「破界事変」




与次郎次葉は普通の少女ではなかった。
安心院なじみの部下で、悪平等で、厨二病の普通ではない少女だった。


しかし彼女は、スキルは使えなかった。
“異常(アブノーマル)”も使えないし、“過負荷(マイナス)”も使えないし、“悪平等(ノットイコール)”も使えない。
ワンダーツギハという魔法も所詮設定であり、悪い妖怪とか倒せる力も無に等しかった。


そんな少女が──────────異常な人たちも参加する殺し合いに参加させられたら?





────────それは、生き残れる可能性は極めて低い…



◆◆


いきなり襲いかかってきた闇。


感覚が、無かった。


与次郎次葉が“なにかがちぎれる音”を聞いた途端。
声をかけようと思って右手を差し出した途端。
右肩から右腕、右手までの感覚がなくなった。

瞬時。全身に痛みが響いた。

間もなく、与次郎次葉は右腕がちぎられたと言うことに気が付く。


「~~~~~~っ!!」


痛みに絶叫しようも、声が出ないほどの苦しみだった。
次葉が傷みに堪えていると、骨を潰しているような、音が聞こえた。
いや、それは骨をかみ砕く音だった。

────喰われるんだ

与次郎次葉は判断した。
五更瑠璃、羽瀬川小鳩、巴マミ、トゥーサン・ネシンバラではない、それ以外の何者かが私達を食べに来たんだ、と。


「ちょ、みんな、大丈夫なの!?」


闇の中マミの声が聞こえた。
巴マミに助けの声を出そうとした。

しかし声を発する前に与次郎次葉は倒れた。
ぐりん、と身体がコマのように回転して、地面に落ちた。
右腕に続いて、下半身の感覚が無くなっていた。
人間の体は意外と丈夫なもので、まだ死ねず、体中に先ほどとは比べ物にならない激痛が走る。

見えない恐怖が迫ってきていた。

────コワイ─────コワイ───シヌンダ────コロサレル──────

目からは涙が流れていた。 喉からは血が出ていた。
鼻は激しい呼吸をしていた。 耳は骨をかみ砕く音を聞いていた。
頭はまっ白になりかけていた。 右腕は感覚が無かった。
左腕はカバンを握りしめていた。 背中は叩きつけられた痛みが残っていた。
お腹は激痛が走っていた。 下半身は感覚が全く無くなっていた。

そして、声が聞こえてきた。


「こんなお話を聞いた事があるわ。どこかのとても偉い人が旅の途中にお腹を空かせて……。
 そうしたら、それを聞いた兎が自分から焚き火へと飛び込み、その人の晩御飯になったのですって。
 友達の為に犠牲になるのを厭わないのが、友達。

 だったらつまり……トモダチは、ゴチソウ。


 嗚呼--なんて美味しいのかしら」



──────────────クワレル

闇の中、与次郎次葉は恐怖の中にいた。
恐怖のあまり声は出せなかった。


闇の中、誰かが自分を持ち上げた。
その持ち上げた手は冷たく、細く、女の手だった。

瞬間。

お腹を齧られる。胃、肝臓、膵臓、肺、腸、骨。
少しずつ、上に向かっていた。
その捕食時間は、たった20秒の出来事だったのだ。



「────────────」






与次郎次葉の目はまっ白になった。















「…ここは?」


与次郎次葉は気が付くと、体験学習で通っている箱庭学園の廊下に立っていた。

「ああ、よかった…戻ってこれたんだわ」

与次郎次葉は右手を胸にあて、安堵した。
視線をむこうに向けると、廊下の奥には四人の少女が立っていた。
眼鏡をかけた少女、ゲームをしている少女、侍のような少女、電子音を出している少女。

みんなわたしの、与次郎次葉の友達だった。

眼鏡をかけた少女が手をふって私を呼んでいた。
与次郎次葉は友達に向かって走り、言った。


「ごめんなさい、待たせたかしら?」


四人の少女は笑顔で否定した。
与次郎次葉は優しい友達を持っていました。


与次郎次葉は普通の少女だった。
友達がいて、学校に通って、妄想癖がある普通の少女だったのであった。


◆◆


巴マミの目がまっ白になった。

否。これは光──闇が消えたのだ。
巴マミはカバンから取り出しておいた銃剣を握り、周りを見渡す。
羽瀬川小鳩と五更瑠璃はお互い抱き合って怯えていた。
トゥーサン・ネシンバラは尻もちをついていた。

そして、初めて会う女が血まみれで立っていた。
女の手には少女の左腕があり、女の服には血があった。


与次郎次葉は────女に喰われて死んだのだ。


4人は驚愕した。
女は左腕を喰べ終えると言った。

「なによ、この光?」

女が闇を消したのではなかった。なら、誰が?


枝が折れる音がした。


「わたしにはあなたの知らない食べ物がある。
 わたしの食べ物とは、わたしをお遣わしになった方の御心を行い、そのわざを成しとげることである」

森の奥から一人の男が現れた。
年の瀬は中年くらいだろうか。
いや、そんな推測など無意味だ。
後光を背負ったこの男にとって年齢など、どうでもいい要因に過ぎないのだ。

「まさか、君が小鳩ちゃんの言っていたおっちゃんか!?」
「でも、これって…」
「い、イエス・キリスト…!?」

二人目の乱入者を眼にし、ネシンバラ達三人が息を呑む。
伝説に謳われた聖者がこの地にいることは知っていた。
小鳩の言うおっちゃんの可能性もあるとあたりもつけていた。
だが、そんな予想や心構えが吹き飛ぶほどに、彼の者はあまりにもまばゆかった。
イエス・キリスト。
きっと詳細名簿を見ていなかったとしても、その神々しさに誰もが自然とその名を口にしたことだろう。

「おっちゃんのアホ!トイレが長いばい!」

とはいえ小鳩にとってはおっちゃんはおっちゃんだった。
神の子をアホ呼ばわりとはなんとも罰当たりなのだが、まあコーラロケットなんかやっていたのだから言われても仕方ないだろう。
アホ呼ばわりされた男の方も、それを咎めることはなかった。
彼が誰よりも慈愛に満ちた男だからでもあるが、小鳩に心細い思いをさせ、一人の少女を護れなかった我が身は確かにアホ呼ばわりされても仕方なかった。

「ここ一帯の闇は吹き飛ばした。女よ、詫びなさい」

イエス・キリストは怒っていた。
自分に、そして目の前の常闇の悪魔に怒りを顕にしていた。

「ふふふ、闇を消されちゃ、こっちが不利…ここは逃げるわ」

女はそう言うと空を飛んで逃げて行く。
イエス・キリストは奇跡をなし引きとめようとするも、それよりも先になすべきことがあると思い直す。

「あの女は、顔や体格が違うが…恐らくルーミアだ!
 データにも"食人"すると書いてあった!!」

ネシンバラが名簿で確認する。

「そうか、あの女はルーミアと言うのか……彼女は新たに生まれなければ、神の国を見ることはできないでしょう」
「お、おっちゃん…?」
イエス・キリストの顔は小鳩が見たことのない、怒りに満ちている顔だった。
イエス・キリストはそう言うと与次郎次葉の血だまりの方へ歩む。

「深く……詫び告げる。
 私の不注意で一つの命が失われてしまった」

イエス・キリストは屈み、右手を血だまりに触れ、涙を流していた。
イエス・キリストの体は震えていた。


「おっちゃん…」


羽瀬川小鳩は望月ジローを、巴マミと五更瑠璃は岡部倫太郎達を、
死んでいる所を見たことがあるのが功を、冷静にいていられた。


その場には沈黙が流れた。


誰もが言葉を発する事ができなかった。


太陽はいつもと同じように動き、時計の短針は12時を指す直前だった。

その時であった。


「あ、あの…」


ネシンバラであった。

「私に、サインを…頂けませんかね?」
「…はい?」

イエス・キリストは突然の頼みに困惑した。
それもそのはずネシンバラは歴史オタクであった。それ故に思わずこんな発言をしてしまったのだった。

「ちょ、おにーさん…空気読まんかい」

小鳩がすかさず指摘する。黒猫は立ちぼうけていた。
ネシンバラの両手にはサイン色紙が二枚握りしめられていた。

「え…ええ、まあ構いませんが…」
「ほ、ホントですか!?じゃあこちらの一枚目にはボクのトウーサン・ネシンバラ宛てで、こっちの色紙はトマス・シェイクスピア宛てに…!」

必死に頼むネシンバラ。
巴マミや羽瀬川小鳩の顔は思わず緩んでいた。


◆◆


「なぁ、マミ」
「なによ」

ネシンバラは口を開いた。
ネシンバラのおかげかその場の空気は少し和んでいた。
それでも与次郎次葉の死は覆せるものではない。

「次葉ちゃんの死を見て思ったんだ。ボク達で対主催者を集めてこのゲームをぶっ壊さないか?」

もう、これ以上人が死ぬのは嫌なんだ、と彼は言った。
目の前で与次郎次葉。鬼柳京介鈴仙・優曇華院・イナバ

彼のその言葉に反対の声は勿論なく、その場にいた人は皆賛成であった。

「では、D-3にある食堂に皆を集めるということで…」

イエス・キリストが続けて提案する。羽瀬川小鳩も五更瑠璃も頷いていた。
巴マミはその案を採用し、お互い対主催者を集めるという約束を取り決めた。

「黒猫ちゃんは…キリストさんと一緒にいたほうが良いかもね」
「…なぜ?」
「ボク達なんかより、キリストさんの方が頼りになると思うし…」
「そうしい、うちも黒猫と一緒がいいばい」
「…そうだね」

羽瀬川小鳩は白い修道服の袖から小さい手を黒猫に差し出した。
黒猫も受け入れるように、黒いゴスロリの服の袖から手を出してその手を掴んだ。

「黒と白…ね」
(何言ってるんだろうこのお嬢さん)





森の中には枝の折れる音が響いていた。
右に耳を澄ませば少し大きい枝の折れる音と少し小さい枝の折れる音がした。

左に耳を澄ませば大きい枝の折れる音と小さい二つの枝の折れる音がした。


二つの組は約束を守るため、枝を踏み折り、歩いていくのだった。

刻は長針と短針が重なり、エリア内には時計塔のベルの音が響いた。




【F-8 森・2日目 午前】
【黒猫(五更瑠璃)@俺の妹がこんなに可愛いわけがない】
[状態]:全身に傷(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:松田の銃@DEATH NOTE 剣@魔法少女まどか☆マギカ(厨二ロワ) 支給品一式
[思考・状況]
1:生き残る
2:目の前で人が死んだことに動揺


【F-8 森・2日目 午前】
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:肘に擦り傷
[装備]:水銃剣・旗魚丸@.hack//G.U.
[道具]:メス@GetBackers-奪還屋- 支給品一式
[思考・状況]
1:主催者を倒す
2:メンバーを集める
3:与次郎次葉が死んだことにショック


【F-8 森・2日目 午前】
【トゥーサン・ネシンバラ@境界線上のホライゾン】
[状態]:寝不足
[装備]:詳細名簿@厨二ロワ
[道具]:チョコレート@DEATH NOTE キリストのサイン 支給品一式
[思考・状況]
1:主催者を倒す
2:メンバーを集める
3:与次郎次葉が死んだことに精神的ショック
4:キリストのサインが貰えたことに満足


【F-8 森・2日目 午前】
【羽瀬川小鳩@僕は友達が少ない】
[状態]:全身に傷(治療済み)
[装備]:インデックスの服@とある魔術の禁書目録
[道具]:トランプ@HUNTER×HUNTER 支給品一式
[思考・状況]
1:生き残る
2:イエス・キリストと一緒にいる
3:目の前で人が死んだことに動揺


【F-8 森・2日目 午前】
【イエス・キリスト@新約聖書】
[状態]:疲労
[装備]:なし
[道具]:トルコ巻きトレンド@ゴルゴ13 「くろの」のスーツケース@GANTZ 支給品一式
[思考・状況]
1:生還
2:羽瀬川小鳩と黒猫を守る
3:与次郎次葉が死んだことに謝罪
4:ルーミアに恨み
5:対主催者を食堂に集める


【F-8 森・2日目 午前】
【ルーミア@東方project】
[状態]:EXルーミア化
[装備]:崩玉@BLEACH、バーサーカーの石剣@Fate/stay night
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:ひとまず逃げる
2:葦原涼を食べる
3:他の参加者も食べる


【与次郎次葉@めだかボックス 死亡】
[残り33人]



200:真魔大戦 黒猫 207:奇跡の力、ここに降臨
200:真魔大戦 巴マミ 225:狙い撃ち
200:真魔大戦 トゥーサン・ネシンバラ 225:狙い撃ち
200:真魔大戦 羽瀬川小鳩 207:奇跡の力、ここに降臨
200:真魔大戦 イエス・キリスト 207:奇跡の力、ここに降臨
200:真魔大戦 ルーミア 202:カニバリズム

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最終更新:2013年02月01日 23:25