ここ数日、奇行が激しいが』
寝転ぶ火乃香の傍らに停車している砂上戦車のスピーカーから、ボギーの呆れたような声が響く。
『自殺するつもりなら、その前に済ませておいて欲しいことがある』
「例えばー?」
『私を次のユーザーに引き会わせる手続きなどだ』
「薄情者ー、ご主人様の後を追うくらいの気概はないのかー」
ぐったりと腕を掲げ、抗議の声を上げる火乃香。
だがすぐにぐにゃりと腕を脱力させ。砂の上に叩き付ける。砂が波のように跳ねて、しかしすぐに収まった。
僅かな静寂を挟んで、火乃香がぽつりと呟く。
「なーんか大事な約束を忘れてる気がしてさ……」
『またそれか』
火乃香がその類の台詞を言うのは、この一週間で17回目だ。最初の一日で6回を消費したので、頻度こそ落ちてはいるが。
半月ほど前、特急の仕事が舞い込んだ。とある街に、可能な限り急ぎで伝染病のワクチンを届けて欲しいというものだ。
通常なら2週間かかる道のりを、凶悪な巨大蠍のコロニーがある危険地帯を突っ切ることで半分以下に短縮した。気のレーダーを常時張り巡らしながらのデューン・ランに、さしもの火乃香もグロッキー状態になり、しばらくはその街で休息を取ることになったのだ。
火乃香を宿に預け、ボギーは無茶をさせた砂上戦車のメンテナンスを手配していたのだが――その時、慌てて修理工場の受付に駆け込んできた火乃香が口走ったのが、先の言葉というわけだ。
『仕事の契約なら、私が記憶している。君の口約束までは全てを保証できないが』
「そういうんじゃないんだよなー」
『そもそも誰との約束だ?』
「それを覚えてたらこんな苦労はしてないでしょ」
『処置無しだな』
実際、そこからエンポリウムまでとんぼ返りして、火乃香は知人に総当たりしたらしい――ミリィやパイフウ、トーイ・ジョーイやケヴィン。極めつきは、蒼い殺戮者としずくのコンビだ。この二人は査察軍の中でも特殊な立ち位置にあり、そう簡単に会うことは出来ない。おかげで直属の管理者にあたる浄眼機に借りをつくることになった。
普段の火乃香ならば、絶対にやらない選択だ。浄眼機本人も、貸しを作れた喜びよりも、困惑の方が強かったように見える。
砂の上から動こうとしない火乃香を車外カメラで捉えながら、ボギーは強硬手段を取ることにした。火乃香が寝転がっている側のハッチを、エアロックまで含めて開放する。
貴重な動力を使って生み出された、快適な冷たい空気が一瞬だけ火乃香の頬を撫で、そして砂漠に飲み込まれていく。さしもの火乃香も、相棒のこの暴挙には驚いたようで、すぐさま立ち上がった。
「ちょっと、何やってんのさもったいない!」
『ほう。つまり君の行為はこれよりも生産的というわけだ』
「う……」
僅かに呻いて。
火乃香はがしがしと汗と砂にまみれた髪を、指先で乱暴にかき混ぜた。「あーもー!」と苛立ちを吐き出して、
「……ごめん。あたしが悪かった。街に戻ろっか」
『約束は思い出せたか?』
「いんや、全然。本当に、大切な約束だった気がするんだけどさ……」
砂を適当に払って戦車に乗り込んだ火乃香は、操縦席に腰を下ろすと、背もたれに体重を預けた。
何故、自分がこうも焦っているのか――火乃香は内心、その理由を理解していた。
おそらく、このままでは自分はこの約束を思い出せない。
それどころか、きっと遠からず忘却自体を忘れてしまうだろう。どこかの誰かと交わしたこの約束は、日常の中に埋もれていってしまう。二度と掘り返されることは無い。
日干しになりかけていたのも、そんな恐怖に抗おうとした結果だ。自分をいじめ抜けば思い出すのでは無いかと、藁にもすがる気持ちだったのだ。
『不甲斐ない主人に協力してやりたい気持ちはあるが、それよりも浄眼機からの依頼を片付けねばな。厄介な仕事だぞ。下手に借りなど作るからだ』
「ごめんってば……で、どんな仕事だっけ?」
『まったく君という奴は……簡単に言えば、人探しだな』
「人探しぃ? それのどこが厄介な仕事なのさ?」
『場所が石の街で、捜索対象が一夜にしてゲットーを半壊させた最有力容疑者だと聞いても同じことが言えるか?』
「……うげぇ」
石の街は査察軍すらうかつには足を踏み入れられないほどの危険地帯だ。ゲットーとは、さらにその中でも一際物騒な地区のことを指す。
加えて、そこを短時間で吹っ飛ばすような化け物が相手というのなら、間違いなく厄介事だ。
「あのヤロー、足下見やがって……」
『次からはもう少し思慮深くなることだ』
嫌味に頬を膨らませる火乃香を余所に、ボギーはモニタ上に資料を展開した。事件が起きた具体的な位置。破壊痕の画像。そして、
「……ん?」
火乃香の目に留まったのは、一枚の写真だった。
被写体は、ひとりの少女だ。砂漠には似つかわしくない、色素の薄い肌と髪。右目を隠すように前髪を伸ばしている。
『それが容疑者だな。破壊された地区から逃げるところを目撃されている』
「こんな小さな子が、どうやって石の街のど真ん中で暴れ回るっていうのさ」
『それを調べるのも仕事の内だ……とはいえ推察するに、君の居合いのような、鍛えて身に着けた技の類ではないだろうな。これほどの力を完全に制御できるなら、逃げる必要もあるまい』
「身の丈に合わない力に振り回されてる女の子……か」
どうしてか、写真から目を離せない。
そんな火乃香の様子をカメラで見て取ったのか、ボギーが尋ねてくる。
『なにか気付いたことでも?』
「昔、どっかで会った気がしてさ」
『場所が場所だ。他人の空似という奴ではないのか』
「……そうかもね。ま、とりあえず出してよ。ついでに、適当に起こして」
呟いて、火乃香は操縦席を立ち、キャビンへ向かう。
同時、ボギーが戦車を発進させた。エンジン音が高まり、車体が軽快に砂の上を滑り出す。
「いいさ。約束も、その約束を結んだ奴も、生きてりゃ、いつか思い出せるだろうし」
誰かに作った返しきれない借りを、いつか返すために。その借りによって生かされたこの命を、無駄にしないために。
そのためにも今は、目の前の依頼に集中しよう。
目標は、世界から追われている、小さな破壊者。
何となく、放っておいてはいけない気がする。そんな根拠のない直感を信じながら、火乃香はベッドの上で目を閉じた。
◇◇◇
タフレム市のとある路地裏に存在するハンバーガー屋の席で。
キリランシェロは訝しげな顔をして目の前の存在を見つめていた。テーブルの上には滅多にお目に掛かれないハンバーガーセットが鎮座している。値段にして150ソケット。メニューにある中では最も高額な商品だ。キリランシェロがよく頼むものの倍以上する。
≪牙の塔≫の生徒が金銭を稼ぐ手段は非常に限定されている。よって、油で揚げたポテト、レモンスカッシュ、三段に重ねた肉に新鮮な野菜とチーズを挟んだバーガーを擁するこの組わせは、いささか出会うのに難しい。
「どうした、食わんのか?」
言われて、キリランシェロは視線を机上から対面の席に座っている白衣の男に移す。
コミクロンは注文した同じセットのバーガーを手にしながら、しかし厚みのありすぎるそれをどう食べたものか思案しているらしかった。下手にかぶりつけば具がずれて、包装紙から零れ落ちそうなことを察したのだろう。
「いや、食べるけどさ……」
呟いて、しかしキリランシェロは未だ積極的に、僅かに湯気を立てている食事にとりかかる気にはなれなかった。ことに、これが目の前の男の奢りともなれば。
コミクロン。自分のひとつ上の世代の魔術士。
同じ教室ということでそれなりに繋がりはあったが、こうして一緒に街まで降りてくるようなことは、これまでほとんどなかった。ましてや、決して安くない食事代を出してくれるなど。
店内に人気はない。時刻は昼下がり。客の入りも落ち着いた頃合いである。時計の針の進みさえゆっくりに感じられる、この空気がキリランシェロは気に入っていた。
とはいえ、空気は空気だ。ちょっとした異臭が混じれば嫌でも気になってしまう。
そうしていれば何か異常が発見できるとでもいうように、目の前の男をキリランシェロは凝視する。さすがに白衣の下はローブでこそなかったが、どちらにしろ悪目立ちしていることには変わりない。まあ、それはこの男の髪型からして避けられないことではあったが。
「なんで僕はコミクロンとハンバーガー食べてるわけ?」
「朝言っただろ」
結局、一度包装紙に包み直して押し潰すことにしたらしい。せっせと紙袋をトレーに押し付けながら、コミクロンは言った。
「いつだったか、お前にここのハンバーガーを奢る約束してたこと思い出したって」
「僕はそんな約束、した覚えないんだけど……まあ、これも朝言ったけどさ」
「俺も具体的にいつ約束したのかは思い出せんし、守る義理もないとは思ったんだが……どうにも気持ち悪くてなぁ。それなりに大事な約束だったのか?」
「だったら僕もコミクロンも覚えてないっていうのは変でしょ」
呟きながら、キリランシェロもレモンスカッシュを口にする。柑橘の酸味と甘みが、多少は気持ちを落ち着かせるのに役立った。
「まあいいや。ありがたくいただくよ」
どの道、いまさら返品できるわけでもない。キリランシェロがハンバーガーを手に取ると、コミクロンも紙袋を再び開いた。
「うむ。食え食え。遠慮すんな――む、美味いな」
見るも無残に平たくなったバーガーを一口齧ったコミクロンが感心したように頷く。
「だからお気に入りなんだよ」
自分が好きな者を、他人にも認めて貰えるというのは嬉しいものだ。例えそれが、変人の先輩であっても。
そうして互いにバーガーと、ポテトの大部分を胃袋に収めた後。コミクロンがアイスコーヒーを啜りながら尋ねてくる。
「ところで、王都に行くんだってな」
「審問のこと?」
「ああ、それだ。まあ、なんだ。失敗しても落ち込むなよ」
「そうそう落ちるもんじゃ無いよ」
多少、むっとして言い返す。
無論、宮廷魔術士集団、十三使徒へ所属することが簡単というわけではない。
だが審問に呼び出された時点で、ほとんど内定しているようなものだ。その為に優秀なスカウトを各地に派遣しているのだから。合格ラインに届いていない者の為に、貴族の時間を割くわけにもいかないという事情もある。
無論、適当にやって受かるというものでもないが、"よほどの失態"さえ犯さなければ、十中八九、キリランシェロは宮廷入りすることになるだろう。
だがコミクロンは首を横に振った。
「いいや、俺には分かる。お前は審問に失敗して人生を転げ落ち、だんだん目つきも凶悪になっていって、最後にはチンピラコースだ」
「人の未来を勝手に黒く染めないでよ。あと何でそんな具体的なのさ?」
「分からん。なんか勝手に浮かんだ」
空とぼけるコミクロンを睨みながら、キリランシェロは疑念を向けた。
「もしかして、王都に行くなって言ってる?」
自身の王都行きを快く思っていない者たちがいることは、キリランシェロも把握していた。といっても、王宮からの呼び出しはそうそう拒否できるものでもない為、何が出来るわけでも無いだろうが。
コミクロンがその派閥に抱き込まれたとは思えないが、状況証拠は揃っている。
(急にハンバーガーを奢るなんておかしいと思ったんだ)
だがコミクロンは、その疑念をあっけらかんと否定してきた。
「いや、行くべきだと思うぞ。<塔>の外に出てみるのも良い経験になるだろ」
「え、あ……そうかな」
出鼻をくじかれて、何となく気まずくなり、キリランシェロはもうほとんど残っていないグラスを形だけ口に運んだ。
そんな後輩の様子も気にせず、コミクロンは「だがなぁ」と続けてくる。
「俺が言いたいのは、失敗する時は失敗するってことだよ。大切なのは、それを自覚して、失敗した後に挽回する努力をすることだ。無謬の人生を目指すよりも、とにかく出来ることをやり続けていく方が、結果的に上手くいくと思うぞ」
「……励ましてくれてるの? 珍しくまともなこと言ってるけど」
「俺自身もよく分からん。なんでお前にこんなこと言ってるんだろうな」
苦笑を浮かべて、コミクロンはグラスを弄ぶようにゆるゆると回した。中の氷が音を立てて回り、ぶつかり合い、溶けていく。
「ただまあ――俺も最近、何か手酷く失敗したような気がしてな」
「何かあったっけ。最近は、変な発明もしなくなったし」
このところ、コミクロンが積極的に<塔>外任務に出るようになったと、教室でフォルテが褒めそやしているのを耳にしていた。チャイルドマンはあまりいい顔をしていなかったが、それでも積極的に止めるまでには至っていない。
てっきり、その任務で何か失敗したということかと思ったのだが――しかし、コミクロンは首を振る。
「分からないんだ。覚えてなきゃいけない気がするんだがな。まあとにかく、審問に落ちてもあんま気にすんなよ」
「ああ、うん……ありがとう?」
困惑するキリランシェロに、最後にもう一度苦笑を見せて、コミクロンは先に店を出た。料金は既に支払い済みだ。
タフレムの街並みを歩きながら、コミクロンは帰路に着いた。時刻は昼下がり。ここから<塔>までは、徒歩で帰るには遠すぎるが、今日は歩いて帰っても良いかもしれない。
ここ数日、わだかまっていた焦燥感は少しだけましになっていた。だが、完全ではない。自分が忘却してしまったものは、きっと忘れてはならなかったものだ。
だが同時に、確信もある。忘れてしまった失敗を思い出す為に足踏みするようなことがあれば、それこそが本当の失敗なのだと。
「立ち止まらなけりゃ、きっと思い出せるだろ」
コミクロンは小さく呟き、<塔>へ向かって足を進め続けた。
キリランシェロは訝しげな顔をして目の前の存在を見つめていた。テーブルの上には滅多にお目に掛かれないハンバーガーセットが鎮座している。値段にして150ソケット。メニューにある中では最も高額な商品だ。キリランシェロがよく頼むものの倍以上する。
≪牙の塔≫の生徒が金銭を稼ぐ手段は非常に限定されている。よって、油で揚げたポテト、レモンスカッシュ、三段に重ねた肉に新鮮な野菜とチーズを挟んだバーガーを擁するこの組わせは、いささか出会うのに難しい。
「どうした、食わんのか?」
言われて、キリランシェロは視線を机上から対面の席に座っている白衣の男に移す。
コミクロンは注文した同じセットのバーガーを手にしながら、しかし厚みのありすぎるそれをどう食べたものか思案しているらしかった。下手にかぶりつけば具がずれて、包装紙から零れ落ちそうなことを察したのだろう。
「いや、食べるけどさ……」
呟いて、しかしキリランシェロは未だ積極的に、僅かに湯気を立てている食事にとりかかる気にはなれなかった。ことに、これが目の前の男の奢りともなれば。
コミクロン。自分のひとつ上の世代の魔術士。
同じ教室ということでそれなりに繋がりはあったが、こうして一緒に街まで降りてくるようなことは、これまでほとんどなかった。ましてや、決して安くない食事代を出してくれるなど。
店内に人気はない。時刻は昼下がり。客の入りも落ち着いた頃合いである。時計の針の進みさえゆっくりに感じられる、この空気がキリランシェロは気に入っていた。
とはいえ、空気は空気だ。ちょっとした異臭が混じれば嫌でも気になってしまう。
そうしていれば何か異常が発見できるとでもいうように、目の前の男をキリランシェロは凝視する。さすがに白衣の下はローブでこそなかったが、どちらにしろ悪目立ちしていることには変わりない。まあ、それはこの男の髪型からして避けられないことではあったが。
「なんで僕はコミクロンとハンバーガー食べてるわけ?」
「朝言っただろ」
結局、一度包装紙に包み直して押し潰すことにしたらしい。せっせと紙袋をトレーに押し付けながら、コミクロンは言った。
「いつだったか、お前にここのハンバーガーを奢る約束してたこと思い出したって」
「僕はそんな約束、した覚えないんだけど……まあ、これも朝言ったけどさ」
「俺も具体的にいつ約束したのかは思い出せんし、守る義理もないとは思ったんだが……どうにも気持ち悪くてなぁ。それなりに大事な約束だったのか?」
「だったら僕もコミクロンも覚えてないっていうのは変でしょ」
呟きながら、キリランシェロもレモンスカッシュを口にする。柑橘の酸味と甘みが、多少は気持ちを落ち着かせるのに役立った。
「まあいいや。ありがたくいただくよ」
どの道、いまさら返品できるわけでもない。キリランシェロがハンバーガーを手に取ると、コミクロンも紙袋を再び開いた。
「うむ。食え食え。遠慮すんな――む、美味いな」
見るも無残に平たくなったバーガーを一口齧ったコミクロンが感心したように頷く。
「だからお気に入りなんだよ」
自分が好きな者を、他人にも認めて貰えるというのは嬉しいものだ。例えそれが、変人の先輩であっても。
そうして互いにバーガーと、ポテトの大部分を胃袋に収めた後。コミクロンがアイスコーヒーを啜りながら尋ねてくる。
「ところで、王都に行くんだってな」
「審問のこと?」
「ああ、それだ。まあ、なんだ。失敗しても落ち込むなよ」
「そうそう落ちるもんじゃ無いよ」
多少、むっとして言い返す。
無論、宮廷魔術士集団、十三使徒へ所属することが簡単というわけではない。
だが審問に呼び出された時点で、ほとんど内定しているようなものだ。その為に優秀なスカウトを各地に派遣しているのだから。合格ラインに届いていない者の為に、貴族の時間を割くわけにもいかないという事情もある。
無論、適当にやって受かるというものでもないが、"よほどの失態"さえ犯さなければ、十中八九、キリランシェロは宮廷入りすることになるだろう。
だがコミクロンは首を横に振った。
「いいや、俺には分かる。お前は審問に失敗して人生を転げ落ち、だんだん目つきも凶悪になっていって、最後にはチンピラコースだ」
「人の未来を勝手に黒く染めないでよ。あと何でそんな具体的なのさ?」
「分からん。なんか勝手に浮かんだ」
空とぼけるコミクロンを睨みながら、キリランシェロは疑念を向けた。
「もしかして、王都に行くなって言ってる?」
自身の王都行きを快く思っていない者たちがいることは、キリランシェロも把握していた。といっても、王宮からの呼び出しはそうそう拒否できるものでもない為、何が出来るわけでも無いだろうが。
コミクロンがその派閥に抱き込まれたとは思えないが、状況証拠は揃っている。
(急にハンバーガーを奢るなんておかしいと思ったんだ)
だがコミクロンは、その疑念をあっけらかんと否定してきた。
「いや、行くべきだと思うぞ。<塔>の外に出てみるのも良い経験になるだろ」
「え、あ……そうかな」
出鼻をくじかれて、何となく気まずくなり、キリランシェロはもうほとんど残っていないグラスを形だけ口に運んだ。
そんな後輩の様子も気にせず、コミクロンは「だがなぁ」と続けてくる。
「俺が言いたいのは、失敗する時は失敗するってことだよ。大切なのは、それを自覚して、失敗した後に挽回する努力をすることだ。無謬の人生を目指すよりも、とにかく出来ることをやり続けていく方が、結果的に上手くいくと思うぞ」
「……励ましてくれてるの? 珍しくまともなこと言ってるけど」
「俺自身もよく分からん。なんでお前にこんなこと言ってるんだろうな」
苦笑を浮かべて、コミクロンはグラスを弄ぶようにゆるゆると回した。中の氷が音を立てて回り、ぶつかり合い、溶けていく。
「ただまあ――俺も最近、何か手酷く失敗したような気がしてな」
「何かあったっけ。最近は、変な発明もしなくなったし」
このところ、コミクロンが積極的に<塔>外任務に出るようになったと、教室でフォルテが褒めそやしているのを耳にしていた。チャイルドマンはあまりいい顔をしていなかったが、それでも積極的に止めるまでには至っていない。
てっきり、その任務で何か失敗したということかと思ったのだが――しかし、コミクロンは首を振る。
「分からないんだ。覚えてなきゃいけない気がするんだがな。まあとにかく、審問に落ちてもあんま気にすんなよ」
「ああ、うん……ありがとう?」
困惑するキリランシェロに、最後にもう一度苦笑を見せて、コミクロンは先に店を出た。料金は既に支払い済みだ。
タフレムの街並みを歩きながら、コミクロンは帰路に着いた。時刻は昼下がり。ここから<塔>までは、徒歩で帰るには遠すぎるが、今日は歩いて帰っても良いかもしれない。
ここ数日、わだかまっていた焦燥感は少しだけましになっていた。だが、完全ではない。自分が忘却してしまったものは、きっと忘れてはならなかったものだ。
だが同時に、確信もある。忘れてしまった失敗を思い出す為に足踏みするようなことがあれば、それこそが本当の失敗なのだと。
「立ち止まらなけりゃ、きっと思い出せるだろ」
コミクロンは小さく呟き、<塔>へ向かって足を進め続けた。
◇◇◇
「記憶が消えてる?」
窓硝子の向こうを覗き込みながら、魔女が訝しげに呟いた。
『影響を最小限にした結果だね。あの世界で得た『不死の酒』の効力なども失われている筈だ――あのモトラド君は例外だが』
携帯からは、相変わらず神野陰之の声が響いている。
『だが、彼らはまだ幸いだろう。個人レベルの違和感で済んだのだから』
「つまり、それで済まなかった人がいるってことだよね?」
『その通り。かつて君が語った推理通り、あの舞台の演者は、基本的には別々の平行世界から集められた。ただしそれは他人を知己と誤解する為の仕組みだ』
つまり矛盾するようだが、誤解させる必要が無ければ、本当に同じ世界から複数を呼び出しても構わなかったのだ。
携帯の向こう側で、闇が嗤う。
『さて――あの舞台で消滅した木竜ムキチは、一体どこの世界の出身だったのだろうね?』
窓硝子の向こうを覗き込みながら、魔女が訝しげに呟いた。
『影響を最小限にした結果だね。あの世界で得た『不死の酒』の効力なども失われている筈だ――あのモトラド君は例外だが』
携帯からは、相変わらず神野陰之の声が響いている。
『だが、彼らはまだ幸いだろう。個人レベルの違和感で済んだのだから』
「つまり、それで済まなかった人がいるってことだよね?」
『その通り。かつて君が語った推理通り、あの舞台の演者は、基本的には別々の平行世界から集められた。ただしそれは他人を知己と誤解する為の仕組みだ』
つまり矛盾するようだが、誤解させる必要が無ければ、本当に同じ世界から複数を呼び出しても構わなかったのだ。
携帯の向こう側で、闇が嗤う。
『さて――あの舞台で消滅した木竜ムキチは、一体どこの世界の出身だったのだろうね?』
◇◇◇
伯林。ダウゲ・ベルガーは、道ばたに設置されたベンチの上に腰掛けていた。うなだれるように背を丸め、石畳の地面を見つめている。
時刻は朝。普段なら職場へ向かう人々でごった返しているところだが、今は閑散としていた。
そんなベルガーの隣に、腰を下ろす人影があった。僅かに視線を動かして、それが知り合いであることを確認する。
「よう、シュヴァイツァー。久しぶりだな」
「ここは既に避難区域に指定されているが」
失われた"英雄"の代わりに通常型義手を装着したヘラード・シュヴァイツァーは、にこりともせずにそう返してくる。
ベルガーは気合いを入れて上半身を起こすと、そのままベンチの背もたれに寄りかかった。空を見上げる体勢のまま、肩を竦めてみせる。
「逃げ遅れだよ」
「住居から遠く離れた街でか。音に聞こえた逃がし屋が、随分と落ちぶれたものだな」
「そいつはとっくの昔に廃業したろ。反独隊とも縁を切って、いまはただの主夫だ」
「ヒモの間違いだろう」
そんなとりとめも無い会話をしていた二人の頭上を、高速で飛行する戦闘機が通り過ぎていった。
ため息をひとつ溢してから、ベルガーが問う。
「状況は?」
「目下、凄まじい勢いで滅びかけている」
「独逸が、か?」
「世界が、だ」
「……そうか。まあ、別に知らなかったわけじゃ無いが」
尻の下に敷いていた『終末、来る』と大見出しになっている新聞を、ベルガーは力無く放り投げた。
ある日、唐突に世界中から遺伝詞の一部が消失した。ある一個所が壊れたのではなく、文字通り世界全体から、その10分の1が虫食いのように消えてしまったのだ。
遺伝詞とは、世界を構成する設計図のようなものだ。それがあるからこそ、世界はあるべき形を保っていられる。
それが消えると、一体どうなるか。
まず、体調を崩す者が続出した。症状はピンキリだ。風邪を引いたという程度のものから、ベッドの上から起き上がれないものまで。どちらも回復の兆しはない。風水師による治療も意味をなさなかった。
次に判明したのは、世界的な植物の枯死。農作物の収穫量が目に見えて減少した。このままでは、遠からず世界中で多数の餓死者がでるだろう。
そして極めつきの最悪は、ベルガーの眼前にあった。戦闘機が飛び去っていった空の色は、しばらく前から青では無く、薄く濁った茶色に染まっている。
その正体は、竜だ。
茶色掛かった汚水で構成された、巨大な水の竜が伯林の上空を悠々と飛んでいた――否。伯林の、という表現は誤りかもしれない。
遺伝詞の消失と同時に現れたこの謎の竜は、世界中どこからでも見ることが出来た。暴竜となった"トリスタン"が玩具に感じるような巨体が、地平線の向こう側まで伸びている。胴の太さだけでも直径2500マイル以上。空を覆い尽くすどころではない。星を覆う巨竜だ。あまりにも巨大すぎて、ひとりの人間の眼からはただの水の膜が空を覆っているようにしか見えない。
いまはまだ、積極的に何をしてくるでもないが、時折落下してくる竜の汚水は、土地を酷く汚染し、人間が浴びれば酷い感染症をいくつも引き起こした。
「連合軍が揃って母国に帰っていった、なんて喜んでもいられないな」
「確かに連中相手ならまだ戦いになっただろう……アレはサイズが違い過ぎる。艦艇1個師団による言詞砲の一斉射でも大した傷にならなかった上、即座に回復された」
「良いニュースはないのかよ」
「良いニュースかはともかく、アレの正体の解析は多少ながらも進んでいる」
「へえ?」
続きを促すベルガーに、シュヴァイツァーが応じる。
「研究者達は、あれを構成している要素を負変遺伝詞(マイナスライブ)と名付けたらしい」
「負変遺伝詞?」
「言ってしまえば遺伝詞の癌だ。周囲の遺伝詞を書き換えて、自らの性質と同化させる。もともとが巨体過ぎて分かりにくいが、今もアレは成長中というわけだ」
「それだけなら、風水と変わらないように聞こえるけどな」
「負変遺伝詞化した遺伝子は、破壊も整調化もできないらしい。遺伝詞と名付けられてはいるが、実質的には別物だということだ」
「気のせいか。いま、打つ手はないと聞こえた気がする」
破壊も修復もできず、ただひたすら増大していく癌細胞。
そんなものに対処する術はない。遠からず、機能不全に陥るのを待つだけだ。
そして、シュヴァイツァーはその絶望を無言のまま首肯した。応じるように、ベルガーも嘆くようにため息をひとつ。
「破滅の転輪を回避した結果がこれかよ。救いがねえな」
「それでも、最後まで脅威に立ち向かうのが軍人というものだ――お前もそのつもりで来たのだろう?」
「まあな。重騎を手配してくれるか?」
「無論だ――いまのお前にその価値があるならば」
「……」
見透かすような険しい視線を受けて、ベルガーが目を逸らす。構わずシュヴァイツァーは続けた。
「負変遺伝詞は、人間よりも異族に大きな影響を与える。救世者の娘がいないのはそのせいだろう。お前も万全ではあるまい」
「重篤な症状が多いのは植物系の異族だって聞いたぜ?」
「ならば立ち上がって見せろ」
シュヴァイツァーの容赦ない言葉に、ベルガーは軽業師のようにベンチから立ち上がって見せようとして――
その顔面を、地面すれすれの所で停止させた。咄嗟にシュヴァイツァーが右手を伸ばしてくれなかったら、顔面からダイブしていただろう。
「ろくに立つことも出来ないか。それでどうやって戦う?」
「……俺は軍人じゃ無いし、最後まで脅威に立ち向かうなんてガラじゃないが」
旧友の手を振り払う。顔面から地面に落ちるが、それでもベルガーは再び立ち上がった。ふらつく身体を渾身の精神力で支えながら、告げる。
「女をむざむざ死なせるつもりもない。これでも世界で二番目に根性があるつもりだぜ? いざとなりゃあ、爆弾抱えて特攻してやるよ」
「それで殺せるような相手でもないだろうが」
「じゃあ他に手が?」
と、苛立ち混じりにベルガーが言ったところで。
二人の頭上に、再び影が落ちた。
今度は戦闘機の類では無い。影は二人とその周囲――どころか、伯林そのものを覆うような広範囲にかかっている。
果たしてそこにあったのは、巨大な航空艦だった。星をひとまたぎにする水竜ほどではないが、ちょっと見たことがないサイズだ。全長は"葬送曲"の十倍以上はあるだろう。
「……G機関の新兵器か?」
ベルガーの問いかけに、シュヴァイツァーが無言で首を横に振る。
頭上の巨大航空艦に、さらに動きがあった。如何なる技術をもってしてかは分からないが、艦の底に、巨大な映像が展開されたのだ。
伯林のどこからでも見ることが出来るほど巨大な実体無きスクリーンに映し出されたのは、白い装甲服に身を包んだ少年だった。
少年は観衆に挨拶でもするように右手を軽く挙げると、おそらく地上から何万という視線を引きつけているだろうに、緊張の欠片も見せずに口を開いてみせる。
『お初にお目にかかる未来人ども! さっそく重要なことを訊ねよう――私の功績を讃えた彫像はどこだね? おそらく自由の女神サイズで残されているものと推察するが』
「……はぁ?」
唐突に始まった意味不明な演説に、思わずベルガーは眉をひそめた。
だがそれは少年の傍若無人さに憤りを感じたのでは無い。それは疑念から生じるものだった――何故、初対面である筈の少年の物言いに懐かしさを感じるのか。
『佐山君やめてやめて! ああ、歴史に残る最悪のファーストコンタクトだよぅ……!』
新たな声が割り込んだ。同じ様式の装甲服を身につけた少女が登場し、少年の暴挙をいさめるように腕を引いている。
『ああ、すまない、新庄君。これは私としたことがうっかりしていた。では改めて、もっとも重要なことを訊ねよう――新庄君を象ったまロ神像はどこかね? 私の中で一国にひとつ以上建てて崇めさせる計画がある以上、実現している筈だが』
「うおら――っ!」
新庄と呼ばれた少女が、絶叫と共に佐山に襲いかかる。衆人環視の中で。
ネクタイを限界まで引き絞られて息を詰まらせた青年と、その実行犯である人物に視線が集中した。
新庄もそれに気づいたようで、佐山を画面外に放り捨てると、わたわたと手を振り回し、しばらく何か良い言い訳はないかと考え、
『あ、あの、えーと――昔はこれが一般的なやり取りだったんだよ?』
「明らかに嘘だー!」
過去の風習を自身にとって都合良く改変しようとした少女に、伯林の各所から軍属による突っ込みが入ると、映像が消えた。それと同時、巨大航空艦が高度を落とし始める。
着陸する――それを見て取ったシュヴァイツァーは、近くに停めてあった車両を回し、着陸地点へと急行する。ベルガーもほとんど無理矢理同乗した。
どうやら郊外の森の傍に降りるらしい。頭上を仰ぎながら、ベルガーが運転席のシュヴァイツァーへ目的地の指示を出す。
どうやら郊外の森の傍に降りるらしい。頭上を仰ぎながら、ベルガーが運転席のシュヴァイツァーへ目的地の指示を出す。
「あれは……なんだと思う?」
「馬鹿か阿呆のどっちかだろ。少なくとも敵じゃないことは分かったが」
旧友からの問いかけに、ベルガーは気もなく答えた。
瞬間移動してきたとしか思えないほどの唐突さで出現した巨大戦艦に対する緊張は、あのやりとりですっかり霧散していた。狙ってやったのだとしたら――
「――凄まじいコメディアンとしての才能があるな」
「あの竜を笑い死にさせてくれるなら、コメディアンでも何でも構わん」
数分ほど走り続けて、ベルガー達の車両が着陸地点に到着した。同じように駆けつけてきた兵士たちを、シュヴァイツァーが手で制して下がらせる。
まるで塔のように、地面に対して垂直に着陸した艦からは、すでに数名の人間が降りてきていた。
先ほどの佐山と新庄の二人の他、どこか佐山に似た雰囲気の女性が、先の二人と相対している。
近づいてきたベルガー達を、佐山似の女性はちらりと一瞥した後、再び視線を佐山に戻した。同じ艦に乗っていたのだから、佐山とは仲間の筈だが、微妙に険悪な雰囲気だ。
「――こういうのは、過去を変えるのが定石だと思うが」
佐山似の女性が、噛み付くように佐山に言い募る。
「逆説、未来を確定させれば、そこに至るまでの過去もまた確定する、か。お得意の屁理屈も、ここまでくると大したものだ。ノアまで乗っ取って、上手くいかなかったらどうなるか、覚悟は出来ているだろうな?」
「時は未来に進むのだ。過去に戻ろうとするよりも、流れに沿って加速する方が省エネだね? それに時間遡行は閉じたループ構造を産むことに繋がりかねない――おっと、第一未来人のお客さんだ。すまないが、君の相手はまた後でして差し上げよう」
「最低のGが。まだ私達は、お前が指揮を執ることを認めたわけではないのだぞ」
「やれやれ。ではもう一度、猿でも分るように説明して差し上げるが」
「待って待って命刻さん! ステイ! 刀抜かないで!」
新庄が笑顔と青筋を浮かべた佐山似の女性――戸田・命刻に飛びつき、抜刀を阻止しているのを余所に、さらに佐山は言葉を注いだ。
「君たち"軍"がUCATを襲ったのと時を同じくして、4th-G概念核が保管庫から消えた――関連を疑うな、という方が無理だろう。かくしてTop-Gは、全てのGを率いる最高のGというお題目を失い、Low-Gとそこに住む全ての生命を滅ぼそうとする最悪の心中野郎どもとみなされたわけだが」
言っている台詞の内容はよく分からなかったが、ベルガーは何となくこの場の力関係を理解する。この佐山というのが集団の頭なのだろう――あの時のように。
(あの時……?)
自然に浮かんだ納得と、その納得に対する疑念。それにベルガーが囚われている内に、佐山は決着を付けつつあるようだった。
「――だから超慈悲深い私は、こうして君たちに贖罪の機会を与えてやることにしたわけだ――感謝してくれてもいいよ?」
「詩乃さん右手押さえて右手!」
「命刻義姉さん、もうやめましょう!? 口じゃ絶対敵わないですから!」
もうひとり美少女が抑えに加わり、どうにか拮抗している修羅場に背を向けて、佐山はベルガー達に向き直る。
「さて、お待たせした。まずは過去と未来、記念すべき初会談の場に山猿を連れてきてしまったこと、真摯にお詫びしたい」
「放せ詩乃っ、奴を殺して私も死ぬ!」
「佐山君煽るのやめてぇ!」
背後から飛んでくる怒声と悲鳴に完全無視を決め込みながら、佐山は交渉を続けた。兵士達を下がらせたシュヴァイツァーは、少なくとも士官階級だと見て取ったらしい。
「単刀直入に言おう。あなた達が抱えている問題の解決に我々は手を貸せる。代わりに、我々の抱えている問題の解決に、あなた達の手を借りたい」
『――我々は新たな味方を得て、新たな問題と向き合うと――』
ベルガーの脳裏に、佐山の声がフラッシュバックする。
それは確かに、目の前の少年のものと同じ声音で構成された言葉だった。だが、それは有り得ない筈だ。何故なら、自分は過去にこの少年と会ったことなど――
脳内で、急に霧が晴れるような感覚。
ああ、とベルガーは声を上げた。シュヴァイツァーと協議していた佐山が、訝しむようにこちらを見てくる――あの島で出会った悪役と、全く同じ顔で。
「――そうか。ムキチとの約束を果たしに来たんだな。悪役の字名を持つ者が……佐山・御言が」
「何を言っている?」
シュヴァイツァーが知己の不明な言動に眉をひそめる。
他のメンバーも、ベルガーの不可思議な言葉を聞いていたらしい。佐山の後ろで命刻を宥めていた新庄が、不思議そうに首を傾げた。
「あれ……いまあの人、佐山君の名前……誰も言ってないよね?」
僅かな黙考。そして、その可能性に気づいた少女は、はっと口元に手を当て、
「もしかして、本当に佐山君の彫像が残ってたりするのっ!?」
「そいつは不味いな。恥を後世に残すことになるじゃねえか。おい、原川。ひとっ飛びして探してきてくれ。で、元の時代に帰ったら、みんなでカンパしてその土地買収しようぜ」
「あんたの嫁さんに頼めよ先輩」
「まだ籍は入れてないっつーの。あと佐山像探して回るなんて絶対嫌。現地の人に悪趣味と思われたくないもの――でも優しいヒオはやってくれるわよね?」
「わたくしと原川さんが悪趣味だと思われてしまいますの……間を取って、ここは飛場さんに行って貰うということで」
「とうとうこのロリっ子にまで舐められてますよ僕! どういう教育してるんですか原川先輩!」
「舐めていませんの! ヒオが舐めるのは原川さんのだけ――」
なにやらにわかに騒がしくなった背後をこれまた無視して、佐山はベルガーに向き直った。その瞳には、先ほどの巫山戯たやりとりをしていた時とはまるで違う、真剣な色が宿っている。
「ムキチ君の名前まで知っている、か……我々はこの状況について、そちらよりも多くの情報を持っているつもりだった。だが、その認識を改めねばならないらしいね」
「テスタメント」
ベルガーが戯れに口にした耳馴染みの深い言葉に、佐山は不敵に笑った。
「改めて、交渉を始めよう。私の名は佐山・御言。そちらは?」
「ダウゲ・ベルガー」
こちらの名前を知らないと言うことは、この佐山は自分の知るあの佐山では無いのだろう。
だが同時に、彼は間違いなく佐山・御言だ。
ベルガーは祈った。この有り得ざる二度目の邂逅が、前と同じ結末で終わらないように。
「――二度は言わない」
時刻は朝。普段なら職場へ向かう人々でごった返しているところだが、今は閑散としていた。
そんなベルガーの隣に、腰を下ろす人影があった。僅かに視線を動かして、それが知り合いであることを確認する。
「よう、シュヴァイツァー。久しぶりだな」
「ここは既に避難区域に指定されているが」
失われた"英雄"の代わりに通常型義手を装着したヘラード・シュヴァイツァーは、にこりともせずにそう返してくる。
ベルガーは気合いを入れて上半身を起こすと、そのままベンチの背もたれに寄りかかった。空を見上げる体勢のまま、肩を竦めてみせる。
「逃げ遅れだよ」
「住居から遠く離れた街でか。音に聞こえた逃がし屋が、随分と落ちぶれたものだな」
「そいつはとっくの昔に廃業したろ。反独隊とも縁を切って、いまはただの主夫だ」
「ヒモの間違いだろう」
そんなとりとめも無い会話をしていた二人の頭上を、高速で飛行する戦闘機が通り過ぎていった。
ため息をひとつ溢してから、ベルガーが問う。
「状況は?」
「目下、凄まじい勢いで滅びかけている」
「独逸が、か?」
「世界が、だ」
「……そうか。まあ、別に知らなかったわけじゃ無いが」
尻の下に敷いていた『終末、来る』と大見出しになっている新聞を、ベルガーは力無く放り投げた。
ある日、唐突に世界中から遺伝詞の一部が消失した。ある一個所が壊れたのではなく、文字通り世界全体から、その10分の1が虫食いのように消えてしまったのだ。
遺伝詞とは、世界を構成する設計図のようなものだ。それがあるからこそ、世界はあるべき形を保っていられる。
それが消えると、一体どうなるか。
まず、体調を崩す者が続出した。症状はピンキリだ。風邪を引いたという程度のものから、ベッドの上から起き上がれないものまで。どちらも回復の兆しはない。風水師による治療も意味をなさなかった。
次に判明したのは、世界的な植物の枯死。農作物の収穫量が目に見えて減少した。このままでは、遠からず世界中で多数の餓死者がでるだろう。
そして極めつきの最悪は、ベルガーの眼前にあった。戦闘機が飛び去っていった空の色は、しばらく前から青では無く、薄く濁った茶色に染まっている。
その正体は、竜だ。
茶色掛かった汚水で構成された、巨大な水の竜が伯林の上空を悠々と飛んでいた――否。伯林の、という表現は誤りかもしれない。
遺伝詞の消失と同時に現れたこの謎の竜は、世界中どこからでも見ることが出来た。暴竜となった"トリスタン"が玩具に感じるような巨体が、地平線の向こう側まで伸びている。胴の太さだけでも直径2500マイル以上。空を覆い尽くすどころではない。星を覆う巨竜だ。あまりにも巨大すぎて、ひとりの人間の眼からはただの水の膜が空を覆っているようにしか見えない。
いまはまだ、積極的に何をしてくるでもないが、時折落下してくる竜の汚水は、土地を酷く汚染し、人間が浴びれば酷い感染症をいくつも引き起こした。
「連合軍が揃って母国に帰っていった、なんて喜んでもいられないな」
「確かに連中相手ならまだ戦いになっただろう……アレはサイズが違い過ぎる。艦艇1個師団による言詞砲の一斉射でも大した傷にならなかった上、即座に回復された」
「良いニュースはないのかよ」
「良いニュースかはともかく、アレの正体の解析は多少ながらも進んでいる」
「へえ?」
続きを促すベルガーに、シュヴァイツァーが応じる。
「研究者達は、あれを構成している要素を負変遺伝詞(マイナスライブ)と名付けたらしい」
「負変遺伝詞?」
「言ってしまえば遺伝詞の癌だ。周囲の遺伝詞を書き換えて、自らの性質と同化させる。もともとが巨体過ぎて分かりにくいが、今もアレは成長中というわけだ」
「それだけなら、風水と変わらないように聞こえるけどな」
「負変遺伝詞化した遺伝子は、破壊も整調化もできないらしい。遺伝詞と名付けられてはいるが、実質的には別物だということだ」
「気のせいか。いま、打つ手はないと聞こえた気がする」
破壊も修復もできず、ただひたすら増大していく癌細胞。
そんなものに対処する術はない。遠からず、機能不全に陥るのを待つだけだ。
そして、シュヴァイツァーはその絶望を無言のまま首肯した。応じるように、ベルガーも嘆くようにため息をひとつ。
「破滅の転輪を回避した結果がこれかよ。救いがねえな」
「それでも、最後まで脅威に立ち向かうのが軍人というものだ――お前もそのつもりで来たのだろう?」
「まあな。重騎を手配してくれるか?」
「無論だ――いまのお前にその価値があるならば」
「……」
見透かすような険しい視線を受けて、ベルガーが目を逸らす。構わずシュヴァイツァーは続けた。
「負変遺伝詞は、人間よりも異族に大きな影響を与える。救世者の娘がいないのはそのせいだろう。お前も万全ではあるまい」
「重篤な症状が多いのは植物系の異族だって聞いたぜ?」
「ならば立ち上がって見せろ」
シュヴァイツァーの容赦ない言葉に、ベルガーは軽業師のようにベンチから立ち上がって見せようとして――
その顔面を、地面すれすれの所で停止させた。咄嗟にシュヴァイツァーが右手を伸ばしてくれなかったら、顔面からダイブしていただろう。
「ろくに立つことも出来ないか。それでどうやって戦う?」
「……俺は軍人じゃ無いし、最後まで脅威に立ち向かうなんてガラじゃないが」
旧友の手を振り払う。顔面から地面に落ちるが、それでもベルガーは再び立ち上がった。ふらつく身体を渾身の精神力で支えながら、告げる。
「女をむざむざ死なせるつもりもない。これでも世界で二番目に根性があるつもりだぜ? いざとなりゃあ、爆弾抱えて特攻してやるよ」
「それで殺せるような相手でもないだろうが」
「じゃあ他に手が?」
と、苛立ち混じりにベルガーが言ったところで。
二人の頭上に、再び影が落ちた。
今度は戦闘機の類では無い。影は二人とその周囲――どころか、伯林そのものを覆うような広範囲にかかっている。
果たしてそこにあったのは、巨大な航空艦だった。星をひとまたぎにする水竜ほどではないが、ちょっと見たことがないサイズだ。全長は"葬送曲"の十倍以上はあるだろう。
「……G機関の新兵器か?」
ベルガーの問いかけに、シュヴァイツァーが無言で首を横に振る。
頭上の巨大航空艦に、さらに動きがあった。如何なる技術をもってしてかは分からないが、艦の底に、巨大な映像が展開されたのだ。
伯林のどこからでも見ることが出来るほど巨大な実体無きスクリーンに映し出されたのは、白い装甲服に身を包んだ少年だった。
少年は観衆に挨拶でもするように右手を軽く挙げると、おそらく地上から何万という視線を引きつけているだろうに、緊張の欠片も見せずに口を開いてみせる。
『お初にお目にかかる未来人ども! さっそく重要なことを訊ねよう――私の功績を讃えた彫像はどこだね? おそらく自由の女神サイズで残されているものと推察するが』
「……はぁ?」
唐突に始まった意味不明な演説に、思わずベルガーは眉をひそめた。
だがそれは少年の傍若無人さに憤りを感じたのでは無い。それは疑念から生じるものだった――何故、初対面である筈の少年の物言いに懐かしさを感じるのか。
『佐山君やめてやめて! ああ、歴史に残る最悪のファーストコンタクトだよぅ……!』
新たな声が割り込んだ。同じ様式の装甲服を身につけた少女が登場し、少年の暴挙をいさめるように腕を引いている。
『ああ、すまない、新庄君。これは私としたことがうっかりしていた。では改めて、もっとも重要なことを訊ねよう――新庄君を象ったまロ神像はどこかね? 私の中で一国にひとつ以上建てて崇めさせる計画がある以上、実現している筈だが』
「うおら――っ!」
新庄と呼ばれた少女が、絶叫と共に佐山に襲いかかる。衆人環視の中で。
ネクタイを限界まで引き絞られて息を詰まらせた青年と、その実行犯である人物に視線が集中した。
新庄もそれに気づいたようで、佐山を画面外に放り捨てると、わたわたと手を振り回し、しばらく何か良い言い訳はないかと考え、
『あ、あの、えーと――昔はこれが一般的なやり取りだったんだよ?』
「明らかに嘘だー!」
過去の風習を自身にとって都合良く改変しようとした少女に、伯林の各所から軍属による突っ込みが入ると、映像が消えた。それと同時、巨大航空艦が高度を落とし始める。
着陸する――それを見て取ったシュヴァイツァーは、近くに停めてあった車両を回し、着陸地点へと急行する。ベルガーもほとんど無理矢理同乗した。
どうやら郊外の森の傍に降りるらしい。頭上を仰ぎながら、ベルガーが運転席のシュヴァイツァーへ目的地の指示を出す。
どうやら郊外の森の傍に降りるらしい。頭上を仰ぎながら、ベルガーが運転席のシュヴァイツァーへ目的地の指示を出す。
「あれは……なんだと思う?」
「馬鹿か阿呆のどっちかだろ。少なくとも敵じゃないことは分かったが」
旧友からの問いかけに、ベルガーは気もなく答えた。
瞬間移動してきたとしか思えないほどの唐突さで出現した巨大戦艦に対する緊張は、あのやりとりですっかり霧散していた。狙ってやったのだとしたら――
「――凄まじいコメディアンとしての才能があるな」
「あの竜を笑い死にさせてくれるなら、コメディアンでも何でも構わん」
数分ほど走り続けて、ベルガー達の車両が着陸地点に到着した。同じように駆けつけてきた兵士たちを、シュヴァイツァーが手で制して下がらせる。
まるで塔のように、地面に対して垂直に着陸した艦からは、すでに数名の人間が降りてきていた。
先ほどの佐山と新庄の二人の他、どこか佐山に似た雰囲気の女性が、先の二人と相対している。
近づいてきたベルガー達を、佐山似の女性はちらりと一瞥した後、再び視線を佐山に戻した。同じ艦に乗っていたのだから、佐山とは仲間の筈だが、微妙に険悪な雰囲気だ。
「――こういうのは、過去を変えるのが定石だと思うが」
佐山似の女性が、噛み付くように佐山に言い募る。
「逆説、未来を確定させれば、そこに至るまでの過去もまた確定する、か。お得意の屁理屈も、ここまでくると大したものだ。ノアまで乗っ取って、上手くいかなかったらどうなるか、覚悟は出来ているだろうな?」
「時は未来に進むのだ。過去に戻ろうとするよりも、流れに沿って加速する方が省エネだね? それに時間遡行は閉じたループ構造を産むことに繋がりかねない――おっと、第一未来人のお客さんだ。すまないが、君の相手はまた後でして差し上げよう」
「最低のGが。まだ私達は、お前が指揮を執ることを認めたわけではないのだぞ」
「やれやれ。ではもう一度、猿でも分るように説明して差し上げるが」
「待って待って命刻さん! ステイ! 刀抜かないで!」
新庄が笑顔と青筋を浮かべた佐山似の女性――戸田・命刻に飛びつき、抜刀を阻止しているのを余所に、さらに佐山は言葉を注いだ。
「君たち"軍"がUCATを襲ったのと時を同じくして、4th-G概念核が保管庫から消えた――関連を疑うな、という方が無理だろう。かくしてTop-Gは、全てのGを率いる最高のGというお題目を失い、Low-Gとそこに住む全ての生命を滅ぼそうとする最悪の心中野郎どもとみなされたわけだが」
言っている台詞の内容はよく分からなかったが、ベルガーは何となくこの場の力関係を理解する。この佐山というのが集団の頭なのだろう――あの時のように。
(あの時……?)
自然に浮かんだ納得と、その納得に対する疑念。それにベルガーが囚われている内に、佐山は決着を付けつつあるようだった。
「――だから超慈悲深い私は、こうして君たちに贖罪の機会を与えてやることにしたわけだ――感謝してくれてもいいよ?」
「詩乃さん右手押さえて右手!」
「命刻義姉さん、もうやめましょう!? 口じゃ絶対敵わないですから!」
もうひとり美少女が抑えに加わり、どうにか拮抗している修羅場に背を向けて、佐山はベルガー達に向き直る。
「さて、お待たせした。まずは過去と未来、記念すべき初会談の場に山猿を連れてきてしまったこと、真摯にお詫びしたい」
「放せ詩乃っ、奴を殺して私も死ぬ!」
「佐山君煽るのやめてぇ!」
背後から飛んでくる怒声と悲鳴に完全無視を決め込みながら、佐山は交渉を続けた。兵士達を下がらせたシュヴァイツァーは、少なくとも士官階級だと見て取ったらしい。
「単刀直入に言おう。あなた達が抱えている問題の解決に我々は手を貸せる。代わりに、我々の抱えている問題の解決に、あなた達の手を借りたい」
『――我々は新たな味方を得て、新たな問題と向き合うと――』
ベルガーの脳裏に、佐山の声がフラッシュバックする。
それは確かに、目の前の少年のものと同じ声音で構成された言葉だった。だが、それは有り得ない筈だ。何故なら、自分は過去にこの少年と会ったことなど――
脳内で、急に霧が晴れるような感覚。
ああ、とベルガーは声を上げた。シュヴァイツァーと協議していた佐山が、訝しむようにこちらを見てくる――あの島で出会った悪役と、全く同じ顔で。
「――そうか。ムキチとの約束を果たしに来たんだな。悪役の字名を持つ者が……佐山・御言が」
「何を言っている?」
シュヴァイツァーが知己の不明な言動に眉をひそめる。
他のメンバーも、ベルガーの不可思議な言葉を聞いていたらしい。佐山の後ろで命刻を宥めていた新庄が、不思議そうに首を傾げた。
「あれ……いまあの人、佐山君の名前……誰も言ってないよね?」
僅かな黙考。そして、その可能性に気づいた少女は、はっと口元に手を当て、
「もしかして、本当に佐山君の彫像が残ってたりするのっ!?」
「そいつは不味いな。恥を後世に残すことになるじゃねえか。おい、原川。ひとっ飛びして探してきてくれ。で、元の時代に帰ったら、みんなでカンパしてその土地買収しようぜ」
「あんたの嫁さんに頼めよ先輩」
「まだ籍は入れてないっつーの。あと佐山像探して回るなんて絶対嫌。現地の人に悪趣味と思われたくないもの――でも優しいヒオはやってくれるわよね?」
「わたくしと原川さんが悪趣味だと思われてしまいますの……間を取って、ここは飛場さんに行って貰うということで」
「とうとうこのロリっ子にまで舐められてますよ僕! どういう教育してるんですか原川先輩!」
「舐めていませんの! ヒオが舐めるのは原川さんのだけ――」
なにやらにわかに騒がしくなった背後をこれまた無視して、佐山はベルガーに向き直った。その瞳には、先ほどの巫山戯たやりとりをしていた時とはまるで違う、真剣な色が宿っている。
「ムキチ君の名前まで知っている、か……我々はこの状況について、そちらよりも多くの情報を持っているつもりだった。だが、その認識を改めねばならないらしいね」
「テスタメント」
ベルガーが戯れに口にした耳馴染みの深い言葉に、佐山は不敵に笑った。
「改めて、交渉を始めよう。私の名は佐山・御言。そちらは?」
「ダウゲ・ベルガー」
こちらの名前を知らないと言うことは、この佐山は自分の知るあの佐山では無いのだろう。
だが同時に、彼は間違いなく佐山・御言だ。
ベルガーは祈った。この有り得ざる二度目の邂逅が、前と同じ結末で終わらないように。
「――二度は言わない」
◇◇◇
「……"裏返しの法典"君は、どこの世界でもその魂のカタチを変えないんだね」
指先を、硝子窓に映る佐山の顔に押しつけて、魔女はほう、と息を吐いた。
あの世界はきっと救われるだろう。その後、佐山・御言はどう動くだろうか。せっかく出来た繋がりだ。彼は最大限にそれを有効活用するだろう。あるいは本当に、あの島で"彼"が話していた一大構想を実現させてしまうかも知れない。
「……いろんな世界の人たちとお話し出来るようになったら、それはとても素敵なことだと思うよ」
名残惜しそうに、詠子は映像から指を放す。次の瞬間には映像が消え、窓は元の透明な板に戻っていた。
「そうなったら、あの"法典"君は、私の所にも来てくれるかな」
『そうだね――』
携帯の向こうにわだかまる闇は、相も変わらず静やかに嗤っている。
『――君がその時まで存在できていれば、あるいは』
そして、ぶつりと通話が途切れた。
いつにないその唐突さに、詠子は不思議さを感じながらも携帯をポケットにしまい込む。
そして、いつもの定位置に戻ろうとして――その一団を発見した。
池のほとりに詠子以外のひとけがあることは希だ。それは大多数の生徒が、奇人として名高い詠子を避けているからだったが、いつの間にか、数人の女子生徒の姿がある。詠子がしばらく旧校舎に寄っていたので、その存在に気づかなかったのだろう。
特に気にすることも無く、詠子は定位置に戻った。その集団は熱心に何事かを話し込んでいるようで、近づいてくる詠子にも気付かないようだった。
聞き耳を立てていたわけでもないが、彼女たちの話し声が詠子の耳に入ってくる。
「――ねえ、こんな話を知ってる? 最近、有名な都市伝説なんだけど――」
それを耳にした詠子は、そこからは意図的に息を潜めた。
どうやら彼女たちは、ここに怪談話をしに来たらしい。わざわざ旧校舎、あるいは魔女がいる場所を選んだのも、雰囲気作りのためだろう。
学校での立ち位置から、魔女が"人"伝手に怪談を聞くということはあまりない。ことに真剣な相談などでは無く、暇つぶしに共有されるような他愛も無い話は。どういう"物語"なのか、純粋に興味があった。
女子生徒たちの話し声は、静かな池のほとりでは、別段苦労も無く聞き取ることが出来る。
聞き取ることが、出来てしまう。
「――それでね。そいつは、その人が人生で一番美しい瞬間、それ以上醜くなる前に殺しにくるんだって」
――そして、魔女はその"物語"に捕らわれた。
(ああ……)
そういえば、先ほどの映像に"彼"のその後が映し出されていなかったことを思い出す。
やがて予鈴が鳴り響き、同時に、女子生徒たちは詠子の存在に気付いたようだった。分かりやすく動揺を浮かべると、ぺこりと頭を下げて小走りで去っていく。
――ただひとり、スポルティングのバッグを肩に掛けたひとりを除いて。
再会を祝うような、あるいは清々と別離を告げるような、そんな左右非対称の表情を浮かべた少女と相対し、十叶詠子は静かに笑みを浮かべた。
指先を、硝子窓に映る佐山の顔に押しつけて、魔女はほう、と息を吐いた。
あの世界はきっと救われるだろう。その後、佐山・御言はどう動くだろうか。せっかく出来た繋がりだ。彼は最大限にそれを有効活用するだろう。あるいは本当に、あの島で"彼"が話していた一大構想を実現させてしまうかも知れない。
「……いろんな世界の人たちとお話し出来るようになったら、それはとても素敵なことだと思うよ」
名残惜しそうに、詠子は映像から指を放す。次の瞬間には映像が消え、窓は元の透明な板に戻っていた。
「そうなったら、あの"法典"君は、私の所にも来てくれるかな」
『そうだね――』
携帯の向こうにわだかまる闇は、相も変わらず静やかに嗤っている。
『――君がその時まで存在できていれば、あるいは』
そして、ぶつりと通話が途切れた。
いつにないその唐突さに、詠子は不思議さを感じながらも携帯をポケットにしまい込む。
そして、いつもの定位置に戻ろうとして――その一団を発見した。
池のほとりに詠子以外のひとけがあることは希だ。それは大多数の生徒が、奇人として名高い詠子を避けているからだったが、いつの間にか、数人の女子生徒の姿がある。詠子がしばらく旧校舎に寄っていたので、その存在に気づかなかったのだろう。
特に気にすることも無く、詠子は定位置に戻った。その集団は熱心に何事かを話し込んでいるようで、近づいてくる詠子にも気付かないようだった。
聞き耳を立てていたわけでもないが、彼女たちの話し声が詠子の耳に入ってくる。
「――ねえ、こんな話を知ってる? 最近、有名な都市伝説なんだけど――」
それを耳にした詠子は、そこからは意図的に息を潜めた。
どうやら彼女たちは、ここに怪談話をしに来たらしい。わざわざ旧校舎、あるいは魔女がいる場所を選んだのも、雰囲気作りのためだろう。
学校での立ち位置から、魔女が"人"伝手に怪談を聞くということはあまりない。ことに真剣な相談などでは無く、暇つぶしに共有されるような他愛も無い話は。どういう"物語"なのか、純粋に興味があった。
女子生徒たちの話し声は、静かな池のほとりでは、別段苦労も無く聞き取ることが出来る。
聞き取ることが、出来てしまう。
「――それでね。そいつは、その人が人生で一番美しい瞬間、それ以上醜くなる前に殺しにくるんだって」
――そして、魔女はその"物語"に捕らわれた。
(ああ……)
そういえば、先ほどの映像に"彼"のその後が映し出されていなかったことを思い出す。
やがて予鈴が鳴り響き、同時に、女子生徒たちは詠子の存在に気付いたようだった。分かりやすく動揺を浮かべると、ぺこりと頭を下げて小走りで去っていく。
――ただひとり、スポルティングのバッグを肩に掛けたひとりを除いて。
再会を祝うような、あるいは清々と別離を告げるような、そんな左右非対称の表情を浮かべた少女と相対し、十叶詠子は静かに笑みを浮かべた。
【支給品 ムキチ 消滅】
【支給品 スィリー 消滅】
【支給品 スィリー 消滅】
【007 ギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ 死亡】
【011 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ 死亡】
【013 フリウ・ハリスコー 死亡】
【015 ウルペン 死亡】
【018 キノ 死亡】
【025 蒼い殺戮者 死亡】
【060 福沢祐巳 死亡】
【110 美姫 死亡】
【071 佐山・御言 死亡】
【073 出雲・覚 死亡】
【111 オーフェン 死亡】
【011 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ 死亡】
【013 フリウ・ハリスコー 死亡】
【015 ウルペン 死亡】
【018 キノ 死亡】
【025 蒼い殺戮者 死亡】
【060 福沢祐巳 死亡】
【110 美姫 死亡】
【071 佐山・御言 死亡】
【073 出雲・覚 死亡】
【111 オーフェン 死亡】
【ラノベ・ロワイアル――了】