高山地帯の荒れ地。小さな石が転がりその脇から高山植物が所々逞しく伸びていた。黄緑色の高山植物を巨大な足がなぎ倒し抉っていく。ソウのテウルギアは土埃と植物片を舞い上がらせながら目的地へと向かう。どうも嫌な予感しかしない。胸騒ぎと操縦席の揺れと二日酔いで目の前が揺れる。
『ソウ、 真っ直ぐ走って』
セガに言われてなんとか正気を保ち真っ直ぐ進む。山岳地帯特有のはやい雲の流れで太陽が照ったり隠れたりしており、太陽が輝く度に視界が遮られるのでソウは目をしかめる。少し旧型のテウルギアには遮光機能がついていない。帰ったら遮光版でも取り付けようと思った時だった。
『熱源接近、 3時の方角!』
機体を右に向かせそのまま左へと回避させる。直後レーザーのような飛翔体が機体の直ぐ右側を通過し少し高高度の地面を焼く。敵機はまだ見つかっていない。ここの山は低高度になるにつれ緑や大岩が増え隠れやすくなる。大してこちらは小さな石しか転がらない荒れ地だ。狙撃するにはもってこいだろう。
「セガ、 索敵急げ。 攻撃はこっちで何とかする」
『わかりました』
ソウはテウルギアを前進させる。立て続けに2発。先ほどと同じ方向から飛翔体が飛ぶ。まだ場所は移動していない事を知るとソウは真っ直ぐ敵機の隠れる方へテウルギアを進める。相手はようやく動き始めたのか違う方向から3発。レーザー光が先ほどのものと異なっていたので違う武器だろう。
「相手は光学使いだ! 攻撃を撹乱させる」
『左右武器装填。 いつでもいけます』
ガクンと両手の武器に弾が装填される感覚を確認するや否やソウは行く先の地面をマシンがンで撃ち抜く。乾いた地面は砂ぼこりをあげ煙幕のようになる。相手が立て続けにレーザー兵器を使用する音が聞こえるがレーザーが粉塵で撹乱されソウには届かない。
恐らく敵機がいるところまで来たところで『飛翔体複数。 弾着予想3秒前』とセガ。
すぐに逆噴射装置を起動。後方へ転換し機体がGで軋む。急な高Gにソウも苦痛の声を漏らす。直後自分のいた場所にミサイルの雨が降る。飛び散った破片が機体にあたり金属音が響く。
「補足!!」
『すいませんまだです』
セガはレーダーを使い敵を補足するのが苦手だった。この機体の索敵機器が脆弱というのもあるがそれがこのレメゲトンの特性だった。それまでソウが攻撃のする方へ突入し攻撃は回避する形をいつもとっている。
右手の武器を装填している間にレーザーで打ち抜かれる。焼けた金属の匂いがし右腕ロストのアラートが鳴り響く。
「ちっ……右手ぐらいくれてやるさ」
『お待たせしました! 補足完了です』
画面に機影が映し出される。すぐに敵に向かって押し進むソウ。相手は後方に下がり始める。自機と敵機が一瞬だけ直線で繋がる。その瞬間を逃さずソウは左手の武器を叩き込む。弾丸が当たり機体が凹みひしゃげる音を聞きながら距離を詰めていく。砂埃が舞植物がなぎ倒され一つの道ができる。
『敵機距離10メートル、 5メートル、 0…………』
砂埃が晴れ銃口のすぐ先に敵機の全貌を見る。それはかつてオラクルボードのランク30だった男の機体だった。穴だらけの機体は水を入れ、穴を開けたビニール袋のようにオイルを吹き出しショートによる火花が飛び、黒煙が上がっていた。敵機から通信が入る
「どうやら不正はしていないようだな…………」
「お前か。 あの依頼は」
「俺は……奪われた席を…………取り戻したかったんだ。 だが叶わない…………恨んでも恨みきれん……………………」
「じゃあ恨むなよ」とだけソウは呟く。高山地帯の空は相変わらず流れがはやく、また地上では風が強かった。
黒煙は空へと上がりやがて雨雲の一部へとなっていった。
最終更新:2017年08月25日 19:57