ディアボロは床の中で策を練る。
「(さとりに心を読ませれば、彼女の精神にダメージを与えるチャンスを作れる。しかし……)」
キング・クリムゾンでさとりを監視しつつ、心を読ませて記憶を流し込んだ後の彼女のリアクションを思い出す。
「(あの様子だと、かなり警戒しているだろうな)」
まさかさとりも、自分の能力を逆手に取られるとは思わなかっただろう。
その事実があるからこそ、さとりは弾幕ごっこで闘う時以上に警戒せざるを得ない。
「(このまま攻めてもいいが、ただ外に出るだけでは見つかると距離を取られるな)」
さとりの様子を伺いながら、ディアボロは自分がどこから出るのか考える。
さとりの背後をつくのが理想的だが、彼女は今周囲を頻繁に見回している。
そして、それを見てディアボロは狙いを定める。
しばらくして、さとりが背後を向いた。それを見たディアボロはジッパーを作って素早く開け、さとりに飛び掛る。
「さとり様、後ろ!」
「!」
さとりはお燐に言われて振り向くが、その直前にディアボロは時間を消し飛ばして背後に回る。
「(そのまま捕まえるつもりだったが、気づかれたなら仕方ない!)」
キング・クリムゾンの能力を解除して背後からさとりの右肩を掴むと同時に後ろから膝をキング・クリムゾンで蹴って引き倒す。
「(このまま一気に追い込めば!)」
そしてそのままさとりの能力を利用して精神的に追い詰め始める。
さらに暴れられないようにスティッキィ・フィンガーズで両手を押さえる。
無論、さとりもただやられてばかりではない。ディアボロに弾幕を撃って攻撃する。
それに対してディアボロは、キング・クリムゾンからさとりの第三の目を右手で受け取ると、キング・クリムゾンに弾幕を防御させる。
ディアボロがスタンドからのダメージに耐えながら自らの記憶を元に作ったイメージをさとりに流し込む一方、さとりはディアボロからの精神攻撃に耐えながら彼に弾幕を撃ちまくる。
この勝負、先に折れたほうが負けだ。
「(この人には……恐怖心は存在しないの?)」
さとりはディアボロからの精神攻撃に耐えながら、ある疑問を懐く。
これだけの光景を頭の中で考えているのなら、ディアボロも少しは恐怖心を懐いているはず。
しかし、彼からはまったく恐怖の感情を読み取ることはできないのだ。
「(今は読み取れないだけ?それとも……)」
さとりがそう思ったそのとき、ディアボロがケースに入れていた一枚のDISCを装備しているスティッキィ・フィンガーズと入れ替える。
「(これで追い詰める!)」
そして、装備したスタンドの能力をさっそく発動する。
「……!?」
一瞬、なにが起きたのか分からなかった。
ふと気がつくと、ディアボロが姿を消していた。
……が、何故か身体を動かすことが出来ない。
「お姉ちゃん」
ふと聞こえたこいしの声。
声の聞こえた方向を向くと、そこにはこいしがいた。両手を後ろに回している。
だが、様子がおかしい。ただ普通に笑みを浮かべているだけなのに、何かおかしい。
「こいし……?」
さとりもそれに気づき、声をかける。
しかしこいしは返事をせず、何も言わずにさとりに近寄ってくる。
「……覚悟はいい?」
こいしはそういうと、後ろに回していた両手を前に出す。
その右手には……包丁が握られていた。
「……!?」
さとりは驚き、そして怯える。
それはこいしが包丁をもってこちらに近寄ってきているだけでない。
彼女の笑みが、狂気染みているからだ。
「死んじゃえ」
こいしがそういった直後、彼女は手に持っていた包丁を振り下ろす。
包丁はさとりの右手を突き刺し、そこから出血する。
さらに、刺された痛みが伝わったことで、この光景が現実か否か分からなくなってくる。
「これで終わりじゃないよ?」
二本目の包丁を何処からとも無く出したこいしは、狂気染みた笑みはそのままに、2本目の包丁を何処に突き刺すか考える。
身体は動かず、恐怖のあまり弾幕を撃つこともできない。さらに心を読めないから何をしてくるのかわからない。
この最悪の状況が、さとりを精神的に追い詰めていく。
「ここにしちゃお」
そう言ってこいしは2本目の包丁を右太ももに突き刺す。
再び伝わる痛みと恐怖に、さとりは必死で耐える。
「次はどこにしようかなー?」
こいしは3本目の包丁を取り出す。……一体何本持っているのだろうか。
「こいし……もうやめて……」
さとりは泣きそうになりながらもこいしに懇願する。
「だーめ。お姉ちゃんの辛そうな顔、もっと見たいんだもん」
それに対して、こいしは笑顔で断る。
そしてその直後、さとりの左肘に包丁を突き刺す。
しかも今度は1回だけじゃない。
左肘に刺した包丁を抜き、直後に左肩に突き刺す。
それを抜くと、今度はへその真上の辺りに突き刺す。
「やめて……お願い……」
痛みに耐えながら、さとりは必死にこいしにお願いする。
しかも泣きそうになっている。精神的に耐えられなくなってきているのだろうか。
それを見たこいしは、さとりの耳元に顔を近づけると……
「だ・め♪」
さとりを絶望させる一言を笑顔で言い放った。
その一言を聞いたさとりは、頭の中でこの先に起きるであろう出来事を想像した。
それはこいしが延々と同じことを繰り返していく光景。
狂気染みた笑みはそのままに、少しずつ自分を殺そうとする光景だ。
それを想像してしまったさとりは……
「やめて……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
とうとう耐えられなくなったのだろう、叫びだし、涙を流し始めた。
そしてそれを聞いてビックリしたのが……。
「……やり過ぎたか?」
「さ、さとり様!?」
「ちょ、ちょっと何やっているの!」
「お姉ちゃんは大丈夫なの?」
闘いを見ていたお燐とお空である。こいしも闘いを見ていたが、さとりの悲鳴に驚きはしなかった。
しかし、さとりの様子から、何かが彼女におきていることはわかったようだ。
……そう、先ほどの光景は幻覚だった。
幻覚は彼女に深く作用し、それは痛みを錯覚させるほどだった。
それが幻覚にリアリティをもたらし、同時にさとりが幻覚だと気づかなかった理由でもある。
「……まずは幻覚の解除だ。このままだと、精神が崩壊してもおかしくない」
ディアボロはそう言って、装備していたキング・クリムゾンのDISCをヘブンズ・ドアーのDISCと入れ替える。
「こいし、俺がいいというまで絶対にさとりの視界に入るな。わかったか?」
「うん」
こいしは戸惑いながらも、ディアボロの言葉を了承する。
それを聞いたディアボロは、幻覚をかけていたスタンド……ボーイ・Ⅱ・マンのスタンド能力を解く。
「……?」
反応からしてどうやら、なにが起きたのかわかっていないようだ。
しかし、死んだ目をしているあたり、よほど辛かったようだ。
ディアボロはその直後にヘブンズ・ドアーを使い、さとりを本にする。
そして文字が書かれている中で一番新しいページを探しだす。
少しして、目的のページを探し出したディアボロは、急いでさとりの記憶に手を加える。
まず、幻覚で見た光景に関する全ての記憶を完全に消去する。
少しでも残すと、何時その光景を思い出してしまうか分からないからだ。
完全に消去し終えると、次は今回の闘いの記憶を改変する。
今のままでは、不自然な点が沢山残ってしまう。
改変して、気絶に至る過程を『不自然な点がないように』作成しなければならない。
それを済ませたら、後始末は完了である。
後は、彼女を『気絶』させて少し休ませてあげればよいだけだ。
それからしばらくして、さとりが目を覚ます。
「あ、お姉ちゃん!」
それに気づいたこいしは、嬉しそうにさとりに駆け寄る。
「こいし……?私は……」
「すまない。あの時、ちょっとやりすぎたみたいだ」
こいしに気づいたさとりに、ディアボロが声をかける。
「……」
それを聞いて、無言でディアボロを見つめるさとり。
それから少し間をおいて、さとりが話し始める。
「私は大丈夫ですよ」
そう言ってさとりは笑みを浮かべる。
「よかった……」
それを聞いたこいしは安堵する。
「それにしてもまさか『あんなこと』になるなんて、一体何をしたんだい?」
「さとりが相手に対してやることと同じことをしたつもりだったが……最後の方はちょっとやりすぎたようだ」
「どう見てもやりすぎだったよ……」
お燐の質問に答えるディアボロ。
その答えにお燐は納得するが、同時にディアボロに呆れる。
「今度同じことが起きたら、灰にしちゃうからね?」
お空はそう言ってディアボロに警告する。
主が悲鳴を上げるような事態を彼は引き起こしたのだ。
いくら頭が悪くても、何があったのかは覚えているだろう。
「分かったから灰にするのはやめてくれ」
ディアボロは嫌そうな顔でお空に向かって言う。
いくら死ぬことが無くても、灰にされるのは誰だって嫌だろう。
お空との会話の後、ディアボロは装備していたボーイ・Ⅱ・マンとケースの中のスティッキィ・フィンガーズを入れ替える。
そしてジッパーを閉じた後、能力を解除する。
「貴方は私に勝つために自分自身の記憶を思い出してきましたが……貴方は怖くはなかったのですか?」
さとりはディアボロに質問をする。
「例え辛くても、怖くても、何時までも過去に怯えているわけにはいかない。過去には、打ち勝たなくてはいけない」
「……だから貴方は強いのですね」
ディアボロの答えに、さとりは納得する。
彼の記憶から見えた光景の殆どは、妖怪どころか普通の人間でも精神が崩壊してもおかしくなかった。
彼はその『過去という恐怖』に『打ち勝った』。だから彼は『恐怖しない』のだ。
「『過去に打ち勝つ』……」
ディアボロの言葉に、こいしは呟いた。
かつて自分が選択した、『心を読む程度の能力』を捨てるという道。
その道を選択した結果『無意識を操る程度の能力』を得た。
しかし、『心を読む程度の能力』を捨てた理由は、『心を読めるせいで嫌われる』からだった。
誰だって、自分の心を読まれるのは嫌である。
しかし、『それが原因で嫌われるから』という理由でその能力を捨ててしまうのは、ただ単に現実から目を逸らすだけだ。
そのことを、能力を捨てた当時のこいしはそれを理解していたのか、それは本人にしか分からない。
「(……ありがとう)」
こいしは心の中でディアボロにお礼を言った。
彼の言葉が、昔の自分に打ち勝つ勇気をくれたような気がしたからだ。
「貴方も疲れているでしょう。帰る前に少し休んでいってはどうですか?」
「ありがとう、そうさせてもらう」
ディアボロはさとりの気遣いに感謝する。
ここに来て3回も闘っているのだ。流石に疲れている。
少し休んだ方がいいだろう。
「あんなに強かったんだから、やっぱりおじさんの死体は私が」
「やめろ」
お燐の発言にディアボロは文句を言う。
疲れていても、他人の言葉に反応する余裕はあるようだ。
「お燐、あまりそういうこと言わないの」
こいしはお燐に注意する。
そこには、いつもの地霊殿の光景があった。
そしてディアボロは、それを楽しそうに見ていた。
「(さとりに心を読ませれば、彼女の精神にダメージを与えるチャンスを作れる。しかし……)」
キング・クリムゾンでさとりを監視しつつ、心を読ませて記憶を流し込んだ後の彼女のリアクションを思い出す。
「(あの様子だと、かなり警戒しているだろうな)」
まさかさとりも、自分の能力を逆手に取られるとは思わなかっただろう。
その事実があるからこそ、さとりは弾幕ごっこで闘う時以上に警戒せざるを得ない。
「(このまま攻めてもいいが、ただ外に出るだけでは見つかると距離を取られるな)」
さとりの様子を伺いながら、ディアボロは自分がどこから出るのか考える。
さとりの背後をつくのが理想的だが、彼女は今周囲を頻繁に見回している。
そして、それを見てディアボロは狙いを定める。
しばらくして、さとりが背後を向いた。それを見たディアボロはジッパーを作って素早く開け、さとりに飛び掛る。
「さとり様、後ろ!」
「!」
さとりはお燐に言われて振り向くが、その直前にディアボロは時間を消し飛ばして背後に回る。
「(そのまま捕まえるつもりだったが、気づかれたなら仕方ない!)」
キング・クリムゾンの能力を解除して背後からさとりの右肩を掴むと同時に後ろから膝をキング・クリムゾンで蹴って引き倒す。
「(このまま一気に追い込めば!)」
そしてそのままさとりの能力を利用して精神的に追い詰め始める。
さらに暴れられないようにスティッキィ・フィンガーズで両手を押さえる。
無論、さとりもただやられてばかりではない。ディアボロに弾幕を撃って攻撃する。
それに対してディアボロは、キング・クリムゾンからさとりの第三の目を右手で受け取ると、キング・クリムゾンに弾幕を防御させる。
ディアボロがスタンドからのダメージに耐えながら自らの記憶を元に作ったイメージをさとりに流し込む一方、さとりはディアボロからの精神攻撃に耐えながら彼に弾幕を撃ちまくる。
この勝負、先に折れたほうが負けだ。
「(この人には……恐怖心は存在しないの?)」
さとりはディアボロからの精神攻撃に耐えながら、ある疑問を懐く。
これだけの光景を頭の中で考えているのなら、ディアボロも少しは恐怖心を懐いているはず。
しかし、彼からはまったく恐怖の感情を読み取ることはできないのだ。
「(今は読み取れないだけ?それとも……)」
さとりがそう思ったそのとき、ディアボロがケースに入れていた一枚のDISCを装備しているスティッキィ・フィンガーズと入れ替える。
「(これで追い詰める!)」
そして、装備したスタンドの能力をさっそく発動する。
「……!?」
一瞬、なにが起きたのか分からなかった。
ふと気がつくと、ディアボロが姿を消していた。
……が、何故か身体を動かすことが出来ない。
「お姉ちゃん」
ふと聞こえたこいしの声。
声の聞こえた方向を向くと、そこにはこいしがいた。両手を後ろに回している。
だが、様子がおかしい。ただ普通に笑みを浮かべているだけなのに、何かおかしい。
「こいし……?」
さとりもそれに気づき、声をかける。
しかしこいしは返事をせず、何も言わずにさとりに近寄ってくる。
「……覚悟はいい?」
こいしはそういうと、後ろに回していた両手を前に出す。
その右手には……包丁が握られていた。
「……!?」
さとりは驚き、そして怯える。
それはこいしが包丁をもってこちらに近寄ってきているだけでない。
彼女の笑みが、狂気染みているからだ。
「死んじゃえ」
こいしがそういった直後、彼女は手に持っていた包丁を振り下ろす。
包丁はさとりの右手を突き刺し、そこから出血する。
さらに、刺された痛みが伝わったことで、この光景が現実か否か分からなくなってくる。
「これで終わりじゃないよ?」
二本目の包丁を何処からとも無く出したこいしは、狂気染みた笑みはそのままに、2本目の包丁を何処に突き刺すか考える。
身体は動かず、恐怖のあまり弾幕を撃つこともできない。さらに心を読めないから何をしてくるのかわからない。
この最悪の状況が、さとりを精神的に追い詰めていく。
「ここにしちゃお」
そう言ってこいしは2本目の包丁を右太ももに突き刺す。
再び伝わる痛みと恐怖に、さとりは必死で耐える。
「次はどこにしようかなー?」
こいしは3本目の包丁を取り出す。……一体何本持っているのだろうか。
「こいし……もうやめて……」
さとりは泣きそうになりながらもこいしに懇願する。
「だーめ。お姉ちゃんの辛そうな顔、もっと見たいんだもん」
それに対して、こいしは笑顔で断る。
そしてその直後、さとりの左肘に包丁を突き刺す。
しかも今度は1回だけじゃない。
左肘に刺した包丁を抜き、直後に左肩に突き刺す。
それを抜くと、今度はへその真上の辺りに突き刺す。
「やめて……お願い……」
痛みに耐えながら、さとりは必死にこいしにお願いする。
しかも泣きそうになっている。精神的に耐えられなくなってきているのだろうか。
それを見たこいしは、さとりの耳元に顔を近づけると……
「だ・め♪」
さとりを絶望させる一言を笑顔で言い放った。
その一言を聞いたさとりは、頭の中でこの先に起きるであろう出来事を想像した。
それはこいしが延々と同じことを繰り返していく光景。
狂気染みた笑みはそのままに、少しずつ自分を殺そうとする光景だ。
それを想像してしまったさとりは……
「やめて……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
とうとう耐えられなくなったのだろう、叫びだし、涙を流し始めた。
そしてそれを聞いてビックリしたのが……。
「……やり過ぎたか?」
「さ、さとり様!?」
「ちょ、ちょっと何やっているの!」
「お姉ちゃんは大丈夫なの?」
闘いを見ていたお燐とお空である。こいしも闘いを見ていたが、さとりの悲鳴に驚きはしなかった。
しかし、さとりの様子から、何かが彼女におきていることはわかったようだ。
……そう、先ほどの光景は幻覚だった。
幻覚は彼女に深く作用し、それは痛みを錯覚させるほどだった。
それが幻覚にリアリティをもたらし、同時にさとりが幻覚だと気づかなかった理由でもある。
「……まずは幻覚の解除だ。このままだと、精神が崩壊してもおかしくない」
ディアボロはそう言って、装備していたキング・クリムゾンのDISCをヘブンズ・ドアーのDISCと入れ替える。
「こいし、俺がいいというまで絶対にさとりの視界に入るな。わかったか?」
「うん」
こいしは戸惑いながらも、ディアボロの言葉を了承する。
それを聞いたディアボロは、幻覚をかけていたスタンド……ボーイ・Ⅱ・マンのスタンド能力を解く。
「……?」
反応からしてどうやら、なにが起きたのかわかっていないようだ。
しかし、死んだ目をしているあたり、よほど辛かったようだ。
ディアボロはその直後にヘブンズ・ドアーを使い、さとりを本にする。
そして文字が書かれている中で一番新しいページを探しだす。
少しして、目的のページを探し出したディアボロは、急いでさとりの記憶に手を加える。
まず、幻覚で見た光景に関する全ての記憶を完全に消去する。
少しでも残すと、何時その光景を思い出してしまうか分からないからだ。
完全に消去し終えると、次は今回の闘いの記憶を改変する。
今のままでは、不自然な点が沢山残ってしまう。
改変して、気絶に至る過程を『不自然な点がないように』作成しなければならない。
それを済ませたら、後始末は完了である。
後は、彼女を『気絶』させて少し休ませてあげればよいだけだ。
それからしばらくして、さとりが目を覚ます。
「あ、お姉ちゃん!」
それに気づいたこいしは、嬉しそうにさとりに駆け寄る。
「こいし……?私は……」
「すまない。あの時、ちょっとやりすぎたみたいだ」
こいしに気づいたさとりに、ディアボロが声をかける。
「……」
それを聞いて、無言でディアボロを見つめるさとり。
それから少し間をおいて、さとりが話し始める。
「私は大丈夫ですよ」
そう言ってさとりは笑みを浮かべる。
「よかった……」
それを聞いたこいしは安堵する。
「それにしてもまさか『あんなこと』になるなんて、一体何をしたんだい?」
「さとりが相手に対してやることと同じことをしたつもりだったが……最後の方はちょっとやりすぎたようだ」
「どう見てもやりすぎだったよ……」
お燐の質問に答えるディアボロ。
その答えにお燐は納得するが、同時にディアボロに呆れる。
「今度同じことが起きたら、灰にしちゃうからね?」
お空はそう言ってディアボロに警告する。
主が悲鳴を上げるような事態を彼は引き起こしたのだ。
いくら頭が悪くても、何があったのかは覚えているだろう。
「分かったから灰にするのはやめてくれ」
ディアボロは嫌そうな顔でお空に向かって言う。
いくら死ぬことが無くても、灰にされるのは誰だって嫌だろう。
お空との会話の後、ディアボロは装備していたボーイ・Ⅱ・マンとケースの中のスティッキィ・フィンガーズを入れ替える。
そしてジッパーを閉じた後、能力を解除する。
「貴方は私に勝つために自分自身の記憶を思い出してきましたが……貴方は怖くはなかったのですか?」
さとりはディアボロに質問をする。
「例え辛くても、怖くても、何時までも過去に怯えているわけにはいかない。過去には、打ち勝たなくてはいけない」
「……だから貴方は強いのですね」
ディアボロの答えに、さとりは納得する。
彼の記憶から見えた光景の殆どは、妖怪どころか普通の人間でも精神が崩壊してもおかしくなかった。
彼はその『過去という恐怖』に『打ち勝った』。だから彼は『恐怖しない』のだ。
「『過去に打ち勝つ』……」
ディアボロの言葉に、こいしは呟いた。
かつて自分が選択した、『心を読む程度の能力』を捨てるという道。
その道を選択した結果『無意識を操る程度の能力』を得た。
しかし、『心を読む程度の能力』を捨てた理由は、『心を読めるせいで嫌われる』からだった。
誰だって、自分の心を読まれるのは嫌である。
しかし、『それが原因で嫌われるから』という理由でその能力を捨ててしまうのは、ただ単に現実から目を逸らすだけだ。
そのことを、能力を捨てた当時のこいしはそれを理解していたのか、それは本人にしか分からない。
「(……ありがとう)」
こいしは心の中でディアボロにお礼を言った。
彼の言葉が、昔の自分に打ち勝つ勇気をくれたような気がしたからだ。
「貴方も疲れているでしょう。帰る前に少し休んでいってはどうですか?」
「ありがとう、そうさせてもらう」
ディアボロはさとりの気遣いに感謝する。
ここに来て3回も闘っているのだ。流石に疲れている。
少し休んだ方がいいだろう。
「あんなに強かったんだから、やっぱりおじさんの死体は私が」
「やめろ」
お燐の発言にディアボロは文句を言う。
疲れていても、他人の言葉に反応する余裕はあるようだ。
「お燐、あまりそういうこと言わないの」
こいしはお燐に注意する。
そこには、いつもの地霊殿の光景があった。
そしてディアボロは、それを楽しそうに見ていた。