29代目スレ 2009/06/01(月)
レイナ「アラドさんたちは?」
ヴィレアム「奥に引っ込んでる」
レイナ「さすがに、参加はできないか」
アイミ「わたしだって、できたら参加したくないよ」
ルナ「ゼラドの告別式など」
ハザリア「人間、死ぬときはあっけないものだ」
ルナ「これ、どこに行く」
ハザリア「生きている間に、したいことはするものだ。
南太平洋にでも行ってくる」
ルナ「お主という男は!」
トウキ「でも、ゼラドが死ぬなんてなあ」
ミナト「死因はなんだっけ?」
キャクトラ「鯛の天ぷらにあたってフラフラの状態で階段を降りていたら、
滑って転んで頭を打たれたと聞いています」
カル「バランガさんらしいっていうかなんていうか」
タカヤ「突然すぎて、不思議と悲しくないよ」
ヴィレアム「なあ、ちょっと聞いてくれ」
トウキ「どうしたんだよ」
ヴィレアム「ゼラドは、本当に事故死だったのか?」
レイナ「事故死じゃなかったら、なんだっていうのよ」
ルナ「まさか、ゼラドが殺されたといいたいのか?」
ヴィンデル「誰がそんなことをするというのだ!」
メカギルギルガン「殺すからには動機があったはずじゃ!」
グ=ランドン「ゼラド・バランガは、殺されるほどの恨みを誰かから買っていたとでもいうのか?」
ル=コポル「そんな者がいるとは考えられん!」
レイナ「・・・・・・ねえ」
ヴィレアム「シッ、よけいなこと言うな!」
レイナ「メカギルギルガンじいさんはともかく、なんであのひとたちまで」
ルナ「手筈通り、滞りなく告別式を進めるのだ!」
ラミア「ゼラド・バランガは
バランガ夫妻の第1子として生を受け、惜しみない愛情を受けて育った」
パッ
レイナ「あっ、写真」
アイミ「ゼラドが赤ちゃんだったころの写真だね」
ルナ「父上が馬乗りされておられる」
トウキ「なあ、奥でぐにゃ~んと転がってる赤ん坊、ヴィレアムじゃないか?」
ヴィレアム「えっ? そうかな。違うんじゃないか」
ミナト「いや、あれお前だよ。
お前、なんかぐにゃ~んとしてたもん、ガキのころ」
パッ
アイミ「あっ、幼稚園」
レイナ「フフ、覚えてる覚えてる。
ディストラさんが機動兵器形態のまま迎えに来ちゃって、大騒ぎになっちゃったのよね」
トウキ「うわ、保育士さんが真っ青になってるし」
ミナト「いま考えると、けっこうシャレにならないよなあ」
キャクトラ「おや、砂場でぽけーっとしているあの園児は、友ではないか?」
ヴィレアム「違うよ! 俺、あんなにぽけーっとしてないよ!」
レイナ「ああ、あれは間違いなくヴィレアムよ。
砂遊びに誘うタイミングつかめなくて、けっこう毎日ぽけーっとしてた」
ヴィレアム「そんなことない!」
パッ
アイミ「今度は小学校の入学式だ」
ルナ「あれがランドセルというものか。ピカピカで、なにか羨ましいの」
レイナ「そっか、ルナは地球の小学校って知らないんだ」
トウキ「でも、なんでアオラがゼラドに引っ付いて泣いてるんだ?」
レイナ「ああ、なんか『お姉ちゃんが怖い施設に入れられる』って勘違いしたみたいで、大泣きしてたのよ」
アイミ「バランガさんち的に、『スクール』っていいイメージないからね」
ヴィレアム「まあ、俺が『お姉ちゃんは俺が守るから』って説得したんだけどな」
レイナ「なに見栄張ってんのよ。
あっちでランドセルに潰されてるのがあんたでしょ?」
パッ
アイミ「今度はキャンプの写真だ」
ルナ「小学校のときのキャンプではないのか?
なぜラミア教諭が映っておるのだ」
レイナ「ラミア先生って、小学校のときからずっとあたしたちの担任やってるのよ」
トウキ「そりゃいいんだけど、小五のキャンプになんでスレイチェル先輩が混じってるんだ?」
レイナ「ほんとだ。メッチャ魚さばいてる」
スレイチェル「あのときは、ただメッチャ魚がさばきたかったのである」
レイナ「学校行事の秩序を乱さないでくださいよ!」
アイミ「ねえ、あの魚、ミナトが釣ったんだよね!」
ミナト「そうだっけ? カルじゃねえの?」
アイミ「違うよ、ミナトだよ! わたし、ずっと横で見てたもん!」
ミナト「覚えてねえなあ」
アイミ「覚えてるから、わたしは覚えてるから」
パッ
アイミ「あっ、小学校の修学旅行のときの写真」
レイナ「そうそう、男子たちが部屋に夜遊びに来て、先生の目隠れてUNOやってたのよね」
ミナト「俺、これ覚えてねえぞ」
トウキ「お前、来なかったじゃん。
当時カタかったから、夜部屋の外に出ちゃいけないとかいって」
ミナト「そんなこといったかなあ?」
レイナ「そういえば、ヴィレアムも写ってないわよね」
トウキ「こいつは移動してる途中で先生に見つかってひとりで正座させられてたんだよ」
ヴィレアム「楽しそうだな、UNO」
レイナ「昔から要領悪いんだから」
パッ
アイミ「これは中学校のときの写真ね」
ルナ「おや、なにか、ゼラドの目つきが悪いような」
レイナ「ああ、このとき久保さんが留守にすること多くてね、ちょっとやさぐれてたのよ」
トウキ「ヴィレアムも写ってねえな。
いままで、たいていゼラドのまわりチョロチョロしてたのに」
ヴィレアム「チョロチョロなんかしてない!」
レイナ「ああ、このあたりから意識するようになったのね」
トウキ「そしてこのあたりのミナトは『俺の恋人はこの刀だ』とか口走ってたよな」
ミナト「忘れてくんねえかな」
トウキ「全体的に恥ずかしいな、中学校時代ってのは」
ぴんぽーん♪
マーズ「こんちゃー。あれ、なにやってんの」
ヴィレアム「わっ! なんだよお前突然!」
レイナ「告別式よ、コクベツシキ! わかる?」
マーズ「告別式くれー知ってらー。ダレか亡くなったの?」
ルナ「ああ、ゼラドだ」
マーズ「フーン、ゼラドちゃんが。
セコくてケソケソぷにぷにしてるくせに、
ちっとしたことで死んじまうからキレーだよ、ニンゲンなんざぁー」
レイナ「あんた見かけなかったけど、どこ行ってたのよ」
マーズ「オーサカにマスク売っ払いに行ってたんだよー。
あーあ、でも、このメールがカタミになっちまうのか。アトアジわりーの」
ヴィレアム「メール?」
レイナ「形見って、いったい誰からもらったのよ!」
マーズ「カタミっちゅーんだから、そりゃーゼラドちゃんでしょ?」
ヴィレアム「ちょっと見せてくれ!」
マーズ「あっ、そいつぁーいーけど、他のメールは見ねーでよね!」
ヴィレアム「なんだ、このメールは!」
レイナ「『みんなにはゴメンて伝えておいて』ですって?」
ルナ「これでは、まるで遺書ではないか!」
キャクトラ「しかし、なぜゼラド殿が彼に遺書を送るのです?」
マーズ「知らねーよ。『みんな』っつってもダレのことだかわかんねーし。
なーんか気になるから帰ってきたんだもん、おれ」
ミナト「まさか、ゼラドは自殺だったっていうのか!?」
アイミ「それこそあり得ないよ! ゼラドは自殺なんかする子じゃない!」
ヴィンデル「いや、人間なにがあるかわからんからな」
グ=ランドン「なにか、よほど絶望したのかも知れん」
ル=コボル「人間のマイナスエネルギーには際限がないのだから」
マーズ「でも、イショ送るにしても、
おれのほかにもーちょっとほかにダレかいたと思うんだけどなー」
レイナ「ちょっと待ってよ! このメールの着信時間!」
ヴィレアム「どうしたんだ?」
レイナ「今朝の朝7時って!」
マーズ「それがどーしたの?」
ヴィレアム「ゼラドが死亡したのは、昨日の夜8時だぞ!」
ルナ「そんなバカな!」
キャクトラ「死者がメールを送信したというのですか!」
レイナ「そうよ! ゼラドのケータイはどこ!?」
ヴィレアム「そういえば、見かけてない」
レイナ「誰かがゼラドのメールを持ち去って、
あたかもゼラドがメールを出したように装ったのかもしれない!」
ヴィレアム「なんだって!」
レイナ「取りあえず、かけてみる!」
ピャンピーピョ♪ ピャーピュピョッ♪
ルナ「この着信音は!」
トウキ「『音楽寅さん』の例のアレでかかってたやつだ!」
メカギルギルガン「そんなことより、告別式の場でマナーモードにしておかないとは!」
グ=ランドン「絶望した! そのマナーの悪さに絶望した!」
ゼラド「そこまでだよ!」
ヴィンデル「なに、ゼラド・バランガ!?」
ゼラド「わたしのケータイを持ってるってことは、あなただったんだね!」
ル=コボル「うっ・・・・・・!」
ゼラド「クリハを狙っていたのも、あなただったのね!」
ル=コボル「それは!」
ゼラド「何日か前から、クリハの後をつけたり家を見張ってたりするひとがいるって話は聞いてたの。
2日前は、クリハの家族が留守にしてる間に、とうとう家の中まで入ってきた。
そのひとは、クリハの部屋にあったケータイを持ち去っていったの。
でもね、それはわたしが遊びに行ったときに忘れていった、わたしのケータイだったんだよ!
クリハはわたしにお詫びの電話をしてきて、それきり行方を消しちゃった。
たぶん、責任を感じて犯人を探しに行ったんだと思う。
犯人を見つけたなら、クリハは必ず連絡をしてくるはず。
でも、連絡はなかった。つまりクリハは犯人に会えてないってことだよ。
そして犯人がクリハを狙ってるなら、やっぱりクリハを探してるはず!
そこでこの告別式だよ!
幼稚園からの付き合いのわたしが死んだとなったら、必ずクリハは来る!
クリハを探してる犯人もやって来ると思ってね!」
メカギルギルガン「有象無象が集まれば犯人も何食わぬ顔をして潜り込んでくると踏んで、
儂がひとを集めたのじゃ!」
ル=コポル「なんと卑劣な罠を!」
マーズ「俺にメールを送ったなぁー、あんただったのかい!?」
ル=コポル「ケータイの持ち主がゼラド・バランガなる少女であることはわかったが、
彼女と
クリハ・ミズハがどの程度親しいのかまではわからなかった。
だから、誰にでもいいから自殺をほのめかすメールを出し、
付き合いの浅い者でも告別式に向かうように仕向けたのだ」
ゼラド「そしてわたしの狙い通り、あなた本人も告別式に来たってことだね!」
クリハ「そう、わたしを狙っていたのが、ル=コボルの残りカスだったとはね」
ル=コボル「く、クリハ・ミズハ!」
クリハ「よくもゼラドにこんなことまでさせたわね!
絶対に許さない!」
いつの間にか、ル=コボルは乳白色と緑色が複雑に折り重なった空間の中にいた。
「ああっ!」
本能の深層から湧き出す恐怖に突き動かされ、ル=コボルは悲鳴を上げていた。
唐突に蘇る記憶があった。
こんな残りカスではあく、もっと大きく強力な『欠片』であったころだ。おなじような
経験をした。アストラル・シフトされた空間に叩き込まれ、身体の内側から光で粉々に引
き裂かれた。
おなじだ。あのときとおなじだ。
空間の奥底から、こちらに近づいてくるものがある。速い。そして大きい。正体はわか
らない。発生してから2000年間、知覚したことのない種類の感覚だ。
「エンダーク! ビクトーラ! ゼナディーエ!」
もはや人格など残っていない、闘争本能のみになった部下たちの『欠片』をかき集め、
解きはなった。
「アー・・・・・・! ァー・・・・・・! アァー・・・・・・!」
何千何億と群がる『欠片』たちはしかし、空間を埋め尽くすことはできなかった。
メトラの、デスエラの大部隊を、たった二筋の光芒が引き裂いていく。
なんだ、あれはなんだ。
獣だった。一体はヘビの胴体に細い手足とハネが付いている。そしてもう一体は、甲冑
のようなものを纏った巨大なネコ科動物だった。
地球の一部エリアで信仰されている、龍と虎に似ていた。
「いかん!」
ル=コボルは全身の毛穴が開くという感覚を思い出していた。
「龍虎合体させてはならぬ!」
メトラの大群が特攻同然に突っ込んでいく。しかし、爆発ひとつ起こらない。深緑色
をした液体に包まれたかと思うと、跡形もなく消えてしまう。
「デスエラ!」
まき散らされる汁によって、羽虫のような『欠片』たちは次々と消滅させられてしまう。
龍と虎がぐるぐると回転し始め、呪符のような紙切れを大量にばらまいた。龍が身をよ
じり、胴体を折りたたむ。虎の胴体からロープのようなものが放たれて龍を絡め取る。空
間に、得体の知れない文字で彩られた八角形の魔法陣が浮かび上がる。
「止めろぉーっ!」
もはや、ル=コボルは視力を失っていた。
渦を巻く深緑色の汁の中で、ぎょろりと動く目玉があった。
「乳は」
エンダークがミナール・ハンマーを振りまわしながら汁の竜巻に巻き込まれていく。
「乳は扁平に」
どこからか響いてくるその声には、底知れない深さがあった。
「乳は扁平になるほどに、効果抜群な汁を求めていく・・・・・・」
『欠片』はひとつ残らず汁に取り込まれ、ル=コボルにも押し寄せつつあった。
「汁をすすっていくのよ!」
このときになって、ル=コボルは次元を移動してきた目的を思い出した。
クリスタル・ハート、あるいはクリシュナ・ハートに通じるエネルギーがこの次元に存
在する可能性を感じ取ったからだ。
自分が、とんでもない間違いを犯していたことを思い知る。
違う、これは違う。
あの少女は、クリハは、いったい何者なのだ。
「クリハ! お前は私になにをするつもりなんだ!」
ル=コボルの視界が汁色に染め上げられた。
いったい、なにが起こったのだろう。
ル=コボルは冷たい水の中を漂っていた。田舎の、用水路らしい。まだ緑色をした稲が
ふさふさと揺れている。
「どうしただね、あんた」
作業着姿の中年女性がこちらを覗き込んでいた。その頭の上に、なにか見える。
『80.5のC』。文字だ。CGのようにボンヤリと浮かび上がっている。
また、唐突に視界が切り替わった。
甲高いクラクションの音がいくつも聞こえる。
都会の雑踏の中だった。ブランド品を身に付けたOLたちが巻き髪を揺らしながら闊歩
している。その頭の上に、やはり文字が見える。
82.5のC、85.3のD、91.2のE、96.7のF。
「や、やめろ」
ようやく理解した。これは、バストサイズだ。いったい目になにをされたのか、道行く
女たちのバストサイズとカップが見えるのだ。
――ル=コボル!
どこからともなく、少女クリハの声が轟く。
――あなたは、未来永劫オッサンと貧乳の狭間を漂いながら、
他人とのバストサイズの差を思い知りつづけるのよ!
ル=コボルは、今度は晴れ渡った田園風景の中にいた。
「どうしたの? オナカいたいの?」
10歳くらいだろうか。幼い女の子が声をかけてくる。
しかしル=コボルは振り返ることが出来ない。
「くっ、ハァーハァー、ハァー」
息が切れる。次はどこに飛ばされる。何カップの乳を見せられる。
「私の前で乳を揺らすなぁーっ!」
ル=コボルは少女クリハの正体を知った。クリスタル・ハートのプラスでも、クリシュ
ナ・ハートのマイナスでもない。ゼロだ。無だ。完全な虚無だ。虚ろな乳そのものだ。
「ンモー! もう2度とこの町とは関わらないモン!」
ゼラド「クリハ! よかった、無事だったんだね!」
クリハ「ゼラド!」
ゼラド「あっ!」
クリハ「もう、こんなことしないで」
ゼラド「あ、うん」
クリハ「ウソでも、聞きたくないよ。ゼラドの告別式なんて」
レイナ「そうよ、あたしだって」
マーズ「おれなんて、素で死んだと思ってたよ」
アイミ「あんまり、趣味のいいことじゃないよ」
ゼラド「うん、ゴメン」
メカギルギルガン「でも、不思議じゃ。
さっきまでお棺の中にいたゼラドちゃんは、たしかに死んでいるように見えた」
ゼラド「こんな話を知っていますか?
真冬、金魚が入った洗面器を外に放置してたら水が凍っちゃった。
当然中にいる金魚も凍っちゃって、
しかも洗面器を運ぼうとした子供が落として金魚ごと氷を割っちゃった。
でも、氷を元通りにくっつけ合わせて解凍してみたら、
金魚は生き返ってまたスイスイ泳ぎだしたって!」
ヴィレアム「なるほど、どこかで聞いたことがあるぞ!」
レイナ「いやいやいやいや」
メカギルギルガン「ゼラドちゃん、君は勘違いをしている。
割れてしまった金魚が生き返るわけがないじゃろう。
氷漬けにされた金魚が蘇生するという例がないことはないが、
あれは単に金魚の体表面まわりの水が凍っているだけで、
金魚の体組織そのものまでが凍っているわけではない。
それでも蘇生率は50パーセントを下回るんじゃ。
まして人間が蘇生するはずがない!」
ゼラド「そのへんは、わたしもフワッとしてますっ!」
メカギルギルガン「なっ!?」
ゼラド「ガリレオ見ただけなんでっ!」
レイナ「ガリレオでそんな話やってたっけ?」
最終更新:2009年10月17日 11:35