突如ディアボロの周囲に発生した雷雲。
こいしもお燐も、それに驚きを隠せなかった。
「えっ……」
こいしは戸惑い
「それがおじさんの能力かい?」
お燐は期待する。
そしてディアボロは……
「ああ」
簡単な返事をしながら雷鳴と共に雷雲の一つから雷を放つ。
それはお燐に命中せず、お燐の足元の床に命中する。
お燐は慌てて後ろに飛び退き、ディアボロの様子を伺う。
「(この戦法もいずれ見抜かれそうだな。早めに手を変えよう)」
そう判断したディアボロは、ウェザーリポートで霧を発生させる。
その霧はあっというまに濃くなり、お燐とこいしの視界を妨げる。
「(これは困ったね……おじさんの能力は『雷を操る程度の能力』だと思っていたけど、どうやら違うみたいだ)」
自分の予想とは違った能力に、困惑しながらも警戒するお燐。
霧が濃すぎていくら妖怪といえどもほとんど見えないのだ。
そしてその霧の中から何か影が見えたかと思うと……
―氷塊がお燐目掛けて飛んできた
「!?」
お燐はそれを避けたが、反撃しようにもディアボロの姿がまったく見えない。
目を凝らすが、人影が無い。
弾幕を乱射したら後で怒られてしまう。
そう思ったお燐は警戒を強めながら周囲を見渡すだけしかできなかった。
「(『呼吸』は動いていない……警戒しているようだ。おそらく周囲を見渡して俺を探しているのだろう)」
何故ディアボロはこの濃霧の中で攻撃できたのか……。それは今ディアボロが装備している一枚のDISCのおかげだ。
エアロスミス。このスタンドのおかげでお燐の呼吸を探知できるからディアボロは氷塊で攻撃できるのだ。
……このスタンドで銃撃したりしないのは彼の情けなのだろうか。
濃霧の発生直後にディアボロは、スケアリーモンスターズのDISCとエアロスミスのDISCを入れ替えている。
もし異常に気づいて誰かが向かってきても、この濃霧では殆ど分からないだろう。
そう判断したディアボロは、足音を立てないようにして移動する。
そのとき。
「(『呼吸』の位置が移動し始めた?)」
お燐が移動し始めているのに気づいたディアボロは、お燐の視界に入らないように気をつけて移動する。
……が。
「(『呼吸』が消えた……?エアロスミスの特性に気づいた、というわけではないようだが……)」
勿論お燐はエアロスミスの特性に気づいて呼吸を止めたわけではない。
猫が獲物を狙うように、息を殺し、かすかな呼吸さえ止めて相手を待つことにしたのだ。
「(このままだと位置が特定できない……もし呼吸を止めながら移動していたら、探すのに手間がかかる)」
勿論、下手に動くわけにもいかない。
もしお燐に見つかり、そして自分がお燐の存在に気づいていない状態だったら……
「(この霧の中でも、接近すれば物影は見える。だから俺は遠距離から攻撃しているが……)」
ディアボロはさらにキングクリムゾンもだし、警戒を強め、移動を続ける。
「(動いている最中の俺が見つかる可能性も否定できない。警戒しながら動かないといけないな)」
ディアボロは無事に見つかることなく柱の陰に移動した。
……・が、安心はできない。
「(移動中に気づいたが、この柱の近くに燐がいた……。時間を消し飛ばさなかったら気づかれたかもしれない)」
移動中、お燐の形をした影がいたことに気づいたディアボロは、時間を消し飛ばして見つからずに移動した。
しかし、物音を立てれば気づかれる可能性が高い。
ディアボロは考えた。
この霧を消して接近戦を挑むか。霧の中で遠距離攻撃を続けるのか……。
どちらにしろ、このままでは埒があかないのだ。
「(……仕方ない)」
考えた末、ディアボロはボーイ・Ⅱ・マンのDISCを取り出す。
そして、装備しているエアロスミスのDISCを取りだし、ボーイ・Ⅱ・マンのDISCと入れ替える。
「(いくら妖怪や幽霊でも、『これ』を見破る手段は持っていないはずだ)」
ディアボロはボーイ・Ⅱ・マンの能力を使うと、ウェザーリポートに霧を消させた。
霧が晴れた地霊殿。
そこにお燐とこいしの姿はいたが、ディアボロの姿は見当たらなかった。
「あれ……?」
こいしはディアボロがいないことに気づき、周囲を見渡す。
……が、その姿が見えることは無い。
お燐も、ディアボロの姿が消えたため、警戒を解く。
それこそが、ディアボロの狙いだった。
ディアボロは低空飛行で音を立てずにお燐の背後に接近すると、お燐の目の前に雷を落とす。
凄まじい雷鳴に驚くお燐とこいし。
そして気配を感じて二人が後ろを見ると……
「「―――!?」」
ディアボロがいた。
姿が消えたはずの男が。
お燐はとっさに距離をとるが、ディアボロは躊躇いもなく雷で攻撃する。
雷がお燐に命中し、お燐は怯んでしまう。が、ディアボロはその隙をつこうともしない。
お燐は反撃に弾幕を撃つが、ディアボロは無数の雷を放って相殺させる。
このままでは勝てないと判断したお燐は、弾幕の量を増やすが、ディアボロは空中に飛んで回避する。
……直後。
爆発が発生した。
ディアボロはウェザーリポートの能力でお燐の周囲に純粋酸素を作っていたのだ。
但し、風の流れをうまくコントロールしてお燐が純粋酸素を吸わないように調節していた。
そして、空気摩擦で純粋酸素に火をつけた。その結果、先ほどの爆発が起きたのだ。
では何故、先ほどは雷鳴を聞かれることを警戒して雷を放つことを止めていたディアボロが、爆発を起こせたのか。
答えは単純だ。『音がどこから聞こえてくるのか特定できなければいい』。
ボーイ・Ⅱ・マンが吸収したティナー・サックスの能力を利用し、能力射程内のお燐、こいし、ディアボロ以外の全生物に幻覚をかけ、戦闘で発生する音が聞こえないようにしたのだ。
もし能力の射程の外から誰かが来ても、ティナー・サックスの能力射程に入った時点で幻覚にかかるようにしている。
これなら、音を気にする必要が殆どなくなる。
お燐が爆発によって発生した煙で周りが見えなくなった隙に、ディアボロは装備しているキングクリムゾンのDISCと、ケース内のハイエロファント・グリーンのDISCを入れ替える。
周りが見えないために、お燐が半ば見境なく放つ弾幕を、ディアボロはエメラルドスプラッシュと雷で撃墜していく。
そして煙が無くなり、視界が確保されたお燐は再びディアボロ目掛けて弾幕を撃ち始める。
空中を飛び、時には天井を走り、ディアボロは弾幕を回避する。
そしてお燐目掛けて放たれる雷。
周囲に鳴り響く雷鳴と、弾幕が何かにあたる音。
激しい撃ち合いは、ティナー・サックスの幻覚無しではたちまち注目されるだろう。
「おじさん、やるね!」
「お前もなかなかやるな」
お燐は弾幕を、ディアボロは雷とエメラルドスプラッシュを撃つのを止めて着地し、相対する。
流石に、二人とも疲れたのだろうか。
「こうなったら……」
「……」
ディアボロはウェザーリポートを出したまま。対するお燐は身構える。
「おじさんの死体、絶対渡してもらうよ!」
どうやら二人とも、疲れたわけではいようだ。
何故なら、お燐はディアボロ目掛けて飛びかかるぐらいの体力は残っており……。
「お断りだ!」
ディアボロはウェザーリポートでお燐を蹴り飛ばせるぐらいの精神力が残っていたからだ。
蹴飛ばされたお燐は華麗に着地すると、今度は走ってディアボロに接近を試みる。
どうやら二人とも、闘い方を変えただけで疲れたわけではないようだ。
そしてお燐がディアボロを引っ掻こうとしたそのとき。
突然、ディアボロが消えた。
お燐の攻撃ははずれ、再び静寂が訪れる。
「(このまま戦い続けるのもありだが……)」
その静粛の中で、お燐とこいしから見えなくなったディアボロは考える。
「(俺の目的はこいつと闘うことではない。……悪いが、先に行かせてもらうぞ。こいし)」
そう判断したディアボロは警戒するお燐を無視して先に進む。
ディアボロがこの場からいなくなったことにお燐とこいしが気づくのは、もう少し後の事……
地霊殿を進むディアボロ。
時々出くわす妖精(地上に居るのと姿が違うが)は、どういうことか、ディアボロに弾幕を撃つ。
侵入者には攻撃するように教育されているのか、あるいは珍しい人間だから警戒されているのか。
どちらにしろ、『ディアボロが攻撃されている』という現実は覆らない。
そして、その弾幕を最低限の動きで回避するディアボロ。
時にはスタンドで弾を防ぎ、時には空中を飛んで回避する。
数多の戦いを経たディアボロには、妖精の撃つ弾幕を避けるのは難しくなかった。
「……お前ら」
ずっと無言で弾幕を突破し続けてきたディアボロが、ふと口を開いた。
その言葉に妖精は弾幕を撃つのを止め、警戒する。
ディアボロは知っている。妖精は自分と同じ『不死』の存在であることを。
例えこの場で死んだとしても、しばらくすれば生き返ることを。
ディアボロは一枚のDISCを取り出した。
そしてそれを、装備していたボーイ・Ⅱ・マンのDISCと入れ替える。
幻覚が解ける可能性があることなど、承知の上だった。
「『邪魔』だ」
そしてウェザーリポートの能力で氷のナイフを作ると、それをスタンドを使って小規模な妖精の群れの中の一匹目掛けて投げる。
……が、スタンドで投げた割りには妙に遅い。
ナイフは狙い通りに投げられているのだが、その速度は人間が投げたときと同じぐらいだった。
そして、その氷のナイフを一匹の妖精が避けた瞬間……。
その妖精は起きるはずが無い爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされた。……いや、その一匹だけではない。
ディアボロ自身も目を疑いたくなるような爆発が起きて、妖精の群れのほぼ全てを爆殺してしまった。
「(『キラークイーン』の爆発の範囲はここまで広くなかったような気がするが……)」
キラークイーン……そのスタンドが持つ能力全てが相手を滅する力を持つ。しかもその爆発は、対象の外部への一切の影響をくすこともできてしまう。
そのため、幻想郷に来てからこのスタンドの能力を使うことは無かった。
しかし、この不死の群れ相手に無駄に精神も体力も消耗したくない。
そのためにキラークイーンの能力を使ったのだ。
「(まあいい。いつのまにやら成長していたのか、俺がこのスタンド能力の爆発の範囲を忘れていただけのどちらかだろう)」
妖精の群れのほぼ全てを爆殺したディアボロは、再び先に進む。
爆発から生き延びた妖精も、爆風に巻き込まれて動けない上に、弾幕を撃つ体力も奪われてしまった。
生き延びた妖精は、ディアボロが先に進んでいくのを、ただ見ることしかできなかった
それからしばらくして、爆発音を聞きつけたこいしとお燐がやってきた。
お燐は生き残った妖精から何があったのかを聞きだし、こいしは周囲を見渡していた。
「(どうやら先ほどのおじさんはこの先に行ったみたいだけど……)」
お燐が妖精に教えられた方向を見て考える。
その次の瞬間。
再び爆発音がこいしとお燐の耳に入ってきた。
「「!?」」
二人はその爆発音の聞こえた場所に、急いで向かった。
その頃、ディアボロは―
「いいか。俺に何かしようとしたら……」
ディアボロは目の前に居る何体かの怨霊に話していた。
怨霊の言葉はディアボロには分からないが、先ほどの原因不明の爆発とディアボロの威圧感に怨霊は完全に怯えている。
「『消す』からな」
これはあくまで忠告。すぐに目の前の怨霊を始末するわけではない。
ゆえに口だけに留まっているが、ディアボロの威圧感は本物だ。今の彼なら、自分に手を出そうとした怨霊を躊躇いもなく爆破するだろう。
ディアボロが一歩怨霊に近寄る。 怨霊は一歩分後ろに下がる。
ディアボロがまた一歩怨霊に近寄る。 また怨霊は一歩分後ろに下がる。
そのまましばらくにらみ合っていたが、怨霊はディアボロの威圧感に負けて逃げ出した。
ディアボロはそれを鼻で笑い、怨霊が逃げた先に進もうとする。
……と、そのときであった。
「あ、見つけた!」
「おじさん、今度は逃がさないよ!」
こいしとお燐がディアボロを見つけた。
こいしは嬉しそうにディアボロに近寄っていくが、お燐は戦う気マンマンである。
「……仕方ない。こいし、下がっていろ」
ディアボロにそういわれて、こいしはお燐とディアボロから離れる。
「さて……今度は勝たせてもらうぞ」
「やれるものならね!」
ディアボロの挑発に、お燐は嬉しそうな反応を返す。
その反応にさらに反応するかのように、ディアボロは自分の周囲に炎を発生させる。
ディアボロとお燐の闘い。その第二ラウンドの幕が、今開かれた。
こいしもお燐も、それに驚きを隠せなかった。
「えっ……」
こいしは戸惑い
「それがおじさんの能力かい?」
お燐は期待する。
そしてディアボロは……
「ああ」
簡単な返事をしながら雷鳴と共に雷雲の一つから雷を放つ。
それはお燐に命中せず、お燐の足元の床に命中する。
お燐は慌てて後ろに飛び退き、ディアボロの様子を伺う。
「(この戦法もいずれ見抜かれそうだな。早めに手を変えよう)」
そう判断したディアボロは、ウェザーリポートで霧を発生させる。
その霧はあっというまに濃くなり、お燐とこいしの視界を妨げる。
「(これは困ったね……おじさんの能力は『雷を操る程度の能力』だと思っていたけど、どうやら違うみたいだ)」
自分の予想とは違った能力に、困惑しながらも警戒するお燐。
霧が濃すぎていくら妖怪といえどもほとんど見えないのだ。
そしてその霧の中から何か影が見えたかと思うと……
―氷塊がお燐目掛けて飛んできた
「!?」
お燐はそれを避けたが、反撃しようにもディアボロの姿がまったく見えない。
目を凝らすが、人影が無い。
弾幕を乱射したら後で怒られてしまう。
そう思ったお燐は警戒を強めながら周囲を見渡すだけしかできなかった。
「(『呼吸』は動いていない……警戒しているようだ。おそらく周囲を見渡して俺を探しているのだろう)」
何故ディアボロはこの濃霧の中で攻撃できたのか……。それは今ディアボロが装備している一枚のDISCのおかげだ。
エアロスミス。このスタンドのおかげでお燐の呼吸を探知できるからディアボロは氷塊で攻撃できるのだ。
……このスタンドで銃撃したりしないのは彼の情けなのだろうか。
濃霧の発生直後にディアボロは、スケアリーモンスターズのDISCとエアロスミスのDISCを入れ替えている。
もし異常に気づいて誰かが向かってきても、この濃霧では殆ど分からないだろう。
そう判断したディアボロは、足音を立てないようにして移動する。
そのとき。
「(『呼吸』の位置が移動し始めた?)」
お燐が移動し始めているのに気づいたディアボロは、お燐の視界に入らないように気をつけて移動する。
……が。
「(『呼吸』が消えた……?エアロスミスの特性に気づいた、というわけではないようだが……)」
勿論お燐はエアロスミスの特性に気づいて呼吸を止めたわけではない。
猫が獲物を狙うように、息を殺し、かすかな呼吸さえ止めて相手を待つことにしたのだ。
「(このままだと位置が特定できない……もし呼吸を止めながら移動していたら、探すのに手間がかかる)」
勿論、下手に動くわけにもいかない。
もしお燐に見つかり、そして自分がお燐の存在に気づいていない状態だったら……
「(この霧の中でも、接近すれば物影は見える。だから俺は遠距離から攻撃しているが……)」
ディアボロはさらにキングクリムゾンもだし、警戒を強め、移動を続ける。
「(動いている最中の俺が見つかる可能性も否定できない。警戒しながら動かないといけないな)」
ディアボロは無事に見つかることなく柱の陰に移動した。
……・が、安心はできない。
「(移動中に気づいたが、この柱の近くに燐がいた……。時間を消し飛ばさなかったら気づかれたかもしれない)」
移動中、お燐の形をした影がいたことに気づいたディアボロは、時間を消し飛ばして見つからずに移動した。
しかし、物音を立てれば気づかれる可能性が高い。
ディアボロは考えた。
この霧を消して接近戦を挑むか。霧の中で遠距離攻撃を続けるのか……。
どちらにしろ、このままでは埒があかないのだ。
「(……仕方ない)」
考えた末、ディアボロはボーイ・Ⅱ・マンのDISCを取り出す。
そして、装備しているエアロスミスのDISCを取りだし、ボーイ・Ⅱ・マンのDISCと入れ替える。
「(いくら妖怪や幽霊でも、『これ』を見破る手段は持っていないはずだ)」
ディアボロはボーイ・Ⅱ・マンの能力を使うと、ウェザーリポートに霧を消させた。
霧が晴れた地霊殿。
そこにお燐とこいしの姿はいたが、ディアボロの姿は見当たらなかった。
「あれ……?」
こいしはディアボロがいないことに気づき、周囲を見渡す。
……が、その姿が見えることは無い。
お燐も、ディアボロの姿が消えたため、警戒を解く。
それこそが、ディアボロの狙いだった。
ディアボロは低空飛行で音を立てずにお燐の背後に接近すると、お燐の目の前に雷を落とす。
凄まじい雷鳴に驚くお燐とこいし。
そして気配を感じて二人が後ろを見ると……
「「―――!?」」
ディアボロがいた。
姿が消えたはずの男が。
お燐はとっさに距離をとるが、ディアボロは躊躇いもなく雷で攻撃する。
雷がお燐に命中し、お燐は怯んでしまう。が、ディアボロはその隙をつこうともしない。
お燐は反撃に弾幕を撃つが、ディアボロは無数の雷を放って相殺させる。
このままでは勝てないと判断したお燐は、弾幕の量を増やすが、ディアボロは空中に飛んで回避する。
……直後。
爆発が発生した。
ディアボロはウェザーリポートの能力でお燐の周囲に純粋酸素を作っていたのだ。
但し、風の流れをうまくコントロールしてお燐が純粋酸素を吸わないように調節していた。
そして、空気摩擦で純粋酸素に火をつけた。その結果、先ほどの爆発が起きたのだ。
では何故、先ほどは雷鳴を聞かれることを警戒して雷を放つことを止めていたディアボロが、爆発を起こせたのか。
答えは単純だ。『音がどこから聞こえてくるのか特定できなければいい』。
ボーイ・Ⅱ・マンが吸収したティナー・サックスの能力を利用し、能力射程内のお燐、こいし、ディアボロ以外の全生物に幻覚をかけ、戦闘で発生する音が聞こえないようにしたのだ。
もし能力の射程の外から誰かが来ても、ティナー・サックスの能力射程に入った時点で幻覚にかかるようにしている。
これなら、音を気にする必要が殆どなくなる。
お燐が爆発によって発生した煙で周りが見えなくなった隙に、ディアボロは装備しているキングクリムゾンのDISCと、ケース内のハイエロファント・グリーンのDISCを入れ替える。
周りが見えないために、お燐が半ば見境なく放つ弾幕を、ディアボロはエメラルドスプラッシュと雷で撃墜していく。
そして煙が無くなり、視界が確保されたお燐は再びディアボロ目掛けて弾幕を撃ち始める。
空中を飛び、時には天井を走り、ディアボロは弾幕を回避する。
そしてお燐目掛けて放たれる雷。
周囲に鳴り響く雷鳴と、弾幕が何かにあたる音。
激しい撃ち合いは、ティナー・サックスの幻覚無しではたちまち注目されるだろう。
「おじさん、やるね!」
「お前もなかなかやるな」
お燐は弾幕を、ディアボロは雷とエメラルドスプラッシュを撃つのを止めて着地し、相対する。
流石に、二人とも疲れたのだろうか。
「こうなったら……」
「……」
ディアボロはウェザーリポートを出したまま。対するお燐は身構える。
「おじさんの死体、絶対渡してもらうよ!」
どうやら二人とも、疲れたわけではいようだ。
何故なら、お燐はディアボロ目掛けて飛びかかるぐらいの体力は残っており……。
「お断りだ!」
ディアボロはウェザーリポートでお燐を蹴り飛ばせるぐらいの精神力が残っていたからだ。
蹴飛ばされたお燐は華麗に着地すると、今度は走ってディアボロに接近を試みる。
どうやら二人とも、闘い方を変えただけで疲れたわけではないようだ。
そしてお燐がディアボロを引っ掻こうとしたそのとき。
突然、ディアボロが消えた。
お燐の攻撃ははずれ、再び静寂が訪れる。
「(このまま戦い続けるのもありだが……)」
その静粛の中で、お燐とこいしから見えなくなったディアボロは考える。
「(俺の目的はこいつと闘うことではない。……悪いが、先に行かせてもらうぞ。こいし)」
そう判断したディアボロは警戒するお燐を無視して先に進む。
ディアボロがこの場からいなくなったことにお燐とこいしが気づくのは、もう少し後の事……
地霊殿を進むディアボロ。
時々出くわす妖精(地上に居るのと姿が違うが)は、どういうことか、ディアボロに弾幕を撃つ。
侵入者には攻撃するように教育されているのか、あるいは珍しい人間だから警戒されているのか。
どちらにしろ、『ディアボロが攻撃されている』という現実は覆らない。
そして、その弾幕を最低限の動きで回避するディアボロ。
時にはスタンドで弾を防ぎ、時には空中を飛んで回避する。
数多の戦いを経たディアボロには、妖精の撃つ弾幕を避けるのは難しくなかった。
「……お前ら」
ずっと無言で弾幕を突破し続けてきたディアボロが、ふと口を開いた。
その言葉に妖精は弾幕を撃つのを止め、警戒する。
ディアボロは知っている。妖精は自分と同じ『不死』の存在であることを。
例えこの場で死んだとしても、しばらくすれば生き返ることを。
ディアボロは一枚のDISCを取り出した。
そしてそれを、装備していたボーイ・Ⅱ・マンのDISCと入れ替える。
幻覚が解ける可能性があることなど、承知の上だった。
「『邪魔』だ」
そしてウェザーリポートの能力で氷のナイフを作ると、それをスタンドを使って小規模な妖精の群れの中の一匹目掛けて投げる。
……が、スタンドで投げた割りには妙に遅い。
ナイフは狙い通りに投げられているのだが、その速度は人間が投げたときと同じぐらいだった。
そして、その氷のナイフを一匹の妖精が避けた瞬間……。
その妖精は起きるはずが無い爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされた。……いや、その一匹だけではない。
ディアボロ自身も目を疑いたくなるような爆発が起きて、妖精の群れのほぼ全てを爆殺してしまった。
「(『キラークイーン』の爆発の範囲はここまで広くなかったような気がするが……)」
キラークイーン……そのスタンドが持つ能力全てが相手を滅する力を持つ。しかもその爆発は、対象の外部への一切の影響をくすこともできてしまう。
そのため、幻想郷に来てからこのスタンドの能力を使うことは無かった。
しかし、この不死の群れ相手に無駄に精神も体力も消耗したくない。
そのためにキラークイーンの能力を使ったのだ。
「(まあいい。いつのまにやら成長していたのか、俺がこのスタンド能力の爆発の範囲を忘れていただけのどちらかだろう)」
妖精の群れのほぼ全てを爆殺したディアボロは、再び先に進む。
爆発から生き延びた妖精も、爆風に巻き込まれて動けない上に、弾幕を撃つ体力も奪われてしまった。
生き延びた妖精は、ディアボロが先に進んでいくのを、ただ見ることしかできなかった
それからしばらくして、爆発音を聞きつけたこいしとお燐がやってきた。
お燐は生き残った妖精から何があったのかを聞きだし、こいしは周囲を見渡していた。
「(どうやら先ほどのおじさんはこの先に行ったみたいだけど……)」
お燐が妖精に教えられた方向を見て考える。
その次の瞬間。
再び爆発音がこいしとお燐の耳に入ってきた。
「「!?」」
二人はその爆発音の聞こえた場所に、急いで向かった。
その頃、ディアボロは―
「いいか。俺に何かしようとしたら……」
ディアボロは目の前に居る何体かの怨霊に話していた。
怨霊の言葉はディアボロには分からないが、先ほどの原因不明の爆発とディアボロの威圧感に怨霊は完全に怯えている。
「『消す』からな」
これはあくまで忠告。すぐに目の前の怨霊を始末するわけではない。
ゆえに口だけに留まっているが、ディアボロの威圧感は本物だ。今の彼なら、自分に手を出そうとした怨霊を躊躇いもなく爆破するだろう。
ディアボロが一歩怨霊に近寄る。 怨霊は一歩分後ろに下がる。
ディアボロがまた一歩怨霊に近寄る。 また怨霊は一歩分後ろに下がる。
そのまましばらくにらみ合っていたが、怨霊はディアボロの威圧感に負けて逃げ出した。
ディアボロはそれを鼻で笑い、怨霊が逃げた先に進もうとする。
……と、そのときであった。
「あ、見つけた!」
「おじさん、今度は逃がさないよ!」
こいしとお燐がディアボロを見つけた。
こいしは嬉しそうにディアボロに近寄っていくが、お燐は戦う気マンマンである。
「……仕方ない。こいし、下がっていろ」
ディアボロにそういわれて、こいしはお燐とディアボロから離れる。
「さて……今度は勝たせてもらうぞ」
「やれるものならね!」
ディアボロの挑発に、お燐は嬉しそうな反応を返す。
その反応にさらに反応するかのように、ディアボロは自分の周囲に炎を発生させる。
ディアボロとお燐の闘い。その第二ラウンドの幕が、今開かれた。