天狗との戦闘をから少し経ち……。
ディアボロはマミゾウの提案に乗り、マミゾウも一緒にリラックスした状態で天狗を待っていた。
見張りがいなくなったせいで静かになっている今は、川辺に近寄りさえしなければ河童からも襲撃されないだろう。
「天狗がカメラを持ってくるまでどのくらいかかるのかい?」
「あまり時間はかからないとは思うが……」
そんな会話をしながら二人は天狗を待つ。
兎に角先ほどの天狗がカメラをもってこなければ、やるべきことが始まらないのだ。
だが、誰にも気づかれにくい今がチャンス。念写の準備をするためにイエローテンパランスによる変装を解除し、3枚のDISCをケースから取り出す。
その3枚をホルス神、ウェザーリポート、スタープラチナと入れ替える。
新しく装備されたDISCの内一枚は、お馴染のジャンピン・ジャック・フラッシュ。
念写の最中に奇襲を受けても、空中を飛べるようにすることで回避できる範囲を広くするつもりだ。
そして彼はすぐに再びイエローテンパランスを全身に纏い、再び変装し、天狗が戻ってくるのを待ちつづける。
それからまた少したって……。
「おや、戻って来たようじゃ」
マミゾウがそう言ったので山の方角を見ると、一体の天狗がこちらに向かって来る。
「……」
ディアボロは無言で向かってくる天狗の姿を見て、その天狗が『命令を書き込んだ天狗と同一の存在』であることを確認する。
天狗は無言でディアボロの側に着地すると、手に持っていたカメラを差し出す。
そのカメラをディアボロは受け取る……と同時にもう一度ヘブンズ・ドアーの能力を発動する。
そしてもう一文、命令を書き込む。
『今から一時間、ディアボロとマミゾウとカメラの存在を認知できなくなる』
この命令を書かれ、ヘブンズ・ドアーの能力を解除された天狗は、まるで何もなかったかのようにその場を去って行った。
ディアボロはそれを見届けた後、早速カメラを確認する、
「(……ポラロイドカメラで、フィルムはちゃんとあるな)」
確認を終えると、彼の両手からイエローテンパランスを離れさせ、スタンドを出す。
彼の両手に出されたのは、紫色の茨。
このスタンドの名前は『ハーミット・パープル』。そしてこのスタンドの本来の持ち主、その者の名は、『ジョセフ・ジョースター』。
青年期は波紋を使う戦士であり、吸血鬼をも餌とする生物である『柱の男』達と戦い勝利を収め、最終的には多くの幸運と偶然を伴いながらも究極の生物と化した柱の男の一人である『カーズ』を地球より放逐することに成功し、運よく生還する。
晩年は不動産王になっており、娘であるホリィ・ジョースターの命を救うべく、一族の宿命の根源である『ディオ・ブランドー』を殺すために承太郎達と共にエジプトへと向かう。
『ディオ・ブランド―』と対の存在である、一族の宿命の始まりの存在である『ジョナサン・ジョースター』の孫であり、ジョースター一族の中で確認できる限り最も長生きした人物でもある。
そしてその機転の利きは、例え彼が年をとっても衰えることはない。
ジョセフの使うスタンドである『ハーミット・パープル』は戦闘向きのスタンドではない。
だが、念写や念聴等の探知能力に優れているのが特徴だ。
カメラを用いた念写は勿論のこと、テレビを使って音声を繋ぐことで念聴を行ったり、地面にぶちまかれた灰を操って地図を作ることができる。
力は強くないが、探索に優れたこのスタンドは、ある意味で頭がよく回るジョセフ・ジョースターらしいスタンドである。
そのハーミット・パープルがカメラに巻きつくと、ディアボロは素手でぶち壊してもおかしくない勢いでカメラを叩いた。
周囲に響く物音にマミゾウは少し驚き
「……そうせぬと駄目なのかい?」
軽く引きながらディアボロに質問をした。
「これが一番やり易いからな」
ディアボロは現像された写真を手に取ってそう答えながら先ほど装備したもう一つのスタンドを出す。
スタープラチナやザ・ワールドと同様に人の形をしており、ところどころがハート型をしている。
このスタンドの名前は『クレイジー・ダイヤモンド』。本来の持ち主の名前は『東方仗助』。
杜王町という町に住んでいる高校生で、彼の最大の特徴は所謂『リーゼント』。
しかし、これは彼が不良だからではなく、幼い頃に助けられた人物の髪型がリーゼントであったため、その人物に憧れてその髪型にしているのだ。
故に、彼の髪型を馬鹿にすると、『憧れの人を馬鹿にした』と認識して激怒する。
そのせいで酷い目にあった者は少なくないが、決して彼は『悪人ではない』。少々特殊な血縁だが、彼もまたジョースター家の血筋を引く者なのである。
彼のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドは承太郎から『この世のどんなことよりも優しいスタンド』と評価されており、その理由はこのスタンドの能力にある。
近接パワー型であると同時に、そのスタンド能力により、物質、スタンド、生物の怪我などを『なおす』ことができるのだ。
但し、このスタンドでも『無』からなおすことは流石にできない。故に、ザ・ハンドやクリームといった、『削ってこの世から消滅させる』スタンドとは相性が悪い。
そして、これの応用で二つの物質を強引に融合することができる。
東方仗助はこの方法を使って『本と人間の融合』と、『岩と人間の融合』を行っている。
もっとも、融合された者は片や仗助の母や仲間を人質にとり、片や死刑執行をスタンドで乗り越えて脱走し、仗助の祖父を殺した殺人鬼と、犯した罪による『自業自得』と言えるのだが。
ディアボロに勢いよく叩かれた衝撃によるダメージをクレイジー・ダイヤモンドでなおす。
そうしながら、ポラロイドカメラより排出された写真を手に取る。
そして、クレイジー・ダイヤモンドによってカメラが『直された』のを確認すると、もう一度ハーミット・パープルを使って先ほどと同じやり方で念写を行う。
クレイジー・ダイヤモンドによって直されたポラロイドカメラは、再び現像された写真を排出する。
そして再びクレイジー・ダイヤモンドの能力でポラロイドカメラはなおされる。
それをもう一度繰り返し、ポラロイドカメラがなおされたところで、ディアボロとマミゾウは早速3枚の写真を確認する。
1枚目はある人物の全身を正面から写した写真。ヘッドホンのようなものを耳につけ、手には笏(しゃく)を持ち、帯剣している姿が写っている。
「『聖人』の姿を念写してみたが、マミゾウ、どう思う?」
「笏を持っておるから、古代の中国と交流があった時代以降の者だろうがのう……」
笏は6世紀に中国から伝来したと伝えられている。
日本では初めは朝廷の公事を行うときに、備忘のため式次第を笏紙という紙に書いて笏の裏に貼って用いていた。
現代で言うなら、カンニングペーパーを隠すためのものと表現するのが近いかもしれない。
後に重要な儀式や神事に際し、持つ人の威儀を正すために持つようになった。
笏を持っていることから、『聖人』は6世紀以降の人物であることが証明された。
だが、その容姿を知ることはできても神霊廟の位置に関する情報はまだ得られていない。
そこで二人は、二枚目の写真を見てみる。
「神霊廟を正面から念写した」
「中々立派じゃのう」
2枚目の写真は神霊廟を正面から写したもの。
思ったよりも大きい建物に、マミゾウは正直な感想を漏らす。
……だが、此処でディアボロに一つの疑問が浮かぶ。
「(確か、聖人が復活してから数日しかたっていないはずだが、どうやって『数日の間にこれだけ大きな建物を建てた』?それとも元からその場所にあったのか?)」
普通、建物を建てるのには数か月はかかる。
だが、写真に写っている神霊廟は、木造建築の山小屋などとは比べ物にならない大きさだった。
多くの人を24時間休みなしで動員しても、可能な限り手を抜いた欠陥住宅だとしても、たった数日でこれだけの大きさの建物ができるはずがない。
「(……どうなっている?)」
ディアボロは疑問を抱きつつも、3枚目の写真を見始める。
「神霊廟を中心に上空から周りの地形がわかる様に写してみたが……これは一体どうなっているんだ?」
さながら衛星写真のように撮影された3枚目の写真。
……しかし、そこには神霊廟と幻想郷を繋げる道が『なかった』。
「どうやら、神霊廟は別の空間に存在ようじゃ」
まるでそこだけ切り離されたかのような空間。それが神霊廟の存在する場所だったのだ。
「(これは予想外の展開だな)」
紫や白蓮の記憶を見て、『魔界』という、この世界とは違う世界の存在と、そこへの入口が存在していることは知っていた。
だが、この聖人も居住可能な異空間に移動ができるとは、ディアボロは微塵も思っていなかった。
そのため、「幻想郷のどこかにあるのだろう」と思っていた彼の予想を裏切る結果となった。
「流石に別の空間にあるとは予想外だな……」
「それだけ、『聖人』はかなりの実力の持ち主ということじゃろう」
「だが、別の空間にあるということはどこかにこちらと向こうを繋げる道があるということだ。だから4枚目でその道への『入口』を見つけ出す」
ディアボロはそう言うと、クレイジー・ダイヤモンドを出して……カメラをなおすのではなく、背後を振り向いた。
「興味があるのか?新聞記者」
「ええ、まだ知られていないネタならば特に」
振り向いた先には、射命丸がいた。
「それに、そのカメラは私の物ですから」
どうやら警備の天狗が持ってきたものは、射命丸のカメラだったらしい。
何故警備の天狗が射命丸のカメラを盗んできたのかというと……恐らく、『ポラロイドカメラを優先とし、』という一文のせいだろう。
新聞大会でもランキング外である彼女ならば、物一つ盗まれたところであまり騒ぎにならないと警備の天狗に思われたのかも知れない。
もしもその通りなら、そう思われた彼女がちょっと不憫である。
「まあ、写真に気を取られていても視線を感じ取れるほどこっちを見ていたからな……」
「分かっているなら、早く私のカメラを返してほしいわ」
射命丸は怒っていた。
新聞記者にとっては大事なカメラを盗まれて、犯人を捜していたら他の天狗が実行犯で、命令は二人の人物。
犯人を目前にして、すぐに攻撃を仕掛けたいところをどうにか抑えているのかもしれない。
「駄目だ。後2回は同じことをやらせろ」
「それってあと2回も私のカメラを本気で叩くんですよね」
射命丸の怒りのボルテージが上がったが、ディアボロもマミゾウもまったく気にしていない。
「ああ、そうしたほうが確実に決まるからな。安心しろ。傷なんてなかったことにして返すから」
ディアボロはそう言ってもう一度ハーミット・パープルを発動して、勢いよくカメラを叩く。
4枚目の写真が排出され、ディアボロはそれを手に取って確かめる。
マミゾウと、ついでに射命丸も近寄って一緒に見てみる。
「……これはなんじゃ?」
「『入口』に該当する場所を写してみようとしたが……本当にこれが入口か?」
「…………」
写真に写っているものについて3人とも考えるが、それ以上に重要なのは……。
「……あと一枚。写し出すのはあの入口と思われるものが『どのあたりにあるか』だ」
ディアボロはそう言いながらクレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そして、先ほどよりもハーミット・パープルに精神を集中させる。
大一番、ここでしくじるわけにはいかない。
精神を集中させたまま、全力でスタンドパワーをカメラに叩き込まれるッ!
カメラは叩かれた衝撃による音を発し、写真を排出する。
排出された写真には、その『入口』がどこにあるのか……それを示す場所が写されていた。
「これが……神霊廟へと続く入口のある場所か」
とは言っても、幻想郷に来てから間もないマミゾウには分からない。
ディアボロも幻想郷に来てから色々な場所へと行ってきたが、それらはあくまで紫の記憶にあった所謂『有名な場所』。
残念だが、無名の場所に関してはちっとも詳しくないのである。
となると、この3人の中で最も入口のある場所に心当たりがあるのは……。
「新聞記者。この写真に写っている場所に何か心当たりは?」
そう言ってディアボロが写真をよく見えるようにして見せると、射命丸はその写真を凝視し、少し考え始めた。
「…………」
射命丸には風の声が聴けるらしい。ついでに風の噂を掴むことも得意だそうだ。
それを知っているディアボロは静かにしており、マミゾウも特に話すことはないので静かにしていた。
……ひょっとすると、カメラが盗み出されたことに感づいた原因は、風から教えられたかも知れない。
「成程、そういうことですか……」
射命丸はそう言うと、二人が視界の中心に入る様に視線を向けて
「教えてあげてもいいですが、一つ条件があります」
「なんだ?カメラなら今返すぞ」
ディアボロはそう言いながら、クレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そしてカメラを射命丸に差し出すと、彼女はそのカメラを分捕ってカメラを確かめる。
ディアボロが何回も勢いよく叩いたのは紛れもない事実なのだが、叩くたびに1回1回クレイジー・ダイヤモンドでなおしたために傷や損壊は存在しない。
……寧ろなおされたことで盗まれる前よりもよくなっているかもしれないが、この3人は全員『カメラの内部を見てはいない』ので、そこに関してはわからない。
「カメラを盗ませて勝手に使ったの許してあげますが、私のフィルムを勝手に使った弁償として、取材を手伝ってもらいます」
厳しい表情のまま、射命丸は二人にその条件を提示した。
彼女が提示した条件が緩いのは、恐らくディアボロの念写のおかげで、新たな取材先の場所を知ったからだ。
加えて、そこの情報はまだ他の天狗には手を付けられていない。だとすれば、スクープの数は計り知れない。
他の天狗がそこに手を付ける前に、得られる情報は根こそぎいただくつもりだろう。
……もしもカメラを使う理由が違ったら、彼女は攻撃してきたかもしれない。
「成程、勝手にカメラのフィルムを使ったのだからそれ相応の対価を労働で払ってもらおうというわけか」
ディアボロはそう言っているが、彼はその言動の裏にある予感を感じていた。
「(……こいつ、いざとなったら俺たちを捨て駒にでもするつもりか?)」
真偽は不明。だがやりかねない。
だがこちらも、彼女と共に行動することで情報を集めやすくなるし、いざとなったら彼女を囮にすることができる。
それに加えて、後でそれを責めに来てもヘブンズ・ドアーやホワイトスネイクを使ってその記憶を消去できる。
ディアボロとマミゾウにとっても、この提案を拒否する理由はない。
「……分かった。お前もそれでいいか?」
ディアボロはそう言ってマミゾウの方を見ると、彼女は面白そうだといいたそうな表情をしていた。
「うむ。儂もそれで構わんぞい」
「決定ね。それでは早速行きましょう」
「準備はしなくてもいいのか?」
マミゾウが了承したのを聞き、早速現場に向かおうとする射命丸にディアボロが質問をする。
取材を行うというのなら、受けた者の発言内容を記録するメモぐらいは追加で必要である。
「カメラは貴方達が持っていたし、新聞記者として手帳は常備しています」
文がそう言って懐から取り出して見せたのは、文花帖という名の手帳。
彼女にとってカメラと同じぐらい大事な物であり、この手帳には彼女が撮った写真や、情報を記したメモが保管されている。
「それじゃあ、今度こそ行きましょう」
射命丸はそう言って飛び立つ。
そのスピードは、後ろに二人を連れていくためか、彼女にしては珍しく遅いほうである。
マミゾウも飛び立ってその後についていき、先にジャンピン・ジャック・フラッシュを装備していたことが幸いして、ディアボロも遅れることく二人の後に続いて飛び立つ。
こうして、偶然にも新たに射命丸を加えることになったディアボロとマミゾウは、神霊廟目指して飛んでいく。
情報収集に正当性を持たせられるようになったのはよいが、はたして射命丸が加わったことで事態はどうかき乱されることになりうるのか……。
それは3人の内誰にも分からないのであった。
ディアボロはマミゾウの提案に乗り、マミゾウも一緒にリラックスした状態で天狗を待っていた。
見張りがいなくなったせいで静かになっている今は、川辺に近寄りさえしなければ河童からも襲撃されないだろう。
「天狗がカメラを持ってくるまでどのくらいかかるのかい?」
「あまり時間はかからないとは思うが……」
そんな会話をしながら二人は天狗を待つ。
兎に角先ほどの天狗がカメラをもってこなければ、やるべきことが始まらないのだ。
だが、誰にも気づかれにくい今がチャンス。念写の準備をするためにイエローテンパランスによる変装を解除し、3枚のDISCをケースから取り出す。
その3枚をホルス神、ウェザーリポート、スタープラチナと入れ替える。
新しく装備されたDISCの内一枚は、お馴染のジャンピン・ジャック・フラッシュ。
念写の最中に奇襲を受けても、空中を飛べるようにすることで回避できる範囲を広くするつもりだ。
そして彼はすぐに再びイエローテンパランスを全身に纏い、再び変装し、天狗が戻ってくるのを待ちつづける。
それからまた少したって……。
「おや、戻って来たようじゃ」
マミゾウがそう言ったので山の方角を見ると、一体の天狗がこちらに向かって来る。
「……」
ディアボロは無言で向かってくる天狗の姿を見て、その天狗が『命令を書き込んだ天狗と同一の存在』であることを確認する。
天狗は無言でディアボロの側に着地すると、手に持っていたカメラを差し出す。
そのカメラをディアボロは受け取る……と同時にもう一度ヘブンズ・ドアーの能力を発動する。
そしてもう一文、命令を書き込む。
『今から一時間、ディアボロとマミゾウとカメラの存在を認知できなくなる』
この命令を書かれ、ヘブンズ・ドアーの能力を解除された天狗は、まるで何もなかったかのようにその場を去って行った。
ディアボロはそれを見届けた後、早速カメラを確認する、
「(……ポラロイドカメラで、フィルムはちゃんとあるな)」
確認を終えると、彼の両手からイエローテンパランスを離れさせ、スタンドを出す。
彼の両手に出されたのは、紫色の茨。
このスタンドの名前は『ハーミット・パープル』。そしてこのスタンドの本来の持ち主、その者の名は、『ジョセフ・ジョースター』。
青年期は波紋を使う戦士であり、吸血鬼をも餌とする生物である『柱の男』達と戦い勝利を収め、最終的には多くの幸運と偶然を伴いながらも究極の生物と化した柱の男の一人である『カーズ』を地球より放逐することに成功し、運よく生還する。
晩年は不動産王になっており、娘であるホリィ・ジョースターの命を救うべく、一族の宿命の根源である『ディオ・ブランドー』を殺すために承太郎達と共にエジプトへと向かう。
『ディオ・ブランド―』と対の存在である、一族の宿命の始まりの存在である『ジョナサン・ジョースター』の孫であり、ジョースター一族の中で確認できる限り最も長生きした人物でもある。
そしてその機転の利きは、例え彼が年をとっても衰えることはない。
ジョセフの使うスタンドである『ハーミット・パープル』は戦闘向きのスタンドではない。
だが、念写や念聴等の探知能力に優れているのが特徴だ。
カメラを用いた念写は勿論のこと、テレビを使って音声を繋ぐことで念聴を行ったり、地面にぶちまかれた灰を操って地図を作ることができる。
力は強くないが、探索に優れたこのスタンドは、ある意味で頭がよく回るジョセフ・ジョースターらしいスタンドである。
そのハーミット・パープルがカメラに巻きつくと、ディアボロは素手でぶち壊してもおかしくない勢いでカメラを叩いた。
周囲に響く物音にマミゾウは少し驚き
「……そうせぬと駄目なのかい?」
軽く引きながらディアボロに質問をした。
「これが一番やり易いからな」
ディアボロは現像された写真を手に取ってそう答えながら先ほど装備したもう一つのスタンドを出す。
スタープラチナやザ・ワールドと同様に人の形をしており、ところどころがハート型をしている。
このスタンドの名前は『クレイジー・ダイヤモンド』。本来の持ち主の名前は『東方仗助』。
杜王町という町に住んでいる高校生で、彼の最大の特徴は所謂『リーゼント』。
しかし、これは彼が不良だからではなく、幼い頃に助けられた人物の髪型がリーゼントであったため、その人物に憧れてその髪型にしているのだ。
故に、彼の髪型を馬鹿にすると、『憧れの人を馬鹿にした』と認識して激怒する。
そのせいで酷い目にあった者は少なくないが、決して彼は『悪人ではない』。少々特殊な血縁だが、彼もまたジョースター家の血筋を引く者なのである。
彼のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドは承太郎から『この世のどんなことよりも優しいスタンド』と評価されており、その理由はこのスタンドの能力にある。
近接パワー型であると同時に、そのスタンド能力により、物質、スタンド、生物の怪我などを『なおす』ことができるのだ。
但し、このスタンドでも『無』からなおすことは流石にできない。故に、ザ・ハンドやクリームといった、『削ってこの世から消滅させる』スタンドとは相性が悪い。
そして、これの応用で二つの物質を強引に融合することができる。
東方仗助はこの方法を使って『本と人間の融合』と、『岩と人間の融合』を行っている。
もっとも、融合された者は片や仗助の母や仲間を人質にとり、片や死刑執行をスタンドで乗り越えて脱走し、仗助の祖父を殺した殺人鬼と、犯した罪による『自業自得』と言えるのだが。
ディアボロに勢いよく叩かれた衝撃によるダメージをクレイジー・ダイヤモンドでなおす。
そうしながら、ポラロイドカメラより排出された写真を手に取る。
そして、クレイジー・ダイヤモンドによってカメラが『直された』のを確認すると、もう一度ハーミット・パープルを使って先ほどと同じやり方で念写を行う。
クレイジー・ダイヤモンドによって直されたポラロイドカメラは、再び現像された写真を排出する。
そして再びクレイジー・ダイヤモンドの能力でポラロイドカメラはなおされる。
それをもう一度繰り返し、ポラロイドカメラがなおされたところで、ディアボロとマミゾウは早速3枚の写真を確認する。
1枚目はある人物の全身を正面から写した写真。ヘッドホンのようなものを耳につけ、手には笏(しゃく)を持ち、帯剣している姿が写っている。
「『聖人』の姿を念写してみたが、マミゾウ、どう思う?」
「笏を持っておるから、古代の中国と交流があった時代以降の者だろうがのう……」
笏は6世紀に中国から伝来したと伝えられている。
日本では初めは朝廷の公事を行うときに、備忘のため式次第を笏紙という紙に書いて笏の裏に貼って用いていた。
現代で言うなら、カンニングペーパーを隠すためのものと表現するのが近いかもしれない。
後に重要な儀式や神事に際し、持つ人の威儀を正すために持つようになった。
笏を持っていることから、『聖人』は6世紀以降の人物であることが証明された。
だが、その容姿を知ることはできても神霊廟の位置に関する情報はまだ得られていない。
そこで二人は、二枚目の写真を見てみる。
「神霊廟を正面から念写した」
「中々立派じゃのう」
2枚目の写真は神霊廟を正面から写したもの。
思ったよりも大きい建物に、マミゾウは正直な感想を漏らす。
……だが、此処でディアボロに一つの疑問が浮かぶ。
「(確か、聖人が復活してから数日しかたっていないはずだが、どうやって『数日の間にこれだけ大きな建物を建てた』?それとも元からその場所にあったのか?)」
普通、建物を建てるのには数か月はかかる。
だが、写真に写っている神霊廟は、木造建築の山小屋などとは比べ物にならない大きさだった。
多くの人を24時間休みなしで動員しても、可能な限り手を抜いた欠陥住宅だとしても、たった数日でこれだけの大きさの建物ができるはずがない。
「(……どうなっている?)」
ディアボロは疑問を抱きつつも、3枚目の写真を見始める。
「神霊廟を中心に上空から周りの地形がわかる様に写してみたが……これは一体どうなっているんだ?」
さながら衛星写真のように撮影された3枚目の写真。
……しかし、そこには神霊廟と幻想郷を繋げる道が『なかった』。
「どうやら、神霊廟は別の空間に存在ようじゃ」
まるでそこだけ切り離されたかのような空間。それが神霊廟の存在する場所だったのだ。
「(これは予想外の展開だな)」
紫や白蓮の記憶を見て、『魔界』という、この世界とは違う世界の存在と、そこへの入口が存在していることは知っていた。
だが、この聖人も居住可能な異空間に移動ができるとは、ディアボロは微塵も思っていなかった。
そのため、「幻想郷のどこかにあるのだろう」と思っていた彼の予想を裏切る結果となった。
「流石に別の空間にあるとは予想外だな……」
「それだけ、『聖人』はかなりの実力の持ち主ということじゃろう」
「だが、別の空間にあるということはどこかにこちらと向こうを繋げる道があるということだ。だから4枚目でその道への『入口』を見つけ出す」
ディアボロはそう言うと、クレイジー・ダイヤモンドを出して……カメラをなおすのではなく、背後を振り向いた。
「興味があるのか?新聞記者」
「ええ、まだ知られていないネタならば特に」
振り向いた先には、射命丸がいた。
「それに、そのカメラは私の物ですから」
どうやら警備の天狗が持ってきたものは、射命丸のカメラだったらしい。
何故警備の天狗が射命丸のカメラを盗んできたのかというと……恐らく、『ポラロイドカメラを優先とし、』という一文のせいだろう。
新聞大会でもランキング外である彼女ならば、物一つ盗まれたところであまり騒ぎにならないと警備の天狗に思われたのかも知れない。
もしもその通りなら、そう思われた彼女がちょっと不憫である。
「まあ、写真に気を取られていても視線を感じ取れるほどこっちを見ていたからな……」
「分かっているなら、早く私のカメラを返してほしいわ」
射命丸は怒っていた。
新聞記者にとっては大事なカメラを盗まれて、犯人を捜していたら他の天狗が実行犯で、命令は二人の人物。
犯人を目前にして、すぐに攻撃を仕掛けたいところをどうにか抑えているのかもしれない。
「駄目だ。後2回は同じことをやらせろ」
「それってあと2回も私のカメラを本気で叩くんですよね」
射命丸の怒りのボルテージが上がったが、ディアボロもマミゾウもまったく気にしていない。
「ああ、そうしたほうが確実に決まるからな。安心しろ。傷なんてなかったことにして返すから」
ディアボロはそう言ってもう一度ハーミット・パープルを発動して、勢いよくカメラを叩く。
4枚目の写真が排出され、ディアボロはそれを手に取って確かめる。
マミゾウと、ついでに射命丸も近寄って一緒に見てみる。
「……これはなんじゃ?」
「『入口』に該当する場所を写してみようとしたが……本当にこれが入口か?」
「…………」
写真に写っているものについて3人とも考えるが、それ以上に重要なのは……。
「……あと一枚。写し出すのはあの入口と思われるものが『どのあたりにあるか』だ」
ディアボロはそう言いながらクレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そして、先ほどよりもハーミット・パープルに精神を集中させる。
大一番、ここでしくじるわけにはいかない。
精神を集中させたまま、全力でスタンドパワーをカメラに叩き込まれるッ!
カメラは叩かれた衝撃による音を発し、写真を排出する。
排出された写真には、その『入口』がどこにあるのか……それを示す場所が写されていた。
「これが……神霊廟へと続く入口のある場所か」
とは言っても、幻想郷に来てから間もないマミゾウには分からない。
ディアボロも幻想郷に来てから色々な場所へと行ってきたが、それらはあくまで紫の記憶にあった所謂『有名な場所』。
残念だが、無名の場所に関してはちっとも詳しくないのである。
となると、この3人の中で最も入口のある場所に心当たりがあるのは……。
「新聞記者。この写真に写っている場所に何か心当たりは?」
そう言ってディアボロが写真をよく見えるようにして見せると、射命丸はその写真を凝視し、少し考え始めた。
「…………」
射命丸には風の声が聴けるらしい。ついでに風の噂を掴むことも得意だそうだ。
それを知っているディアボロは静かにしており、マミゾウも特に話すことはないので静かにしていた。
……ひょっとすると、カメラが盗み出されたことに感づいた原因は、風から教えられたかも知れない。
「成程、そういうことですか……」
射命丸はそう言うと、二人が視界の中心に入る様に視線を向けて
「教えてあげてもいいですが、一つ条件があります」
「なんだ?カメラなら今返すぞ」
ディアボロはそう言いながら、クレイジー・ダイヤモンドでカメラをなおす。
そしてカメラを射命丸に差し出すと、彼女はそのカメラを分捕ってカメラを確かめる。
ディアボロが何回も勢いよく叩いたのは紛れもない事実なのだが、叩くたびに1回1回クレイジー・ダイヤモンドでなおしたために傷や損壊は存在しない。
……寧ろなおされたことで盗まれる前よりもよくなっているかもしれないが、この3人は全員『カメラの内部を見てはいない』ので、そこに関してはわからない。
「カメラを盗ませて勝手に使ったの許してあげますが、私のフィルムを勝手に使った弁償として、取材を手伝ってもらいます」
厳しい表情のまま、射命丸は二人にその条件を提示した。
彼女が提示した条件が緩いのは、恐らくディアボロの念写のおかげで、新たな取材先の場所を知ったからだ。
加えて、そこの情報はまだ他の天狗には手を付けられていない。だとすれば、スクープの数は計り知れない。
他の天狗がそこに手を付ける前に、得られる情報は根こそぎいただくつもりだろう。
……もしもカメラを使う理由が違ったら、彼女は攻撃してきたかもしれない。
「成程、勝手にカメラのフィルムを使ったのだからそれ相応の対価を労働で払ってもらおうというわけか」
ディアボロはそう言っているが、彼はその言動の裏にある予感を感じていた。
「(……こいつ、いざとなったら俺たちを捨て駒にでもするつもりか?)」
真偽は不明。だがやりかねない。
だがこちらも、彼女と共に行動することで情報を集めやすくなるし、いざとなったら彼女を囮にすることができる。
それに加えて、後でそれを責めに来てもヘブンズ・ドアーやホワイトスネイクを使ってその記憶を消去できる。
ディアボロとマミゾウにとっても、この提案を拒否する理由はない。
「……分かった。お前もそれでいいか?」
ディアボロはそう言ってマミゾウの方を見ると、彼女は面白そうだといいたそうな表情をしていた。
「うむ。儂もそれで構わんぞい」
「決定ね。それでは早速行きましょう」
「準備はしなくてもいいのか?」
マミゾウが了承したのを聞き、早速現場に向かおうとする射命丸にディアボロが質問をする。
取材を行うというのなら、受けた者の発言内容を記録するメモぐらいは追加で必要である。
「カメラは貴方達が持っていたし、新聞記者として手帳は常備しています」
文がそう言って懐から取り出して見せたのは、文花帖という名の手帳。
彼女にとってカメラと同じぐらい大事な物であり、この手帳には彼女が撮った写真や、情報を記したメモが保管されている。
「それじゃあ、今度こそ行きましょう」
射命丸はそう言って飛び立つ。
そのスピードは、後ろに二人を連れていくためか、彼女にしては珍しく遅いほうである。
マミゾウも飛び立ってその後についていき、先にジャンピン・ジャック・フラッシュを装備していたことが幸いして、ディアボロも遅れることく二人の後に続いて飛び立つ。
こうして、偶然にも新たに射命丸を加えることになったディアボロとマミゾウは、神霊廟目指して飛んでいく。
情報収集に正当性を持たせられるようになったのはよいが、はたして射命丸が加わったことで事態はどうかき乱されることになりうるのか……。
それは3人の内誰にも分からないのであった。