贔屓しているキャラ同士をいちゃいちゃさせるべく筆を進めているわけであるが、当然いくら書いても止まらないわけである。だが、書いた分だけキャラが立つわけで、これはもう贔屓しているからこそできる所業という事になる。それにしても、ユリア・グラミネアの┣¨受け体質は留まる事を知らない。本当になんでこんなキャラに育ってしまったのか。だが、それがいい。
ユリア・グラミネア騎士長と工部見習いのサレシナ・アルメニシアの二人は、広くゆったりと流れるテルベ河を舳先の尖った早舟で下っていた。乗客は二人だけで、まるでサレシナがグラミネア騎士長お付の用人のように振舞っていた。
「君は工部見習いだろう? 君の事はイサラ親方から預かっているだけで、別に私の従兵というわけではない。そんな風に世話をしなくても構わないぞ」
「ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑ではないが」
そしてサレシナは、何故かかいがいしくグラミネア騎士長の世話をやくのである。これが同じ兵隊ならば平然としていられるのであるが、彼女はイサラから頼まれている工部見習いの子である。それを従兵の如く扱ったと知られれば、なんとも面目ないことになるであろう。だがサレシナは、自分がやりたくてやっていることですから、と、頑として世話を焼くのをやめようとはしなかった。
そんなこんなで二人がモリアに到着する頃には、サレシナはすっかりグラミネア騎士長の付き人も同然に振舞うようになっていた。
自分の旅行鞄までサレシナに運ばれるようになってしまったグラミネア騎士長は、なんともやるせない気持ちになりつつ、モリアの地下都市へと足を踏み入れることになった。そこは、巌族の王国と比べても遜色の無い広大な空間で構成されていて、しかも想像以上に多くの人間が行き来している街であった。
「これが、魔導師の街「モリア」なんですね」
平素あまりしゃべらないサレシナが、びっくりした表情で地下に広がる伽藍をきょろきょろと見回している。
「古代魔導帝国時代より残っている遺跡だと聞いていたが、これだけの物を作り維持する事ができるのだな。魔導の力というものは」
「……魔導師とは、本当にすごい存在なのですね」
「さすがに一人二人がなした物ではないにせよ、人の叡智とはこれだけの事ができるのだな」
そんな二人を、案内役の黄色い詰襟の制服を着た女性が、なんとはなしに生暖かい目で見つめつつ先を促した。これから二人は、その本来の任務のために魔導八相に覚醒した導師の元を訪れるのである。相手も忙しい身である以上、いつまでもこうやって時間をつぶしているわけにはゆかない。
二人は与えられた客室に荷物を置くと、取り急ぎ相手の元へ挨拶に向かった。
二人を待っていたのは、真紅の癖の強い髪を頭の後ろでまとめ、銀縁の丸眼鏡の下で知性に満ちた青紫色の瞳が輝いている、美貌の女性型の古人であった。彼女は医者らしく紺色の詰襟の制服の上からま白い前掛けを垂らしていて、室内は薬品の臭いに満ちていた。
「初めまして、グラミネアさん、アルメニシアさん。私がお二人を担当することになりましたアヴェナエと言います。短い間ですがよろしくお願いしますね」
「ユリア・グラミネア騎士長です。これより世話になります。よろしく願います」
「サレシナ・アルメニシアです。よろしくお願いいたします」
「そんなに固くならなくて大丈夫ですよ。さて、グラミネアさんは魔導的施術、アルメニシアさんは心療治療ですね。どちらも急ぎとの事ですので、平行して進めてゆきたいと思います。基本的に午前中はアルメニシアさんの施療、午後はグラミネアさんの施術に充てます。よろしいですね?」
アヴェナエ導師は、二人から手渡された封緘書の中身を平行して査読しつつ、そのようにスケジュールを割り振った。どうやら二人のために彼女が専任で施術を行うようである。その事実に自分が置かれている立場がいかに重大なものかをあらためて実感し、グラミネア騎士長は背筋を伸ばして了解した旨返事をした。
「今日は長旅で疲れているでしょうから、二人とも部屋に戻って休んでくださっていいですよ。まずは体調を整えることを最優先事項としてください」
「了解しました」
「はい」
「そうそう、ちょっとグラミネアさんとはお話する事がありますので、アルメニシアさんは先に部屋の方へ戻っていて下さい」
「……はい」
無表情のまま、丸眼鏡の下の朱色の瞳をしばたたかせたサレシナは、案内の女性に連れられて退出していった。
そして、アルメニシアの気配が完全に消えてから、アヴェナエ導師はあらためてグラミネア騎士長に向かい直った。
「カメリア覚師、……いえ、貴女にはシルディール元帥と言った方が判りやすいわね、あの方から貴女の双性化を行うようにと指示を受けています。あらためて確認しますが、これは貴女の意思ですね?」
「はい。自分の意思で志願いたしました」
「判りました。貴女も魔導の相に覚醒しているようですし、施術が失敗する可能性は非常に低いとだけ伝えておきます。大体において、魔導覚醒する人は双性者としての因子をその血に受け継いでいる者が大半ですから、その因子を発動させ易いんです。そして、発動した双性者としての因子を肉体に定着させる事が、施術の大半を占めると思ってください。何か質問はありますか?」
淡々と双性化処置について説明するアヴェナエ導師に気圧されるものを感じつつ、グラミネア騎士長は少しだけ考えるそぶりを見せた。
「……双性化処置を行った結果、どのような副作用があるのでしょうか?」
「副作用、ですか? これまで措置を行った人達に、特に異常は見受けられませんでしたが…… そうですね、あえて気になった点としては、肉体的欲求が強まることですね」
「つまり、食欲、性欲、睡眠欲が強くなると?」
「はい。まあ、実生活に不便をきたすようなほどではないですから、そういう事もある、と、心に留めておいてください」
「了解いたしました」
肉体的、精神的に並人の倍以上の実力を発揮するのが古人というものである。肉体的欲求がそれだけ強くなったとしても驚くには値しない。実際、古人であるミオ・キュエリエも、ミーア・ディートリンデ・ヴィルケも、諸々の欲求は並人よりもはるかに大きかった。だが、二人ともその欲求を制御できるだけの精神力を有している。グラミネア騎士長は、自分の肉体的欲求が強まったとしても、それを制御できる精神力を滋養すればよいだけの事、と割り切る事にした。今はそれよりも「六号」開発を成功させる事が肝要なのである。
「それでは、今日は簡単な検査だけしますね。では、そこの寝台に服を脱いで横になって下さい」
「はい」
手際よく軍服を脱いで下着姿になったグラミネア騎士長は、一日も早く「六号」開発現場に戻ることだけを考えていた。
サレシナは、当分の間生活する事になる客室で、荷物を広げて整理ししまいこんでいた。
少女から見てユリア・グラミネア騎士長は、まるで御伽噺に出てくるような凛々しくも美しい女騎士であった。孤児院で男性の監督達に散々性的な目で見られ、身体をまさぐられた経験を持つ彼女は、どうしても男性というものが苦手であった。幸いにして処女を失う羽目になる事だけは避けられたが、それは軍から派遣されてくる憲兵の監査が厳しかったからというだけの事である。その監査も子供らのためのものではなく、あくまで孤児達が軍にとっての利用価値を有しているかどうか確認するためのものであって、監督達の横暴から子供らを護るためのものではなかった。
そんな環境で育ったサレシナにとっては、軍人とは横暴か冷酷な存在であって、物語に出てくるような騎士のごとき高潔にして潔癖な存在がいるとは、夢にも思わなかったのである。
ところが、ユリア・グラミネア騎士長や、第21旅団の軍人達は、まるで別の世界の人間のように自分に対しても丁寧な物腰の人達ばかりであった。これが帝國軍人の最高峰とされる近衛騎士かと感動したサレシナは、どうせ軍のために働かなくてはならないのならば、是非とも近衛騎士団で働きたいと内心切望していたのであった。理不尽に殴られたり身体をいじられたりしない今の環境は、まるで嘘のように生きてゆきやすかったのである。
「ただいま」
「お帰りなさい」
荷物を整理し終わったところで、ようやくグラミネア騎士長が戻ってくる。若干疲れた様子の彼女を見て、サレシナはお茶か白湯の用意をしようとして、その道具がここにはない事に初めて気がついた。
「すいません」
「ん? どうした、何かあったのか?」
「いえ、お疲れのところ、お茶も出せずに」
「ああ、気にするな。こういう閉鎖されたところで火事が起きたら大騒ぎだからな。火を使える場所はあらかじめ決めてあるものだ」
「そうなのですか?」
「そう案内の女性に説明された。聞かなかったか?」
「はい」
サレシナは、案内の女性に日常のこまごました事を質問しておくことをすっかり失念していた自分に、深い自己嫌悪を感じていた。こういう時に自分の気の効かなさが嫌になる。
だが、グラミネア騎士長はそんな少女の内心に気がついたのか気がつかないのか、軍服を脱いでモリア側が用意した黒い詰襟の服に着替えると、軍服にブラシをかけ始めた。
最初はそれもサレシナがやろうとしたのだが、自分の被服装備の手入れは軍人としての最低限のたしなみである、と断られてしまっていた。
「長旅で疲れただろう? 今日は食事をとったら早めに休むとしよう」
「はい」
そんなこんなで手持ちぶたさになってしまったサレシナは、じっとグラミネア騎士長の事を見つめていた。細いばかりで胸だけ大きい自分と違って、全身を鍛え上げている彼女は、大人の女性らしい美しい曲線を描いた肉体を有している。上背も高く、凛々しい美貌の彼女を見ていると、いやでも胸が高鳴る自分がいる。
軍服の手入れを終えたグラミネア騎士長が立ち上がり食堂に向かうのを、後ろからついてゆきながら、サレシナはかつてない幸せな気持ちを感じていた。
ユリア・グラミネアへの施術は、本人が気負っていたのが肩透かしな感じを受けるほどに淡々と進んでいった。自分の股間に違和感を感じるようになり、それにあわせて肉茎が生え、そして用を足す器官としてだけではなく、生殖器としても機能し始める。これまで女性を見ただけで性欲を覚えることなどなかったのが、ふとしたはずみで相手の仕草や体臭や体温に股間がうずくのを覚え、これが最初に言われた性欲が強くなることかと内心納得したりもした。
それと同時に非常に困ったことに、同室のサレシナを見る目も変わってきている自分がいることを自覚してもいた。
少女は、基本的に寡黙で感情表現に乏しく、非常に頑固なところがあったが、生まれながらの古人らしく美少女で、ユリアの前では無防備で、そして細い肢体に豊かな胸というアンバランスさがそこはかとないエロスをかもし出していた。
「どうかしましたか?」
そして、時々自分に近づいてきて、その眼鏡の下の朱色の瞳でじっと見つめてくる。
「いや、なんでもない」
まさか、工部らしく短くしている髪の下のうなじに見とれていたとは、口が裂けても言えるわけがない。何しろ自分は、少女よりも一回り以上年上で、そして近衛騎士卿として相応しきに振舞わねばならない立場にいる。
「それで、サレシナは修行の方はどうなっているのだ?」
「はい」
とりあえず意識をそらそうと話を変えてみたところ、少女は少し考え込むようなそぶりをみせた。
「……アヴェナエ導師が仰るには、私への施術が効かないのは、無自覚的に「無」相に覚醒していて、かけられる術式を解体してしまっているせい、との事でした。ですから、魔導の相に覚醒するためには、私が自分が覚醒している事を自覚する必要がある、と」
「そうか。気がつかないうちにそうなってしまっていたとは、きっと苦労をしてきたのだろうな」
「……はい」
そのユリアの言葉にサレシナは、消沈した気配を漂わせつつうつむいてしまった。その彼女の豹変振りに、ユリアは驚倒し、慌てて謝罪の言葉を口にした。
「すまない。気が利かない事を言った」
「いえ、ユリア様が悪いのではありませんから」
「その様子では、ただごとではない事が過去あったくらいは、私にも判る。本当にすまなかった、許してくれ」
「いえ、本当に大丈夫です。お気になさらないで下さい」
そう言って無理して笑ってみせるサレシナに、ユリアは、内心頭を抱える思いであった。
「サレシナさんの過去については、お話するわけにはゆかないの。ごめんなさいね」
「そうですか」
双性化した肉体を安定化させる施術を受けたあと、ユリアは、アヴェナエ導師にサレシナの事を尋ねて断られてしまっていた。少女よりもはるかに大人で、しかも恩人のイサラから面倒を見るよう頼まれているのにも関わらず、肝心の少女の事を全く知らない自分に気がつき、そのうかつさに穴があったら埋まりたい気分なのである。そんな彼女の様子を見て取ったアヴェナエ導師は、困ったように笑って話を続けた。
「サレシナさんから話すまで待つのが最優先事項よ。彼女が心に負った傷はそれだけ深いということ。それだけは覚えておいて下さいね」
「了解しました。……しかし、先天的に魔導に覚醒しているとは、非常に珍しい事例なのではありませんか?」
「ええ。正直、手元に置いて精査したいくらいね。でも、彼女はイサラ師の弟子だから。他の導師の弟子に手を出すのは、魔導師の間では相手に対する宣戦布告と同じようなものだから、そういう訳にもゆかなくて。もう、本当に残念だわ」
治療の範囲内で調べられるだけ調べていると口にするアヴェナエ導師は、それこそサレシナの事をばらばらにして標本にしかねない危うさを感じさせた。さすがにちょっと怖くなったユリアは、話題を少女から変える事にした。
「それで、先生にご相談が」
「施術による副作用かしら?」
「はい」
魔導八相に覚醒した導師は、易々と相手の心の中さえ読むと噂されているが、アヴェナエ導師の理解の早さは、まさしく心を読んでいるといっても通じるほどの洞察力であった。
「性欲の発散ならば、もう少し待ってくれるかしら。今、貴女の中の男性性と女性性を調和させているところなの。これがかなり微妙な場面だから、出来れば自慰も我慢して欲しいわ。これは最優先事項よ」
「了解しました」
「そろそろ良い案配だから、そうしたら私が貴女のお相手をするわ。処女ではない様子だし、女性相手にも興奮するのでしょう? なら大丈夫よね」
「……そういう事をあからさまに言われますと、若干萎えるものがあるのですが」
「ふふ、そういう生真面目なところは可愛いわね。大丈夫、これで私も経験だけは豊富だから」
くすりといたずらっぽく笑って片目をつむったアヴェナエ導師は、一瞬だけ妖艶な微笑みを浮かべてそう言った。この年齢不詳の美女の肢体に思わず目が移ってしまったユリアは、知らずのうちにつばを飲み込んでいた。
「それはともかくとして、肉体と精神が安定化したら、貴女も魔導の「相」を強制的に覚醒させる施術を行うわ。もっとも、既に覚醒している相の対相を覚醒させるようなものだし、双性化した事で大体一つか二つの相が覚醒するものだから、そんな大掛かりで危険な施術ではないのだけれど」
「そうですか。自分は「闇」相に覚醒しておりますので、次は「光」相に覚醒する可能性が高いわけですか」
「あと、まだ自覚は無いようだけれど「空」相にも覚醒しかかっているわね。これは肉体と精神が安定したら、きちんと認識できるように修行して貰うから」
ユリアは、アヴェナエ導師の言葉に一瞬きょとんとなり、そして思わず歓喜に打ち震えて拳を握り締めた。きちんと導師につかず修行しても、そうそう魔導の相に覚醒する事は難しい。それが双性化の施術を受けただけで相に覚醒するとは、なんたる幸運か。魔導騎士として、これを喜ばずに何を喜ぶのか、というところである。しかも、強制的に対相に覚醒させるということは、「空」「虚」「光」「闇」の四相に覚醒する事になる。これがどれほど大きな意味を持つか、判らぬ彼女ではない。
「本当にありがとうございます。まさか四つもの相に覚醒するとは、予想だにしておりませんでした」
「まあ、普通はそうそう簡単に覚醒できるものではないもの。正直、貴女には才能があると思うわ。イサラ師は機神工部のはずだけれど、人の才能を見る目も持っているようね。それは個人的にはうらやましいくらいだわ」
少なからず悔しそうにそう呟いたアヴェナエ導師に、少し怖いものを感じたユリアは、賢明にもそれ以上口を開かずにいる事にした。
「はい、今日の施療は終わり。それではこの薬を飲んでね」
「はい、導師」
全身にべったりを脂汗をかいたサレシナは、なんとか意思の力で身体を起こすと、アヴェナエ導師から渡された液体を嚥下した。その薬はわざとくそ不味くなるように調合されており、つい今しがた見ていた光景の衝撃を薄める効果があった。
「かなり参っているようだけれども、随分と良くはなってきているのよ。自覚はある?」
「……いえ、ありません」
「そう。でも、最初の頃は泣き叫んで暴れて抵抗していたのが、今ではこうして受け答えできるようになったわ。それだけでも随分と治療は進んでいるの。もうしばらく我慢してね。これは最優先事項よ」
「……はい」
正直なところを言うならば、今すぐにでもやめて欲しいくらいであったが、それを口にするわけにはゆかなかった。ここで治療をやめてしまえば、自分は居場所を失ってしまう。それを思えば、見たくも思い出したくもない過去の情景を追憶させられるくらい、我慢してみせる。
「あと、これは本当は教えてはいけないのだけれど、未来への希望のためにこっそり教えてあげるわ」
「……なんでしょうか?」
汗でべったりとなった肌に張りつく布地を引き剥がすようにして服を脱ぎ、手ぬぐいで身体をぬぐいながら、サレシナはアヴェナエ導師の言葉に耳を傾けた。
「グラミネアさんの事、貴女はどう思っているのかしら?」
「……憧れています」
「そう。もし彼女が貴女の事を性的な対象として見るようになったら、どうする?」
「……私を、ですか? ……判りません」
「そう。じゃあ、もっと具体的に聞くわね。彼女が貴女と素肌を合わせたいとか、貴女の肢体を愛撫したいと思っているのが判ったら、貴女はどうする? 気がつかない振りをする? それとも彼女に自分の身体を任せる?」
「それは……」
答えられるわけがない。サレシナがユリアに憧れの感情を抱いているのは事実である。だが、だからといってそれがすぐに性的なものに結びつくかといえば、当然そういう事はない。
「まずは具体的に想像してみて。グラミネアさんの手の平が、唇が、貴女の素肌に触れるのを」
「……そんな、無理です」
とは口にしつつも、サレシナは、頬を染めてうつむいてしまった。
ぞわりと背筋を何かが走る感触があり、そして股間がむずむずとうずく。その妄想は、初めてユリアに出会って以来、サレシナがずっと封印してきた禁断の情景であった。少女とて古人である。決して性欲がないわけではない。ただこれまでは、孤児院で受けた仕打ちのせいがあって、性的なものに対して嫌悪感を感じるばかりであったのだ。
「でも、嫌そうには見えないわね?」
「……………」
くすくすと笑いながらも、アヴェナエ導師の言葉は追及の手を止めない。サレシナは、必死になってその淫らがましい妄想を振り払おうとしつつ、そのあまりに蠱惑的な情景に魅せられてしまっていた。かの凛とした麗人の腕で抱かれたならば、自分はどうなってしまうのだろうか。
そんなサレシナの身悶える姿を微笑ましく見つめていたアヴェナエ導師は、頃合良しとしてそっと囁くようにして話を続けた。
「グラミネアさんは、今、女性から双性者へと変貌しつつあるの。それが彼女がこのモリアに派遣された理由よ。だから……」
「だから?」
「双性者の肉体的欲求の強さは、古人である貴女ならば判るわね? そして、最近の貴女は徐々に身体が大人になりつつあるわ。つまり、そういう事。あとは貴女が決心するだけよ。なにしろグラミネアさんは、とても自己抑制が強い人だから。でも、私が許可するまでは、彼女を求めては駄目よ? 今が施術の一番微妙な時期なの。これは最優先事項よ」
「……………」
「今の話は、軍機事項に該当するわ。だからこれは、私と、貴女だけの秘密。いいわね?」
「……はい」
サレシナは、つい先ほどまでの辛く苦しい治療の事などすっかりどうでもよくなってしまっていた。
ひとたび解き放たれた妄想は留まる事を知らない。幸いにして性的知識には乏しい彼女である。知っているのは精々が具体的な男女の営み程度で、古人同士が交わるという事がどういうものかまでは判らない。そうでなければ、彼女が自分の欲望をがまんするのは非常に困難であったろう。
「今日はこれで終わり。帰っていいわ」
「……はい、ありがとうございました」
ユリアの筆卸は、本人が身構えていたのが嘘のようにあっけなく終わった。正しくは、アヴェナエ導師の手馴れたリードに、何が何やら気がつく前に精も根も尽き果てたというべきであったが。全身を使ってユリアから精液を搾り取り、全身を使ってユリアを精液まみれにした彼女は、大層ご満悦な様子であった。
事後の会話でアヴェナエ導師が昔ヴィーキアの古人娼館に入り浸っていた事を聞かされた時には、さすがのユリアも、この知的な美女が古人娼に耽溺していた事にびっくりしてしまった。
それからしばらくこの美人女医と臥所を共にしてヴィーキア娼館仕込みの性技を学んだユリアは、続いて魔導について基礎から学び直す事になった。そしてそれはサレシナも一緒にであり、少女がユリアと一緒に魔導について学べると知った時の喜ぶ姿は、大層愛らしかった。
「しかし、いつの間にセラシアは魔導覚醒していたのだ?」
アヴェナエ導師を教師に、徹底した詰め込みで魔導について基礎から勉強する事になった二人が私室へと戻ってきたある日、復習がひと段落ついた時点でユリアはサレシナにそう質問していた。それは多分自分がアヴェナエ導師の肢体に溺れていた時期ではないか、と目論見はついてはいたが、是非とも少女自身に口から聞いてみたかったのだ。
「ユリア様と一緒に勉強できるようになる、少し前くらいです」
「そうか。だが、良かった。この歳になって一から学問をし直すというのは辛いからな。一緒に机を並べる学友がいるというのは、大変励みになる」
「……本当ですか?」
「ああ。軍で教える魔導は、気合と根性で覚醒させるようなもので、こうして基礎から学ばさせる事はなかったからな。正直、これは非常にありがたい。自分の会得してきた魔術が、魔導という学問体系の中でどのような意味を持ち、どのように位置づけられるか知るというのは、勉強をする励みになる。そしてそれを互いに認め合える相手がいるというのは、とても嬉しいことだ。これまでは軍機軍機で、魔導について語る事はほとんどできなかったからな」
いつになく饒舌になっているユリアに、サレシナは復習の手を止めて話に聞き入っていた。その事に気がついたユリアは、大の大人が何を熱く語っているのかと気恥ずかしくなり、その背中にかかる癖のあるこげ茶色の髪を右手ですいて払った。
「私が、ユリア様のお役に立てているのですか」
「ああ」
「……良かったです。何も知らない私と一緒のせいで、勉強が進まれていないのかと思っていました」
「それはないぞ。それに、君が思っている程、私は完璧な人間じゃない」
「そんなことありません!」
思わず大声をあげたサレシナの事を、ユリアはきょとんとして見つめ返した。この少女が声を張り上げるところを見るのは、この数ヶ月で初めてのことであったのだ。そして少女は、自分が大声をあげてしまった事が恥ずかしくなったのか、真っ赤になってうつむいてしまった。
「ユリア様は、高潔で、美しくて、お強い方です。まさに帝国軍人の鑑のような方で、私は……」
それ以上はサレシナの口の中でもごもごと語られるにとどまったが、それでもユリアには少女が自分をどう見ているのかがはっきりと理解できた。そして、少女がいかに自分の事を理想化しているのか知って、気恥ずかしさのあまり頭を抱えたくなった。
「……それは、君が軍人というものを知らないからだと思う。私よりも高潔で、強く、美しい軍人はいくらでもいる。私は、まだまだ未熟な若造なんだよ」
「そんな、そんなことはないです! 私が知っている軍人というのは、嫌らしくて、口先ばかりで、冷酷な人ばかりでした。ユリア様みたいな立派な方は、初めてお会いしたんです!」
「君がどこでどういう軍人と会ったのか、聞いてもいいかな?」
「……私は、軍の経営する孤児院にいました。それを引き取って下さったのが、イサラ師匠なんです」
「そうか、大体のところは判った」
さすがのユリアも、孤児院がどういうところなのか知っている。「内戦」で少なくない数の孤児が発生し、彼らが犯罪に身を染めないように収容しておくために戦後多数の孤児院が作られたのだ。そして、それら孤児院の大半が劣悪な環境にある上、退役軍人の就職先になっている事も聞いていた。実は、その環境をどうにかするべきという論は内戦中からあったのであるが、本来の孤児の引き受け先である「教会」がそれだけの力を失ってしまった今では、篤志家の好意にすがるか軍の予算を流用するしかないのが現状であった。
そんな環境では、退役軍人らは子供らを護り育てる対象ではなく、古兵が新兵をしごくがごとくにいじめているのであろうし、そしてそれを止めるべき将校下士官もいないときている。中には立派な人間もいるのであろうが、なにせ年頃の子供のやんちゃぶりというか、みなぎる体力は半端なものではない。そんな子供を多数抱え込んで、まともに育てるというのは、生半可な事でできるわけがなかった。となれば、どうしたって孤児の扱いは軍隊式に抑圧的にならざるを得ないし、また閉鎖された環境では、誰しもが地の人格を顕わにしてしまうものである。そして人間の大半が、高潔な者という事はありえない。
「君が辛い過去をもっている事は判った。だが、軍人と一口に言っても色々な人間がいる。それだけは理解していて欲しい」
「はい」
「まあ、それに私も君が思うほど高潔というわけでもない。大人として、子供の前では背筋を伸ばして見せているところもある」
「そうなのですか?」
「ああ。私だって、人並みに俗っぽい欲望だって持っているし、時にはその欲望に身を任せる時がある。さすがに二六時中背筋を伸ばし続けていては、身が持たないからな」
「本当に、そうなのですか?」
「ああ、本当だ。済まないな、幻滅させるような事を言って」
「いえ、いいんです」
ユリアは、そこで初めてセラシアが自分の背中側の間合いに入ってきている事に気がついた。いくら気を緩めていたとはいえ、間合いに入られるまで近づかれている事に気がつかなかった自分に舌打ちしそうになる。彼女は、少女を驚かせないようにゆっくりと振り向き、そして相手がいつにないほど緊張している様子なのに驚いた。
「……どうした? そんなに緊張して」
「ユリア様も、欲望に身を任せる事があるのですね?」
「……ああ」
「……私は、ユリア様の欲望の対象になれませんか?」
セラシアの真剣な声色と、怖いものすら感じさせる眼鏡の下の朱色の瞳に、ユリアは、この少女もまた双性者であり、今の自分と同様に強い肉体的欲求を抱えている身である事に思い至った。同時に、彼女が子供だけに視野狭窄を起こしやすく、そして欲望の手綱を取れないことにも気がついた。
「正直に言おう。私は君の前では模範的な大人でいたいと思っている。だから、君を欲望の対象として見ないように自制している」
「つまり、私でもユリア様の欲望の対象になれるのですね?」
「人の話は聞くものだよ。私は、自制している、と言ったのだ」
「私では、駄目なのですか?」
緊張で身体をこわばらせ、わずかに震えている子供を前にしても、ユリアは偽悪的に振舞えるほど悪人ではなかった。だが、この少女が、何も物を知らないゆえに自分に懸想している事くらいは理解できていた。
「駄目ではない。だが、君は子供だ、まだ早い」
「……私にも、肉欲はあります。告白します、私はユリア様の事を想って自涜しています。私は、貴女に抱いて欲しい。最初お会いした時から、ずっと憧れていました。それでも、淫らな事を考えないようにずっと我慢してきました。でも、もう限界です。……ユリア様が私を抱いて下さらないのでしたら、」
「それ以上は喋るな」
想いのたけをぶちまけるようにして早口で喋るサレシナの言葉を、ユリアは途中で止めた。なまじ口にしてしまって引っ込みがつかなくなってしまうという事が、人間にはままある。今の少女がまさにそういう状態であった。
「私は!!」
「……なぜに、こう、女の子にばかりもてるのかな、私は」
「え?」
「正直に言うとだ、私は君の年頃には、同性愛に浸っていた。子供の身で戦時下の軍隊でやってゆくのは色々と辛かったからな。その辛さを戦友の少女らと交わる事で発散していた。ちなみに男が嫌いというわけではない。男を相手に失恋した経験もある。ついでにばらすと、今、古人の恋人がいるし、彼女以外にも交わっている相手も別にいたりする。その程度には俗っぽいのだよ、私は」
ユリアの言葉にセラシアは、その眼鏡の下の眼を丸くして驚いていた。何も言葉にできない様子で、ぱくぱくと口を動かしている。
「そういう私が、なんというか、世間知らずというか、純粋な君を抱くのは、気が引ける。君は、ちゃんとした恋をするべきだと、私は思うのだよ」
「じゃあ、今、私が抱いている気持ちをどうすればいいのですか!?」
切羽詰った様子で叫んだセラシアを前に、ユリアは困った様子で両腕を組んだ。
「……私と君とでは、恋愛にはならない。何故だか判るかい?」
「何故です!?」
「君はさっきから、私の事を「ユリア様」と呼ぶ。その時点でお互い上下関係ができてしまっている。それで交わったとしても、それは恋愛によるものではない。ただの依存でしかない。そして私は、君を依存させて、君が健やかに育つのを妨げる気はない」
「……だって、だってユリア様は、近衛騎士様で、それに、立派な軍人でいらっしゃって……」
「そういう風に見えるのかもしれない。でもね、その時点で君にとって私は、恋愛の対象じゃなくなっている。私にすがる事で、私に肉体を差し出す事で、安心したいのだろうな。それが悪いとは決して言わない。だが、それでは君との関係は長続きしない。あと、私は、君の事をイサラ親方から任せられている」
「……あ」
「うむ、そういう事情もある。だから、私は自制する。それが大人というもので、そうやって本音と建前を使い分けて生きてゆくしかないんだ」
思わず両腕で自分の身体を抱きしめたセラシアは、大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら声を忍ばせて泣き始めた。
そんな少女の様子に、罪悪感に打ちのめされる思いになったユリアは、だがここで少女に妥協するつもりはなかった。
「失恋は辛いな」
「……貴女は酷い人です。判っていて、そんな事を言うのですから」
「初恋は実らない。それは私も身に染みて理解している」
だが、ひとしきり泣いたセラシアは、顔を上げると泣きはらして真っ赤になった眼ををユリアに向けた。そこには、たった今まで少女を支配していた激情は身を潜め、変わりに確固たる決意の光が浮かんでいた。
そしてセラシアは、椅子に座ったままでいたユリアに向けてその身を投げ出した。思わず少女を抱きとめた彼女に向かって、セラシアはその首筋に顔をうずめてささやくように言葉を発した。
「それでも、私は、諦めません。私は、ユリアさんの事が好きです。貴女が誰と恋仲だろうと関係ありません。私が貴女を好きなのに変わりはないんです。私は、絶対に、この恋を諦めたりしませんから」
「……あれだけきつい事を言われて、まだそう言えるのか、君は」
「自制する、という事は、我慢している、という事でもあるのでしょう? それは、私の事を拒絶したという意味ではありませんから。ならば、諦める道理なんて、ありません」
「ならば、どうする?」
それへの回答は、行動であった。セラシアは、そのままユリアの事を床に押し倒すと、そのままぎゅっと抱きしめた。
「無理矢理はしません。私は、貴女の事が大切ですから。でも、抱きしめるくらいはします」
「……それだけで我慢できるのか?」
「ユリアさんが自制するのならば、私は我慢します。貴女の許可があるまで、こうして抱きしめるだけで我慢します」
その日から、セラシアによるユリアへの接触は繰り返された。さすがに人目のつくところで甘えた姿勢を見せることは一切無かったが、私室に戻れば少女は容赦なく彼女の身体に触れるようになった。
そして、どこで覚えたのか、ただ抱きしめるだけではなく、ユリアが拒絶しないぎりぎりのところまで着衣のまま愛撫をするようになった。さすがに彼女も、これには参った。なまじ双性者となって性感が高まったところにこれである。アヴェナエ導師との関係も、魔導の講義が始まってからは途絶えていた。講師と生徒が肉体関係を持ち続けていては、授業の妨げになると導師から言われていたためである。
「……ユリアさんの身体は、柔らかいのに張りがあって、本当に抱きしめていて気持ちがいいです……」
「……背筋や、首筋や、わき腹を、撫でるのは、抱きしめるとは、言わない……」
今日もセラシアに寝台の上に押し倒され、抱きしめられ、撫で回されるユリアである。
さすがに快楽のつぼを覚えられてしまったようで、セラシアの指先や手の平が容赦なくユリアの性感を高めてゆく。かといって、少女は彼女の胸や股間や尻に触れたりはしない。あくまで触れるのは、着衣の上から背中や腹や脚のみである。
「でも、気持ち良いのですよね? 私の首筋に当たる吐息が熱いです」
「当たり前だ…… こんな風に、全身をまさぐられて、感じない女が、いるものか……」
さすがのユリアも、毎日性感を刺激され続ければ、嫌でも滾るものがある。だが、彼女は少女に向かって自制すると宣言してしまっていた。ならば、どれだけじらされ焦がされようとも、耐え続けねばならない。
いっそ少女を跳ね除けてしまう事も考えないではなかったが、何故かそれだけは、どうしても踏ん切りがつかなかった。
「……いつまで堪えられますか?」
「たえて、みせる、と、いったろう……」
正直、最近は快感に朦朧としてきて、脳にもやがかかっているような感じなるまで追い込まれている。いっそ身体を許してしまえば楽になれるのであろうが、そうなってしまった自分がセラシアを汚してしまうのは許せない。
「……最近、私、自分でしているんです。最初は痛くて血が流れるって聞きましたから、自分で拡げて、ちゃんと受け入れられるように…… ユリアさんもいやらしくなっているみたいに、私もいやらしくなっているんです……」
「この、おおばかもの、が…… ぁあ」
つぅっ、とセラシアの指先が背筋を這っていった瞬間、ユリアはとうとう軽く絶頂に達してしまった。そのままふわふわとした感覚のまま、しばらく少女の愛撫に身を任せて快楽にふける。
そして、ユリアを絶頂かせたセラシアは、たっぷりと情感を込めて後戯を行い、達したユリアの意識が戻ってこれないように彼女の身体を操った。
「……果てましたね? ユリアさん」
「……くっ、言うな」
「服の上から撫でられただけで、達したんです、ユリアさんは。それも、こんな子供に好きにされて。十五の小娘におもちゃにされて、果てるのは、どんな気持ちでしたか?」
「だから、言うなと、言っている」
思わず全身が恥辱で燃え上がり、それ故にさらに性感が高まってしまう。気がつけば下穿きは精液でべっとりと汚れていて、べたべたとして気持ちがわるい。自分を抱きしめている少女の肢体も、熱を帯びていて、その吐息が熱い。
「でも、私の方が辛いんです。だって、ユリアさんは好きな時に果てられますけれど、私はずっとユリアさんに触れて貰えないままなんですから」
「……ならば、私を抱くといい」
「嫌です。私は、ユリアさんに抱いて欲しいんですから」
「ぁ、やめ……」
背筋からわき腹をつたって、太ももへと伝っていったセラシアの指先の感覚に、ユリアは開かれた性感を刺激され、また果てそうになった。がちがちに硬くなったままの逸物がべとべとの下穿きにこすれて刺激され、また先走りを漏らし始める。
なんとかイかされるのだけは避けようと身を捩じらせ、セラシアの愛撫から逃れようとするユリアであったが、一度絶頂に達してしまった肢体は力が込められず、年端もゆかぬ少女にいいようにもてあそばれ、果てさせられてしまう。
朦朧とした意識のまま、少女の顔がすぐ近くまで寄せられていて、そしてその桃色の唇がすぐ傍で荒い息を繰り返しているのを感じ、ユリアはそれと気がつかずセラシアの唇に自分の唇を重ねていた。そのまま彼女は、少女の舌を導くように絡め、自分の口中へといざなった。
まずはたっぷりと唾液を絡めた舌を差し入れ、ユリアの口内を愛撫したセラシアは、すっと顔を離して心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「今の、私の初めてだったんです」
「ぁ……」
その言葉の意味を理解する前に、今度は、自分の両手が少女の豊かな膨らみにそえられていて、そしてそのまだ青く硬いそれを服越しに揉みしだいていた。
「……胸を揉まれるのが、こんなに気持ちいいなんて……」
「駄目だ、これ以上は、いけない……」
「そんな事言っても、ユリアさんの太ももが私の股間を責めています……」
確かに気がつけば、ユリアは自分の膝を立てていて、その膝先はサレシナの固くなった肉茎を服の上から刺激している。
「ん……」
ユリアを愛撫する手は止めず、ユリアからの刺激に身を任せていたサレシナは、ぎゅっと眼をつむるとそのままぶるっと震えて背筋を突っ張らせた。
ユリアは、自分の膝の上で少女の肉茎がびくんびくんと脈動したのを感じ、ああ、彼女もイったのだな、と、朦朧とした頭でそう考えていた。
「……絶頂かされてしまいました……」
くたっと全身の力を抜いて、身体を預けてきたセラシアの唇が、ユリアの耳元で息を吹きかけるように蠢く。その刺激にユリアは、首を回してそっと少女の唇をついばむように口付けした。
「あ……」
「ん……」
びくっ、と身体をこわばらせたセラシアを安心させるように、少女の頭に手を回してそっと髪の毛をすくように撫でたユリアの指の動きに身をまかせるように目をつむり、少女はじっと彼女の指先と唇の感触を味わい続けていた。
「服……」
「……ん?」
「……脱いでもいいですか?」
「……あぁ」
離されたセラシアの唇からつっと涎がユリアの唇につたって橋をかけ、二人の間をつなぐ。それを名残り惜しそうに身体を離したセラシアは、もどかしげに身に着けているものを下着に至るまで脱ぎ捨てた。
ユリアの目の前にさらされた少女の裸身は、まだまだ骨張っていて、その大きな二つの果実は青く幼かった。
「ユリアさんも、脱いで下さい」
「……脱がせろ」
「ふふ、いいんですね?」
こくりと肯いたユリアに、その朱色の瞳を細めて微笑んだセラシアは、手際よく彼女の着衣を脱がせ、その裸身を全てさらけ出させた。そのまま身を任せてくるセラシアを抱きしめ、ユリアは、結局こうなってしまったか、と、どこか諦念にも近い感覚で少女と唇を重ねていた。
一度裸になってしまえば、あとは早かった。そのままの流れでユリアはセラシアを抱き、少女の純潔を散らしてシーツの上に赤い染みを作った。その時にまだ幼い彼女の柔肉の底に精液を吐き出した瞬間、ユリアは、これでこの少女は自分の物になったのだな、と、妙な感慨を感じていた。
それからユリアは、攻守を逆転させてセラシアをたっぷりと責め立てて鳴かせ、これまで散々自分の身体をおもちゃにしてきた仕返しをした。何度も精液を吐き出しそうになっては、それを止められ、セラシアは鳴いて何度も懇願したが、ユリアはそれを許さなかった。未開発の少女の性感を探り出し、強張らせる身体をほどいてゆき、くったりと全身の力が抜けるまで愛撫してから、ようやく少女の幼い肉茎を自分の胎内に導きいれて柔肉でしごきあげ精液を吐き出すことを許した。
ユリアの胎内に精液を絞り出させられたセラシアは、あまりの快感に目をぎゅっとつむったまま殺しきれぬ声を漏らしつつ、全身を弓なりにそらせて何度もびくんびくんと痙攣し続けた。
二人は、そのまま攻守を何度も交代させながら、互いの身体をむさぼり、その胎内に精液を吐き出し、何度も絶頂を堪能した。
もういい加減互いの内股までこぼれた精液でべとべとになるまで射精を繰り返した二人は、最後には互いを抱きしめ合い、口付けを交わし、互いの逸物を擦りつけ合ってひたすら快感をむさぼり続けた。
「……ありがとうございました」
ようやく互いに動くのを止めてから、セラシアはそうささやいて微笑んだ。
「……礼を言われるのもな。結局自制し切れなかった自分が恥ずかしい」
「でも、嬉しいのは本当です。貴女が初めてで本当に良かった」
「……正直、子供に手を出した自分が許せない気分はある。だが、気持ちよかったのも事実だ。まったく、お前は私にとってはその他大勢の一人なんだぞ? 後悔はないのか?」
「あるわけありません。その他大勢の一人? それだって、何十人もいるのではありませんよね。なら私は、何人かのうちの一人で、それはこの世界で選ばれた何人かのうちの一人なんです。こんな嬉しいことはないです」
まるで幼子のような無邪気な微笑を浮かべてそう言い切ったセラシアは、ユリアから見ても本当に愛らしく綺麗であった。そんな少女の微笑みにつられて優しげな微笑を浮かべたユリアは、そっと少女の短く切り揃えられた黒髪を指先ですいた。
「私も、早くユリアさんみたいな大人の女性になります。私も、貴女みたいな美しい身体になります。そして、必ず機神工部の親方になって、貴女のためだけの機神を作ります」
「……全く、それがどれだけ難しい事なのか判って言っているのか? 期待はしないで待っておく。精々精進しろ」
「はい」
嬉しそうに鼻先をこすりつけてきたセラシアを抱きしめ、ユリアは、そのまま久しぶりの温かな重みを腕に感じつつまどろみの中に沈んでいった。
ユリアとセラシアへの教育は、本格的な魔導師となるための入り口で終わった。さすがにユリアには「六号」開発という本務があり、セラシアも機神工部としての修行がある以上、二人を長期にわたってモリアに留め続けるわけにはゆかなかったのだ。
その間もセラシアはユリアと毎晩のように交わり、そしてその肢体を開発され続けてると同時に、ユリアの身体を覚え、一回りは年上の女性を思うがままに悶え感じさせ絶頂き果てさせる技術を身に付けていった。なにしろユリアは、手荒く犯される事に悦びを感じる性癖があり、彼女に奉仕する気満々のセラシアは、自分の騎士様が喜ぶ事ならばなんでも受け入れる覚悟ができていた。
そして、射精による絶頂のみならず、女としての喜びもセラシアが覚えてからすぐに、二人は「帝都」へと戻る事になった。何ヶ月かぶりかの「帝都」は、すっかり季節に合わせてその彩りを変えていた。
「お帰りなさい、ユリアさん。セラシア。それで、施術の方は上手くいったようですね。おめでとうございます」
「帝都」に戻った二人を真っ先に出迎えたのは、連日の激務ですっかりやつれたイサラであった。親方のその姿に、ユリアと交じ合うことですっかり女らしい肢体になりつつあったセラシアは、思わず申し訳無さそうな表情を浮かべてうつむいてしまった。いくら必要な事であったとはいえ、モリアで想い人と散々淫欲の日々を送っていたのは事実である。自分より細い身体の師匠のその姿は、彼女の罪悪感を刺激してやまないものがあった。
「そんな顔をするものではないです、セラシア。貴女に気遣われるほど、わたしは柔じゃありませんよ?」
「だが、前に別れた時と比べても、確実にやつれているぞ? さすがに私も心配でならないのだが」
「ああ、大丈夫です。ユリアさんが戻ってくる前に、原型機を仮組みしようと急いだだけですから」
さらりと言ってのけたイサラの言葉に、グラミネア騎士長は目をむいて驚いた。いかにイサラが天才とはいえ、ほんの数ヶ月で機神を組み上げるなど、あり得ないにもほどがある。
「まさか、本当にこの短い時間で機体を組んだのか!?」
「あくまで仮組みですよ。機体を立たせるまで、これからが大変なんです。なにしろ魔晶石から中枢部分から、全て新造しましたから。それをちゃんと組み合わせて動くようにするのが開発の本番です。なにしろ、この機体はユリアさんに合わせて組みますから」
そのイサラの言葉に、わずかにサレシナの表情に陰がよぎったのを、少女の師匠は見逃さなかった。
「ふふ、どうやらサレシナも女の顔をするようになりましたね。で、ユリアさん、サレシナはどうでした?」
「どう、とは?」
「この子を女にしたのは、ユリアさんでしょう? というわけで、この子は寝台でどうだったか、是非とも聞いておきたいなあ、と」
「ば、場所を時を考えろ! それに、そう簡単に口にするわけにはゆかないだろう、そういう事は!!」
「……どうして、こう、かまかけに弱いのですか、貴女達は」
「な!?」
呆れ果てた表情で額に指を当てたイサラと対照的に、顔を真っ赤にして絶句してしまったグラミネア騎士長の背中にセラシアは全身をゆであがらせて隠れてしまった。その仕草にイサラは、軽く眉根を揉んでから、二度三度と頭を振った。
「まあ、それを期待して一緒にモリアに送ったのですけれども、本当にそうなるとは。まあ、責任を取れとは言いませんから、時々は会って可愛がってあげて下さいね?」
「い、言われないでも、ちゃんと面倒は見る! やり捨てなど、そんな破廉恥な真似はしないぞ、私は!!」
「はいはい。さて、サレシナ」
「……はい、師匠」
「シモの話は聞くつもりはないので、後でモリアで学んだ事を説明するように。こちらでも魔導の修行は続けて貰いますから」
「はい! 師匠」
おずおずとグラミネア騎士長の背中から進み出てきたサレシナは、イサラの言葉に力強く肯いた。
随分と変わった弟子の姿に満足気に肯いたイサラは、二人を連れて「六号」開発現場へと転移した。なにしろ期限は刻一刻と近づいてきているのである。三人でのんびりしている時間は無いのだ。そしてサレシナは、魔導の教育を受けていた分だけ工部としての修行は遅れているのである。その分の遅れを取り戻すために、彼女は人一倍がんばらないといけないのである。
そしてそれは、グラミネア騎士長も同じであった。彼女も魔導師として格段の成長を遂げたが、その技術を魔導騎士として黒騎士の名に相応しい強さへと変換させなくてはならない。その上で「六号」開発騎士としての勤めもあるのだ。
グラミネア騎士長とサレシナの二人は、これまでの事を心の中にしまいこむと、これからの忙しくなる日々に意識を集中させる事に傾注した。
最終更新:2013年02月10日 22:08