因果応報―世紀王 シャドームーンが1体出た!― ◆KKid85tGwY
その独特のフォルムが見る者に愛嬌を感じさせるミニクーパー。
決して広いとは言えない車内に、四人の男女が詰め込まれていた。
運転席でハンドルを握っているのはジェレミア・ゴットバルト。
助手席で探知機を眺めているのは狭間偉出夫。
後部座席に並んで窓の外を眺めているのは北岡秀一と柊つかさ。
字義通り生きる世界から立場も性格も違う四人。
しかし今や目的を一つとして、同じ車で走っていた。
目的はローゼンメイデンの一体である翠星石。
翠星石は現在シャドームーンの脅威に晒されていると同時に、殺し合いを脱出する鍵となるかも知れない存在なのだ。
狭間たちの推測が正しければ、ローゼンメイデンが持つnのフィールドへの侵入能力こそ殺し合いを脱出する鍵となる。
従って一刻も早く救出に向かわなければならなかった。
決して広いとは言えない車内に、四人の男女が詰め込まれていた。
運転席でハンドルを握っているのはジェレミア・ゴットバルト。
助手席で探知機を眺めているのは狭間偉出夫。
後部座席に並んで窓の外を眺めているのは北岡秀一と柊つかさ。
字義通り生きる世界から立場も性格も違う四人。
しかし今や目的を一つとして、同じ車で走っていた。
目的はローゼンメイデンの一体である翠星石。
翠星石は現在シャドームーンの脅威に晒されていると同時に、殺し合いを脱出する鍵となるかも知れない存在なのだ。
狭間たちの推測が正しければ、ローゼンメイデンが持つnのフィールドへの侵入能力こそ殺し合いを脱出する鍵となる。
従って一刻も早く救出に向かわなければならなかった。
「……そろそろ翠星石たちが近い。北岡、変身はできそうか?」
狭間に問われた北岡はゾルダのカードデッキを取り出して車の窓ガラスに映す。
しかし腰にVバックルは現出しない。
しかし腰にVバックルは現出しない。
「…………無理だねぇ。この様子じゃ、変身にはまだ掛かりそうだ」
「間に合いそうにないか?」
「正確に時間を測ってるわけじゃないけど……多分、そうみたい」
「間に合いそうにないか?」
「正確に時間を測ってるわけじゃないけど……多分、そうみたい」
肩を竦めて答える北岡自身は軽い調子だが、それを聞いた三人の様子は神妙だ。
北岡の変身する仮面ライダーゾルダの戦力は、おそらく狭間に次いで強大な物だ。
しかし北岡は先刻の戦闘でゾルダに変身している。
そのため、制限によりそれから一時間以内は変身ができないのだ。
タイミング的に見ても、目的地到着にゾルダの変身制限解除は間に合わない。
しかし前述の通り一刻も早く翠星石を救出しなければならない以上、変身制限解除を待つわけにも行かない。
即ちこのまま行けば、ゾルダ抜きでシャドームーンに立ち向かう形になる。
北岡の変身する仮面ライダーゾルダの戦力は、おそらく狭間に次いで強大な物だ。
しかし北岡は先刻の戦闘でゾルダに変身している。
そのため、制限によりそれから一時間以内は変身ができないのだ。
タイミング的に見ても、目的地到着にゾルダの変身制限解除は間に合わない。
しかし前述の通り一刻も早く翠星石を救出しなければならない以上、変身制限解除を待つわけにも行かない。
即ちこのまま行けば、ゾルダ抜きでシャドームーンに立ち向かう形になる。
「……貴様自身の状態はどうなんだ?」
次に問うたのはジェレミア。
狭間は逆に問い返す。
狭間は逆に問い返す。
「私がそんなに疲弊しているように見えるか?」
「貴様の魔法とやらも、無尽蔵に使える訳であるまい」
「貴様の魔法とやらも、無尽蔵に使える訳であるまい」
ジェレミアの言葉に狭間は目を細める。
ジェレミアは一流の戦士だ。
だから先刻見た戦いから、狭間が絶大な威力の魔法を多量に使えることは間違いないが、
それでも狭間の戦い振りから、無制限に使える物では無いことを見抜いていた。
ジェレミアは一流の戦士だ。
だから先刻見た戦いから、狭間が絶大な威力の魔法を多量に使えることは間違いないが、
それでも狭間の戦い振りから、無制限に使える物では無いことを見抜いていた。
「まだ余裕はある。……多少な」
精確に自分の状態を見抜かれて、狭間の返答も珍しく歯切れが悪い物となる。
狭間の持つ絶大な魔力は疑いようもない。
魔神アモンを使役し、神霊ズルワーンの魔力を収奪した魔界の支配者である狭間の魔力に並ぶ者は、
人魔併せて見渡しても数えるほどしかいないだろう。
それでも殺し合いの中ではその魔力にさえ制限が掛かっていたため、
普段の魔力量の半分にも満たない絶対量をしか持っていなかった。
そして仮面ライダーオーディンたちとの戦いの中で、
マハジオンガ、ブフーラ、ジオ、ザンダイン、ブフダイン、ディア、マハブフーラ、ブフ、アギラジャ、メディア、メギド、マハブフダイン、ジオ、カルムディ、ブフーラ、マハジオンガ、マハラギダイン、マハジオンガ、ザン、マハラギダイン、
これだけの魔法を使用していた。
更にランダマイザ、それも重ね掛けでジェレミアとゾルダを援護。
その上ディアラハンまでレナと鷹野に使っている。
制限下でこれだけの魔法を使用したのだ。狭間と言えどかなりの消耗は免れなった。
狭間の持つ絶大な魔力は疑いようもない。
魔神アモンを使役し、神霊ズルワーンの魔力を収奪した魔界の支配者である狭間の魔力に並ぶ者は、
人魔併せて見渡しても数えるほどしかいないだろう。
それでも殺し合いの中ではその魔力にさえ制限が掛かっていたため、
普段の魔力量の半分にも満たない絶対量をしか持っていなかった。
そして仮面ライダーオーディンたちとの戦いの中で、
マハジオンガ、ブフーラ、ジオ、ザンダイン、ブフダイン、ディア、マハブフーラ、ブフ、アギラジャ、メディア、メギド、マハブフダイン、ジオ、カルムディ、ブフーラ、マハジオンガ、マハラギダイン、マハジオンガ、ザン、マハラギダイン、
これだけの魔法を使用していた。
更にランダマイザ、それも重ね掛けでジェレミアとゾルダを援護。
その上ディアラハンまでレナと鷹野に使っている。
制限下でこれだけの魔法を使用したのだ。狭間と言えどかなりの消耗は免れなった。
「オーディン倒しておいて、まだ余裕があるってだけでも大したもんだよ。
でも狭間は本調子じゃない。ゾルダも無い。これで本当にシャドームーン相手しに行くの?」
でも狭間は本調子じゃない。ゾルダも無い。これで本当にシャドームーン相手しに行くの?」
北岡の懸念はある意味当然の物と言えるだろう。
シャドームーンの戦力の高さは詳細名簿や動向を確認しただけでも、充分に推測出来る。
今のままシャドームーンとの戦闘に巻き込まれれば、下手をすれば自分たちまで全滅しかねない。
多少の時間を置けば、狭間の魔力もゾルダの変身も回復するのだ。
シャドームーンの戦力の高さは詳細名簿や動向を確認しただけでも、充分に推測出来る。
今のままシャドームーンとの戦闘に巻き込まれれば、下手をすれば自分たちまで全滅しかねない。
多少の時間を置けば、狭間の魔力もゾルダの変身も回復するのだ。
「翠星石が殺されてから後悔するよりマシだ」
「確かにな」
「……ま、おたくらならそう言うと思ったよ」
「確かにな」
「……ま、おたくらならそう言うと思ったよ」
躊躇無く答える狭間とジェレミアに、北岡は溜め息交じりの揶揄を返す。
翠星石は正に今、シャドームーンとの戦いの只中。
次の瞬間に翠星石が殺されてもおかしくはない状況なのだ。
魔力や変身の回復を待つ猶予さえ無い。
それに狭間もジェレミアも、消耗を気に掛けて怖気づく性格ではないことを
北岡もいい加減、把握していた。
翠星石は正に今、シャドームーンとの戦いの只中。
次の瞬間に翠星石が殺されてもおかしくはない状況なのだ。
魔力や変身の回復を待つ猶予さえ無い。
それに狭間もジェレミアも、消耗を気に掛けて怖気づく性格ではないことを
北岡もいい加減、把握していた。
「この辺りで車を止めろ。車を隠して、ここからは歩いて様子を見ながら接近する。あくまで慎重にな」
探知機を見ていた狭間が指示を出した。
狭間の高圧的な口調に、北岡もジェレミアももうすっかり慣れていた。
別段、狭間が二人を下に見ていると言うことでは無く、単に狭間がそう言う口調の人間と言うこと。
それが判る程度には二人とも、狭間を理解し始めていた。
ちなみにつかさは、最初から特に気にもしていなかった。
戦いの場が近いことを認識し、車内の緊張感が高まる。
狭間の高圧的な口調に、北岡もジェレミアももうすっかり慣れていた。
別段、狭間が二人を下に見ていると言うことでは無く、単に狭間がそう言う口調の人間と言うこと。
それが判る程度には二人とも、狭間を理解し始めていた。
ちなみにつかさは、最初から特に気にもしていなかった。
戦いの場が近いことを認識し、車内の緊張感が高まる。
「……確認しておく。ここからは本当に危険だ。どれほど注意を払っても、命の保証は無い。
……それでも行くんだな?」
……それでも行くんだな?」
ジェレミアも北岡も、つかさまでもが一切の躊躇も逡巡も無く頷く。
覚悟を決めている、と言うのもあるのだろうが、
それ以上に自分は信頼されているのだと、狭間は感じ取った。
こんな土壇場でも尚、それに心地良さを感じ入る狭間だが、
今はそれどころでは無いと、すぐに気持ちを切り替える。
そして狭間もまた、覚悟を決める。
この場の四人は勿論、レナと約束した者達も含めて、
全員が殺し合いから生還できるよう、全霊を尽くす覚悟を。
覚悟を決めている、と言うのもあるのだろうが、
それ以上に自分は信頼されているのだと、狭間は感じ取った。
こんな土壇場でも尚、それに心地良さを感じ入る狭間だが、
今はそれどころでは無いと、すぐに気持ちを切り替える。
そして狭間もまた、覚悟を決める。
この場の四人は勿論、レナと約束した者達も含めて、
全員が殺し合いから生還できるよう、全霊を尽くす覚悟を。
手近な民家の駐車場に、周囲から目立たないようクーパーを駐車した後、四人は下車。
全員が降りたのを確認してから、狭間が三人に向かって魔法を唱えた。
全員が降りたのを確認してから、狭間が三人に向かって魔法を唱えた。
「メディラマ」
同時に四人の怪我が治って行き、体力が回復していく。
メディラマは仲間全員を同時に回復させることができる魔法。
当然、相応の魔力を消費する。
メディラマは仲間全員を同時に回復させることができる魔法。
当然、相応の魔力を消費する。
「おいおい……良いのか?」
「使う暇もなく全滅するよりマシだろ?」
「使う暇もなく全滅するよりマシだろ?」
北岡に言われるまでもなく、狭間としてもメディラマを使ったのは慎重な選択だった。
シャドームーンとの交戦となれば、回復魔法を使う暇すらなく仲間が殺されるかもしれない。
ここからは、ますますギリギリの選択が要求される場面になる。
四人ともがそれを感じ取り、更に緊張感を高めてる。
シャドームーンとの交戦となれば、回復魔法を使う暇すらなく仲間が殺されるかもしれない。
ここからは、ますますギリギリの選択が要求される場面になる。
四人ともがそれを感じ取り、更に緊張感を高めてる。
「では行くぞ。私が先頭で、ジェレミアが殿だ」
四人は狭間の指示通りの体制で歩き出した。
覚悟が四人を戦いに誘う。
誰一人予想もしていなかった結末へ向けて――――
誰一人予想もしていなかった結末へ向けて――――
◇
衝撃魔法を使ってヴァンを助け出した狭間は、
北岡、つかさ、ジェレミアと並び立って周囲の状況を観察する。
元は市街地だったはずのその場は、正に惨状と化していた。
居並ぶ建築物は軒並み原形を留めぬほど破壊され、道路のアスファルトは溶けて変形していた。
どんな災禍が起こればこんな状態になるのか、推測も成り立たない状況。
そして欠損した右腕をはじめ、満身創痍のシャドームーンは、
同じく満身創痍のヴァンとC.C.へ、明らかに拷問を加えようとしていた。
最早、凄絶と言う言葉でも言い尽くせぬ異常な状況。
つかさなど、状況を見ただけで青ざめている。
北岡、つかさ、ジェレミアと並び立って周囲の状況を観察する。
元は市街地だったはずのその場は、正に惨状と化していた。
居並ぶ建築物は軒並み原形を留めぬほど破壊され、道路のアスファルトは溶けて変形していた。
どんな災禍が起こればこんな状態になるのか、推測も成り立たない状況。
そして欠損した右腕をはじめ、満身創痍のシャドームーンは、
同じく満身創痍のヴァンとC.C.へ、明らかに拷問を加えようとしていた。
最早、凄絶と言う言葉でも言い尽くせぬ異常な状況。
つかさなど、状況を見ただけで青ざめている。
視認できる参加者は五名。
ヴァン。
C.C.。
城戸真司。
上田次郎。
シャドームーン。
上田以外は生きているのもやっと、と言った状態に見える。
立っているのは、見た所最も負傷の酷いシャドームーンと言う、
実に奇妙な状況だった。
ヴァン。
C.C.。
城戸真司。
上田次郎。
シャドームーン。
上田以外は生きているのもやっと、と言った状態に見える。
立っているのは、見た所最も負傷の酷いシャドームーンと言う、
実に奇妙な状況だった。
翠星石の姿は確認できないが、付近で生存していることは、
探知機を使って確認できる。
死者を出す前に、間に合うことができた。
狭間たち四人はそれを素直に安堵する。
しかしC.C.と真司は、不意の遭遇に当惑している様子だった。
探知機を使って確認できる。
死者を出す前に、間に合うことができた。
狭間たち四人はそれを素直に安堵する。
しかしC.C.と真司は、不意の遭遇に当惑している様子だった。
空気を察知した北岡は、旧知の人物に声を掛けることにした。
同じ仮面ライダーとして時に対立して、時に共闘した、
奇妙な縁の有る男、城戸真司に。
同じ仮面ライダーとして時に対立して、時に共闘した、
奇妙な縁の有る男、城戸真司に。
「よっ。なんだかお前と会うのもさ、随分と久しぶりな感じだよね」
「北岡……さん」
「お互い無事……って訳でも無さそうだけど、まあ命があって何よりじゃないの」
「北岡……さん」
「お互い無事……って訳でも無さそうだけど、まあ命があって何よりじゃないの」
北岡にとって真司は、最も付き合いの古いライダーである。
ある意味浅倉より縁のある相手だ。
もっともライダー同士ということで何度も敵対しているため、決して良好な仲だとは言えなかったが、
殺し合いを経た今の北岡には、旧知の真司に出会えたことが妙に嬉しかった。
ある意味浅倉より縁のある相手だ。
もっともライダー同士ということで何度も敵対しているため、決して良好な仲だとは言えなかったが、
殺し合いを経た今の北岡には、旧知の真司に出会えたことが妙に嬉しかった。
「オレンジ、そう言えばお前も居たか」
今度はC.C.がジェレミアに呼び掛ける。
あえてジェレミアにとって屈辱に満ちた呼び名、オレンジと。
あえてジェレミアにとって屈辱に満ちた呼び名、オレンジと。
「C.C.、貴公も無事で何よりだ」
「……なるほど、私の知っているジェレミアでは無いようだな」
「……なるほど、私の知っているジェレミアでは無いようだな」
しかしジェレミアの応対は極めて落ち着いた物だった。
その様子を見てC.C.は、ジェレミアが自分の敵であった者とは違っていると確認する。
その様子を見てC.C.は、ジェレミアが自分の敵であった者とは違っていると確認する。
そしてC.C.と真司も、狭間たち四人が敵では無いことを明確に悟った。
元々、殺し合いに乗っていると疑わしかったのは狭間一人。
その狭間も、殺し合いに乗っていると考えられる根拠は水銀燈の殺されかけたと言う証言のみ。
証言自体、状況が曖昧な上に、当の水銀燈の信用度自体が低かった物だ。
元々、殺し合いに乗っていると疑わしかったのは狭間一人。
その狭間も、殺し合いに乗っていると考えられる根拠は水銀燈の殺されかけたと言う証言のみ。
証言自体、状況が曖昧な上に、当の水銀燈の信用度自体が低かった物だ。
四人が味方として救援に来たのは、C.C.たちにとって僥倖と言える。
しかし四人しか居ない、と言う状態がC.C.にある懸念を起こす。
しかし四人しか居ない、と言う状態がC.C.にある懸念を起こす。
「……竜宮レナはどうした?」
狭間と北岡とジェレミアとつかさが居るのなら、状況から推測して高い確率でレナと繋がりがあったはずだ。
C.C.はそれを踏まえてレナのことを直裁に問う。
C.C.はそれを踏まえてレナのことを直裁に問う。
「……竜宮レナは、亡くなった」
答えたのはジェレミア。
軍人らしく厳格で沈着な、しかし明瞭な答えだった。
しかし狭間とつかさは沈痛な面持ちをしている。
それを見れば、大よその成り行きは察することができた。
軍人らしく厳格で沈着な、しかし明瞭な答えだった。
しかし狭間とつかさは沈痛な面持ちをしている。
それを見れば、大よその成り行きは察することができた。
まだ年若いレナは死んだ。
そして長く生き過ぎた自分が、未だ死を望んでも手に入れることができない。
どうしようもなく重苦しく理不尽な思いがC.C.を襲う。
そして長く生き過ぎた自分が、未だ死を望んでも手に入れることができない。
どうしようもなく重苦しく理不尽な思いがC.C.を襲う。
「……次期創世王に歯向かう愚者がまだこれだけ居たか」
しかしシャドームーンがただ一言発しただけで、場の空気が一変する。
旧知と再会した喜びも、非業の死に対する哀しみも全て無に帰す王の威圧。
狭間たちがシャドームーンを見るのは始めてだ。
シャドームーンは右腕を失い、全身に傷と火傷を負っている。
深手を負っているのは明らか。
それにも関わらず絶対者としての威風に満ち満ちている。
その様を見るだけで狭間には判る。
シャドームーンは強い。
ただ戦力が高いと言う意味ではない。
どれほどの窮地に立たされても、シャドームーンはその揺ぎ無き威風で戦うだろう。
まして手負いの悪魔の危険性を、狭間はよく知っている。
旧知と再会した喜びも、非業の死に対する哀しみも全て無に帰す王の威圧。
狭間たちがシャドームーンを見るのは始めてだ。
シャドームーンは右腕を失い、全身に傷と火傷を負っている。
深手を負っているのは明らか。
それにも関わらず絶対者としての威風に満ち満ちている。
その様を見るだけで狭間には判る。
シャドームーンは強い。
ただ戦力が高いと言う意味ではない。
どれほどの窮地に立たされても、シャドームーンはその揺ぎ無き威風で戦うだろう。
まして手負いの悪魔の危険性を、狭間はよく知っている。
「貴様がゴルゴムの世紀王・シャドームーンか。私は魔人皇・狭間偉出夫だ。お会いできて光栄、と言うべきだろうな」
それでも臆することなく狭間は並び立つ三人を両手で制し、シャドームーンへ向かって歩み出た。
「シャドームーンの相手は私に任せろ」
「おいおい、レナを説得したようにはいかないんじゃない?」
「だから違う手段で行く」
「おいおい、レナを説得したようにはいかないんじゃない?」
「だから違う手段で行く」
北岡は肩を竦め、
つかさは息を呑んで、
ジェレミアは薄く笑みを浮かべ、
各々やり方で、一人シャドームーンへ向かう狭間を見守る。
狭間偉出夫とシャドームーン。
二人の魔王が相対する。
つかさは息を呑んで、
ジェレミアは薄く笑みを浮かべ、
各々やり方で、一人シャドームーンへ向かう狭間を見守る。
狭間偉出夫とシャドームーン。
二人の魔王が相対する。
「私をゴルゴムの世紀王と知っているか。もっとも、貴様らが畏れるべき真の支配者であることまでは知らないようだが」
「知っているさ。首輪で従属させられた走狗の分際で、その矜持ゆえに他の全てを敵に回した哀れで孤独な王。それが貴様だ」
「知っているさ。首輪で従属させられた走狗の分際で、その矜持ゆえに他の全てを敵に回した哀れで孤独な王。それが貴様だ」
翠星石を救出するために、この場へ車で移動するまでの間、
狭間の鋭敏な頭脳は様々なことに思考を巡らした。
その間にもっとも思案した事項と言えば、シャドームーンへの対処方法だろう。
シャドームーンに対して、どう対応すれば良いか?
『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページに記載されていた、プロフィールや動向から、
シャドームーンを分析して推測をする。
シャドームーンはどんな戦力を有しているか?
そもそもシャドームーンは何者で、何を目的に行動しているのか?
その内に気付いたのは、世紀王・シャドームーンと魔人皇・狭間偉出夫の類似性である。
魔神皇に似ていながら、魔神皇と決定的に違う存在。
それが狭間のシャドームーンに対する感想だ。
狭間の鋭敏な頭脳は様々なことに思考を巡らした。
その間にもっとも思案した事項と言えば、シャドームーンへの対処方法だろう。
シャドームーンに対して、どう対応すれば良いか?
『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページに記載されていた、プロフィールや動向から、
シャドームーンを分析して推測をする。
シャドームーンはどんな戦力を有しているか?
そもそもシャドームーンは何者で、何を目的に行動しているのか?
その内に気付いたのは、世紀王・シャドームーンと魔人皇・狭間偉出夫の類似性である。
魔神皇に似ていながら、魔神皇と決定的に違う存在。
それが狭間のシャドームーンに対する感想だ。
「人間ごときが図に乗るな!!」
シャドームーンの纏う空気が急激に膨張して叩き付けられた。
北岡もつかさもジェレミアも揃って、そんな錯覚を覚えるほどの威圧感。
常に冷徹な余裕を見せていたシャドームーンが、それほど激しい怒り見せる。
しかし直接怒りを叩き付けられた狭間はまるで動じていない。
北岡もつかさもジェレミアも揃って、そんな錯覚を覚えるほどの威圧感。
常に冷徹な余裕を見せていたシャドームーンが、それほど激しい怒り見せる。
しかし直接怒りを叩き付けられた狭間はまるで動じていない。
「教えてやる!! 貴様らがゴルゴムの王に捧げられた贄に等しい存在だと言うことを!」
シャドームーンが殺し合いのルールに従っているのは、主催者の裏に創世王が存在するからであり、
創世王が用意した首輪によって戒められているからだ。
そこがゴルゴムの手中でなければ、シャドームーンを束縛する物など何も無い。
創世王が用意した首輪によって戒められているからだ。
そこがゴルゴムの手中でなければ、シャドームーンを束縛する物など何も無い。
「王の依命に縋れば、己だけは贄で無いつもりか……ますます似ているな。かつて魔神皇を名乗った、愚かな男に」
シャドームーンを挑発するような狭間の言葉。
しかし狭間の声は、むしろ自嘲の色を帯びていた。
しかし狭間の声は、むしろ自嘲の色を帯びていた。
「只人の、学生に過ぎない男だった。多少の才知があるのを鼻に掛けて、ゆえに学校で孤立した。
しかし男は自分の孤独を周囲の責任だと逆恨みした。そして自分の通う学校を魔界に堕とした……」
しかし男は自分の孤独を周囲の責任だと逆恨みした。そして自分の通う学校を魔界に堕とした……」
狭間の語り口から、語られる人物が狭間自身であることはすぐに周知された。
シャドームーンですら。
しかし狭間の話には誤りが有る。
狭間の孤立は決して彼自身のみの責任ではない。
もっとも、狭間の学校での事情を知る者はこの場に存在しない。
誰の訂正も入らないまま、狭間の話は続く。
シャドームーンですら。
しかし狭間の話には誤りが有る。
狭間の孤立は決して彼自身のみの責任ではない。
もっとも、狭間の学校での事情を知る者はこの場に存在しない。
誰の訂正も入らないまま、狭間の話は続く。
「自身に関係の有る者も無い者も、学校に居る全ての者を巻き込んで、だ。
そこで多くの命が弄ばれた。…………私が、弄んだ」
そこで多くの命が弄ばれた。…………私が、弄んだ」
様子見をしていたシャドームーンが不意を狙って地を蹴る。
狭間との距離が瞬時に零となった。
人の身では反応すら許されない速さで、間合いを詰め、
そしてサタンサーベルが振り下ろされる。
狭間との距離が瞬時に零となった。
人の身では反応すら許されない速さで、間合いを詰め、
そしてサタンサーベルが振り下ろされる。
「……それで魔神皇の孤独が癒されたと思うか? 逆だ。
無為に人々を苦しめた後ろめたさをごまかすために、ますます自分の王としての威勢に縋る。
そして孤独な玉座で、来るはずも無い救いを待ち続ける。そうと認められぬままに、な。
学校を魔界に堕としたことで、自らもまた地獄に堕とした。本当に愚かな男だ……」
無為に人々を苦しめた後ろめたさをごまかすために、ますます自分の王としての威勢に縋る。
そして孤独な玉座で、来るはずも無い救いを待ち続ける。そうと認められぬままに、な。
学校を魔界に堕としたことで、自らもまた地獄に堕とした。本当に愚かな男だ……」
しかし狭間は、そのシャドームーンの動きに反応できた。
それどころかサタンサーベルを、自らの日本刀で受け止める。
ゴルゴムに伝わる伝説の魔剣・サタンサーベルは、本来日本刀で受け止められるはずが無い。
しかし狭間の持つ刀もまた伝説に謳われるほどの業物中の業物。
この世に切れぬ物無しとまで謳われた名刀・斬鉄剣。
それどころかサタンサーベルを、自らの日本刀で受け止める。
ゴルゴムに伝わる伝説の魔剣・サタンサーベルは、本来日本刀で受け止められるはずが無い。
しかし狭間の持つ刀もまた伝説に謳われるほどの業物中の業物。
この世に切れぬ物無しとまで謳われた名刀・斬鉄剣。
「今の貴様と似たような物だ。王の矜持に拘って、他の全てを敵に回す。その先には、破滅しかないことを知らず。
貴様の愚かさは、魔神皇の愚かさだ。かつての魔神皇として、今の魔人皇として、その愚かさを許すわけにはいかん」
「あくまでゴルゴムの世紀王を人間の王と同列に扱いたいらしいな。ならば、それこそ誤りだと思い知ることだ!」
「そうして思い知らせてどうする? 首輪で脅された殺し合いに、主催の言いなりに殺戮して優勝できれば、自分の王威を証明できるとでも思っているのか?
それが愚かだと言うのだ。ザンダイン!」
貴様の愚かさは、魔神皇の愚かさだ。かつての魔神皇として、今の魔人皇として、その愚かさを許すわけにはいかん」
「あくまでゴルゴムの世紀王を人間の王と同列に扱いたいらしいな。ならば、それこそ誤りだと思い知ることだ!」
「そうして思い知らせてどうする? 首輪で脅された殺し合いに、主催の言いなりに殺戮して優勝できれば、自分の王威を証明できるとでも思っているのか?
それが愚かだと言うのだ。ザンダイン!」
狭間が両手で構える斬鉄剣とシャドームーンが片手で構えるサタンサーベルが鍔迫り合いとなる。
それでも、膂力ではシャドームーンの方が上回った。
押される狭間。
しかし狭間の詠唱と同時に、二人の間に在った大気が突如、
一塊の鎚と化してシャドームーンに打ち出される。
衝撃波はシャドームーンを押し飛ばす。
狭間が使ったのが、空気その物を自らの武器とする衝撃魔法。
先刻、サタンサーベルを弾いてヴァンを助けたのも同種の魔法である。
それでも、膂力ではシャドームーンの方が上回った。
押される狭間。
しかし狭間の詠唱と同時に、二人の間に在った大気が突如、
一塊の鎚と化してシャドームーンに打ち出される。
衝撃波はシャドームーンを押し飛ばす。
狭間が使ったのが、空気その物を自らの武器とする衝撃魔法。
先刻、サタンサーベルを弾いてヴァンを助けたのも同種の魔法である。
「自らの愚かさに気付いていないことは、魔神皇と変わらない。
……しかし確かに貴様の言う通り、魔神皇とは違うなシャドームーン」
……しかし確かに貴様の言う通り、魔神皇とは違うなシャドームーン」
押し飛ばされたシャドームーンは難なく着地する。
狭間が次に使用した魔法は、ランダマイザ。
対象の能力を全般的に下げる魔法である。
仮面ライダーオーディンの能力すら奪った魔力に拠る呪いが、シャドームーンに襲い掛かる。
次の瞬間、シャドームーンを包んだのは眩い光。
自身のシャドーチャージャーから発せられた光である。
キングストーンの光・シャドーフラッシュは、敵からの特殊能力に拠る干渉を跳ね除ける力を持つ。
狭間が掛けたランダマイザですら、その効果を失った。
狭間が次に使用した魔法は、ランダマイザ。
対象の能力を全般的に下げる魔法である。
仮面ライダーオーディンの能力すら奪った魔力に拠る呪いが、シャドームーンに襲い掛かる。
次の瞬間、シャドームーンを包んだのは眩い光。
自身のシャドーチャージャーから発せられた光である。
キングストーンの光・シャドーフラッシュは、敵からの特殊能力に拠る干渉を跳ね除ける力を持つ。
狭間が掛けたランダマイザですら、その効果を失った。
「……私は結局、魔神皇であることを貫けなかった。魔神皇としての矜持は虚仮でしかなかった。
貴様はただ一人で殺し合いを戦った。全てを敵に回してな」
貴様はただ一人で殺し合いを戦った。全てを敵に回してな」
シャドームーンは指先を狭間へ向ける。
指先から光が奔った。
キングストーンのエネルギーを破壊の光線へと変換した、シャドービーム。
指先から光が奔った。
キングストーンのエネルギーを破壊の光線へと変換した、シャドービーム。
狭間の前で雷鳴が鳴り、稲妻が奔る。
稲妻はシャドービームと衝突。
シャドービームは狭間へ命中する前に、爆発へ転じた。
狭間の使う雷撃魔法に迎撃されたのだ。
稲妻はシャドービームと衝突。
シャドービームは狭間へ命中する前に、爆発へ転じた。
狭間の使う雷撃魔法に迎撃されたのだ。
「右腕を失くしても、これほど追い詰められても尚、貴様は未だ世紀王の矜持を僅かも損なっていない。
おそらく殺されることになろうと、その矜持を失うことは無いだろう。
ゴルゴムの王など、私は認めるつもりは無い。しかし貴様の矜持は本物だと認めてやる。」
おそらく殺されることになろうと、その矜持を失うことは無いだろう。
ゴルゴムの王など、私は認めるつもりは無い。しかし貴様の矜持は本物だと認めてやる。」
爆発煙が狭間の眼前を覆う。
不意に真紅が煙から飛び出した。
サタンサーベルが煙の中から突き抜けて来た。
不意に真紅が煙から飛び出した。
サタンサーベルが煙の中から突き抜けて来た。
「それを称えて――――貴様の首輪を外してやろう」
サタンサーベルは狭間の眼前で止まった。
「貴様……」
「首輪を外したかったのだろう? だから外してやると言ったんだ」
「首輪を外したかったのだろう? だから外してやると言ったんだ」
シャドームーンも、
C.C.も、
真司も、
北岡も、
ジェレミアも、
意表を衝かれて動きを止めた。
つかさは先刻から話に付いていけない様子で当惑している。
ヴァンと上田は気絶したままだ。
しかし狭間にとっては、当初から条件さえ許せば、
最も優先順位の高い戦略であり、手段だった。
C.C.も、
真司も、
北岡も、
ジェレミアも、
意表を衝かれて動きを止めた。
つかさは先刻から話に付いていけない様子で当惑している。
ヴァンと上田は気絶したままだ。
しかし狭間にとっては、当初から条件さえ許せば、
最も優先順位の高い戦略であり、手段だった。
「貴様が先ほどまで戦っていた者たちの中で、翠星石とC.C.だけが首輪を外していた。
なぜ彼女たちが首輪を外せたと思う? 主催者側から首輪の解除方法が開示されていたからだ。
なぜ彼女たちだけが首輪を外していると思う? 複数名の中から、限られた数だけしか首輪を解除できない方法だからだ
そしてなぜ私にそれが判ると思う? 我々も知ったからだ。首輪の解除方法を。彼女たちと同じく、主催者側の開示した情報によって」
なぜ彼女たちが首輪を外せたと思う? 主催者側から首輪の解除方法が開示されていたからだ。
なぜ彼女たちだけが首輪を外していると思う? 複数名の中から、限られた数だけしか首輪を解除できない方法だからだ
そしてなぜ私にそれが判ると思う? 我々も知ったからだ。首輪の解除方法を。彼女たちと同じく、主催者側の開示した情報によって」
『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧してからここに至るまで、時間にしておよそ三十分弱。
狭間の頭脳には、幾重もの思考を重ねるには充分な時間だった。
狭間の頭脳には、幾重もの思考を重ねるには充分な時間だった。
nのフィールドへの侵入能力を持つ翠星石がシャドームーンと交戦している状況。
その中で最も多くの者の生還に繋がる作戦を。
その中で最も多くの者の生還に繋がる作戦を。
「……何が目的だ?」
「貴様と契約を結びたい。内容は、大方の見当が付くんじゃないか?」
「貴様と契約を結びたい。内容は、大方の見当が付くんじゃないか?」
彼我の戦力。
行動目的。
所有する武器や道具。
周囲の地形。
あらゆる要素を考慮して、
あらゆる可能性を検討し、
幾重にも幾重にも思考を重ねる。
行動目的。
所有する武器や道具。
周囲の地形。
あらゆる要素を考慮して、
あらゆる可能性を検討し、
幾重にも幾重にも思考を重ねる。
それはこの場に来ても変わらない。
シャドームーンは現在、如何なる状態か?
ダメージは? 消耗は? 精神状態は?
実際の周囲の地形はどのようになっているか?
あらゆる要素を観察して、
幾重にも幾重にも思考を重ねる。
シャドームーンは現在、如何なる状態か?
ダメージは? 消耗は? 精神状態は?
実際の周囲の地形はどのようになっているか?
あらゆる要素を観察して、
幾重にも幾重にも思考を重ねる。
何が最善手となり得るか?
ここで最も重要な要素は一体何か?
それは戦力でも武器でもない。
それらは重要な要素に違いないが、現状を打破するための最善手には成り得ない。
では何が現状を打破するための鍵と成り得るか?
狭間の頭脳は幾重にも幾重にも思考を重ねる。
ここで最も重要な要素は一体何か?
それは戦力でも武器でもない。
それらは重要な要素に違いないが、現状を打破するための最善手には成り得ない。
では何が現状を打破するための鍵と成り得るか?
狭間の頭脳は幾重にも幾重にも思考を重ねる。
「……フッ、まさか『協力して主催者を倒す』などと言うつもりじゃ無いだろうな」
そして導き出した答え。
しかしその最善手を取るためには、何よりも覚悟が要る。
殺し合いが始まって以来、最も重い覚悟。
シャドームーンと心中して、再び地獄に堕ちる覚悟が。
しかしその最善手を取るためには、何よりも覚悟が要る。
殺し合いが始まって以来、最も重い覚悟。
シャドームーンと心中して、再び地獄に堕ちる覚悟が。
「その通りだ。よく判ってるじゃないか」
賽は投げられた。
もう引き返すことはできない。
もう引き返すことはできない。
「おい、ちょっと待て……」
「黙って見ていろ。我々の力では、もうどうしようもない状況なんだ……」
「黙って見ていろ。我々の力では、もうどうしようもない状況なんだ……」
身体を起こすこともできない、真司が声だけで口を挟もうとする。
近くで倒れていたC.C.がそれを制する。
狭間の思惑はC.C.にも、まだ掴み切れないが、
シャドームーンの脅威から逃れられるかどうかは、今や狭間に掛かっていると見て間違いない。
下手な言動で邪魔になってはならない。
近くで倒れていたC.C.がそれを制する。
狭間の思惑はC.C.にも、まだ掴み切れないが、
シャドームーンの脅威から逃れられるかどうかは、今や狭間に掛かっていると見て間違いない。
下手な言動で邪魔になってはならない。
「…………話の雲行きは、かなり怪しいがな」
真司にとっても、
C.C.にとっても、
ヴァンにとっても、
翠星石にとっても、
上田にとっても、
シャドームーンは不倶戴天の魔王。
説得は不可能。
生かしておけば、自分たちが決して生き残ることができない存在だった。
C.C.にとっても、
ヴァンにとっても、
翠星石にとっても、
上田にとっても、
シャドームーンは不倶戴天の魔王。
説得は不可能。
生かしておけば、自分たちが決して生き残ることができない存在だった。
しかし狭間にとってはどうか?
狭間はよく知っている。
悪魔とは説得ではなくTALK(交渉)する物だと。
アモンをはじめ様々な悪魔を従えて無限の塔を制し、魔界の主となった狭間にとっては、
魔王ですら交渉の対象となりうる。
もっとも狭間は悪魔との交渉を苦手としていた。
それでもシャドームーンを前にしては、なぜか不思議なほど苦手意識は鳴りを潜めていた。
狭間はよく知っている。
悪魔とは説得ではなくTALK(交渉)する物だと。
アモンをはじめ様々な悪魔を従えて無限の塔を制し、魔界の主となった狭間にとっては、
魔王ですら交渉の対象となりうる。
もっとも狭間は悪魔との交渉を苦手としていた。
それでもシャドームーンを前にしては、なぜか不思議なほど苦手意識は鳴りを潜めていた。
「……フッ、話にならんな」
「なぜだ? こちらの意図は伝わっているはずだ。それが双方の利に適っていることも理解しているのだろう?」
「貴様は判っていないようだな、世紀王が人間と同列に殺し合いへ参加させられた意味が」
「なぜだ? こちらの意図は伝わっているはずだ。それが双方の利に適っていることも理解しているのだろう?」
「貴様は判っていないようだな、世紀王が人間と同列に殺し合いへ参加させられた意味が」
しかし狭間とてシャドームーンの全貌を知ったつもりではない。
まして相手は、恐らく全人類を敵とする極め付けの魔王。
あくまで冷静沈着な魔人皇の顔を崩さぬまま、
吐息一つ漏らさぬシャドームーンの、呼吸の際まで見逃さぬ覚悟で、
狭間は悪魔交渉に臨む。
まして相手は、恐らく全人類を敵とする極め付けの魔王。
あくまで冷静沈着な魔人皇の顔を崩さぬまま、
吐息一つ漏らさぬシャドームーンの、呼吸の際まで見逃さぬ覚悟で、
狭間は悪魔交渉に臨む。
「貴様らの全てを殺し尽くす。それができてこそ、私の矜持は満たされる」
「そうしたいなら、そうすれば良い。ではそれに私が協力することも、契約の条件に加えよう」
「……え?」
「……おい、本当に任せて大丈夫なんだろうな?」
「そうしたいなら、そうすれば良い。ではそれに私が協力することも、契約の条件に加えよう」
「……え?」
「……おい、本当に任せて大丈夫なんだろうな?」
今まで黙って見守っていたつかさと北岡も、流石に口を挟んだ。
鉄火を鳴らし戦っていた時より、遥かに不穏な空気が場を包む。
シャドームーンですら、僅かに当惑している様子だ。
鉄火を鳴らし戦っていた時より、遥かに不穏な空気が場を包む。
シャドームーンですら、僅かに当惑している様子だ。
「シャドームーンは狭間に任せたのだ。ならば、余計な口出しは止せ」
「何? おたくは随分余裕じゃないの」
「私もシャドームーンは狭間に任せた。それは命を預けたのも同じ」
「大した潔さだねぇ。俺はそこまで悟ってないんだけど……ま、ここは黙って引き下がりましょうか、つかさちゃん」
「う、うん……」
「何? おたくは随分余裕じゃないの」
「私もシャドームーンは狭間に任せた。それは命を預けたのも同じ」
「大した潔さだねぇ。俺はそこまで悟ってないんだけど……ま、ここは黙って引き下がりましょうか、つかさちゃん」
「う、うん……」
その中でもジェレミアはあくまで沈着なままだ。
元より主のために命を尽くす武人であるジェレミアは、必要とあらば何時でも命を投げ出す覚悟ができている。
そこまでの覚悟は決まっていない北岡とつかさだが、結局は黙って引き下がることにした。
そうできる程度には、やはり狭間を信頼していたのだ。
元より主のために命を尽くす武人であるジェレミアは、必要とあらば何時でも命を投げ出す覚悟ができている。
そこまでの覚悟は決まっていない北岡とつかさだが、結局は黙って引き下がることにした。
そうできる程度には、やはり狭間を信頼していたのだ。
「……戯言でこの私を愚弄しているのならば、貴様も貴様の仲間も只では済まんぞ」
静かな声で告げるシャドームーン。
しかし先ほどより威圧感は増している。
しかし先ほどより威圧感は増している。
「私は大真面目だ。何しろ命が掛かっているのだからな」
「では協力とやらの意味を説明しろ」
「主催者を倒した後も私は逃げない。そして他の参加者も逃がさないと言う意味だ。
契約の内容を順を追って説明しよう。まず我々が貴様の首輪を外す。そして協力して主催者を倒す。
その後に貴様と我々で決着を付ける。貴様と他の生き残った全員を集めて、だ」
「……それを貴様がやると言うのか? 例え脱出できる状況であっても、それに背を向けて」
「言ったはずだ、貴様を許さんと。如何なる理由があっても貴様のしたことは許されないし、貴様を生かしておけばまた違う所で犠牲者が出る。
無論それとは別に、生き残った全員を必ず貴様の敵として立たせると約束しよう。力付くでもな」
「では協力とやらの意味を説明しろ」
「主催者を倒した後も私は逃げない。そして他の参加者も逃がさないと言う意味だ。
契約の内容を順を追って説明しよう。まず我々が貴様の首輪を外す。そして協力して主催者を倒す。
その後に貴様と我々で決着を付ける。貴様と他の生き残った全員を集めて、だ」
「……それを貴様がやると言うのか? 例え脱出できる状況であっても、それに背を向けて」
「言ったはずだ、貴様を許さんと。如何なる理由があっても貴様のしたことは許されないし、貴様を生かしておけばまた違う所で犠牲者が出る。
無論それとは別に、生き残った全員を必ず貴様の敵として立たせると約束しよう。力付くでもな」
シャドームーンが自分以外の参加者全員を殺害することに拘るのは、その誇りゆえ。
一度乗ると決めた殺し合いにおいて、一人でも取りこぼしをすれば世紀王としての誇りが許さない。
ならば殺し合いのルールに拘る必要は無い。
殺し合いの外であろうと、生き残った者と戦えば良いのだから。
主催者との戦いで死ぬかも知れないが、それは生き残るのに力が及ばなかった程度の者と割り切ることはできるはずだ。
殺し合いを続けたところで、自分以外の全員を殺すことは叶わないのだから。
一度乗ると決めた殺し合いにおいて、一人でも取りこぼしをすれば世紀王としての誇りが許さない。
ならば殺し合いのルールに拘る必要は無い。
殺し合いの外であろうと、生き残った者と戦えば良いのだから。
主催者との戦いで死ぬかも知れないが、それは生き残るのに力が及ばなかった程度の者と割り切ることはできるはずだ。
殺し合いを続けたところで、自分以外の全員を殺すことは叶わないのだから。
「貴様にとって、これ以上無い条件のはずだ。これで貴様は主催者の走狗でなく、主催を乗り越えた王となれる。
その上、我々を皆殺しにすれば、貴様は殺し合いの参加者の中でも最強者として君臨できるのだからな」
その上、我々を皆殺しにすれば、貴様は殺し合いの参加者の中でも最強者として君臨できるのだからな」
そしてシャドームーンにとって、何より好条件なのが“殺し合いを強いられてそれに従った”と言う形でなくなることだ。
このまま殺し合いに優勝して更に主催者を倒したとしても、止む無く殺し合いをさせられた事実に変わりは無い。
しかし首輪を外して主催者を倒せば、殺し合いと言う世紀王への命令を打破したことになる。
シャドームーンは徐に次の台詞を吐く。
このまま殺し合いに優勝して更に主催者を倒したとしても、止む無く殺し合いをさせられた事実に変わりは無い。
しかし首輪を外して主催者を倒せば、殺し合いと言う世紀王への命令を打破したことになる。
シャドームーンは徐に次の台詞を吐く。
「……力付くでも私の敵として立たせると言ったな。それはあいつらでもか?」
シャドームーンが指す先に居るのは北岡とつかさとジェレミア。
不意にシャドームーンに指されたつかさは、びくりと身体を震わせる。
北岡とジェレミアも身体を強張らせた。
狭間はそんな彼らを見据える。
不意にシャドームーンに指されたつかさは、びくりと身体を震わせる。
北岡とジェレミアも身体を強張らせた。
狭間はそんな彼らを見据える。
「例外は無い」
そして事も無げに言い放った。
僅かにも動揺を見せない。
見せてはならない。
それが今最も肝心な交渉術だった。
僅かにも動揺を見せない。
見せてはならない。
それが今最も肝心な交渉術だった。
他者に命懸けの戦いを強要する。
しかも殺し合いの参加者の中でも屈指の強者、シャドームーンとの戦いを。
狭間の提案は他の参加者にとって理不尽極まりない物であるはずだ。
しかし他の者からも、もう狭間の暴言に対し異論は無かった。
北岡、つかさ、ジェレミアの三人はおろか真司とC.C.もただ黙って見守っている。
全員が理解していたからだ。
尋常の手段ではシャドームーンの脅威から逃れることができない。
先送りにできるだけ僥倖。
もしその脅威を主催に向けることが可能なら、それは正に起死回生の一手であることを。
それほどシャドームーンの脅威は恐るべき物だった。
それに一人で立ち向かう狭間。
場の空気は、完全に狭間とシャドームーンに支配されていた。
しかも殺し合いの参加者の中でも屈指の強者、シャドームーンとの戦いを。
狭間の提案は他の参加者にとって理不尽極まりない物であるはずだ。
しかし他の者からも、もう狭間の暴言に対し異論は無かった。
北岡、つかさ、ジェレミアの三人はおろか真司とC.C.もただ黙って見守っている。
全員が理解していたからだ。
尋常の手段ではシャドームーンの脅威から逃れることができない。
先送りにできるだけ僥倖。
もしその脅威を主催に向けることが可能なら、それは正に起死回生の一手であることを。
それほどシャドームーンの脅威は恐るべき物だった。
それに一人で立ち向かう狭間。
場の空気は、完全に狭間とシャドームーンに支配されていた。
「……では、どうやって首輪を解除する?」
片方の支配者、シャドームーンが問う。
王の自負を持つ者は、あくまで傲岸に要求する。
情報であれ何であれ、この世の望む全てが己の物。
意に沿わぬ者は命を奪うまで。
それが世紀王の自負。
その王の傲慢を全て受け止めて、狭間は交渉に臨んでいるのだ。
王の自負を持つ者は、あくまで傲岸に要求する。
情報であれ何であれ、この世の望む全てが己の物。
意に沿わぬ者は命を奪うまで。
それが世紀王の自負。
その王の傲慢を全て受け止めて、狭間は交渉に臨んでいるのだ。
「主催者が開示したと言う情報源は、パソコンのネットワーク上に在った」
シャドームーンを相手にも、自らのペースを崩さずに話を続ける狭間。
しかし実際のところは、シャドームーンに判り易く興味を持続させるよう言葉の使い方まで気を配っていた。
細心の注意を払っても、次の瞬間には仲間の命が危険に晒される可能性がある。
それが世紀王との交渉。
しかし実際のところは、シャドームーンに判り易く興味を持続させるよう言葉の使い方まで気を配っていた。
細心の注意を払っても、次の瞬間には仲間の命が危険に晒される可能性がある。
それが世紀王との交渉。
狭間はジェレミアにノートパソコンを要求する。
ジェレミアは狭間の意図に察しが付いたが、黙ってノートパソコンを渡す。
狭間はシャドームーンと距離を置きながら、開いたノートパソコンのディスプレイを向けて電源を入れる。
そのノートパソコンは内部電源とデータカードに拠って、外部との接続無しに起動とインターネットの利用が可能だった。
ジェレミアは狭間の意図に察しが付いたが、黙ってノートパソコンを渡す。
狭間はシャドームーンと距離を置きながら、開いたノートパソコンのディスプレイを向けて電源を入れる。
そのノートパソコンは内部電源とデータカードに拠って、外部との接続無しに起動とインターネットの利用が可能だった。
「まず、このホームページが主催者によって開示された物である証拠を見せよう。
このホームページには幾つものページがあるが、その中に『参加者の動向』が記された欄がある。
シャドームーン、貴様の動向もな」
このホームページには幾つものページがあるが、その中に『参加者の動向』が記された欄がある。
シャドームーン、貴様の動向もな」
狭間は手馴れた様子でノートパソコンのキーを叩き、『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページのメニューを開いて行く。
開かれたのは確かに『参加者の動向』のページ。
下にスクロールしていくと、シャドームーンの欄に行き当たる。
開かれたのは確かに『参加者の動向』のページ。
下にスクロールしていくと、シャドームーンの欄に行き当たる。
「……どうだ、貴様ならばそこからでも内容が読めるんじゃないか?」
確かにシャドームーンのマイティアイは、距離を隔ててもノートパソコンのディスプレイに書かれた内容を読むことができた。
そこにはシャドームーンのこれまでの動向が書かれている。
そこにはシャドームーンのこれまでの動向が書かれている。
「内容に間違いは無いな? それならばこの内容が書けるのは貴様自身か、我々の動向を監視しているであろう主催者側であることも判るはずだ」
実際には、これだけ多様な異能や道具が存在している殺し合いの中なら、他の参加者を監視する能力が存在する可能性がある。
それにシャドームーンの動向が主催者によって監視されているのなら、記録もされている形になるはずなのだから、
その記録さえ確認できれば誰でもこの内容を書くことはできる。
しかしどちらも蓋然性は極めて低い。
仮に他の参加者を完璧に監視する能力が存在したとしても、それは殺し合いの武器としては強力過ぎる。
主催者によって制限されるか禁止される形になるだろう。
監視記録の方は更に条件が難しい。
それは主催者側に干渉して情報を摂取する形になるからだ。
シャドームーンは馬鹿ではない。
それはこれまでの動向、その中での幾多の戦闘での実績、そしてこうして実際に話をしてみれば、
狭間には充分に察することができた。
だからこれが主催者側の用意したホームページであると考えてほぼ間違いないと察することもできるはずだ。
それだけの頭があるからこそ、交渉相手としては手強いのだが。
逆に言えば、ともかく交渉が成立するだけの相手でもあるのだ。
それにシャドームーンの動向が主催者によって監視されているのなら、記録もされている形になるはずなのだから、
その記録さえ確認できれば誰でもこの内容を書くことはできる。
しかしどちらも蓋然性は極めて低い。
仮に他の参加者を完璧に監視する能力が存在したとしても、それは殺し合いの武器としては強力過ぎる。
主催者によって制限されるか禁止される形になるだろう。
監視記録の方は更に条件が難しい。
それは主催者側に干渉して情報を摂取する形になるからだ。
シャドームーンは馬鹿ではない。
それはこれまでの動向、その中での幾多の戦闘での実績、そしてこうして実際に話をしてみれば、
狭間には充分に察することができた。
だからこれが主催者側の用意したホームページであると考えてほぼ間違いないと察することもできるはずだ。
それだけの頭があるからこそ、交渉相手としては手強いのだが。
逆に言えば、ともかく交渉が成立するだけの相手でもあるのだ。
「…………そしてこれが、首輪の解除方法が開示されたページだ」
シャドームーンが首輪の解除方法を知ろうとしている。
それを暗い面持ちで眺めるC.C.。
C.C.がヴァンを犠牲にしてまで守ろうとした情報がシャドームーンに渡ろうとしている。
運命は何もかもC.C.にとって皮肉な方向に回っていた。
それを暗い面持ちで眺めるC.C.。
C.C.がヴァンを犠牲にしてまで守ろうとした情報がシャドームーンに渡ろうとしている。
運命は何もかもC.C.にとって皮肉な方向に回っていた。
狭間がシャドームーンに見せたのは『情報』と書かれていた欄。
そこには確かに首輪の解除方法が記載されていた。
首輪を停止させる手段から、解体する手順まで詳細に。
特にシャドームーンの目を引いたのは、首輪の爆破機能停止条件の一つ。
『爆破機能の停止していない首輪が、装着者の半径二メートル以内に四個以上存在する時。』
そこには確かに首輪の解除方法が記載されていた。
首輪を停止させる手段から、解体する手順まで詳細に。
特にシャドームーンの目を引いたのは、首輪の爆破機能停止条件の一つ。
『爆破機能の停止していない首輪が、装着者の半径二メートル以内に四個以上存在する時。』
「四人集まれば首輪の爆破機能が停止する……それならば、貴様らの手を借りるまでも無い」
首輪に手を掛けながら吐いたシャドームーンの言葉に、場の空気は一気に凍り付く。
確かにシャドームーンの腕力なら、首輪を力付くで引き千切ることも可能。
そしてこの場には首輪を嵌めた参加者が八人も居る。
理論上は首輪解除が可能なのだ。
しかし狭間は平然と言い放った。
確かにシャドームーンの腕力なら、首輪を力付くで引き千切ることも可能。
そしてこの場には首輪を嵌めた参加者が八人も居る。
理論上は首輪解除が可能なのだ。
しかし狭間は平然と言い放った。
「試してみるか?」
「…………フッ、人間の分際でつくづく良い度胸だ」
「…………フッ、人間の分際でつくづく良い度胸だ」
シャドームーンは首輪からあっさりと手を放す。
ホームページの記載上では、首輪の爆破機能の停止は、あくまで首輪の爆破条件の一工程に過ぎない。
停止条件を満たしても、首輪が破損した場合は爆破する危険が残っている。
そもそもこの情報を開示したと言うのは、殺し合いの主催者側。
首輪を力付くで破壊する方法が幾らでも存在することを知っている立場だ。
四人が集まっただけで、力付くで首輪を破壊できる状態にするとは考え難い。
現在のシャドームーンは理論上首輪解除が可能。だがリスクが大き過ぎた。
ホームページの記載上では、首輪の爆破機能の停止は、あくまで首輪の爆破条件の一工程に過ぎない。
停止条件を満たしても、首輪が破損した場合は爆破する危険が残っている。
そもそもこの情報を開示したと言うのは、殺し合いの主催者側。
首輪を力付くで破壊する方法が幾らでも存在することを知っている立場だ。
四人が集まっただけで、力付くで首輪を破壊できる状態にするとは考え難い。
現在のシャドームーンは理論上首輪解除が可能。だがリスクが大き過ぎた。
「…………そこに書かれた俺の動向が主催が開示した物として、首輪の解除方法までお前らが捏造した物でないと言う証拠にはならんぞ」
シャドームーンの言う通り参加者の動向情報と、首輪の解除方法はまた別の問題。
参加者の動向欄が主催者に拠って開示された情報であっても、
『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを改竄、
あるいは『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページその物を捏造した可能性は残る。
参加者の動向欄が主催者に拠って開示された情報であっても、
『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを改竄、
あるいは『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページその物を捏造した可能性は残る。
「では翠星石とC.C.はどうやって首輪を解除したんだ?」
それを指摘されても狭間が動じる必要は無い。
翠星石とC.C.の首輪解除と言う、確度の高い根拠が存在するからだ。
無論、それで疑いが完全に晴れるわけではない。
しかしそれで構わないと狭間は考える。
今、肝心なのは、シャドームーンを自分の話に上手く乗せ続けて行くこと。
シャドームーンが疑いを口にするのも、狙いはおそらく狭間に揺さぶりを掛けて反応を見るため。
しかし揺さぶりを掛けてくること自体、話にある程度は乗っている証拠。
翠星石とC.C.の首輪解除と言う、確度の高い根拠が存在するからだ。
無論、それで疑いが完全に晴れるわけではない。
しかしそれで構わないと狭間は考える。
今、肝心なのは、シャドームーンを自分の話に上手く乗せ続けて行くこと。
シャドームーンが疑いを口にするのも、狙いはおそらく狭間に揺さぶりを掛けて反応を見るため。
しかし揺さぶりを掛けてくること自体、話にある程度は乗っている証拠。
「翠星石とC.C.に聞けば、このホームページに記載された方法で解除したと裏付けが取れる」
狭間はシャドームーンを話に乗せるために、考え付く限りあらゆる努力を尽くしてきた。
挑発をしてそのプライドを煽り、意表を衝いてペースを握り、
シャドームーンの反応を細大漏らさず観察して、それに対応していった。
挑発をしてそのプライドを煽り、意表を衝いてペースを握り、
シャドームーンの反応を細大漏らさず観察して、それに対応していった。
かつて悪魔交渉を苦手としていた狭間。
狭間がかつて悪魔交渉を苦手としたのは、その高慢さに拠る。
そしてその高慢は、劣等感の裏返しだった。
劣等感ゆえ他者を拒絶し、対等の関係を許さなかった。
しかし今の狭間は魔神皇ならぬ魔人皇。
他者と対等に向き合える。
ゆえに本当の意味での交渉を可能とした。
ゴルゴムの世紀王を相手としてすら。
そして、狭間には例え下手な悪魔交渉であっても、それをこなして来た経験がある。
如何なることでも経験の有無の差は大きい。まして交渉ごとでは尚更だ。
何より今は仲間の命を背負って交渉に当たっている。
自分一人の命より重いものを背負っての交渉。
ゆえに全霊を尽くして、如何なる手段でも行使して交渉に当たる。
逆に言えば、狭間は今までこれほど真剣に悪魔交渉をしたことは無かった。
狭間は今始めて、悪魔交渉の醍醐味を味わっていた。
狭間がかつて悪魔交渉を苦手としたのは、その高慢さに拠る。
そしてその高慢は、劣等感の裏返しだった。
劣等感ゆえ他者を拒絶し、対等の関係を許さなかった。
しかし今の狭間は魔神皇ならぬ魔人皇。
他者と対等に向き合える。
ゆえに本当の意味での交渉を可能とした。
ゴルゴムの世紀王を相手としてすら。
そして、狭間には例え下手な悪魔交渉であっても、それをこなして来た経験がある。
如何なることでも経験の有無の差は大きい。まして交渉ごとでは尚更だ。
何より今は仲間の命を背負って交渉に当たっている。
自分一人の命より重いものを背負っての交渉。
ゆえに全霊を尽くして、如何なる手段でも行使して交渉に当たる。
逆に言えば、狭間は今までこれほど真剣に悪魔交渉をしたことは無かった。
狭間は今始めて、悪魔交渉の醍醐味を味わっていた。
「では契約内容の詳細について……話す前に、こちらからも一つだけ条件を付けさせて貰う」
「条件など出せる立場だと思っているのか?」
「契約その物を成り立させるのに必要な条件だからな。それは、主催者を倒すまで主催陣営の者以外は誰も殺さないことだ」
「条件など出せる立場だと思っているのか?」
「契約その物を成り立させるのに必要な条件だからな。それは、主催者を倒すまで主催陣営の者以外は誰も殺さないことだ」
狭間の方から提出される条件。
それは確かに契約の成立に必要不可欠なのは明白だ。
シャドームーンが殺人を続ければ、協力して主催者の打倒どころではなくなる。
そしてシャドームーンを相手に契約を結ぶに辺り、それをはっきりと契約内容に織り込むことは、
絶対に必要な条件だと狭間は判断した。
それは確かに契約の成立に必要不可欠なのは明白だ。
シャドームーンが殺人を続ければ、協力して主催者の打倒どころではなくなる。
そしてシャドームーンを相手に契約を結ぶに辺り、それをはっきりと契約内容に織り込むことは、
絶対に必要な条件だと狭間は判断した。
「殺し合いも終わっていない内から、よく言えたものだな」
「無論、正当防衛の場合は例外だ。それを踏まえて契約内容の詳細を説明する」
「無論、正当防衛の場合は例外だ。それを踏まえて契約内容の詳細を説明する」
そこから狭間は、まるで予め契約の書面を用意してプレゼンテーションの練習を繰り返していたかのように、
契約内容の詳細を、簡潔かつ明瞭に、そして淀み無く説明していく。
狭間は契約内容を順を追って説明すると、それを箇条書きの要領で平明に提示した
内容は以下の通り。
契約内容の詳細を、簡潔かつ明瞭に、そして淀み無く説明していく。
狭間は契約内容を順を追って説明すると、それを箇条書きの要領で平明に提示した
内容は以下の通り。
- シャドームーンは主催者を倒すまで他の参加者を殺害しない。(但し正当防衛の場合は例外とする)
- 狭間はシャドームーンの首輪を解除する。
- シャドームーンは首輪を解除できれば他の参加者と協力して主催者と戦う。
- 主催者を倒した後はシャドームーンと他に生き残った全ての参加者で決着を付ける。
「……聞いての通り契約をすれば、順番から言ってまず貴様の首輪を外してやる」
「なるほどな……」
「なるほどな……」
契約の内容は明らかにシャドームーンに有利な物だ。
狭間が契約のメリットを得るのは、シャドームーンの首輪を外した後。
即ち、シャドームーンがメリットを得た後になるのだから。
我ながら気前の良いことだ。と、狭間自身も思う。
しかしそれは必要なことだ。
シャドームーンは自らの命より誇りを取る。
自分以外の者の後塵を拝するような事態は絶対にしないはずだ。
そして詭弁で誑かすような真似が通用する相手でも無いだろう。
シャドームーンを相手に交渉を成立させるには、自分から可能な限り誠意を示す必要があった。
狭間が契約のメリットを得るのは、シャドームーンの首輪を外した後。
即ち、シャドームーンがメリットを得た後になるのだから。
我ながら気前の良いことだ。と、狭間自身も思う。
しかしそれは必要なことだ。
シャドームーンは自らの命より誇りを取る。
自分以外の者の後塵を拝するような事態は絶対にしないはずだ。
そして詭弁で誑かすような真似が通用する相手でも無いだろう。
シャドームーンを相手に交渉を成立させるには、自分から可能な限り誠意を示す必要があった。
「貴様との契約……やはり話にならんな」
冷たく言い放つシャドームーン。
閃光のごとき真紅が奔る。
いつ間合いに入ってこれたのかも定かでないシャドームーンのサタンサーベルを、狭間が紙一重で回避できたのは、
相手の奇襲、急襲も想定していたため。
閃光のごとき真紅が奔る。
いつ間合いに入ってこれたのかも定かでないシャドームーンのサタンサーベルを、狭間が紙一重で回避できたのは、
相手の奇襲、急襲も想定していたため。
即座にジェレミアが無限刃を構え、北岡がカードデッキを取り出す。
こちらも危急の事態を想定していた反応の早さ。
それでも狭間は二人を手で制する。
こちらも危急の事態を想定していた反応の早さ。
それでも狭間は二人を手で制する。
「貴様にとってこれ以上なく良い条件だと思ったのだがな。何が不服か当ててやろうか?」
「世紀王を茶番に付き合わせた罪は重い。その累は、貴様の仲間にも及ぶと思え」
「世紀王を茶番に付き合わせた罪は重い。その累は、貴様の仲間にも及ぶと思え」
もう狭間の言葉に反応しないシャドームーン。
その佇まいは、座して下郎を圧する王のそれから、
力で敵を征圧する覇者の物へと変貌していた。
その佇まいは、座して下郎を圧する王のそれから、
力で敵を征圧する覇者の物へと変貌していた。
「貴様の懸念……それは、我々に命を預けることだ」
しかしシャドームーンはそこから仕掛けて来ない。
サタンサーベルを構えたまま動きを見せなかった。
そこに如何なる思惑があるのか、白銀の仮面からは何も読み取れない。
サタンサーベルを構えたまま動きを見せなかった。
そこに如何なる思惑があるのか、白銀の仮面からは何も読み取れない。
「貴様の立場に立てば、それも無理の無い話だな。
首輪を解除するためには、誰か他の者に首輪を預けなければならない。
しかし貴様は周りが全て敵なのだ。まあ自業自得だがな。
他の誰かに命を預けるような真似はできない」
首輪を解除するためには、誰か他の者に首輪を預けなければならない。
しかし貴様は周りが全て敵なのだ。まあ自業自得だがな。
他の誰かに命を預けるような真似はできない」
シャドームーンの沈黙。
狭間にとってそれは何より雄弁に、自説の肯定を物語っていた。
ただ、シャドームーンの孤立は自業自得とは言い切れない物だ。
狭間はシャドームーンのプロフィールを見て知っている。
シャドームーンは世紀王。人類の天敵。
しかしそれは本人の意思とは無関係。
後天的に脳まで改造されて、人類と相容れぬ存在に変えられただけだと狭間は知っていた。
例えシャドームーンのどんな事情を知っていても、最終的に生かしておけないことには変わらないが。
狭間にとってそれは何より雄弁に、自説の肯定を物語っていた。
ただ、シャドームーンの孤立は自業自得とは言い切れない物だ。
狭間はシャドームーンのプロフィールを見て知っている。
シャドームーンは世紀王。人類の天敵。
しかしそれは本人の意思とは無関係。
後天的に脳まで改造されて、人類と相容れぬ存在に変えられただけだと狭間は知っていた。
例えシャドームーンのどんな事情を知っていても、最終的に生かしておけないことには変わらないが。
「要するに貴様の安全が保障されれば良いんだろう?」
狭間は自らに言い聞かせる。
これは必要な手段であると。
これが最善手であると。
何の保証も無い賭けだが、成さなければならないと。
これは必要な手段であると。
これが最善手であると。
何の保証も無い賭けだが、成さなければならないと。
狭間にも魔人皇としての自負、シャドームーンを倒す自信は有った。
自身の絶大な魔力によって、文字通り力づくにシャドームーンを叩き潰すことは可能だろうと。
しかしそれは狭間が万全の状態であればの話だ。
現在の狭間はかなり魔力の消耗が激しい。
何より狭間がそれほどの強者であるからこそ、シャドームーンの並ならぬ力量もまたある程度は読み取れる。
その上ランダマイザが通用しなかったように魔法耐性まで存在する。
狭間とシャドームーンの天地を穿つがごとき力のぶつかり合い。
仮に勝利できるとしても、それに他の者を巻き込まない自信は無かった。
もしここで狭間とシャドームーンが戦えば、ヴァンとC.C.と真司は勿論、
狭間がここに連れ立ってきた仲間も守り切れる保証は無い。
シャドームーンを仲魔に引き入れるのは、戦力を確保する以上に、他の仲間の安全を確保する必要性に迫られての判断なのだ。
例えそれが一時的な物であっても。
可能な限り多くの者を生かして帰す。
それこそ狭間がレナと交わした約束。
自身の絶大な魔力によって、文字通り力づくにシャドームーンを叩き潰すことは可能だろうと。
しかしそれは狭間が万全の状態であればの話だ。
現在の狭間はかなり魔力の消耗が激しい。
何より狭間がそれほどの強者であるからこそ、シャドームーンの並ならぬ力量もまたある程度は読み取れる。
その上ランダマイザが通用しなかったように魔法耐性まで存在する。
狭間とシャドームーンの天地を穿つがごとき力のぶつかり合い。
仮に勝利できるとしても、それに他の者を巻き込まない自信は無かった。
もしここで狭間とシャドームーンが戦えば、ヴァンとC.C.と真司は勿論、
狭間がここに連れ立ってきた仲間も守り切れる保証は無い。
シャドームーンを仲魔に引き入れるのは、戦力を確保する以上に、他の仲間の安全を確保する必要性に迫られての判断なのだ。
例えそれが一時的な物であっても。
可能な限り多くの者を生かして帰す。
それこそ狭間がレナと交わした約束。
『うん……皆を元の世界に返してあげて欲しいんだ……狭間さんならきっと出来るよ』
『その願い、この魔人皇――――狭間偉出夫が引き受けた
必ず他の者達と共にここを脱出し、元の世界に帰ってみせる、約束しよう』
『その願い、この魔人皇――――狭間偉出夫が引き受けた
必ず他の者達と共にここを脱出し、元の世界に帰ってみせる、約束しよう』
(シャドームーンと雪代縁は除外するか、確認しておくべきだったかな……)
何れにしろもう賽は投げられた。
狭間に今更賭けを降りるつもりは無い。
それがどれほど分の悪い賭けでもだ。
狭間に今更賭けを降りるつもりは無い。
それがどれほど分の悪い賭けでもだ。
「この魔人皇――――狭間偉出夫が貴様の保障になろう」
「……何だそれは?」
「貴様が首輪を外すまで私が守ってやる。あらゆる脅威から、この命を掛けてだ。何者であろうと貴様の命を脅かすことを許さない。
そして貴様の首輪は私が責任を持って外してやる」
「……何だそれは?」
「貴様が首輪を外すまで私が守ってやる。あらゆる脅威から、この命を掛けてだ。何者であろうと貴様の命を脅かすことを許さない。
そして貴様の首輪は私が責任を持って外してやる」
C.C.と真司は地に倒れ付しながら、狭間とシャドームーンの交渉をどこか現実感の無い心持で聞いていた。
守ると言っているのだ。
数多の命を奪った悪逆の魔王、シャドームーンを。
シャドームーンを護衛すると言うのは、二人にとって余りに突拍子も無い提案だった。
守ると言っているのだ。
数多の命を奪った悪逆の魔王、シャドームーンを。
シャドームーンを護衛すると言うのは、二人にとって余りに突拍子も無い提案だった。
シャドームーンのこれまでの動向を、ホームページの上でしか知らない北岡とつかさとジェレミアにはそれほどの違和感は無い。
それでもシャドームーンを護衛することのリスクは、充分に承知していた。
場の緊張感が増していく。
誰よりも緊張感に駆られているのは、護衛を言い出した狭間自身。
しかし緊張感などおくびにも出さず、狭間は力強く言葉を続ける。
それでもシャドームーンを護衛することのリスクは、充分に承知していた。
場の緊張感が増していく。
誰よりも緊張感に駆られているのは、護衛を言い出した狭間自身。
しかし緊張感などおくびにも出さず、狭間は力強く言葉を続ける。
「そしてもし貴様が誰かに殺されたならば、私が必ず命で以って償わせる。
主催陣営の者であろうと、他の参加者であろうと、如何なる者であっても魔人皇の全霊を以って殺す。
これは貴様が首輪を外すまで、ではない。主催者を倒すまでの話だ」
主催陣営の者であろうと、他の参加者であろうと、如何なる者であっても魔人皇の全霊を以って殺す。
これは貴様が首輪を外すまで、ではない。主催者を倒すまでの話だ」
狭間の賭け。
あるいは賭けと言うのにも、余りに無謀な提案。
それは全ての参加者の敵であり、人類の敵であるシャドームーンの命を背負うと言う物。
もし参加者の誰かが、シャドームーンに危害を加えようとするならば、
その者は狭間にとっても敵となる。
あるいはシャドームーン以外の全ての者を敵となる可能性もある。
その危険性を充分に理解しながら、狭間に躊躇は無い。
悪魔と契約をするには、共に地獄に落ちる覚悟も時に必要となる。
シャドームーンと心中して共に地獄に堕ちる覚悟とは、即ちそう言う覚悟だ
その狭間の覚悟を――――
あるいは賭けと言うのにも、余りに無謀な提案。
それは全ての参加者の敵であり、人類の敵であるシャドームーンの命を背負うと言う物。
もし参加者の誰かが、シャドームーンに危害を加えようとするならば、
その者は狭間にとっても敵となる。
あるいはシャドームーン以外の全ての者を敵となる可能性もある。
その危険性を充分に理解しながら、狭間に躊躇は無い。
悪魔と契約をするには、共に地獄に落ちる覚悟も時に必要となる。
シャドームーンと心中して共に地獄に堕ちる覚悟とは、即ちそう言う覚悟だ
その狭間の覚悟を――――
「ククク、この世紀王に契約を持ち掛けるのだからどれほど器量かと思えば。ただの愚か者か」
――――シャドームーンは一笑に付した。
「貴様が保障だと? 貴様の口約束など何の意味がある? 守ると言われて、私が素直に信用するとでも思っていたのか?」
シャドームーンの言葉は狭間への反論ではなく、嘲笑うための物。
狭間の提案は、シャドームーンにとってそれほど無意味な物だった。
そもそも狭間の口約束を当てにできるようなら、始めから首輪を誰かに預けることが問題にならない。
他の全てを敵にしているとは、即ちそう言うことなのだ。
何者も信用に値しない以上、契約など成立するはずも無い。
狭間の提案は、シャドームーンにとってそれほど無意味な物だった。
そもそも狭間の口約束を当てにできるようなら、始めから首輪を誰かに預けることが問題にならない。
他の全てを敵にしているとは、即ちそう言うことなのだ。
何者も信用に値しない以上、契約など成立するはずも無い。
「ま、結局はそうなるよねぇ……」
北岡は溜め息混じりにカードデッキを取り出した。
北岡とジェレミアと真司は諦観を、C.C.はどこか安堵を含んだ空気で、
狭間とシャドームーンの決裂を眺めていた。
今まで狭間の言動を黙って見守っていたが、シャドームーンと信頼関係が築けない以上は、
決裂は免れないことは充分に予想できた。
それはジェレミアもC.C.も同じ。
およそ契約などを結ぶためには、如何なる形であれ少なくとも相手が契約を履行すると思えるほど、
双方の間に最低限の信頼関係が存在しなければならない。
シャドームーンを相手にそんな関係が成立することこそ不可能事。
北岡とジェレミアと真司は諦観を、C.C.はどこか安堵を含んだ空気で、
狭間とシャドームーンの決裂を眺めていた。
今まで狭間の言動を黙って見守っていたが、シャドームーンと信頼関係が築けない以上は、
決裂は免れないことは充分に予想できた。
それはジェレミアもC.C.も同じ。
およそ契約などを結ぶためには、如何なる形であれ少なくとも相手が契約を履行すると思えるほど、
双方の間に最低限の信頼関係が存在しなければならない。
シャドームーンを相手にそんな関係が成立することこそ不可能事。
「ああ、信用できるな。私が貴様との契約を信用するようにだ。そうでなければ、ここまで話を聞く貴様ではあるまい」
誰もが決裂したと考える交渉を、尚も狭間は続けようとする。
狭間にとってはここからが正念場なのだ。
分の悪い賭けであることは最初から百も承知。
命をチップにそれへ乗っている以上、生半可な覚悟ではないのだ。
狭間にとってはここからが正念場なのだ。
分の悪い賭けであることは最初から百も承知。
命をチップにそれへ乗っている以上、生半可な覚悟ではないのだ。
「何故なら、これは魔人皇と世紀王の名の下に結ばれる契約だからだ。世紀王の名の下に結ばれる契約なら、貴様も決して反故にはしまい?」
北岡も、ジェレミアも、つかさも、真司も、C.C.も、
狭間が何を言っているのか理解できない。
これまでも何度も意表を衝かれたが、今度は意味そのものが理解できないのだ。
狭間の言葉通りの意味だとすれば、これほど馬鹿馬鹿しい主張は無い。
シャドームーンが魔人皇であろうと何であろうと、自分以外の物の名に価値など認めないはずだ
狭間もそんなことは判っているはずなのだ。
しかし狭間は場に漂う如何なる気配も寄せ付けず、シャドームーンとの交渉を続けている。
そして当のシャドームーンは――――
狭間が何を言っているのか理解できない。
これまでも何度も意表を衝かれたが、今度は意味そのものが理解できないのだ。
狭間の言葉通りの意味だとすれば、これほど馬鹿馬鹿しい主張は無い。
シャドームーンが魔人皇であろうと何であろうと、自分以外の物の名に価値など認めないはずだ
狭間もそんなことは判っているはずなのだ。
しかし狭間は場に漂う如何なる気配も寄せ付けず、シャドームーンとの交渉を続けている。
そして当のシャドームーンは――――
「…………フフフ。それほどまで……世紀王を愚弄するつもりか!!!!」
――――かつてないほどの怒りを現した。
空気が恐れ戦き震撼する。
遠巻きに眺めていた北岡たちも総毛立つ。
あれほど冷徹さを貫いていたシャドームーンの中に在った、想像を絶する熱気。
空気が恐れ戦き震撼する。
遠巻きに眺めていた北岡たちも総毛立つ。
あれほど冷徹さを貫いていたシャドームーンの中に在った、想像を絶する熱気。
「世紀王の名を、他の何かと対等に並べることが許されるとでも思ったのか!!!?
ゴルゴムの王こそ、宇宙に存在する唯一絶対の真の王!!! 人間が勝手に名乗った王と同じだと……」
「同じだ!!!! 貴様も私も主催の手中に繋がれた王に過ぎん!!!」
ゴルゴムの王こそ、宇宙に存在する唯一絶対の真の王!!! 人間が勝手に名乗った王と同じだと……」
「同じだ!!!! 貴様も私も主催の手中に繋がれた王に過ぎん!!!」
かつてない威を放つシャドームーン。
しかし狭間もまた引けを取らぬ気迫で以って対抗する。
北岡とつかさはおろか、ジェレミアまで呆然と瞠目する。
誰もが、これほど大きく声を上げる狭間は始めて見た。
どこまで狙いなのかは不明だが、狭間もまた常軌を逸した態度で交渉に臨んでいた。
しかし狭間もまた引けを取らぬ気迫で以って対抗する。
北岡とつかさはおろか、ジェレミアまで呆然と瞠目する。
誰もが、これほど大きく声を上げる狭間は始めて見た。
どこまで狙いなのかは不明だが、狭間もまた常軌を逸した態度で交渉に臨んでいた。
「ゴルゴムの王など私は認めない!! しかし貴様の怒りが本物であることは判る!!! それは貴様の矜持が本物だからだ!!
貴様の矜持を私は全面的に信用する!! その証として、貴様に首輪の解除方法を提示したのだ!!!」
貴様の矜持を私は全面的に信用する!! その証として、貴様に首輪の解除方法を提示したのだ!!!」
魔神皇として君臨してきた間の習慣で、狭間は高慢な態度が身に付いていた。
常に相手を見下し、自らの余裕を演出する。
それは身に付いた習慣なので、魔人皇となった今も容易に態度は改まらないはずだった。
しかし今はそれすら振り払って、声を上げていた。
常に相手を見下し、自らの余裕を演出する。
それは身に付いた習慣なので、魔人皇となった今も容易に態度は改まらないはずだった。
しかし今はそれすら振り払って、声を上げていた。
「私が何故それほど、貴様の王の矜持を理解できると思う!!? 私も人の上に君臨することを止め、魔神皇であることを捨てても尚、
唯一人で魔界の支配者にまで登り詰めた、王としての矜持を捨てきることはできなかった。だからこその『魔人皇』だ!!」
唯一人で魔界の支配者にまで登り詰めた、王としての矜持を捨てきることはできなかった。だからこその『魔人皇』だ!!」
狭間にはここまでの話でシャドームーンの気を引いている自信はあった。
そしてそれを過信はしていない。
かつてない熱意を込めて、あくまで怜悧に論理を積み上げて行く。
そしてそれを過信はしていない。
かつてない熱意を込めて、あくまで怜悧に論理を積み上げて行く。
「貴様が殺し合いに乗るのは、命が惜しいからでは無いはずだ!!! 一度敵対した者から、どんな形でも背を向けることは貴様自身の誇りが許さないからだ!!」
シャドームーンは沈黙したまま、狭間の言葉を聞いている。
その仮面からは、如何なる内面も読み取れない。
狭間にとってすらそうだ。
どれほど最大細心の注意を払っても尚、シャドームーンは読み切れない。
一瞬先の命の保障すらない賭けは未だ続いていた。
その仮面からは、如何なる内面も読み取れない。
狭間にとってすらそうだ。
どれほど最大細心の注意を払っても尚、シャドームーンは読み切れない。
一瞬先の命の保障すらない賭けは未だ続いていた。
「貴様の怒りは、今この場で我々を殺したところで報われない! 殺し合いの中で首輪を嵌めたまま誰を殺した所で、そんな物は王の所業では無いからだ!
貴様の怒りが報われるためには、殺し合いを貴様の手で破壊してから我々を殺してみろ!!」
「――――ふざけやがるのも、いい加減にしろです!!!!」
貴様の怒りが報われるためには、殺し合いを貴様の手で破壊してから我々を殺してみろ!!」
「――――ふざけやがるのも、いい加減にしろです!!!!」
全く予想外の言葉に、狭間は二の句も告げず強張る。
北岡も、ジェレミアも、つかさも、真司も、C.C.も同様だった。
皆意表を衝かれ、固まっている。
シャドームーンですら虚を衝かれ、不動の仮面を傾ける。
視線の先には緑色の衣装を着た人形・翠星石が息を荒げていた。
北岡も、ジェレミアも、つかさも、真司も、C.C.も同様だった。
皆意表を衝かれ、固まっている。
シャドームーンですら虚を衝かれ、不動の仮面を傾ける。
視線の先には緑色の衣装を着た人形・翠星石が息を荒げていた。
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C.C. | ||
城戸真司 | ||
翠星石 | ||
上田次郎 | ||
シャドームーン | ||
狭間偉出雄 | ||
159:ひぐらしのなく頃に | 北岡秀一 | |
柊つかさ | ||
ジェレミア・ゴットバルト |