橘に連れられた俺は、喫茶店に入った。
「話は佐々木さんなのです。」
「佐々木?」
橘は、俺を見ると単刀直入に言った。
「キョンさん、佐々木さんが好きですよね?」
いきなり何を言うか、この馬鹿は。
「当たり前の事を聞いてくるな。」
「その当たり前が、当たり前でなくなろうとしているのです。」
こいつは何をほざくか。しかし、橘の表情は真剣そのものだ。
「佐々木さんは、基本的に『諦念』の人だと知っていますよね?」
「…………」
「佐々木さんは、先日の一件を見て、貴方が涼宮さんに『奪われる』事は避けられない事態だと考えています。」
「……あ?」
確かに先日のハルヒは危なかった。閉鎖空間発生の一歩手前まで行ったが……
「待て。お前、ハルヒを信用していないのか?」
「個人的な感情なら、答えはイエスです。」
確かにハルヒは危ない力をもっているが……だからといって、何でも思い通りにならないものを思い通りにする奴などでは決してない。
「ふざけんな。」
ハルヒは誤解されやすい奴だが、理解出来ない位にふざけた奴じゃない。
本気の人間には真摯に対応するし、本気の言葉なら、あいつは最大限考えるだろう。
でなければ、俺達SOS団があいつを大切に思うわけがない。
「俺はハルヒを信じている。あいつは受け入れてくれる。必ずだ。」
「そこですよ、佐々木さんが怖いのは。」
俺の言葉を橘が遮る。
言いたい事は分かるよ。佐々木は99%の中の1%の失敗を考える奴だ。
「でもな、お前が思う以上にハルヒは考える奴だ。」
……そう言った時。俺は佐々木の言葉を思い出した。
『ここのところの物事は、もっと悪い方へ変わりつつある。
発狂した世界なのさ、僕たちが暮らしてるのは。』
その瞬間。ざわり、と背筋が泡立った。
ハルヒの力というものは、果たして『まとも』の範疇なのだろうか。
それを指し、佐々木は『発狂した世界』と言っているのではないか?
「…………」
背筋に嫌な汗が流れる。
ハルヒが本気になれば、佐々木どころか俺も消滅する可能性がある。
渡橋が再び現れた理由。それは……
『佐々木と俺を消し去らない為の安全弁』
それだ。
「…………私が涼宮さんを信用出来ない理由が分かりましたか?佐々木さんが涼宮さんを恐れる理由も。」
背筋が寒くなった。恐らく、ハルヒと深く接するか接せないかの差。
俺達SOS団は、ハルヒと深く接して関わり合った。そして『人間』涼宮ハルヒの美点も欠点も知っている。
しかし。佐々木のようにハルヒと明確に『敵対』した人間はどうなるか。それは未知数だ。
「佐々木さんが選んだのは、キョンさんの記憶を消し、自分の痕跡を消す事なのです。」
「……あの馬鹿は……!」
佐々木の性格上、そうなればハルヒは『俺』の全てを手に出来なくなると考えたのだろう。
俺は、佐々木の影響を強く受けた。佐々木なくして俺が現在の俺になったか。答えはノーだ。
「させるかよ。」
佐々木の思惑はどうであれ、俺は俺でありたいし、せっかく掴んだ佐々木の手を離すのもごめんだ。
「絶対させねぇ。」
事態は自分が考えるよりも深刻であり、ただ逆らうだけがこんなに厳しいとは思わなかったが。
「佐々木の手を離さねぇ。何があってもな。」
To Be Continued 『The time of the oath』2
最終更新:2013年04月01日 00:27