――駄目だ。この主催者とやらは実に手が込んでやがる。
余程オレ達にこのクソッタレな殺し合いをさせたいらしい。
アティと協力しあい、無線機の改造を開始してから数時間後。
内部だけは最新鋭のものへと変貌した黒い無線機を片手に、
カーチスは心の中でそう毒づきながら、アティとの筆談を再開していた。
(無線機の出力を銀河の果てにまで飛ぶように再設計したが、外部への連絡は一切とれないらしい。
オレをも上回る技術者がいるか、常識では考えられん力がこの“会場”には働いているのだろう。)
オレの回答にアティは落胆の色を隠しきれなかったようだが、なお筆談を続ける。
(しかし、まだ抜け道はある。この首輪を解析し、外せるようにしてしまえばいい。)
オレは無線機の追加機能を確認しながら、頭の中で推論を立てていた。
――おそらく、首輪自体にはさほど大した技術は使われていないだろう。
機械というものは精緻に作り上げる程に繊細になり易く、
些細な事故で誤作動を起こし爆発する恐れが生じる。
だが、奴らはあくまでオレ達にここで殺し合いをさせるのが目的だ。
だからこそ機械の性能より耐久性を重要視したタフなつくりに、
そして悪く言えば大雑把に仕上げざるを得なくなる。
最先端の精密機器ならそれなりの施設がなければこのオレでも無理だ。しかし…。
(首に嵌っていない同じ首輪を手に入れ、外部から十分な解析が行えればこれを無効化する事は可能なはずだ。)
そう。あとは首輪を手に入れてしまうだけでいい。
オレにかかればこんな首輪、手に入れさえできれば後は玩具同然だ。
ただし…。
(でも、どうやって手に入れるの?)
オレはアティの筆談での問いに気がつかなかったフリをして、
背を向けて即座に立ち上がり外出の準備を整えた。
「…少し出かけてくる。その無線機でいつでも連絡は取り合える筈だ。
何かあったらすぐに呼んでくれ。そう遠くへはいかない。
アンタはもう少しゆっくり休んでくれ。残念だが、まだ共に行動するには足手まといだ。」
「………わかりました。でも、カーチスさんも気をつけてください。」
「アンタこそな。」
彼女には背を向けながら、最後に無線機の使用方法の再確認を取る。
怪訝な空気は感じるものの、なんとか誤魔化せたようだ。
「使い方はさっき試したとおりだ。周波数は既に合わせてあるから、
あとはボタンを押しながら話すだけで、機械化されたオレの耳に直接届く。」
(追加機能はメモの通りだ。そいつは後々、このゲームを終わらせる鍵になるかもしれん。絶対に手放さないでくれ。)
オレは最後に走り書きを残すと、一切後ろを振り返らずに…。
いや、振り返る事が出来ずにドアを閉め、外界にその身を踊りだした。
状況は痛い程に理解している。向かうべきところは既に決めていた。
――そして、すべきことも。
(これからの所業を、アンタにだけは見せるわけにはいかないからな)
オレはすでにこれからの行動はしばらく一人で取る事に決めていた。
彼女の元に戻るのは、全ての段取りが終わってからの話しだ。
あらゆる意味で、今彼女がオレの側にいるのは危険だからだ。
極めて悲観的な推測だが、オレの想像通りなら首輪の入手にはそう時間はかからないだろう。
既に死んでいる者からか、あるいはゲームに乗った人間を見つけ出し殺害してから首を斬り落とし、
玩具を手に入れて解析するだけのことだから。
あとはアティと合流して無線機を使い、残された全員を救えばいい。
これなら考えうる限り極めて現実的な解決案で、余計な回り道をせず最大多数を迅速に救うことができる。
最善の策が困難なら、次善の策を取る。犠牲は最小限に。結果は最大限に。
そう、犠牲は最低一人だけでいい。それに、すでに犠牲になっているものを利用しても構わない。
それだけで、残された全てを救いだせる。
ただし。それはいずれにせよ誰かの死を心から望み、死後の尊厳を踏みにじる行為となる。
自ら手にかける必要性はないかもしれないが、それでも最低一人を切り捨てることになる。
それが何者だろうが、お世辞にも本物の地球勇者の取るべき行動ではない。
こういう発想がまず第一に浮かぶあたりで、オレはまっとうな人間とは言い難い。
――
ゴードン、お前はオレを買いかぶりすぎだ。
アンタのその魂、完全に受け取ることはできなかったようだ。
やはり、オレには地球勇者の資格はないらしい。
全てが終わってからなら、その所業に対する罰は甘んじて受け入れよう。
オレはオレにしかできないやり方で、このゲームをブチ壊してみせる。
――特に、あの笑顔を失わせるわけにはいかない。
オレは無線機の改造中、彼女が見せたどこか妻子を連想させる
儚げな笑顔を脳裏に浮かべていた。
ただ、その陰惨な光景を彼女にだけは見せるわけにはいかないし、
万が一首輪の解析に失敗した場合、彼女を巻き込むことになる。
いずれにせよ、しばらくは戻れないだろう。
彼女には嘘をついたことになる。
「―――多くを救うには、犠牲は常につきもの、か。」
オレは以前なら疑問にさえ感じなかった事を口にしながら、
自嘲に口元を歪ませ、感知した生体反応があるらしき場所へと疾走した。
胸を締め付ける罪悪感と、人の死を望む不謹慎な期待。
そして、これからの殺戮への不安を共にしながら。
【C-3/村:東端の民家/日中(12~14時)】
【カーチス@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:健康 (若干の性能劣化あり)
[装備]:オウガブレード@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式
鍵@不明
[思考]1:なんとしてでも首輪を手に入れて、解析して取り外し方法を調べる。
2:これからの所業は終わるまで人に知られなくない(特にアティとゴードンには)。
[備考]:死亡直後からの参戦
なお、無線機の魔改造の代償として、五感が若干鈍っています。
カーチス本人が余裕のあるパーツを選んで抜き出してあるため
これだけではダメージにはなりえませんが、本来の性能が引き出せない可能性があります。
具体的な劣化部分については次の書き手様にゆだねます。
コンコン。
カーチスが民家を離れてから数分後、アティは民家の玄関を叩く音に気付き、
寝室に横たえていた体を緩やかに起こし、その鍵を外しに向かった。
――忘れものでしょうか?
そういえばあの時私を避けていましたが、それ以上に慌てていましたし。
私なんかよりずっと理知的な方だと思ってましたが、意外とそそっかしい所もあるんですね。
「はい、今開けます。」
アティはカーチスにはおよそ似合わない慌てふためく姿を想像し、
込み上げる笑いを噛み殺しながらゆっくりとドアを開ける。
だが、彼女の前に立つ者はカーチスとは似ても似つかぬ異形の存在であった。
「戸越しに武器で突きかかるか、攻撃魔法での歓待を待ち望んでいたのだがな。
あるいは裏口より脱出し、背後から私に奇襲をしかけるか。楽しみにしていた。
…だが、とんだ期待外れだったらしい。」
――空気が、凍りついた。
立ち塞がるは、禍々しい意匠を凝らした、闇夜よりもなお暗い漆黒の鎧を身に纏いし騎士。
滲み出るその殺気は周囲の空気さえ歪め、片手に身の丈程もある大斧を携え戸を叩くその姿は、
片手にその首さえ掲げていれば死を告げるお伽噺の死霊騎士(デュラハン)そのものであった。
わずかな時間差とはいえ、訪問者を確認さえもせず易々と招き入れるとは。
助けを呼ぶべき無線機も、カーチス本人と勘違いしたばかりに部屋の奥に置いたまま。
アティは己の迂闊さを呪わずには居られなかった。
――万事休す、でしょうか。
アティは死を覚悟したが、眼前の騎士の反応はアティの想像と理解をはるかに超えるものであった。
「この一帯に感じた強い気の流れを頼りこちらに感じ馳せ参じたが、
現れたのは丸腰の女ただ一人で、しかもなんの警戒も用心もない。
…興醒めだ。女よ。命惜しくば、速やかにここを去れ。
生憎だが、私は無防備な女を斬る武器は持ち合わせていない。」
その内容は、明らかに友好を求めるものではない。
だが、悪意や殺意といったものともかけ離れている。
お前ごときに興味などない、傲然とそう一方的に主張する目の前の騎士の会話は、
アティにはそれが何故か島にいる護人達と出会った頃を連想させた。
「去らぬなら私が引いてやろう。どのみちもうここに用はない。
貴殿も身を潜めるなら、場所を移されるがよいだろう。」
そう言い残し身を翻そうとする騎士を、アティは引き留めた。
「待って下さい!」
「私の名はアティです!」
目の前の無警戒で緩そうな顔を見せていた女性からは想像もできぬ発言に、
怪訝な反応を見せる
漆黒の騎士。アティはなおも続ける。
「何故そこまで命の奪い合い、傷つけ合いにこだわるのですか?
何故言葉というものがありながら、お互いにそれで理解し合おうとも思わないのですか…!」
この騎士の言動の端々に尋常でなく危険なものを感じるのだが、
(この騎士にとって)無意味な殺戮だけは望まないのは、これまでの態度からも明らかだ。
そうでなければ既にこの場で斬り捨てられているし、人に気をかける言葉も必要ない。
アティはそこに賭け、目の前の不吉なる騎士に会話を試みた。
それに、この騎士の態度には言いたい事も山ほどある。
第一、「戦いが全て」みたいな内容のお話しなんて、私にはあまりにも悲しすぎる。
「私にも貴方に話すことなら一杯あるのに、貴方の言葉はひどく寂しすぎます!」
―――自らの鼓動さえ聞こえる程の、静寂が訪れる。
民家の前に冷たい風が流れ、周囲の木の葉を舞いあげる。
今では殺気こそ感じられぬものの、並みの騎士では逃げ出さずにいられぬ
威圧感を持つ禍々しい騎士を引き止め、正面から対峙するアティ。
時間にすれば数秒の、ただし、当事者にすれば永劫にすら感じられるほどの時間が経過する。
丸腰にも関わらず目の前の大いなる暴力に臆せず己の主張をする姿が、
漆黒の騎士の記憶にクリミアの女王の決意を連想させたのだろう。
見れば先ほどの緩さは顔から消え失せ、瞳にはメダリオンの蒼炎が如き強き意志が宿っている。
それが、この戦いこそ全ての騎士にただ一時の会話を決意させた。
「………名乗りが遅れたな。」
漆黒の鎧を身にまとった騎士はおもむろに兜を脱ぎ、名を告げられた返答とばかりに名乗りをあげた。
「私の名はゼルギウス。生前は“英雄”と称され、かつてはベグニオン帝国中央軍総司令官の座にありしもの。」
その威圧的な兜から現れた顔は、その闇色の髪以外は甲冑には似つかわしくない端正な顔立ち。
だが、その彫りの深い顔から放たれる猛禽を思わせる鋭い視線は、魔力こそ帯びぬもののがそれだけで
人を畏怖させずには居られぬ歴戦の戦人のそれであった。
漆黒の鎧を身にまとった騎士――ゼルギウスはどこか挑むような、
アティを値踏むような口調で、区切るようにゆっくりと返答述べようとた。
「では、問いに――」
グキュルルルルルル…
そう。それはあまりにも唐突過ぎた。確かに昼を少し過ぎたばかりとはいえ、
その場にはあまりにも相応しくない、緊迫感を著しく殺ぐ音がアティの胃から盛大に鳴り響いた。
若干の怒気を孕んだ切実な顔から一転、羞恥で顔を薔薇色に染めて俯くアティ。
これには、流石に生前は四角四面で周囲に通してきた生真面目な騎士も苦笑する。
張りつめた空気が、目に見えて一気に弛緩する。
だが、逆にそれが効果を生み、会話の雰囲気を作り上げたようだ。
「…フッ。そういうことか。
不作法は謝罪する。目の前の女性の空腹も察せずに、
このような目立つ場で長話に興じようとするとは。
では、存分に言葉を交わすに相応しき場へ移ろう。
食事を交えながらでは逢引にも見えるかもしれぬが、
背に腹は代えられぬ。それで構わぬな?アティ殿。」
その騎士のからかうような発言にさらに顔を赤らめながら、アティは無言でコクリと頷いた。
【C-3/村:東端の民家/日中(12~14時)】
【漆黒の騎士@暁の女神】
[状態]:健康、若干の魔法防御力向上(ウルヴァンの効果)
[装備]:ウルヴァン@暁の女神
[道具]:支給品一式 漆黒の投げナイフ@サモンナイト3(4本セット:残り3本)
残りの
ビジュの支給品(詳細不明[種別:アイテム])
残りの漆黒の騎士の支給品(詳細不明[種別:アイテム])
[思考] 1:強者との戦いこそが全て。ガウェインの息子(
アイク)がこの場にいるとは嬉しい。
2:目の前のあまりにも天然すぎる女性に若干の関心。
3:
ミカヤには出会いたくない。
[備考]:特に明記されておりませんが、昼間の民家での待機中に残りの支給品や名簿程度は確認済です。
無論、使い慣れない武器の修練もある程度この時に行っています。
漆黒の騎士がアティのいた民家周辺に感じた「強い気の流れ」ははっきり決めてません。
カーチスが放ったものか、
ハーディン公によるものか、それとも別の第三者が潜伏していたのか。
それは次の書き手様に委ねます。
【アティ@サモンナイト3】
[状態]:若干の神経衰弱、酷い空腹、羞恥による赤面。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
改造された無線機@サモンナイト2(?)
[思考] 1:体力が回復次第、カーチスと連絡を取り合流する。
2:カーチスの挙動に若干の不審を感じていますが、概ねは信じている。
3:ディエルゴのことが本当ならば、なんとかしなくては
4:ゼルギウス(漆黒の騎士)に話したい事は山ほどあります!(いろんな意味で)
[備考]:
[共通備考]:正確には「言えぬ事、言いたい事(前編)」の数分後になります。
カーチスの五感が鈍っているのと、入れ違いになってしまっているため、
未だカーチスは漆黒の騎士の存在に気づいていません。
最終更新:2009年04月17日 09:45