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急転直下

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急転直下  ◆.WX8NmkbZ6



 「北に行く」と、そう言い張るヴァンを説得するのに苦労した。
 正確には、説得に苦労した挙げ句に失敗した。
 C.C.としてはE-1の分岐点で東に向かいたかった――別行動になってしまった竜宮レナ達と早く合流したかった。
 だがヴァンは一度決めると、それが下らない事であっても曲げるのを非常に嫌う質らしい。
 C.C.が粘り強く言い続けたものの、ヴァンは北へ北へと走り続けた。

 結局ヴァンは会場の最北端まで到着してようやく止まり、C.C.は散々ヴァンを罵倒した。
「こんな所に他の参加者がいるはずがないだろう!」
「北へ行くっつって、あんたも賛成しただろ」
「物には限度があるんだ!
 あの分岐点まで戻るぞ!!」
 ここから海岸線沿いに東に向かう選択肢もあるが、今更会場の端をうろうろしている参加者が多いとは思えない。
 それなら分岐点に戻ってから東に向かった方が、人に会って情報を得る機会も増えるだろう。
 幸いトノサマバッタを象ったような奇妙なデザインのバイク――バトルホッパーの速度はかなりのものだ。
 一度戻るとしても、タイムロスはそう多くない。

 十分以上話して何とかヴァンを説得し、二人は分岐点に戻った。
 そこから改めて東に向かい、緑の髪を靡かせながらC.C.は周囲に注意を払う。
 北に山林、南に海を望んで一直線に進むその速度は、並の自動車では追い付く事も叶わないだろう。
 奇襲を受ける恐れは少ないが、とにかく目立つ。
 正面を見るにはヴァンの背が邪魔だったものの、覗き見るような形で前方を注視した。

 やがて市街地が見えて来た頃、何の遮蔽物もない順調な道程の前に小さな影が現れた。
 男女の判別すらつかない距離の中、ただ鮮やかな赤が目に付く。
 C.C.達に対し背を向け、市街地へ向かっている事は見て取れた。
 その影が振り返ると、両手を上げて自身の存在を主張するように手を振り始める。
 随分派手な格好をした者――それが男だと分かるのには十秒と掛からなかった。

「おーい、お二人さーん」

 走行中のC.C.とヴァンに向けられた、拍子抜けするような間延びした声が聞こえる。
「おい、ヴァン」
「分かったよ、止まればいいんだろ」
 レナ、シャドームーンの時から三度目にしてようやくヴァンはC.C.の期待に沿い、派手な服の男の数十メートル手前で停車した。
 男が立っていたのは丁度市街地の入口にあたる地点。
 バトルホッパーから降りながら、C.C.は改めて男を観察する。
 相手が殺し合いに乗っていないとも限らない、そんな状況で手を振っていたこの男は極めて無防備に見えた。

「おーっと、まさかこんなとんでもねぇ美人が出てくるたー思わなかったぜぇ。
 しかもあんた、俺様見覚えが――」
「相手が殺し合いに乗っていたら、どうするつもりだったんだ?」

 露骨にC.C.の胸と顔を交互に見ながら、男は軽薄な口を叩く。
 C.C.がそれを無視して率直に疑問を口にすると、男は緩んだ頬のままで答えた。

「あんたが腕を絡めてたから、二人乗りってのは遠目からでも分かった。
 一人しか帰さねぇっつってる殺し合いに二人で乗るってのは可能性が低い。
 あったとしても、お互いべったりくっついても平気な信頼関係なんざそうそう築けねぇさ」

 好きでくっついていた訳ではない、という点は敢えて触れない事にした。
 この男はバイクに気付いてすぐに手を振っていた――つまりそれだけ判断が速かったという事だ。
 またこうして話している間も余裕を見せているあたり、相手が二人でも戦う、或いは逃げる算段がある。
 見た目に反して馬鹿でも弱者でもないらしい。

「そういうお前は殺し合いに乗っていないだろうな」
「もっちろんさ。
 疑うってんなら、この場で素っ裸になってもいいぜ」
「よし、なれ」

 C.C.が容赦なく言うと、男は何の躊躇いもなくトランクス一丁になってみせた。
 どうだ、と言わんばかりに胸を張られ、C.C.は思わず思った事を口にしてしまう。

「馬鹿が増えた……」


 C.C.らから聞かされた話に、ルパンは大いに興味をそそられた。
 彼らは既に数回同じ話をしているらしくうんざりしていたが、ルパンとしては目を輝かせずにいられない。
 聞いた事もない国や星の話に、疑うよりも先に胸を震わせた。

 これまで夜神月の監視の為に長く展望台に籠もり、手に入った情報は多いとは言えない。
 そんな中でルパンが半信半疑でいた『異なる世界』の存在を、彼らは既にほぼ確実なものとして見ているのだ。
 月にとっては魔法も別の世界も気味悪いものかも知れない、だがルパンにとって『未知』はどんな食材にも勝る御馳走だった。

 とは言え彼らの話を鵜呑みにしていた訳ではない。
 彼らの話の中に矛盾は無いか、表情はどうか。
 彼らが嘘を吐いていないとしてもそれが本当に異なる世界に結び付くのか。
 様々な可能性を考えた上で話に熱心に耳を傾けていた。

 しかし、そもそも異なる世界を強く否定する要素はあるのか。
 カズマの見せた超人的な力は、ルパンの持つ常識では説明出来ない。
 常識知らずのカズマはともかく月までも、有名人であるルパンを知らないのは奇妙な事だ。
 また寄生生物が実在すれば裏社会ですっかり有名になっている事だろう。
 いつの時代でも、先端の情報を握っているのは盗人。
 社会現象になるような事を、その盗人であるルパンが知らないのは妙だ。
 つまり様々な異常を目にした今となっては、『異なる世界』を否定するものは常識ぐらいなのだ。
 ならば、常識を捨てる。
 常識破りな事を生き甲斐にしているルパンにとって、それは難しくはなかった。

 互いの世界の事、そしてこの場に来てからどんな体験をしたのかを互いに語った後、C.C.はギアスとコードについて明かした。
 「そんな話を初対面の俺様にしちまっていいのかい」と冗談めかして言ったものの、既に前に会った男に話したのだという。
 ルパンも全参加者の前でルルーシュ・ランペルージが見せた挙動について聞きたいと考えており、好都合だった。

 『絶対尊守』。
 『ギアス』。
 『不老不死』。
 『コード』。
 魔法に等しいそれらの言葉に、ルパンは一層夢中になるのだった。


「で、だ……あんたはあのV.V.と知り合いなんだよな?」
「ああ」

 C.C.はギアスとコードについて情報を開示するにあたり、「V.V.もコードを所有する不老不死の存在」と説明している。
 知り合いであると宣言しているようなものだ。
 とは言え嚮団についてまでは口にしていなかった。
 C.C.もまたV.V.らと共に『ラグナレクの接続』に関わり、一時は嚮団教主も務めている。
 下手にこの事を知られれば、C.C.自身の首を絞めかねない。
 故に「信用に足る」と判断したレナにさえ、教えていなかった。

「V.V.とはどういう関係で」
「知り合いだ」

 ルパンの問いをはね付ける。
 だが彼はこの程度で引き下がる男ではなかった。

「あんた、あのガキ――ガキじゃねぇか。
 あいつが何を企んでるのか、検討が付いてるんじゃねーの?」
「知らん。V.V.が何を考えているか、私には全く分からない」
「…………」

 ルパンにじっくりと表情を観察され、C.C.は舌打ちした。
 C.C.とてこの殺し合いに嫌な予感を抱いており、このままでは不味いという漠然とした感覚がある。
 かと言ってベラベラと喋るような話ではないのだ。

 『ラグナレクの接続』。
 C.C.とV.V.、二人のコードを用いて集合無意識に働き掛け、生死を問わず全ての人間の意識を統合する。
 かつてV.V.とその弟シャルル・ジ・ブリタニア、ルルーシュの母マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア、C.C.が関わった計画。
 V.V.とシャルル、そして肉体を失ったマリアンヌが今なお焦がれているに違いない理想の世界。
 それが殺し合いに直結するかはともかく、殺し合いを始める動機に繋がっている可能性は高い。

「確かに嘘も秘密もねぇ女ってのはつまらねぇがよ。
 今それを言ってっと全員お陀仏かも知れねぇぜ……不死身のあんた以外は、な」
「……」

 説明すべきか否か、言葉を詰まらせる。
 そこへ数時間前の再現のようにヴァンが口を挟んだ。

「あんた、まだ言ってない事があんのか」
「今度は話を聞いていたのか?」
「聞いてないが、あんたが隠し事をしてるのは分かった。
 あれだ、その……さっさと話して、終わらせろ。
 俺は早く帰りたいんだ」

 C.C.はヴァンの相変わらずの態度に閉口するが、結果としてその言葉に背中を押される事になった。
 投げやりで適当なヴァンの姿に、長々と考える事が馬鹿馬鹿しく思えるようになった。
 ルパンが本当に信用出来るのか、出会って数十分では何も分からない――だがここで足踏みしていても状況は変わらないだろう。
 C.C.は腹を括り、知る限りの事を話す決意をした。



 杉下右京の失敗は、C.C.とヴァンの前で早々と正義を説いてしまった事だ。
 少なくともそれを後回しにし、いつものように情報収集を優先していれば別の結果が待っていたかも知れない。
 「一つ、よろしいですか」。
 「あと、もう一つだけ」。
 そう言って粘り、今のルパンのように決定的な情報をC.C.から引き出していた事だろう。
 右京の正義がC.C.とヴァンの心を頑なにし、右京を真実から遠ざけた。
 それは既に過ぎ去った――過去の話である。



 「私も全てを知っている訳ではない」と、前置きしてC.C.は語る。
 『ラグナレクの接続』。
 『神殺しの計画』の全容。
 それをルパンは真剣な表情で、ヴァンはそっぽを向いて欠伸をしながら聞いていた。
 語り終えたC.C.はルパンを睨み、見下しながら言う。

「私にここまで説明させたんだ。
 この情報に見合うだけの考察を聞かせてくれるんだろうな?」
「わーったわーった、その前に確認すっけどよ。
 人間全員の意識をくっつけちまう計画ってのは、」

 ルパンは息継ぎと共に言葉を切り、C.C.の様子を伺うようにしながら問う。


「『異なる世界』全部に範囲を広げる事は可能かい?」


 暫し、辺りを沈黙が支配した。
 風が止み、波が静止し、揺れていた葉さえも息を潜めるような空白の時間が流れる。
 C.C.はその問いに答えようとして口を開け、言葉を失って閉じ、それから歯を食い縛った。

「あり得ない、不可能に決まっている!!
 『ラグナレクの接続』で一つの世界の意識を統合するのに、何十年計画したと思っている!?
 それを全ての世界等と、出来る訳がないだろうッ!!」

 ルパンの問いは。
 それはまさに、C.C.が抱いていた最悪の想定だった。
 C.C.も薄々気付きながら考えないようにしていた可能性だった。

「しっかし異なる世界とあんたらの計画が繋がってるって言われちゃ、そういう話になっても仕方ねぇだろ~。
 それにあんたは自分で『V.V.の近くに異なる世界からの協力者がいるだろう』っつったじゃねえか。
 嚮団の技術から逸脱してるからってよ」

 声を荒げて否定しようとしたC.C.に対し、ルパンは飽くまで冷静に返した。
 それでも――あってはならない事だ。

「そもそも『異なる世界』の人間を呼ぶなんざ、あんたの知ってる嚮団の力じゃ無理なんだろ?
 最悪、ってのは考えといた方がいいぜ」
「それとっ……この殺し合いと、何の関係が……!」
「そいつぁーこれから考えるけどよ。
 手段と目的が直接的に繋がってるなら、まー……殺し合いをすると、不可能な計画が可能になるとか」

 ルパンもまたこの回答には不満があるようで、腕を組みながら首を九十度以上傾けて考え込む。
 殺し合いの中で実験しようとしている。
 殺し合いの中で観察しようとしている。
 殺し合いの中で応用しようとしている。
 様々にルパンは仮定を提示したが、結論は「V.V.に直接聞かない事には分からない」というところで落ち着いた。

「まーこんなとこだな。
 満足して貰えたかい?」
「しない! していないぞ私は!」
「そいつぁー残念」
 ルパンは再び頬を緩ませて笑った。
 話が終わったと判断したらしいヴァンは既にバイクに跨り、エンジンを掛けている。
 C.C.はルパンを一睨みしてから、ヴァンに続いてバイクに乗った。

「西には行かない方がいい。
 これからシャドームーンが来るからな」
「あぁ、俺様もまだまだ長生きしてぇからな。
 一人で喧嘩を売りに行くのはやめにしとくぜ」
「ちなみにこのバイクに三人乗るのは無理だ」
「わーってるって、お二人さんの邪魔はしねぇよ」

 含みのある言い方にC.C.が不平を漏らそうとするが、不意にヴァンが顔を上げて辺りを見回した。
 眠たげな顔を引き締め、ルパンの方へと振り返る。
「おい、あんた――」
「どうかしたかい?」
 対するルパンはポケットに手を入れたまま笑い、二人はそのまま無言で向かい合っている。
 二人の意図を掴めないC.C.が問おうとしても、それより早くヴァンがその状況を切り上げた。
「分かってんなら、いい。俺達は行く」
 何だったんだ、とC.C.が尋ねてもヴァンは答えない。

「じゃーな――あ、坊主と嬢ちゃんに会ったらよろしくなぁー」

 市街地を東へと走り出したバイクに向かって手を振るルパン。
 彼を背に進むC.C.は気丈に振る舞いながら、不安と焦燥をより濃くしていた。

 そして、一度も振り返る事はなかった。


【一日目午後/F-6 市街地】
【ヴァン@ガン×ソード】
[装備]:薄刃乃太刀@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-、バトルホッパー@仮面ライダーBLACK
[所持品]:支給品一式、調味料一式@ガン×ソード、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
[状態]:疲労(小)、右肩に銃創、右上腕部に刀傷、各部に裂傷、全身打撲
[思考・行動]
0:とりあえず前に進む。
1:カギ爪の男に復讐を果たすためさっさと脱出する。
2:緑髪の女(C.C.)の護衛をする。
3:次にシャドームーンに会ったらバトルホッパー返す。
[備考]
※ヴァンはまだC.C.、竜宮レナの名前を覚えていません。

【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュ R2】
[装備]:無し
[所持品]:支給品一式×4、エアドロップ×2@ヴィオラートのアトリエ、ピザ@コードギアス 反逆のルルーシュ R2、ファサリナの三節棍@ガン×ソード、
    カギ爪@ガン×ソード、レイ・ラングレンの中の予備弾倉(60/60)@ガン×ソード、確認済み支給品(0~2)
[状態]:疲労(小)
[思考・行動]
0:東に行き、レナ達と合流したい。
1:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない。
2:後藤、シャドームーン、縁、緑のスーツの人物(ゾルダ)と紫のスーツの人物(王蛇)は警戒する。
[備考]
※不死でなくなっていることに気付いていませんが、回復が遅い事に違和感を覚えています。
※右京と情報交換をしました。
※ルパンと情報交換をしました。


 ヴァン達の姿が見えなくなるまで手を振って、それからルパンは背後へと視線を遣る。

「そら、俺様一人になってやったぜ。
 用事があるってんなら聞いてやっから出てきな」

 気配はなかった――だが終始感じていた視線。
 それは決して「気のせい」で片付けられるようなものではなく、ルパンの経験と本能が確かに危険を知らせていた。

 そして呼び掛けから殆ど間を置かず、物陰から白髪の青年が姿を見せる。
 幽鬼の如く佇むその青年と目が合った瞬間、ぞわ、とルパンの全身の毛が逆立った。

「私怨はないが――」

 殺意も怨みも悲愴も、全てを込めた濁った瞳。
 それはルパンが知る限りでも、この年頃の青年が持つようなものではない。

「あんたにはここで犠牲になってもらウ」

 上海訛りで、青年は静かに言う。
 青年が手にしている得物は日本刀で、ルパンもまたデイパックから刀を取り出した。

 敢えて三人で立ち向かわずにヴァン達を逃したのは、負傷したヴァンと女性であるC.C.を巻き込まない為だ。
 またルパンがヴァン達に無理矢理同行してこの場を逃れたとしても、他の参加者が襲われるだろう。
 殺し合いに乗った人間は縛り上げ、大人しくさせておきたい――そう思ったからこそ、一人残った。
 ルパンは一つの鞘の両端から一本ずつ小太刀を抜き、踏み込んでくる青年を迎え打つ。


 F-2から東を目指し、やがて市街地に着いた。
 明治時代を生きる雪代縁にとってその景色は余りに異様で、『異国』というよりはやはり『別世界』に近かった。
 少し歩くと血の臭いが鼻に付き、そちらへ向かうと二つの死体を発見する。
 大砲でも撃ち込まれたかのような周囲の惨状は、ここで激しい戦闘が行われた事を表していた。
 生きた人間が付近にいない事を確かめつつ、縁は死体に近付く。
 既に飛び散った血の乾いた少年の死体の傍らには、折れた自らの愛刀と空のデイパック。
 倭刀は使い物にならないと諦め、代わりにデイパックを拾ってそれまで手で持ち運んでいた銃や刀をしまった。

 外からは死角となる民家の庭先で暫し体を休め、やがて近付いてくるエンジンの駆動音を聞く。
 乗り物――他の参加者が訪れたのだと判断し、気配を消しながら庭を抜け出した。
 エンジンの音は途中で消えたが、その者達を発見する材料としては充分だった。

 見覚えのある黒い服の男と緑髪の女、それに見知らぬ赤い服の男。
 三人を相手にするのは分が悪く、縁は聞き耳を立てながら物陰に潜む。
 呼吸を細くし、殺気を押し止め、視線を集中させた。
 「C.C.」「ヴァン」「ルパン三世」という三者の名。
 『異なる世界』『ギアス』『コード』『ラグナレクの接続』。
 様々に流れてくる情報を、真偽の判定を後に回して覚え込む。
 不老不死――そんなものが実在するのなら、死者蘇生も叶うのではないかと。
 日頃なら「下らない」と断じるであろう夢物語に集中する。
 やがてエンジンの音が再び響き、二人の背が遠ざかって行った。

 たった一人残った男――ルパンを見て、縁は動く事を決める。
 疲労はまだ残っているが、ここで確実に仕留めるべきと判断したのだ。

 三人が最初に「殺し合いに乗っているか否か」を確認し合ったように、多くの参加者は乗るか乗らないかのどちらか。
 そして乗った者は明らかに不利だ。
 この三人のように脱出や殺し合いの停止を考える者達は協力し合えるが、乗った者はそれが出来ない。
 『六人の同志』を集めた時のような根回しはこの場では難しく、協力者が現れたとしても常に裏切りを警戒する必要がある。
 乗った者は単独行動が基本で、実力者であっても下手を打てば手を組んだ弱者達に数で押し切られてしまう。
 その不利を覆す為には極力、参加者同志が協力関係を持たないようにする必要がある。
 つまり、ルパンのような男は真っ先に殺す。
 C.C.やヴァンのように他人との会話を億劫がる者達と違い、ルパンは参加者の中心になり得る社交性がある。
 この殺し合いを中断させるような手を発見しかねない知恵がある。
 叶えたい望みを持つ縁にとって、ルパンは邪魔なのだ。

 故に、奇襲を仕掛けるべく刀を抜く――だがルパンは縁の潜む方へ向き、言い放った。

「そら、俺様一人になってやったぜ。
 用事があるってんなら聞いてやっから出てきな」

 三人が別行動を始める直前の会話から、既に気付かれている可能性は考えていた。
 その為それ以上身を隠す事はせず、ルパンの前に姿を見せる。
「私怨はないが――あんたにはここで犠牲になってもらウ」
 姉との再会の為に。
 人誅の達成の為に。
 縁はルパンの望み通り、一対一の斬り合いを始める。


「覇亜亜亜亜亜亜亜亜ッ!!!」

 まずは小手調べと、ルパンは青年が振るった刀に小太刀を軽く当てて応戦する。
 が、それだけでルパンの余裕は消し飛んだ。
 接触した瞬間に小太刀が弾かれ、刀を握っていた手に軽い痺れが走る。
 弾かれた小太刀に体を僅かに引っ張られ、出来た隙に対し青年が容赦無く斬り込んできた。
「おいおい洒落にならねー……!!」
 言いながら、ルパンは頭が地面に着く程に背を仰け反らせて横薙ぎに振るわれた刃を避ける。
 そしてその体勢のまま両手を地面に着き、逆立ちする要領で足を振り上げた。
「あらよっと!」
 蹴りは狙い通り青年の顎に命中し、ルパンはその反動を利用ながら体を縦に一回転させて青年から距離を取る。

 青年の体は傷に覆われ、ここに至るまでの戦闘の激しさが見て取れた。
 対するルパンはほぼ万全の状態。
 青年が多少の実力者でも、適当にあしらって拘束するのは難しくないだろう――初め、ルパンはそう考えていた。
 しかし今となっては、その考えは既に失せている。

 神経の集まる顎への直接攻撃で、青年の動きは止まった。
 膝を着き、地に突き立てた刀で体を支えている。
 それでもルパンは一瞬の油断も出来ずにいた。
 気が緩めばその刹那に喉笛を食い千切られる、そんな緊張を強いられている。
 一度の攻防で痺れた手。
 僅かに避け損なって斬られた胸。
 対峙しているだけで汗の浮く額。
 幾つもの死線を潜り抜けてきたルパンの全身が危険を訴えていた。
 青年が向ける獣のような鋭い眼光は、あしらう程度で消えるはずがないのだ。

「兄ちゃんよぉ……まだ若ぇってのに、なーに生き急いでんだ。
 人生に絶望するにはまだ早――っとぉお!?」

 会話を試みたルパンに、青年は刀で応える。
 おどけて見せてはいるが素早く飛び退いたお陰で当たりはしなかった。
 そしてルパンは、会話が無駄だと悟る。

「希望はナイ……」

 青年の暗く澱んだ眼が更に濁る。
 それまで「ここにいない何か」に向けられていた憎悪は、今確かにルパンに向けられていた。

「既に、奪われているッ!!!」

 踏み込む事で、心を開く者もいる。
 だがこの青年の心は、全てが逆鱗に覆われているようなものだ。
 触れるもの全てに牙を剥き、全てを拒絶する――そんな相手に何を言おうと、届きはしない。

「 蹴 撃 刀 勢 ! 」

 下方から斜め上へと蹴り上げられた刀を、ルパンはとっさに小太刀二本を交差させて受け止める。
 両手で一本の刀を扱う青年に対し、片手で刀を振るう二刀流で普通に受けては力負けしてしまうからだ。
 だが、止まらない。
 鍛えられているとは言え青年の手足は細い、にも関わらずその膂力はルパンを超えていた。
 力負けし、脇腹に刀身が食い込む。
「いってぇえ!!?」
 そのまま胴を両断しようとする青年の刀を、小太刀を傾けて滑らせるように逸らす。
「ちっ……」
 青年は舌打ちして刀を払い、その間にルパンは地面を転がって元々立っていた場所から距離を取った。

「まるで猿だナ」
「……そいつぁーどうも」
 じわじわとスーツの斬られた箇所に血が滲み、赤色を濃くしていく。
 ルパンは大抵の武器は扱えるが、専門家ではない。
 対する青年の実力は石川五ェ門と並ぶだろう。
 体力面で有利なルパンの手にも余る相手だ。
 ならばと、ルパンは青年に背を向けて走り出す。
「ほーれほれどーした追ってこねーのかよー!」
 ルパンが挑発するまでもなく、青年は追って来ていた。
 正面からの打ち合いでは青年が一枚上手でも、逃げる者と追う者の構図を作ってしまえば後は体力勝負。
 ルパンは民家の塀の上からせり出していた木の枝に掴まり、そこから鉄棒の逆上がりをする要領で下半身を持ち上げる――

――が、そのまま尻から地面に落ちた。
「痛ぁ!?」
 手には無惨にへし折られた枝があり、振り返れば奇妙な形状の銃を手にした青年がいる。
「そんなもんまで持ってんのかよ、きったねぇ!!」
 起き上がって蛇行するように走ると、銃弾がスーツの脇を掠めていく。
 刀に似た形のその銃はマシンガンのように連射が可能らしく、立ち止まれば忽ち蜂の巣にされるだろう。
 しかしこうした逃走は大泥棒には日常茶飯事で、アドバンテージは明らかにルパンにあった。

 交差点の角を曲がり、銃の射線から外れている間に塀へ上がる。
 そこから民家の壁に飛び付いて屋根の上までよじ登った。
 ここまで来れば、地の利もルパンに味方する。
 銃撃には当たらない自信があり、青年が屋根の上まで登って来ようとすれば隙だらけだ。
 青年の身体能力が幾ら優れていても、一飛びでここまで来るのも無理だろう。
 それでもしつこく追い掛けて来るようなら、青年の体力が尽きるまで逃げ回るだけ。
 屋根の上から青年を見下ろすと、青年が銃をデイパックにしまったところだった。

「おうおう、やぁっと諦める気に――」
「 疾 空 刀 勢 」

 青年が跳ねる――そして、もう一度空中で跳ねた。

「何だってぇ!!?」
 慌ててルパンが走り、隣の民家の屋根へ飛び移る。
 それまでルパンがいた屋根の上へと着地した青年は、そのまま追走を始めた。
 ルパンに地の利はなくなり、家々を足場に二人は駆け抜ける。
「冗談じゃねぇ、何が楽しくってこの歳で野郎と追っかけっこしなきゃならねぇのー!?」
 走っているうちに青年が力尽きるのを期待していたのだが、そうした様子は見られなかった。
 先程の人間離れした動きを考えれば最早疲れなど期待しない方が良い。
 むしろ脇腹の止血を出来ずにいるルパンの方が不利な状況で、別の一手を考えねばならない

 四、五メートル程の距離を保ちながら逃げるルパンだったが、真横を見てギョッとする。
 いつからか、青年が並走していた。

「おまっ――」
「戰 嵐 刀 勢 !」

 青年の顔や胸に浮かんで見えた奇妙な筋は、ルパンが瞬きする間に消えていた。
 代わりに青年は沈み込むように姿勢を落とし、腕と足首の回転させて剣を振るう。
「哈亜亜亜亜!!」
 それは遠目から見れば竜巻の如き勢いで、ルパンが小太刀二本で防いでも斬撃が次から次へと襲ってきた。
 屋根や電柱。周囲の物を斬り裂きながら鎌鼬のような鋭い風が降り掛かる。
「おおっとぉ!?」
 飽くまで受け止めるのではなく受け流すようにしながら、押されるままに後退していく。
 手数では二刀流のルパンの方が優位に立っており、防ぐ事に専念すれば余裕をもって対処出来た。
 だが、途中で防御を諦めたルパンは屋根から飛び降りて更に走る。
 青年もそれに合わせてコンクリートに着地した。

 そこへルパンが小太刀を投擲する。
 狙いは肩だったが、それは容易く青年の振った刀で薙ぎ払われてしまった。
「武器を捨てたカ――……ッ!?」
 小太刀が宙を舞う――ルパンの手に向かって。
 そして縁の左肩を銃弾が穿った。
 既に刺されて出血していた肩を、弾が貫通する。

 逃げ惑う振りをしながら、ルパンは細い糸で小太刀の握りと自身の手首を結び付けていたのだ。
 小太刀を手繰り寄せる手にもう一方の小太刀を持ち替え、空いた手にはマグナムを構える。
 そして青年が小太刀を払った瞬間の反応し切れないタイミングを狙い撃った。

「あんまり無理するもんじゃねぇぜ、長丁場なんだからよ」

 片方の手に器用に二本の小太刀を持ちながら、背にした道路脇のガードレールに寄り掛かる。
 ガードレールの先は崖、その下には海が広がっていた。
 海の香と波の音。
 大泥棒の逃走にもってこいのロケーションであり、逃げながら目指していた場所だ。
 時間を掛ければこの青年を倒す事も可能だろうが、それでもルパンはここで仕切り直しを選ぶ。
 これ以上の長期戦になればルパン自身も無事で済まない相手なのは明らかだった。

「そんじゃ、あーばよっとぉ!!」

 青年と向き合ったまま、背にしたガードレールを乗り越えて身を踊らせる。
 下は海面――ただし高さは数十メートルはあり、落下の衝撃は相当なものだろう。
 ルパンはダメージを軽減すべく体勢を整える。
 しかしそこで目にしたのは、予想外の事態。

 青年もまたガードレールを乗り越え、ルパンに追い縋って来た。
 しかも飛び降りるだけでなく、側面の崖を駆け降りるようにして速度を上げている。

 殺し合いはルパンが言った通り長丁場。
 たった一人で戦い、生き抜かなければならない場では安全と生存が最優先事項になる。
 一度失敗すればそれで終わり――そんな状況で、この青年が一人の相手を深追いしてくるとは思っていなかった。
 ただでさえ傷付き疲労した状態で海に飛び込むのは、自殺行為だ。

「参ったな、こいつぁ……しつこい男は嫌われるぜ!!」
「亜亜亜亜亜亜!!!」
 ルパンが改めて二振りの刀を構え、青年の一撃を受け止める。
 刀で刀を白刃取りする、苦し紛れの防御。
 だが青年は崖を蹴った勢いと腕力に物を言わせて小太刀の刀身を弾いた。
 左手に握っていた方の刀がルパンの手を離れ、無防備になった胴に蹴りが入る。
「ごっ……」
 更に顔面を掴まれ、そのまま背中から海中へと押し込まれた。

 波飛沫を上げながら、海水の奥へ奥へと突っ込んでいく。
 落下による激痛と海水に包まれ、それでも青年の手はルパンを放さなかった。
(このっ……!!)
 残った小太刀で青年の腕を貫く――が、何故かルパンの顔を握る力は殆ど緩まない。
 そもそもルパンの顔を掴む手は左手で、その肩はたった今撃ち抜いたはずなのだ。
(まさかこいつ、痛覚――)
 水で歪んだ視界の中、青年が刀を振り上げた。



 青年の手が離れ、ルパンの体は波の流れに任せるうちに海面に到達した。
 波間から海上へ顔を出せば、空が広がっている。
(あーあ、情けねぇ……結局何も、盗れず終いだぜ……)
 ルパンの胸を中心に周囲が赤く染まるのに対し、見上げた空は冗談のように青い快晴だ。
 下手を踏んでしまった事を自嘲し、海水と自身の血に溺れながら考える。
 死んだ仲間と宿敵に、何の華も添えられなかった事を謝罪し。
 残った仲間と少年に、自分に出来なかった事を託す。

「わり、後は……任せ――たぜ」

【ルパン三世@ルパン三世死亡】


 縁は脚力を頼りに水中を進み、海面に顔を出した。
「ハァッ……はぁっ、はぁっ、」
 精神が肉体を凌駕している縁は痛みを感じない。
 しかし肩と二の腕を貫かれた左腕は動かなくなっていた。
 右手には菊一文字則宗とルパンから回収したデイパックがある。
 息継ぎをしながら見回す――数十メートル程先に、崖の一部を切り崩して作られた階段があった。
 そこを目指し、縁は泳ぐ。

 階段に到着して海から上がると、縁はデイパックと刀を投げ出して寝転がった。
 傷に空腹、疲労、どれもこの十五年で味わい尽くしている。
 苦痛はない。
 この状況は十五年とは明らかに違うのだ。
 ただただ堕ちていくだけだった頃とは異なり、奪われて消えたはずの希望が見えている。

 姉は、いつでもすぐ傍にいた。
 けれどそれは平行線のようで、決して交わる事はなかった。
 そんな幻でしかあり得なかった姉との邂逅が現実のものとなるのなら、遠回りなどしていられない。

「姉さん……もうすぐだから……」

 ただ姉との再会を夢見ながら、縁は眠る。
 世界がどうであろうと、世界がどうなろうと、縁には関心がない。
 それ以外の生き方を知らない。
 緋村剣心との決着がつかない限り、雪代縁は雪代巴の存在に自ら縛られ続ける。
 雪代縁が自らの人生を歩む事は、無い。


【一日目 午後/F-6 海岸】
【雪代縁@るろうに剣心】
[装備]:菊一文字則宗@るろうに剣心
[所持品]:レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、逆刃刀・真打@るろうに剣心、玉×5@TRICK、紐とゴム@現実(現地調達)、夜神月が書いたメモ、
     ルパンの不明支給品(0~1)、支給品一式
[状態]:左肩に銃創、左腕に刺し傷、両拳に軽症、全身打撲、各部に裂傷、疲労(特大)
[思考・行動]
0:気絶中
1:参加者を皆殺しにし、可能なら姉と抜刀斎を生き返らせる。
[備考]
※殺し合いを認識しました。
第一回放送における『緋村剣心』以外の死者の名前、及び禁止エリアの放送を聞き逃しました。
※ギアス、コード等に関する情報を得ました。

※二刀小太刀とM19コンバット・マグナム、細い糸はF-6海中に沈みました。


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128:Blood teller ヴァン 143:夢見るように目覚めて
C.C.
121:彼と彼女の事情 雪代縁
130:運命の分かれ道 ルパン三世 GAME OVER



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