夢の終わり(前編) ◆ew5bR2RQj.
「ハァ、ハァ……」
肩で息をしながら、急ぎ足で階段を降りるアイゼル。
錬金術の才能はある彼女も身体能力は一般人と大差ないため、四階から全速力で階段を駆け下りるのは辛いものがある。
しかしそんなことを言っている余裕はない。
次元やジェレミアの方が、もっと辛い状況に立たされているのだから。
錬金術の才能はある彼女も身体能力は一般人と大差ないため、四階から全速力で階段を駆け下りるのは辛いものがある。
しかしそんなことを言っている余裕はない。
次元やジェレミアの方が、もっと辛い状況に立たされているのだから。
「ジェレミア卿!」
そうして正面玄関に辿り着いた彼女が見た光景は。
「ア、アイゼルさん!?」
傷口から血を流し続ける五ェ門と、彼の治療を必死で続けるつかさと北岡。
「チィッ!」
冷徹に銃弾を放つゾルダと、それを回避し続ける次元。
鈍器のような剣を振り回す浅倉、そして――――
鈍器のような剣を振り回す浅倉、そして――――
「浅倉威ィッ!!」
鬼気迫る顔で浅倉と切り結ぶジェレミアの姿だった。
「…………」
声が出ない。
病院の四階から窓越しに見る戦場と、正面から直に見る戦場はあまりに違いすぎた。
粉塵が舞い、銃弾が飛び交い、怒声が轟く。
彼女もそれなりに修羅場をくぐっているが、ここは全く異質な場所だ。
一歩間違えれば、全てが終わる。
日本刀を五ェ門かジェレミアに渡すつもりだったが、今の五ェ門が戦線復帰などできるわけがない。
そして、ジェレミアは周囲の状況が見えていない。
浅倉がルルーシュの真の仇である以上、彼が憤慨するのも当然だ。
つかさを襲った時とは違い、今は明確な殺意を見せている。
繰り出される剣戟は、全て浅倉を殺すためのものだ。
だが、何故か不安を覚える。
彼の剣は一度も浅倉には届いていないからか。
疲労が溜まっているとか、左腕の剣が使えないとかそんな理由ではない。
もっと根本的なところにあるような気がした。
病院の四階から窓越しに見る戦場と、正面から直に見る戦場はあまりに違いすぎた。
粉塵が舞い、銃弾が飛び交い、怒声が轟く。
彼女もそれなりに修羅場をくぐっているが、ここは全く異質な場所だ。
一歩間違えれば、全てが終わる。
日本刀を五ェ門かジェレミアに渡すつもりだったが、今の五ェ門が戦線復帰などできるわけがない。
そして、ジェレミアは周囲の状況が見えていない。
浅倉がルルーシュの真の仇である以上、彼が憤慨するのも当然だ。
つかさを襲った時とは違い、今は明確な殺意を見せている。
繰り出される剣戟は、全て浅倉を殺すためのものだ。
だが、何故か不安を覚える。
彼の剣は一度も浅倉には届いていないからか。
疲労が溜まっているとか、左腕の剣が使えないとかそんな理由ではない。
もっと根本的なところにあるような気がした。
「ジェレミア卿!!」
アイゼルは再びジェレミアの名を叫ぶ。
その声に、彼が反応することはない
その声に、彼が反応することはない
(ジェレミア卿……)
この不安が杞憂であればそれでいい。
しかし、どうしてもそれを掻き消すことはできなかった。
しかし、どうしてもそれを掻き消すことはできなかった。
「え……足音?」
リノリウムの床を蹴る足音。
今四階に残っているのは、奈緒子と詩音の二人だけ。
二人のうちで、こんな危険な場所に赴く理由があるのは一人だけだ。
今四階に残っているのは、奈緒子と詩音の二人だけ。
二人のうちで、こんな危険な場所に赴く理由があるのは一人だけだ。
「奈緒子の奴! 詩音さんを任せるって言ったじゃない!」
間抜けな奈緒子のことだから、おそらく銃を奪われたのだろう。
彼女の予想通り、階段から現れたのは詩音だった。
彼女はそのまま自分たちには一瞥もくれず、カラシニコフを構えて正面玄関を突っ切って行く。
彼女の予想通り、階段から現れたのは詩音だった。
彼女はそのまま自分たちには一瞥もくれず、カラシニコフを構えて正面玄関を突っ切って行く。
「待ちなさい!」
アイゼルは詩音に声をかけるが、彼女は振り向かない。
それぞれの思惑が交差する中、戦場に新たな闖入者が訪れる。
それぞれの思惑が交差する中、戦場に新たな闖入者が訪れる。
☆ ☆ ☆
剣と剣が衝突する音に紛れ、銃声が鳴る。
それはレイの銃から発射されたもので、銃弾は次元の心臓を狙っていた。
それはレイの銃から発射されたもので、銃弾は次元の心臓を狙っていた。
「チィッ!」
発射される銃弾を回避し、返す刀で銃口を向ける。
しかしその時には、既にレイの銃口が次元へと向いていた。
しかしその時には、既にレイの銃口が次元へと向いていた。
「ったく、連射もできてリロードの必要もないとかいい加減にしやがれってんだ!」
一分間で百二十発ものエネルギー弾を吐き出すマグナバイザー。
それだけでも驚異なのに、さらに装填の必要もないと来た。
やはりと言うべきか、仮面ライダーの相手は手に余る。
下手に接近すればギガホーンで貫かれ、身を隠せばギガキャノンに焼かれる。
そして一発でも攻撃を喰らえば、それはファイナルベントを発動させる隙に繋がってしまう。
それだけでも驚異なのに、さらに装填の必要もないと来た。
やはりと言うべきか、仮面ライダーの相手は手に余る。
下手に接近すればギガホーンで貫かれ、身を隠せばギガキャノンに焼かれる。
そして一発でも攻撃を喰らえば、それはファイナルベントを発動させる隙に繋がってしまう。
「ふざけやがって、よぉ!」
発射された銃弾を横っ飛びで避け、同時にレイへと狙いを定める。
相手もすぐにマグナバイザーを向けてきたが、次元の方が一瞬だけ速い。
これを好機と判断し、次元は発砲する。
狙いはマグナバイザーのグリップを握る右手、これさえ撃ち落せばファイナルベントを発動できなくなる。
次元の勝利条件は、レイを倒すことではない。
ファイナルベントを使用させず、変身を解除させることだ。
だがその銃弾は、レイへ届く前にギガホーンに叩き落とされていた。
先ほどからこの繰り返し。
僅かな隙を縫って発砲しても、躱されるか叩き落とされるかの二択。
これにより弾薬は消費され、残弾数が二発まで追い込まれていた。
相手もすぐにマグナバイザーを向けてきたが、次元の方が一瞬だけ速い。
これを好機と判断し、次元は発砲する。
狙いはマグナバイザーのグリップを握る右手、これさえ撃ち落せばファイナルベントを発動できなくなる。
次元の勝利条件は、レイを倒すことではない。
ファイナルベントを使用させず、変身を解除させることだ。
だがその銃弾は、レイへ届く前にギガホーンに叩き落とされていた。
先ほどからこの繰り返し。
僅かな隙を縫って発砲しても、躱されるか叩き落とされるかの二択。
これにより弾薬は消費され、残弾数が二発まで追い込まれていた。
(まずいな……ん、あいつは?)
銃弾を避けつつ対抗策を構築している最中、次元の視界にカラシニコフを構えた詩音の姿が映る。
彼女は最初に相対した時、これの扱いは慣れていると言った。
銃火器のプロフェッショナルである自分には劣るだろうが、それでもこの状況での援軍はありがたかった。
詩音は正面玄関の入口を陣取っていて、次元がそれを正面から見る形でゾルダと対峙している。
つまり詩音のいる場所は、レイにとって背後という完全な死角。
奇襲をかけるには、今が絶好のチャンスだ。
レイに悟られぬよう、詩音の射線上から外れる次元。
それを見計らって、詩音はカラシニコフの引き金を引く。
彼女は最初に相対した時、これの扱いは慣れていると言った。
銃火器のプロフェッショナルである自分には劣るだろうが、それでもこの状況での援軍はありがたかった。
詩音は正面玄関の入口を陣取っていて、次元がそれを正面から見る形でゾルダと対峙している。
つまり詩音のいる場所は、レイにとって背後という完全な死角。
奇襲をかけるには、今が絶好のチャンスだ。
レイに悟られぬよう、詩音の射線上から外れる次元。
それを見計らって、詩音はカラシニコフの引き金を引く。
「ッ!」
数十の弾丸が矢のように駆け抜け、命を貪らんと雄叫びを上げる。
そこでようやく気付いたのか、レイは背後を振り向く。
だが、弾丸は既に目前にまで近づいていた。
そこでようやく気付いたのか、レイは背後を振り向く。
だが、弾丸は既に目前にまで近づいていた。
「ぐうっ!」
くぐもった声が漏らすレイ。
寸前で回避を試みたが、全ての銃弾を躱すには至らない。
数発の銃弾が強化スーツに命中し、内側の肉体に銃創を刻んだ。
いくらライダーの力によって強化されていても、剣で突かれたり銃で撃たれたりすれば負傷はする。
しかしその程度だ。
普通の人間であれば致命傷になる攻撃も、ライダーに対しては致命傷にならない。
その証拠に、レイはもう立ち上がろうとしている。
寸前で回避を試みたが、全ての銃弾を躱すには至らない。
数発の銃弾が強化スーツに命中し、内側の肉体に銃創を刻んだ。
いくらライダーの力によって強化されていても、剣で突かれたり銃で撃たれたりすれば負傷はする。
しかしその程度だ。
普通の人間であれば致命傷になる攻撃も、ライダーに対しては致命傷にならない。
その証拠に、レイはもう立ち上がろうとしている。
(タフ過ぎんだろ、だが――――)
一発で足りないなら、くたばるまで撃ち続けてやればいい。
依れた帽子を直し、体勢を立て直す。
そうして銃を構えた瞬間、ふと心臓を直接冷やされたかのような悪寒が全身に走った。
依れた帽子を直し、体勢を立て直す。
そうして銃を構えた瞬間、ふと心臓を直接冷やされたかのような悪寒が全身に走った。
(なんだ……?)
素人の直感はアテにならないが、これは何度も死線を越えてきた男の直感だ。
最後の最後で一番頼りになるのは自分だということを、次元はよく理解している。
彼が感じているのは殺気だった。
最後の最後で一番頼りになるのは自分だということを、次元はよく理解している。
彼が感じているのは殺気だった。
(……どいつだ?)
レイはまだ攻撃態勢に移っていない。
引き金に指をかけつつ、周囲の状況を確認する。
そうして目に入ったのは、カラシニコフの銃口をレイに向ける詩音。
カラシニコフの銃口を”レイと次元のいる方向”に向ける詩音の姿だった。
引き金に指をかけつつ、周囲の状況を確認する。
そうして目に入ったのは、カラシニコフの銃口をレイに向ける詩音。
カラシニコフの銃口を”レイと次元のいる方向”に向ける詩音の姿だった。
「ッ!!」
そう、詩音、次元、レイは再び一直線に並んでいたのだ。
「ぐおぉっ!」
銃を急いで取り下げ、地面にへばりつくように転がる次元。
同時に幾重にも銃声が轟き、彼が数秒前までいた場所を弾丸が通過していった。
同時に幾重にも銃声が轟き、彼が数秒前までいた場所を弾丸が通過していった。
(あの女……!)
「チィッ、くそ!」
レイだけでも手に余るのに、さらに遠方からの射撃が加わった。
命中精度が劣るとはいえ、二人同時に相手など勘弁願いたい。
レイの方も上手く回避したのだろう、今は走りながら銃弾を避け続けている。
その射線上に次元はいないためか、今は銃口が向けられることはない。
今後の立ち回り方を考えようと頭を回すが、そこに新たな乱入者が現れる。
命中精度が劣るとはいえ、二人同時に相手など勘弁願いたい。
レイの方も上手く回避したのだろう、今は走りながら銃弾を避け続けている。
その射線上に次元はいないためか、今は銃口が向けられることはない。
今後の立ち回り方を考えようと頭を回すが、そこに新たな乱入者が現れる。
「次は俺と遊んでくれよ、偽物さんよぉ!」
乱雑に剣を振るいながら、レイに殴りかかる浅倉。
死角からの奇襲を回避できず、レイはその一撃をまともに喰らってしまう。
肩に装着されていたギガキャノンが砕け、彼は数歩後退させられる。
そんなことはお構いなしに、浅倉は二度目の斬撃を振るってきた。
死角からの奇襲を回避できず、レイはその一撃をまともに喰らってしまう。
肩に装着されていたギガキャノンが砕け、彼は数歩後退させられる。
そんなことはお構いなしに、浅倉は二度目の斬撃を振るってきた。
「チクショウ、あの野郎まで首を突っ込んできやがった!」
悪態をつく次元。
辺りを見回すと、そこには剣を杖に片膝をつくジェレミアの姿があった。
辺りを見回すと、そこには剣を杖に片膝をつくジェレミアの姿があった。
「ぐぅっ……」
ジェレミアと浅倉、ここに来て体力の差が大きく出た。
浅倉は悟史の呼び掛け以来、まともな戦闘は一度も行っていない。
一方でジェレミアは、五ェ門にレイと連戦を行った直後に王蛇との戦闘。
ただでさえ強敵である浅倉に対して、疲弊した身体で応戦するのは無理があったのだ。
浅倉は悟史の呼び掛け以来、まともな戦闘は一度も行っていない。
一方でジェレミアは、五ェ門にレイと連戦を行った直後に王蛇との戦闘。
ただでさえ強敵である浅倉に対して、疲弊した身体で応戦するのは無理があったのだ。
「引き下がるしかねぇか……」
二人相手なら辛うじて立ち回れたが、そこに浅倉が絡んでくるなら話は別だ。
まだ浅倉は五分以上の変身時間を残しているし、ライダーの中でもトップクラスの実力を持つと聞く。
それをたった二発で応戦など、蛮勇を通り越して無謀である。
ガンマンとしての矜持もあるが、一番大事なのはやはり命。
こちらの勝利はゾルダのファイナルベントの阻止だから、浅倉が足止めしてくれればそれで問題ない。
そう判断した次元は銃を収め、詩音が陣取っている正面玄関まで後退した。
まだ浅倉は五分以上の変身時間を残しているし、ライダーの中でもトップクラスの実力を持つと聞く。
それをたった二発で応戦など、蛮勇を通り越して無謀である。
ガンマンとしての矜持もあるが、一番大事なのはやはり命。
こちらの勝利はゾルダのファイナルベントの阻止だから、浅倉が足止めしてくれればそれで問題ない。
そう判断した次元は銃を収め、詩音が陣取っている正面玄関まで後退した。
「おい、嬢ちゃん」
「……なんです?」
「……なんです?」
こちらに一瞥もくれず、二人のライダーに銃口を定める詩音。
最初に会った時は殺すのを躊躇していたのに、今はしっかりと身体を狙いに定めている。
たった数時間で随分と様変わりしたもんだ、と次元は皮肉げに笑む。
それでも浅倉を相手にするのは不可能と判断したのか、彼が介入してから発砲はしていない。
最初に会った時は殺すのを躊躇していたのに、今はしっかりと身体を狙いに定めている。
たった数時間で随分と様変わりしたもんだ、と次元は皮肉げに笑む。
それでも浅倉を相手にするのは不可能と判断したのか、彼が介入してから発砲はしていない。
「お前、俺を狙ったな」
「なんのことです?」
わざとらしい演技で次元の言葉を否定する。
「とぼけんなよ」
詩音の背中に銃を突きつける。
「俺を誰だと思っている? テメェみたいなガキの狙いなんざすぐに分かるんだよ」
次元はあらゆる重火器に精通している。
それは単に兵器を扱えるというだけでなく、それらの対抗手段まで完璧に把握しているということ。
素人に毛が生えた程度の小娘の狙いなど、次元には手に取るように分かるのだ。
それは単に兵器を扱えるというだけでなく、それらの対抗手段まで完璧に把握しているということ。
素人に毛が生えた程度の小娘の狙いなど、次元には手に取るように分かるのだ。
「……私はあくまでゾルダを狙っただけですよ、そこにたまたまおじ様がいただけです」
「屁理屈垂れてんじゃねぇよ、今の状況分かってんのか?
その銃を渡して、嬢ちゃんは引っ込んでな」
「屁理屈垂れてんじゃねぇよ、今の状況分かってんのか?
その銃を渡して、嬢ちゃんは引っ込んでな」
銃口を背中に捩じ込むように押し付け、嫌でもその存在を理解させる。
「ここで撃てば、立場が悪くなるのはおじ様の方ですよ?」
だが詩音は脅迫に屈さなかった。
次元は引き金に指を絡めながら、奥歯をぎしりと噛み締める。
ここで発砲すれば立場が悪くなるのを、彼も理解しているからだ。
もしこの場にいるのが詩音だけだったなら、次元は彼女を殺していただろう。
だがこの場には、詩音以外にも大勢の人間がいた。
特に五ェ門やジェレミアとは、今後も協力関係を保っておきたい。
だがもしここで詩音を殺害してしまえば、次元は彼らから仲間殺しの烙印を押されるだろう。
今は脅迫がバレないように銃を自らの身体で隠しているが、脅迫と殺害はまるで違う。
一度人を殺してしまえば今後も協力関係を結ぶのは困難だし、危険人物として情報を流布される可能性もある。
だから脅迫という姑息な手段に頼るしかなかった。
次元は引き金に指を絡めながら、奥歯をぎしりと噛み締める。
ここで発砲すれば立場が悪くなるのを、彼も理解しているからだ。
もしこの場にいるのが詩音だけだったなら、次元は彼女を殺していただろう。
だがこの場には、詩音以外にも大勢の人間がいた。
特に五ェ門やジェレミアとは、今後も協力関係を保っておきたい。
だがもしここで詩音を殺害してしまえば、次元は彼らから仲間殺しの烙印を押されるだろう。
今は脅迫がバレないように銃を自らの身体で隠しているが、脅迫と殺害はまるで違う。
一度人を殺してしまえば今後も協力関係を結ぶのは困難だし、危険人物として情報を流布される可能性もある。
だから脅迫という姑息な手段に頼るしかなかった。
(このアマ……)
背中に銃口を突きつけられても顔色一つ変えず、逆に次元を脅迫する始末。
大した胆力の女だと、次元は舌を巻く。
帽子の下の双眼を尖らせ、次元は周囲を見渡す。
黙々とチャンスを窺う詩音を、肉弾戦を続ける二人のライダーを。
大した胆力の女だと、次元は舌を巻く。
帽子の下の双眼を尖らせ、次元は周囲を見渡す。
黙々とチャンスを窺う詩音を、肉弾戦を続ける二人のライダーを。
☆ ☆ ☆
レイとの戦闘を続行していた浅倉は、言いようのない憤りを感じていた。
先ほどから彼が繰り出す攻撃は、一つもレイに届かない。
本来のゾルダである北岡は、接近戦が苦手でそれを避けている節があった。
彼はそれを理屈で理解していた訳ではないが、本能的にそれを察知して接近戦を仕掛けていた。
だが今のゾルダは違う。
接近戦も難なく熟し、逆に浅倉を圧倒している。
ゾルダのデッキは不治の病に蝕まれている北岡のためか、他のデッキよりもスペックが高めに設計されている。
不治の病という制約が取り払われた今、ゾルダはまさに最強のライダーと化していた。
先ほどから彼が繰り出す攻撃は、一つもレイに届かない。
本来のゾルダである北岡は、接近戦が苦手でそれを避けている節があった。
彼はそれを理屈で理解していた訳ではないが、本能的にそれを察知して接近戦を仕掛けていた。
だが今のゾルダは違う。
接近戦も難なく熟し、逆に浅倉を圧倒している。
ゾルダのデッキは不治の病に蝕まれている北岡のためか、他のデッキよりもスペックが高めに設計されている。
不治の病という制約が取り払われた今、ゾルダはまさに最強のライダーと化していた。
「貴様ァッ!」
罵声と共にベノサーベルを振り下ろす浅倉。
しかし単調な攻撃故に、回避することは容易い。
横に軸をずらして避けたところで、レイは懐からギガホーンを突き出した。
しかし単調な攻撃故に、回避することは容易い。
横に軸をずらして避けたところで、レイは懐からギガホーンを突き出した。
「おぉっ! クハハ、いいぜぇ!」
二本の角が王蛇に突き刺さり、接触面から火花を散らす。
傍目に見ても相当な威力だと分かるが、この程度で浅倉は怯まない。
仮面の下で狂気の笑いを発し、目の前の仇敵に再び切り込んだ。
浅倉が獰猛な野獣なら、レイは冷酷な機械。
乱雑に繰り出される斬撃を、機械的に回避していく。
そして発生した僅かな間隙を縫って、銃撃や刺突を叩き込む。
だが浅倉が倒れることはなく、動きが衰えることもない。
むしろ動きの鋭敏さは、どんどんと増しつつあった。
傍目に見ても相当な威力だと分かるが、この程度で浅倉は怯まない。
仮面の下で狂気の笑いを発し、目の前の仇敵に再び切り込んだ。
浅倉が獰猛な野獣なら、レイは冷酷な機械。
乱雑に繰り出される斬撃を、機械的に回避していく。
そして発生した僅かな間隙を縫って、銃撃や刺突を叩き込む。
だが浅倉が倒れることはなく、動きが衰えることもない。
むしろ動きの鋭敏さは、どんどんと増しつつあった。
「はぁッ!」
そしてついに浅倉の放った一撃は、レイを捉えることに成功する。
今までは回避し続けていたレイは、真上から降ってきた斬撃を受け止めざるを得なかったのだ。
今までは回避し続けていたレイは、真上から降ってきた斬撃を受け止めざるを得なかったのだ。
「ハハハハハハハハハハッ!!」
王蛇のベノサーベルとゾルダのギガホーンが拮抗する。
ベノサーベルのAPは3000で、ギガホーンのAPは2000。
数字は絶対ではないが正直だ。
だんだんとレイは押し込まれ、ギガホーンに亀裂が走っていく。
単純な力勝負に縺れ込んだ場合は、やはり浅倉の方に分がある。
ベノサーベルのAPは3000で、ギガホーンのAPは2000。
数字は絶対ではないが正直だ。
だんだんとレイは押し込まれ、ギガホーンに亀裂が走っていく。
単純な力勝負に縺れ込んだ場合は、やはり浅倉の方に分がある。
「ッ!?」
だが、それはあくまで単純な力勝負の話である。
レイはギガホーンの重心を逸らし、ベノサーベルとの衝突点を角の曲線部分へと持っていく。
力押しに全体重を掛けていた浅倉は体勢を崩し、その隙にレイはギガホーンを勢いよくかち上げる。
するとベノサーベルは浅倉の手を離れ、孤を描くように宙へと投げ出された。
レイはギガホーンの重心を逸らし、ベノサーベルとの衝突点を角の曲線部分へと持っていく。
力押しに全体重を掛けていた浅倉は体勢を崩し、その隙にレイはギガホーンを勢いよくかち上げる。
するとベノサーベルは浅倉の手を離れ、孤を描くように宙へと投げ出された。
「ぐあぁっ!」
浅倉の脇腹を直撃するレイの回し蹴り。
元から体勢を崩していた浅倉は、転倒して地面に投げ出される。
レイは得物も腕力を要しない銃であり、筋力も特筆するほど優れているわけではない。
だがそれを言い訳にできるほど、彼の復讐は簡単ではない。。
腕力を武器に戦う相手への対処法も、当然彼は編み出していた。
元から体勢を崩していた浅倉は、転倒して地面に投げ出される。
レイは得物も腕力を要しない銃であり、筋力も特筆するほど優れているわけではない。
だがそれを言い訳にできるほど、彼の復讐は簡単ではない。。
腕力を武器に戦う相手への対処法も、当然彼は編み出していた。
☆ ☆ ☆
一連の流れを見ていた次元は、思わず肝を冷やした。
北岡が最強と評した王蛇が、こんなにも呆気なく敗れた。
ゾルダの相手をしていた王蛇が倒れたということは、ゾルダが自由に動ける時間を得たということ。
たった数秒ではあるが、それでもエンド・オブ・ワールドの発動には十分過ぎる。
北岡が最強と評した王蛇が、こんなにも呆気なく敗れた。
ゾルダの相手をしていた王蛇が倒れたということは、ゾルダが自由に動ける時間を得たということ。
たった数秒ではあるが、それでもエンド・オブ・ワールドの発動には十分過ぎる。
「次元、あいつを止めろ!」
背後から北岡の声が届く。
五ェ門の治療をしていた北岡も、今の状況のヤバさに気付いたのだろう。
五ェ門の治療をしていた北岡も、今の状況のヤバさに気付いたのだろう。
「分かってらぁ!」
詩音に突き付けていた銃口を、即座にレイに向けて引き金を絞る次元。
その隙に詩音が走り去っていくが、もはやどうでもいい話である。
彼が射撃の名手であることは周知の事実だが、その中でも特に優れているのは早撃ち。
0.3秒というその数値は、多くの同業者達に畏怖と尊敬の念を抱かせた。
今の彼が所持している銃は愛用のものではないが、それでも速度が衰えることはない。
レイが転倒した浅倉から距離を取るのを視認した時には、既に銃声は響いている。
銃身から薬莢が吐き出され、銃口から弾丸が飛び出す。
火薬により推進力を得た弾丸は、浅倉が立ち上がるよりも、レイがカードを装填するよりも速い。
ファイナルベントを発動するには、いくつかの行程を踏む必要がある。
これならばレイが装填するよりも早く、銃弾は彼の手からマグナバイザーを叩き落すだろう。
そう、確信していた。
しかし、銃弾がレイに届くことはなかった。
その隙に詩音が走り去っていくが、もはやどうでもいい話である。
彼が射撃の名手であることは周知の事実だが、その中でも特に優れているのは早撃ち。
0.3秒というその数値は、多くの同業者達に畏怖と尊敬の念を抱かせた。
今の彼が所持している銃は愛用のものではないが、それでも速度が衰えることはない。
レイが転倒した浅倉から距離を取るのを視認した時には、既に銃声は響いている。
銃身から薬莢が吐き出され、銃口から弾丸が飛び出す。
火薬により推進力を得た弾丸は、浅倉が立ち上がるよりも、レイがカードを装填するよりも速い。
ファイナルベントを発動するには、いくつかの行程を踏む必要がある。
これならばレイが装填するよりも早く、銃弾は彼の手からマグナバイザーを叩き落すだろう。
そう、確信していた。
しかし、銃弾がレイに届くことはなかった。
「浅倉威イイイイイイイイイイイイイィィィィィィッ!!!!」
銃弾は浅倉の元に駆けつけたジェレミアの半身に命中し、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。
唖然とする次元。
視線の先にいる緑色の戦士が、仮面の下でほくそ笑んだような気がした。
唖然とする次元。
視線の先にいる緑色の戦士が、仮面の下でほくそ笑んだような気がした。
――――FINAL VENT――――
認証音と共に、レイの足元の水溜りからマグナギガが姿を現す。
こうなってしまえば、もう止める術など存在しない。
マグナギガの背中にバイザーをセットするレイ。
咆哮とともにマグナギガの両腕が上がり、膝、胸、額の砲門が開く。
エネルギーが全身を駆け巡り、一瞬にして充填が完了する。
こうなってしまえば、もう止める術など存在しない。
マグナギガの背中にバイザーをセットするレイ。
咆哮とともにマグナギガの両腕が上がり、膝、胸、額の砲門が開く。
エネルギーが全身を駆け巡り、一瞬にして充填が完了する。
「逃げろおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
轟く次元の声。
引き金を引くレイ。
そして――――
引き金を引くレイ。
そして――――
「デリート」
再び、世界の終わりが訪れた。
次元大介とレイ・ラングレン。
両者とも射撃の名手であることに間違いはないが、総合的に優れているのは次元の方であった。
多くの銃火器の扱いを熟知しているのはもちろんのこと、決定的に違うのは年季だ。
レイは妻をカギ爪の男に奪われてから数年だが、次元はもう数十年は裏の世界に身を置いている。
いずれレイもその境地に辿り着いたのかもしれないが、現状では次元の方が優れていた。
そんな次元でも、一つだけ持っていないものがあった。
それはたった一人の仇敵の命を渇望する、燃え盛るようなどす黒い復讐心。
復讐に囚われているレイだったからこそ、数秒先の未来を操ることができたのだ。
もし目の前に大事な人を殺した仇敵が倒れこんできたらどうするか?
答えはあまりにも単純で明快だ。
例え致命傷を負っていようが失明していようが、地を蹴ってその喉元に喰らいつく。
復讐者の心理を理解していたからこそ、ジェレミアを盾にするという策を画策できたのだ。
そしてその目論見は見事に成功した。
浅倉をジェレミアの視線の先に蹴り飛ばすことで、彼の復讐心を再起させる。
そうすればジェレミアは浅倉を殺すため、自らの盾になる地点に現れると確信していたのだ。
両者とも射撃の名手であることに間違いはないが、総合的に優れているのは次元の方であった。
多くの銃火器の扱いを熟知しているのはもちろんのこと、決定的に違うのは年季だ。
レイは妻をカギ爪の男に奪われてから数年だが、次元はもう数十年は裏の世界に身を置いている。
いずれレイもその境地に辿り着いたのかもしれないが、現状では次元の方が優れていた。
そんな次元でも、一つだけ持っていないものがあった。
それはたった一人の仇敵の命を渇望する、燃え盛るようなどす黒い復讐心。
復讐に囚われているレイだったからこそ、数秒先の未来を操ることができたのだ。
もし目の前に大事な人を殺した仇敵が倒れこんできたらどうするか?
答えはあまりにも単純で明快だ。
例え致命傷を負っていようが失明していようが、地を蹴ってその喉元に喰らいつく。
復讐者の心理を理解していたからこそ、ジェレミアを盾にするという策を画策できたのだ。
そしてその目論見は見事に成功した。
浅倉をジェレミアの視線の先に蹴り飛ばすことで、彼の復讐心を再起させる。
そうすればジェレミアは浅倉を殺すため、自らの盾になる地点に現れると確信していたのだ。
黒煙が晴れ、総合病院の惨状が露になる。
蔓延する火薬の臭い、焼け焦げた地面、崩れ落ちた柱、散乱する瓦礫の山。
一階は完全に破壊され、二階以降にも大きな損害を齎した。
蔓延する火薬の臭い、焼け焦げた地面、崩れ落ちた柱、散乱する瓦礫の山。
一階は完全に破壊され、二階以降にも大きな損害を齎した。
「ぐぅ……うっ……」
そして、その地に立ち尽くす男が一人。
自慢のダークスーツは無残にも焼け爛れ、露出した肌の至るところに火傷が刻まれている。
男は銃火器の名手であり、その扱い方や対処法を熟知していた。
しかしいくら熟知していようと、それらを一斉に向けられればどうしようもない。
たった一人の人間が、戦争の結果を変えることはできないのだ。
自慢のダークスーツは無残にも焼け爛れ、露出した肌の至るところに火傷が刻まれている。
男は銃火器の名手であり、その扱い方や対処法を熟知していた。
しかしいくら熟知していようと、それらを一斉に向けられればどうしようもない。
たった一人の人間が、戦争の結果を変えることはできないのだ。
「クソッタレ……」
男――――次元大介は意識を手放し、焼け焦げた地面の上に倒れた。
☆ ☆ ☆
「あ~~、どうしよう!」
時間は遡り、詩音が病室を出た直後。
一人取り残された奈緒子は、今後の身の振り方を見出せずに喘いでいた。
外から聞こえてくるのは銃声と怒号の嵐。
恐る恐る覗いてみると、日曜の朝の特撮に出てきそうな緑と紫の奴がジェレミア次元と戦っている。
こんな時にコスプレとはいいご身分だと突っ込みたくなるが、彼らの武器は本物だ。
普通の銃や剣も何度か見ているが、決して見慣れてはいない。
目前に迫っている死の臭いに、彼女の恐怖心は頂点に達しかけていた。
一人取り残された奈緒子は、今後の身の振り方を見出せずに喘いでいた。
外から聞こえてくるのは銃声と怒号の嵐。
恐る恐る覗いてみると、日曜の朝の特撮に出てきそうな緑と紫の奴がジェレミア次元と戦っている。
こんな時にコスプレとはいいご身分だと突っ込みたくなるが、彼らの武器は本物だ。
普通の銃や剣も何度か見ているが、決して見慣れてはいない。
目前に迫っている死の臭いに、彼女の恐怖心は頂点に達しかけていた。
(逃げたい、とても逃げたい、でも……)
ここで逃げることは、ジェレミアやアイゼルを見捨てるのと同義だ。
そうした場合、二度と彼らは自分を仲間として認めてくれないだろう。
白髪の男に襲われかけた時、身を挺して庇ってくれたジェレミア。
年が近くて話が合い、そして何よりもうにを持っているアイゼル。
それらを簡単に切り捨てられるほど、彼女は薄情にはなれなかった。
そうした場合、二度と彼らは自分を仲間として認めてくれないだろう。
白髪の男に襲われかけた時、身を挺して庇ってくれたジェレミア。
年が近くて話が合い、そして何よりもうにを持っているアイゼル。
それらを簡単に切り捨てられるほど、彼女は薄情にはなれなかった。
(やっぱり……逃げたらまずいか)
ジェレミアとアイゼル。
最初は劇団の人かと間違えるような格好で、言っていることもちょっとおかしい。
でも大切な仲間であり、見捨てることなどはできなかった。
最初は劇団の人かと間違えるような格好で、言っていることもちょっとおかしい。
でも大切な仲間であり、見捨てることなどはできなかった。
(そうだ、応援をしよう!)
彼女に役立つ装備はなく、連中と戦う力もない。
それでも彼らを応援することならできる。
それでも彼らを応援することならできる。
「こんな美人に応援されたら、男どもは元気になってあんな奴らボコボコにしちゃうに違いない、エヘヘ――――」
「ぐああああぁぁぁぁっ!!」
「ぐああああぁぁぁぁっ!!」
そうして彼女が改めて窓を見た時に、王蛇に切り倒されて悲鳴をあげるジェレミアの姿が視界の中に飛び込んできた。
「なに、これ?」
硬直する奈緒子。
無敵にも思えたジェレミアの敗北が、彼女には到底理解することができなかった。
無敵にも思えたジェレミアの敗北が、彼女には到底理解することができなかった。
「逃げよう」
白髪の男や五ェ門と互角に渡り合ったジェレミア。
それよりも強い王蛇は、彼女にとってはもはや別次元の存在。
そんな相手に一般人である自分に何が出来るというのだ。
呑気に応援をしていて、もし人質にでもされたらむしろ邪魔になってしまう。
ならばここは一旦逃げておくことが、自分にできる唯一の事なのではないだろうか。
それよりも強い王蛇は、彼女にとってはもはや別次元の存在。
そんな相手に一般人である自分に何が出来るというのだ。
呑気に応援をしていて、もし人質にでもされたらむしろ邪魔になってしまう。
ならばここは一旦逃げておくことが、自分にできる唯一の事なのではないだろうか。
「そうだ、そうだよ……」
数々の言い訳を自身に言い聞かせながら、後ずさっていく奈緒子。
そうしてエレベーターの扉に背中が触れた時、彼女はこの場から離脱することを決意した。
そうしてエレベーターの扉に背中が触れた時、彼女はこの場から離脱することを決意した。
「はぁ、はぁ!」
決意してからの彼女の行動は早い。
傍に配置されたボタンを押し、エレベーターが来るのを待つ。
だが上昇してくるエレベーターを待てず、彼女は少し先にある階段まで走る。
そのまま一段飛ばしで階段を駆け下り、一階に到着した後は裏口へと向かった。
傍に配置されたボタンを押し、エレベーターが来るのを待つ。
だが上昇してくるエレベーターを待てず、彼女は少し先にある階段まで走る。
そのまま一段飛ばしで階段を駆け下り、一階に到着した後は裏口へと向かった。
(これで……これで良かったんだ……)
湧き上がる罪悪感を否定するように、彼女はひたすら走り続ける。
そうしてすぐに見えてくるのは、ガラス戸で閉ざされた裏口の門。
それを視認した彼女は飛び込むように加速し、そしてついに手前まで辿り着く。
ガラス戸は彼女に反応に自動的に開き、外の世界へと手招きしていた。
そうしてすぐに見えてくるのは、ガラス戸で閉ざされた裏口の門。
それを視認した彼女は飛び込むように加速し、そしてついに手前まで辿り着く。
ガラス戸は彼女に反応に自動的に開き、外の世界へと手招きしていた。
「…………」
最後の一歩を踏み出すことを躊躇する奈緒子。
ここを抜ければ、安全地帯に逃げ切ったことになる。
同時に仲間を裏切ったことを意味する。
その罪悪感が、彼女の足を病院の廊下に縛り付けていた。
ここを抜ければ、安全地帯に逃げ切ったことになる。
同時に仲間を裏切ったことを意味する。
その罪悪感が、彼女の足を病院の廊下に縛り付けていた。
(ここまで来たんだ、もう後には引けないッ!)
目を瞑った奈緒子は、重い足を上げる。
重心を前にずらし、足を地面へと降ろす。
踏み締めた地面の感触は、リノリウムではなくコンクリートのもの。
目を開けると、そこは外だった。
重心を前にずらし、足を地面へと降ろす。
踏み締めた地面の感触は、リノリウムではなくコンクリートのもの。
目を開けると、そこは外だった。
「やった……逃げ切った!」
危機を脱したことに、奈緒子は諸手を上げて歓喜する。
一面に広がる青空に、燦々と照りつける太陽。
心の片隅に罪悪感は残るものの、今はただ生き延びたことが嬉しかった。
一面に広がる青空に、燦々と照りつける太陽。
心の片隅に罪悪感は残るものの、今はただ生き延びたことが嬉しかった。
「ジェレミアさん、アイゼル……ごめん!」
最後に謝罪を込めて、一度だけ背後に聳え立つ病院を振り返る。
そして彼女の瞳に映ったのは。
そして彼女の瞳に映ったのは。
「え?」
炎と光だった。
☆ ☆ ☆
レイ・ラングレンは警戒していた。
エンド・オブ・ワールドの使用は二度目だが、その破壊力には感嘆するばかりである。
エンド・オブ・ワールドの使用は二度目だが、その破壊力には感嘆するばかりである。
(やはり恐ろしい破壊力だ)
ヴォルケインに匹敵する破壊力から察するに、本来の用途はヨロイ等への対抗手段だろう。
人間相手に使用するには、この破壊力は強大過ぎる。
それでもレイは警戒していた。
エンド・オブ・ワールドは絶対的な破壊力を持つが、ジェレミアや浅倉に対してどこまで通用するか分からない。
特に浅倉は一度エンド・オブ・ワールドをやり過ごしている。
盾を召喚して防いだのか、ミラーモンスターの援護で生き延びたのか。
詳細は分からないが、浅倉が生き延びたという事実は無視できない。
だからこそ彼は、ジェレミアをあそこの誘導することで対抗策を講じた。
ジェレミアは次元の弾丸からの盾であると同時に、浅倉の動きを妨害する拘束具でもあった。
ライダーの力を引き出すには、カードの装填が必須である。
だが装填には数秒の時間が必要であり、ジェレミアを差し向けることでその時間を奪った。
いくらライダーといえど、カード無しでは対抗することはできないだろう。
だが、それでも彼は警戒を解かなかった。
ジェレミアや浅倉はまだ息があるかもしれないし、顔を見られた以上この場にいる人間は皆殺しにする必要がある。
完全に死亡しているのを確認して、もしまだ生存しているなら止めを刺す。
念には念を入れて、そこまでしておく必要があるだろう。
そう考えて、レイは一歩ずつ歩き出す。
彼の身体からは、変身時間の終了を示す細かい粒子が立ち上っている。
もうあまり時間が残されていないが故に、彼の歩調は速い。
あくまで冷酷さを保ちつつ、立ち込める黒煙の中に突入した。
その時である。
黒煙が揺らめくと同時に、何者かが飛び掛ってきた。
人間相手に使用するには、この破壊力は強大過ぎる。
それでもレイは警戒していた。
エンド・オブ・ワールドは絶対的な破壊力を持つが、ジェレミアや浅倉に対してどこまで通用するか分からない。
特に浅倉は一度エンド・オブ・ワールドをやり過ごしている。
盾を召喚して防いだのか、ミラーモンスターの援護で生き延びたのか。
詳細は分からないが、浅倉が生き延びたという事実は無視できない。
だからこそ彼は、ジェレミアをあそこの誘導することで対抗策を講じた。
ジェレミアは次元の弾丸からの盾であると同時に、浅倉の動きを妨害する拘束具でもあった。
ライダーの力を引き出すには、カードの装填が必須である。
だが装填には数秒の時間が必要であり、ジェレミアを差し向けることでその時間を奪った。
いくらライダーといえど、カード無しでは対抗することはできないだろう。
だが、それでも彼は警戒を解かなかった。
ジェレミアや浅倉はまだ息があるかもしれないし、顔を見られた以上この場にいる人間は皆殺しにする必要がある。
完全に死亡しているのを確認して、もしまだ生存しているなら止めを刺す。
念には念を入れて、そこまでしておく必要があるだろう。
そう考えて、レイは一歩ずつ歩き出す。
彼の身体からは、変身時間の終了を示す細かい粒子が立ち上っている。
もうあまり時間が残されていないが故に、彼の歩調は速い。
あくまで冷酷さを保ちつつ、立ち込める黒煙の中に突入した。
その時である。
黒煙が揺らめくと同時に、何者かが飛び掛ってきた。
「ッ!?」
それに気付いた時には、既に相手の身体がレイの身体にのしかかっている。
黒煙で視界が不鮮明だった故に、相手の動きを読むことができなかったのだ。
黒煙で視界が不鮮明だった故に、相手の動きを読むことができなかったのだ。
「邪魔だ!」
もたれかかってきた者を跳ね除けようとするがなかなか離れない。
膝蹴りを相手の腹に叩き込み、起き上がったところに手刀を命中させる。
ここでようやく相手の身体は吹き飛び、数歩よろめいた後に地面へと伏した。
危機を脱したことで、一先ずは安堵するレイ。
だが、ここで彼はもっと周囲に気を配るべきであった。
何故なら彼が油断する一瞬を、虎視眈々と狙う者がいたのだから。
膝蹴りを相手の腹に叩き込み、起き上がったところに手刀を命中させる。
ここでようやく相手の身体は吹き飛び、数歩よろめいた後に地面へと伏した。
危機を脱したことで、一先ずは安堵するレイ。
だが、ここで彼はもっと周囲に気を配るべきであった。
何故なら彼が油断する一瞬を、虎視眈々と狙う者がいたのだから。
「ぐあぁっ!」
黒煙の中から伸びる拳。
そこには一瞬の間すらもなく、反応した時にはもう遅い。
拳は彼の腹部に深々と突き刺さり、そのまま数メートルを弾き飛ばされる結果となった。
そこには一瞬の間すらもなく、反応した時にはもう遅い。
拳は彼の腹部に深々と突き刺さり、そのまま数メートルを弾き飛ばされる結果となった。
「ぐっ……うぅ……」
コンクリートの地面に激突するレイ。
それは重厚な鎧に身を包んでいても激痛であったが、彼も生半可な鍛え方はしていない。
すぐに立ち上がり、急襲された方向へと視線を向けた。
ほぼ同時期に黒煙は晴れ、そこにいたのは――――
それは重厚な鎧に身を包んでいても激痛であったが、彼も生半可な鍛え方はしていない。
すぐに立ち上がり、急襲された方向へと視線を向けた。
ほぼ同時期に黒煙は晴れ、そこにいたのは――――
「キ……サマ……」
全身に火傷を負い、地面に平伏すジェレミアと。
「あぁ……」
傷一つない状態で、その場に立ち尽くす王蛇の姿だった。
「何故……」
今まで数々の修羅場を潜り抜けていたが、この時ほど戦慄した瞬間はなかった。
最初から王蛇というライダーには、いかなる攻撃も通用しないのではないか。
たった一瞬だけ、そんな荒唐無稽な考えが頭を過る。
だが不自然なほどに火傷の多いジェレミアを見て、ある恐ろしい仮定が思い浮かんだ。
かつて浅倉が初めてライダーに変身した時。
初陣の相手は北岡の変身するゾルダであり、その時にもエンド・オブ・ワールドは発動された。
今と何一つ変わらない状況で、その時も彼が負傷することはなかった。
近場にいた仮面ライダーガイを盾にすることで、爆発の衝撃から身を守ったのだ。
最初から王蛇というライダーには、いかなる攻撃も通用しないのではないか。
たった一瞬だけ、そんな荒唐無稽な考えが頭を過る。
だが不自然なほどに火傷の多いジェレミアを見て、ある恐ろしい仮定が思い浮かんだ。
かつて浅倉が初めてライダーに変身した時。
初陣の相手は北岡の変身するゾルダであり、その時にもエンド・オブ・ワールドは発動された。
今と何一つ変わらない状況で、その時も彼が負傷することはなかった。
近場にいた仮面ライダーガイを盾にすることで、爆発の衝撃から身を守ったのだ。
「私を……盾に……」
「近くにいた、お前が悪い」
「近くにいた、お前が悪い」
そう、浅倉はジェレミアを盾にして、エンド・オブ・ワールドをやり過ごしたのだ。
「ぐっ……おおおぉぉぉッ!」
必死に立ち上がろうとするジェレミアだが、身体が言うことを聞かない。
強固な爆発への耐性も、世界に終焉をもたらす破壊を前には無意味だったのだ。
浅倉は彼を盾にした後、突き飛ばしてレイの動きを封じる。
そして隙の発生したレイに、鉄拳を叩き込んだのだ。
強固な爆発への耐性も、世界に終焉をもたらす破壊を前には無意味だったのだ。
浅倉は彼を盾にした後、突き飛ばしてレイの動きを封じる。
そして隙の発生したレイに、鉄拳を叩き込んだのだ。
「邪魔だ」
地面で蠢いているジェレミアを、浅倉は容赦なく蹴り飛ばす。
ジェレミアは無抵抗のままそれを受け、そのまま瓦礫の山に叩き付けられる。
短い呻き声を上げた後、ジェレミアの意識は暗闇の中に沈んでいった。
ジェレミアは無抵抗のままそれを受け、そのまま瓦礫の山に叩き付けられる。
短い呻き声を上げた後、ジェレミアの意識は暗闇の中に沈んでいった。
「フン」
そんなジェレミアに一瞥もくれず、目の前のレイを見据える浅倉。
バックルから一枚のカードを取り出し、それをいつの間にか握り締めていたベノバイザーに装填した。
バックルから一枚のカードを取り出し、それをいつの間にか握り締めていたベノバイザーに装填した。
――――FINAL VENT――――
その瞬間、空中から浅倉の足元にエビルダイバーが飛来する。
浅倉は素早くそれの背に飛び乗り、高速で駆け出した。
エビルダイバーのファイナルベント――――ハイドベノン。
それは標準的な威力であったが、先の戦いでボルキャンサーを捕食したことにより大幅に威力が向上している。
ライダーとはいえ、まともに喰らえば致命傷は避けられないだろう。
浅倉は素早くそれの背に飛び乗り、高速で駆け出した。
エビルダイバーのファイナルベント――――ハイドベノン。
それは標準的な威力であったが、先の戦いでボルキャンサーを捕食したことにより大幅に威力が向上している。
ライダーとはいえ、まともに喰らえば致命傷は避けられないだろう。
――――GUARD VENT――――
マグナギガの胸部を模した盾が召喚され、ゾルダの腕に装着される。
この盾は巨大な上に肉厚。
腰を落として重心を低くし、打ち負けぬように力を込めるレイ。
疾風のように空中を駆け抜け、目前の敵を蹂躙しようとする浅倉。
そうして、両者は衝突する。
この盾は巨大な上に肉厚。
腰を落として重心を低くし、打ち負けぬように力を込めるレイ。
疾風のように空中を駆け抜け、目前の敵を蹂躙しようとする浅倉。
そうして、両者は衝突する。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
狂ったように笑う浅倉。
同時に凄まじい衝撃が襲い掛かり、レイは数メートルほど押し戻される。
足を置いていた地面は抉れ、足の裏が高熱に包まれる。
超加速したエビルダイバーの突進は、一瞬でも気を抜いたら打ち破られかねない。
それでもレイは必死に体勢を保ち、盾を全面に押し出し続けた。
同時に凄まじい衝撃が襲い掛かり、レイは数メートルほど押し戻される。
足を置いていた地面は抉れ、足の裏が高熱に包まれる。
超加速したエビルダイバーの突進は、一瞬でも気を抜いたら打ち破られかねない。
それでもレイは必死に体勢を保ち、盾を全面に押し出し続けた。
「ぐ……おおおおぉぉぉぉぉ」
肩が砕け、腰が割れ、膝が潰れる。
そう錯覚させるほどの激痛が、レイの全身を苛む。
意識を失いそうになる彼を支えたのは、カギ爪の男への復讐心だった。
ここで死ぬのならば、どのみち復讐など叶わぬ夢。
これからも数多くの障害が行く手を阻むのだろうし、浅倉も所詮はその一人に過ぎない。
だから、ここで負けるわけにはいかない。
そう錯覚させるほどの激痛が、レイの全身を苛む。
意識を失いそうになる彼を支えたのは、カギ爪の男への復讐心だった。
ここで死ぬのならば、どのみち復讐など叶わぬ夢。
これからも数多くの障害が行く手を阻むのだろうし、浅倉も所詮はその一人に過ぎない。
だから、ここで負けるわけにはいかない。
「おおおおおぉぉぉぉッ!!」
衝突してから経過した時間はせいぜい十数秒。
それでもレイにとっては、無限に等しい時間に思えた。
だが、それにも終わりが訪れる。
ギガアーマーに亀裂が入り、一瞬のうちにそれは全体に広がる。
それでもレイにとっては、無限に等しい時間に思えた。
だが、それにも終わりが訪れる。
ギガアーマーに亀裂が入り、一瞬のうちにそれは全体に広がる。
「ぐあぁ!」
そして、盾は砕けた。
レイは吹き飛ばされ、地面へと打ち付けられる。
しかし――――
レイは吹き飛ばされ、地面へと打ち付けられる。
しかし――――
「チィッ!」
同時に浅倉とエビルダイバーも弾き飛ばされる。
筆舌に尽くしがたい激痛ではあったが、それでも致命傷には至らなかった。
レイはすぐに立ち上がり、そして動くことができる。
最後の最後で彼の意地が勝り、相殺という形に持ち込むことができたのだ。
筆舌に尽くしがたい激痛ではあったが、それでも致命傷には至らなかった。
レイはすぐに立ち上がり、そして動くことができる。
最後の最後で彼の意地が勝り、相殺という形に持ち込むことができたのだ。
(これで……)
踵を返すレイ。
もう変身時間は秒単位でしか残っていないが、浅倉との距離は十メートルほど開いている。
銃で牽制しつつ、民家に逃げ込めば生身でも数分は稼ぐことができるだろう。
何故なら――――
もう変身時間は秒単位でしか残っていないが、浅倉との距離は十メートルほど開いている。
銃で牽制しつつ、民家に逃げ込めば生身でも数分は稼ぐことができるだろう。
何故なら――――
(もう奴にファイナルベントは残されていない!)
そう、勘違いをしていたからだ。
――――FINAL VENT――――
無機質な機械音声が響いた時、レイが見たのは想像だにしない光景だった。
重厚な雰囲気を醸し出す鋼色のサイに搭乗し、こちらに切りこんでくる浅倉の姿。
既にファイナルベントは消費したのではないのか。
そもそも王蛇の契約モンスターは赤紫色のエイではないのか。
様々な疑問が浮かぶが、その解答が示されることはない。
十メートルの間合いは一瞬で消失し、気がつけば金色の角が目前に迫っていた。
重厚な雰囲気を醸し出す鋼色のサイに搭乗し、こちらに切りこんでくる浅倉の姿。
既にファイナルベントは消費したのではないのか。
そもそも王蛇の契約モンスターは赤紫色のエイではないのか。
様々な疑問が浮かぶが、その解答が示されることはない。
十メートルの間合いは一瞬で消失し、気がつけば金色の角が目前に迫っていた。
レイの致命的なミスは、王蛇の詳細な能力を知らなかったことだ。
彼らは今までに三回遭遇していたが、その時に王蛇が使役していたのは全てエビルダイバーであった。
中途半端にライダーの知識を身につけていたが故、複数のモンスターと契約できるという考えに至ることすらできない。
三体のモンスターと契約した王蛇という、例外中の例外の存在に気付くことができなかったのだ。
彼らは今までに三回遭遇していたが、その時に王蛇が使役していたのは全てエビルダイバーであった。
中途半端にライダーの知識を身につけていたが故、複数のモンスターと契約できるという考えに至ることすらできない。
三体のモンスターと契約した王蛇という、例外中の例外の存在に気付くことができなかったのだ。
メタルゲラスのファイナルベント――――ヘビープレッシャーが炸裂する。
錐揉み回転しながら空中を跳ね飛ばされ、そして地面に激突するレイ。
それでも勢いは殺し切れず、引き摺られるように地面を転がる。
外塀に衝突したところでようやく停止し、同時に変身が解除されてレイは仮面ライダーから人間へと戻った。
錐揉み回転しながら空中を跳ね飛ばされ、そして地面に激突するレイ。
それでも勢いは殺し切れず、引き摺られるように地面を転がる。
外塀に衝突したところでようやく停止し、同時に変身が解除されてレイは仮面ライダーから人間へと戻った。
☆ ☆ ☆
「うぅ……」
閉ざされた世界。
爆発により発生した光が音が、北岡から視覚と聴覚を奪っていた。
それを皮切りに、他の五感もどんどんと失われていく。
蔓延する火薬と焼け焦げた臭いが嗅覚を。
残り火から発せられる肌を刺すような熱気が触覚を。
口内に侵入した砂利が味覚を。
爆発により発生した光が音が、北岡から視覚と聴覚を奪っていた。
それを皮切りに、他の五感もどんどんと失われていく。
蔓延する火薬と焼け焦げた臭いが嗅覚を。
残り火から発せられる肌を刺すような熱気が触覚を。
口内に侵入した砂利が味覚を。
「……生きてるのか?」
だが、それだけだった。
爆風で吹き飛ばされてはいたが、致命に至るような傷はない。
全身のあらゆる箇所が痛むが、それでもすぐに立ち上がることはできた。
だんだんと五感が回復してきているのも実感することができる。
爆風で吹き飛ばされてはいたが、致命に至るような傷はない。
全身のあらゆる箇所が痛むが、それでもすぐに立ち上がることはできた。
だんだんと五感が回復してきているのも実感することができる。
「北岡さん、五ェ門さん、アイゼルさん……」
「三人とも……大丈夫?」
「三人とも……大丈夫?」
耳を凝らすと、つかさやアイゼルの声が聞こえる。
どうやら二人とも無事なようだ。
どうやら二人とも無事なようだ。
(おかしい……)
命拾いした北岡が感じたのは、不可解な事態への疑問。
エンド・オブ・ワールドをまともに被弾して、生身の自分達が無事でいられるはずがないのだ。
エンド・オブ・ワールドをまともに被弾して、生身の自分達が無事でいられるはずがないのだ。
「ん……?」
回復してきた視力が、彼の目に影を映す。
自分達の前に立ち塞がるように、いや、自分達を何かから守るように。
大きな剣を、構えながら。
自分達の前に立ち塞がるように、いや、自分達を何かから守るように。
大きな剣を、構えながら。
「五ェ門さん……?」
震えるような声で、つかさが呟く。
ここでようやく北岡も気付いた。
一緒にいたはずの五ェ門の声が、一切聞こえてこないことに。
ここでようやく北岡も気付いた。
一緒にいたはずの五ェ門の声が、一切聞こえてこないことに。
「五ェ門!」
「そんな……五ェ門さん……」
つかさの瞳から涙が溢れ始める。
おそらく北岡と全く同じ結論に達したのだろう。
五ェ門は自分達を守るため、エンド・オブ・ワールドの盾になった。
だから自分達は生き残ることができたのだと。
北岡は声が出なかった。
五ェ門が死んだのも、元を返せば自分がデイパックを置き忘れたことに原因がある。
カードデッキを奪われなければ、エンド・オブ・ワールドが発動されることはなかった。
詩音に叩き付けられた言葉が、北岡の脳内で何度も再生される。
浅倉の妨害に遭ったせいで助けに行けなかったと言い訳した。
しかしあの時、自分は最初から悟史を助けに行く気などなかった。
五ェ門が勝手に向かったから、嫌々自分も付いて行っただけだったのだ。
おそらく北岡と全く同じ結論に達したのだろう。
五ェ門は自分達を守るため、エンド・オブ・ワールドの盾になった。
だから自分達は生き残ることができたのだと。
北岡は声が出なかった。
五ェ門が死んだのも、元を返せば自分がデイパックを置き忘れたことに原因がある。
カードデッキを奪われなければ、エンド・オブ・ワールドが発動されることはなかった。
詩音に叩き付けられた言葉が、北岡の脳内で何度も再生される。
浅倉の妨害に遭ったせいで助けに行けなかったと言い訳した。
しかしあの時、自分は最初から悟史を助けに行く気などなかった。
五ェ門が勝手に向かったから、嫌々自分も付いて行っただけだったのだ。
(人殺し、か)
当初は否定していたが、今は否定する気力が湧かない。
滅茶苦茶なはずの彼女の言葉が、正当性のあるものに聞こえてならなかった。
滅茶苦茶なはずの彼女の言葉が、正当性のあるものに聞こえてならなかった。
「死んじゃいねーよ」
その時だった。
絶望に項垂れるつかさを否定するように、自己嫌悪に陥る北岡を否定するように。
デルフリンガーが言葉を紡ぎ始める。
絶望に項垂れるつかさを否定するように、自己嫌悪に陥る北岡を否定するように。
デルフリンガーが言葉を紡ぎ始める。
「どういうことよ? 五ェ門はどう見てももう……」
「言葉のまんまだ、よく見てみろって」
「言葉のまんまだ、よく見てみろって」
デルフリンガーの言葉を訝しみつつも、五ェ門に視線を向ける北岡。
腹部の傷が開いたのだろうか、うつ伏せで倒れている五ェ門の身体からは血液が流れでている。
腹部の傷が開いたのだろうか、うつ伏せで倒れている五ェ門の身体からは血液が流れでている。
「五ェ門さん……火傷がない!?」
一番最初に気付いたのはアイゼルだった。
あれだけの大爆発の盾になったにも関わらず、五ェ門の身体に火傷の痕はない。
さらに言えば、腹部の裂傷以外に新たな負傷もなかった。
あれだけの大爆発の盾になったにも関わらず、五ェ門の身体に火傷の痕はない。
さらに言えば、腹部の裂傷以外に新たな負傷もなかった。
「一体どうなってるんだ?」
五ェ門が生きていたことは素直に嬉しいが、やはり疑問は付きまとう。
エンド・オブ・ワールドに巻き込まれて、無事でいられるはずがない。
エンド・オブ・ワールドに巻き込まれて、無事でいられるはずがない。
「少し……ほんの少しだけだが思い出したぜ
この俺は魔法を吸収する力があったんだ! この土壇場でその力が覚醒しやがったんだ!」
この俺は魔法を吸収する力があったんだ! この土壇場でその力が覚醒しやがったんだ!」
はしゃぐように語りかけてくるデルフリンガー。
だが北岡は、彼の言葉をいまいち信用することができなかった。
だが北岡は、彼の言葉をいまいち信用することができなかった。
「エンド・オブ・ワールドが魔法だって? そんなことあるわけないだろ」
彼の言葉を総合するなら、エンド・オブ・ワールドを魔法として吸収したことになる。
だがエンド・オブ・ワールドはあらゆる兵器を一斉発射する攻撃であり、魔法とは正反対の科学的な存在のはずだ。
だがエンド・オブ・ワールドはあらゆる兵器を一斉発射する攻撃であり、魔法とは正反対の科学的な存在のはずだ。
「魔法って言っても色々あってな、ドラゴンのブレスとかも俺の世界では魔法と呼ばれてる」
「おいおい、お前はドラゴンの吐息とミサイルが同じ物だって言うのか?」
「じゃあ逆に聞くけどよぉ、あのでかい牛野郎はミサイルを発射した後どうしてんだ?」
「おいおい、お前はドラゴンの吐息とミサイルが同じ物だって言うのか?」
「じゃあ逆に聞くけどよぉ、あのでかい牛野郎はミサイルを発射した後どうしてんだ?」
質問に質問で返すな。
普段の彼ならこう返していただろうが、今は言葉を発することができなかった。
デルフリンガーの言葉に、閉口するしかなかったからである。
普段の彼ならこう返していただろうが、今は言葉を発することができなかった。
デルフリンガーの言葉に、閉口するしかなかったからである。
「俺にはお前さん達の世界の武器のことはよく分からねぇ
でもああいう感じの武器は、一度撃ったら弾を込め直さないといけねーんだろ?
だったら、あの牛野郎はどうやって弾を込め直してんだ?」
でもああいう感じの武器は、一度撃ったら弾を込め直さないといけねーんだろ?
だったら、あの牛野郎はどうやって弾を込め直してんだ?」
言葉に詰まる北岡。
デルフリンガーの指摘は、非常に的確なものだったからである。
彼もゾルダに変身した際は、何度もエンド・オブ・ワールドを発動した。
しかし弾薬の装填を行ったことはないし、マグナギガが自分自身で装填しているわけがない。
ミラーワールドから脱出して、気が付いたら装填されている。
そう表現するのが、最も適切だろう。
カードデッキのシステムは、間違いなく神崎士郎の開発した科学である。
が、その大元となっているミラーモンスターは、どちらに分類されるのだろうか。
デルフリンガーの指摘は、非常に的確なものだったからである。
彼もゾルダに変身した際は、何度もエンド・オブ・ワールドを発動した。
しかし弾薬の装填を行ったことはないし、マグナギガが自分自身で装填しているわけがない。
ミラーワールドから脱出して、気が付いたら装填されている。
そう表現するのが、最も適切だろう。
カードデッキのシステムは、間違いなく神崎士郎の開発した科学である。
が、その大元となっているミラーモンスターは、どちらに分類されるのだろうか。
「鏡の世界を自由に行き来する生物……こいつを魔法と呼ばず何と呼ぶんだ?」
マグナギガが銃火器を発射するから誤解していた。
冷静に考えれば、ミラーモンスターはファンタジー側の存在である。
それでも否定したくなるが、五ェ門が生き残った以上はデルフリンガーの言葉を肯定せざるを得ない。
冷静に考えれば、ミラーモンスターはファンタジー側の存在である。
それでも否定したくなるが、五ェ門が生き残った以上はデルフリンガーの言葉を肯定せざるを得ない。
「ちょっと難しい話だったけど……とにかくみんな無事で良かったじゃないですか!」
黙り込んだ北岡を案じてか、つかさが声をかけてくる。
爆撃に巻き込まれた直後であるにも関わらず、まるで緊張感のない声色。
その声を聞いていると、些末事を気にするのが馬鹿らしくなってくる。
理屈は抜きにして、全員無事でいたのだからそれでいい。
そう考え、北岡は自嘲気味に肩を竦めた。
爆撃に巻き込まれた直後であるにも関わらず、まるで緊張感のない声色。
その声を聞いていると、些末事を気にするのが馬鹿らしくなってくる。
理屈は抜きにして、全員無事でいたのだからそれでいい。
そう考え、北岡は自嘲気味に肩を竦めた。
「にしても、ホントにこの兄ちゃんはすげーよ」
「ええ、あんなボロボロだったのに私達を守ってくれるなんて……」
「確かにそれもすげーけどよ、兄ちゃんが凄いのはそれだけじゃないんだぜ?」
「……どういうこと?」
「俺の力はあくまで俺自身に魔法を吸収すること
俺っていうバケツの中に魔法という水を注ぐようなもんだ、限界を越えれば当然溢れちまう」
「ええ、あんなボロボロだったのに私達を守ってくれるなんて……」
「確かにそれもすげーけどよ、兄ちゃんが凄いのはそれだけじゃないんだぜ?」
「……どういうこと?」
「俺の力はあくまで俺自身に魔法を吸収すること
俺っていうバケツの中に魔法という水を注ぐようなもんだ、限界を越えれば当然溢れちまう」
魔法に疎い面子がいるせいか、デルフリンガーは喩えを交えて説明を始める。
「全部じゃないとはいえ、あの爆発を完全に吸収できたかどうかは分からない」
「でも俺たちは生き残って……」
「そこが兄ちゃんのすげーところだよ、あの兄ちゃんはな、殆どの攻撃を自分で斬っちまいやがった」
「あ、あの爆発を!? 信じられない……」
「でも俺たちは生き残って……」
「そこが兄ちゃんのすげーところだよ、あの兄ちゃんはな、殆どの攻撃を自分で斬っちまいやがった」
「あ、あの爆発を!? 信じられない……」
マグナギガから数々の兵器が発射されてから、着弾するまでの数秒。
その間に五ェ門はデルフリンガーを巧みに操り、爆発する前に斬り落としていたのだ。
切り損ねた弾やレーザーは、デルフリンガーが自身の力で吸収する。
そうすることで、五ェ門はこの場にいる全員守ることに成功したのだ。
その間に五ェ門はデルフリンガーを巧みに操り、爆発する前に斬り落としていたのだ。
切り損ねた弾やレーザーは、デルフリンガーが自身の力で吸収する。
そうすることで、五ェ門はこの場にいる全員守ることに成功したのだ。
「ま、一番すげーのはこの俺様だけどな!
さっきから誰も突っ込んでくれねーけどよぉ、錆がとれてピッカピカになったんだぜ!」
さっきから誰も突っ込んでくれねーけどよぉ、錆がとれてピッカピカになったんだぜ!」
豪快に笑い出すデルフリンガー。
彼の言う通り、錆塗れだった刀身はいつの間にか新品のように光り輝いている。
鈍らだった剣が新品のようになったのは、非常に大きな進歩だろう。
きっと爆発を防ぐ際にも、大いに貢献したに違いない。
だが今は五ェ門を労る流れであり、デルフリンガーの発言はいわゆる空気の読めないものに当たる。
つかさだけは呑気に持て囃しているが、残りの二人は冷めた目付きで彼らを見続けていた。
彼の言う通り、錆塗れだった刀身はいつの間にか新品のように光り輝いている。
鈍らだった剣が新品のようになったのは、非常に大きな進歩だろう。
きっと爆発を防ぐ際にも、大いに貢献したに違いない。
だが今は五ェ門を労る流れであり、デルフリンガーの発言はいわゆる空気の読めないものに当たる。
つかさだけは呑気に持て囃しているが、残りの二人は冷めた目付きで彼らを見続けていた。
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