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WJ's Diary (汚れていて読めない)年 九月十一日
リュミエール領から技仙領へ行くのに苦労はかからなかった。あそこは特権階級の排便共とネンゴロになっている。黄色い猿と薄汚いブルジョワが交尾して、今のアレクトリスがあると言っても過言ではない。そう、アレクトリスの重要企業がこの二つだ。
「おいあんた」
「は?」
『国境』近くのバーで日記を書いていると、隣に座っていた女が声をかけてきた。ボブカットの髪型の、人種は北欧系か?比較的顔立ちはいい方だろう。もっとも、こんな飲んだくれに欲情するほど俺は恥知らずではない。
「あんたぁ、さっき私のこと見てただろう!?金払えよ!」
なんだコイツは-アイドルでも気取っているのか?技仙でどんなイエローモンキーと会えるかと思いきや。酔っ払いの北欧人に酒絡みされるとは。
「おい、酒樽女。顔で金を払って欲しいならそこで客に踊って見せたらどうだ?」
「誰が酒樽だぁ、くらぁ!毎日フィットネス行ってんだぞ!」
話にならん。
相手してやるだけ時間の無駄だ。露骨に舌打ちしてやって、席を立って店を出る。
「逃げるつもりか!このファック野郎!」
現行犯なら二度と酒を飲めない体にしてやってから警察に突き出してやるものを-クソめ。ここでも祭か。テウルギアやマゲイアも参加した軍事パレード。どこも賑やかなものだ。
せっかくだ、たまには見物しようか。リュミエールではなんだかんだゆっくりできなかったし、この騒ぎでは-身動きが取れん。企業の犬共も迂闊に手出しはしてきまい。羽根を伸ばすとしよう。
向こうから音楽が聞こえる。弦楽器か?冷やかしにしては上手い。プロによる祭の余興だろうか。行ってみるか
赤い服-デザインがダサいな、民族衣装か。だが聞いていて心地良い演奏だ。見たことのない楽器だが-弾いているのは若い男か?いい面をしている。
さっきの女よりかはマトモそうだ。演奏が終わったので、輪ゴムで丸めた紙幣を投げてやる。だが男はそれを手で弾いた。
「金をもらうために弾いたんじゃない」
なかなかの仏頂面だ。ますます気に入った。
「俺の仕事は演奏家じゃあない」
「そうか。侮辱したようで悪かったな」
ああいうストイックな男が増えれば、俺ももう少し生きやすくなる。世界中のデジタルワイフ持ち共も、奴を見習って欲しいものだ。
そう思っていると、男が一人肩にぶつかってきた。
次から次へと−目まぐるしいことこの上ないな。
「ああ!ごめんなさい、ぶつかっちゃって…」
男は最初に慌てて謝ってきた。大人しそうなツラだ。草食系ってやつか?先ほどの仏頂面程の男はなかなかいないだろうが-
余所見でもしていたのか?と俺が聞く前に、四人程のチンピラが現れる。
「おいおい兄ちゃんよぉ!俺らはただ遊んでただけだぜぇ?」
「邪魔してくれちゃってさあ」
「嘘を言わないで下さい。彼、痛がってたじゃないですか」
向こうには蹲る浮浪者。成程、強盗か、理由のない傷害行為か。この草食男は優しさに溢れているようだ。庇って返り討ちと。
こんな日も金稼ぎのお時間ということだ。
「丁度良い。屋台で飯を買おうと思っていた」
「なんだぁ、てめえ!そいつを庇おうってのか!」
クズの1人の鼻に拳骨を叩き込み、間髪入れて腕をへし折る。そこからはお楽しみの始まりだ。
二分ほどの後、地面にクズ共が寝転がっていた。楽な仕事だ
「ぐええ…腕が…俺の腕が…」
「助けて、助けて、殺さないで…」
「いてえよお。いてえよお!」
優男が助けた浮浪者は既に逃げ去った。恩知らずの社会不適合者め
「あ、ありがとうございます。でも、ここまですることは…」
「クズはクズらしく地べたを舐めれば良い。それに」
クズの一人の手を踏み躙る。足に、骨がいくつも折れた感触。
「あぎぃいいっ!!」
悲鳴をあげて、クズの手からナイフが零れ落ちる。
「クズらしい凶器だ。これでお前は殺されたかもしれん」
「それは…」
ふん。言葉も出せないか?とりあえずとっとと財布を頂戴して…
「病院に連れていきましょう。早く!」
「そこまでは面倒を見れん」
「でも!」
「精々警察に突き出してやれば良い」
「そんな…貴方は、人を助けてくれる良い人だって…思ったのに」
優しい奴だが、甘いな
「クズは人間じゃない」
面倒だ。財布も取ったし離れるに限る。
「俺は、ユージン・馬です!」
優男は聞いてもいないのに自己紹介を始めた
「きょ、今日はありがとう。いつかまた会いましょう…」
人の良さそうなツラだ。いつもこうやってベラベラ人に構ってるなら、コイツはいつか相当酷い目に遭うだろう。



WJ'sDiary (汚れていて読めない)年 九月十二日
昨日はチンピラから巻き上げた金でそこそこのホテルに泊まった。しかし実はこれからどうするべきか決まっていない。技仙領に来たのはリュミエール領から離れたいというだけだったからだ。別に他の何かがあったわけでも無い。たまたま気が向いただけだ。
起きてから『顔』のほつれを直す。予備は何枚かあるが、無駄遣いするつもりはない。
裁縫をやっている最中の俺の部屋に、やかましいノックオンが響いた。誰だ騒々しい。国家時代のチャイナは相当にデリカシーのない国だと記憶しているが、企業の時代になってもそんな礼儀知らずが蔓延っているのか?
「がははは!ようよう、調子はどうだマスクマン!」
ドアを開けると、熊のような男が立っていた。熊-いやゴリラか?人種的にイエローモンキーだろうから大猿でいいか
「おい、何の用だ貴様」
暗殺者ならこんな真似はすまい。向こうから出向いたということは、それなりの理由があるはずだが-どうだ?
「早速だが、飲みに行こう!」
何を言ってる、この男は?こいつ、歳は50ありそうなのに朝っぱらから酒を飲みたがるとは-いや、会話をする場所を用意しているということか。ふん、殊勝なことだ
「良いだろう。案内してもらおうか」
「そうこなくては!話が早くて大変助かる」
ちょうど暇をしていたところだ。
迂闊なように思えるが、虎穴に入らずんば虎子を得ずというやつだ。何もせずぶらつくよりかははるかに収穫があるだろう。それに-
「おい、貴様」
「なんだ?」
「ジョン・ウーだな?アレクトリス9位の」
「おやおや知っていてくれたか、こりゃ恐縮!がははは」
有名人がわざわざ出向いたからには-
なにかがある。そのために、こいつらがすぐに俺を始末するつもりはないだろう。
「お前さんも有名人だぞ、一部の人間にとってはな!」
「タレントになった覚えはない」
「いいや、タレント同然の有名人だとも!なにせ世界中で発見されるマスクの怪人!企業の機密すら片手間に手に入れられる恐怖の男とな」
簡単に言うなよ大猿が。貴様らが秘密主義に拘るせいで俺がどれだけ苦労したと思ってる。「予防接種」が効果を発揮した時も何度かあったんだ
「着いた、ここの45階だ」
数分歩いてたどり着いたのは、高層ビル。そこから更にエレベーターで登り、ようやく無駄な装飾で飾り付けられた中華料理屋に到着する。
大猿は奥のテーブル席に座り、大声で言った
「料理も酒もたっぷりある。さあさあ飲んで食って語り明かそう!」
様々な料理が来る。麻婆豆腐、回鍋肉、水母沙拉、雲呑、蛋黄醤、北京鴨、肉饅頭、番茄蛋汤。二人で食うとしてもかなりの量だ。こいつ、立場はこちらが上だということをアピールするために奮発したな?
「酒もあるぞ、大体の品は置いてあるそうだ!ビールか?ワインか?紹興酒か?テキーラもいいぞ!」
鼻で笑ってやってから、言う
「断る。さっさと要件を話せ」
ポケットから昨日の屋台で買った揚げパンを取り出し、マスクの一部を開いてかぶりつく。そして別のポケットから水のボトルを取り出し、呷る
これは明確な拒否だ。毒物を警戒する理由がない以上、俺が安っぽい食事をこいつの目の前で食う必要はない。これは単に『お前らを信用していない』と言うサインに過ぎない
「企業の犬と無駄なお喋りをする気は、ない」
揚げパンの包み紙を放り、マスクを閉じる。ジョン・ウーの顔からは笑顔が消えていた
「不味そうに食うな。こっちも食欲が萎えちまうよ」
知ったことではない
「良いから要件を言え」
あからさまにイラついた態度をとって、相手を急かす。しかし大猿野郎はマイペースに豚足をかじる。この野郎
「…お前さん、自分の正義を探してるそうだな」
「誰から聞いた」
「リュミエール筋からさ」
「なるほどな」
雌狐がチクりやがったか。技仙には来るべきではなかった。
「マスクの狂人ってのは巷では有名だぜ」
「貴様ら程のものではない。安心してスター面していろ」
「そんなアンタが、そんなことのために世界中回ってるなんてな」
口が回る。本社の入れ知恵か?それともコイツ自身の頭か?
「ここに招待したのは、御察しの通り暗殺じゃあない。勧誘だ」
「なに?」
また、突拍子もない-一体何を企んでいる?
「お前さんは有名人だ。仲間も後ろ盾もない一般人の身の上で、企業の機密をいくつか持っているほどの人間…実力もそこそこ。これで資金面援助をしてやれば、即戦力のスパイだ」
そういうことか。
「聞いたぜ、ミーム殺害エージェントに耐性があるんだってな」
「誰から聞いた?」
「アンタが機密を盗んだ企業からさ。ミームで守っていた機密が何者かに見られたってな」
「だったら?」
「そんなストロングなスパイ、これまでに聞いたことがない。是非ウチで諜報員をやってほしい」
寝言は寝て言え
「お断りだ」
「ほう?」
「軍事機密マニアのイエローモンキー共が。自分達でも全て管理できていない癖に、まだ機密を蓄えようとしているのか?」
大猿の箸の動きが止まる。いい気味だ。
「今確信した。貴様らに正義はない」
失せろ、と言いたいところだが招待されたのはこちらだ。出て行くしかない
出て行こうとした矢先、大猿野郎が引き止めてきた
「せめて一杯飲んで行かないか?」
俺はこう返す
「断る。『死ぬほど』酔いたくはない」
店を後にし、窓にワイヤーガンを撃つ。ビルの壁を伝って降りる。ビルの中にいる俺を捕まえたい連中を警戒したからだ
俺が素直にエレベータを使うと思ったのか?
出る前にいたホテルに荷物は置いていない。このまま逃避行を敢行するとしよう
面倒なことにしてくれた。ここはリュミエールよりかはまともかと思ったが、俺の見当違いだったらしい
クソッタレめ


WJ'sDiary (汚れていて読めない)年 九月十三日
歩き回りながら夜を越し、腹が減ったので目に止まった焼き飯屋に入ってみる。
「いらっしゃい!お客だよ、ウズマ!」
「はーい、ニイハオ!いらっしゃいませ〜!」
ふざけやがって。浅黒い肌と、蒼いつり目。アレクトリス3位のエンヘドゥアンナだ
こんな所にもアレクトリスのランカーがいやがるのか
技仙で一番強い女がなんでこんな寂れた飯屋にいるんだ!
「あれ?お客さんどうしたの」
「飯はいらん。店を間違えた」
「ちょっと、冷やかし?」
追及を受ける前に店を出る。技仙からはとっととおさらばするに限る。
イエローモンキー共め。
ほとぼりが冷めるまでアレクトリスから離れることにする。CDとの戦場を抜ければ『国境』は検問を受けずに突破できるだろう
それまで砲火をくぐる必要があるが-まあ、背に腹は代えられん
次の目的地は、CDグループだ
最終更新:2018年04月21日 15:47