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茶会

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茶会  ◆.WX8NmkbZ6



「あはははは……!!」

 部屋の壁一面に並べられた大量のモニター。
 その全てが別々の映像を流し、見る者の目をちらつかせた。
 そしてそのうちの一つを眺めながら、ヘッドホンを付けた少年はお腹を抱えて笑う。
 少年――否、少年の姿のまま人の理を超えた者。
 ヘッドホンのコードが繋がっているのは、モニターとは反対側の壁に面した大型の特殊なオーディオだった。
 V.V.の背丈程あるそれには参加者全員分のナンバープレート、更にそれぞれの下にイヤホンジャックと赤いランプ。
 ジャックにイヤホンを繋げばその参加者の首輪の音声が聞こえ、参加者が死亡すればランプが消えるのだ。

 盗聴機が拾う音を聞きながら笑い続けるV.V.。
 鷹野三四はその姿を気味悪く思いながら、居心地の悪さを誤魔化すように目の前のティーカップに口を付けた。

 このモニタールームの中央に置かれた丸いテーブルには、色とりどりの菓子が並べられている。
 スコーンやケーキがティースタンドに載せられた、英国式のアフタヌーン・ティー。
 そしてティーカップは三つ――用意された椅子も三脚。
 着席しているのも、三人。
 鷹野は殺し合いの最中に催されたティーパーティーの中で、V.V.にも、残るもう一人の人物にも目を合わせられなかった。
 自分だけ場違いなように思え、肩身が狭い。
 かといって茶会の誘いを断る事も出来なかった。
 鷹野はただカップに満ちた紅茶に映る、自分の疲れた顔に視線を注ぐ。

 鷹野には焦りがあった。
 紅茶など飲んでいる場合ではなく、腕に爪を立てそうになるのを堪える。
 それでもV.V.の機嫌を損ねては元も子もないと、話し掛ける機会を伺っていた。
「ああ、おかしかった」
 笑い過ぎて目元に滲んだ涙を指で拭き取り、ヘッドホンを外しながらV.V.が言う。
 モニターから目を離しても、思い出し笑いをするようにクツクツと肩を揺らしていた。
「何が……そんなに面白かったので?」
 話題を求め、鷹野は顔を上げて尋ねる。
 一言掛けるだけでも緊張し、額に汗が浮いた。
「ああ……これだよ」
 V.V.は楽しそうにそれまで見ていたモニターを指差し、楽しそうに説明を始める。
 話題選びは取り敢えず間違っていなかったようだと、鷹野は密かに胸を撫で下ろした。

 会場の各地に設置された極小のビデオカメラとマイク。
 参加者各人が装着している首輪に内蔵された盗聴器。
 主催者達はこれらによって映像と音声を入手し、幾つか用意したモニタールームで管理している。
 膨大な量の情報を一から十まで知るのは不可能である為、V.V.らは記録の中でも重要と思われる箇所だけを観ていた。
 全体の把握には別の人員を雇っているので、主催者の役目はその程度で充分なのだ。

 先程V.V.が観ていたのは、総合病院のモニター。
 聴いていたのはロロ・ランペルージの首輪からの音声。
 ジェレミア・ゴットバルトがロロを殺害する場面は、鷹野も視界の端で確認していた。

「鷹野には説明してなかったかな……この二人は、元は僕の下にいたんだよ。
 二人して裏切ってくれたんだけどね」
 そしてこの二人の邂逅の先にあったのは、殺し合いだった。
 そこまで聞けば鷹野も納得出来る。
 溜飲が下がった――という事だろう。
「ジェレミアがロロを刺したのもびっくりしたけど、まさかつかさを助けるとは思わなかったな。
 マリアンヌの息子の事もあるし……もし彼がここまで来られたら、理由を聞いてみるのも良いかもね」
 言って、V.V.は笑い疲れた様子で満足げな溜息を吐き出す。
 そこに浮かべられた笑みは、子供じみた中に歪みを帯びていた。

「そうすれば、僕達の目的にまた一つ近付ける……」

 ぞわ、と鷹野の背に鳥肌が立つ。
 首筋から氷を放り込まれたような寒気に襲われる。
 外見にそぐわず鷹野の倍以上長く生き、人間を見詰めてきた不老不死の存在。
 鷹野は無意識のうちに再び目を逸らしていた。

 不意にモニター内の映像が大きく揺れ、そちらを注視する。
 警察署付近を映すモニターだ。
 浅倉威を中心に、桐山や翠星石が衝突したらしい。
 V.V.も病院からそちらに関心を移しながらカップを傾ける。
 ティーパーティーの『三人目』については何を見ているのか、何も見ていないのか判断がつかなかった。
 V.V.が手元のリモコンを向けると、それまで無音だったモニターから音声が流れ始める。
 呻く声、泣く声、怒る声、そして破壊音。
 それらを聞きながら、V.V.はポツリと言った。

「この会場の中で今までに、どれだけの嘘が交わされたんだろうね?」

 鷹野に向けた言葉なのか、『三人目』に向けた言葉なのか分からない。
 ただ鷹野も『三人目』もその問いには答えず、警察署付近の戦闘音が室内を包んでいた。



「それで、そっちはどうなんだい?」
 警察署での一連の出来事が終わりを告げ、数十秒程経ってからV.V.が問い掛ける。
 参加者と同じ数だけあるランプは新たに四つ消えていた。
 突然水を向けられた鷹野は一瞬身を強ばらせたが、わざわざV.V.の方から言い出してくれたのは好都合だ。
「はい、出来れば今すぐにでも……」
「そう」
 V.V.はカップに残っていた紅茶を飲み干すと、席を立って一つのモニターの前に立つ。
 じっくりと眺め、更に時計を見遣った。
「残りの参加者は半分……病院と警察署の動きで多くの『対主催』と『マーダー』も仕切り直し。
 確かにそろそろ潮時なのかも知れないね」
「では……!」
「タイミングを決めるのは僕だよ。
 ただ、もう準備はしておいた方がいいね」
 そのままモニタールームを後にするV.V.を、鷹野が慌てて早足で追いかける。

 長い廊下に出たところで、鷹野は真横に気配を感じた。
 視線だけそちらに向ければ『三人目』が鷹野と同じペースで歩いている。
 いつ席を立ったのか、いつから追い付いてきたのか、全く分からなかった。
 鷹野が静かに息を飲むと、それまで沈黙を守っていた人物は口を開く。


「すべからく、成すべき事は急いだ方が良い……道化師の気紛れが、全てを台無しにしてしまわぬうちに」


 落ち着き払った声色に、鷹野は再び息を飲み込んだ。
 しかし聞き流せる言葉ではなく、意を決して問い掛ける。
「っ、それは……どういう意味ですか」
「もし私がお気に召さないのなら、こうお考え下さい。
 あなたは居眠りをされ、幻を見ているのだと」
 会話が成立せず、鷹野は奥歯を噛み締めた。
 言われなくとも急いでいる。
 目の前にいる『道化師』が何も手を出さなかったとしても。
 このままでは彼が言う通り、全てが台無しになりかねないのだから。

「余り鷹野をイジメては可哀想だよ……ラプラス」

 長い廊下を進む中、前を歩いていたV.V.が口を挟む。
 その口調には、長年付き合った友人に向けるような親しさがあった。
「僕らの目的は順調に果たされているんだから。
 君だって楽しんでいるだろう?」
 V.V.が振り返ると、床に引きずる程に長かった髪が大きく揺れた。
 そしてV.V.とラプラスの魔――兎の顔を持つタキシード姿の道化師は歩を止めて向かい合い、呼応するように言葉を紡ぐ。



「蒼嶋駿朔が絶望を打ち砕くのか」

「浅倉威が何を壊すのか」

石川五ェ門が何を斬るのか」

「岩崎みなみが本当に死者蘇生を望むのか」

ヴァンが他者にどれだけ関心を抱くのか」

「上田次郎が役立つのか」

「エル・ローライトがこの殺し合いの突破口を見付けるのか」

「カズマが何を掴むのか」

北岡秀一が利己心を捨てるのか」

「城戸真司が何の為に戦うのか」

桐山和雄がその行動の果てに何かを感じるのか」

「枢木スザクが過ちに気付くのか」

「後藤が最強の生物なのか」

「C.C.が殺し合いの果てに死を経験するのか」

「ジェレミア・ゴットバルトが誰も守れないのか」

「志々雄真実が国盗りを実現するのか」

シャドームーン南光太郎以外の敵達に何を見るのか」

「シャナが惑いから抜け出すのか」

水銀燈が真紅のいない地で何を得るのか」

「翠星石が姉妹達の想いを受け継ぐのか」

ストレイト・クーガーが最後まで最速で駆け抜けるのか」

「園崎詩音が症候群に身を任せるのか」

田村玲子がパラサイトの未来にどんな答えに辿り着くのか」

「狭間偉出夫が他者と関係を築くのか」

柊つかさが何を生み出すのか」

「南光太郎がシャドームーンとの決着をつけるのか」

三村信史が勝利の美酒を味わうのか」

「夜神月がキラとなるのか」

雪代縁が姉を甦らせるのか」

「竜宮レナが幸せになれるのか」

ルパン三世が何を盗むのか」





「「全ての結末は、彼らの『選択』によって訪れる」」





 口ずさむように、合言葉であるかのように、二人は声を揃えた。
 鷹野とは別の、二人だけの目的。

「人間が生きてる限り、『選択』は常に隣り合わせ」
「しかし極限状態で取られた『選択』にこそ、価値はある。
 それを見る為のバトルロワイアル」
「だから僕らは見続ける。
 その先に、僕らの理想がある」

 V.V.が微笑み、再び前へ向き直った。
 鷹野はたった今行われたやり取りが、本当にうたた寝の中の夢だったのではと疑いたくなる。
 それ程に廊下は静かで、三人の靴音だけが反響して木霊していた。


 長い廊下の先、広い円形のホール――ここから幾つもの長い廊下が放射状に伸び、それぞれが別の部屋へ繋がっている。
 V.V.と鷹野がそのうちの一つへ進んでいく中、ラプラスの魔は立ち止まる。
 目映い照明で照らされたホール、その中央で彼は恭しく頭を垂れた。
 誰もいない場所で、たった一人で、それでもまるで目の前に観客がいるかのように口上を述べる。

「物語は中盤。
 始まりは遠く、終わりもまた遠い……」

 興奮するでもなく、淡々とするでもなく、芝居がかった口調で続けた。

「彼らの『選択』が物語を拡大させ、収束させ、やがて結末を迎えます。
 終わるのか終わらないのか、考えるは詮無き事。
 それでも貴方は、この物語を最後まで――」

 勿体振るように、あざ笑うように。
 ここにいない『貴方』に向かって、過剰に間を取りながら結びの言葉で締め括る。
















「読みますか? 読みませんか?」
















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122:第二回放送 V.V. 142:dlrow fo dne saw tI
鷹野三四
GAME START ラプラスの魔



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