息抜きでぶらぶら書いていた掌編です。
フェオドラの食事風景と同じく、キャラ紹介的な。
~貨物列車に、ユーロビートを添えて~
始めまして、だろうか。
このブログを開設し、僕は全世界へ向けた言葉を綴ることにした。
このブログを誰が読んでいるのかはわからない。
もしかしたら誰も読んでいないのかもしれない。
ただ僕は延々繰り返される暇な日常を、読書ばかりで過ごしてきた故に、たまには自分でも少しぐらい文章を書くということをしてもいいかもしれないと思っただけだ。
このブログに意味はない。ただの暇潰しだ。
ゆえ、このブログを読んでいる諸兄も、多忙を極める最中であれば、すぐにブラウザを閉じて作業を終える方が遥かに賢明で、有意義だ。
それはさておき、僕がこんな暇潰しをするための、所謂ネタがあるので早速提示しよう。
テウルギア、という兵器があることを諸君らは知っているだろう。何しろ企業体の権威の象徴にすらなっており、至るところでそれを目にすることは可能だ。
もしかしたらこのブログを読んでいる諸兄にも、そのテウルギアの関係者である可能性だってありえる。
僕もその一員だが、とてもしがない毎日を送っている。
だが思うことがあるのだ。
テウルギアはなぜ、人型をしているのか。
神話の話をしよう。
はるか昔、バイブルの中では、神が自らを模してヒトを作ったとある。
人類より上位である存在がいると仮定することにより、自分たちは愚かであると位置づけすることで律する教鞭になり、同時にそれに服従することで救われるだろうという考えをもたらす。
こう考えてみれば、バイブルは人々の救心を作り出す大きなシステムとして構築されているように思える。
※失礼。宗教の論理を説いて方々の教会に怒られたいわけではない。
問題は、神がヒトを作り、神はヒトの上位存在であり、ヒトは神を模している、という3点だ。
そして小説の話をしよう。
数世紀ほど昔、メアリー・シェリーという小説家は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』という小説を出版した。
フランケンシュタインという学生がヒトの死体を繋ぎ合わせて人造人間を作ったが、しかし醜い容貌を持った怪物となった。怪物は自分と同列の伴侶を求めて暴れ回ったが、フランケンシュタインは怪物がこれ以上増えることを拒否し、紆余曲折あってフランケンシュタインは死に、怪物は名前すらも与えられなかったことを嘆き、北極点へ自らの死を求めて消えてしまう……そんなあらすじだ。
一方でプロメテウスとはギリシア神話に出てくる神であり、人を作ったとされ、また人に火をもたらしたとも言われている存在だ。
この小説を読んで、僕が思うのはこうだ。
フランケンシュタインはプロメテウスに成り代わろうとしたが、しかし神に模され、かつ神の下位存在に過ぎないヒトに、新たな生命を作ることは不可能だった……のではなく、神の下位存在に過ぎないヒトが作れる完成形こそが、あの怪物だったのではないか、と。
そして、この話より、とある言葉が生み出されている。
フランケンシュタイン・コンプレックス
この言葉は下記2点を指す。
- 人は神に成り代わろうと、自分の下位存在である被造物を作ろうとする欲求がある。
- 人によって作り出された被造物こそが、人を滅ぼすのではないかという潜在的な恐怖がある。
古来より、ヒトは様々な土地で人形というヒトの形をしたものを作ってきた。
小さな女の子を見れば、きっと人形へ愛情を注いでママゴトをしているだろう。
人形は動かないからこそ後者の危機感を抱くことはないだろう。
だがフランケンシュタイン・コンプレックスとは全くの関係がないと、僕は言い切れない。
例えば夜の町中を歩く時、ふとマネキンを見て、小心者の僕なんかは少しばかり怖くなってしまう。
同じくすれ違う人に対しては何の恐怖も抱かないのに、だ。
きっと同じシチュエーションに遭遇した人も少なくないはずだが、多くは、人がいるのかと思った、という言い訳じみた言葉を口にするだろう。
だが僕は改めて思ってしまう。
人ではなくマネキンだからこそ、フランケンシュタイン・コンプレックスにより恐怖を感じているのではないか、と。
もう一つ、小説の話をしよう。
これも数世紀ほど前、ヴィリエ・ド・リラダンという小説家は『未来のイヴ』という小説を出版した。
エワルドという貴族の青年は、アリシヤという、ヴィーナスのような美貌を持つ歌姫を恋人に持っている。だがアリシヤは――。
※失礼。僕は戦争なんて体を動かすことは好きではないし、同時に命の危機に関わることをしたいわけではない。
――ともかく、エワルドの恋人は魂が卑俗で、知性に欠けている。そのことをエワルドは悩んでいたが、それを知ったエディソン博士は、彼女とほぼ同じ容姿を持つ人造人間ハダリーを作って、彼に与えた、という話だ。
そしてイヴとは、神話に出てくる最初の人、アダムの一部から神が作り直したもう一人の人にして、最初の女性だ。
※失礼。僕は戦争なんて体を動かすことは好きではないし、同時に命の危機に関わることをしたいわけではない。
この小説の感想というより、僕が言いたいのは、この作中で使われている言葉だ。
『我々の神々も、我々の希望も、
もはやただ科学的なものでしかないとすれば、
我々の愛もまた、科学的であっていけない謂われがありましょうか』
先程私は、小さな女の子がママゴトの愛情を人形へ注いでいると記述した。
人形は人の手で作り出した工業製品だが、女の子が人形へ注いでいる愛情は工業製品ではないだろう。
だが、例えば運送業というサービス業が一つの業種であり、例えば金融も一つの業種であり、果て……例えば保険というシステムは「人類史上最も賢い発明」という定説すら存在する。
踏まえれば、神話や小説がシステムではないと言い切れることは不可能であり、またそのシステムとは工業製品。科学的かもしれないことを指すだろう。
ならば引用の通り、女の子が注いでいる愛情も、またそれとは別種の情愛も、科学的なものである可能性を、僕は否定しきれない。
さて、一つの神話、二つの小説について列挙させてもらった。
もちろん肝心のネタを忘れているわけではない。
テウルギアは、なぜ人の形を模して作られる必要があったのか。
それは
「……ふう」
ここまで書いたら、結論はもうわかりきっているようなものだろう。
端末を閉じて、僕は目を閉じる。
普段は文章を読むことばかりしているせいか、書くということがとてつもない重労働に感じる。
この続きは帰りも暇だったら書くことにしよう。
「まあ、人型じゃないテウルギアに乗っている僕には関係のない話だけどね」
『オォ! どうした相棒!? 独り言なんて珍しいじゃねェか!』
「うん」
確かに珍しかったかもしれない。
ドスの聞いた大声で相棒呼ばわりしてくるジェフリーの、やたらドスの効いた声音に、僕は頷く。
『熱心に書いてたがよォ。報告書でもねぇもん書くなんざどういう風の吹き回しだオイ? 気でも狂ったかァ?』
「んー……」
確かにそうかもしれない。
血迷った行動、と呼ばれるものなのだろう。
ただ、書いている間は悪い気分ではなかった。端末をスクロールしないと全文が表示しきれないほどの量を書いたのだ。
これはもしかすると、ジェフリーの言葉を借りれば、テンションがノッていたのかもしれない。
『それよりも聞いてるかこれ? 今ハマってんだけどよォ』
僕がいるコクピットの中には、とある音楽がリピート再生されていた。
ユーロビート、と呼ばれるジャンルの音楽だ。
疾走感溢れるハイテンポと高音の連なり。シンセサイザーで過剰に装飾された音楽は僕の好みではないが、ハスキーな声で曲を彩る女性のヴォーカルは嫌いではない、というぐらいだ。
耳鳴りがするほどの大音量だ。もしかしたら外部に漏れているかもしれない。
だがコクピットの外にも、もう一つの分厚い層がコンテナの形をしているのだ。それより外へ漏れることはないだろう。
揺れる列車の上で過ごす生活には、もう慣れた。
腰が痛むが致し方ない。
……一瞬、断続的な音の波が引いていき、曲が静けさを迎えた。
『ここだ、ここ。わかるか?』
次の瞬間にはヴォーカルが前面に押し出て一つの単語をささめき、曲は最高潮の高中音の連続でアップテンポを迎える。
サビと呼ばれる部分だろう。
僕の反応を待つ前に、ジェフリーが低い唸り声をあげる。
『カーッ! 最ッ高だぜェ!! この瞬間の台詞、何つってるかわかるか、相棒?』
「うん?」
あまり考えるつもりもないまま顔を上げて、ジェフリーの回答を催促した。
概ねの予想はつく。自分たちが使っている言語ではないが、意味合いはなんとなくわかる。
『愛だよ! 愛!! この曲はラブソングだ!』
「ふむ」
さて、そうだったか。
いやジェフリーが喜んでいるんだからそれでいいことにしておこう。
『まーァ? 女とは無縁な相棒には関係ねぇ話だけどよォ!』
「うん」
確かにそれは否定しきれない。そして否定するほど躍起にもなろうと思わない。
それよりも気になるのは、レメゲトンであるジェフリーが……電子的な疑似人格にすぎないこいつが、愛という単語をさも憧れのように呟くことだ。
そんな間にもヴォーカルが曲へ混じり、次のサビへの準備へ入るべく、先程も聞いたフレーズを歌い上げる。
――Please tell me now, how do you feel me ?
『ハハハッ! 相棒! 大人しく女でも作ったらどうよ!?』
前言撤回しよう。そんな面倒な話を持ち出すぐらいなら話の腰をへし折るまでだ。
「ジェフリー。ちなみにそれは愛ではないよ」
『お? じゃあ何だってんだよ相棒? 音声認識自動歌詞複製だとそう出たのによォ?』
尚もヴォーカルはフレーズを、心なしかアガっている気持ちがこもっているように歌い、コーラスのような反芻が後に続く。
――Everytime, everynight, everywhere, everywhere
――I will surely get your honest love.
不機嫌そうに喧嘩を持ちかけるジェフリーに、僕は淡々と切り返す。
「それ、たぶん、男性の名前だよ」
――DA I SU KE...
最終更新:2018年04月20日 21:09