名も無き者の感慨

“一度この世に生を享け、滅せぬ者のあるべきか”
私の一族に伝わる古い物語の一節だ。
人はいつか死ぬ。国はいつか滅ぶ。
だから死した後に何を残したかは、生きている間に何を為したかと同じ位重要だ。
私はずっとそう考えてきた。

内戦の時、帝国には二つの道があった。
古い体制のまま滅ぶか、名のみを残して生まれ変わるか。
彼の……副帝のお陰で結果的には後者となった。否、なりつつある。
新しい体制は未完成だが、彼が死なない限り帝国の変革は続く。
それが終りを迎えた時、そこにあるのは帝国の名を持った別の何かだろう。
これはほぼ確定事項であり、善悪よりもその中で各自がどうするかの問題だ。
この変革に問題が起きるとすれば、彼が後継者無く道半ばで死を迎えた場合。
彼の生きている間に改革の目処がついてしまった場合も問題が起きやすい。
最悪なのは彼と後継者、つまり皇太子殿下の間に争いが発生する事だ。
二人の関係を見る限り杞憂かもしれないが、歴史を見る限り楽観は禁物だ。
……まあどうなるとしても、己の職務を果たすだけだ。
葬務官として最初に誰の葬儀を執り行うのか、私には知る由も無い。
帝国が滅びてしまえばこの職も消えるが、生まれ変わるならば残る道もあるだろう。
願わくば帝国とその人的構成要素達に幸あらんことを。

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最終更新:2009年09月10日 23:48