19代目スレ 2007/09/16
ゼラド「人の心の声が聞こえるの」
ヴィレアム「ほんとうか?」
ハザリア「また、貴様はわけのわからないことをいう」
ゼラド「ほんとうなの! あのね、はっきり言葉になって聞こえるわけじゃないんだけど、
ぼんやりわかっちゃうっていうか。
こう、『熱い』とか『眠い』とか、ごちゃごちゃって。
あと、嘘ついてるのがわかったり、授業中に誰が手を挙げるか聞こえてきたりして」
ヴィレアム「予知、なのかな。それにしては」
ハザリア「ああ、なるほどなるほど。
つまりこういいたいわけだ。『ゼラドふたたび』」
ゼラド「ふたたびって、一度目はどこに現れたの」
ハザリア「『バランガ家八景』ともいわせたいらしい」
ヴィレアム「やめろ。バランガ家はそういう、人の心の闇をてんこもりにしたもんじゃない」
ハザリア「それほど大したことではない。思春期の人間にはありがちなことだ。
試しにジャンケンでもしてみるか? そら、最初はグーだ」
ヴィレアム「10回連続でゼラドの勝ち? ええと、確率にすると」
ハザリア「こんなことくらい、俺でもできる。
ヴィレアム、このトランプを引いてみろ」
ヴィレアム「ええと」
ハザリア「クラブのジャックだな」
ヴィレアム「それは、お前は念動力者だから」
ハザリア「なんでもかんでも予知だ念動力だといいたがるのは貴様の悪いクセだ。
よく見ろ。このトランプはマジック用だ。カードの裏に、小さくマークが付いているだろう」
ヴィレアム「インチキじゃないか! それに、トランプとジャンケンじゃだいぶ違うだろ」
ハザリア「似たようなものだ。
人間の指先は、外側の伸張する筋肉より内側の収縮する筋肉の方が感覚的に優位に立っている。
グーを出そうとすれば顔が力み、チョキ、パーの順に緩んでいく。
心が読めるというのも、その延長だろう。
人間、嘘をつくときには眼球が右上に動くし、過去のことを思い出すときには左上を向く。
情動や、思い浮かべる色によって表情筋の動きも変わる。
もちろん、どれも小さなサインに過ぎない。
しかし、訓練すれば道路交通法違反上等のメンバーでも読み取ることができる」
ゼラド「わたし、そんな訓練してないけど」
ハザリア「希にだが、天然でできる人間がいる。
古来予言者や千里眼と呼ばれていた人間は、たいていこれだろうよ。
貴様には、前々からその兆候があった。直感だけで事件を解決してしまったりな。
だが、こんなものがまともな状態であるはずがない。多くが精神障害に陥る。
この症状が進むと、緑のサルが見えたり、鏡に映る自分がイグアナに見えたり、
妹が大魔神と不倫したり、学校教育のあり方について電車男と議論するようになってしまう」
ゼラド「電車男さんと、そんな・・・」
ヴィレアム「どうしてもやらなきゃいけないわけじゃないから」
ハザリア「ハーブでもジョイントして寝ていればよくなるだろう」
ゼラド「え、飲むんじゃなくて?」
ヴィレアム「よけいなことを教えるな」
ヴィレアム「ゼラドは早退してったけど、なあ、ほんとにあれで大丈夫なのか?」
ハザリア「なぁに、今回は時間をどうこうしているわけではない。
困るのはバランガひとり。我々にはなんの被害も出ない」
ヴィレアム「お前!」
ハザリア「仮に症状が進んでも、ま、せいぜい初夜のクライマックスに
男側の母親が割り込んでくるぐらいのもので」
ヴィレアム「そんなの、なんとしてでも治さないと!」
ハザリア「なぜ貴様が必死になるのだ?」
3日後
ヴィレアム「ゼラドはまだ目を覚まさないのか!?」
アオラ「うん、ほんとにもう、ずっと眠ってて」
ハザリア「医者には」
アオラ「診せたけど、異常ないっていうんだ。
ただ眠ってるのとおなじ状態だって」
ハザリア「ふむ、明日目覚めるかもしれんし、50年後かもしれんわけか。
10歳の少女が、目を覚ましてみれば老婆になっていて絶望したという話があるな」
ヴィレアム「不安をあおるようなことをいうな!」
アオラ「どうしよう。父さんたちも兄ちゃんたちもいないのに」
ハザリア「よろしい。これを使おう」
ヴィレアム「なんだ、これ」
ハザリア「DCミニといって、他人の夢に潜り込む装置だ。
ハニワの臭いがするデブの博士にもらった」
ヴィレアム「へんな人脈持つなよ、お前は」
ハザリア「これを使ってバランガの夢に入り、症状の原因を突き止める」
アオラ「俺も」
ハザリア「ダメだ。血縁の貴様では、バランガとの親和性が高すぎる。
夢を甘く見るな。下手をすれば、呑み込まれて帰ってこられなくなるぞ。
とはいえ、赤の他人の俺ひとりでは親和性に問題がある。
ヴィレアム、貴様、たしかバランガとは幼なじみだったな。
そのわりに深い絆もなさそうだ。まあ適任だろう。一緒に来い」
ヴィレアム「喜んでいいやら悲しんでいいやら・・・!」
ハザリア「バランガの弟、貴様はこのパソコンで我々の動きをモニターしていろ。
要請があれば、すぐに我々を起こすように」
アオラ「うん、わかった」
ハザリア「それでは、レッツパプリカ!」
ヴィレアム「スパイシー!?」
~。°~。°~。°~。°~。°~。°
クマさん「とてちてたーたーたーたーたーたーたー」
ネコさん「うんぱっぱーうんぱっぱー」
ネズミ「パレードが行くよ! パレードが行くよ!」
ヒツジ「寝ても覚めても少年マンガ男の子の気持ちはてな夢見る力は摩訶不思議マカデ
ミアンナッツをコリコリコリ夢の島ニアイコールスモーキーシティ住んでいるのはカモ
メが一匹土間の下ではネコが一匹ねんねこしゃっしゃれねんねこしゃっしゃれ」
ヴィレアム「これがゼラドの夢の中?
こんなにメチャクチャになってるなんて」
ハザリア「べつに、これは病気のせいではない。
夢が混沌としているのは当たり前のことだ。
フハハハハ! しかし、心ときめくではないか!
俺は、かねがねバランガの精神に興味があったのだ!」
ヴィレアム「なんだと、お前!」
ハザリア「いつもいつもニコニコぷにぷにと、そんな人間が実在してたまるか。
きっと深奥にえげつないものを隠し持っているに違いない。
フハハハ! その点、夢を探るのは実に有効だ!
現実の人間は嘘ばかりつくが、夢で嘘をつける人間はいないからな。
まさに、夜の夢こそがまことというやつだ!」
ヴィレアム「お前、ゼラドを研究素材に見るのは」
フッ
ヴィレアム「なんだ? 急に暗くなって」
ハザリア「おお! なんということだ!
バランガは夢を見ない! 空間! 虚無! それは白痴の、あるいは神の意識にほかならない!」
ヴィレアム「脳ミソだけになって宇宙に飛んでくつもりか、お前は」
ハザリア「ノンレム睡眠に入り、一時的に夢が中断されただけだ。
おい、行くぞ。いまのうちに深層に潜り込むのだ」
~。°~。°~。°~。°~。°~。°
ハザリア「なんだ、あの巨大な提灯は」
ヴィレアム「アサクサのカミナリモン?
たしか、
バランガ夫妻が気に入ってる場所で、何度か家族旅行に来ているはずだ」
ハザリア「そうか、アサクサか。はぁぁぁ~」
ヴィレアム「なんで急にテンション下がってるんだ」
ハザリア「こんな他人の夢ではなく、現実に訪れたかった」
ヴィレアム「あれ、でもおかしいな。この街並みはアサクサじゃないぞ。
どっちかっていうと、俺たちが子供のころ駅前にあった商店街がこんな感じだったような」
ハザリア「なら、その通りなのだろうよ。夢などいい加減なものだ」
ヴィレアム「小さな店がたくさん並んでる。ショーウィンドウに入ってるこれは、なんだ?
赤ん坊? 人形? アオラをデフォルメしたみたいな」
ハザリア「あすこのブティックにはレイナやスレイチェルが入っておるわ。
どうやら、ここは近しい人間を分類しているエリアのようだな。
見よ。向こうの寺の前には、ラミア先生の顔をした仁王が立っておるわ。
どうやら守護者として認識しているらしい」
ヴィレアム「スポーツ用品店にはトウキやアイミ、
武具店にはゼフィア先輩やキャクトラ。向こうの観覧車の真ん中で笑ってるのはイルス先輩か?」
ハザリア「あ、あやつめ、俺のことを高枝切りバサミなどと並べおって。
便利グッズかなにかだとでも思っているのか」
ヴィレアム「あれ、おかしいな」ゴソゴソ
ハザリア「おいこら、貴様なにをしている。触るなッ!」
~。°~。°~。°~。°~。°~。°
ゼラド「ねえ、わたしたちが一緒になってから何年経つかしら」
ヴィレアム「ああ、そろそろ100年だ」
ゼラド「ああ、そうなんだ。じゃあわたし100年死んでるから、100年経ったらまた会いましょう」
ヴィレアム「おいおい、死んでしまうのかい?」
ゼラド「うん。ボクはデメキンになって、100年間オタマジャクシと戯れるんだ」
ヴィレアム「じゃあ、俺は200年間野ウサギになってイチゴをリンゴに変えているよ」
ゼラド「待って、待って、そんなのってないわ」
~。°~。°~。°~。°~。°~。°
ハザリア「なにをしとるか、貴様ァッ!?」
ヴィレアム「わっ、ハザリア!? あれ、ゼラドは、いまのはいったい?」
ハザリア「うかつに夢の中のものに触るからだ!
貴様、夢に取り込まれかけていたぞ」
ヴィレアム「いや、だって、おかしいんだ。
あのショーウィンドウの中に、どうして俺はいなかったんだろう」
ハザリア「なにも不思議なことがあるものか。
バランガの心の中に、貴様がいないというだけだ」
ヴィレアム「そんな」
ゼラド「ねえ、おマンジュウあるよ。ありおりはべりいまそかりは現在進行形だよ」
ヴィレアム「ゼラド、それは」
ハザリア「耳を貸すな。また夢に食われるぞ」
ヴィレアム「でも、ゼラドが持っているのは便器だ」
ハザリア「シニフィアンとシニフィエの結びつきに異常が出てきているようだな。
ものの姿形と名前と音がバラバラになりつつある」
ゼラド「ねえ、おマンジュウ食べないの?」
ハザリア「いらん。さっさと次のノンレム睡眠に入れ」
ゼラド「おマンジュウ食べないとダメだよ。ウンコ出なくなっちゃうでしょう?」
ゼラド「ウンコ出ないと紙おむつを着けられないでしょう」
ゼラド「紙おむつで体じゅうをぐるぐるぐるぐるできないでしょ」
ゼラド「紙おむつをはいてウンコをしないと紙おむつをはいてウンコをしないと」
ハザリア「いうことが子供がかってきたな。だいぶ深層に入ってきたらしい」
ヴィレアム「おい! ゼラドがどんどん出てくるぞ!」
ハザリア「我々を取り込むつもりか。
ひるむな! より強力な夢で対抗するのだ!」
お前は侍である。侍なら悟れぬはずはなかろうと和尚が言った。そういつまでも悟れ
ぬところをもって見ると、お前は侍ではあるまいと言った。人間の屑じゃと言った。は
はあ怒ったなと言って笑った。口惜しければ悟った証拠を持ってこいと言ってぷいと向
うを向いた。怪しからん。
ハザリア「フハハハハ! 夏目漱石の『夢十夜』! たかが少女の夢が勝てるものか!」
ヴィレアム「だから、お前はいったい何人なんだ!?」
ハザリア「浮き世は夢よただ狂えおお今こそバビロンの黄金伝説が緑ジャケットを否定するのだ」
ヴィレアム「おい、なにいってるんだ!?」
ハザリア「チッ! まずいな。俺まで取り込まれかけている。
バランガの弟! 聞こえるな。これ以上は危険だ。我々を覚醒させろ!」
~。°~。°~。°~。°~。°~。°
パチンッ
アオラ「2人とも、大丈夫かい?」
ヴィレアム「アオラか。ここは現実なのか?」
ハザリア「よし、記録映像を再生しろ。そこから分析を」
アオラ「黒い太陽からの夢電波が半減したんデス」
ヴィレアム「アオラ!?」
ハザリア「しまった! ここはまだ夢の中だ!」
~。°~。°~。°~。°~。°~。°
ゼラド「昨日、お地蔵さまがわたしのお腹の中に入ってきたの。
だから、今度生まれてくる赤ちゃんはきっとお地蔵さまよ。
赤ちゃんが生まれてきたら、天蓋付きのベッドを買いましょう。
大きな大きな柵が付いてて、介護が必要になっても大丈夫なように角度がカクカクするやつ。
そういうベッドなら、おじいちゃんになるまで入れておけるでしょう?」
ダーン ダーン ダーン
ヴィレアム「柵が!? 囲まれた!」
ハザリア「ちいっ、この独占欲! 所有欲! この傲慢さがバランガの本質か!」
ヴィレアム「ゼラドはそんなコじゃ」
ハザリア「ではなんだというのだ。やつは、なんとしてでも捕まえておきたい相手でもいるのか!?」
アオラ「だめだよゼラド。金魚は川に放してあげよう」
ゼラド「いやよ、いやよ、金魚は川で三代経つとフナになっちゃうの!
金魚は金魚鉢の中でしか金魚になれないの!」
アラド「金魚は川を泳ぐものだよ。金魚は川を泳ぐものだよ」
ヴィレアム「アラドさん? なんで」
ハザリア「おそらく、『老賢者』だ。
精神を構成する原型のひとつで、主に理性の擬人化として現れる。
多くは父親の形をしているが、あれはおかしいな。ぷにぷにし過ぎている。
『老賢者』は本来峻厳な姿をしているものだが」
ゼラド「いや! 金魚鉢に入れるの! 金魚鉢に入れるの!
パァンッ
ヴィレアム「アラドさんが砕かれた!」
ハザリア「理性を砕いたか! まずいぞ!」
ドスン! ドスン! ドスン! ドスン!
銀色の男「俺は黒いデメキンに乗って飛んでいく」ダダダダダ
紫色の男「ダメだ。その道は俺が通るんだ。黒い野ウサギに乗って」ダダダダダ
ゼラド「だめ、だめ、行っちゃだめ!」
ヴィレアム「なんだ、あれは? ふたりの男が戦いながら走っていく」
ハザリア「アニムス。女性の中にいる男性像だ。しかし、2体だと!?」
ゼラド「だめ、だめ、行っちゃだめ!」
グラグラグラグラ
ハザリア「夢が揺れている! 脱走をはかる2体のアニムス!
喪失への恐怖! おののき! 不安! これが混乱を起こしている原因か!?」
ヴィレアム「どうしたら」
ハザリア「とにかく、願望をかなえてやるしかあるまい。
そこの金魚鉢をアニムスに向かって投げつけろ! 閉じこめるのだ!」
ヴィレアム「よし!」
銀色の男「俺は川を泳ぐ俺は川を泳ぐ」ダダダダダ
紫色の男「俺は池の中にいる俺は池の中にいる」
ヴィレアム「銀色が逃げた!」
ハザリア「構うな! そこに散らばっている
アラド・バランガの破片を集めてこね合わせろ。
バランガの理性を復活させるのだ!」
アラド「金魚は閉じこめてはいけないんだ金魚は閉じこめてはいけないんだ」
ゼラド「うん、そうね。悲しいけど、寂しいけど、そうなんだね・・・・・・」
ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン
~。°~。°~。°~。°~。°~。°
ゼラド「う~ん、ぼーっとする。わたし、どのくらい寝てたの」
アオラ「三日だよ」
ゼラド「お腹空いたぁ」
ヴィレアム「ようやく戻ってきたか。ここは、本当に現実なのか?」
ハザリア「ああ、痛い目にあった。金輪際、他人の夢になど入らんぞ」
ヴィレアム「2体のアニムスのせめぎ合いがゼラドを混乱させていたのか?
でも、なんで2体いたんだろう」
ハザリア「その答えを知っているのかいないのか
俺の笑みはますます仏像のそれに近づいていくのだった」
ヴィレアム「いや、一切近づいてないから」
最終更新:2009年11月14日 11:09