夜に彷徨う ◆LKgHrWJock
一行は、C-3エリアの村落に無事辿り着いた。
唯一の武器所有者であり高い戦闘能力を有する
ルヴァイドが離反し、
護衛は
カトリの召喚したドラゴンゾンビのみという心許ない状態だったが、
あの後、
ホームズの頼みにより、ルヴァイドの密かな助力を得られたのだった。
一行が村に着くまでは、首輪探知機の機能を用い、彼が遠方から監視する。
そうして村に入った一行は、とある民家になだれ込んだのだった。
◇
レシィと出会ったあの日のことが不意に脳裏を去来して、
まるで遠い昔の出来事のように
マグナの胸を締め付ける。
あれはそう、<蒼の派閥>の試験に合格した日のことだった。
護衛獣としてマグナの前に現れたレシィは、何故かひどく怯えていた。
そして心底申し訳なさそうな物腰で、自分が女性と同じ仕事をさせられていたことを打ち明けた。
罵倒と暴力に身構えながら、それでもレシィはマグナに頼んだ。
料理や洗濯や掃除は得意だから、護衛獣として仕えさせてほしいと。
マグナにとって、それは歓迎すべきことだった。何故なら彼は、家事全般が苦手だったから。
独り暮らしが長かったので、やり方くらいは知っている。しかし、好きにはなれない。面倒だ。
でも、レシィがいれば包丁で指を切ることもないし、毎日旨い飯にありつける――
そんな風に思ったあの日から実際にはまだ何年も経っていないのに
まるで子供の頃の色褪せた思い出のように遠く思えてならなかった。
マグナは今、一人で台所に立っている。作っているのは夜食、4人分の焼き菓子。
誰かに頼まれたわけではない。自分の下手な料理など、誰にも望まれていないのかも知れない。
それでも、誰かのために何かをしたかった。自分にもまだ出来ることがあると思い込みたかった。
そうしなければ、胸にできた空洞に呑み込まれ、身も心も駄目になってしまいそうだった。
茹でた芋を木製のへらですり潰しながら、目の細かい網で漉す。
扱う食材は独特の甘味を持つシルターン産の長芋、この民家の台所にあったものだ。
細かすぎる網目に繊維が詰まり、思うように作業がはかどらない。
潰しても潰しても終わりが見えず、おのずと腕に力がこもる。芋が粘り気を帯び始める。
もしもレシィや
アメルや
パッフェルがこの場にいれば、そんな力任せに扱っちゃ駄目ですよと
優しくたしなめてコツを教えてくれただろうが、生憎ここには自分しかおらず、
自分にはこういう風にしか出来ない。
それでも、作業に没頭していると気分が紛れた。
筋肉を酷使すると、何かを――無駄ではないことを――しているという実感が持てた。
今のマグナには、苦行の中に身を置くことしか出来なかった。
◇ ◆ ◇
オイゲンも
ティーエも
リチャードも死に、
リュナンは未だ行方知れずのまま。
マグナと行動を共にしているときは、その苦痛を思考の片隅に追いやることも出来たが、
カトリと二人きりになった途端、それらの事実は底冷えする寒さとなって心の芯を凍てつかせる。
次の放送で名前を呼ばれるのは自分かも知れないしカトリかも知れない、
纏わりつく不吉な予感を振り払うようにホームズはカトリを求め、彼女の中に逃げ込んだ。
壁一枚、床板一枚を隔てた場所にいるマグナや
ハミルトンの精神状態を思えば、
自分たちだけがこのような恋人同士の時間を過ごすことなど許されない、それは分かっている。
しかし自制心が働かなかった、カトリが存在するという事実を全身全霊で確かめたかった。
「しばらくは二人きりでゆっくりすればいい」と言ってくれたのはハミルトン、
「一人になりたい」と言ってホームズに背を向けたのはマグナ。
これは暗黙の了解なのだと自分に言い訳しながらも、焦燥感に引きずられる。
こんなことをしている暇があるのなら、自分が一行のリーダーとなって“ゲーム”打破の
方策を立てるべきだろう、そう思うのだがカトリ、彼女から離れられない。
カトリを失いたくない、心からそう思う、本気でそう思うのなら今すぐこの寝室を出て
首輪を外し
ヴォルマルフの野郎をぶちのめすための行動をするほうがよほど現実的だというのに
理性が働かない、世界が消える。自分の立てる物音、それを聞く者の存在が気にならなくなり、
自分自身とカトリとの境界線が曖昧になる、それが新たな世界、カトリが世界の全てになる。
しかしカトリの白い首を横切る異物が、自らの首に感じる熱が現実を教える、
おまえから世界を奪うことなど容易いのだ、次の瞬間にはカトリを殺すことも出来るのだ、と。
これほどまでに近くにいるのに、カトリもそれを受け入れているのに彼女は自分のものではない、
カトリの存在を生命をその運命を繋ぎとめておくことは出来ない、カトリに手が届かない、
五感に反する圧倒的な現実に抗ってホームズは闇に落ちる、光に視界を奪われる――
「……ホームズ、何処に行くの?」
事を終え、ベッドから身を起こしたホームズに、カトリの細い腕が絡みつく。
振り向くと不安げな顔でこちらを見るカトリ、癖のないワインレッドの髪が白いシーツに広がっている。
ホームズはカトリの長い髪を指で掬った。湿っているわけではないのに水のようだと感じたのは
自身の手に留まることなく流れ落ちていくためか、それとも体温を持たないためか。
「馬鹿だな、何処にも行かねえよ。おまえを置いて行くわけないだろ」
「でも、だったらどうして……」
「おまえに渡しておきたいものがあるだけだ」
ホームズは軽く身繕いし、デイパックから取り出したものをカトリの手に握らせる。
「ホームズ、これは……」
説明は不要だった。ホームズに支給品として与えられたその小さなお守りは、
二人の故郷であるリーベリア大陸から持ち込まれたものだったからだ。
<おまもり>の効果を知るカトリなら、自分がこうして贈った理由を汲み取ってくれるだろう。
そう考えて感傷を断ち切ろうとしたとき、予想だにしなかった声が部屋の隅で上がった。
「ご主人、それは何ッスか?」
「プ、
プリニー! テメェ、いつからそこにいやがった!?」
背後でカトリの小さな悲鳴、ホームズはプリニーを睨みつけたまま慌てて布団をカトリに被せる。
「ずっとここにいたッス」と煩わしそうに答えるプリニーに、ホームズは半裸のまま飛び掛かった。
「人のプライベートに土足で踏み込んでおいて、なに居直ってやがる!」
「踏み込んでないッス。お二人が勝手に始めただけッス」
「ってことはテメェ、最初からずっと見てやがったのか!」
「変質者扱いはカンベンしてほしいッス。好き好んで見たわけじゃないッス」
「見たくねえなら俺らが事を始めた時点で出て行きゃあいいだろ、違うか、ああ?」
「……見掛け倒しのくせに偉そうッスね」
「テメェ、言わせておけば! 二度とそんな口を利けねえようにしてやる!」
ホームズはプリニーの首と思しき個所を両手で締め上げ、力任せに揺さぶった。
自分に対する侮辱に激昂したわけではない。
人語を解し、思考力を有するプリニーが自分の下で乱れるカトリの姿を見たという事実、
自分のことを「見掛け倒し」と断じることが出来る程度には比較対象を知っているプリニーが
カトリの姿に何を思い何を考えたか、そこが許せないのだ、どうしても。
ごとりと鈍い音がして、銀色の小箱が床に転がる。
プリニーの青い体から滑り落ちた小箱には、一目で異国のものと判る幾何学模様が入っていた。
しかしその模様の中には、自分の知っているリーベリア大陸の文字が幾つも彫りこまれている。
冒険者としての魂が、焼き切れる寸前だったホームズの思考回路を一気に冷やした。
これは一体何なんだ? ホームズはプリニーを脇に追いやり、銀色の小箱を拾い上げる。
その箱に厚みはなく、光を放つ絵画がはまっている。初めて目にする異邦のお宝、
何を描いたのかすら定かでない不思議な絵画をホームズはしげしげと眺めた。
「ほー、こいつは高く売れそうだ。好事家相手の競売にでも出せば……」
「これは売り物じゃないッス。そもそも買い手なんて何処にいるッスか」
「……ん? この模様を押せば絵が変わるのか?」
「かかか勝手に触らないでほしいッス!」
「どうしたプリニー、おまえは俺の支給品だ、ならこれも俺のものだろ?」
「どっかのガキ大将みたいな横暴はやめてほしいッス! 早く返してほしいッス!」
「そこまで言うなら返すけどよ、おまえ、なんでそんなに慌ててるんだ?」
「壊れやすい物だからッス。壊れたら、その、ご主人の役に立てなくなるからッス」
引ったくるように小箱を奪い、鞄の中に仕舞い込むプリニー。
小箱の破損を気にしていながらあまりにも慎重さに欠ける挙動に、ホームズは違和感を覚える。
明らかな矛盾。プリニーが本当に恐れていることは別にあるのではないかと思えてくる。
そもそも、あの小箱は一体何に使うものなのだろう。
プリニーの鞄は空っぽで、食料すら持たされていないと聞いていた。
しかし実際は、取扱説明書にも記されていない謎の道具を持っていた。
これは一体どういうことだ。何かがおかしいと勘が告げる。
とはいえ、プリニーを締め上げて吐かせようとまでは思えなかった。
隠し事をしていると確信出来るほどの確証はなく、責めるべきポイントが見えてこない。
このような状況で攻撃的な行動に出るのは得策ではないとホームズは思う。
こちらの勘が正しければ、相手はこちらを警戒する。そして秘密を隠し通すべく慎重になるだろう。
こちらの思い過ごしなら、相手の機嫌を損ねるだけ。武器を失い、敵を作る結果になりかねない。
それにプリニーにはカトリとの情事の一部始終を見られているのだ、下手な真似は出来ない。
自分一人なら何とでも誤魔化せるが、カトリを傷つけるような事態だけは避けねばならない。
ならば今は何も気付かない風を装い、あえてプリニーを泳がせておこう。
締め上げて吐かせるのは、違和感の正体が見えてからの方がいい――
「ホームズ、ちょっといいかしら……」
振り返ると、ベッドのへりに腰掛けたカトリ。
服は既に身につけているが、長い髪は乱れたままだ。
こちらを見つめる彼女の面持ちは不安げで、<おまもり>を握る指には力がこもっている。
カトリの表情が翳ると、ホームズも不安になる。もしやプリニーがカトリを怯えさせたのか。
それとも、自分には見極められなかった違和感の正体に気付いたのか。
なんにせよ、カトリの笑顔を曇らせるものは早く取り除いてやりたいと思う。
「カトリ、どうした?」
「あのねホームズ、ちょっと聞きたいことがあるの。どうしてこれを私に持たせるの?」
なんだ、そんなことか。ホームズは思わず笑みを浮かべた。
面倒な女だと思う一方で、自分のことを何でも知りたがるカトリを可愛らしいとも思う。
ホームズはカトリと向かい合う格好で床にひざをつき、
<おまもり>を握り締める彼女の白い指に自らの両手を重ねた。
「俺は片時もおまえのそばを離れたくない。だがな……
あの場では黙っていたが、マグナは今、大事な女を失って落ち込んでんだ」
「知ってる……アメルって人のことでしょ?」
「カトリ、おまえ、気付いてたのか……」
「うん。アメルって人の話が出たとき、あの人、すごく辛そうな顔してたから……」
「気付いていたなら話は早い。俺はな、カトリ……
せめてあいつが落ち着きを取り戻すまで、そばで支えてやりてえんだよ」
「うん、でもね、ホームズ……
そのこととこの<おまもり>にどんな関係があるのかよく分からないの」
カトリは今にも泣き出しそうな顔で、消え入りそうなか細い声でそう言った。
カトリは納得していないのだ、納得出来るまでは決して受け取らないつもりなのだろう、
ああ、まったく、なんて面倒な。それでも胸に生じるのは苛立ちではなく痛みだった。
「今の俺にはこれしかない」
「それならホームズが持っててほしいの」
「いや、それは出来ない」
「どうして?」
「武器を奪われた俺に与えられた、おまえを確実に守れる唯一の物だからだ」
「えっ……」
「おまえは俺の全てだ。俺にとっておまえを失うことは、自分自身を失うも同然なんだ。
だからカトリ、これはおまえが身につけてくれ。俺におまえを守らせてくれ」
「ホームズ……そんな……」
カトリの頬を大粒の涙が伝い落ちる。両手で包み込んだカトリの手、
<おまもり>を握り締める彼女の指が小刻みに震えているのが分かる。
そうか、気付いているのか、俺の本心に――カトリが自分を見てくれていることを
嬉しいと思う反面、自分の抱える弱い本音をカトリの口から聞きたくないという思いも強く、
ホームズは祈るような気持ちでカトリの指に添えた両手に力を込めた。
「頼む、カトリ。何も言わずに受け取ってくれ」
「私、怖いの。これを受け取ったら私は二度とホームズに会えなくなるような気がするの」
「そんなわけねえだろ……俺がおまえを離すわけが……」
「だって、ホームズ、怯えてるもの……二度と会えなくなることを予感しているような顔だもの……」
「おい、カトリ、何わけのわからねえこと言い出すんだ……」
「ホームズだって分かってるでしょ。あなたは変わったわ。どうして? どうしてそんなに怯えているの?」
気付いたときには、ホームズは既に立ち上がっていた。
両手はカトリから離れている。掌に感じる痛みの正体は肌に食い込む自身の爪だった。
「馬鹿なことを言うんじゃねえ! 俺が怯えるわけねえだろうが!
俺は素手でも戦える。手だろうが足だろうが頭だろうがモップだろうが何でも武器として使ってやる。
だがな、おまえには無理だろうが。マグナやハミルトンの分まで戦わなきゃなんねえって時に、
おまえに足手まといになられちゃ困るんだよ。だからこれを持ってろって言ってんだ!」
「私、足手まといなんかじゃない!」
カトリは涙を浮かべながらも、ホームズを見上げて毅然と言った。
まったく、なんて強情な奴なんだ。そう思いかけて、ホームズはカトリの変化に気付く。
カトリは片手で握っていたはずの<おまもり>を両手で握り締めていた、まるで抱き締めるように。
「私、足手まといになんかならない! ゾンビだって召喚できるし、竜にだってなれるもの!」
「おい、馬鹿を言うな。今のおまえは竜になんて……」
「なれるわ! 私には分かるの。私の支給品の<火竜石>……
あの石は<リングオブサリア>と同じ感じがする。ううん、もっと強くて荒々しい力を感じる。
あの石の力を借りれば、私、竜になれるわ。そしたら私だって、みんなを守れる!」
「カトリ、落ち着けよ。そんな得体の知れないものは使うな。ヴォルマルフの野郎が寄越した石だろ。
おまえの能力を知った上で毒を与えたかもしれないんだぞ。もし暴走でもしたら……」
竜化には危険が伴う。暴走を引き起こせば、街一つ、国一つを一夜にして滅ぼすほどの
無差別的な破壊活動を行ないかねない。そしてそれは当人の精神状態が鍵となる。
竜としての力を制御する心。カトリはそれを持っていた。しかし、たとえカトリの心が強くても
竜としての力がそれを上回っていたら。<火竜石>の力がカトリの限界を超えたものであったら。
カトリが言ったのだ、<リングオブサリア>と同質でありながらさらに強く荒々しい力を感じる、と。
そんな危険なものを使わせるわけにはいかない。カトリの心身にどれほどの負担がかかることか。
しかしホームズの心配を余所に、カトリは落ち着き払っていた。
さっきまであれほど感情的になっていたのが嘘のようだ。
カトリはゆっくりと立ち上がり、曇りのない眼にホームズの姿を映した。
「私はね、ホームズ……、あなたが言ってくれた言葉を信じてるの。
ホームズは私を守るって言ってくれた。ただ言うだけじゃない、いつも本当にそうしてくれた。
そして……今だって、私のことを考えてくれてる。だからこれからも……
ホームズはいつだって必ず私を守ってくれるって思えるの、信じられるの。
その確信が、何よりも強く私を支えてくれる。だからホームズ、私は大丈夫……」
「カトリ……」
「この<おまもり>はあなたに持っていてほしいの。ホームズに何かあったら、私……」
「いや、受け取ってくれ。おまえに渡そうと思って身に着けずに取っておいたんだ。
俺にはカトリがいればいい。おまえの元気な姿が、どんな奇跡の力よりも強く俺を守ってくれる」
「ホームズ、私……」
「すまん、カトリ、もう何も言うな……」
尚も言い募ろうとするカトリの口をホームズは自らの唇で塞いだ。
……邪神を倒し、戦争に勝ち、英雄と呼ばれ、巫女であり王女でもあった恋人と結ばれた。
人々の目に映る自分はきっと人生の勝者、強い人間と見なされるのだろうとホームズは思う。
しかし実際の自分は決して強くなどなく、むしろ昔よりもずっと臆病になった。
カトリを失うのが怖い。あの時、邪神の生贄として目の前で殺されたカトリ、
彼女を守ると約束したのに、彼女もそれを信じてくれていたのに、鉄格子に遮られ、
何も出来なかった。カトリに託された腕輪の嵌まった伝説の剣を手にしていたのに、何も。
邪神は倒れ、女神がカトリを返してくれた。表面上は、それで全てが元に戻ったかに見えた。
しかし、ひとたび知ってしまった恐怖がホームズの心から消えることはなかった。
カトリの命が蘇っても、愛する者を理不尽に奪われた記憶は消えない、そしてその再来に身構える。
自分はきっと、今も立ち直ってなどいないのだろう。だからこそ、マグナを支えたいと思うのだろう。
喪失に負けないマグナの姿を自身の希望にしたいのだろう。
部屋の隅からプリニーのぼやき声が聞こえた。
「……ご主人もつくづく面倒なお人ッスね」
◇ ◆ ◇
――やっぱり駄目だ。俺、駄目なんだ……。
台所の床に両足を投げ出し、見るともなしに天井を眺める。
背中に感じる壁の冷たさが、マグナから容赦なく体温を奪う。しかし動こうとは思えない。
今の自分にはお似合いだ。いっそ全て奪い尽くしてくれれば楽になれるのに、とマグナは思った。
テーブルの上には、クリーム状にペーストされた芋がそのままになっている。
作業に没頭している間は良かった。しかし、茹でた芋を網で漉し終え、
次は何をすればいいんだろう、と思った瞬間、これまで抑え込んでいたはずの
喪失感が一気に流れ込んできて、マグナは何も出来なくなった。
芋が大好きだったアメル、芋を使って様々な料理を作ってくれたアメル。
自分にはアメルのような料理を作ることは出来ない、という分かり切っていたはずの事実が
アメルの偉大さを改めて思い知らしめる。そして自分の卑小さを痛感させる。
あなたはいらない人なんかじゃない、と言ってくれたアメル。
しかしアメルの死を防げなかった自分には、その言葉を受け取る資格などないと思えてならない。
かつて自分に向けられたゴミを見るような視線の方が正しいように思えてならない。
――パッフェルさん、嫌だろうな。心から信じたはずの相手が、こんな人間だったなんて……。
パッフェルはマグナのことを「自分のことよりも相手のことを考える優しい子」と言った。
しかし、今の自分はどうだろう。仲間のことを考えようにもアメルのことで頭がいっぱいで
ろくに考えられない、仲間のために何も出来ない、それどころかホームズを避けてすらいる。
そんな真似はしたくなかった。
しかし、ホームズに対する不信感をどうしても払拭することが出来ない。
初対面のアルフォンスに対してホームズは機嫌の悪さを隠そうともせずに
わけのわからないことを言った、それだけならいい、それぐらいなら普通に許せる、けれども
城で再会した彼は正気を失った友人のリュナンを一人で探しに行こうとしていた、
彼が死を覚悟していることは明白だったから同行を申し出た、誰も死なせたくなかったから。
城を出てすぐにE-4エリアに向かう予定だった、しかしホームズが不審な形跡を見つけた、
城のすぐ近くに不自然な形で荒れている叢があった、誰かがそこを歩いた跡だ、予定変更、
リュナンの行方を求め、付近を捜索したが、結局手がかり一つ得られなかった。
臨時放送が入ったのは、E-4エリアに近付いたときのこと。
キュラーの声を聞いた途端、マグナの中で何かが壊れた。
今までの全てが無駄に思えた。これから行なうことも全て無駄になると思えてならなかった。
気付いたときには、ホームズに殴られていた。命を粗末にするな、と怒鳴られて。
――あいつ、自分は死ににいくような真似をして俺に心配かけたくせに
自分はあんなこと言うなんて変だよ、もうわけわかんねえ。
アルフォンスのことも悪く言うし……、あいつ、ホント、わけわかんねえよ……。
それでも、これだけは確信出来る――
ゴミを見るような目を向けられる者のことなんて、ホームズには理解出来ない。
勇敢で口が悪くて人に嫌われるようなことも平然と出来て、
そのくせ恋人ともうまくいってるホームズには、
俺の気持ちなんて絶対に、絶対に分かるわけないんだ。
【C-3/村(民家)/初日・夜中】
【マグナ@サモンナイト2】
[状態]:精神的疲労(中度)
右頬に打撲(大きく腫れ上がり)、衣服に赤いワインが付着
ホームズに対する疑念と不信感
[装備]:割れたワインボトル
[道具]:支給品一式(食料を2食分消費しています) 浄化の杖@TO
予備のワインボトル一つ・小麦粉の入った袋一つ・ビン数個(中身はジャムや薬)
[思考]1:これ以上の犠牲者は出したくない
2:みんなで脱出したいけど、もう何やっても無駄かもな…
3:なんでアルフォンスを悪く言うんだよ…
4:俺、どんな顔でパッフェルさんに会えばいいんだ…
5:ルヴァイド…俺、どうすればよかったんだ…
6:どうせ、俺はゴミなんだ…
[備考]:ハミルトンからブリュンヒルドと
タルタロスに関する情報を得ました。
ただし、タルタロス(アルフォンス)のことは信用しています。
最終更新:2011年01月28日 13:55