それぞれの行く先 ◆.WX8NmkbZ6
霊安室を出た六人――上田次郎、カズマ、南光太郎、岩崎みなみ、翠星石、城戸真司はロビーに戻った。
ロビーに一人佇んでいたLに会いに来た訳ではなく、多くの者が今後の身の振り方に迷っていたからだ。
回収した支給品の分担も決めなければならず、思い思いに着席して休憩を取る。
安全性なら二階の会議室の方が優れていたが、皆一様にそこまで移動する気力もないようだった。
一部の者はLに事の顛末を説明しているが、多くは疲れ果てたように俯いている。
ロビーに一人佇んでいたLに会いに来た訳ではなく、多くの者が今後の身の振り方に迷っていたからだ。
回収した支給品の分担も決めなければならず、思い思いに着席して休憩を取る。
安全性なら二階の会議室の方が優れていたが、皆一様にそこまで移動する気力もないようだった。
一部の者はLに事の顛末を説明しているが、多くは疲れ果てたように俯いている。
そんな中で唯一、この先の方針を決定していたカズマだけは席に着かず、正面玄関から出て行こうとしていた。
名を刻ませた宿敵を失った時の心の穴が、広がる。
それだけでは済まず、心そのものが壊れるような痛みがあった。
胸を強く押さえると、暴れ回る自分の鼓動が伝わってくる。
同時に思い出すのが、あの少女の胸から消えた心音と温もり。
失ったものが大きすぎて、近すぎて、混ざり合った感情を持て余す。
あの最初の放送を聞いた後のように物に怒りをぶつける事すら出来ない。
叫ぶ言葉さえ、見付からない。
名を刻ませた宿敵を失った時の心の穴が、広がる。
それだけでは済まず、心そのものが壊れるような痛みがあった。
胸を強く押さえると、暴れ回る自分の鼓動が伝わってくる。
同時に思い出すのが、あの少女の胸から消えた心音と温もり。
失ったものが大きすぎて、近すぎて、混ざり合った感情を持て余す。
あの最初の放送を聞いた後のように物に怒りをぶつける事すら出来ない。
叫ぶ言葉さえ、見付からない。
だからただ誘われるように外に向かう。
霊安室で回収したあの少女のリボンを拳に握り、かけがえのないものを奪った桐山和雄に会いに行く。
いつものように、『ぶん殴る』のではない――殺しに行く。
それで収まる感情はなくとも、あの少女がそれを望まなくとも。
由詑かなみを失ったカズマには何一つ、他に出来る事がなかった。
霊安室で回収したあの少女のリボンを拳に握り、かけがえのないものを奪った桐山和雄に会いに行く。
いつものように、『ぶん殴る』のではない――殺しに行く。
それで収まる感情はなくとも、あの少女がそれを望まなくとも。
由詑かなみを失ったカズマには何一つ、他に出来る事がなかった。
「カズマさん」
「あぁ……?」
呼び止められて振り返るとLがいた。
目の下の隈を一層濃くしたように見える彼はカズマに、親指と人差し指で摘むようにして一枚の紙を差し出す。
「あなたを止める事は、私には出来ません……でも行くのならこれを読んで下さい。
この場で集めた情報が全て書いてあります」
「要らねぇ……邪魔すんじゃねぇ」
時間が惜しい――のではない。
動いていたかった。
何も考えずに、闇雲に我武者羅に、ただただ走って何かを殴ってやりたかった。
立ち止まる事が苦痛で、Lの顔を見ていると先程「八つ当たりだった」と収めたはずの怒りが再び込み上げる。
「邪魔するってんなら」
「聞いて下さい」
怒気を込めた声に、それでもLは引き下がらなかった。
カズマに押し付けるように紙を突き出す。
「情報は必要です。
……あなたなら、分かるでしょう」
「…………」
「あぁ……?」
呼び止められて振り返るとLがいた。
目の下の隈を一層濃くしたように見える彼はカズマに、親指と人差し指で摘むようにして一枚の紙を差し出す。
「あなたを止める事は、私には出来ません……でも行くのならこれを読んで下さい。
この場で集めた情報が全て書いてあります」
「要らねぇ……邪魔すんじゃねぇ」
時間が惜しい――のではない。
動いていたかった。
何も考えずに、闇雲に我武者羅に、ただただ走って何かを殴ってやりたかった。
立ち止まる事が苦痛で、Lの顔を見ていると先程「八つ当たりだった」と収めたはずの怒りが再び込み上げる。
「邪魔するってんなら」
「聞いて下さい」
怒気を込めた声に、それでもLは引き下がらなかった。
カズマに押し付けるように紙を突き出す。
「情報は必要です。
……あなたなら、分かるでしょう」
「…………」
――そこにいる赤と紫のライダーが敵だ。
握り締めた拳がぎしぎしと音を立てる。
カズマが桐山和雄の危険性に早く気付いていれば。
桐山が危険だと前以て知っていれば。
カズマはかなみから離れず、決して桐山を近付けなかった。
だから情報は、重要なのだ。
「……読むのは面倒だ。口で言え」
「ありがとうございます。
特に大切な事だけ言います」
カズマは妥協し、Lから必要事項だけを聞いた。
カズマが桐山和雄の危険性に早く気付いていれば。
桐山が危険だと前以て知っていれば。
カズマはかなみから離れず、決して桐山を近付けなかった。
だから情報は、重要なのだ。
「……読むのは面倒だ。口で言え」
「ありがとうございます。
特に大切な事だけ言います」
カズマは妥協し、Lから必要事項だけを聞いた。
危険人物の名前と特徴。
その中で北岡秀一の話になると、Lは真司に話を振る。
「城戸さん、そこに書いてある通り北岡秀一は危険人物という情報が入っています。
貴方は彼の知り合いだそうですが、彼は本当にそんな人物ですか?」
真司もまた情報交換に加わっておらず、丁度メモに目を通しているところだった。
彼は腕を組み、首を傾けて難しい顔をして問われた事について考える。
「俺も戦ってる最中に、北岡さんにやられた事はあります。
でもそれは会ったばっかの頃の話で、今はそんな事するかな……?」
絶対にないとは言い切れないが、本当にやるかどうかは疑わしいという。
しかし上田らの、北岡に極端に怯えた少年がいたという話もある。
Lはその場で北岡秀一についての記載を『危険』から『要注意』に書き直し、カズマ以外の五人もそれに続いた。
その中で北岡秀一の話になると、Lは真司に話を振る。
「城戸さん、そこに書いてある通り北岡秀一は危険人物という情報が入っています。
貴方は彼の知り合いだそうですが、彼は本当にそんな人物ですか?」
真司もまた情報交換に加わっておらず、丁度メモに目を通しているところだった。
彼は腕を組み、首を傾けて難しい顔をして問われた事について考える。
「俺も戦ってる最中に、北岡さんにやられた事はあります。
でもそれは会ったばっかの頃の話で、今はそんな事するかな……?」
絶対にないとは言い切れないが、本当にやるかどうかは疑わしいという。
しかし上田らの、北岡に極端に怯えた少年がいたという話もある。
Lはその場で北岡秀一についての記載を『危険』から『要注意』に書き直し、カズマ以外の五人もそれに続いた。
「そう言や……あんたが言ってた月ってのに会ったぜ」
「っ……どこで、」
「展望台だ、あんた達と別れたすぐ後だった。
何か、赤いジャケットの……」
名乗られたはずだったが、忘れた。
Lが即座に参加者の名を読み上げ初めたので、カズマはそれに聞き入る。
そしてルパン三世の名に反応した。
「そいつと一緒にいた。
だけどよ、月はあんたが言った事に覚えがないらしかったぜ」
「それは演技です、騙されては――」
食って掛かろうとしたLに対し、カズマはその胸ぐらを掴み上げる。
「今となっちゃ、あんたとあいつのどっちが信じられるかなんざ余計に分からねぇんだよ。
これ以上俺のやり方に口出しすんじゃねぇ」
手を放すとLは床に崩れ落ちるように座り込んだ。
それに構わず背を向けたカズマだったが、引き留めようとする者はLだけではなかった。
「っ……どこで、」
「展望台だ、あんた達と別れたすぐ後だった。
何か、赤いジャケットの……」
名乗られたはずだったが、忘れた。
Lが即座に参加者の名を読み上げ初めたので、カズマはそれに聞き入る。
そしてルパン三世の名に反応した。
「そいつと一緒にいた。
だけどよ、月はあんたが言った事に覚えがないらしかったぜ」
「それは演技です、騙されては――」
食って掛かろうとしたLに対し、カズマはその胸ぐらを掴み上げる。
「今となっちゃ、あんたとあいつのどっちが信じられるかなんざ余計に分からねぇんだよ。
これ以上俺のやり方に口出しすんじゃねぇ」
手を放すとLは床に崩れ落ちるように座り込んだ。
それに構わず背を向けたカズマだったが、引き留めようとする者はLだけではなかった。
「待ちやがれです」
翠星石が席を立ってカズマを見上げる。
怒りを堪えてか悲しみを堪えてか、唇が僅かに震えていた。
「止めんなよ」
「お前が止めたって聞かないおバカな事ぐらい、翠星石はちゃんと分かってるです」
「あんだと?」
「だから」
カズマが苛立ちを滲ませても、翠星石が真っ直ぐな視線を逸らす事はなかった。
一度固く目を閉じ、震える唇を噛み締め、そして決心したように言う。
怒りを堪えてか悲しみを堪えてか、唇が僅かに震えていた。
「止めんなよ」
「お前が止めたって聞かないおバカな事ぐらい、翠星石はちゃんと分かってるです」
「あんだと?」
「だから」
カズマが苛立ちを滲ませても、翠星石が真っ直ぐな視線を逸らす事はなかった。
一度固く目を閉じ、震える唇を噛み締め、そして決心したように言う。
「桐山に会ったら……会ったら、蒼星石の分も殴りやがれです」
カズマはこの警察署で何があったのか何も聞いていない。
だが翠星石の言葉から、蒼星石を殺害したのも桐山なのだという事は分かった。
「……お前はいいのかよ」
翠星石自身が殴りに行かなくて、それでいいのかとカズマは問う。
だが翠星石の言葉から、蒼星石を殺害したのも桐山なのだという事は分かった。
「……お前はいいのかよ」
翠星石自身が殴りに行かなくて、それでいいのかとカズマは問う。
「ぶっ殺してやりたいです……っ」
対する翠星石は憎しみの言葉を口にして、目には涙を溜めていた。
しゃくり上げてしまって話しにくそうにしながら、それでも叫ぶように言う。
「でもっ……あのおっさんが、あんまり必死に頼むから……!
ぁ、われんでやるです……お前に、譲ってやるです……っ!!」
おっさんとは、恐らく上田ではなく杉下右京の事だ。
何を頼まれたのかカズマは知らない――だが思いは伝わった。
しゃくり上げてしまって話しにくそうにしながら、それでも叫ぶように言う。
「でもっ……あのおっさんが、あんまり必死に頼むから……!
ぁ、われんでやるです……お前に、譲ってやるです……っ!!」
おっさんとは、恐らく上田ではなく杉下右京の事だ。
何を頼まれたのかカズマは知らない――だが思いは伝わった。
「……分かった。
かなみとソウセイセキ。それから俺。
三人分殴ればいいんだろ」
「五人です」
かなみとソウセイセキ。それから俺。
三人分殴ればいいんだろ」
「五人です」
間髪入れずに訂正してきたのはLだった。
「右京さんを殺害したのも桐山だそうです。
そして……恐らく瀬田宗次郎を殺害したのも、桐山です」
カズマがクッと目を見開く。
ここで突然その名を聞く事になるとは思っていなかった。
「ソウジロウ……!?」
「君は瀬田を放置した、それが放送の直前の事だそうですね。
放送で名を呼ばれるまでの僅かな時間に、他の参加者に襲撃された可能性も捨て切れませんが……。
確認させて下さい。桐山は放送の前に単独行動をしませんでしたか?」
「……っ」
「右京さんを殺害したのも桐山だそうです。
そして……恐らく瀬田宗次郎を殺害したのも、桐山です」
カズマがクッと目を見開く。
ここで突然その名を聞く事になるとは思っていなかった。
「ソウジロウ……!?」
「君は瀬田を放置した、それが放送の直前の事だそうですね。
放送で名を呼ばれるまでの僅かな時間に、他の参加者に襲撃された可能性も捨て切れませんが……。
確認させて下さい。桐山は放送の前に単独行動をしませんでしたか?」
「……っ」
――どうやら、忘れ物をしたようだ。
「あ、の、野郎ぉぉおぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
宗次郎と親しかった訳ではない。
しかしカズマと蒼星石に偽り、負傷した宗次郎を殺害し、その後も何食わぬ顔で接していた。
そして蒼星石を殺し、右京を殺し、かなみを殺した。
何もかもが気に入らなかった。
かなみの死だけで正気を失いそうな程の怒りを抱いていたというのに、怒りが胸に収まり切らずに全身に広がる。
カズマは床を乱暴に踏み付けるように早足で歩き、出口の扉を蹴破った。
しかしカズマと蒼星石に偽り、負傷した宗次郎を殺害し、その後も何食わぬ顔で接していた。
そして蒼星石を殺し、右京を殺し、かなみを殺した。
何もかもが気に入らなかった。
かなみの死だけで正気を失いそうな程の怒りを抱いていたというのに、怒りが胸に収まり切らずに全身に広がる。
カズマは床を乱暴に踏み付けるように早足で歩き、出口の扉を蹴破った。
警察署を出る。
その背に「待って」と叫んだのは、この殺し合いに放り込まれて最初に出会った少女。
しかしカズマは応えず、振り返らなかった。
どこに向かったのかすら分からない桐山を追って、カズマは市街地を突き進む。
その背に「待って」と叫んだのは、この殺し合いに放り込まれて最初に出会った少女。
しかしカズマは応えず、振り返らなかった。
どこに向かったのかすら分からない桐山を追って、カズマは市街地を突き進む。
「かなみ……」
誰の耳にも届かない場所で、小さな声で、カズマは彼女の名を呟いた。
返事する者は、もういない。
か細い声は景色に溶けて消えた。
返事する者は、もういない。
か細い声は景色に溶けて消えた。
【一日目 夕方/G-9】
【カズマ@スクライド(アニメ)】
[装備]暗視ゴーグル
[支給品]支給品一式×2、タバサの杖@ゼロの使い魔、おはぎ@ひぐらしのなく頃に、Lのメモ、不明支給品0~1、かなみのリボン@スクライド
[状態]疲労(大)、ダメージ(大)、右腕、背中に裂傷(処置済み)
[思考・行動]
1:桐山に対する強い復讐心。
【カズマ@スクライド(アニメ)】
[装備]暗視ゴーグル
[支給品]支給品一式×2、タバサの杖@ゼロの使い魔、おはぎ@ひぐらしのなく頃に、Lのメモ、不明支給品0~1、かなみのリボン@スクライド
[状態]疲労(大)、ダメージ(大)、右腕、背中に裂傷(処置済み)
[思考・行動]
1:桐山に対する強い復讐心。
▽
「私も……外に行くです」
ロビーに残るのは六人。
翠星石が口を開いたのは、カズマがいなくなってから数十分程経ってからの事だった。
覚悟を決めたその声に、他の五人の視線が集まる。
翠星石が口を開いたのは、カズマがいなくなってから数十分程経ってからの事だった。
覚悟を決めたその声に、他の五人の視線が集まる。
蒼星石の死に対し、翠星石が最初に抱いた感情は虚無だった。
桐山が犯人だと知って、怒りや悲しみが湧き上がった。
殺人を告発し、それが殺意に変わった。
では、今はどうなのか。
桐山がこの地を去り、霊安室で改めて蒼星石らと向き合って、何を感じたのか。
それは初めに抱いたのと同じ、虚無だった。
桐山が犯人だと知って、怒りや悲しみが湧き上がった。
殺人を告発し、それが殺意に変わった。
では、今はどうなのか。
桐山がこの地を去り、霊安室で改めて蒼星石らと向き合って、何を感じたのか。
それは初めに抱いたのと同じ、虚無だった。
蒼星石の気持ちを踏み躙り、命を奪った桐山への憎悪は消えていない。
殺してやりたい、あの時右京に止められる事なく絞め殺せていたらどんなに良かっただろう。
だがそれ以上に「もうこりごりだ」と思った。
殺してやりたい、あの時右京に止められる事なく絞め殺せていたらどんなに良かっただろう。
だがそれ以上に「もうこりごりだ」と思った。
翠星石は姉妹の中でも特に、アリスゲームに否定的だった。
蒼星石が傍にいてくれれば良い、いつまでも姉妹達と仲良くしていられればそれだけで良い。
父であるローゼンを愛してはいても、彼の為に殺し合う事までは出来なかった。
だからこの殺し合いも嫌なのだ。
桐山を前にした時は逆上して殺そうとしたものの、こうして時間を置くと吹き荒れていた熱が冷める。
冷めれば虚無が戻ってくる。
殺すのも、戦うのも嫌だ。
くんくん探偵を観て、雛苺のイタズラに仕返しをして、真紅や蒼星石に窘められて、ジュンに怒鳴られて、ノリのはなまるハンバーグを心待ちにする。
そんなどうでも良い日常が、今は恋しい。
蒼星石が傍にいてくれれば良い、いつまでも姉妹達と仲良くしていられればそれだけで良い。
父であるローゼンを愛してはいても、彼の為に殺し合う事までは出来なかった。
だからこの殺し合いも嫌なのだ。
桐山を前にした時は逆上して殺そうとしたものの、こうして時間を置くと吹き荒れていた熱が冷める。
冷めれば虚無が戻ってくる。
殺すのも、戦うのも嫌だ。
くんくん探偵を観て、雛苺のイタズラに仕返しをして、真紅や蒼星石に窘められて、ジュンに怒鳴られて、ノリのはなまるハンバーグを心待ちにする。
そんなどうでも良い日常が、今は恋しい。
更に熱を冷ました一因には、右京の死に様がある。
ありがとうございました――と、死ぬ間際に彼は礼を言った。
(これから死のうって時に、何を言ってやがりますか……)
正しいからと言って長生き出来るとは限らない、ましてここは殺し合いの最中だ。
それなのに不殺を訴えて満足げに逝った彼の事を思い返すと、余計に殺し合いが嫌になった。
ありがとうございました――と、死ぬ間際に彼は礼を言った。
(これから死のうって時に、何を言ってやがりますか……)
正しいからと言って長生き出来るとは限らない、ましてここは殺し合いの最中だ。
それなのに不殺を訴えて満足げに逝った彼の事を思い返すと、余計に殺し合いが嫌になった。
だからきっと、桐山と決着をつけるのは翠星石ではない。
殺し合いも戦いも嫌う翠星石ではない。
人の話を聞かない、野蛮で粗暴で強引で馬鹿で愚直で一途な男――カズマのような男だ。
故に翠星石はカズマに道を譲った。
殺し合いも戦いも嫌う翠星石ではない。
人の話を聞かない、野蛮で粗暴で強引で馬鹿で愚直で一途な男――カズマのような男だ。
故に翠星石はカズマに道を譲った。
カズマと共に行く事も考えた。
カズマが去ってからもずっと、今からでも追い掛けた方がいいのではないかと迷い続けた。
それでも翠星石はこの答えに行き着いた。
「外に、桐山を探しに行く訳ではないのです。
殺し合いなんて馬鹿な事をやってる連中を、止めてやるです……」
もし結果的に桐山に出会えば戦うだろうし、仇を討とうとするだろう。
だがその為に行くのではなく、戦いを止める為に行く。
今は翠星石と共にいる蒼星石や真紅も、きっとこの道を望むはずだ。
だから翠星石は、これ以上ここに留まる気にはならなかった。
カズマが去ってからもずっと、今からでも追い掛けた方がいいのではないかと迷い続けた。
それでも翠星石はこの答えに行き着いた。
「外に、桐山を探しに行く訳ではないのです。
殺し合いなんて馬鹿な事をやってる連中を、止めてやるです……」
もし結果的に桐山に出会えば戦うだろうし、仇を討とうとするだろう。
だがその為に行くのではなく、戦いを止める為に行く。
今は翠星石と共にいる蒼星石や真紅も、きっとこの道を望むはずだ。
だから翠星石は、これ以上ここに留まる気にはならなかった。
「しかし、危険だ」
「こんな所にいつまでも居たら、根性が腐って味噌になりますぅ。
それに、これ以上こいつと一緒になんかいられないです」
止めようとした上田に対し、唇を尖らせて答える。
こいつ、と翠星石が指差した先にいるのはLだ。
Lは間違っていなかった――だが人の気持ちを知らないLにこれ以上付き合えないと、翠星石は改めて口にした。
「こんな所にいつまでも居たら、根性が腐って味噌になりますぅ。
それに、これ以上こいつと一緒になんかいられないです」
止めようとした上田に対し、唇を尖らせて答える。
こいつ、と翠星石が指差した先にいるのはLだ。
Lは間違っていなかった――だが人の気持ちを知らないLにこれ以上付き合えないと、翠星石は改めて口にした。
「俺も行くよ」
決意を固めた翠星石に真司が続く。
彼の疲労の色は濃く、傷薬も使って可能な限りの治療はしたが万全には程遠かった。
「け、怪我人は大人しく引っ込んでやがれです!!」
「俺だってこれ以上見てられない!
それに約束したんだ、劉鳳さんに……俺が翠星石を守るって!!」
劉鳳の名を出され、翠星石はそれ以上言い返せなくなった。
わなわなと手を震わせながら真司を押し止めようとするが、彼を否定する言葉は出てこない。
「か……勝手にしやがれです」
そう言って翠星石は席を立ってその場を離れた。
決意を固めた翠星石に真司が続く。
彼の疲労の色は濃く、傷薬も使って可能な限りの治療はしたが万全には程遠かった。
「け、怪我人は大人しく引っ込んでやがれです!!」
「俺だってこれ以上見てられない!
それに約束したんだ、劉鳳さんに……俺が翠星石を守るって!!」
劉鳳の名を出され、翠星石はそれ以上言い返せなくなった。
わなわなと手を震わせながら真司を押し止めようとするが、彼を否定する言葉は出てこない。
「か……勝手にしやがれです」
そう言って翠星石は席を立ってその場を離れた。
真司もそれを追おうとするが、その前にLに頭を下げる。
「すみません、俺……翠星石を一人に出来なくて」
「私に気を遣わなくていいですよ。
行ってあげて下さい」
Lには既に一行の離散を止める気はないらしい。
翠星石は僅かに振り返り、こっそりと盗み見るようにしながら二人のやりとりが終わるのを待った。
「上田さん、受信機を」
「あ、ああ」
Lに言われた上田がデイパックからそれを取り出す――逃走した泉こなたの追跡に使ったものだ。
「城戸さん、これをお返しします。
浅倉のデイパックに発信機を仕掛けてありますから、これを辿れば彼に会えるでしょう」
浅倉は真司と同じライダーであり、因縁浅からぬ相手。
翠星石としても何の目的もなく歩き回るより動き易く、有用な支給品と言えた。
「本当は私が浅倉君と決着をつけたいのだが、私には仲間を守るという使命がある……。
本当に、心の底から残念だが、これは君に託そう」
「ど、どうも」
真司は上田から受信機を受け取って強く握り締めていた。
そして全員に別れの言葉代わりのお辞儀をし、翠星石を追いかけてくる。
「……遅いですぅ」
「悪い悪い」
互いに言って、並んで歩き始める。
扉がなくなって吹き曝しになった玄関を通り、警察署を出て行った。
「すみません、俺……翠星石を一人に出来なくて」
「私に気を遣わなくていいですよ。
行ってあげて下さい」
Lには既に一行の離散を止める気はないらしい。
翠星石は僅かに振り返り、こっそりと盗み見るようにしながら二人のやりとりが終わるのを待った。
「上田さん、受信機を」
「あ、ああ」
Lに言われた上田がデイパックからそれを取り出す――逃走した泉こなたの追跡に使ったものだ。
「城戸さん、これをお返しします。
浅倉のデイパックに発信機を仕掛けてありますから、これを辿れば彼に会えるでしょう」
浅倉は真司と同じライダーであり、因縁浅からぬ相手。
翠星石としても何の目的もなく歩き回るより動き易く、有用な支給品と言えた。
「本当は私が浅倉君と決着をつけたいのだが、私には仲間を守るという使命がある……。
本当に、心の底から残念だが、これは君に託そう」
「ど、どうも」
真司は上田から受信機を受け取って強く握り締めていた。
そして全員に別れの言葉代わりのお辞儀をし、翠星石を追いかけてくる。
「……遅いですぅ」
「悪い悪い」
互いに言って、並んで歩き始める。
扉がなくなって吹き曝しになった玄関を通り、警察署を出て行った。
それから暫く歩き、翠星石は一件の民家の前で止まった。
「翠星石は疲れたから、ここで休むです」
「え? まだ出たばっかりじゃ――」
「いいから入るです!!」
真司の背中を押し、無理矢理押し込むようにして屋内に入る。
それから彼をソファに座らせ、翠星石もその隣に腰掛けた。
「お前はまだ休んでなきゃ駄目です。
何であそこで私を止めなかったですか……『もう少し休んでから行こう』って、そう言えば良かったです」
説教するように真司に聞かせるが、彼は「ごめん」と言いながら悪びれる様子はなかった。
「でも、あそこに居たくなかったんだろ」
「あ……当たり前です、あんな陰気な奴と一緒になん、て……」
あの場所にいるのが嫌で、早く離れたかった。
蒼星石からも離れてしまうけれど、それでも出たかった。
それは、Lが嫌いだから。
嫌いだから――これ以上泣く顔を、見られたくなかった。
「翠星石は疲れたから、ここで休むです」
「え? まだ出たばっかりじゃ――」
「いいから入るです!!」
真司の背中を押し、無理矢理押し込むようにして屋内に入る。
それから彼をソファに座らせ、翠星石もその隣に腰掛けた。
「お前はまだ休んでなきゃ駄目です。
何であそこで私を止めなかったですか……『もう少し休んでから行こう』って、そう言えば良かったです」
説教するように真司に聞かせるが、彼は「ごめん」と言いながら悪びれる様子はなかった。
「でも、あそこに居たくなかったんだろ」
「あ……当たり前です、あんな陰気な奴と一緒になん、て……」
あの場所にいるのが嫌で、早く離れたかった。
蒼星石からも離れてしまうけれど、それでも出たかった。
それは、Lが嫌いだから。
嫌いだから――これ以上泣く顔を、見られたくなかった。
「み、んな……みんなみんな、馬鹿ばっかです、ぅ……!!
何で、何で……!!」
何で、何で……!!」
陶器のように白く滑らかな肌を涙で汚す。
シャナやシャドームーン、桐山、浅倉のような殺し合いに進んで乗る連中は馬鹿だ。
そして劉鳳や新一、ミギー、蒼星石、右京、かなみのような人の好い連中も馬鹿だ。
殺し合いをする者達も、自身を犠牲にする者達も――皆、馬鹿だ。
シャナやシャドームーン、桐山、浅倉のような殺し合いに進んで乗る連中は馬鹿だ。
そして劉鳳や新一、ミギー、蒼星石、右京、かなみのような人の好い連中も馬鹿だ。
殺し合いをする者達も、自身を犠牲にする者達も――皆、馬鹿だ。
「ぅっ……うぅぅ……わぁぁあああ……!!」
真司以外に人目がないと思うと余計に涙を止められず、翠星石は泣き続けた。
【一日目 夕方/G-9 警察署付近の民家】
【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]庭師の如雨露@ローゼンメイデン、真紅と蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0~1)
[状態]疲労(中)
[思考・行動]
1:真司と同行し、殺し合いを止める。
2:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。
3:水銀燈を含む危険人物を警戒。
4:桐山はカズマに任せる。
[備考]
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。
【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]庭師の如雨露@ローゼンメイデン、真紅と蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0~1)
[状態]疲労(中)
[思考・行動]
1:真司と同行し、殺し合いを止める。
2:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。
3:水銀燈を含む危険人物を警戒。
4:桐山はカズマに任せる。
[備考]
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。
【城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、確認済み支給品(0~3) 、劉鳳の不明支給品(1~3)、発信機の受信機@DEATH NOTE
[状態]ダメージ(中)、疲労(大)、劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感
[思考・行動]
1:右京の言葉に強い共感。
2:翠星石と同行し、殺し合いを止める。
3:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。
※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、確認済み支給品(0~3) 、劉鳳の不明支給品(1~3)、発信機の受信機@DEATH NOTE
[状態]ダメージ(中)、疲労(大)、劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感
[思考・行動]
1:右京の言葉に強い共感。
2:翠星石と同行し、殺し合いを止める。
3:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。
※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。
▽
「……光太郎君。
君も、行っていいんですよ」
三人がこの警察署を離れていった。
しかし真っ先にここを飛び出して行きたかったのは、恐らく光太郎だ。
光太郎はカズマと並んで強く、全参加者の中でもその実力は屈指のものだろう。
だからこそ、ここに至るまで殆ど戦って来なかったという事実が、光太郎の胸を蝕んでいるに違いない。
誰よりも強く優しい彼には、こうしている事は耐えられないはずだ。
それでもここに残っているのは、残った面々に気を遣っているからに他ならなかった。
君も、行っていいんですよ」
三人がこの警察署を離れていった。
しかし真っ先にここを飛び出して行きたかったのは、恐らく光太郎だ。
光太郎はカズマと並んで強く、全参加者の中でもその実力は屈指のものだろう。
だからこそ、ここに至るまで殆ど戦って来なかったという事実が、光太郎の胸を蝕んでいるに違いない。
誰よりも強く優しい彼には、こうしている事は耐えられないはずだ。
それでもここに残っているのは、残った面々に気を遣っているからに他ならなかった。
「私が君を、縛り付けたんです。
君が各地の戦場に行けるように計らっていれば、きっと君は多くの人を守れました。だから――」
「でも、Lさん。
俺が出て行ったら……ここはどうなるんですか」
残っているのはL、みなみ、上田、光太郎の四人。
支給品があるとは言え、光太郎が去ればライダーに対抗出来るような人間はいなくなる。
かと言って動き回るには四人という人数は多過ぎる上に、光太郎が他の三人を守りながら戦う事になってしまう。
だから決断しなければならないのだ。
君が各地の戦場に行けるように計らっていれば、きっと君は多くの人を守れました。だから――」
「でも、Lさん。
俺が出て行ったら……ここはどうなるんですか」
残っているのはL、みなみ、上田、光太郎の四人。
支給品があるとは言え、光太郎が去ればライダーに対抗出来るような人間はいなくなる。
かと言って動き回るには四人という人数は多過ぎる上に、光太郎が他の三人を守りながら戦う事になってしまう。
だから決断しなければならないのだ。
より多くの人を救う為に三人を見捨てるのか。
三人を守る為により多くの人を見捨てるのか。
やがて、彼もカズマ達のように決心する。
三人を守る為により多くの人を見捨てるのか。
やがて、彼もカズマ達のように決心する。
「ここに……残ります」
▽
警察署の裏口で、光太郎は見張りをしていた。
扉の下には段差があり、そこに腰掛けて周囲に注意を払う。
扉の下には段差があり、そこに腰掛けて周囲に注意を払う。
上田とLは扉のなくなったロビーから二階の会議室に移動した。
そしてみなみはと言えば、所在無げに光太郎の傍に佇んでいる。
「Lさん達と一緒にいた方がいい」と言っても、彼女は光太郎の傍から離れなかった。
彼女とLの間の確執は光太郎も知るところで、恐らく同じ部屋には居づらいのだろう。
故にそれ以上は無理強いせず、光太郎は彼女の好きにさせる事にした。
そしてみなみはと言えば、所在無げに光太郎の傍に佇んでいる。
「Lさん達と一緒にいた方がいい」と言っても、彼女は光太郎の傍から離れなかった。
彼女とLの間の確執は光太郎も知るところで、恐らく同じ部屋には居づらいのだろう。
故にそれ以上は無理強いせず、光太郎は彼女の好きにさせる事にした。
光太郎が「座らないのかい」と自身の隣を指差しても、みなみは首を横に振る。
代わりに光太郎の後ろで膝立ちになり、光太郎を背中から抱き締めた。
「みなみちゃん……?」
彼女が光太郎の首に腕を回すと鼓動に体温、そして震えが伝わってきた。
代わりに光太郎の後ろで膝立ちになり、光太郎を背中から抱き締めた。
「みなみちゃん……?」
彼女が光太郎の首に腕を回すと鼓動に体温、そして震えが伝わってきた。
光太郎はみなみを大人しい、人と接するのが不得手な少女と認識している。
その為彼女の大胆とも言える行動に驚いたのだが、きっと今までの体験がそれだけ苦しかったという事なのだろう。
こうして光太郎に縋るようにしがみ付きたくなる程、辛かったのだろう。
「大丈夫だよみなみちゃん。
約束通り、俺が君を守る……その為にここに残ったんだから」
みなみはゆっくりと頷いた。
それから光太郎の耳元で、小さく細い声で囁く。
「光太郎さんの事……聞きたい」
沈黙が耐えられない――しかしみなみ自身は口数が少なく、何を話していいか分からないようだ。
とは言え光太郎とて話上手とは言えず、面白い話など出来ない。
だから光太郎は視線を前へと向けたまま、素直に語れるだけの事を語った。
その為彼女の大胆とも言える行動に驚いたのだが、きっと今までの体験がそれだけ苦しかったという事なのだろう。
こうして光太郎に縋るようにしがみ付きたくなる程、辛かったのだろう。
「大丈夫だよみなみちゃん。
約束通り、俺が君を守る……その為にここに残ったんだから」
みなみはゆっくりと頷いた。
それから光太郎の耳元で、小さく細い声で囁く。
「光太郎さんの事……聞きたい」
沈黙が耐えられない――しかしみなみ自身は口数が少なく、何を話していいか分からないようだ。
とは言え光太郎とて話上手とは言えず、面白い話など出来ない。
だから光太郎は視線を前へと向けたまま、素直に語れるだけの事を語った。
秋月杏子や信彦、紀田克美と過ごした楽しい日々。
父の死とゴルゴムによる改造、それから訪れた戦いの連続。
シャドームーンと戦う事の辛さ。
自身の過去を一つずつ、みなみにも伝わるように丁寧に説明していく。
彼女は時折相づちを交えながら、静かに話に耳を傾けていた。
父の死とゴルゴムによる改造、それから訪れた戦いの連続。
シャドームーンと戦う事の辛さ。
自身の過去を一つずつ、みなみにも伝わるように丁寧に説明していく。
彼女は時折相づちを交えながら、静かに話に耳を傾けていた。
「……ねぇ、みなみちゃん」
話す事がなくなり、光太郎は改めてみなみに呼び掛ける。
脳裏にはL達と別れる前の、支給品を分担した時の光景が思い起こされていた。
脳裏にはL達と別れる前の、支給品を分担した時の光景が思い起こされていた。
女神の剣を持ちたいと、みなみは言った。
守られるばかりはもう嫌、無力なままでいる事が怖い、と。
そして何よりも先輩の持ち物を引き継ぎたいと、元々無口なみなみが必死に訴えていた。
しかしそれに反対したのはLで、彼は右京から内密に伝えられた事を告白した。
守られるばかりはもう嫌、無力なままでいる事が怖い、と。
そして何よりも先輩の持ち物を引き継ぎたいと、元々無口なみなみが必死に訴えていた。
しかしそれに反対したのはLで、彼は右京から内密に伝えられた事を告白した。
――皆さんがいる前では話せなかった事です。
――岩崎さん、貴女は城戸さんのデイパック……いえ、カードデッキを盗もうとしたそうですね。
――力を求める理由が間違っていなかったとしても、今の貴女は剣を持つべきではない。
――岩崎さん、貴女は城戸さんのデイパック……いえ、カードデッキを盗もうとしたそうですね。
――力を求める理由が間違っていなかったとしても、今の貴女は剣を持つべきではない。
「君は戦わなくていい。それは俺の役目だから。
ただ……今は辛いだろうけど、死んでしまった人達の事を受け入れて欲しい」
ただ……今は辛いだろうけど、死んでしまった人達の事を受け入れて欲しい」
Lの警戒は、正しいのだろうか。
カズマや一時の翠星石のように、みなみは復讐を考えているのだろうか。
光太郎には分からない。
ただこうしている間もずっと光太郎から離れようとしない、何かに怯えているようにさえ見える彼女は。
親しかった人達、この地で出会った人達の死を、きっとまだ受け止められていないのだろうと思う。
カズマや一時の翠星石のように、みなみは復讐を考えているのだろうか。
光太郎には分からない。
ただこうしている間もずっと光太郎から離れようとしない、何かに怯えているようにさえ見える彼女は。
親しかった人達、この地で出会った人達の死を、きっとまだ受け止められていないのだろうと思う。
「耐えなきゃ、いけないんだ。
辛くても……」
辛くても……」
光太郎は失う悲しみを知っている。
後悔も何度も経験した。
だからみなみの気持ちも分かる。
だからこそ道を誤らないでいて欲しかった。
後悔も何度も経験した。
だからみなみの気持ちも分かる。
だからこそ道を誤らないでいて欲しかった。
「皆で頑張れば、きっとこの戦いを乗り越えられるよ。
だから悲しくても、死んでいった人達の分も強く生きるんだ」
だから悲しくても、死んでいった人達の分も強く生きるんだ」
みなみの返事はなかった。
光太郎のすぐ後ろにいる彼女の表情は、見えない。
気まずく流れる長い沈黙の後、彼女はゆっくりと光太郎の首に絡めていた腕を解いて立ち上がった。
(伝わらない……のか)
光太郎なりの必死の思いを込めたが、届いた様子はなかった。
しかし諦めずにもう一度訴える。
光太郎のすぐ後ろにいる彼女の表情は、見えない。
気まずく流れる長い沈黙の後、彼女はゆっくりと光太郎の首に絡めていた腕を解いて立ち上がった。
(伝わらない……のか)
光太郎なりの必死の思いを込めたが、届いた様子はなかった。
しかし諦めずにもう一度訴える。
「今は苦しいかも知れない。でも――」
「そう言えるのは」
「そう言えるのは」
二人が出会ってから初めて、みなみが光太郎の言葉を遮った。
そして光太郎の背筋――胸の奥に熱と痛みが走る。
「っつぅ……!?」
喉の奥から熱いものが込み上げ、咳込むと掌に血が飛び散った。
胸を中心に、白い服が瞬く間に朱に染まっていく。
そして光太郎の背筋――胸の奥に熱と痛みが走る。
「っつぅ……!?」
喉の奥から熱いものが込み上げ、咳込むと掌に血が飛び散った。
胸を中心に、白い服が瞬く間に朱に染まっていく。
振り返ればそこに、みなみが立っている。
「光太郎さんが、強いから……ッ!!
強いから、そんなっ事が……!!!」
強いから、そんなっ事が……!!!」
彼女の手には、女神の剣が握られていた。
▽
「Lさん、待って下さい」
女神の剣は渡せないと、そう言い切ったLを制止したのは光太郎だった。
「その剣がこなたちゃんの遺品なら、みなみちゃんが持つべきだと思います」
みなみの憔悴し切った様子から、友人達を亡くした衝撃から立ち直れていないのは明らかだった。
Lはそれに気付きながら、それでも危険を排除しようとしていた。
しかしLとは違い、そんな彼女から友人との接点まで取り上げる事は光太郎には出来なかったのだろう。
「その剣がこなたちゃんの遺品なら、みなみちゃんが持つべきだと思います」
みなみの憔悴し切った様子から、友人達を亡くした衝撃から立ち直れていないのは明らかだった。
Lはそれに気付きながら、それでも危険を排除しようとしていた。
しかしLとは違い、そんな彼女から友人との接点まで取り上げる事は光太郎には出来なかったのだろう。
「しかし光太郎さん、」
「確かにみなみちゃんは戦い方を知らないし、武器を持つのはかえって危険かも知れません。
でも、俺が使わせませんから。
俺がみなみちゃんを守っていれば、剣を使う必要なんてない」
「確かにみなみちゃんは戦い方を知らないし、武器を持つのはかえって危険かも知れません。
でも、俺が使わせませんから。
俺がみなみちゃんを守っていれば、剣を使う必要なんてない」
光太郎は、みなみが自衛や復讐以外の理由で剣を振るう可能性に気付いていなかった。
その危険を察知していても、「彼女にそんな事が出来るはずがない」と無意識のうちに打ち消してしまっていた。
普段のLならば光太郎にその事を指摘し、やはりみなみに剣を取らせはしなかっただろう。
しかしこの警察署でLは仲間を失い、信頼を失い、絶対の自信を失った。
失敗と挫折が、悲しみと後悔が、世界一の名探偵であるLを鈍らせた。
「人の気持ちが分からない」という度重なる糾弾に心を揺さぶられ、光太郎の思いを無碍に出来なかった。
その危険を察知していても、「彼女にそんな事が出来るはずがない」と無意識のうちに打ち消してしまっていた。
普段のLならば光太郎にその事を指摘し、やはりみなみに剣を取らせはしなかっただろう。
しかしこの警察署でLは仲間を失い、信頼を失い、絶対の自信を失った。
失敗と挫折が、悲しみと後悔が、世界一の名探偵であるLを鈍らせた。
「人の気持ちが分からない」という度重なる糾弾に心を揺さぶられ、光太郎の思いを無碍に出来なかった。
そしてその時みなみに譲渡された女神の剣は今、仮面ライダーブラック――南光太郎を貫いた。
▽
私はゆたかの死を、見ている事しか出来なかった。
カズマさんと出会ったけど、足を引っ張るばっかりで何も出来なかった。
右京さんと移動している間だって、私は隠れてただけ。
皆が頭を、体を、それぞれが自分の武器を使って戦っている時に、私は何も持ってなかった。
そして私の目の前で、右京さんと泉先輩とかなみちゃんが死んだ。
――私にも……なにかできないかと思って……
まだ八歳……私の半分の歳のかなみちゃんが自分の戦いをしていたのに、私は何をしたの?
……何も、してない。
カズマさんと出会ったけど、足を引っ張るばっかりで何も出来なかった。
右京さんと移動している間だって、私は隠れてただけ。
皆が頭を、体を、それぞれが自分の武器を使って戦っている時に、私は何も持ってなかった。
そして私の目の前で、右京さんと泉先輩とかなみちゃんが死んだ。
――私にも……なにかできないかと思って……
まだ八歳……私の半分の歳のかなみちゃんが自分の戦いをしていたのに、私は何をしたの?
……何も、してない。
それでもギリギリのところで迷っていた、越えられないでいた線を越えてしまったきっかけはカズマさんだった。
待って、と――そう言って私は、その後どうするつもりだったの?
Lさんや翠星石ちゃんのように目的があった訳じゃない。
ただ寂しくて、せっかくまた会えたのに何も話せないまま離れてしまうのが嫌で、引き留めようとした。
結果的に、カズマさんは私の方を見向きもしなかった。
それで……私は本当に、何も出来ないんだって思い知った。
桐山君を追い掛ける手伝いどころか、カズマさんを呼び止める事すら出来ない。
私は、何の為に生き残ってるんだろう……?
待って、と――そう言って私は、その後どうするつもりだったの?
Lさんや翠星石ちゃんのように目的があった訳じゃない。
ただ寂しくて、せっかくまた会えたのに何も話せないまま離れてしまうのが嫌で、引き留めようとした。
結果的に、カズマさんは私の方を見向きもしなかった。
それで……私は本当に、何も出来ないんだって思い知った。
桐山君を追い掛ける手伝いどころか、カズマさんを呼び止める事すら出来ない。
私は、何の為に生き残ってるんだろう……?
力が欲しい。
力が、欲しい。
その力で何をするの?
その力で何をすればいいの?
力が、欲しい。
その力で何をするの?
その力で何をすればいいの?
――リセットボタンを貰えば、全てが元通りになるんだよ!?
――みなみちゃん! ゆーちゃんがこのまま死んじゃったままでいいの!? ねぇ!?
――みなみちゃん! ゆーちゃんがこのまま死んじゃったままでいいの!? ねぇ!?
良い訳、ない……!!
このまま生きて帰れたとしても、そこにはゆたかもみゆきさんもかがみ先輩も泉先輩もいない。
つかさ先輩は優しくしてくれるだろうけど、つかさ先輩だって苦しいはずだ。
私よりももっと泉先輩達の近くにいたつかさ先輩は、私より辛いかも知れない。
そんな先輩の顔、見たくない。
あの人達がいない、残った人達が悲しい顔をしている、そんな日常じゃ、意味がない……!!
このまま生きて帰れたとしても、そこにはゆたかもみゆきさんもかがみ先輩も泉先輩もいない。
つかさ先輩は優しくしてくれるだろうけど、つかさ先輩だって苦しいはずだ。
私よりももっと泉先輩達の近くにいたつかさ先輩は、私より辛いかも知れない。
そんな先輩の顔、見たくない。
あの人達がいない、残った人達が悲しい顔をしている、そんな日常じゃ、意味がない……!!
皆で帰れないなら、そんな日常は要らないッ!!!
――んーそうだね、何か願いも叶えてあげるよ。
……本当に。
ゆたかやみゆきさんや泉先輩やかがみ先輩が帰ってくるなら。
私もつかさ先輩も笑っていられる日常が帰ってくるなら。
そうしたら……私が生き残った意味も、きっとある。
ゆたかやみゆきさんや泉先輩やかがみ先輩が帰ってくるなら。
私もつかさ先輩も笑っていられる日常が帰ってくるなら。
そうしたら……私が生き残った意味も、きっとある。
私は泉先輩の代わりに全部『リセット』する為に、今まで生き残ってきたんだ。
そう決意しても、私に力が無い事に変わりはない。
残りの参加者全員を殺すなんて、私には無理かも知れない。
……でも、泉先輩はやろうとしていた。
カードデッキもなくて、ただの女子高生……私と変わらない条件で、それでも先輩は戦ってた。
私も……戦わなきゃ。
だから私手に入った女神の剣をデイパックにしまって、光太郎さんの後ろに立った。
光太郎さんは強いから。
こうして私を信じ切っている時でないと、この先絶対に殺す事なんて出来ないから。
残りの参加者全員を殺すなんて、私には無理かも知れない。
……でも、泉先輩はやろうとしていた。
カードデッキもなくて、ただの女子高生……私と変わらない条件で、それでも先輩は戦ってた。
私も……戦わなきゃ。
だから私手に入った女神の剣をデイパックにしまって、光太郎さんの後ろに立った。
光太郎さんは強いから。
こうして私を信じ切っている時でないと、この先絶対に殺す事なんて出来ないから。
……でも私は、すぐには出来なかった。
光太郎さんの広い背中を見て、私の事を何も疑っていないその姿を見て、涙が出そうになった。
気付くと私はデイパックを置いて、光太郎さんを後ろから抱き締めてた。
自分のそんな大胆な行動に驚いて――でもやっぱり私には無理だったんだって、ほんの少しだけホッとした。
やっぱり人を殺すなんて――光太郎さんを殺すなんて、嫌だから……。
光太郎さんの話を聞きながら、震えが少しずつ収まっていった。
だけど……。
光太郎さんの広い背中を見て、私の事を何も疑っていないその姿を見て、涙が出そうになった。
気付くと私はデイパックを置いて、光太郎さんを後ろから抱き締めてた。
自分のそんな大胆な行動に驚いて――でもやっぱり私には無理だったんだって、ほんの少しだけホッとした。
やっぱり人を殺すなんて――光太郎さんを殺すなんて、嫌だから……。
光太郎さんの話を聞きながら、震えが少しずつ収まっていった。
だけど……。
「今は辛いだろうけど、死んでしまった人達の事を受け入れて欲しい」
落ち着いていた私の心臓が、どくんと跳ね上がる。
光太郎さんの言葉が、私に思い出させた。
『光太郎さんを殺さないと死んでしまった人達は生き返らない』。
『光太郎さんを殺さないと死んでしまった人達の事を受け入れなければならない』。
『光太郎さんを殺さないと死んでしまった人達が戻らない日常がやってくる』。
光太郎さんの言葉が、私に思い出させた。
『光太郎さんを殺さないと死んでしまった人達は生き返らない』。
『光太郎さんを殺さないと死んでしまった人達の事を受け入れなければならない』。
『光太郎さんを殺さないと死んでしまった人達が戻らない日常がやってくる』。
「耐えなきゃ、いけないんだ。
辛くても……」
辛くても……」
耐えられない、辛い、苦しい、悲しい、嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「皆で頑張れば、きっとこの戦いを乗り越えられるよ。
だから悲しくても、死んでいった人達の分も強く生きるんだ」
だから悲しくても、死んでいった人達の分も強く生きるんだ」
頑張って、戦いを乗り越えて……でもそこにはゆたかも先輩達もいない!!
強くなんて生きられない!
私は光太郎さんとは違う、仮面ライダーなんかじゃない、弱い!!
強くなんて生きられない!
私は光太郎さんとは違う、仮面ライダーなんかじゃない、弱い!!
「今は苦しいかも知れない。でも――」
「そう言えるのは」
「そう言えるのは」
光太郎さんが私と違って強いからでしょう……!?
私に優しくしてくれるのも、人が死ぬのを耐えられるのも……!
私に優しくしてくれるのも、人が死ぬのを耐えられるのも……!
煮え切った感情のまま、私にもう迷いはなかった。
デイパックから抜いた女神の剣を、光太郎さんの背に突き立てた。
デイパックから抜いた女神の剣を、光太郎さんの背に突き立てた。
「光太郎さんが、強いから……ッ!!
強いから、そんなっ事が……!!!」
強いから、そんなっ事が……!!!」
私は光太郎さんが、好きだった。
優しくしてくれて、親しみやすくて、本当のお兄さんみたいだった。
また会いたいと思っていたから、また会えて本当に嬉しかった。
そんな光太郎さんに、私が人を殺すところなんて……見られたくない。
優しくしてくれて、親しみやすくて、本当のお兄さんみたいだった。
また会いたいと思っていたから、また会えて本当に嬉しかった。
そんな光太郎さんに、私が人を殺すところなんて……見られたくない。
見られたくないなら、‘見られる前に殺すしかない’。
だから、私を見ないで……光太郎さん。
大好きな光太郎さん。
これからたくさん人を殺す私を、見ないで……!!
大好きな光太郎さん。
これからたくさん人を殺す私を、見ないで……!!
見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで
だから……私は最初に、光太郎さんを殺す。
最初に殺す相手が光太郎さんで、良かった。
最初に殺す相手が光太郎さんで、良かった。
全部『リセット』したら、きっとまた会えるから。
だから今は……さよなら。
そうして光太郎さんの背中に刺した剣は、思っていたよりも簡単に光太郎さんの胸を貫いた。
余りに呆気なくて、私はそれ以上どうしていいか分からなくなる。
だから今は……さよなら。
そうして光太郎さんの背中に刺した剣は、思っていたよりも簡単に光太郎さんの胸を貫いた。
余りに呆気なくて、私はそれ以上どうしていいか分からなくなる。
「みなみちゃん……!!!」
いきなり光太郎さんが、剣を握ったまま呆然としていた私を抱き締めた。
私がさっきまでしていたのとは違って、正面から。
血の匂いがする、力が弱い。
でも光太郎さんは私を離そうとはしなかった。
何で……。
私がさっきまでしていたのとは違って、正面から。
血の匂いがする、力が弱い。
でも光太郎さんは私を離そうとはしなかった。
何で……。
「ごめん、気付けなくて……俺は、自分の事ばかりだった……!」
光太郎さんが血を吐いて、それでも私に呼び掛けるのをやめなかった。
光太郎さんの力がますます弱くなっていく、強くなくなっていく。
何で……光太郎さんは私に優しくするの?
光太郎さんが優しいのは、強いからじゃなかったの?
もう強くないのに優しいのは何で?
光太郎さんの力がますます弱くなっていく、強くなくなっていく。
何で……光太郎さんは私に優しくするの?
光太郎さんが優しいのは、強いからじゃなかったの?
もう強くないのに優しいのは何で?
「それでも聞いて、みなみちゃん……俺の事は、忘れていいから……!」
こうして光太郎さんが話している間も、地面に血が広がっていく。
光太郎さんの傷と接している私の制服の胸も、赤く濡れていく。
右京さんやかなみちゃんの事を思い出して、光太郎さんも死んでしまうんだと今更のように実感した。
……「忘れていい」なんて、どうして言えるの?
何で、怒らないの?
光太郎さんの傷と接している私の制服の胸も、赤く濡れていく。
右京さんやかなみちゃんの事を思い出して、光太郎さんも死んでしまうんだと今更のように実感した。
……「忘れていい」なんて、どうして言えるの?
何で、怒らないの?
「カズマ君や翠星石ちゃんだけじゃない、上田さんだって、Lさんだって、皆戦ってる…!
俺は君にも、戦って欲しい……!」
俺は君にも、戦って欲しい……!」
…………。
「それは、君が皆の為に人を殺しても……それで皆が生き返ったとしても……きっと君は、幸せになれないから!!」
何で私は、気付かなかったの……?
光太郎さんは、強いから優しいんじゃない。
光太郎さんは、強いから優しいんじゃない。
「俺は君に、幸せになって欲しいんだ……!」
光太郎さんは優しいから、強かったのに。
「あ、ぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁああああああああああああああああああああッ!!!!!」
私は剣を落とした。
気付いたって、もう遅い。
私が光太郎さんを――殺してしまう。
気付いたって、もう遅い。
私が光太郎さんを――殺してしまう。
▽
南光太郎は何の為に生きてきたのか。
ゴルゴムから地球を救えず、シャドームーンと決着を付けられず。
この殺し合いに呼ばれていなければ全ての人類を救っていたであろう男は、何の為にここまで来たのか。
ゴルゴムから地球を救えず、シャドームーンと決着を付けられず。
この殺し合いに呼ばれていなければ全ての人類を救っていたであろう男は、何の為にここまで来たのか。
「光太郎さん、光太郎さんッ!!」
それは、目の前で泣いている少女を救う為。
たった一人の少女の心を救済する為だ。
地球を、人類を守る事に比べればそれは余りに些細で、ささやかで、些末事かも知れない。
それでも光太郎は命を懸ける。
たったそれだけの事の為に、光太郎は命を燃やし尽くした。
「守る」と、彼女に約束したのだから。
「幸せになって欲しい」と、願わずにはいられないのだから。
たった一人の少女の心を救済する為だ。
地球を、人類を守る事に比べればそれは余りに些細で、ささやかで、些末事かも知れない。
それでも光太郎は命を懸ける。
たったそれだけの事の為に、光太郎は命を燃やし尽くした。
「守る」と、彼女に約束したのだから。
「幸せになって欲しい」と、願わずにはいられないのだから。
全ての人を幸せにする事が出来ないのなら。
せめて彼女だけでも、救いたい。
せめて彼女だけでも、救いたい。
必死に光太郎の名を叫ぶ少女には、きっと気持ちは届いた。
「死なないで」と叫ぶ少女は、失う悲しみを知っている。
もう二度と、自ら人を傷付ける事はないだろう。
だから光太郎は安心して休む事が出来た。
「死なないで」と叫ぶ少女は、失う悲しみを知っている。
もう二度と、自ら人を傷付ける事はないだろう。
だから光太郎は安心して休む事が出来た。
みなみに触れていた腕の力が緩んで、足も体を支えられなくなって、光太郎は血の海に倒れ込む。
彼女の声を聞いて駆け付けた上田とLに、光太郎は最後の願いを託した。
彼女の声を聞いて駆け付けた上田とLに、光太郎は最後の願いを託した。
「上田さん、Lさん……みなみちゃんを……」
その一生が短くても、守れたものが僅かでも。
南光太郎はその命を全うした。
南光太郎はその命を全うした。
「お願い、します……」
【南光太郎@仮面ライダーBLACK死亡】
▽
どうして気付かなかったのだろうか。
Lがどれだけ苦悩していたか。
Lがどれだけ後悔していたか。
顔を見ただけで、声を聞いただけでそれが分かるような人間もいれば、内に封じ込めて見せない人間もいる。
例えこの会場の中に親しい者がいなくても、『正義』を口にするLが人の死に何も感じなかったはずがない。
皆、耐えている。
皆、辛い。
皆、それでも戦おうとしている。
そんな当たり前の事も、みなみには分からなかった。
光太郎が命を懸けるまで気付けなかった。
Lがどれだけ苦悩していたか。
Lがどれだけ後悔していたか。
顔を見ただけで、声を聞いただけでそれが分かるような人間もいれば、内に封じ込めて見せない人間もいる。
例えこの会場の中に親しい者がいなくても、『正義』を口にするLが人の死に何も感じなかったはずがない。
皆、耐えている。
皆、辛い。
皆、それでも戦おうとしている。
そんな当たり前の事も、みなみには分からなかった。
光太郎が命を懸けるまで気付けなかった。
「私の話を聞いてくれますか、岩崎さん」
上田が光太郎を霊安室に運び、三人は二階の会議室の椅子に向かい合って着席する。
Lの声を聞いても、みなみは顔を上げられなかった。
酷い事を言って、酷い事をして、挙げ句にこの結果を招いた。
元々話すのが得意でないのに、こんな時に何を言えばいいのか分からない。
どんな顔をしていいのか分からない。
「ごめんなさい」と言おうとしても、嗚咽に潰れて言葉にならない。
みなみが大切な事に気付くのは、余りに遅かった。
Lの声を聞いても、みなみは顔を上げられなかった。
酷い事を言って、酷い事をして、挙げ句にこの結果を招いた。
元々話すのが得意でないのに、こんな時に何を言えばいいのか分からない。
どんな顔をしていいのか分からない。
「ごめんなさい」と言おうとしても、嗚咽に潰れて言葉にならない。
みなみが大切な事に気付くのは、余りに遅かった。
「遅くありませんよ。
貴女は強いんですから」
「っ……」
貴女は強いんですから」
「っ……」
見透かしたようなLの言葉に肩を震わせる。
否定しようとするが、それを待たずにLは言葉を重ねた。
「私の顔をはたく度胸があるんですからね、弱いはずがないでしょう。
罪を問い質す事も責める事も後からで出来る事です……その上で聞いて下さい」
光太郎も、Lも、上田も、何故誰も叱ろうとしないのか。
どうして光太郎を殺害した張本人と平気で向き合っているのか、みなみには分からなかった。
ただみなみは言われるままに頷き、Lの話を聞く。
否定しようとするが、それを待たずにLは言葉を重ねた。
「私の顔をはたく度胸があるんですからね、弱いはずがないでしょう。
罪を問い質す事も責める事も後からで出来る事です……その上で聞いて下さい」
光太郎も、Lも、上田も、何故誰も叱ろうとしないのか。
どうして光太郎を殺害した張本人と平気で向き合っているのか、みなみには分からなかった。
ただみなみは言われるままに頷き、Lの話を聞く。
「まず、私は岩崎さんにも上田さんにも謝らなければなりません。
腑抜けていました。
私のせいで大勢の犠牲が出たからと言って、失った信頼を取り戻す努力を怠るべきではなかった」
Lの行動は合理的だった。
Lが戦場に行ったところで役には立たなかっただろうし、桐山の本質が見抜けなかったのは皆の責任だ。
「私にも何かさせて下さい」と訴えるかなみの姿は一同が目撃しており、Lが彼女を止められなかったのも無理はない。
それでもLの考えと行動は、多くの者にとって心無いものに映った。
「私はまず、こうして皆さんと話をするべきでした。
謝罪し、対話しなければならなかった」
結果、七人も味方がいる状況は崩れた。
みなみが剣を持つ事を止められず、最大戦力である光太郎をも失う事になった。
全て止められるはずだった事だ。
腑抜けていました。
私のせいで大勢の犠牲が出たからと言って、失った信頼を取り戻す努力を怠るべきではなかった」
Lの行動は合理的だった。
Lが戦場に行ったところで役には立たなかっただろうし、桐山の本質が見抜けなかったのは皆の責任だ。
「私にも何かさせて下さい」と訴えるかなみの姿は一同が目撃しており、Lが彼女を止められなかったのも無理はない。
それでもLの考えと行動は、多くの者にとって心無いものに映った。
「私はまず、こうして皆さんと話をするべきでした。
謝罪し、対話しなければならなかった」
結果、七人も味方がいる状況は崩れた。
みなみが剣を持つ事を止められず、最大戦力である光太郎をも失う事になった。
全て止められるはずだった事だ。
「すみませんでした」
Lは椅子の上で体育座りの姿勢から両膝を開き、頭を深々と下げた。
みなみと上田がその姿に動揺しているうちにLは頭を上げ、改めて言う。
「だからこそ、これ以上犠牲者を出さない為に協力して下さい」
上田の方から「私に任せろ」「大船に乗ったつもりで」といった台詞が聞こえてくる。
みなみも出せない声に代わって何度も頷いた。
みなみと上田がその姿に動揺しているうちにLは頭を上げ、改めて言う。
「だからこそ、これ以上犠牲者を出さない為に協力して下さい」
上田の方から「私に任せろ」「大船に乗ったつもりで」といった台詞が聞こえてくる。
みなみも出せない声に代わって何度も頷いた。
みなみを強いと、そう言ってくれるLに対して。
こんな自分でも出来る事があるなら何でもしたい――光太郎の代わりにはなれなくても、何かをしたいと。
それだけを考え続けていた。
こんな自分でも出来る事があるなら何でもしたい――光太郎の代わりにはなれなくても、何かをしたいと。
それだけを考え続けていた。
「上田さんも岩崎さんも、ありがとうございます。
そして岩崎さん、私は光太郎君から貴女を任されました。
彼の私に対する信頼に応えたい……私に、彼との約束を果たさせて下さい」
そして岩崎さん、私は光太郎君から貴女を任されました。
彼の私に対する信頼に応えたい……私に、彼との約束を果たさせて下さい」
光太郎がいなくなった今、ここにいる三人の力は余りに弱い。
それでも「皆で頑張れば、きっとこの戦いを乗り越えられる」。
光太郎の言葉と思いが間違っていないと証明する為にも、 みなみはLから差し出された手を取った。
それでも「皆で頑張れば、きっとこの戦いを乗り越えられる」。
光太郎の言葉と思いが間違っていないと証明する為にも、 みなみはLから差し出された手を取った。
【一日目 夕方/H-9 警察署二階会議室】
【L@デスノート(漫画)】
[装備]ゼロの剣@コードギアス
[支給品]支給品一式×4(水と食事を一つずつ消費)、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス、
角砂糖@デスノート、確認済み支給品0~2、情報が記されたメモ、S&W M10(6/6)、S&W M10の弾薬(18/24)@バトル・ロワイアル、
首輪(魅音)、シアン化カリウム@バトルロワイアル、イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に
[状態]健康
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いを止め、V.V.を逮捕する。
2:大量の死者を出してしまったことに対する深い罪悪感。
3:みなみを守る。
【L@デスノート(漫画)】
[装備]ゼロの剣@コードギアス
[支給品]支給品一式×4(水と食事を一つずつ消費)、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス、
角砂糖@デスノート、確認済み支給品0~2、情報が記されたメモ、S&W M10(6/6)、S&W M10の弾薬(18/24)@バトル・ロワイアル、
首輪(魅音)、シアン化カリウム@バトルロワイアル、イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に
[状態]健康
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いを止め、V.V.を逮捕する。
2:大量の死者を出してしまったことに対する深い罪悪感。
3:みなみを守る。
【岩崎みなみ@らき☆すた(漫画)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式×2、君島の車@スクライド、情報が記されたメモ、女神の剣@ヴィオラートのアトリエ、包帯×5@現実、高荷恵の傷薬@るろうに剣心
炎の杖@ヴィオラートのアトリエ、拡声器@現実
[状態]健康、疲労(小)、強い後悔と決意
[思考・行動]
1:Lと上田に協力して殺し合いを止める。
2:つかさに会いたい。
[装備]無し
[支給品]支給品一式×2、君島の車@スクライド、情報が記されたメモ、女神の剣@ヴィオラートのアトリエ、包帯×5@現実、高荷恵の傷薬@るろうに剣心
炎の杖@ヴィオラートのアトリエ、拡声器@現実
[状態]健康、疲労(小)、強い後悔と決意
[思考・行動]
1:Lと上田に協力して殺し合いを止める。
2:つかさに会いたい。
【上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式×4(水を一本紛失)、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、デスノート(偽物)@DEATH NOTE、不明支給品0~1
ベレッタM92F(10/15)@バトルロワイアル(小説)、予備マガジン3本(45発)、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に、
情報が記されたメモ、浅倉のデイパックから散乱した確認済み支給品1~3、瑞穂の不明支給品0~1
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲
[思考・行動]
1:Lとみなみに協力する。
※東條が一度死んだことを信用していません。
[装備]無し
[支給品]支給品一式×4(水を一本紛失)、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、デスノート(偽物)@DEATH NOTE、不明支給品0~1
ベレッタM92F(10/15)@バトルロワイアル(小説)、予備マガジン3本(45発)、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に、
情報が記されたメモ、浅倉のデイパックから散乱した確認済み支給品1~3、瑞穂の不明支給品0~1
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲
[思考・行動]
1:Lとみなみに協力する。
※東條が一度死んだことを信用していません。
※真司・翠星石・上田・みなみ・Lが持つ「情報が記されたメモ」に書かれた北岡の情報は、『危険』から『要注意』に書き換えられました。
※「DEAD END(後編)」で集められた支給品と光太郎の支給品を、上田・みなみ・Lの三人で分担しました。
※「DEAD END(後編)」で集められた支給品と光太郎の支給品を、上田・みなみ・Lの三人で分担しました。
時系列順で読む
投下順で読む
131:DEAD END(後編) | L | 146:はぐれ者 |
上田次郎 | ||
岩崎みなみ | ||
カズマ | ||
城戸真司 | 141:苛立ちで忍耐力が持たん時が来ているのだ | |
翠星石 | ||
南光太郎 | GAME OVER |