コードアルター 反逆のカズマ

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

コードアルター 反逆のカズマ  ◆ew5bR2RQj.



時刻は深夜、太陽に代わりに満月が殺戮の舞台を照らしている。
が、廃洋館付近は鬱蒼と生い茂る木々に阻まれ、射す月光は微弱な物となってしまっていた。
つまり周囲は闇、たまに吹く風によって葉が擦れる以外に何も変化は無い。
いや、無いはずだった。
一人の少年が、この森に訪れるまでは。


「気にいらねぇ……」

右手にグローブを嵌めた少年―――カズマは走りながら呟く。
言葉通り、カズマは現状が全て癇に障った。

この殺し合いに参加させられる数日前、カズマは因縁の相手であった劉鳳と決着と付けた。
お互いの力を全て出し切り、出し切った後も戦い続けるという苛烈を極める喧嘩であった。
そして数日後、これから再び戦いの世界に身を投じようか
というところで、突然わけも分からぬ世界に飛ばされたのだ。

これだけでカズマにとっては、憤怒の対象に当たるのだが
さらに拍車をかけたのが、この殺し合いの主催者である白髪の子供―――V.V.だ。
他者を見下すような態度で、高圧的な発言を連発する。
挙句の果てに見せしめとして、一人の少女を殺害したのだ

「全く……気にいらねぇ!」

体内に渦巻く怒りを、右腕に込める。
同時に周囲の木や地面が削り取られたように消滅し、代わりにカズマの右腕が装甲に包まれた。
それにより一部が変色した髪が逆立ち、背中からは三本の赤い羽根が生え始める。
これがカズマの元の世界、ロストグラウンドの新生児が低確率で所持する特殊能力。
自らの精神力で周囲のあらゆる物を分解し再構成する力、アルターである。

「くそッ!」

装甲に覆われた右拳を、傍にある木に叩き込む。
カズマのアルター、シェルブリットは使用者の拳の威力を何倍にも上昇させる効果がある。
そのため普段ならどう足掻こうと絶対に倒せない大きさの木も、簡単にへし折ることが出来た。
しかし怒りは収まることは無い、それどころかさらに膨れ上がっていく。

「くそッ! くそッ!」

力任せに木を薙ぎ倒していくカズマ。
その様相を何も知らない人間が見れば、気が狂ったとでも勘違いしてしまうだろう。
事実、冷静な人間であれば真っ先に行うであろう荷物確認をまだしていない。
ここまでカズマが大暴れしている理由は至って単純。
短気で喧嘩っ早く束縛されることを嫌うカズマにとって、この状況は激昂するに値する状況だったのだ。

「ハァ……ハァ……いつまでもこんなことしててもしょうがねぇか……」

倒した木が二桁に突入しようかというところで、カズマは拳を解く。
木々に対する八つ当たりが、無駄であることに気づいたのだ。

「気に入らねぇならぶっ潰すまでだ……ずっと前からこうしてきたじゃねぇか」

解いた拳を、再び拳を握り締める。
ロストグラウンドで生活していた頃から、気に入らないものはこの拳で粉砕してきた。
それならば、ここでも変わらない。
いけ好かないあの餓鬼の愉悦に歪んだ顔に、自慢の拳を叩き込む。
例えそれが、どんなに困難だったとしても関係ない。
カズマにとって、困難など問題では無いのだ。
行動方針は今ここに決定した、ならば後はただ突き進むのみである。

「そのためにはまず山を降りるとするか……こんなところには何も……ッ!?」

下山する決意を固め周囲を見渡した時、付近に誰かが倒れているのが視界に入る。
距離にしておよそ20メートル、木々が折れ若干視界が良くなったために発見することが出来たのだ。

「…………」

倒れている人間を凝視しながら、どうするかを考える。
もしかしたらあれは知り合いかもしれない。
しかし暗闇では、その人物の顔を確認するのは不可能だ。
そもそも仮にあれが知り合いだったとしても、手を借りるつもりは無い。
カズマには他者を頼るという選択肢は存在しないのだ。
だがあれが、あのいけ好かない餓鬼の関係者だったなら別だ。
情報を聞き出すことで、一歩近づくことができる。
カズマは猪突猛進ではあるが、情報の大切さくらいは理解しているし、わざわざ遠回りをする道理も無い。
そう判断したカズマは、人影に近づくことにした。


倒れていたのは、一人の少女だった。
明るい緑色の髪にスレンダーな体、そして見覚えのある紅白に彩られた服装と首輪。
目立った傷も無く呼吸も満足なところを見ると、まだこの空間に送還されてから目覚めていない参加者だろう。
見た目だけではあの餓鬼の関係者か判断することは出来ないから、話を聞くしかない。
カズマは倒れている少女を起こすことにした。

「おい、起きろ!」

耳元で大声で叫びつつ、少女の肩を掴みグラグラと揺らす。
こんな乱暴に起こされれば、誰だってすぐに目を覚ます。
少女も例外では無かった。

「……ゆた…………か……」

「お目覚めか、嬢ちゃん?」

カズマは口端を吊り上げながら、少女に目覚めの一声をかける。
少女はその表情を見て、寝ぼけていた意識を完全に覚醒させた。
それと同時に、顔面が蒼白に染まっていく。
何故なら目の前の男に恐怖を抱いているのだ。
無理もない、目を覚ました瞬間に見知らぬ男が立ちはだかっているのだから。

「俺は別にあんたに何かしようだなんて思っちゃいねぇ、ただ情報が欲しいだけだ」

カズマは両腕を肩から離し、吐き捨てるように呟く。
仮にこの少女は危害を加えてきても押し負ける気は無いが、それでも抵抗されると面倒だ。
相手にこれ以上恐怖を与えないように、とカズマは対応する。

「……それは本当ですか?」

「本当だ」

「……本当に本当?」

「しつこいぞ!」

痺れを切らしたカズマは、少女に向けて怒鳴り散らす。
思わず竦み上がる少女だが、目の前の男が危害を加える気がないことは理解したようだ。
そもそも危害を加える気があったのなら、わざわざ目覚めさせる必要が無いのである。

「よかった……」

少女は心底安心したような表情を浮かべ、溜め息を吐く。
カズマもとりあえずは面倒事にはならなかったと、胸を撫で下ろした。

「ふぅ……それでよ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……っておい!?」

カズマは冷静になった少女から情報収集をしようと切り出したが、少女の取った思わぬ行動に思わず言葉を引っ込める。

「ゆたか……ゆたかぁ……」

目の前の少女が、いきなり泣き出したのだ。


「ゆたかが……ゆたかが……!!」

「おい、おい!?」

少女で擦れる声で「ゆたか」と繰り返し、涙を流し続ける。
カズマの声にも応えず、ただひたすらに。

声をかけても無駄だと判断したカズマは、暫く少女を眺めていることにする。
そしてそれを続けているうちに、先ほどから引っ掛かっていた事柄に関する答えを見つけ出した。
目の前の少女が着ている服は、見せしめに殺害された少女の物と全く同じという答えを。

(そういうことか……)

この少女は見せしめに殺害された「ゆたか」と言う少女の知り合いで、「ゆたか」の死に対して悲しんでいるのだ。
それに気づいたカズマは、視線を空に浮かぶ満月に逸らし、そのまま暫く見上げ続けた。
遠い昔を思い出しているような、どこか悲しげな瞳で。



「ごめんなさい……急に泣き出してしまって」

二人が出会ってから数分が経過し、少女がようやく涙を止める。
いや、実際には会話が可能なレベルまで立ち直ったと言った方が正しいだろう。

「気にすんなよ。それで、そろそろこっちの話をしてもいいか?」

カズマは少女の傷になるべく触れないように、話題を転換する。
ぶっきらぼうかもしれないが、これがカズマなりの少女に対する気遣いだった。

「はい……何でしょうか?」

「俺はこれからあのいけ好かない餓鬼を一発殴りに行くんだが、何かあいつについて知ってることはあるか?」

ここで本来の目的である、V.V.についての情報収集を開始する。

「……すいません……私は何も……」

少女は申し訳無さそうに俯いて、一言そう告げた。
それを聞いたカズマはガックリと項垂れ、舌打ちをする。

「ハズレか、ならもう用は無ぇな」

踵を返し少女の元から立ち去ろうとするカズマ。
言葉通り情報が無い以上、これ以上ここで立ち止まる意味は無いのだ。





「……待ってください」

「……なんだよ?」

投げかけられた声に対し、気だるげに振り向きカズマは返事をする。

「私は……私はこの先どうすればいいのですか?」

誰かに縋るようなか細い声で、カズマに問う。
無理も無い。彼女は昨日まで普通に学校に通い、日常を謳歌していたのである。
それが今日になっていきなり別の空間に飛ばされ殺し合いをしろと言われ、無二の親友まで殺害されたのだ。
これで不安にならないはずがない。

「…………」

カズマは顔だけ少女に向けつつ、質問の答えを思案する。
普段の彼だったら、「知るかよ、自分で探せ」の一声で終わらせてしまうだろう。
しかしこの少女だけは、何故か見捨てることが出来なかった。

「……あんた、あのクソガキがムカつくんだろ?」

日常のなんでもない会話のように、カズマは少女に問い返す。
少女は数秒考えた後、小さな声で「……はい」と答えた。

「だったら簡単だ、あのクソガキをぶっ潰す。それだけだろ」

顔を怒りに歪め、右拳を強く握り締める。
この答えは、最も単純にして今までのカズマの生き方を全て凝縮したようなものだった。

「……そんなこと……私に出来るんですか?」

「出来る出来ないが問題じゃねぇ、やるんだよ」

少女の不安げな質問も、強引に押し潰すカズマ。
この答えには、カズマの今までの生き様が全て凝縮されている。
つまりこの一言もまた、カズマの全てであった。

「……分かりました……私はゆたかの仇を討ちます……」

少女は少しの間考えた後、制服の裾で涙を拭い告げる。
その表情は、決意に満ち溢れていた。

「そうかよ、最後に言っとくぜ
 一度こうと決めたら、自分が選んだんなら決して迷うな。選んだら進め。進み続けろ」

こう言い残し、カズマは再び前を向いて歩き出した。





「……あ、あの……」

「ったく、今度はなんだよ!?」

苛立ちを露わにし、少女へ振り向くカズマ。
少女はその顔を見て一瞬だけ踏み止まったが、意を決して言葉を紡いだ。

「その……私は岩崎みなみと言います。
 お願いがあるんですが……私も一緒に連れてってもらえませんか?」

少女―――岩崎みなみはカズマへと一歩近づき、カズマと同行したいと言う意思を示す。

「ごめんだね、誰かと馴れ合うなんて」

しかしカズマは、それを無碍に断ってしまった。

「……そうですよね……やっぱり私じゃ足手まといになりますから……」

みなみは悲しそうに俯き、自身の無力さを嘆く。
別にカズマは、みなみが足手まといになるからという理由で拒否したわけではない。
ただ単純にカズマという男は、群れることを嫌う孤高な性格であった故のことだ。

そのまま二人の会話は途切れ、カズマはそのまま立ち去ろうとする。
が、彼の心の中には、釈然としないものが残っていた。
このまま少女を見捨てるのは、自分自身の意義に反するとでも言うような。

(ったく……俺も変わったな)

カズマは心の中で自嘲し、みなみにも聞こえるように大声でこう言った。

「だけどよ、あんたが勝手に付いて来るなら俺は止める気は無いぜ
 ただし、自分の身は自分で守れよ」

カズマの発言を耳にしたみなみは、虚を突かれた様に顔を上げる。
そして早足でカズマの傍へと近づいた。

「あ、ありがとうございます……えっと……」

「カズマだ」

「すいません……カズマさん」

「気にすんなよ、それよりとっとと行くぞ、いつまでもこんなところに居ちゃしょうがねぇ」

振り返らずにみなみと会話を交わし、再び歩き始める。
みなみもカズマの発言に無言で賛成し、その後に続いた。


―――カズマがみなみを放っておけなかった理由。
それはみなみが、大切な人の死を悲しみ涙していたからだ。
みなみの姿はかつての因縁の相手を見ているようで、かつての自分自身を見ているようで。
どうしても放っておくことが出来なかったのだ。

昔のカズマしか知らない人間が今の彼を見たら、変わったと口にするかもしれない。
しかしこれが、様々な人間との出会いや死を体験し、そして乗り越えた姿だった。


――――――――――――――――――――――――


カズマと一緒に行動するようになったみなみ。
だが彼女は、V.V.の言ったある言葉を忘れていなかった。

『んーそうだね、何か願いも叶えてあげるよ』

(もし生き残ることが出来たら、ゆたかを――――)

そう考えた瞬間、背筋に冷たい物が走る。
しかし目の前で一歩先を進むカズマを見て、何とか押さえつけた。

ゆたかの蘇生を望むということは、このゲームの参加者全員の死を願うのと同等。
このゲームには初見の自分に対し親切にしてくれたカズマや、他の友人達も参加している。
それらを天秤に賭けることは、今のみなみには出来なかった。


―――森の中を進む少年少女。この二人の行く末はまだ誰にも分からない。

【一日目/深夜/C-4 廃洋館付近】

【カズマ@スクライド(アニメ)】
[装備]シェルブリット第一段階
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~3)未確認
[状態]健康、主催者に対する激しい怒り
[思考・行動]
1、主催者のいけ好かない餓鬼を殴る。
2、そのためにも、とりあえずは森を抜ける。
3、少しだがみなみが心配。

参戦時期は最終回から数日後。


【岩崎みなみ@らき☆すた(漫画)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~3)未確認
[状態]健康、ゆたかを失ったことに対する深い悲しみ
[思考・行動]
1、とりあえずはカズマに付いていく。
2、ゆたかの仇を取る。
3、V.V.の言葉も頭の片隅に留めておいてある。


時系列順で読む


投下順で読む


GAME START カズマ 053:神経質な者、単細胞な者
岩崎みなみ



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー