第八話「凍結! 紅魔館」
オレはサーレー、元ギャングだ。別に足を洗ったつもりはないんだが。
咲夜が経過報告書を兼ねた日記を書けというから書いていくことにした。
ダービーとかいうギャンブラーのスタンド使いにスタンドを奪われた。
それで白玉楼っつーとこに取り返しに行くことになっちまった。
なのにさっきは咲夜に殺されかけた。報告書でもあるから何があったかは書かねーが。
そんなこんなでオレには今スタンドが無い。だから咲夜を連れていくことにした。
朝になって、仕事を済ませて紅魔館の玄関の扉を開けようとしたら開かねー。
昨日の夜は結構暴風雨だったからな…冬だし凍ったのかもしれん、と思ったが。
窓が少ねーから外の様子が分からん。わざわざ窓のある部屋まで行ってきた。
…外が完全に凍りついていた。門番まで凍ってやがった。今朝はやけに寒いと思ったんだ。
―――――――――――紅魔館:大広間――――――――――――
「…………さくやー、サーレー、紅茶はー?」
レミリアが引っ張り出してきたコタツに入ってジタバタしている。
パチュリーは暖炉の前で椅子に座ってウトウトしている。
フランの姿は見当たらないが、特徴的な羽がコタツから出ている。どうやらコタツの中にいるようだ。
「何回言ったら分かるんだ? 水道が凍ってるんだよ。そんなに茶がほしいなら茶葉でも食ってろ」
咲夜が原因を捜索しているので、サーレーは休憩中だ。
体が大きいためコタツに入れず、走って体を温めている。
「備蓄していた水があるでしょ? それを沸かしなさいよ」
「ビンなら全部同じに見えるか? あれは水じゃあねー、ワインだ。飲みたかったら飲んでろ」
かれこれ10分ほどこのやり取りが繰り返されている。
「電子レンジでもあればいいんだけどな…掃除機とかはあんのによ……」
実は紅魔館、結構電気製品が多い。香霖堂で咲夜が買ってきた発電機がある。
コタツも発電機によって稼働しているようだ。
サーレーが考えていると、ついさっきサーレーにあしらわれ、考え事をしていたレミリアが閃く。
「朝からワインってのもオツなんじゃないかしら。…サーレー、持ってきなさい」
「自分で行けよ吸血鬼」
レミリアの願いを断った直後、咲夜が扉を開けて入ってきた。
「一通り見てきて分かったわ…というか、思い当たる節が2つしかないわ」
「へぇ…その2つを聞かせてもらおうじゃない、咲夜」
妙にカリスマぶってらっしゃいますがコタツに入っています。お忘れなく。
「この付近には冷気を操るバカな妖精と、寒気を操る黒幕(笑)な妖怪がいます」
「それで決まりね!」
5つ数える間もなく決定されてしまった。
サーレーは思わず咲夜に駆け寄って突っ込む。
「早ッ。いや間違いなくそいつらなんだろうけども…
それはともかく寒気を操るってのと黒幕(笑)がよくわからん」
「えっとね、冷気は物を凍らせるとかだけど…寒気ってものは冬そのものなの」
「?」
完全に理解ができていない。どうみても頭の上にクエスチョンマークが浮いている。
「……つまり冬の効力を強めるってことよ。あと黒幕(笑)は黒幕(笑)よ」
「黒幕の説明は納得いかねーが、冬を強める…か。そりゃ有力だな。だが妖精のほうは…」
容疑者が1名に絞られ、もう1名に焦点を当てたところにコタツからもそっとフランが這い出てくる。
「チルノちゃんなら有力だとおもうよー」
「聞いてらしたんですね、妹様。…それで、チルノが有力な理由とは?」
コタツの上のミカンを手に取りながらフランが答える。
「チルノちゃんね、ちょっと前に遊びに行ったときに『もうあたいをバカにするやつなんかいないわ!』
…みたいなこと言って通りかかった魔理沙に弾幕ごっこを挑んだの」
「…死んだわね。死なないけど」
「それがね、あと一歩のところまで追いつめちゃったの。マスパ撃たれても氷の壁で耐えちゃったし
まあ…結局負けちゃったけどね」
フランは少し悲しそうな顔をし、咲夜は驚きの表情を隠せない。なにやら空気が変わった。
…しかし、その微妙な空気に一石を投じる猛者出現。
「魔理沙って誰だ?あとそのチルノとか言うヤツはそんなに弱いのか?」
「あなたは…私が考えをめぐらしている時に……まあいいわ。教えてあげる。
魔理沙は魔法使い。光とか熱とか…そういうスペカが多いわ。綺麗な弾幕撃つわよ。あと人間ね。
それから、チルノは冷気を操る妖精。妖精とは思えない強さだけど…頭の方があなたみたいだから。ね?」
サーレーは一瞬反応したが、すぐに抑える。もともと冷静に行動する人間なのだ。
「…なるほどな、熱と冷気じゃ差は歴然。にもかかわらず、あと一歩まで追いつめるほどの強化か…」
「…あ! あとね、『レティも一緒にやってくれる』って言ってたんだよ。だから……」
すこし暗い顔をしてから言葉を発する。
「だから……いままでバカにした奴らに目に物を見せてやるって」
「確信犯じゃねーか…しかしなんでここが氷漬けに…」
「お嬢様よ…きっと。ねえ、お嬢様」
3人がコタツの方をみるとレミリアがいない。しかし羽がはみ出ている。間違いなくコタツの中に隠れている。
咲夜がコタツに近寄り、中に手を突っ込む。するとレミリアが収穫できた。
…引き出されたあとも、話の流れで責任が自分にあると感じたのか、目を合わせようとせず視点が定まらない。
「お嬢様、お出かけになるときあの妖精に会うと散々罵倒してらっしゃいましたよね」
「うっ」
「多分あっちにとっても出会う頻度は高かった。…身近で最も憎いのはお嬢様だった筈です」
「ぐうっ」
「きっと最初の標的を…お嬢様にしているのだと思います」
結構キてる感じのレミリアに、これは好機とばかりにサーレーがとどめをさす。
「つまりこの騒動はお前のせいなんだな、バカ主」
するとレミリア、まさかの涙目。
「ううっ、そうよ。きっとそうよ。アイツなら真っ先に私を狙うわ。
…ごめんなさい。私のせいで迷惑をかけちゃって。サーレーは魂が危ないというのに…」
珍しく…いや、しおらしく謝るレミリアに逆に動揺する従者たち。
「! あ、いえいえ。大丈夫です。チルノ程度なら私たちでどうにかできます。気を落とさずに…」
「お前の謝罪を聞けて満足だぜ。ならいっちょ異変解決と行きますか、一応異変解決が契約に入ってるしな!」
2人で物珍しさに驚きつつも談笑しながら広間を出ていく。そして大広間に3人が残った。
「「…………」」
「計 画 通 り」
2人が出て行った途端、レミリアが某新世界の神的な表情を浮かべる。
「チョロいわね、私がそんなことでしおらしくするわけ無いじゃない。面白かったわぁ」
「お姉さま……」
みかんを食べながら、すっかりあきれ果てたところにふと思い出す。
「あ、言い忘れてた。チルノちゃんが言ってた…
―――――強くなる円盤の話」
―――――――――――紅魔館:エントランス――――――――――――
そのころエントランスには笑い声が響いていた。
「あんなお嬢様見たこと無いわ!いいもの見たわね、激レアよあれ」
「オレは勤めて少ししか経ってないが…あれは眼福だな!あのレミリアが…」
どうやら次に起こるであろう戦闘など忘れているようだ。
「はー、笑ったわ…っと、出るには扉の氷をどうにかしないといけないわね」
と言うといきなり、なにかこう…ロケットランチャーらしきものを手に出現させていた。
「…!? どっから出した? 対戦車ロケット弾とか…」
サーレーはあまりの驚きにツッコミが追いついていない。
「表にガラクタの山があったでしょ?あそこにこういうのがたくさんあったから…
地下の武器庫に保管しといたのよ」
「どうやって出現させたかは…まあいい。それより、お前の細腕で撃てるのか?」
サーレーの投げかけた疑問にふっと笑う咲夜。そしてロケランを彼に渡す。
「もちろんあなたが撃つのよ。使い方が分からないし。ああ、扉の修復は美鈴がやってくれるわ。」
「だと思ったぜ…ま、オレは撃った経験あるけどな」
エントランスの扉に照準を向け、十分に離れる。
「下がってろよ……ファイヤー!」
そして軍隊的掛け声でトリガーを一気に押しこむ。しかし一瞬、頭によぎる記憶。最悪の光景。
「あっ、オレのハーレー玄関前に置いといた気が…」
次の瞬間、着弾の爆風とともにエントランスは砕け散り、煙を巻き込みなだれ込む外の冷気と朝日。
そして…
「オレの愛車ァァァァアアアアアァアーーーーッ!!!!」
サーレーの悲痛な叫び。彼は膝から崩れ落ちた。
「…ご愁傷さまね、きっと新しい出会いがあるわ。乗りたかったけど、今回の移動は徒歩………え?」
咲夜が外の光景を見て思わず絶句する。
爆煙が冷気で飛ばされた今、恐ろしいほど澄んだ空気の中、泣き崩れたサーレーも目をしかめる。
「全部…『止まって』やがる…だと? …………あっ、オレのハーレー無事じゃん」
咲夜とサーレー、停止した世界を見た人間は、特にサーレーには不可解な光景だった。
おそらく昨夜のうちに降った雨粒が、雨で落ちたのだろう葉が、飛んできた鳥たちが、霧の湖から流れる霧が、風で巻き上げられた砂埃が、つい
でにロケランの爆撃から辛うじて逃れたハーレーも、すべて『止まっている』のだ。
「そんな…あなた以外にもこんなことできるヤツがまだいるの…?
…! いや、ちがうわサーレー! 時間停止じゃない! 周りの空気ごと凍っているのよ…!」
咲夜が凍りついた雨粒に手を寄せると、ぱりぱりという音と共に雨粒が落下する。
「さっきは気が付かなかったが…上から見たからか? しかし、空気ごと凍らせる?
…ん? いや待て、確かそんなようなスタンド使いを組織で聞いたことが…」
サーレーが記憶を探ろうとした矢先に強烈な冷気が2人に襲いかかる。
「う、お…おおお。凍る! くそッ、『クラフト・ワーク』ッ!」
その強烈な冷気に身の危険を感じ、とっさにスタンドを出そうとする。
「…………あ。今は無いんだったな、忘れてた」
間抜けにもそう言った途端紅魔館の壁の向こうへと隠れるサーレー。
「…役立たず」「うるせー、お前は既に隠れてたじゃあねーか」
2人が壁に隠れると冷気の波は止み、2つの人影が現れる。
「夫婦漫才は後にしてもらおうかしら」
一人が言う。
「あの高慢ちきなレミリアをだしなさい!」
もう1人も言う。
「……やっぱりあなたたちだったのね。復讐なんてあなたたちができると思っているの?…チルノに、レティ」
「レティはあたいに協力してくれてるだけ、復讐するのはあたいだけ。あんたたちのバカ主にね。
…あたいは『チカラ』を手に入れたの。だから復讐だってできるのよ」
チルノはその冷たい身体とは裏腹に、目は炎が燃えているかのように熱い。
「私は友達がバカにされ続ける所を見てきた。今度はあんたたちが凍りつくのよ」
レティもそれは同じのようだ。
会話を聞いていたサーレーは少し微妙な顔をしてから口を開く。
「こういう奴らが力を持つとロクなことにならねー、ってのは昔から決まってんだけどな…」
ため息交じりの言葉を聞いて、チルノはサーレーを睨みつけて言う。
「今日来たのは別にあんた達の親玉を氷漬けにするためだけじゃないわ。
…あんたにも用があるの、サーレー」
「! なんでオレの名前を知っているんだ? というか咲夜、全然バカっぽく見えないぞ」
「おかしいわね、いつもはただ向かってくるだけの奴なんだけど…雰囲気が違うわ」
バカという単語に敏感に反応しチルノが声を荒げる。
「バカって言うな! 今度は私があんた等をバカにしてやる番なんだ!」
冷たい頭に血を上らせたチルノが、凍結した空気を壊し氷弾を撃ち込んでくる。
「おい、バカ、やめ…まだ名前の件を聞いて無い……やめろ、待て!」
「またバカって言った…いいわ、氷漬けはやめてあげる。串刺しに変更よ!」
さらに怒りを増すチルノにあわせ、また一段と鋭さと弾速の上がる氷弾。
それを見てサーレーが大事なことを思い出す。
「(ハーレー…置きっぱなしじゃねーか?)」
サーレーは全力でハーレーが置いてあった方に眼を向けた、だがもう遅い。
丸太程の太さの氷弾は、氷漬けのハーレーを、サーレーの眼の前で貫こうとしていた。
「再びかァァァァアアアアァァアアーーーーッッ!!!!!!」
叫ぶサーレー、あろうことか丸太程の氷弾にタックルを仕掛けた。
氷弾の軌道は逸れてハーレーを掠り壁に突き刺さる。
サーレーは衝撃によって吹き飛ばされ、紅魔館内部の壁に叩きつけられる。
「ぐッ………うぐ…」
うめき声を上げながら、サーレーが地面に倒れる。
「あのバカ…そんなにあのバイクが大事だったの!? ……あれ?」
咲夜がナイフで反撃をしつつサーレーに目を向けた時、咲夜は奇妙なものを見る。
同時に意識が朦朧としていたサーレーも、それを体感していた。
途切れそうな意識をつなぎとめるに十分な衝撃と違和感。
「何だこれは…気持ち悪い…
…頭にあのCDが入ってきやがるだと…ッ!」
サーレーが体験し、咲夜が見ているもの。
それはサーレーが昨日拾ったCDのようなもの。
ポケットから飛び出したであろうそれが彼の頭にめり込んでいく様子だった。
「何? 勝手に自滅した? 」
少し不思議がりながらも勝ち誇った様子を見せるチルノ。
サーレーに起こっている事は、チルノからは壁になって見えていないようだ。
それは同時にサーレーからもチルノが見えないことも意味するが。
「まぁいいや、そろそろとどめにしちゃおうかな」
そう言ったチルノの周りに強力な冷気が集まり始める。
咲夜は見たことのない光景に目を奪われていて気付かない。
何と言っても人間の頭に円盤がズルリと入りこんでいくのだ。
「くらえ!『氷符「アイシクルマシンガン」』!!」
後ろを見ている咲夜に向かって二十ばかりの氷弾が撃ち込まれる。
咲夜が気付いた時には、とうに人間の反応速度では避けられない距離に迫っていた。
動揺が彼女の思考を致命的なまでに遅らせる。策など考え付くはずがない。
「あ…」
こんなところで、もう駄目だ。そんな考えが頭をよぎる。
甘く見た自分が、と思ってももう遅い。思わず目を瞑る。
「うあっ!」「うっ!」
悲鳴に驚いて目を開ける。今の悲鳴は自分では無い。
視界に入ったのは、自分に向けて放たれた氷弾がチルノの頭を掠り、後ろのレティを撃墜する光景だった。
「え!?」
そして何よりも驚いたのが、氷弾に掠り大きく振れたチルノの頭から先程サーレーに入ったのと同じであろう円盤が飛び出していたことだった。
「いてて…くそッ! あいつらオレの愛車に……どうした咲夜? マヌケ面して」
サーレーが不思議そうな顔をして背中と頭をさすりながら、口を開けたままの咲夜を見ている。
「いいえ………今の私では説明が付かないわ。それにあっちの一人は満身創痍みたいだし」
咲夜が指をさした方向には、全身に氷弾を受けぐったりしているレティがいた。
「倒したのか? さすがPA…メイド長じゃねーか。相手の弾幕を返して撃墜か、とんでもないな」
「…後で『懺悔』という言葉を胸に刻んであげるわ。弾幕返しはあなたもでしょ、それより」
ちら、と咲夜が上を見るのでサーレーも目をあげる。そこではチルノがこちらを睨んでいる。
ただ先程と違い、その雰囲気はとても子供っぽかった。
「なにするのよ! なにしたのよ! レティに手を出すなんて!」
「…なんかさっきまでの雰囲気が吹き飛んだな。オレが呻いてる間に何があったんだ?」
疑問を示しながらも、サーレーは何か他の違和感に意識が向いていた。
そう、自分の体の中に異物が入ったような…しかし欠けた半身が満たされたような、そんな感覚に。
オレはサーレー、元ギャングだ。別に足を洗ったつもりはないんだが。
咲夜が経過報告書を兼ねた日記を書けというから書いていくことにした。
ダービーとかいうギャンブラーのスタンド使いにスタンドを奪われた。
それで白玉楼っつーとこに取り返しに行くことになっちまった。
なのにさっきは咲夜に殺されかけた。報告書でもあるから何があったかは書かねーが。
そんなこんなでオレには今スタンドが無い。だから咲夜を連れていくことにした。
朝になって、仕事を済ませて紅魔館の玄関の扉を開けようとしたら開かねー。
昨日の夜は結構暴風雨だったからな…冬だし凍ったのかもしれん、と思ったが。
窓が少ねーから外の様子が分からん。わざわざ窓のある部屋まで行ってきた。
…外が完全に凍りついていた。門番まで凍ってやがった。今朝はやけに寒いと思ったんだ。
―――――――――――紅魔館:大広間――――――――――――
「…………さくやー、サーレー、紅茶はー?」
レミリアが引っ張り出してきたコタツに入ってジタバタしている。
パチュリーは暖炉の前で椅子に座ってウトウトしている。
フランの姿は見当たらないが、特徴的な羽がコタツから出ている。どうやらコタツの中にいるようだ。
「何回言ったら分かるんだ? 水道が凍ってるんだよ。そんなに茶がほしいなら茶葉でも食ってろ」
咲夜が原因を捜索しているので、サーレーは休憩中だ。
体が大きいためコタツに入れず、走って体を温めている。
「備蓄していた水があるでしょ? それを沸かしなさいよ」
「ビンなら全部同じに見えるか? あれは水じゃあねー、ワインだ。飲みたかったら飲んでろ」
かれこれ10分ほどこのやり取りが繰り返されている。
「電子レンジでもあればいいんだけどな…掃除機とかはあんのによ……」
実は紅魔館、結構電気製品が多い。香霖堂で咲夜が買ってきた発電機がある。
コタツも発電機によって稼働しているようだ。
サーレーが考えていると、ついさっきサーレーにあしらわれ、考え事をしていたレミリアが閃く。
「朝からワインってのもオツなんじゃないかしら。…サーレー、持ってきなさい」
「自分で行けよ吸血鬼」
レミリアの願いを断った直後、咲夜が扉を開けて入ってきた。
「一通り見てきて分かったわ…というか、思い当たる節が2つしかないわ」
「へぇ…その2つを聞かせてもらおうじゃない、咲夜」
妙にカリスマぶってらっしゃいますがコタツに入っています。お忘れなく。
「この付近には冷気を操るバカな妖精と、寒気を操る黒幕(笑)な妖怪がいます」
「それで決まりね!」
5つ数える間もなく決定されてしまった。
サーレーは思わず咲夜に駆け寄って突っ込む。
「早ッ。いや間違いなくそいつらなんだろうけども…
それはともかく寒気を操るってのと黒幕(笑)がよくわからん」
「えっとね、冷気は物を凍らせるとかだけど…寒気ってものは冬そのものなの」
「?」
完全に理解ができていない。どうみても頭の上にクエスチョンマークが浮いている。
「……つまり冬の効力を強めるってことよ。あと黒幕(笑)は黒幕(笑)よ」
「黒幕の説明は納得いかねーが、冬を強める…か。そりゃ有力だな。だが妖精のほうは…」
容疑者が1名に絞られ、もう1名に焦点を当てたところにコタツからもそっとフランが這い出てくる。
「チルノちゃんなら有力だとおもうよー」
「聞いてらしたんですね、妹様。…それで、チルノが有力な理由とは?」
コタツの上のミカンを手に取りながらフランが答える。
「チルノちゃんね、ちょっと前に遊びに行ったときに『もうあたいをバカにするやつなんかいないわ!』
…みたいなこと言って通りかかった魔理沙に弾幕ごっこを挑んだの」
「…死んだわね。死なないけど」
「それがね、あと一歩のところまで追いつめちゃったの。マスパ撃たれても氷の壁で耐えちゃったし
まあ…結局負けちゃったけどね」
フランは少し悲しそうな顔をし、咲夜は驚きの表情を隠せない。なにやら空気が変わった。
…しかし、その微妙な空気に一石を投じる猛者出現。
「魔理沙って誰だ?あとそのチルノとか言うヤツはそんなに弱いのか?」
「あなたは…私が考えをめぐらしている時に……まあいいわ。教えてあげる。
魔理沙は魔法使い。光とか熱とか…そういうスペカが多いわ。綺麗な弾幕撃つわよ。あと人間ね。
それから、チルノは冷気を操る妖精。妖精とは思えない強さだけど…頭の方があなたみたいだから。ね?」
サーレーは一瞬反応したが、すぐに抑える。もともと冷静に行動する人間なのだ。
「…なるほどな、熱と冷気じゃ差は歴然。にもかかわらず、あと一歩まで追いつめるほどの強化か…」
「…あ! あとね、『レティも一緒にやってくれる』って言ってたんだよ。だから……」
すこし暗い顔をしてから言葉を発する。
「だから……いままでバカにした奴らに目に物を見せてやるって」
「確信犯じゃねーか…しかしなんでここが氷漬けに…」
「お嬢様よ…きっと。ねえ、お嬢様」
3人がコタツの方をみるとレミリアがいない。しかし羽がはみ出ている。間違いなくコタツの中に隠れている。
咲夜がコタツに近寄り、中に手を突っ込む。するとレミリアが収穫できた。
…引き出されたあとも、話の流れで責任が自分にあると感じたのか、目を合わせようとせず視点が定まらない。
「お嬢様、お出かけになるときあの妖精に会うと散々罵倒してらっしゃいましたよね」
「うっ」
「多分あっちにとっても出会う頻度は高かった。…身近で最も憎いのはお嬢様だった筈です」
「ぐうっ」
「きっと最初の標的を…お嬢様にしているのだと思います」
結構キてる感じのレミリアに、これは好機とばかりにサーレーがとどめをさす。
「つまりこの騒動はお前のせいなんだな、バカ主」
するとレミリア、まさかの涙目。
「ううっ、そうよ。きっとそうよ。アイツなら真っ先に私を狙うわ。
…ごめんなさい。私のせいで迷惑をかけちゃって。サーレーは魂が危ないというのに…」
珍しく…いや、しおらしく謝るレミリアに逆に動揺する従者たち。
「! あ、いえいえ。大丈夫です。チルノ程度なら私たちでどうにかできます。気を落とさずに…」
「お前の謝罪を聞けて満足だぜ。ならいっちょ異変解決と行きますか、一応異変解決が契約に入ってるしな!」
2人で物珍しさに驚きつつも談笑しながら広間を出ていく。そして大広間に3人が残った。
「「…………」」
「計 画 通 り」
2人が出て行った途端、レミリアが某新世界の神的な表情を浮かべる。
「チョロいわね、私がそんなことでしおらしくするわけ無いじゃない。面白かったわぁ」
「お姉さま……」
みかんを食べながら、すっかりあきれ果てたところにふと思い出す。
「あ、言い忘れてた。チルノちゃんが言ってた…
―――――強くなる円盤の話」
―――――――――――紅魔館:エントランス――――――――――――
そのころエントランスには笑い声が響いていた。
「あんなお嬢様見たこと無いわ!いいもの見たわね、激レアよあれ」
「オレは勤めて少ししか経ってないが…あれは眼福だな!あのレミリアが…」
どうやら次に起こるであろう戦闘など忘れているようだ。
「はー、笑ったわ…っと、出るには扉の氷をどうにかしないといけないわね」
と言うといきなり、なにかこう…ロケットランチャーらしきものを手に出現させていた。
「…!? どっから出した? 対戦車ロケット弾とか…」
サーレーはあまりの驚きにツッコミが追いついていない。
「表にガラクタの山があったでしょ?あそこにこういうのがたくさんあったから…
地下の武器庫に保管しといたのよ」
「どうやって出現させたかは…まあいい。それより、お前の細腕で撃てるのか?」
サーレーの投げかけた疑問にふっと笑う咲夜。そしてロケランを彼に渡す。
「もちろんあなたが撃つのよ。使い方が分からないし。ああ、扉の修復は美鈴がやってくれるわ。」
「だと思ったぜ…ま、オレは撃った経験あるけどな」
エントランスの扉に照準を向け、十分に離れる。
「下がってろよ……ファイヤー!」
そして軍隊的掛け声でトリガーを一気に押しこむ。しかし一瞬、頭によぎる記憶。最悪の光景。
「あっ、オレのハーレー玄関前に置いといた気が…」
次の瞬間、着弾の爆風とともにエントランスは砕け散り、煙を巻き込みなだれ込む外の冷気と朝日。
そして…
「オレの愛車ァァァァアアアアアァアーーーーッ!!!!」
サーレーの悲痛な叫び。彼は膝から崩れ落ちた。
「…ご愁傷さまね、きっと新しい出会いがあるわ。乗りたかったけど、今回の移動は徒歩………え?」
咲夜が外の光景を見て思わず絶句する。
爆煙が冷気で飛ばされた今、恐ろしいほど澄んだ空気の中、泣き崩れたサーレーも目をしかめる。
「全部…『止まって』やがる…だと? …………あっ、オレのハーレー無事じゃん」
咲夜とサーレー、停止した世界を見た人間は、特にサーレーには不可解な光景だった。
おそらく昨夜のうちに降った雨粒が、雨で落ちたのだろう葉が、飛んできた鳥たちが、霧の湖から流れる霧が、風で巻き上げられた砂埃が、つい
でにロケランの爆撃から辛うじて逃れたハーレーも、すべて『止まっている』のだ。
「そんな…あなた以外にもこんなことできるヤツがまだいるの…?
…! いや、ちがうわサーレー! 時間停止じゃない! 周りの空気ごと凍っているのよ…!」
咲夜が凍りついた雨粒に手を寄せると、ぱりぱりという音と共に雨粒が落下する。
「さっきは気が付かなかったが…上から見たからか? しかし、空気ごと凍らせる?
…ん? いや待て、確かそんなようなスタンド使いを組織で聞いたことが…」
サーレーが記憶を探ろうとした矢先に強烈な冷気が2人に襲いかかる。
「う、お…おおお。凍る! くそッ、『クラフト・ワーク』ッ!」
その強烈な冷気に身の危険を感じ、とっさにスタンドを出そうとする。
「…………あ。今は無いんだったな、忘れてた」
間抜けにもそう言った途端紅魔館の壁の向こうへと隠れるサーレー。
「…役立たず」「うるせー、お前は既に隠れてたじゃあねーか」
2人が壁に隠れると冷気の波は止み、2つの人影が現れる。
「夫婦漫才は後にしてもらおうかしら」
一人が言う。
「あの高慢ちきなレミリアをだしなさい!」
もう1人も言う。
「……やっぱりあなたたちだったのね。復讐なんてあなたたちができると思っているの?…チルノに、レティ」
「レティはあたいに協力してくれてるだけ、復讐するのはあたいだけ。あんたたちのバカ主にね。
…あたいは『チカラ』を手に入れたの。だから復讐だってできるのよ」
チルノはその冷たい身体とは裏腹に、目は炎が燃えているかのように熱い。
「私は友達がバカにされ続ける所を見てきた。今度はあんたたちが凍りつくのよ」
レティもそれは同じのようだ。
会話を聞いていたサーレーは少し微妙な顔をしてから口を開く。
「こういう奴らが力を持つとロクなことにならねー、ってのは昔から決まってんだけどな…」
ため息交じりの言葉を聞いて、チルノはサーレーを睨みつけて言う。
「今日来たのは別にあんた達の親玉を氷漬けにするためだけじゃないわ。
…あんたにも用があるの、サーレー」
「! なんでオレの名前を知っているんだ? というか咲夜、全然バカっぽく見えないぞ」
「おかしいわね、いつもはただ向かってくるだけの奴なんだけど…雰囲気が違うわ」
バカという単語に敏感に反応しチルノが声を荒げる。
「バカって言うな! 今度は私があんた等をバカにしてやる番なんだ!」
冷たい頭に血を上らせたチルノが、凍結した空気を壊し氷弾を撃ち込んでくる。
「おい、バカ、やめ…まだ名前の件を聞いて無い……やめろ、待て!」
「またバカって言った…いいわ、氷漬けはやめてあげる。串刺しに変更よ!」
さらに怒りを増すチルノにあわせ、また一段と鋭さと弾速の上がる氷弾。
それを見てサーレーが大事なことを思い出す。
「(ハーレー…置きっぱなしじゃねーか?)」
サーレーは全力でハーレーが置いてあった方に眼を向けた、だがもう遅い。
丸太程の太さの氷弾は、氷漬けのハーレーを、サーレーの眼の前で貫こうとしていた。
「再びかァァァァアアアアァァアアーーーーッッ!!!!!!」
叫ぶサーレー、あろうことか丸太程の氷弾にタックルを仕掛けた。
氷弾の軌道は逸れてハーレーを掠り壁に突き刺さる。
サーレーは衝撃によって吹き飛ばされ、紅魔館内部の壁に叩きつけられる。
「ぐッ………うぐ…」
うめき声を上げながら、サーレーが地面に倒れる。
「あのバカ…そんなにあのバイクが大事だったの!? ……あれ?」
咲夜がナイフで反撃をしつつサーレーに目を向けた時、咲夜は奇妙なものを見る。
同時に意識が朦朧としていたサーレーも、それを体感していた。
途切れそうな意識をつなぎとめるに十分な衝撃と違和感。
「何だこれは…気持ち悪い…
…頭にあのCDが入ってきやがるだと…ッ!」
サーレーが体験し、咲夜が見ているもの。
それはサーレーが昨日拾ったCDのようなもの。
ポケットから飛び出したであろうそれが彼の頭にめり込んでいく様子だった。
「何? 勝手に自滅した? 」
少し不思議がりながらも勝ち誇った様子を見せるチルノ。
サーレーに起こっている事は、チルノからは壁になって見えていないようだ。
それは同時にサーレーからもチルノが見えないことも意味するが。
「まぁいいや、そろそろとどめにしちゃおうかな」
そう言ったチルノの周りに強力な冷気が集まり始める。
咲夜は見たことのない光景に目を奪われていて気付かない。
何と言っても人間の頭に円盤がズルリと入りこんでいくのだ。
「くらえ!『氷符「アイシクルマシンガン」』!!」
後ろを見ている咲夜に向かって二十ばかりの氷弾が撃ち込まれる。
咲夜が気付いた時には、とうに人間の反応速度では避けられない距離に迫っていた。
動揺が彼女の思考を致命的なまでに遅らせる。策など考え付くはずがない。
「あ…」
こんなところで、もう駄目だ。そんな考えが頭をよぎる。
甘く見た自分が、と思ってももう遅い。思わず目を瞑る。
「うあっ!」「うっ!」
悲鳴に驚いて目を開ける。今の悲鳴は自分では無い。
視界に入ったのは、自分に向けて放たれた氷弾がチルノの頭を掠り、後ろのレティを撃墜する光景だった。
「え!?」
そして何よりも驚いたのが、氷弾に掠り大きく振れたチルノの頭から先程サーレーに入ったのと同じであろう円盤が飛び出していたことだった。
「いてて…くそッ! あいつらオレの愛車に……どうした咲夜? マヌケ面して」
サーレーが不思議そうな顔をして背中と頭をさすりながら、口を開けたままの咲夜を見ている。
「いいえ………今の私では説明が付かないわ。それにあっちの一人は満身創痍みたいだし」
咲夜が指をさした方向には、全身に氷弾を受けぐったりしているレティがいた。
「倒したのか? さすがPA…メイド長じゃねーか。相手の弾幕を返して撃墜か、とんでもないな」
「…後で『懺悔』という言葉を胸に刻んであげるわ。弾幕返しはあなたもでしょ、それより」
ちら、と咲夜が上を見るのでサーレーも目をあげる。そこではチルノがこちらを睨んでいる。
ただ先程と違い、その雰囲気はとても子供っぽかった。
「なにするのよ! なにしたのよ! レティに手を出すなんて!」
「…なんかさっきまでの雰囲気が吹き飛んだな。オレが呻いてる間に何があったんだ?」
疑問を示しながらも、サーレーは何か他の違和感に意識が向いていた。
そう、自分の体の中に異物が入ったような…しかし欠けた半身が満たされたような、そんな感覚に。