How many miles to the police station?

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How many miles to the police station?  ◆.WX8NmkbZ6



 放送を聞いて、上田次郎は愕然としていた。


 何か忘れているような気がしたのはこの事かと、山田の存在を今更のように思い出す。
 そして同時に彼女が死んだという事実に打ちのめされた。
 腐れ縁に近い、上田が事件解決の依頼を受けた際に随行させるには便利な女。
 最近は麦とホップのCMで活躍中。
 紅白の司会はもうやらないのか?
 その程度の認識だったはずなのに、握った拳がわなわなと震えた。

「山田……」

 一言漏らし、黙り込む。
 同行している由詑かなみ、L、南光太郎、泉こなたは今回の放送で失った知り合いはいないようで、上田の様子を見守っていた。

 やたら食う、緊張感に欠ける、手が掛かる、やかましい、貧乳。
 思い返すと悪口しか出てこなかった。
 恐らく向こうが同じ立場であったとしても、同様に上田に対して悪口ばかりを思い付く事だろう。
 そんな取る足らない喪失だったので、上田は再び彼女の事を忘れる事にした。

――私は、君の事が、す……

 本当に忘れられるかはともかくとして、上田は自分の命の関わる目の前の問題へ意識を移すのだった。
「大丈夫ですか、上田さん?」
「おぅふっ!!」
 Lが上田の顔をかなり近い距離まで踏み込んで覗き込み、上田は飛び上がる。
「だ、大丈夫も何も、私は初めから何の問題もない」
「そうでしたか? ……では、話の続きを伺います。
 東條悟君とミハエル・ギャレット君が北条沙都子ちゃんを殺害した、その後の事です」
「そうだったな……その……」

 一行は警察署を目指しながら情報交換を行っていた。
 合流した直後は急を要すとしてカズマの部分だけ掻い摘んで説明したが、その前の出来事についてはまだだったのだ。
 怪我をして体力を消耗しているかなみは上田の背に負われ、ゆっくりしたペースでの移動。
 上田としては光太郎に代わって貰いたかったのだが、他の参加者との接触の可能性が高い市街地で彼の手が塞がるのは危険だ。
 そうLに説得され、渋々かなみを負う役を担っている。
 話の途中で放送の時間となったので説明も歩行も中断していたが、ここで再開した。
 そして上田は光太郎の方をチラリと見て、言いづらそうにしながら続ける。

シャドームーンという――」
「信彦!?」

 光太郎君が変身した時の姿に似た男が、と続けようとした上田の言を遮って、光太郎が声を上げる。
 「信彦に会ったんですか!?」と身を乗り出す光太郎に、『信彦』という名に心当たりのない上田は狼狽してしまう。
「落ち着いて下さい光太郎さん、順番です」
 Lの冷静な声に光太郎が下がり、上田は気を取り直した。

 シャドームーンと出会って目にした出来事の顛末を話すと、話はカズマと笑顔の少年の話へ繋がる。
 上田が経験した事を一通り喋り終えると、光太郎は苦虫を噛み潰したような険しい表情をしていた。

「上田さん、信彦――シャドームーンに会ったのは公園なんですね?」
「あ、ああ」
 気圧されるが、幾ら上田と言えどここまでくれば信彦とシャドームーンが同一人物であり、光太郎の知り合いだと分かる。
 光太郎にどんな言葉を掛けようかと悩む上田を余所に、Lは相変わらずの落ち着いた声色で言う。
「光太郎さん、彼らが公園にいたのは一度目の放送の前です。
 今から行っても接触出来ないでしょうし、この場は――」
「はい……分かってます」

 上田やかなみ、こなたという非戦闘員がいる場を離れる事の危険性は、光太郎も承知しているらしい。
 Lの戦闘力は未知数だが、自分を守ってくれる人は多い方がいい。
 光太郎がいなくならないと分かると上田もホッとした。

 しかし上田の視界の端に、光太郎以外にも表情を険しくしている人物がもう一人いた。
「……」
 こなたは東を見詰めている。
 その視線の先には黒煙が上がっていた。


 こなたの焦りは増すばかりだった。
 後藤を倒す為に他の参加者を教会に向かわせるという目的を掲げていたものの、Lはまるで取り合わない。
 こなたにはただ後藤を倒すだけでなく「他の参加者を弱らせる」という目論見もある為、光太郎には教会に向かって貰わなければ困る。
 彼は味方としては心強いが、いずれは殺さねばならないからだ。
 後藤がいつまでも教会に留まっているとは限らない中、こなたは何とかLと光太郎の関係を壊せないものかと必死に考える。

 そんな矢先に起きたのが、教会方面の炎上――放送前の事だ。
 家屋に遮られてどこが燃えているのかは判然としないが、この方角には教会以外の施設はない。
 誰かに後藤討伐の先を越されたのか。
 それとも後藤は最終形態になると火を吐けるようになるのか。
 それも充分にあり得る、大魔王なのだからあの炎はメラゾーマではなくメラなのかも知れない。

 もし後藤が倒されたとすれば、光太郎を倒す手段が限られてしまう。
 放送前のように光太郎とストレイト・クーガーを衝突させる方向で動くべきか。
 計画の変更を考え始めたが、放送によって後藤の生存が確認出来たので杞憂だった。
(まぁ、ラスボスが主人公の知らないところで倒されちゃうわけないよね。
 NPCはNPCらしく身の程をわきまえてくれないと)
 そうなると後藤がまだ教会にいるのかが気になり、こなたの視線は自然とそちらにばかり注がれる。

 とにかく、邪魔になるのはLの存在だ。
 教会の炎上を受けて改めて「後藤に囚われた友達」への心配をアピールしたが、Lの反応は変わらなかった。
 むしろその友達が死亡した可能性がより高くなったとして警察署行きの意志を強めている。

「さて泉さん、後回しにしてしまいましたが次は貴方の番です」
 上田の話を聞き終え、光太郎をなだめていたLが突然話を振ってくる。
「確か友達が教会の化け物に捕まったという事でしたが、その友達の名前は?」
「……知らない。
 会ったばっかりだったから」
 不用意に名簿の知らない名前を言い、L達がその人物と知り合いでは困る。
 光太郎ならともかく、Lを相手に無闇に嘘を吐くべきではない――しかし、ここでこなたは違和感を覚える。
 上田には初めから順を追って説明するように言っておきながら、こなたにはそれを求めていない。
 『友達』の生死が掛かっているから優先したのかとも思うが、Lは死亡をほぼ断定している節がある。
 じっと覗き込むような視線に、こなたはようやくLから完全に疑われている事に気付いた。

「では友達の性別とおよその年齢、外見的特徴を。
 それから別れたのはいつ頃かもお願いします」
「は……?」
「話していませんでしたが、私は全ての参加者の情報の記載されたデバイスを支給されています。
 よって、名前が分からない参加者もこれで分かります」

 こなたの背にドッと汗が噴き出す。
(何それ……?)
 どうする、どうする、どうする。
 ただでさえ疑われているのだ、嘘はバレる。
 だが誤魔化さなければならない。
 TRPGも『汝は人狼なりや』もプレイした事のないこなたにとって、複雑な情報のやり取りは難し過ぎた。
(選択肢、選択肢出てこないの!?
 矢印どこ!? カーソルどこ!?)
 混乱しながら、長い沈黙を作るまいと無理矢理言葉を紡ぎ出す。
「か、髪は……」
「髪は?」
「髪は、緑色。ロング。
 女子高生ぐらいで、かなり美人。
 最初の放送の前に、後藤に捕まっちゃった」
 とっさに後藤と最初に出会った時に居合わせた少女の外見を答えた。
 これでこの場にいる面々の中に放送後の彼女と面識のある者がいれば、詰みだ。
 また彼女の名が二度の放送のうちのどちらかで呼ばれていれば、詰みでこそないが教会にはもう行かれない。
「……そうですか」
 Lが爪を噛みながら、変わらずこなたの顔を凝視している。
 その視線にこなたは目を剃らしたくなるが、堂々と振る舞おうと開き直った。
 そして長く沈黙を作った後、Lが口を開いた。
「まぁ、この話は目的地に着いてからゆっくりしましょう」
 ふい、とLがこなたから興味を失ったように視線を外す。
 こなたはこの場で糾弾される覚悟までしていたのだが、Lの予想外の態度に唖然としてしまう。

「すみません、実はそんなに詳細な情報ではないんです。
 なので数名まで絞り込む事は出来ましたが、特定は出来ませんでした」

 カマを掛けられた。
 怒りに震えて睨み付けたくなるが、グッと堪える。
「なぁーんだ。期待してたのになー」
 トボケた返答をするこなたに、Lは顔を近付けて耳打ちした。

「貴女が嘘を吐いている可能性は、94パーセントといったところです。
 ですがどちらにせよ、大人数で動いた方が安全は確保出来ますよ。
 妙な気を起こす事はオススメしません……ああ、残る6パーセントの方だったらすみません」
「なっ、ななな……」

 突然近付かれた事にも見透かされている事にも驚き、情けない声を出してしまう。
「何でそんな……」
「例えば……例えばですよ。泉さんが犯罪者だったとしましょう。
 私は悪を許しません、つまり泉さんを許しません。
 ですが私は使える人間は犯罪者であろうと使う主義です。
 今は少しでも人手が欲しい、だから例え泉さんが犯罪者であっても私は協力を申し出る。
 そういう事です」
「……」
 協力を申し出ると言いながら、結局は「使いこなせる程度の相手」と見くびられている。
 しかしLの言う通り、ここは手を組んでおくべきだろう。
 光太郎とLが二人揃っていては手の出しようがないし、この二人がいれば敵に襲われても守って貰えるのは確かなのだ。

「L、こなたちゃんに何を言ったんだ?」
 こなたの様子を不審に思ったのか上田が首を傾げて尋ねる。
 こなたの方から何でもない事を主張しようとしたのだが、Lに先を越されてしまった。
「すみません、泉さんがとても可愛かったのでほっぺにチューしちゃいました。
 何もそんなに動揺しなくてもいいじゃないですか、泉さん」
「何と!? 羨ま……ではなく、こんな時に何て事を!」
 よくもぬけぬけと。
 Lの態度に歯ぎしりしながら、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。
 上田は誤魔化せたものの、Lにやり込められてしまったこなたは大人しく一行に付いていくのだった。


「!……上田さん危ない、伏せて!!!」

 かなみが声を上げたのは、一行が情報交換を終えて暫し経ってからの事だった。
 先頭を歩いていたLは反射的に振り返る。
「と、突然何を――おぅ!?」
 反応の遅い上田の髪をかなみが強く引っ張り、上田は堪らずのけぞった。
 そして上田の頭があった場所を弾丸が通り過ぎていく。

「誰だ!?」
 弾が向かってきた方へ光太郎が声を張り上げるが、応える者はない。
 ただ殺気だけがその方角、住宅地の中から漏れ出ていた。
 そして再び銃声が聞こえ、光太郎に庇われながら全員で民家の陰に飛び込む。
「光太郎さん、相手は諦めていないようです」
「はい……Lさん、上田さん達を連れて先に行って下さい。
 俺もすぐに追い掛けますから」
「……分かりました。
 予定を変更します、我々は真っ直ぐに『目的地』に向かいますので、光太郎さんも寄り道せずに来て下さい」
「分かりました」

 本当は総合病院に立ち寄る予定だった。
 教会と違って警察署へ向かう道の途中にあり、マップ上の位置からして他の参加者が多数集まっていてもおかしくないからだ。
 爆発が起きて間もない事もあり、助けられる者もいるかも知れないとも考えていた。
 だが光太郎が離脱するとなれば話は別だ。
 Lが多少武術をかじっているとは言え、怪我人や女子供を連れた状態でこれ以上のリスクは負えない。
 病院に危険人物がいればそれだけでアウト。
 怪我人や同行者が増えるのも望ましくない。
 いち早く警察署に向かい、体勢を整え、光太郎や右京らと合流してからでなければ病院には向かえないのだ。

「行きましょう、上田さん、由詑さん、泉さん」

 光太郎を置いて逃げる中、Lは一度だけ振り返って襲撃者の顔を確認する。
 光太郎と向き合っていたのは、茶髪の少年。
 高校生程の細身の少年で、身に纏う白い豪奢な服は薄汚れていたものの高貴さを失ってはいない。
 彼の淀んだ眼が、印象的だった。


 枢木スザクが南に真っ直ぐ進んで山を下りると市街地に出た。
 そこで他の参加者を捜したところ、すぐに見付かる。
 静かな住宅地の中、大人数で会話しながら移動している者達――格好の獲物だ。
 スザクは銃をデイパックから取り出し、狙う位置と対象を決める。
 奇襲で最初に殺すのは眼鏡の成人男性。
 三人いる中でも、少女を背負う注意力散漫な男を選んだ。
 この男さえ殺せば残るは痩せ型の男と白いライダースーツの青年、少女二人。
 白いライダースーツの青年は筋肉質であり武術の心得がある事が見て取れたので、彼だけは警戒せねばならない。

 しかし頭部を狙った弾丸は外れ、一同の視線はスザクが潜む方向へと注がれた。
(読まれた……!?)
 気配は消していたはず――水銀燈を蘇らせる第一歩が失敗した事で、殺意がぞわりと沸き上がってしまう。
 続く二発目も当たらず、青年を一人残して逃げて行く一行を目で追う事しか出来なかった。
 水銀燈を生き返らせるのが遅くなってしまう事を口惜しく思いながら、スザクは青年の前に姿を見せた。

「君は、何でこんな事を……!」
 真っ直ぐな目で、青年がスザクに問い掛ける。
 年の頃はスザクとそう変わらない。
 けれどそのひたむきさはスザクが置き去りにして来たものであり、彼に対して抱く感情は羨望や嫉妬に近い。
「君に、叶えたい願いはないのか?」
 無駄と知りながら、スザクは青年の問いに答えずに逆に問い返す。
 青年は一瞬狼狽してみせたが、すぐに揺らぎは消えた。

「あったとしても……人々を犠牲にするのは、間違っている!!」

 その答えは、とても懐かしかった。
 そう思っていた頃が、確かに自分にもあったはずだ。
 親友に対し、そう考えていたはずだ。
 この青年と自分はどこで道を違えたのだろう。
 あんなに正しくあろうとしていたのに。

「そうか……君は、正しいんだね」

 青年の正しさが眩しかった。
 それでも僅かに沸いた迷いを振り捨てるように、デイパックから一つの支給品を取り出す。
 もう戻れないのだから。
 みゆきを殺し、水銀燈を守れず、ルルーシュを撃った自分に、最早正しさは要らないのだから。

 その支給品を初めて見た時は武器とは思わなかった。
 しかし浅倉威蒼星石を見て抱いた疑問のままに改めてデイパックの中を検分し、説明書を見付けた。
 そして理解する。
 これは強力な武器なのだと。

 一応水銀燈に報告したのだが、彼女の美的センスには叶うものではないらしいのでスザクが持ち続けていた。
 それを民家の窓ガラスにかざすと、腰にバックルが出現した。
 既に臨戦体勢に入っていた狭間偉出夫の前では使えなかったが、この青年にその心配は要らない。
 お人好し――正しい人間だから。
 青年が慎重にスザクの動きを見守る中、スザクはバックルにカードデッキを差し込む。

「……変身」

 スザクの全身を覆ったのは、鮮やかな黄緑色のライダースーツ。
 仮面を初めとした体の各部にはカメレオンを模した意匠が見て取れる。
 スザクに支給されたのはカードデッキ――ベルデのデッキ。

 青年の表情に驚きはなかった。
 恐らくデッキについて事前知識があったのだろう、そして青年は両手を右斜め上に突き出した。

「変身!!」

 青年の全身が黒いライダースーツに包まれる。
 スザクは彼がデッキなしで変身出来た事に驚くものの、バイザーからカードを抜きながらブラックに向かって走る。


 茶髪の少年が変身した時は驚いた。
 上田からカードデッキによる変身について聞いてはいたものの、光太郎は半信半疑だった。
 光太郎は人体改造によってライダーに変身出来るようになったのだから。
 日常生活の中でも上昇した身体能力に戸惑い、他者との違いに苦悩してきた。
 改造を受ける事なく、デッキさえあれば誰でも簡単に変身出来るなどという話を易々と受け入れられるはずがない。

 ベルデと拳をぶつけ合い、蹴りが交わる。
 だが光太郎が押される事はなかった。
 即席のライダーには負けない。
 背負っているものが違う。
 力を殺人の為に使うような悪人に敗れる訳にはいかない。
 素早く決着を付けてL達を追おうと、その手足に力を込める。

 それでも決着がすぐに付かなかったのは、純粋な力でベルデがブラックに劣りながらも特殊な能力を有していたからだ。

――CLEAR VENT――

 機械音声と共にベルデが周囲の風景の中に溶け込み、ブラックの拳が空振りに終わった。
 相手の姿が見えないなら相手の攻撃と共に反撃をしようと待ち構えたが、再び機械音声が届く。

――HOLD VENT――

 声と風を切る音に反応し、とっさに向かってきた攻撃を払い落とす。
 ヨーヨーのような武器による遠距離攻撃。
 数度の衝突でベルデも力ではブラックに敵わないと理解したようで、こうした絡め手を使っているのだ。

 この程度の攻撃ではブラックは倒れない。
 それにデッキによる変身は10分で切れるという。
 ブラックが敗北する事はない――だが今は何よりも時間が惜しかった。

「てめぇら、何してやがる」

 ブラックでもベルデでも機械音声でもない、聞き覚えのない声が掛かったのはその時の事だった。
 乱暴な物言いに、それにふさわしい粗野な雰囲気。
 チンピラと形容するに足る、右腕を真っ赤に染め上げた少年。
 光太郎は彼に心当たりがあった。

「君は……カズマ君、かい?」


 放送と共に、市街地の一角で蒼星石による簡単な手当を受けていたカズマは訝しげな声を上げた。

「ソウジロウだと……?」

 カズマと同様に瀬田宗次郎は確かに重傷だった。
 しかし死ぬような傷ではない。
 カズマと別れた後、何かあったのだろうか。
「あの野郎……!!」
 別段親しかった訳ではない、ただ喧嘩しただけだ。
 だが釈然としない苛立ちと共に、何故か怒りが込み上げる。
 蒼星石も同じく首を傾げていたが、宗次郎の死因は分からなかった。

 考えても埒が明かないと判断したカズマは早々に立ち上がって歩き始める。
「無理しない方がいい」
「うるせえ。この先にはかなみがいるんだよ」
 蒼星石の咎める声を無視して進もうとすると、視界の端に桐山和雄の姿が入った。
「大丈夫だったかい、和雄君」
「ああ、問題ない」
 心配して駆け寄る蒼星石への桐山の受け答えは淡泊で、言葉少ないままカズマの方を見た。
「行くのか」
「ああ。てめぇらが行かねーっつっても俺だけで行くぜ」
「いや、俺達も行く」
 蒼星石はまだ休むべきだと抗議していたが、カズマも桐山も止まるつもりがないと見ると諦めたようだった。
 三人で連れ立ち、かなみが向かった警察署を目指す。

 静謐な市街地に轟音が響いたのはそれからすぐの事だった。
 音に誘われるように覗き見ると、奇妙な格好をした者達が戦っている。
 片や黒。
 片や鮮やかなグリーン。
 顔はどちらも覆面に隠れ、敵味方の区別は付かない。
 確かなのは両者が敵対し合っている事だ。
「ど、どうする……?」
 不安げな声で、蒼星石がカズマと桐山の両者の顔色を見比べるようにしながら尋ねた。
 それに対しカズマは低い声で言う。
「……お前ら、先行ってろ。
 俺はこの連中を止めてから行く」
 蒼星石は当然「一人では危ない」と止めようとするが、カズマはそれを拒絶した。
「おい桐山。かなみの事、任せたからな。
 もしもの事があったら……俺の自慢の拳でぶっ飛ばす!!」
「……分かった」
 桐山が頷き、蒼星石を連れて離れていく。
 蒼星石は何度もカズマの方を振り返っていたが、カズマはそれを無視するように戦闘の方へ目を向けた。
「くだらねぇ事しやがって……まだ近くにかなみがいるかも知れねぇってのによぉ」
 苛立ちと共に足を前に踏み出し、そして息を吸い込む。

「てめぇら、何してやがる」


 早足で進む桐山を追い掛ける形で、蒼星石も警察署を目指す。
 放送で翠星石の名が呼ばれなかった事にホッと安堵したものの、水銀燈もまた健在で、大勢の犠牲者が出ている事に変わりはない。

 それに、ここから無事に帰った後の事を考えても気が重くなる。
 時計屋のマスターは今頃寂しがっているだろうか。
 真紅のマスターである桜田ジュンには、彼女の事をどう説明したものだろうか。
 雛苺やノリもきっと悲しむだろう。
 そうしてこの場にいない者達の事を思うと望郷の念に駆られ、一層悲しみが増す。
 胸を痛めながら、蒼星石は前を進む桐山を見る。

 千草貴子稲田瑞穂も死んでしまったが、桐山は特に影響を受けていないようだった。
 しかし桐山は感情が分かりにくい人物だ。
 そう見えるだけで、内心は深い悲しみに包まれているのかも知れない。

「和雄君……」
「何だ」
「無理、してないよね」
「していない」
「……なら、いいんだけど。
 もし何かあったら、言ってね。
 僕にだって……きっと、和雄君の力になれる事があるから」
「そうだな」


【一日目日中/F-7 市街地東部】
【桐山和雄@バトルロワイアル】
[装備]コルトパイソン(5/6)@バトルロワイアル、夢想正宗@真・女神転生if...
[所持品]支給品一式×2、コルトパイソンの弾薬(22/24)、オルタナティブゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎
[状態]右上腕に刺し傷
[思考・行動]
1:遭遇した参加者から情報を聞き出した後、利用出来るなら利用、出来ないなら殺害する。
2:警察署を目指す。
3:水銀燈、紫の戦士(浅倉)、騎士服の男(スザク)は次に出会えば殺す。
[備考]
※蒼星石、あすかとはお互いの知り合いの情報しか交換していません。
 能力(アルター、ローゼンメイデンの能力)に関しては話していません。
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。
※縮地、天剣を会得しました。(縮地が全力のものかどうかは次の書き手さんにお任せします)

【蒼星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]防弾チョッキ@バトルロワイアル、贄殿遮那@灼眼のシャナ
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(確認済み)0~2
[状態]疲労(小)、胸部に打撲
[思考・行動]
1:桐山と一緒に警察署に行く。
2:自分とあすかの仲間(クーガー、かなみ、翠星石)を集めて脱出する。
  三村は保留。騎士服の男(スザク)、水銀燈は警戒。
3:襲ってくる相手は容赦しない。
4:カズマの事が心配。
[備考]
※nのフィールドにいけない事に気づいていません。
※あすかと情報交換をしました。
※桐山とはお互いの知り合いの情報しか交換していません。
 能力(アルター、ローゼンメイデンの能力)に関しては話していません。
※カズマとはほとんど情報を交換していません。


「何だ、知ってやがるのか」
 光太郎に名を呼ばれたカズマは一方的に知られている事が不満があるのか、舌打ちしながら言い捨てる。
「かなみちゃんとLさんから聞いている」
「そうか、なら話が早ぇ。敵はこっちか」
 カズマが鋭い視線をベルデの方へ向ける。
 ベルデは黙って光太郎とカズマのやり取りを観察していたのが、その両者の視線が向けられた事で動いた。

 ベルデがデッキからカードを抜く。
 それを民家のガラスにかざすと、鏡面からカメレオン型のモンスターが出現した。
「なっ……」
 光太郎だけでなくカズマもそれに目を奪われる。
 そしてカメレオンが吐き出した長い舌に掴まり、ベルデは高く舞い上がった。
「待ちやがれ!!」
 追おうとしたカズマに対し、ベルデを空中に放ったカメレオンがその舌を勢い良く叩き付ける。
「危ない!!」
 光太郎が駆け、カズマに命中する寸でのところで舌を拳で払い落とす。
 舌を弾かれるとカメレオンはガラスの中に逃げ込み、ベルデの姿は既にない。
 後にはカズマと光太郎だけが残された。

「悪ぃな、助かった」
「いや、君も俺を心配して来てくれたんだろう?
 ありがとう」
 変身を解きながら、カズマに礼を返す。
 それに対してカズマは居心地悪そうにしていたが、ハッと思い出したように表情を変えた。
「かなみ!! かなみはどこだ!?」
「さっきまで一緒だったんだが、途中であいつに襲われたんだ。
 だから先に――」
「さっさと追うぞ!!」
 光太郎が言い終わるのも待たずにカズマが走るが、突然ガクンと失速した。
「カズマ君!?」
 その左腕を掴んで支えるが、カズマの顔色は悪い。
 かなり失血しているようだった。
「休んだ方が……」
「かなみが先にいるんだぞ!
 休んでられるか……!! かなみが……」
 叫んでいるうちに抵抗していた力が抜け、カズマは眠るように目を閉じた。
 気を失ったカズマを前に、光太郎は思案する。

 手当てはしてあるものの、カズマの怪我は重い。
 出来れば動き回らずに休ませるべきだ。
 だがかなみを始めとした警察署に向かった面々が心配なのは光太郎とて同じ。
 光太郎はカズマを背負い、なるべく揺らさないように注意を払いながら警察署へ早足で向かった。


【一日目日中/F-7 市街地北部】
【カズマ@スクライド(アニメ)】
[装備]暗視ゴーグル
[支給品]支給品一式、タバサの杖@ゼロの使い魔、おはぎ@ひぐらしのなく頃に、Lのメモ
    かなみのデイパック(支給品一式、確認済支給品(0~2))
    上田のデイパック(支給品一式×3(水を一本紛失)、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、デスノート(偽物)@DEATH NOTE
    ベレッタM92F(10/15)@バトルロワイアル(小説)予備マガジン3本(45発)、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に、
    不明支給品0~1(銭型に支給されたもの)、瑞穂のデイパック(支給品一式、シアン化カリウム@バトルロワイアル、不明支給品0~2)
[状態]疲労(大)、ダメージ(大)、右腕、背中に裂傷
[思考・行動]
0:気絶中
1:かなみを追って警察署に行く。
2:『他』は……後で考える。
[備考]
※Lのメモには右京、みなみの知り合いの名前と簡単な特徴が書いてあります。夜神月について記述された部分は破られました。
※蒼星石とはほとんど情報を交換していません。

【南光太郎@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、炎の杖@ヴィオラートのアトリエ
[状態]健康、自らの無力を痛感して強い怒り、劉鳳を探しに行かなかったことへの後悔
[思考・行動]
0:カズマと警察署に向かう。
1:この殺し合いを潰し、主催の野望を阻止する。
2:主催とゴルゴムがつながっていないか確かめる。
3:信彦(シャドームーン)とは出来れば闘いたくない……。
※みなみを秋月杏子と重ねています。
※本編五十話、採石場に移動直前からの参戦となります。


 ブラックとの戦闘は、敗北に終わったと言っていい。
 ベルデが弱かったのではない、むしろ身体能力の大幅な上昇がスザクにも実感出来た。
 スザクの元々のスペックの高さのお陰でその強化にも違和感なく適応していた。
 ただ仮面ライダーブラックの力が圧倒的だった――それだけの事だった。
 トリッキーな動きで翻弄して何とか対抗はしたものの、能力の差は埋まらなかった。

 王蛇の戦いぶりは見ていたが、ブラックはそれともまるで違う。
 カードデッキによる変身と、デッキを用いない変身。
 この二つはどうやら根本的に何かが異なるらしい。
「くそっ……」
 スザクはデッキを見詰めながら舌打ちする。
 あれだけ大勢の参加者を発見しながら誰も殺せなかった。
 水銀燈との再会が遠のいてしまった。
「ごめん……ごめんよ水銀燈……」

 しかしこの戦いで得たものがない訳ではない。
 まずデッキを使った戦闘を経験出来た事。
 狭間のような容赦のない参加者の前では練習などしていられないので、大いに助かったと言える。
 それに狭間やブラックのような、デッキに頼るだけでは勝てないような強大な力を持つ相手がいると分かった。
 慢心した事はないが、これで油断して敗北するような結果は避けられる。
 長期戦を前提として動き、無駄な体力の消耗を避けるべきだろう。

 デッキをデイパックにしまい、思考を切り替える。
 説明書によればデッキは一度変身すると一時間は使用出来なくなるらしい。
 これから一時間は自分の力で切り抜けなければならない以上、より慎重に行動すべきだ。

「ごめんね……待っててね、水銀燈……」

 スザクは再び歩き出す。
 その先に救いはないと自覚しながら、それでも愛しい人との再会の為に。


【一日目 日中/F-7 西部】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ(アニメ)】
[装備]:ゼロの銃(弾丸を三発消費)@コードギアス 反逆のルルーシュ、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎(一時間変身不能)
[所持品]:支給品一式×2(食料は一つ多め)、ワルサーP-38(3/9)@ルパン三世、ワルサーP-38の弾薬(11/20)@ルパン三世、
     日輪の鎧@真・女神転生if...、Kフロストヅーラ@真・女神転生if...、確認済み支給品0~1(武器はない)
[状態]:ダメージ(中)、『生きろ』ギアスの効果継続中、惚れ薬の効果継続中、記憶と精神の一部に混乱、疲労(中)
[思考・行動]
0:放送なんて聞かない、聞こえない。
1:参加者を全員殺し、水銀燈を生き返らせる。
2:狭間偉出夫は絶対に許さない、見付け出して殺す。
[備考]
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。
※水銀燈は死亡したと思っています。
※ユーフェミアの事を思い出せなくなっています。
第二回放送を聞きませんでした。


「何で私が先頭なのかな?」
「ダメですか?」
「……別に」
 背後にいるLの表情を想像しながら、こなたはこっそりと舌打ちした。
 こなたは女神の剣を所持しており、その気になればこの場にいるL、上田、かなみという面々を殺害する事が出来る。
 それを躊躇っているのは、まずLの強さが未知数だからだ。
 光太郎と違って細身で強そうには見えないが、万一返り討ちにされては困る。
 次いで、他の参加者に殺害現場を見られる可能性がある為。
 三人を一度に殺すのは難しく、女神の剣を以ってしても少し時間が掛かってしまうだろう。
 その間に誰かに目撃されては自分の首を絞める事になる。
 まして今いる場所は市街地で、いつ他人と接触する事になるか分からないのだ。

 ポジティブに考えれば、後藤のような強力な敵と遭遇した場合にL達を囮に逃げるという選択肢が生まれるが――
 とにかくLに警戒されてしまい後ろから刺すという手も使えなくなっている今、こなたは動くに動けないのだ。
 駆け引きはやはり、Lの方が二枚三枚と上手だった。



(さて、ブラフはいつまで持つでしょうね……)
 Lはさも自分も戦えるかのように振る舞っているが、実際には超人とは程遠い。
 こなたは強力な支給品を持っており、彼女がその気になってしまえば一瞬で詰む。
 しかも光太郎や右京らが合流するまでの間この状況はずっと続く。
 そんなギリギリの、命懸けの駆け引き。
 明らかに分が悪い――だがLは諦めない。
 悪が蔓延る会場の中であろうと、世界の頂点に立つ名探偵のスタンスは常に変わらない。
 例え死んでも、変わる事はないのだ。


【一日目 日中/F-8 東部】
【L@デスノート(漫画)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に、角砂糖@デスノート
[状態]健康
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いをとめ、V.V.を逮捕する。
2:警察署に向かい、他の参加者を保護する。
3:こなたを疑う。
※本編死亡後からの参戦です。

【泉こなた@らき☆すた】
[装備]:女神の剣@ヴィオラートのアトリエ
[所持品]:支給品一式、確認済み支給品0~2個、ルイズの眼球、背骨(一個ずつ)
[状態]:健康
[思考・行動]
1:優勝して、ブイツーからリセットボタンをもらう。
2:参加者を教会に向かわせて後藤と戦わせる。後藤が弱ったら後藤を倒す。
3:みなみと合流できたら、リセットボタンの協力を持ちかける。
4:今はLに従う。

【上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲 、疲労(中)
[思考・行動]
1:面倒事はカズマに任せて警察署を目指す。
2:竜宮レナ北岡秀一と瀬田宗次郎を警戒。
3:杉下右京に頼る。
4:何か忘れているような……。
※龍騎のライダーバトルについてだいたい知りました。
 カードデッキが殺し合いの道具であったことについても知りましたが、構造などに興味はあるかもしれません。
※東條が一度死んだことを信用していません。

【由詑かなみ@スクライド(アニメ)】
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]左腕骨折、頭部に損傷、全身打撲(処置済み)
[思考・行動]
1:警察署でカズマを待つ。
2:アルターが弱まっている事、知らない人物がいる事に疑問。
※彼女のアルター能力(ハート・トゥ・ハーツ)は制限されており相手が強く思っている事しか読む事が出来ず、大まかにしか把握できません。
 又、相手に自分の思考を伝える事もできません。
※本編終了後のため、自分のアルター能力を理解しています。


時系列順で読む


投下順で読む


111:拗れる偶然 上田次郎 131:DEAD END(前編)
由詑かなみ
泉こなた
L
南光太郎 131:DEAD END(後編)
117:本日は晴天なり カズマ
蒼星石 131:DEAD END(前編)
桐山和雄
115:血染め の ■■■ 枢木スザク 138:It was end of world(前編)



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