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幻想郷の奇妙な物語 第一話

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shinatuki

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 幻想郷マヨヒガ……そこはいつもと変わらぬ日常があった。
 そう、昼になっても起きてこない主を式が起こしに行く、そこまでは何ら変わりない日常の風景だった。
 しかし、それも彼女の一言がきっかけで崩れ去った。ああ、その一言を悔やんでももう遅い。賽は投げられた、覆水盆に返らず。物語は始まってしまった。

「紫様、起きてください。朝食を通り越してもう昼食の時間になってしまいました。このままでは間食の時間になってしまいますよ」

 大きく触り心地がよさそうな狐の尻尾を持った女性が静々と布団の主に声をかける。始めは優しくゆっくりと体を揺らす、だがそれも一秒も経たずして激しく揺さぶり始めた。

「んー、あと10時間寝かせてー」

 心地よい布団の中から引きずり出そうとする不届き者の手を払い、頭から布団をかぶりとんでもない事を言ってしまう主に起こそうとしていた者は溜息を漏らすものの揺らす手は緩めない。
 あと10時間も眠らせろという訳の分からない寝言は聞き飽きているのだろうか、布団の主を揺する手は緩まない、いやむしろいっそう激しくなっている。
 布団の主は煩わしそうに顔をひょっこりと出した。その表情はまるで幼子のように頬をぷぅっと膨らませ、あからさまに拗ねているのが見て取れた。

「年甲斐もなく見っとも無い……」
「なッ!? 藍! ひどい、誰が年増よ!」
「あーはいはい、分かりましたから起きて下さいね」

 最早相手にする気すらないだろう、布団の主が何か言っても藍は投げやりに言葉を返すだけだった。それに不満なのが布団の主こと八雲紫、未だ布団を被ったままより一層頬を膨らませる。

「ぶー、小さい頃は毎日私の布団にいつも潜り込んでいたのに……」
「年を考えてください、年を」

 呆れたように溜息をつく藍であった。ここで注意しなければならないのは彼女の言葉の真意である。
 年を考えろというのはあくまでも彼女自身、八雲藍の年を考えろ、もう子供ではないとの意味で言ったのであり、決して主である紫に対して、年を考えろくそばばぁ、加齢臭がする布団に誰が入るかという意味で言ったのではない。
 しかし、紫自身は前者の意味で捉えた訳ではない。そう、あろう事か後者に近い意味で受け取ってしまったのだ。まさか己の式がそのような事を言うとは露ほども思っていなかった紫は上半身を起こし、目を丸くして藍の顔を見た。
 一方の藍はと言えば突然上半身を起こし、目を丸くしている目の前の主を奇妙な目で見ていた。それもその筈である。彼女は別段変わったことをしていないのに目を丸くして驚いているのだから。
 突然どうしたのかと藍が口を開こうとするより先に紫が言葉を発した。

「い、今何て言ったのかしら?」
「は? えーと、年を考えろと言ったのですが……」

 首を傾げながらそれがどうしたのかと問う藍の姿から紫は違う意味を邪推してしまった。紫にとってそれはボケましたかと言っている様に聞こえたのだ。

「藍! 主に向かってそんな口を聞く子に育てた覚えはないわ!」

 今度は藍が目を丸くして驚く番だ。突然怒り出した紫の姿に戸惑うしかない。

「いきなりどうしたのですか?」
「とぼけないで! 私の耳はまだ遠くなっていないわ」

 話が噛み合わない。ここで問答をしても仕方がないと、取りあえず主を布団から引きずり出すことにした藍は未だ声を荒げる紫を諌めながら昼食、紫にとっては朝食を取るように促そうとした。

「分かりました。紫様、申し訳ございませんでした」

 怒りを静めるため頭を下げる藍。その姿に紫も仕方がないわねと上げた拳を下げようとするのであった。
「さぁ、ば…早く食事を取りましょう、今日も良い日和ですよ」

 再び注意しなければならないのは彼女が紫に向けた言葉の中でどもってしまった言葉、『ば…』の後に続く言葉だ。一体何を言わんとしたのか。
 もうお分かりだろう、『馬鹿なことを言っていないで』、そう藍は言おうとしていたのだが、主に向かって馬鹿などと言えるはずがない。
 いや例え言うべき場合であっても理由が分からずとも彼女の言動が主である紫の怒りを買っているのだ。
 もしそのまま『馬鹿』と言う言葉を投げ掛けてしまったらもはや収集が着かなくなるかも知れない。
 八雲藍は八雲紫に最大限の敬意を払っているのだ。理由が分からずとも叱られているのだからそれに従うのが良き式である、そう考えているからこそ言葉を途中で飲み込んだのだ。
 結局はそれが悪い方向へ転んだ。ただそれだけの話である。
 紫からすれば『ば…』と言う言葉の後に付く言葉は『ばばあ』としか思えなかった。それもその筈である、その前後の会話から彼女が気にしている単語がチラホラ聞こえたのだ。
『年甲斐も無く』『年を考えろ』次いで思いつく『ば』の付く言葉は『ばばあ』しかないのだ。
 上げた拳を下げた紫、但しその勢いは射命丸の如く速い。振り下ろした先にあるのは藍の頭であった。
 拳骨を喰らってしまった藍からして見れば理不尽な話である。訳も分からず、それこそ頭さえ下げたと言うのに何故仕置きをされなければならないのか。
 痛みの余り涙目になり、頭を抑えながらも思わず紫を睨んでしまった。
 たとえ式で在ろうとも一つの個性を持った存在である。喜び怒り、泣いたりするのだ。当然主にだって文句の一つや二つ持っていたりする。
 それもそのはず、紫の破天荒な所業に散々振り回されたり、彼女の尻拭いや家事雑用をこなしたりしてきたのだ。色々と鬱憤が溜まるのだ。
 それでも藍が紫の言に従うのはその行為に何らかの理由があるのだ。例えばそれが自分勝手なものだとしても理由にはなる。勝手だが納得は出来るのだ。
 だからこそ彼女は紫に従っているのだ。それなのにどうだろうかこの所業は。全く持って理解できないのだ。
 一体何故理不尽に暴力を受けねばならないのか。いつもどおりに主である紫を起こしていただけなのに。
 藍の胸の中に沸々と怒りが湧いて出た。今まで溜め込んできたものもありそれは直ぐに沸点を越え、爆発してしまった。それはもう涙を流しながら……。
 彼女は泣きながらも強い口調で訴えた。自分がどのような思いで紫に仕えてきたのか、それなのにこの仕打ちは余りに酷すぎると。

「泣いたって無駄ぁ!」

 しかし怒りの沸点を迎えていたのは紫も同じだ。
 ただ彼女は一度怒りを拳に込めて吐き出していたのだ。我を完全に忘れることは無い。それでもいささか冷静さを失っていることに変わりないが。
 彼女は藍を説き伏せるようにいうのだ。自分がどのような思いで藍を育ててきたのか。そして式とはどのように主に接すべきかを。
 だが残念なことに彼女達は論点が噛み合っていないことに気付けないでいたのだ。
 段々と互いにヒートアップして行き、そこから先はただの痴話喧嘩に等しかった。
 そしてその時、マヨヒガは動いた。

 誰しも喧嘩をしている時にはその口から思いもしない言葉が飛び出るものだ。誰しもその事をすぐに後悔するのだが相手にとっては深い心の傷を負わせてしまうことになるのだ。
 それを言ったのは八雲藍、彼女であった。

「失せろクソババァ! 顔も見たくない!」

 そう言ってから思わず藍は口を押さえた。自分が言った言葉で我に返ったが時はすでに遅し。
 目の前の紫は絶望した様な表情で固まっているのだ。

「ゆ、紫様! あの、これは……」

 思わず声が裏返ってしまった。それでも藍は紫に必死に弁解しようと試みた。紫は慌てる藍を手で制止しながらゆっくりと言葉を紡いだ。

「いいのよ、藍。そうよね……こんなおばあちゃんの顔なんて見たくはないわよね?」
「違います! 紫様ぁ!」

 スキマに身を投じようとする紫を慌てて引き止めようとする藍は紫の腕を掴んだ。だが紫は彼女の手を優しく解くとスキマの中に完全に消えていった。
 紫の部屋の中に藍が一人取り残されてしまった。己の言動を激しく後悔していた。
 もしかしたら『今のは冗談よ♪』と言いながらスキマからひょっこり現れるのでないか。そんな事を考えながら一時間ほどその場に立ち尽くしていた。
 しかしそのような兆候は微塵も感じられない。自分の言動を真に受け、二度と姿を現せないのではないかと言う考えすら藍の中に浮かんでくる。
 それは余りにも悲しすぎる。考えたくは無かったがその考えが否定できない。

「ゆかりさまー!」

 涙を堪えることは出来ない。まだほんの少し温もりが残る布団に伏せ子供のように泣いてしまった。
 彼女の涙は止まらない。何故なら布団に残る香りが藍の紫に対する思いをより一層強くしていくからだ。

「ゆかりさま……いいにおい」

 気が付けば泣き疲れたのかそのまま紫の布団の上で寝てしまう藍の姿があった。
 一方の紫はといえば、こちらも傷ついていた。彼女は傷ついた心を癒すべく外の世界へ旅に出たのである。

「砂漠……ふふ、この広大な景色に比べたら私の心の傷なんてちっぽけなものね」

 紫がいるのは日本ではない。海を越えエジプトまでやって来たのだ。

「憂さ晴らしに盗掘でもしようかしら?」

 陽の沈む方角は『死者の都(ネクロポリス)』、王家の谷や女王葬祭殿。
 日の昇る方角には古代エジプト最大の神殿、カルナック神殿があるこの地はルクソール。
 この地には未だ発掘がされていない古代エジプトの墳墓が幾つも存在すると言われている。

「幻想郷にピラミッドがあると面白いかもしれないわね」

 とんでもない発言をするあたり紫は精神的に参っているのかもしれない。その哀愁漂う儚げな表情は、観光客はおろか現地人の目を引く物であった。
 雰囲気と相まってその紫の容姿である。妙齢の女性が悲しげな表情で道を散策していれば誰もが声をかけたくなるものである。
 しかし紫は10人に聞いたら7人は美女と答える(残り二人は美少女と答えました。一人足りない?そこはお察し下さい)ほど美しい。ただの好奇心から声をかけることなど憚られるものだ。
 誰もが気後れして紫に声をかけることができず遠巻きにその儚げな姿を見守ることしか出来なかったが、勇気ある男がついに彼女を呼び止めた。

「おいそこのあんた」
「あら? ナンパ屋さんかしら」

 紫が振り向いた先にいたのは大柄な青年、いや少年と言うべきか。

「ふーん、まぁ合格ね。何処かへ連れて行ってくれるのかしら、ナンパ屋さん?」

 紫が彼の顔を見るには見上げるしかない。見上げたままその少年の顔を値踏みするようにじろじろと眺め、そしてニコリと微笑んだ。

「悪いがナンパじゃない。人を探しているんだ。この辺でフランス人の男を見なかったか?」
「私に声をかけた男はあなたぐらいよ。でもどうして私に聞くのかしら。そこら辺にいる人間に聞けばいいのに……やっぱりナンパ屋さんね」

 大きな少年は被っていた帽子を深く被りなおすと舌打ちをした。

「だからナンパじゃないと……オレはそのフランス人の男ならあんたみたいな美人に声でもかけていると思ったから聞いたのだ」

 紫の表情が見る見るうちに明るくなった。

「今美人だっていったわよね、美人さんって。うふふ、うれしいけど少し違うわ。美少女だからね? 次は間違えないように。ねぇ、ところであなた、お名前は? 齢は幾つ?」
「……空条承太郎だ……年は17…」
「まぁ、承太郎くん。お名前からして私と同じ日本から来たのね。それにしても17歳、同い年じゃない! 私の事はゆかりんでいいわよ」
「ゆ、ゆかりんだと?」
「うふふ、そうよ、可愛いでしょう」

 承太郎に向けてウィンクをする紫だった。ただ彼はそれに全く動じることはなかった。

「17歳……とてもそうとは思えねぇな。それにあんた、その仕草は似合ってないぜ」
「ひ、ひどいわ。お姉さんあなたをそんな子に育てた覚えはないわよ」

 ハンカチを噛み締め泣き真似をする紫に承太郎は付き合っていられないと言わんばかりにその場を後にしようとする。

「やれやれ、ちょっとお喋りが過ぎたようだ。じゃあな」
「あらもう行ってしまうの。お姉さん悲しいわ」

 そういいつつも紫は承太郎の腕がしりと掴んだ。

「何の真似だ?」
「腕を組んでいるのだけど」
「放せこの女(アマ)ッ!」

 承太郎は紫を引きはなそうと試み、腕を軽く振ったが振りほどけなかった。無理やりにでも引き離そうとしたが、ふと気付いた。
 今、彼と彼女がいるのは天下の往来だ。それも有名な観光地だ。幾重もの人が往来する場所である。そして周囲の人間から見れば美男美女のカップルにしか見えない二人、当然人の目も引く。
 強硬手段に承太郎が出れないのは明白だった。
 そう思えば紫の微笑がとても胡散臭いものに感じられる。そう、紫は承太郎が乱暴を働くはずがないと確信していたのだ。
 紫は承太郎の心情を知ってかしら知らずか、急に物悲しい顔付きをするのだった。

「お姉さんちょっと悲しいことがあったのよ。承太郎くんに慰めて欲しいわ」
「……チッ…」

 舌打ちだけが承太郎にできる唯一の抵抗だった。腕に紫をくっ付けたまま歩み始めた承太郎、その歩幅を紫に合わせて。
 ゆっくりと歩きながら承太郎は紫を警戒していた。彼女の目的が何か計り知れないでいた。承太郎が視線を落とし紫の表情を窺っては見るものの相変わらず胡散臭い微笑を携えて承太郎を見上げていた。

「私はただあなたとデートがしてみたかっただけよ?」

 紫の己が胸の内を見透かしたような言動にますます警戒心を強める承太郎。だが紫のそれは本心だった。

「承太郎くんそんなに強張ってどうしたの。あ、もしかして腕に私のおっぱいが当たって……」
「うるせぇ! 黙ってろ!」
「まぁ怖い」

 傍から見ればバカップル同然だった。それは周囲が物語っていた。だが承太郎にしてみればたまったものではない。
 紫の雰囲気から彼女が常人のそれではないことが感じられる。周囲の視線、まるで新婚のカップルを見守るかのような視線に本心から気を良くしている様に見えるのだ。
 果たして彼女はDIOの刺客か、この笑顔の下に牙でも隠しているのではないかと疑ってしまう。

「あんた何者だ……」

 気が付けば承太郎の口からそんな言葉が出ていた。しまったと言わんばかりに紫に掴まれていない手で口を押さえたがもうどうにもならない。
 いつでもスタンドが出せるように覚悟して視線を紫に向けたが……彼が目にしたのは年甲斐もなく頬を膨らませた紫の姿だった。

「ゆかりんは17歳の美少女って言ったじゃないの」

 ぷんぷんと口から言いながら手に持った日傘でペチペチと可愛らしく承太郎の足を叩いた。承太郎はそれを見て思った事を口にしてしまった。。

「見っともないから止めた方がいいぜ。もっと年相応の……」

 承太郎は全てを口出すことは出来なかった。彼の言葉を遮って紫が承太郎の腕に絡めていた手を振りほどき、両の手で顔を覆い泣き始めたからだ。

「みんなして酷いわ! 私の事、年増妖怪だとかババァだとか加齢臭とか言って……私は美少女なのにぃ~!」

 つい先ほど紫と知り合ったばかりなのにそんな事を言われても彼としては困惑するしかなかった。嘘泣きか本当に泣いているのか判断することすら出来ず、彼女に声をかけることすらできなかった。
 それが周囲の視線を掻き集めている事に気が付いた承太郎は舌打ちをすると紫の手を率いて大通りから路地裏に急いで連れ込んだ。

「駄目よ承太郎くん、まだこんなにも明るいわ」
「何馬鹿な事言ってやがる」

 道行く人の視線から逃げ切った承太郎は何やら照れ臭そうに帽子を被りなおしていた。

「あーその、何だ。オレが年相応って言ったのはお前がババァだからって言ったんじゃないんだぜ?」

 紫はババァという単語にビクリと体を震わせながらも承太郎の言葉の続きを待つ。

「だからゆかりん、あんたは美人だからかわいらしい仕草よりも別の……クソッ! オレは初対面の相手に何を言っているんだ!」

 それだけでも十分だった。彼の優しさは紫に伝わった。泣いた紫がもう笑う。その表情は内心何を考えているのか分からぬ笑顔ではない。心底嬉しそうだった。

「承太郎くんって優しいのね」

 そして承太郎に向けて再び笑顔を向ける。そう、何やら企んでいる怪しい笑顔だ。思わず承太郎はスタープラチナを出しそうになってしまった。

「承太郎くん」
「…何だ」
「私、家に帰りたくないの。藍と喧嘩しちゃったから……ねぇ、何処のホテルに泊まっているの?」
「な……に?」

 藍って誰だ。そんな疑問が浮かぶが聞くことすら侭ならない。
 硬直する承太郎とニコニコ笑う紫。

「だ・か・ら、承太郎くんのお部屋に泊めて♪」

 笑顔とは裏腹に紫からは得体の知れない凄まじいプレッシャーが感じられる。『だが断る』とは口が裂けてもいえない。
 どうやったら断れるのか必死に考える承太郎であったが紫が承太郎の腕に絡みつく。

「ねぇ~いいでしょう~?」
「このッ! 胸を押し付けるな!」
「いやぁん♪ 承太郎くんのえっちぃ~♪」
「お前が無理やりやってるんだろうが!」

 紫の大人の色気を前面に駆使した『お願い』に必死で抵抗する承太郎。屈したらDIOどころではなくなってしまう。
 だがスタープラチナを発動させないばかりか、紫に決して手をあげない承太郎。彼は無意識の内に彼女の行動に敵意がないことを察していたのだ。云わば紫の行動は姉が弟をからかっている様なものだ。
 しかし注意しなければならないのは紫があわよくば承太郎をある意味で食ってしまおうと、本気で考えていることである。

 果たして彼は無事仲間達と合流することが出来るのだろうか。



第一話

ゆかりんのぷち家出


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