小説 > 風零龍緋 > 坂道と酒その4




ソウの生活はあれからがらりと変わってしまった。オラクルボードのランクは相変わらずでどこで調べたのか勝手に生い立ち、自宅、好きな酒の銘柄、最近行った風俗店などありとあらゆるものが晒されていった。街に行けば英雄扱いで毎日のように写真を申し込まれ酒を奢ってもらったり飯を奢ってもらったりするのはまだよかったが薬品を盛られ気がついたら天郷病院の天井だったということが多々あった。闇討ちを仕掛けられる回数も増えそれを回避する度にカルデアン・オラクルズは誇張した記事を書き出すのだった。評判は評判を呼びやがて他のグループにも名を馳せていき腕試しを申し込まれたり機体にサインをせがまれ一晩中追い回されたり散々な一日を送っていた。八百長を疑う者も増え挨拶代わりに心無い罵倒を浴びせられ行き先のパブでは水と塩をまかれて追い出されてしまった。

心身ともに疲弊し始めたソウは格安の合成酒を浴びるように飲み酔いに任せて周りに当たり散らすように振る舞い最後には吐いた。涙混じりの叫び声に誰も気遣うものはおらず今まで共に話していた仲間はどんどん離れていった。
そんなソウをセガは心配そうに見つめるだけで特に話そうとはしなかった。話してもなんの解決もしないことが分かっていたからだ。

「セガ」
『どうしました』
「カルデアンオラクルズの質問フォームを開いてほしい」

全てを失ってから聞くか聞くまいか悩んでいた質問をする。元々の元凶は何故自分を選んだのか、何故自分だったのか、死ぬ前にそれを知る必要があった。セガがメールフォームを開き長々と疑問と苦情を書き連ねる。やがて送信すると自機のあるガレージへと向かった。

ガレージには自機が静かに佇んでいた。整備はされているがどことなく傷やヘコミのある機体。長年生死の境を共にし数多の戦いを生き抜いてきた機体。ここの整備士は親切でランクがおかしくなっていてもきっちり仕事をこなすよくできたオヤジだった。二歳の娘がいて子供ながら機械いじりに興味があって将来はテウルギア関連の職につかせるとか言っていたっけと静かに追憶していた。

『ソウ、 どうしました』
「ん? いやぁなにもねぇよ」

セガに言われて我にかえる。柄にもなく昔を思い出すというのはなんだか変な気持ちだと思いながら搭乗手続きを行いテウルギアに乗り込む。
目的は特になく訓練と言う名目で出撃依頼を出しアレクトリスの高山地帯を目指して走らせる。
それがソウ・ジマの最後の姿だと人々は言う。やがて月日は流れランクはもとのように戻り民衆は一人の男の名を忘れていった。面白いことにあれだけ作られていた記事は殆どが消え残る記事も特定の権限を持つものだけが閲覧になった。

その権限を持つものは、






誰かが打ち込んだ文章はここで途切れていた。
最終更新:2017年08月27日 22:29