叶えたい願い-志々雄真実

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叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj.



――――GUARD VENT――――

虚空から現れたダークウイングはナイトと合体し、大きな黒翼へと姿を変える。
間髪入れずに黒翼を広げ、空中へ飛び上がるナイト。
直後、彼のいた場所を緑色の雷光が通過する。
シャドームーンが光線を発射し、すんでのところで空中に避難したのだ。
空中に逃げたナイトを狙おうと、左腕を上空へ翳すシャドームーン。
その瞬間を狙い、リュウガが迫る。
シャドームーンの左側面から忍び寄り、胴体へヒノカグツチを振るう。
間合いの外にある以上、サタンサーベルで受けることは不可能。
シャドームーンと云えど、その攻撃は甘んじて受け入れるしかない。

「無駄だ」

それは過去のシャドームーンならの話だった。
左腕を浅く曲げ、肘の備わった突起・エルボートリガーでヒノカグツチを受け止める。
たったそれだけの動作で、一流の剣客である志々雄の斬撃が受け止められる。
今のシャドームーンは世紀王ではなく創世王。
岩石すらも容易く砕くエルボートリガーは、今や鋼鉄すらも粉砕する凶器と化していた。
エルボートリガーだけではない。
強化装具・レッグトリガーも、万能眼球・マイティアイも、金属外皮・シルバーガードも、人工筋肉・フィルブローンも。
シャドームーンのありとあらゆる装備は、今までとは比較にならないほど力を上げている。

「チィッ!」

舌打ちするリュウガ。
身体を左方向に向けたシャドームーンが、右脚で膝蹴りを繰り出してきたのだ。
咄嗟に背後へと退避するが、完全に回避することは出来ない。
蹴りは腹部に掠り、それだけで彼を数メートル跳ね飛ばした。
その隙を突き、今度はナイトが攻勢に移る。
突撃槍・ウイングランサーを構え、空中から滑空するナイト。
勢いをつけたその一撃は、背後からシャドームーンの首筋を狙う。

「無駄だと言っている」

だが、その一撃はマイティアイに捕捉されていた。
シャドームーンは身体を反転させ、その勢いでサタンサーベルをウイングランサーの穂先に叩き付ける。
拮抗すらせずにナイトは弾き飛ばされ、宙を舞った。

ナイトとリュウガとシャドームーンの三つ巴になるはずだった戦闘。
しかし蓋を開ければ、シャドームーンの独壇場になっている。

――――TRICK VENT――――

空中で踏み止まったナイトは新たなカードを装填。
発動したのは無数の分身を作り出す能力・シャドウイリュージョン。
翼を生やしたナイトが次々と分裂し、上空からシャドームーンを取り囲む。
一見すると有利な状況だが、この分身は虚像であるため相手にダメージを与えることはできない。
そもそもシャドームーンはこの技を何度も見ているため、対処法など知り尽くしている。
両腕にキングストーンのエネルギーを供給し、光線として一斉に放射するシャドームーン。
以前と同様に多くの虚像を消滅させるため、光線は幾重にも拡散して放たれていた。

「ダークウイング!」

ナイトの声が木霊する。
その掛け声で全てのナイトとダークウイングが分離し、迫り来るシャドービームは虚空へと消え去った。
落下しながらカードを抜き取ったナイト達は、一斉にそれをダークバイザーに読み込ませる。

――――NASTY VENT――――

空中を飛行していたダークウイング達が一斉に超音波を放つ。
それはまるで蝙蝠の群れの大合唱。
音と音が共鳴し合い、音波の波状攻撃となってシャドームーンを責め立てる。
分身に実体はないため物理攻撃を行うことはできない。
しかし音は物理的存在ではないため、トリックベントによる一斉攻撃が有効だった。

「貴様……!」

歩みを止めながら、左手で額を抑えるシャドームーン。
無数の分身により増強された音波攻撃は、進化したシャドームーンでも耐えることができない。
視界が潰れるほどではないが、割れるような頭痛に動くことができなかった。

――――FINAL VENT――――

切り札であるファイナルベントを一斉に発動するナイト達。
分身ではダメージを与えることができないが、本体を撹乱するための囮にはなる。
ウイングランサーを構えながら地上を駆け抜け、その背中とダークウイングが再び合体。
ダークウイングが漆黒のマントに姿を変えると同時に真上へ跳躍。
足元に向けたウイングランサーを軸にマントが渦を巻き、ナイト自身が回転する巨大な槍と化す。
槍はシャドームーンの四方八方を囲み、一斉に落下を始めた。

「シャドーフラッシュ!」

シャドームーンの全身を緑色の光が包み込み、膨張するかのごとく破裂する。
あらゆる特殊能力を無効にする影の閃光・シャドーフラッシュ。
身動きを封じられていても、シャドームーンが持つ手札は無数に存在するのだ。
奇跡の石の神秘に触れ、分身達は抵抗する間もなく消滅する。
大量に存在していたナイト達は、あっという間に全滅してしまった。
そう、全滅。
攻撃力を持たないはずのシャドーフラッシュで、彼を囲んでいた全てのナイトが消滅したのだ。

「上か」

シャドームーンの真上から急降下するナイト。
彼こそが本体であり本命、多くのミラーモンスターを屠ってきた必殺の一撃・飛翔斬が発動する。

「シャドーパンチ!」

シャドームーンの左拳に力が集中し、目を突き刺すような輝きを放つ。
その拳をアッパーカットの要領で上空に打ち付け、飛翔斬への対抗手段とした。
十数秒に及ぶ均衡状態。
勝利したのはシャドームーン。
敗北したナイトは、三十メートル以上も上へと跳ね上げられた。

「何度やっても無駄だ、もはや貴様らには万に一つの勝ち目もない」
「そいつはどうかな!」

シャドームーンが吐き捨てると、その背後からリュウガが姿を現す。
右手を弓なりに振り被ると、その手に握り締めた物体を勢いよく投擲した。
投擲された物体をマイティアイで分析、即座に結果を叩き出す。
半輪の形をした鈍い銀色の金属製物体。
シャドームーンもよく知っている、今まで自身を縛り付けていた忌々しい首輪だ。

「これでも喰らいな!」

リュウガがヒノカグツチを振るうと、その剣先から火炎が迸る。
火炎は真っ直ぐに首輪へ伸び、内部に蓄積された流体サクラダイトに引火。

大爆発が発生する。

爆炎と爆風がシャドームーンを呑み込み、その姿を黒煙の中へと隠す。
リュウガが投擲したのは銭形の首輪。
違反者を処刑するための物である以上、その威力は折り紙つきである。

「これで少しは弱ってるといいがな」

この程度でシャドームーンが死ぬとは思えない。
だが、ここまで小細工を弄して成果が無かったでは流石に笑えないだろう。


カシャ、カシャ、カシャ、カシャ


黒煙の中から現れるシャドームーン。
その鎧に刻まれた傷はたったの二箇所。
手甲に入った罅割れと、胸部の焼け焦げた亀裂。
あらゆるモンスターを葬った一撃も、参加者を縛り続けてきた枷も、創世王の前には無力だった。

「消えろ、哀れな贄よ」

キングストーンが明滅し、サタンサーベルの剣先に高密度のエネルギーが集中する。
シャドービームを発射する体勢であることは疑うまでもない。
リュウガは新たなカードを抜こうとするが、シャドームーンはそれよりも先に動いた。
ただしその行動は、光線の発射ではなく背後への後退。
直後、彼のいた場所を漆黒の双竜が噛み砕く。

「テメエは……」

戦線に復帰したナイトは、上空に出現した新たな闖入者を見て敵意を放つ。

翠星石じゃねぇか」

漆黒の翼を生やした翠の人形を見て、リュウガは仮面の下でニヤリと笑った。


  ☆ ☆ ☆


結局のところ、翠星石に残された道は最初から一つしか無かった。
戦いたくない。
けれども、ひとりぼっちになりたくない。
周りに誰もいない状態で、翠星石は生きていくことができない。
蒼星石と、真紅と、水銀燈と、雛苺と、真司と、新一と、劉鳳と、皆と一緒にいたい。
だから、戦うしかない。
戦いたくないけれど、戦うしかない。
他の全員を殺して、最後の一人になって、願いを叶えるしかない。
そうすることでしか、奪われたものを取り返せない。
戦わなければ、生き残れない。

鏡の中に飛び込む。
nのフィールドから直接探した方が早いと思ったからだ。
しかしその判断とは裏腹に、彼女の足取りは遅い。
両足に鉄球の付いた枷を嵌められているかのように鈍重である。
いや、実際に彼女の足には枷が嵌っていた。
足だけではなく、腕にも、胴体にも、解除したはずの首にすら枷が嵌められている。
今の彼女は罪悪感という枷で雁字搦めにされていた。

身体がどうしようもなく重い。
一歩進むだけで、全身が軋むように痛む。
それは体の痛みではなく心の痛み。
かつてのつかさがそうだったように、精神が肉体に及ぼす影響は存在する。
身体が丈夫だろうと、巨大な力を持っていようと、心が限界を迎えてしまっては意味が無い。
今の翠星石にもはや動けるだけの活力はない。
彼女の心は死んでいた。
それでも、前に進むしかない。
涙を流しながら、重い身体を引き摺って、ひたすら前に進み続ける。
前に進まなければ、枷を外すことはできない。
前に進むことでしか、彼女の罪が精算されることはないのだ。

つかさのように誰かが傍にいれば、翠星石は復活の兆しを見せたかもしれない。
だが、彼女の傍には誰もいなかった。
手を伸ばしても、彼女の手を取る者はいない。
最後まで傍にいたはずの薔薇水晶すら、翠星石を拒絶して死んでいった。

「どうして……どうしてなんでですか……?」

薔薇水晶は自分を利用していた。
彼女は姉妹ではなく、ずっと自分を騙していた。
それに気付いた時、翠星石の心には深い悲しみと怒りが渦巻くようになった。
燃え盛るような怒りと、それ以上に押し寄せてくる悲しみ。
怒らなければいけないのに、どうしてか悲しみが止まらない。
壊れている心の中で、極大の怒りと悲しみが鬩ぎ合っている。
しばらく考え続けたが、やがて避けるように別の思い出へと目を背けた。

――――レディーは人前で涙を見せない、そうですよね、真紅?

かつて、真紅のローザミスティカを受け継いだ時に翠星石が放った言葉。
そう決意したのに、彼女はずっと泣き続けていた。
ミギーが死んだ時も、警察署を離れた後も、水銀燈やLが死んだ時も。
他にも至るところで翠星石は涙を抑えられなかった。
涙を見せないという約束さえ、翠星石は守ることができない。
一度気付いてしまうと、翠星石の中にある自己嫌悪は止まらなくなる。
傍にいたにも関わらず、蒼星石を死なせてしまった。
水銀燈の仇を取ると約束したはずなのに、未だにシャドームーンは生きている。
そして、真司を殺――――

「違う!」

周りで聞いている者など誰も居ないのに、翠星石は己の罪を否定する。
真司を殺したのはシャドームーンでなければならないのだ。

「違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 全部違うッ!!!!」

未だに仇を取れないのは、他の連中が邪魔をするせいだ。
蒼星石が殺されたのは、泉こなたが余計なことをしたせいだ。
涙が止まらないのは、こんな場所にいるせいだ。
全身に付いた枷を投げ捨てるかのごとく、翠星石は何度も何度も叫び続ける。
罪悪感が振り払われ、後に湧いてきたのは途方も無い憎悪。
シャドームーンも、狭間も、ヴァンも、北岡も、つかさも、上田も、クーガーも。
どいつもこいつも邪魔だ。
全員死ねばいい、私が殺してやる。
蔦で縛り付けて、両手両足を鋏でちょん切って、目ん玉を轍で貫いて、口から花弁を流し込んで、最後には翼から作った龍で噛み殺してやる。

「ヒヒ……ヒヒャ……イヒャハハハ……」

翠星石の顔が歪な笑顔に染まる。
その笑顔には、かつてのような快活さは微塵も無かった。


  ☆ ☆ ☆


「どういう風の吹き回しだ」
「……翠星石は決めたんです」

リュウガの傍に舞い降りた翠星石。
その黒翼を仕舞いながら、亡霊のように生気のない顔を上げる。

「日常を取り戻す……お前らを全員殺すって」
「それで?」

ヒノカグツチを構えたリュウガは、独白する翠星石に問い掛ける。
答える前にシャドームーンとナイトを一瞥し、光の消え失せた目で睨み付ける翠星石。
そうしてリュウガへと目線を戻し、淡々とした声で言い放った。

「だから……お前と契約するです」

契約の申し出を。

全員を殺し、願いを叶えると決めた翠星石。
そのためには一人で戦い続けるしかない。
最終的に生き残るのは一人だし、狭間達と力を合わせるなど論外である。
だが、一人だけ協力できる人間がいることに気付いた。
狭間やシャドームーンと敵対していて、それでいて優勝を目指している人間がいるではないか。
仮面ライダーリュウガ――――志々雄真実だ。

「テメエ、なに考えてやがる!」
「黙るです! テメーよりはまだコイツの方が信用できると思っただけですよ!」

怒鳴り声を上げるナイト。
契約の意味は分からないが、リュウガと手を結ぼうとしているのは伝わったようだ。

「それに……どうやらソイツはお前らを裏切ったようじゃないですか!
 ぷぷぷっ、いい気味です! そんな奴を信用するからこうなるんです!」

シャドームーンを指差しながら、翠星石はナイトを嘲笑する。
彼女は契約の詳しい概要を知らないため、シャドームーンが謀反を起こしたように見えているのだ。

「いいぜ、力を貸してやる」

そんなやり取りを傍観していたリュウガが、満足そうに宣言する。

「させるかよ!」

契約を妨害するため、ナイトとシャドームーンが同時に動く。
彼らを横目で見たリュウガは、デッキから新たなカードを引き抜いた。

――――SURVIVE――――

リュウガと翠星石を中心に、螺旋状の黒炎が竜巻のように巻き上がる。
炎の防壁に閉ざされ、彼らは立ち止まらざるを得なかった。

「協力できるのは他の連中が全滅するまでだぜ?」
「それで構わねーですよ。最後にはお前もぶっ殺してやるです」
「いい返事だ。それで契約ってのはお前の指輪に接吻するんだったか?」

黒炎が世界を閉ざす中、リュウガと翠星石は言葉を交わす。

「その必要は無ぇですよ。包帯お化けにキスされるなんざ怖気が走るです」
「そうかい、ならどうするんだ?」
「手を貸しやがれです」

翠星石の指示に従い、分厚いグローブに包まれた手を差し出すリュウガ。
差し出された手を小さな両手で触れる翠星石。
二人の手が鋭い深紅色の閃光に包まれる。

「終わったですよ」

いつの間にか閃光は消え、左手の薬指に黄金の薔薇を模した指輪が嵌められている。
これも水銀燈が所持していた力を奪う能力の応用だ。
相手に拒否する意思がなければ、正式な手順を省いて契約を結ぶことが可能になっていた。

そして、リュウガの身体に変化が発生した。
胸部の鎧に龍の貌が現れ、全身の装甲が鋭く尖っていく。
これ自体はサバイブによる変化だが、身体の底から溢れ出る力が前回とは比べものにならない
太陽に匹敵する力が宿るのを、リュウガははっきりと感じていた。

通常の契約は媒介(ミーディアム)となる人間が、人形に力を与えるものだ。
しかし、今回の契約は逆。
契約により繋がったパイプを利用し、翠星石が逆に力を送り込んでいるのだ。
キングストーンから溢れる余剰エネルギーを。
強すぎるその力は彼女に負荷を掛けていたため、志々雄という逃げ場を作ったのである。
さらに媒介を得たことで力の射出口は広がり、翠星石はより安全に大きな力を振るえるようになっていた。
志々雄はキングストーンの力を手に入れ、翠星石は多すぎる力を押し付けることができる。
契約という名に相応しいWin-Winな関係だ。

「これで契約成立ですね」

乾いた声でそう言いながら、リュウガの顔を見上げる翠星石。
何かに気付いたように瞳孔を見開き、縋るように小さな手を伸ばしてくる。
だが、すぐにその手は降ろされた。
一瞬だけ生気が戻ったように見えた瞳は、今は再び暗黒が閉ざしている。
あからさまに不可解な行動だが、そんなものリュウガには関係ない。
何度か掌を開閉し、グッと力強く握り締める。
その装甲は分厚さと鋭さを増したサバイブ形態のものだ。
いや、今の彼はサバイブすら越えている。
その全身はより純度の高い漆黒、その双眸は全てを威圧せんと煌めく深紅。
黒炎の幕が上がり、目の前に二人の敵が現れる。
創世王・シャドームーンと、仮面ライダーナイトに変身したヴァン。
ナイトもサバイブを発動したのか、銀色の装甲は鮮やかなメタリックブルーへと変わっていた。

「さぁ、第二局戦の開幕だ」

愉悦を噛み締めるように、志々雄は高らかに言い放つ。
宣言と同時に疾走するシャドームーン。
人工筋肉・フィルブローンにより瞬発力を利用し、あっという間にリュウガとの間合いを詰める。
即座にサタンサーベルを抜き、横一文字に斬りつけた。

「人間の力など、どこまで行っても無力なことを証明してやる」
「いつまでもデカい面してると痛い目に遭うぜ、王様よぉ!」

サタンサーベルをヒノカグツチで受け止める。
魔剣同士の激突は、周囲のものを全て吹き飛ばすほどの衝撃波を生み出す。
だが、シャドームーンもリュウガも不動。
ナイトが足を止めてしまう衝撃の中でも微動だにしない。

「ッッシャアアァァァ!!」

リュウガの全身が紅い光に包まれ、ヒノカグツチの刀身が灼熱の炎に覆われる。
次の瞬間、少しずつ拮抗が崩れ始めた。
ヒノカグツチの刃が、サタンサーベルを押し返していく。
刃から溢れる炎が、シャドームーンの鎧を焼いていく。
リュウガがシャドームーンを押しているのは明白である。
紅龍の影と契約した仮面ライダー・リュウガ。
選ばれた戦士の進化を促す切り札・サバイブ――烈火――。
所持者の力を大幅に上昇させる炎の魔剣・ヒノカグツチ。
あらゆる奇跡を現実とする太陽の輝石・キングストーン。
それらを操るのは、業火の底より蘇った幕末の悪鬼・志々雄真実。
異世界の神秘を貪欲に吸収し続けた志々雄は、創世王に匹敵する力をその掌に収めつつあった。

「余所見してる暇があるですかッ!?」

ナイトの足元に被弾した羽が地面を抉る。
上空に飛翔した翠星石が、先の戦闘と同じように黒翼から羽の弾丸を射出しているのだ。
だが、今までとは威力も速度も量も違う。
契約により力が安定したことで、翠星石の能力はさらに強大さを増していた。

「ヒ~ヒヒヒッ! 走れ走れです! 翠星石が見えなくなるところまで走るですよぉ!」

サバイブにより上昇した俊敏性を活かし、ナイトはひたすら走り続ける。
羽は彼の足取りを辿るように地面に突き刺さっているが、このまま逃走劇を続けても戦況が好転することはない。
彼女の羽に弾切れなどなく、その気になれば永遠に追い回すことすらできるからだ。
そもそも翠星石は四人掛かりで挑んでも歯が立たなかった相手。
ナイトサバイブに変身しているとはいえ、天と地ほどの実力差が存在するのは確かなのだ。
制空権を握られている状況では万に一つの勝ち目もない。
そう判断したナイトは、デッキから一枚のカードを引いた。

――――ADVENT――――

翠星石よりさらに頭上から現れたのは、両翼にホイールが備わった蒼色の蝙蝠・ダークレイダー。
サバイブの力によって、ダークウイングが進化した姿だ。
ダークレイダーは目にも留まらぬ速度で急降下し、ナイトが飛び乗るとその勢いのまま急上昇する。

「これで同じだな」
「けっ、自分も空を飛べるからって偉そうにすんじゃねぇですよ!」

翠星石の十指から伸びたのは大量の轍――――ではなく茨。
契約者を得たことで能力が強化され、細長かった轍は十分な太さと刺を持った茨へと姿を変えた。
これこそが本来の雛苺の力である。
風を切りながら直進する茨は、あっという間にナイトの間合いを侵略する。
ダークレイダーを絡め取って、地面に叩き付けるつもりなのだろう。

「偉そうにしてんのはお前だろ」

茨が絡み付こうとした瞬間、ダークレイダーは急加速する。
斜め上へと飛翔し、迫り来る茨を回避。
翠星石の頭上へと移動し、彼女に向けて真空の刃を飛ばす。

「……お前もッ、そういう戦い方ですか!」

苦々しく顔を歪め、額の上にバリアを張る翠星石。
真空の刃は障壁に突破できずに消えてしまう。
そのままもう片方の手を伸ばし、今度は薔薇の花弁の群れを吹雪のように飛ばした。
広範囲を一斉に埋め尽くす花弁ならば、ナイトを捉えられると踏んだのだ。
しかしその判断とは裏腹に、ダークレイダーは高速飛行で吹雪を迂回してしまう。
それも当然だ。
ダークレイダーの最高飛行速度は時速950kmであり、速度に限れば完全に翠星石を上回っていた。

―――SHOOT VENT――――

ナイトの左腕に装備されたダークバイザーツバイの両端が開き、弓のような形態と化す。
シュートベント・ダークアロー。
周囲のエネルギーを吸収し、光の矢を連射する射撃武器だ。

「飛び道具は趣味じゃないが、今だけは感謝しないとな!」

弓に充填された光の矢が連続発射され、さらにダークレイダーが真空の刃を飛ばす。
翠星石は咄嗟にバリアを展開するが、襲い来る衝撃は彼女の想像を越えていた。
ダークアローの3000APを実数値に換算すると150t。
さらに狭間のザンダインに匹敵する真空の刃が、全て同時に着弾したのだ。
ガラスが割れるように破片を散らしながら破られるバリア。
殺し切れなかった衝撃は翠星石を襲い、甲高い悲鳴を上げた。

「痛ってぇじゃねーですか、このぉ!!」

だが、この程度で翠星石は倒れない。
今の彼女は世紀王の力を有しており、バリアで相殺された攻撃は負傷のうちにも入らないだろう。
踏み止まった翠星石は、怒りを顕にしながら花弁と茨を繰り出した。

その後も似たような展開が続く。
翠星石の攻撃を避け、遠距離から射撃で反撃。
剣が主な武器であるナイトはヴァンと相性が良く、翠星石との実力差を経験で埋めていた。
バリアが無意味と判断した翠星石は回避に専念するが、速度で劣るため全ての攻撃を躱し切ることはできない。
しかし、キングストーンの余剰エネルギーによる防御がある。
これにより技の威力は削がれ、翠星石にまともなダメージを与えることができない。
互いに決め手が無いため、膠着状態に陥りつつあった。

「キャアァッ!!」

光の矢が翠星石の脇腹を掠る。
大した威力はないはずだが、彼女は攻撃が掠るだけでも悲鳴を上げていた。
痛みに馴れていないのか、攻撃されること自体が怖いのか。
どちらにしろ彼女の悲鳴を聞く度、ナイトの脳裏に言葉にできない不快感が過った。
今でこそ敵対しているが、彼女とは肩を並べて戦った仲だ。
成り行き上の共闘だったが、真司の死があるまでは同じ敵を見据える仲間だったのである。
それが今では互いの命を奪い合う敵同士になっている。
かつての仲間だったからといって、手加減をするほどナイトは甘くない。
しかし、不快感を払拭することはできなかった。

「胸糞悪ぃ……」

不快感を噛み殺しながら、ダークアローを発射するナイト。
飛び道具は専門外だが、ここに至るまで大きな失態を犯すことはなかった。
だが、それもここで終わる。
光の矢は翠星石の一メートル以上横をすり抜け、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。

「な、に……?」

ナイトが無意識に手加減したわけではない。
彼は右目を欠損していたため、単純に標準を定めるのに失敗したのだ。
飛び道具を扱う者にとって、目の異常は致命的な問題である。
かつてレイ・ラングレンの視力が低下した際、銃の命中率が大幅に落ちたのがいい例だ。
片目で馴れない飛び道具を扱い、空中を駆け回る翠星石を狙うこと自体がそもそも無謀だったのである。

訪れた好機を翠星石は逃さない。
庭師の如雨露を取り出し、内部に満ちた水をナイトへと降り注ぐ。
如雨露から放たれる水は本来なら微量だが、これもキングストーンと契約により大幅に性能が上がっている。
溢れ出た水は小規模の波となり、うねりを上げながらナイトへと襲い掛かった。
ダークレイダーと共に上空へ避難するナイト。
だが、次の瞬間には異常な速度で成長する植物の群れが彼の眼下に迫っていた。
地上に落下した水が複数の植物を生み出し、一斉にナイトへと襲い掛かったのだ。
水と植物による二段構えの攻撃。
押し上げてくる植物を躱すことができず、ナイトとダークレイダーは空に突き上げられる。
声を上げて笑う翠星石。
空中で回避行動を取れないナイトへと、彼女は更に花弁と黒羽を連射した。

――――BLAST VENT――――

ダークレイダーの両翼にあるホイールが高速回転し、そこから竜巻が発生する。
回避行動を取れないが、反撃なら可能だった。
発生した竜巻は羽や花弁を巻き込み、翠星石へと襲い掛かる。

「けち臭いことすんじゃねぇです!」

花弁や羽は一つ一つが非常に軽いため、竜巻で一斉に吹き飛ばすことが可能だ。
予想外の事態に面食らったものの、翠星石はバリアを展開して竜巻を防ぐ。
この程度の威力では、六つの賢者の石から織り成す防御壁を打ち破ることはできない。

それは、ナイトも理解していた。

「チェエエエエエス!!」

竜巻に乗じて翠星石に接近するナイト。
自らの展開したバリアに視界を遮られ、翠星石は直前までそれに気付くことができない。
ナイトはバリアを足場にして跳躍。
両手でダークブレードの柄を握り、上空からその剣撃を叩き付ける。
竜巻でバリアを消費してしまった以上、彼女に不意の一撃を避ける手段はない。
脳天を斬り付けられた彼女は、劈くような悲鳴を上げながら地上へ落下した。

そして、ナイトはさらに追撃を行う。
落下しながら装填したのは、ファイナルベントのカード。
地上に到達したダークレイダーはその姿をバイクへと変え、落下するナイトを座席に受け止めた。

「悪く思うなよ」

ダークレイダーの機首から青い光線が放射され、翠星石の動きを停止させる。
この光線で相手を拘束し、ダークレイダーで突貫する。
これこそがナイトサバイブのファイナルベント――――疾風斬。
かつての仲間を相手にこれを使うのは憚られたが、翠星石の殺意は本物であった。
手加減している余裕などない。

――――FINAL VENT――――

隕石のように降り注ぐ無数の火炎弾。
前方に視線を移すと、そこにあるのはブラックドラグランザーに騎乗するリュウガの姿。

「その人形を潰されたら俺が困るんだよ」

翠星石の危機を察知したリュウガがファイナルベントを発動したのだ。
龍の姿からバイクへと変形し、ナイトを轢き殺そうと駆け抜ける。
このまま翠星石を轢くことも可能だが、そうしたらリュウガを迎撃することができない。
リュウガサバイブのファイナルベント――――ドラゴンファイヤートルネード。
龍騎サバイブのドラゴンファイヤーストームに酷似しているが、その威力は大きく上回っている。
故にナイトは方向転換し、リュウガとの正面衝突を選んだ。

「バトルホッパーッ!」

続いて、シャドームーンも叫んだ。
この空間にバトルホッパーは存在しないが、それは何の障害にもならない。
シャドームーンが抉じ開けた穴から姿を現すバトルホッパー。
王の呼び付けとあらば、別の次元にいようと駆け付けるのが騎馬の役目だ。
駆け付けたバトルホッパーに飛び乗ると、シャドームーンはキングストーンのエネルギーを全身に巡らせる。
そのエネルギーはバトルホッパーすらも覆い尽くし、王と騎馬は翠緑の光の中で一体化した。

疾風斬 vs ドラゴンファイヤートルネード vs バトルホッパー。

仮面ライダーの象徴たるバイクによる必殺技。
その頂点を決するための火蓋が切られようとしている。
勝利するのは蒼嵐の騎士か、黒炎の龍牙か、それとも仮面ライダーの宿敵である創世の王か。
ナイトのマントが翼のように広がり、ダークレイダーを包み込む。
ブラックドラグランザーの頭部が持ち上がり、石化効果のある火炎球を吐き出す。
シャドーチャージャーから雷光が迸り、シャドームーンとバトルホッパーは視認できないほどの輝きを放つ。


そして、三者は急加速。


音速をも超越した三つのバイクは一斉に衝突した――――

「――ッ!!」

車体が弾け飛ぶ。
激突による衝撃で大爆発が発生し、その余波で三者は宙に放り投げられる。
三種の絶技による決戦の勝者は――――いない。
しかし、敗者は一人だけいた。

「ぐああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

敗者の口から悲鳴が漏れる。
その正体は、仮面ライダーナイト――――ではなくヴァン。
激突の衝撃でダークレイダーは破壊され、ナイトのデッキも砕け散ってしまった。
彼を敗者に貶めた原因は二つ。
一つ目は火炎弾の妨害で速度が低下していたこと。
二つ目は単純な性能差によるものだ。
疾風斬のAPが8000なのに対し、ドラゴンファイヤートルネードのAPは10000。
それでも十分過ぎる値だが、この瞬間に限っては致命的な差に成り得た。

敗北したヴァンは炎に巻かれながら地面に墜落し、それでもなお地面を転がり続ける。
ようやく停止した時、彼の意識は完全に失われていた。
シャドームーンとリュウガも衝撃が抜けないのか、未だにその場を動くことができない。
そんな中、ぺたりと足音が鳴る。
ヴァンにトドメを刺そうと、翠星石が迫っていたのだ。

「ヒヒッ、いいザマです」

庭師の鋏を見せつけるように振り被る翠星石。
爆発の余波で肌や衣装が僅かに焦げているが、もはやそんなことは関係無かった。

「薔薇水晶の……薔薇水晶の――――」

呟いた言葉は本人の耳にすら届かない。
心の中で眠る蒼星石の魂が冷たくなった気がしたが、今の彼女には関係無かった。

「死ねですううううぅぅぅぅ――――ッ!!」

目を瞑り、翠星石は鋏を振り下ろす。
意識のないヴァンに、それを避ける術は無かった。


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173:叶えたい願い-柊つかさ 志々雄真実 173:叶えたい願い-ストレイト・クーガー
ヴァン
ストレイト・クーガー
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北岡秀一



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