デモンベインが落ちた先に待っていたのは、これまで多数の参加者を殺めてきた超危険人物・
仙水忍だった。
巨大ロボットが突然空から降って湧き、間近に落ちてきたのには流石の仙水も驚いた。だがどうやら中に人が乗っている様だとわかると、きまぐれにその辺のサンドバッグでも殴るかのような軽い気持ちで攻撃開始。デモンベインは体勢を立て直す暇もなく『聖光気』を纏った攻撃でダメージを受ける。
そこに、巨大な落下音を聞いて様子を調べにやってきた二人の姿があった。
「あれは……なんて神々しい光……」
「……!!あれは、『聖光気』」
「知っているのですか、ネシンバラさん!?」
「『聖光気』…それは人間にとって究極の気。あらゆる闘気のなかでも最も強力な質を持つ、究極の闘気。聖光気を持つことができるのは限られた人間だけと言われているが、一説には永い時を経て地獄から帰還し、悟りを開いた妖怪・戸愚r……」
「解説してるヒマがあったら助けてくれよ!!」
- 巴マミ&ネシンバラの実況解説コンビに助けられ、しばらく行動を共にする
危機に陥った
カズマ達を救ったのは、金髪の魔法少女・
巴マミと黒衣に眼鏡の少年
トゥーサン・ネシンバラだった。二人の陽動で仙水が気を取られた隙に、カズマと早苗はデモンベインを脱出。搭乗者の脱出とともに何処かへ転送されていったデモンベインを見た仙水は、元々殺る気があまり無かったのもあって四人を深追いすることはしなかった。
仙水から逃げ切った四人は情報交換を開始する。参加者詳細名簿(厨二用語満載)を所持している巴マミ達との情報交換は実にスムーズに進んだ。カズマの古傷はものすごく痛んだが。早苗はというと、マミが酷く怯えた様子のウサ耳少女・
鈴仙・優曇華院・イナバから襲撃を受け、動きを封じて説得しようとしたが逃げられてしまったという話を聞いて動揺していたようだった。もっとも、場慣れしている早苗にとっては大きな問題にならなかったようだが。
そういえば、とカズマは巴マミの顔と名前を既に知っていることに気がついた。カズマはマミに、支給品『魔法少女まどか☆マギカ お守りセット@現実』のうち、巴マミがあしらわれた交通安全のお守りを見せた。……彼女は苦い表情をしていた。詳細名簿に記されていた彼女の生い立ちを思い出したカズマは、謝罪のつもりで『グリモワールオブマリサ@現実』を渡した。こちらはマミにことのほか喜ばれた。特に「地獄極楽メルトダウン」の解説が気に入ったそうで、早苗とは意気投合していた。
うれしそうにはしゃぐマミの声を聞いたカズマは、マミの姿形だけでなく声もどこかで聞いたことがあることに気がついたが……つい最近受けたトラウマを想起しそうだったので口には出さなかった。
ゲーム開始からすでに長い時間(丸一日前後?)が経過しつつあり、カズマは疲労を感じ始めていた。仲間達の勧めもあり、仮眠とまではいかなくてもシャワーだけでも浴びることにする。
熱めのシャワーを頭からかぶりながら、カズマはバトルロワイアル開始から、今まであった出来事に想いを馳せる。
(よく今まで生きてこれたなぁ、俺。)
早苗に会えなかったら、ヘッドホンの襲撃者・ネクに殺されていたかもしれない。デモンベインがなければ、辮髪の男・
東方不敗に出会った時点で即死させられていたことだろう。銀髪の超能力者・一方通行や金色のオーラの男・仙水忍に遭遇しても、同様の結果だっただろう。そして、白塗りの悪魔・
ヨハネ・クラウザーⅡ世にたった一人で遭遇していたとしたら……。想像したくもない。ヴァルストークファミリー・末代までの恥をかいていたところだ。
これだけの非常識・不条理に晒されながら、今までこうして生きてこられたのが本当に不思議だ……一人の人間は、オレは、弱い。
それを痛感させられたカズマは、もう会えないかもしれない家族のことを思い出して……頭から流れるシャワーのお湯で確認できないが、俺はひょっとしたら泣いているのかもしれない。と思うのだった。
そんな物思いにふけっていたカズマが、薄く開いた扉からシャワーシーンの一部始終をのぞいていた早苗の視線に気づくのは、シャワーを終えて下着を身に着け始めた時であった。
突然早苗と視線が合い、叫び声を上げるカズマ。早苗も負けじときゃーきゃー叫びながら、顔を両手で覆う。……指の間から目がバッチリ見えているが。
「あ、どぞどぞ、続けちゃってください!」
「お前が一番非常識だぜ!普通逆だろうがあああああ!!」
誰かを代弁するかのような叫びと共に、スポンジや石鹸を手当たり次第投げつけるカズマ。早苗はそれをカリカリと謎の摩擦音を発しながら、最小限の動きでかわす。それならばとカズマは精神を『集中』して渾身の一投を放ち、早苗の額にピチューンと洗面器をクリーンヒットさせる。そんな事をしているうちに、別室にいたネシンバラとマミが騒ぎを聞いて駆けつけていた。
結局、カズマは(男性のネシンバラはともかくとして)マミにまでパンツ一丁を晒し、さらなる恥をかいてしまうのだった。
その後、ネシンバラとマミは
「「あとは若いお二人でごゆっくり」」
と、意味深な言葉を残し立ち去ってしまった。どうやらナニカゴカイサレテイルヨウダ。
部屋に残された二人。
「コブができたらどうするんですか……」
「自業自得だろ」
「でも良かったです、ちょっとは元気出してくれたみたいで」
「…早苗、お前…」
「ねぇ、カズマさん?元気になってくれたところで、お願いしたいことがあるんです。でも私一人じゃ、どうにもならなくて……お願いです。カズマさん、貴方の体を貸して下さい」
早苗がいつになく真剣な様子で、カズマに話しかけてきた。体を貸せとはどういうことか。俺はここで行きずりの巫女さんといわゆる、その、『戦場で初めて人を殺す方』でない意味で、アレを捨ててしまうのか。ネシンバラとマミが出ていってしまったのも、つまりやっぱりそういうことなのか。わざわざ着替えをのぞきにきたのも、そういうことだったのか。赤面するカズマに、早苗が続けた。
「デモンベインのパワーアップ作業、手伝ってもらえますか?」
「は?」
数分後、かつての激戦地・中学校の50mプールに隠れるデモンベインのコックピット内で、嬉々として作業に励む早苗とほっとしつつもどこかがっかりしているカズマの姿が!
デモンベインのパワーアップ作業……制御OSの改修は思いの外順調に進んだ。それはカズマが機動兵器の整備に慣れていたこと、ネシンバラを通して
トマス・シェイクスピアの協力を得ることができたことの他に、ロボットアニメだけでなくオカルトにも通じていた早苗がナアカル・コードを始めとするデモンベインのプログラム言語を容易に理解できたことが大きかった。彼女曰く、「以前よく読んでいたオカルト雑誌に載っていた石版文字とほとんど同じなんです」だとか。ム○ーすげえ。そう思うカズマなのであった。
- 大魔王バーンと交戦。天地魔闘の構えを破り、あと一歩のところまで追い詰めるが…
デモンベインの改修作業も大詰めを迎えた所で、ネシンバラとマミがカズマ達の元に戻ってきた。殺し合いに乗っている大魔王・
バーンが近づいてきているから、一旦逃げて他の強力な味方と合流するなり、デモンベインの改修を進めるなりする方が良いと助言する。だが、
「知らないのですか?大魔王からは逃げられない…!」
早苗の視線の先には、既にこちらに迫ってきているバーンの姿があった。
カズマと早苗はデモンベインを降り、四人で陣形を組む。そして、早苗は御幣を、マミは魔法のマスケットを、ネシンバラは復活し始めた表示枠を利用した術式『幾重言葉』を、カズマは今までの仲間より譲り受けた支給品の銃火器を構え、大魔王を迎えうつ。
「現人神の名において、あなたを退治します!」とタンカを切る早苗に激怒したバーンは、地面を円弧状に手刀で削り、壁のように迫る衝撃波・カラミティウォールを放った。
早苗・マミ・カズマの三人が、カラミティ・ウォールに怯む事無く向かっていく。それを見たバーンは衝撃波の向こう側で天地魔闘の構えを取り、勝利を確信する。奴らが持つのは三手。カラミティウォールの突破に少なくとも一手要する、残り二手で我が天地魔闘は破れぬ、と。
だが衝撃波の目前、先頭を駆ける早苗がスペルカード・開海「モーゼの奇跡」を構えた瞬間、一人後ろで待機していたネシンバラがG.F.ケルベロスの、『反撃の狼煙』を発動。
そして放たれる、早苗の開海「モーゼの奇跡」×3、マミのティロ・フィナーレ×3、カズマの対戦車ロケット砲(RPG―7@魔法少女まどか☆マギカ)。
一撃一撃それぞれが必殺と呼べる7連撃のラッシュがバーンの衝撃波を両断し、カイザーフェニックスを相殺し、両腕を防御に回し……さらに左腕を斬り飛ばし、中央の心臓を撃ち抜き、右肩から右心臓に掛けてを深々と切り裂いた。
猛攻はまだ続く。バーンに回復呪文を使う隙を与えまいと、三人はバーンを取り囲む。そして背後に回った早苗は収束した風の砲撃・ウインドブラストで、右手に回り込んだマミはマスケットの乱射・ティロ=ボレーで、左側のカズマは神羅のマシンガン@FFⅦで、集中攻撃を加える。
地に伏すことも許さぬ三方からの弾幕が大魔王の肉体を文字通りの意味で削り取り、蒼い血煙が盛大に吹き上がる。即興だが、ネシンバラの作戦がハマった。このまま押し切れば、勝てる。バーンを除くその場の『五人』がそう思った瞬間、砲火に翻弄され死の舞踏を踊る大魔王が、最期の執念をもって額の眼・鬼眼を抉り出した。
後衛のネシンバラと、いつの間にかその隣に立っていたマミが解説する間もなく各員に退避を指示する。鬼眼から発せられる閃光を浴びてバーンの体が軋みながら急速に膨張していく。光が収まった時、そこには異形の大巨人・鬼眼王バーンの姿があった。
だが恐れることはない。相手が魔王なら、この魔を断つ剣が必ずや祓って見せよう。
「先に巨大化するのは敗北フラグですよ、大魔王バーン!」
「いわゆる経験者は語る、って奴だ!早苗、アレを…アイツを呼ぶぞ!」
そして二人は音声認識コード…召喚の呪文を高らかに叫ぶ。
「憎悪の空より来たりて!」
「正しき怒りを胸に!」
「「我らは魔を断つ剣を執る!」」
「「汝、無垢なる刃…」」
「「デモンベイン!!」」
『魔王に挑む三人の勇者』完
『その名呼べ、強く呼べ!ああ、ぼくらのデモンベイン』に続く
- デモンベインに搭乗し、鬼眼王バーンと戦闘。これを撃破し、デモンベイン初勝利
隠れていたプールの中から水しぶきを上げて立ち上がり、鉄(くろがね)の城壁・デモンベインは鬼眼王と対峙する。度重なる戦闘で既に装甲はボロボロ、強化作業は未完成、カズマの脳内にはけたたましいダメージアラートが直接送られてくる。だがその瞳はまだ死んでいない。機械であるデモンベインに生命が宿るはずはないのだが、その瞳は確かに闘志を放っている。
「早苗、あとどれくらいで作業は終わる?」
「ネシンバラさんの協力があれば…あと3分で。その間、何とかしのいで下さい」
「任せとけ…俺も死神のダチだ。逃げ隠れするのには自信がある」
「サボったら閻魔様からお説教ですよ?」
「そいつはぜひとも御免こうむりたいぜ」
「……別にアイツを倒してしまっても構わないのですよ?3分以内に」
「無理だっつーの!」
かくして、鬼眼王とデモンベインの地獄の鬼ごっこが始まる。
鬼眼王バーンには既に大魔王だった頃の知性と威厳はどこにもなく、魔獣のようにデモンベインに襲いかかる。既に正面から戦う力は無く、恥も外聞も捨てて必死に逃げるデモンベイン。特に腰部関節後部のダメージが酷く、ガニ股でしか走れない。そんな姿を遠目に見た
マスターテリオンが幻滅するのも無理はない。それでもカズマは、デモンベインは、逃げて逃げて逃げ続けた。早苗が、ネシンバラが、勝利の鍵を手にしてくれることを信じて。(余談だが、この回でのデモンベインの陵辱シーンにハァハァする超上級紳士が続出した。)
長い長い3分間が経過した時、デモンベインは仰向けに押し倒され、鬼眼王に馬乗りに乗られていた。鬼眼王はそのままそのままやたらめったらにデモンベインを殴りつける。水銀の血液が激しく飛び散り、コクピット内が激しく揺れる。
「まだか早苗ー!もう持たねえぞ!!」
「これで……完成です!」
だが、もう遅い。このまま馬乗りで殴られ続けて、動力炉かコクピットを潰されて終わりか。カズマがそう思った瞬間。この状況を打破する方法を『既に知っていた』ことに気づく。
デモンベインの指が空を切り、その軌跡に光の五芒星が浮かび上がる。緑色に輝く五芒星の魔方陣はデモンベインの盾となり、今まさにコクピットを潰そうとした鬼眼王の拳を、体ごと弾き飛ばした。戦況を見守っていたネシンバラとマミ達が叫ぶ。
「「あれは…旧神の印(エルダーサイン)!?」」
「いや、あれは忘却の祭儀……古の秘術(グレイソーマタージ)!どうやら間に合ったみたいだね、早苗……!」
計画通りとはいえ、カズマは驚きの色を隠せない。
「早苗、これが……」
早苗に通信機で話しかけるカズマに対し、早苗は未だダメージアラートを叫び続けるデモンベインの『声』に混じって語りかけてくる。
『そうです。カズマの精神と私の精神を、デモンベインのインターフェースを通じて接続したんです。』
機動兵器の操縦はできても、魔法は使えないカズマ。守谷の秘法を継ぎながら、操縦を知らない早苗。操作系を魔法を知らないカズマに一任している以上、早苗は自慢のスペルカードを発動できず、今まで電池同然の扱いだった。モビルトレースシステムを搭載するゴッドガンダムを見て、早苗が羨むのも自然な話だった。今まで敗北を続けてきたデモンベインは、本来の乗り手達と違い、魔導書である早苗の魔術を発現させるという、本来の力を発揮できずにいたのだ。
そこで、早苗達が考案した解決策が、デモンベインのパイロットに直接情報を送り込むインターフェースを改造し、パイロットとオペレータの脳を接続して相互に情報をやり取りできるようにするというもの。よく考えなくても大きなリスクが伴う危険な手段だが、早苗の提案にカズマも合意した。今のままのデモンベインでは、いずれ誰かに破壊されるのが明らかだった。
「つまり、今の私は一人じゃない……私たちは!一つだ
あああああーっ!!」
『ガオガイガーと違って最初から複座だろ!』
意識が繋がってもいつもの調子で会話する二人に、体勢を立て直したバーンが突進してくる。デモンベインはそれを回し蹴りで迎撃。ダメージの分、こちらが押し負けそうになるが、脚部のシールドから斥力が発生。逆にバーンを空中に放り出す。OS改修作業とカズマから得た知識で、オペレータの早苗がインパクトの瞬間に力場……次元の「風」を発生させたのだ。
空中で飛び回りながら破壊の眼光を乱れ撃つバーンに対し、デモンベインは二丁の拳銃を取り出し応戦。放たれるは、『白い』誘導弾・スカイサーペントと、『蒼い』炸裂弾・コバルトスプレッド。
二人は、今まで見てきた弾幕のパターンを元に眼光をギリギリでかわしつつ、弾速・軌道の違う二種の特殊弾の、移動する目標に対する機動兵器のカメラ越しの偏差射撃を、さも今まで飽きる程やってきた行為だと言わんばかりに正確に、事も無げに行う。
白蛇に喰らいつかれて足を止め、蒼い爆炎に焼かれて視界を塞がれた上空の鬼眼王に、デモンベインは偃月刀を振りかざして飛びかかる。上体を反らして斬撃を避けようとするバーンに対して、フェイントとばかりに
「トレイラー殺法のケリを喰らいなさい!」
「あっ、こら!それは俺の台詞だ!」
デモンベインが脚部シールドの先端を脇腹に突き立てる。
両者の体を縫い止め、空中で無理やり引き寄せたところで
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!サイコロステーキになりやがれ!」
「完成した料理は、あとでカズマが美味しくいただきました♪」
「俺だって食いたくねえよ!」
落下しながら守谷の秘法・「九字刺し」で格子状に切り刻み、そのまま地面に叩きつける。
そして、地面に半分埋まったバーンを無理やり引きずり起こし、腹部の鬼眼に何度も拳を打ち付ける。
「おらあああ!その目ン玉にボディブローを食らわせてやる!」
「ボディに目潰し、じゃ無いんですか?」
「一緒だああああ!」
デモンベインの鉄拳が鬼眼を覆う硬質のまぶたを殴り、殴り、ヒビを入れ、砕き、ついには目玉に拳をめり込ませ、鬼眼王を吹き飛ばす。
水平に吹き飛んで行く鬼眼王を追うように、脚部シールドから空間の「風」を起こして追撃。
今こそ必滅の奥義を放つ時。
「早苗、デモンベイン、フルパワーで行くぞ!」
「了解です、カズマ。貴方の精一杯を応援します!」
カズマは、デモンベインは、詠唱を開始する。
「光射す世界に、」
地面すれすれをスッ飛んでいくバーンに、ワンツーパンチ。
「汝ら闇黒住まう場所無し!」
さらに間合いを詰め、SUMOUの立ち会いの如くぶちかまし、
「乾かず、飢えず、無に帰れ!」
そのままバーンを空中へ投げ飛ばす。
「神の風」を受けたデモンベインはそれを最大加速で追いかけ、稲光のように突き刺さる。
「レムリア・フルアクセル・インパクト!!」
バーンの鬼眼に押し当てられた右手の平から生成されるマイクロブラックホール、そして、
「ヒイィィィト、エンド!」
「違うだろ!」
……そして、マイクロブラックホールから取り出される、太陽と見紛うような無限熱量が鬼眼王バーンの肉体を焼きつくし、跡形も無く『昇華』させた。ヒートエンドではなく、『昇華』させた。
上空で昇華されてゆくバーンを見上げるデモンベイン。いくつもの敗北を重ねた後に初めての勝利を挙げた今回のヒーロー(ヒロインの男性形)。その顔は何処か晴れ晴れとした、「ほっこり」とした笑みを浮かべているように見えた。
「あっ、カズマさん、『光になれぇぇ!!!』の方が良かったですか?」
「そういう問題じゃねぇよ!」
一方デモンベインを降りた二人はというと、初勝利の後もこんな調子だった。そんな彼らを、ネシンバラと「二人の」巴マミが出迎える。
……『反撃の狼煙』の効果時間はとっくに切れているはずなのに。いや、そもそも早苗は分身なんてしなかったはずなのに。巴マミに起こった異変に一同が気づくのは、第XXX話『ああ、ぼくらのデモンベイン』のラストシーンから、数分後の事だったという。
各地の対主催派が互いの誤解とわだかまりを乗り越えて一致団結して(皮肉にも、それは絶対悪・
シックスによる貢献が大きかった)マーダー勢の討伐に当たり、残る脅威は最後に残ったマーダー・ラインハルトと主催者・
黒のカリスマのみとなった。カズマ達を含む対主催陣営は彼らとの決戦に備え、軽い食事を取り束の間の休息を取ることにした。茶器の不足に対し、
イエス・キリストがカズマら以前の同行者三人を後悔のどん底に叩き落とした『逆奇跡』を申し出るアクシデントがあったものの、束の間の団欒は概ね和やかに行われた。
だが休憩のために一時メイクを解いたクラウザーさんが人間で、しかも根菜類の如き地味な青年(根岸崇一)だったのには、初見の者たちは皆驚愕した。しかも根岸の音楽性はクラウザーと真逆で、「甘い恋人」を始めとするお洒落でポップな曲調であった。「素の根岸」の曲は早苗を始めとする極少数以外には不評で、すぐに「クラウザーさんに戻る」ように勧められてしまったのだが。
根岸の音楽に聞き入る早苗の横顔を見ていると、カズマは妙に気持ちが落ち着くことに気がついた。それは倒れた早苗を介抱している時に抱いた淡い感情とも、早苗に迫られていると勘違いした時に抱いた羞恥や邪な感情とも違うものだった。たかだか丸2日にも満たない時間で抱くはずもないその感情の原因は、偶然彼女との相性が良かったために起こったものなのか。それとも、デモンベインを通じて意識を彼女とつないだ副作用の、偽りの感情だったのか。
カズマは深く考えないことにした。偽りのものであれ、本物であれ、「それ」はきっとこれから戦っていくため必要だと考えたから。カズマは、いつだって「それ」を原動力に戦ってきたから。
……その後、カズマと早苗が周囲から冷やかされたことは言うまでもない。年頃の男女が二人並んで「甘い恋人」を聞く姿は、本人たちに自覚は無くともどう見ても恋人同士です。本当にごちそうさまでした。
イエス・キリストの奇跡により、デモンベインは全快し、さらに強化。並外れた運動性を持つ機動兵器・シュロウガや、斬魄刀、祝福武器の数々、各種レアカードを始めとした、強力な装備が適材適所に行き渡った。首輪も全員無事に解除成功。
ほぼ万全の状態となった対主催陣営は、戦力を主催者本拠地突入と最後のマーダー・ラインハルトに二分し、最後の攻勢に出る。主催突入組の殿を買って出た
ミスター・ブシドーが、鬼械神・皇餓で主催者の差し向けた100m級機動兵器・レムレースの群れを薙ぎ倒して行く。
カズマは、その姿に蒼の
ガンダムや獅子の勇者を始めとする元の世界の先達のような頼もしさを感じつつ、仲間達と共に主催者の待つ本拠地へと向かったのだった。
殿に立ったグラハムの助けもあり、本拠地突入組はさしたる障害も無く黒のカリスマの待つ本丸へと向かうことができた。その道中、カズマは遂に我慢しきれなくなり、早苗に質問をぶつけた。
「なあ…なんでお前金髪になってんだ?」
「金色になるのはロボット物の
お約束です!」
聖別化し、溢れんばかりの魔力を得たデモンベインが、早苗に先祖返りという奇跡を引き起こしたのだ。彼女の先祖である土着神の頂点・洩矢諏訪子と同様に髪は金色となり、言動はそれまで以上にハイテンションなものとなった。
「ハンマーがあればなおOKです!」
「ガオガイガーかよ!」
お前はどこの伝説のスーパーモリヤ人だ。カズマや読者達からの総ツッコミを受けつつも、黒のカリスマの元へ到着。
カズマ・早苗inデモンベイン
ようやく脱解説役したマミ&ネシンバラ
蛮、
アーチャー、蓮(withマリィ)、志貴のインフレ軍団
空気だったけど一護さん
武士道頑駄無ことミスター・ブシドー
特別ゲストクラウザーさん
後ついでに非戦闘員にハルヒと小鳩ちゃんと黒猫
というそうそうたる戦力の前に、黒のカリスマの駆る宝石剣内蔵型カオス・レムレースも完膚なきまでに敗れ去るのであった。
「デモンベイン大勝利!希望の未来へレディ・ゴー!です!」
オペレーター席ではしゃぐ早苗を横目に、カズマは機外の一護を見下ろした。
今まで迷走を続け、マモレナカッタと嘆くだけだったと漏らしていた彼も、これでようやく報われるなとそう思った瞬間。
「僕が死んだと思った? 残念! まだいました☆」
「なん…だと…?」
「一護ぉーーーーー!!!」
一護は真の姿を現したジ・エーデルに心臓を貫かれた。辛うじて一命は取り留めたようだが、二人が一護と生きて言葉を交わす事は二度と無かったのだった……。
- 同時に倒さない限り無限に復活する3人のジ・エーデルを前に、消耗戦を強いられる
「「「ショーダウンにはまだ早いよ、これからが本番じゃあないか。」」」
3人のジ・エーデルと対主催との泥沼の消耗戦が始まった。
ジ・エーデル『達』はそれぞれ
宝石剣内蔵カオス・レムレース
始祖村正
破壊ロボ
に搭乗し、対主催たちを蹂躙し始める。
デモンベインは先祖返りし、神に近づいた早苗の力で
分霊の要領でデモンベインを分身させ、
神具「洩矢の鉄の輪」で始祖村正の磁気かく乱・『狂わし』を無効化するなど、先頭に立って奮戦する。
だが、
「ぶってくれ……もっと、力の限り、ボクを、ぶってくれぇ!」
「あまり失礼なこと言うと土下座させますよ!」
「ひっ」
ジ・エーデルは、
「最高だァ、今、生と死の交わる瞬間が見えたよ!」
「流石だよぉ……S苗ちゃん、キミこそエーデル様の後釜にふさわしい!ついでに、蔑みの視線もおくれ!」
「うげえ……お前の存在は小鳩ちゃん達に悪影響だ!今度こそ倒すぞ、早苗!」
「ええ……今度こそ、本物の『さでずむ』というものをお見せしてあげましょう……!」
(養豚場のブタでもみるかのように冷たい目で)
「ひぃ!?お前も大概にしろぉ!!」
何度倒されようとも、
「運命の女神が二人に嫉妬しちまったのかもな」
「ぐはっ!?」
「瞬く光の交錯の中に、たわむれるのは生と死の交わり…」
「や、やめろおおお!」
「俺は不死鳥…生と死を分かつ壁さえも越える!」
「素敵ですね、これはメモしておきませんと!」
「お前も止めてくれええええ、ちっくしょおおおおっ!
俺の味方はいないのかー!?」
復活し続けた。
長時間に渡る激戦で、デモンベインに魔力を供給していた早苗は限界に近づいていた。
そんなことおくびにも出さず今までどおりのノリで話す早苗。
だが、カズマの脳裏には刻々と悪化していく早苗のバイタルサインが送られてきていた。
早く決着を付けなければ。カズマは焦りはじめていた。
- 魔力を使い果たした早苗が遂に倒れ、デモンベインが機能停止
長い長い消耗戦が続く最中、カズマは早苗におもむろに話しかけられた。
「カズマ。カズマさん。カズマさんは、私を信仰してくれますか?」
「無事故安全か商売繁盛の御利益があるなら……いや、まぁ、無くても信じるさ」
「残念、信者、獲得し損なっちゃいましたか。
でも、友達というのも、いいものかもしれませんね。
あ、それとも、相棒、ですか?」
「ヴァルストークファミリーって、俺達は呼ばれてたよ」
「家族、ですか。ああ、それは、とても、素敵ですね」
早苗がそう話すと、魔力の尽きたデモンベインは遂にその機能を停止した。
この会話が行われる数分前に、早苗のバイタルサインは既に消失していた。それでも早苗は、今の今まで共に戦ってくれていた。カズマにとっては、もうそれだけでも奇跡というに等しかった。
この時既に蛮・アーチャーが死亡。蓮も重傷を負い、戦力を徐々に削り取られていった対主催連合はジ・エーデルに一方的に嬲られる状態となっていた。
- ジ・エーデル打倒の最後のチャンスにデモンベインを再起動させる
デモンベインも落ち、もはや戦況は絶望的となったその時、巴マミを抱えたブシドーの駆る鬼械神・皇餓が増援として駆けつけてきた。
だが、レムレースの大軍を単騎で相手取っていた皇餓のダメージは既に甚大で、ジ・エーデルが駆る始祖・村正にあっけなく粉砕される。
次の瞬間、中から飛び出した素顔のミスター・ブシドーは高らかに名乗りを上げ、九○式竜騎兵を纏って村正の攻撃を切り払い、こう叫んだ。
「愛も超越すればそれは憎しみとなる……即ち善悪相殺!」
言葉の意味はわからないが凄い説得力だ。
その言葉に応えるかのようにヨハネ・クラウザー・Ⅱ世がSATUGAIの演奏を開始。
対主催陣に殺害コールが巻き起こり、ネシンバラの神降ろしで戦況が持ち直す。
そして瀕死の蓮が決死の流出を発動。
これが最後の勝機。
デモンベインと共に死んだふりをしていたカズマは、そう判断し
魔力の枯渇した早苗がそうしたように、自らの生命力をデモンベインに供給し始めた。
停止した時間の中、魔力を失ったはずのデモンベインが再起動される。
驚くことはない。
あり得ぬ事が起こってこその奇跡。
早苗の命を奪った絶望的な状況は、だがそれ故に聖別されたデモンベインに奇跡をもたらした。
「どれだけ平行世界の自分を呼ぼうが、結局てめえは一人でしかないんだよ。
てめえにも、教えてやるよ、ジ・エーデル!
宇宙の怖さ、一人の人間の弱さ…、そして、生命の大切さを!」
カズマは精神を集中してレムリア・インパクトの詠唱を開始。
デモンベインが、重々しい足取りでジ・エーデル最大の戦力、カオス・レムレースに向かって歩き出す。
「光射す世界に」
だが元々魔術の素養など無いカズマ。
自らの大切な命を燃やしたところで、いくらの足しになるものでもない。
血液を急速に抜かれていく感覚に襲われ、視界が暗く霞んでいく。
それでも、不屈の意志をもって一歩一歩デモンベインの両足を動かす。
「汝ら、闇黒……住まう、場所無しっ」
全身に気合を込め、必死に意識を保たせる。もはや彼を生かしているのは闘志のみ。
「乾かず、飢えず……無に帰れ……!」
赤子のような歩みで未だ停止中のカオス・レムレースに肉薄。
ただの人がデモンベインをこれだけ歩かせることができたのはまさに賞賛すべきことである。
カズマは今や残りわずかとなった熱き血を絞り出すかのように詠唱を終える。
「レムリア……インパクトォ!!」
やっとのことで突き出された右掌が辛うじてカオス・レムレースに触れた。
この体たらくではマイクロブラックホールを発生させ、昇華するなどあり得ない。
- レムリアインパクトで、カオス・レムレースを光にする
……だが、ここで本当の奇跡が起こった。
イエス・キリストに聖別されたデモンベインは突如黄金色に輝き出し、右手からヤハウェの神聖四文字を模した魔法陣が発生。カオス・レムレースを拘束する。
さらにモニターに映る景色が星々渦巻く暗黒の銀河に変化した。
死して神霊となった早苗がカズマに最期の力……霊界トランスを与えているのだ。
決戦会場の神々がデモンベインと、カズマを依り代に集い出す。
その一柱一柱が黄金のデモンベインへと姿を変え、右手を掲げてカオス・レムレースを取り囲み、突撃。
間近で無数の超新星爆発のごときエネルギーをモロに受けたカオス・レムレースは、今度こそ跡形も無く昇華された。
「へっ、光に、なれ……なんて、な」
それが、生命を燃やし尽くしたカズマが最期に呟いた言葉だった。
……だが。
(カズマさん……カズマさん!起きて下さい!)
(っ!早苗!?みんなもいる!俺達、ユーレイになっちまったのか?)
(もう、あと一仕事残ってるじゃないですか!
満足さんと一緒に、ジ・エーデルを『満足の向こう側』に連れて行ってやるんです!
たまには本職のトレイラーらしい所、見せてくださいよ)
(ったく、DMってのは人使いの荒いカードゲームだな……。
おちおちゆっくり死んでもいられねえ)
(死んでも元気な人って、割といっぱい居ませんか?大食いチャンプの座を争ったり)
(えー……でも俺も心当たりがあるな。あ、デモンベインもユーレイになってる)
(ところで、『ゲームから除外』ってどういうことなんでしょう?
このカードを手伝った時の効果みたいですけど)
(さあな。……おっと、『仕事』の時間だ。鬼柳に合わせるぞ!)
『除外』された彼らは何処に行ってしまったのか。
答えは読者たちの心の中に…。
最終更新:2014年01月03日 17:36