Chapter1.
結局戦争なんてものは無人機と無人機の戦いだ。
今や戦争は自動化され、人が死ぬどころか戦場に出るのすら馬鹿馬鹿しい程全て機械に任せていた。
テウルギアという、常軌を逸した殲滅力を持つ巨大な鎧を主体とした遠隔無人機部隊。
歩兵はアンドロイドに。航空機はUAVに。
戦車も、巡洋艦も、対空陣地や補給部隊ですらAI制御によって制御され、これを『マザー』と呼ばれる月に配置された仮想人類という、高性能AIらによって管理される戦場。
腰の重い将校様達が国の威信と駒を握り、研究者たちが日夜新しい駒をこさえる。
これは戦争をやめられない人類が生み出した新しいカタチ。そして、新たな娯楽。
あるものはこう言った。
「戦争とは革命の為の口実であり、人類単位での労働力を動かす最大のボードゲームである。」
くだらないが非常に同感する。実際、普段は協力どころか手柄争いばかりをしている我々研究者たちが一同に集まってやるプロジェクトなどこんな時でしか出来はしまい。
だからこそ、主役など傀儡共に任せてしまえばいい。
あんなおっかなびっくりで危険極まりない喜劇なんぞ、人形に任せて黒子はそれを操っていればいいのだ。
──そんな甘い考えを抱いていたからこそ、クイーンと呼ばれる整備基地と指揮所を兼ねる移動要塞に詰める6000余りのポーンは怠惰に尽くしているのだろう。
移動要塞とはいえやることは単純。駒を効率よく生産、整備し戦場へ送り出すだけ。
兵隊たちは駒を回収、整備する僅かな間警備をすれば、国を守るヒーローとしてお駄賃を頂ける。
無論、戦争を代理する駒達は金の生る木だ。ただ指示を与えて、たまに修正しその行く末を眺めるだけで一切合切決着する。
あとはこの戦果を基地全体のものとして「私たちは精一杯頑張りました!だからみんなにご褒美をください」…と声高らかに叫べば国民さんのお財布からお情けが投げられるってわけだ。
ああ、なんて楽なことだろう。駒さえあれば俺たちも安泰だ、なんて思っていたからこそ。
自軍の駒が全滅し、砲火がこちらを向いた瞬間。
基地からそれを眺めていた暢気な雑兵達は、思い出した。
結局、今時の戦争なんぞ無人機同士の応酬だ。
裏返せばそれは生きている兵隊は要らず、蹂躙されるという可能性も考慮せねばならなかった。
『テウルゴス』と呼ばれる、最前線で指揮を執るテウルギアのパイロットが空を舞うが誰も助けようとはしない。
敗北者に構う、そんな暇はない。
繰り返すが、今時の戦争は無人機と無人機の応酬…つまり、『テウルギアとテウルギアの戦い』だ。
テウルギアの前には戦車や戦闘機など、旧世代の兵器を半端な数ぶつけたところで全長15メートルほどの人影は駒という雑兵を蹂躙して往く。
そして、自軍のテウルギアが破壊されたということが意味する結果は単純明快。
虐殺だ。
昔流行った核実験によって生まれた化け物の如く、それは全てをただ焼き尽くす絶望。
もはや逃げる他ない。
増援も見込めない。
狩りという名の鬼ごっこが始まる。
巨人と、小人たちとのくだらない鬼ごっこが。
「どうしてこうなるッてンだよクソッタレーーーー!!」
最終更新:2017年11月01日 19:17