月光

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月光  ◆.WX8NmkbZ6



 海上の橋を、銀色の影が一歩ずつ北上して渡り終える。
 太陽は天頂を外れ、少しずつ西へ向かい始めていた。
 暖かな日差しと穏やかな波、海からそよぐ微風に、心ある者なら気を緩ませていた事だろう。
 例えこの場が殺し合いの為に用意されていようと、青空と海はそれだけ争いと無縁の景色を見せていた。
 だがここにいるのは心無い者ただ一人。
 波の音、風の音しか聞こえないはずの地に カシャ カシャ と機械じみた歩行音を響かせる存在。

 シャドームーンは駆け抜けていったバトルホッパーを追う形で進んでいた。
 当初は南西の島に隠れた参加者を探し出す予定であったが、既にそれに執着はない。
 重ねた戦いの中で、この会場にいる参加者への認識を改めた。
 逃げ隠れするような者はいない、と。
 いたとしても、そういった者の相手をするのは後でいい――探すのは時間の無駄だ。
 この会場にいる実力者達を、宿敵であるブラックサンも含めて全て倒す。
 それを成してこそ次期創世王としての矜持が保たれるのだ。
 故に橋を渡り終えてからは東へ進み、元居た市街地の方へ戻る事にする。
 そうすれば残る多くの参加者とも接触する事になるだろう。

 東へ向かう前にふと、シャドームーンは西側の海を眺めた。
 放送前にヴァンや白髪の男らと戦い、その際に二人の参加者が忽然と姿を消した。
 空飛ぶ箒に跨った、少年と少女。
 あれは一体何だったのかと、思い返す。

 消えたからと言って、死んだ訳ではない。
 シャドームーンがヴァンとC.C.を最初に目にした時、少女は箒に跨ってその場を後にした。
 そしてその少女が味方を連れて舞い戻り、C.C.を助け起こしていた――つまり仲間だ。
 にも関わらず先程の会話の中でC.C.が焦燥や悲愴を感じさせなかったのを見ると、恐らく放送であの少女の名は呼ばれていない。
 少女は生きている。
 同時に、消えた少年の方も生きているだろう。

 ならば何故消えたのか。
 ヴァン達と合流していない以上、一時的に姿が見えなくなったのではなく『転移』したのだと考えるのが自然だ。
 そして転移する為の支給品があったなら、もっと早く使えばいい。
 支給品でないとすれば、あの『場』が特殊なのか。
 あの時、消えた二人だけでなくヴァンとC.C.もまた海を目指していた。

(海に、何がある?)

 シャドームーンは修復の進んだシャドーチャージャーからシャドービームを発射する。
 威力は本来のそれと比べれば見る陰も無く弱々しいが、この場では問題にならない。
 海、遙か先に見える水平線に向かってビームが進み、そしてその途中で途切れた。

(やはり……空間が歪んでいる)

 考えが正しかった事を確かめたシャドームーンは、再び思考に没頭する。
 空間が歪んでいるなら、転移先はどこか。
 そう簡単に会場から出られるはずがないのだから、会場内の別の地点という事になる。
 最も可能性が高いのは同じく海沿い、地図の反対側。
 そうでなければ全く関係のない場所か。
 シャドームーン自身が転移してみるか――シャドームーンの脚力なら、飛行手段がなくとも可能。
 東側に繋がっているなら、市街地まで掛かる時間をかなり短縮出来るだろう。
 シャドービームの出力を上げて空間の歪みを打ち破るか――キングストーンの力があれば、破れる可能性は充分。
 こうした主催者の用意した小細工にこそ漬け入る隙があり、この殺し合いの打破に繋がるはずだ。
 それが直接主催者の居所に繋がっていなくとも、主催者は壊れた歪みを修復する為に何らかの手を打たねばならないのだから。

 しかしシャドームーンはビームを止め、それ以上は何もしなかった。
 歪みへの思考を打ち切る。
 西の青い空、青い海に背を向けて、各地で黒煙を上げる東を見遣った。

 この殺し合いが始まった頃のシャドームーンなら、試していただろう。
 参加者をより殺し易いであろう東側への、最短ルートとなり得る歪みの利用を。
 或いは主催者へと繋がる歪みの破壊を。
 もし破壊してそのまま主催者と巡り会う事が出来れば、後は簡単だ。
 会場にいるブラックサンを呼び戻させ、決着をつける。
 その上で主催者を殺し、元の世界に戻って王として君臨する。

 それを、しない。
 この殺し合いそのものに意義を見出した今、殺し合いを壊す気にはならなかった。

 ヴァンとC.C.、先程会話して名を聞いた二人の事を思い出す。
 他に戦った者達も、名前こそ問わなかったがその顔を克明に覚えている。
 この場に来て四度の戦いを経験するまで、こうして人間達『個人』に関心を向ける事など想像すらしていなかった。
 次期創世王という立場を考えれば、奇妙な状態にある。
 しかしそこに不快感はない。
 むしろ、シャドームーンはこの状況を楽しんでいる自分を認識した。

 あの者達は次に会った時はどんな力を見せるのか、まだ見ぬ者達はどんな戦いを見せるのか。
 ブラックサンとの決着こそが最大の目的である事に変わりは無くとも、「楽しみだ」。

 改造によって心のなくなったはずの、人間を超越した存在である自分が――人間との戦いを心待ちにしている。
 そんな自分の変化すら、興味深かった。



 シャドームーンは傷を癒しながら黙々と東へ進む。
 急ぐでもなく、休むでもなく、ペースを崩さない。
 この調子では市街地に到達するまで随分時間が掛かるだろうが、それも構わなかった。

 時間があればある程、人間達は結び付きを強くする。
 時間があればある程、結び付きが人間達を強くする。
 シャドームーンはそれを期待していた。


――私が辿り着くまでに、全てを整えるがいい。
――覚悟、結び付き、支給品……全てを手に入れて、私を待つがいい。

――私はその上で、貴様等を残らず踏み潰す。



【一日目午後/D-1 分岐点】
【シャドームーン@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]:サタンサーベル@仮面ライダーBLACK
[支給品]:支給品一式、不明支給品0~2(確認済み)
[状態]:疲労(中)、胸とシャドーチャージャーに傷(回復中)
[思考・行動]
0:東の市街地へ向かう。
1:殺し合いに優勝する。
2:元の世界に帰り、創世王を殺す。
3:かなみは絶望させてから殺す。
4:殺し損ねた連中は次に会ったら殺す。
【備考】
※本編50話途中からの参戦です。
※殺し合いの主催者の裏に、創世王が居ると考えています。
※シャドービームの威力が落ちています。
※会場の端には空間の歪みがあると考えています。


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128:Blood teller シャドームーン 144:銀の邂逅 月の相克(前編)



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