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警告:このSSは「テウルギア」の設定が完全に構築される前に作成された、プロトタイプSSです。最終的な世界観・設定とは齟齬がある可能性をご了承ください。
アルセナル部長級月報会議
written by LINSTANT0000



私はカルセドニー。コラ・ヴォイエンニー・アルセナルで財務部長を拝命している、しがない一社員です。
今日は面倒なことに、月報会議の司会をしなければいけません。非常に面倒ですが終わらなければ集中して業務にあたることもできないので、あきらめなくては。
立ち上げた3Dモニターに、見飽きた連中の顔が映ります。全員私より年上ですが、なんとも湿気た面を晒しているものです。時間短縮のために、会議を全力で早回しすることを決意しました。

「今回の司会を勤めるカルセドニーです。面倒なんで早く終わらせましょう。では外務から」
「相変わらず適当な上にムカつく声だね。」

余計な口を開く若作り性別不明ババアは、アンジェリーナ外務部長。本当に空気が読めない上に他人の事を考えないババアは迷惑ですね。

さて、先日からアレクトリスの優良光学系中小企業に関する売り情報を流していましたが、本当に売りを始めましょう。売却コマンドを打ち込み、市場に揺さぶりを掛けます。

「今社長資産の取引が熱いんでこんなことに時間使いたくないんですよね。なので早くしてください。」
「チッ、前月はMADISに入り込んでたEAA系マフィアとSSCN領ギリギリにあったテロリスト養成キャンプを根切りにしたぐらいさね。マフィアについては背後関係を洗ってる。以上だ。」

まったく、仕事はそれなりにできるのですから、もう少し周りのことを考えてはどうなのですか。それにしてもEAAは本当に邪魔です。領境警備について追加予算の検討をさせる必要があるでしょう。ああ、株式市場を混乱させますか。今回の報復措置です。

おっと、間抜けどもが情報に踊らされましたね?多少売りを浴びせた程度でみるみる株価を下げてくれるとはありがたい話です。

「では内務。」
「はぁい。まーた性懲りもなくカルタガリアが送り込んできた攻性工作員4名を捕殺。最近判明した技仙の長期スリーパー7人に首輪付けの真っ最中よぉ?」

ヤーナ内務部長が簡潔な報告をしましたね。若作り年齢不詳ババアもやればできるではないですか。ぜひこれからも続けてほしいものです。

とどめ代わりに追加で売りを浴びせておきましょう。

「通商。」
「表は例年通りの状況にある。パラディソからの輸入量が増し、他企業からの生鮮食品の輸入量が減っている訳だ。最悪だな。」
「マジか、くそったれめ。」

マカロフ通商部長は本当に悪化する状況を伝えてきましたね。その巨大な腹には悪意と脂肪しか詰まっていないのでしょうか。
データを見る限り領内の栄養バランスには問題がないようですが、生鮮食品の輸入量が落ちるのは本当に痛い。上手い飯を食えないというのは領民感情を悪化させますから。アンジェリーナ外務部長が悪態をつくのもわかるというものです。

さて、ここらが底値でしょうかね?資金は万全。買い注文を叩き込みます。

「現在ヤロヴィトを中心に中央アジア貿易の活性化を画策中だが、食品についてのCDの締め上げが例年以上に厳しくなっている。あまり期待はしないでくれ。」

近年のCD本体からの締め付けが、経済動態に影響を及ぼし始めているのは確かです。例年アストラハン食糧公社から購入していた冷凍食料にすら、輸入量制限をかけてきましたからね。まったく、こちらの割り当てを2000トンも減らしてくるとは。そのうち報復処置が必要でしょう。

株の方は上手いこと底値で拾えたようで何よりです。後は上昇トレンドを構築しつつ、途中で売り抜けていきましょう。

「それと、最近大型の武器弾薬を中心にブラックマーケットに活性化の兆候がある。内務は注意を。」
「そっちもそう分析したのねぇ?なら間違いないかぁ。」

通商部長の報告に、内務部長が両手を上げて答えました。ババアの瞳が濁ったので、厄介な状況なのは間違いないようですね。活動用の追加予算を検討させましょうか。手元の通信機で内務担当に作戦行動の概算作成を命じ、取引の方に意識を戻しました。

画面の上では、株価が乱高下を繰り返しながら徐々に元値に戻るグラフが描かれていました。さて、今回恩を売りつける予定のアレクトリスの投資会社に偽情報を流しておきましょう。
"膨大な売り注文を出したら一気に買え、我々が上昇トレンドを加速させる"と。

「以上ですか?では資源管理。」
「今月超深度資源基地がメンテナンスで停止です。備蓄資源の放出で対応しますが、使いすぎないでいただきたい。」

ボリス資源管理部長の報告は年に一度の定期メンテナンスですので、これはどうしようもないことです。作業部隊向けに特別予算を執行しましょう。最重要拠点の整備にやる気を出してもらい、万全を確保できるなら安い出費です。
それにしても横領する分が減るからと言って、資源の使い過ぎをとがめるとは。適切な執行を行うよう監視を強めなくてはいけませんか?面倒なのでやりたくはないんですが。

投資会社から良い返事が帰ってきましたね。まぁ、今回の取引がうまくいけば優良中小企業の経営権を握ることすら可能な量の株を手に入れられる上に、企業としての資産評価が高まるのですから当然です。

「運輸管制。」
「前月の襲撃が9件、内一回は装甲列車中破、マゲイア2機損耗する規模でした。現在統合軍に討伐要請しています。」

ダニール運輸管制部長の報告では撃破されたのは旧型の装甲列車ですか。修理でもいいですが新型への更新も検討させましょう。こういった機会に装備更新を図った方が他部署への通りがいいですし。マゲイアは予備機含め購入させなくては。

今回のこちらの利益をわざわざ相手にくれてやるというバカげた話ですが、定期的に恩を売ることで大きなヤマに巻き込むのが容易になります。たしか東洋の諺で、損して得取れというやつでしたか。

「農林水産」
「今期の収穫は例年通り。新しい偽装農業用地下坑の予算案を財務に提出した。」

イラリオン農林水産部長に提出された計画案は、建設予算をケチりすぎという印象を受けました。いくら貧民が労働者とはいえ、もう少し払わないと作業の質に問題が出かねません。

さて、売り抜けも終わりましたし、私の報告の方に移るとしましょうか。

「では財務から。前月のGDP成長率は前年比3.7%増でした。年次目標4.0%に届いていません。原因は鉱産資源の売上低下なので資源管理が何とかしてください。」
「また無茶を言う。」

ふざけた結果を齎したボリス資源部長に視線をやれば、ずいぶんと嫌そうな表情を浮かべています。年次目標を割り込んだのは、低成長率しか出せない貴方の指導力不足なのですがわかっているのでしょうか。

「運輸管制、統合軍からの要請を受け、統合軍に緊急予算を拠出しました。今週には動くはずです。」
「迅速な対応に感謝します。」

こちらの報告に、運輸部長が頭を下げます。私はごく当然の手続きをしているだけなので頭を下げてもらっても困るのですが。まぁ、これが運輸部長の人柄といえばそんなものですかね?

「農林水産の偽装農業地下坑については建築予算をケチり過ぎなので、担当官同士ですり合わせをさせます。工事業者相手のケチは身を滅ぼしますので。」
「わかった。日時を担当官に伝えてくれ、その方向で進めさせる。」

ケチ根性を仕事に持ち込む男ですが、修正することを嫌がらないのでまだましです。手間が増えるのでいい加減くせを直してほしい所ですが。
とりあえずどうでもいい内容は報告し終えましたし、今日伝えなくてはならないことを報告することとしましょう。

「そして重要な報告ですが、前月22日を持って、社長からお預かりしているお小遣いが、資産運用により評価額1兆VAR(ヴォイエンニーアルセナルルーブル)を達成しました。」

これは社長に報告した際に、椅子から転げ落ちてしまわれた程度の偉業です。まったく、協力してくれた部下たちには私的にボーナスを出さねばなりません。

「まさに壮挙と言って良い偉業であり、これも全て我らに1000万VARを一度にお預け下さった社長の英断によるものと愚考す、」
「ちょっと待った!」
「なんですか人が社長を讃えている最中に。」

本当に一体何ですかこの空気読めないババアは。人が社長を讃えるのに忙しいというのに。この男女やはり反社長主義者だとでもいうのでしょうか。

「1兆VARってお前!」
「1兆VAR、アルセナルの年間売上と変わりませんね。大した額ではありません。」

たかが一基幹企業の年間売上ですよ?世界経済の規模からしたら大したものではありません。

「個人が持って良い金額じゃ無いだろう?」
「はて?VARの対基軸通貨レートがあまり高くない関係で、この額では世界の資産家1000に滑り込めるかというか程度ですが?」

世の中にはこの程度の資産額では、足元にも及ばない人間がわんさかいるものです。例えばクロノワール家やハプスブルク=ロートリンゲン家はここからすら桁違いの評価額になります。それらの家の場合、保有する旧暦由来の美術品がすさまじいというのもありますが。

「■■■■■■■■!!!!!!」
「はいはい、興奮しないのリーザちゃん。ところで何をやらかしたのかなー?」
「やらかしたとは失礼な。財務部内でお嬢様お小遣い運用専属タスクフォースを選抜し、私自ら陣頭指揮を執っただけです。」

どうやって出したかわからない不明瞭な喚き声をあげる外務部長を内務部長が押さえます。それにしても二人はなぜ同じ部屋にいるのでしょうね?
それはどうでもいいとして、お嬢様からお小遣いの使い道を聞かれたときには驚きました。1000万VARの入った口座を私に見せ、「どう使ったらいいかわからないから、貴方に預けたい。」と半泣きで相談しに来られましたからね。
もちろん「適切に処理しておきます。」と即答し、笑顔で去られるお嬢様のために全力で資産運用させていただきましたが。

「仕事はどうした!片手間に出来る事ではあるまい!」
「財務の部長決済案件は投資の休憩中にこなしていますよ。就任以来私が決裁した案件で財務部由来のインシデントは一件もありません。それに財務部単体では毎期二桁成長を達成していますので、文句は言わせません。」

騒ぎ立てる資源管理部長に、財務部の現実を突きつけます。去年も資源管理部が派手に赤字を垂れ流したときに補填したのは財務です。どうやったら鉱山帯をまとめて一つ崩せるのか。
まぁ、秘密鉱山を拡張しようとして山体崩壊させたのはわかっていますが。

「資源管理の資産運用をお願いしたくなる成果ですな。」
「資源管理は横流しと横領で十分潤っているでしょう。今年稼働したウラルの隠し鉱山、随分良質の鉄が出るようですね?」
「何の事やらさっぱりですな。話は変わりますがこの後お時間をいただけますかな?今後の資源納入計画についてご相談させていただきたい。」

この期に及んで嫌味を言ってくるとは。大分儲けているのは把握しています。追徴課税してもいいのですよ?
もちろん、新しい上質な鉄が企業を潤すのは素晴らしいことなのでその会合には応じましょう。

「はは、資源管理はいつも通りだな?」
「羽振りが良くてうらやましい限りです。」
「農水も新しい地下秘匿完全養殖場がずいぶんにぎわっているようですね。運輸管制も関わって領外で売りさばき、かなり利益を上げているようですがそれでも資金が足りないと?」
「そんな施設があるのですか?不思議なことがあるものですな。そうそう、新しく養殖魚が実売ラインにのせられるので販売計画を提出しましょう。」
「我々は紛れ込んだ行先不明の品を適切に処理しているだけだ。もちろん、利益については詳細に報告させてもらうとも。」

寝ぼけたことを言う農水部長と運輸部長にも釘を刺します。せっかくの上質な、それも冷凍されない生鮮食品を領外に流すとは何たる愚行か。足がつかないように工夫する努力は認めますが、結局我々に捕捉されるような近場で捌けばすぐにばれることまで考慮してほしいものです。

「外務と内務からは何か?」
「うちも内務も何も言わないさ。領収書出せば経費出るしな。」
「どうせ把握されてますしぃ。隠したところでつつかれるだけですぅ。」

若作り妖怪ババアどもはずいぶん殊勝ですね。何か変なものでも食べたのでしょうか?

「それは良いことですが、外務は領外で金を使いすぎです。何件か現地捜査機関に動向を捕まれかけていますよ?ああ、捜査員のリスト、各地警察機構の見取り図、データサーバーの所在について書類を送ります。」
「チッ、ありがとよ。部内の引き締めが必要だなクソが。」

外務が外の、それも地方捜査当局に尻尾を捕まれかけたのは、確かに引き締めが必要な事柄でしょう。ですが、彼らの金遣いの荒さの要因の一つは貴女ですよ?

「それとアンジェリーナ外務部長。貴女が個人的に技仙から密輸した刀剣銃器類に、貴金属メッキや香木、象牙の類を取り付け彫金を施す作業ですが、それは戦略上重要な改良とは言えませんので経費とは認めません。」
「見た目が劇的に改良されてるだろ!私のやる気が向上すんだよ!」
「一昨日来てください。」

締め日寸前に大量に回ってきた領収書です。個人用の刀剣銃器の改良、それもこんな内容が通ると本当に思ったのでしょうか?
ま、思ったのでしょうね。
騒ぐ戯けを一言で切り捨てます。

「それは流石に経費として認められないと思うよ、リーナちゃん。」
「内務は交際費決済が多すぎます。特にヤーナ内務部長、交際費は貴女の夜の生活のためにある制度ではありません。」

外務部長をどや顔で窘める内務部長ですが、貴女はもっとひどい。何を考えて365日毎日2~3件分の領収書を回してくるのですか。キャバクラから会員制クラブ、場末の風俗まで幅広く利用しているのが分かりますが、問題はそこではありません。

「れっきとした諜報活動ですぅ!リクルートも兼ねてるんですから、ちゃんと経費として処理してくださいねぇ?」
「ほとんどは認めます。ですが11日に会員制ホテルの最上階を借り切ってアルセナル中の女性専門超高級コールガール呼びつけた件はダメです。」
「なんでよぉ!?」

ええ、貴方の主張は認めましょう。そういった諜報活動の成果は認めます。実際、数多くの敵対的諜報活動への妨害や反企業組織の壊滅に役立っていますから。ですが今回の件については断固認めません。ええ、ダメですとも。

「完全に乱交大会だったのを、参加したコールガール全員から聴取して把握しています。交通費まで出したそうですね?なのでダメです。」
「そんなぁ!?350万VARもかかったのにぃ!?」
「バカかこいつ。」

こちらが把握している情報を叩きつけると、内務部長はテーブルに突っ伏しました。隣に座っている外務部長があきれ果てているのがよくわかります。

「リーナちゃんマジレスはひどいよぉ!でもあの日は最高でしたぐへへ。」
「バカだこいつ。」

突然体を起こした内務部長ですが、当日のことを思い出したのか口からよだれをたらしそうな、見るも無残な表情をしています。気持ち悪いですね。
外務部長も椅子を引き、明らかに距離を取りました。

「本題に戻ります。つい最近のリュミエール事変における賠償を可能な限り自分で行いたいという申し出が社長からありました。我々に少しでも苦労をさせまいという太陽のごとき慈愛から出たお言葉です。平伏の上、感動のあまり咽び泣きなさい。」

涙を流しながら告げられたお言葉は、我々財務の心を打ちました。そのお言葉と計り知れない慈愛を胸に、部下たちは自ら時間外投資業務に励み、これだけの偉業を成し遂げたのです。私もまだまだですね。お嬢様のお言葉一つでこれだけの成果を上げられるとは、彼らのポテンシャルを見誤っていたようです。
今日から仕事量を増やしましょう。そうですね、二倍はいけます。

「んなもんここで報告することかよ。尻拭いなら勝手にやってろ。」
「皆さんにも関係があります。この賠償は余裕で行えますが、守銭奴どもは現金をご所望です。なので3500億VAR分の企業債と2000億VAR分の株式で仕手戦を仕掛けます。おそらくそのあおりで数十社の中小企業が傾くでしょうがそんなもの我々には関係のない話です。」

お嬢様のお言葉を切り捨てる不敬でしたが今回は流して差し上げましょう。久方ぶりの巨額仕手戦で世界を混乱の渦に巻き込みつつ、お嬢様のお小遣いを目減りさせずに現金に換えなくてはなりません。
まったく守銭奴どもめ、お嬢様の優しさに付け込むとは何たる卑劣。後で覚悟しておけ。

「二週間かけて市場を混乱させ、危険な新興企業を狙い撃ちし貸しはがしが起きかねないレベルで追い込みをかけます。」
「社長のお小遣いを現金化しつつ、私個人と財務部が保有するファンド、財団、投資会社で敵対的買収とホワイトナイトを兼務した演劇を実施し、目的の企業を破産または傘下に収める予定です。」

ちょっとした世界規模での長期演劇を演じます。今回、もともと計画していた敵対グループに対する経済的破壊工作作戦を援用するだけでしたので、準備にはそれほど時間はかかりませんでした。終了後、おそらく千人単位で内通関連の罪で逮捕処刑される者たちが出るでしょうが、これまで十分に儲けさせてやっていたわけです。知ったことではありません。
それまでに尻尾を捕まれないようにしていた連中だけが生き残り、今後も共生関係を維持するに足る資格を持つわけですね。
何人生き残るか、いささか楽しみな所ではあります。

「皆様には市場の混乱とそれに伴う様々な工作への対策をお願いします。」

この市場経済混乱に乗じ、様々な謀略が動き出すはずです。好機とみて勢力拡大に乗り出す者、失態を覆い隠すために対外的成果を求める者、混乱の中で敵対者に致命傷を負わせるために暗躍するもの。アルセナルの内外は混沌とするでしょうが、その中であなた方に倒れられても困ります。
アルセナルは社長のために、常に盤石でなくてはいけないのですから。

「そうそう。この計画はあくまでも社長のお小遣いの現金化が目的で、新興企業買収は余禄のようなものです。ちょっとした遊びですね。まぁ、最悪この仕手戦で予想よりも利益が出なかった場合、お嬢様には私の私財から補填を行いますのでお気になさらず。」
「やっぱこいつおかしい。」
「社長第一主義すぎるだろ。」

とはいえ、あくまでも今回の仕手戦はお嬢様の願いをかなえるために行う業務です。
新興企業の入手はどうでもいいことで、できれば獲得したいところですが、しばらく拡大が止まるだけでも十分な成果と言えるでしょう。
ほかの連中が何か言っていますが当たり前のことではないでしょうか。

「当然ではないですか!前社長の時はやる気が出ませんでしたが、お嬢様のためなら何でもできますし、します。」
「わぁ、普通にアナトリーおじ様批判してるぅ。」

内務部長が私の言をとがめますが、普通の感情ですし、アルセナルの民に聞けば全員がそう答えるでしょう。アンケートを取るまでもなく、その結果は見えています。
なにしろ去年の領民投票で驚愕の98.4%の支持を集めたのですから。
100%でなかったことに驚き、思わず年次会議で調べ上げた1.6%分の名簿と同時に大規模粛清を提案しましたが、社長が却下なされたのには感動しました。
たとえ敵対的な感情を持つものであってもお許しになる社長は、やはり天使か女神というべき存在です。
個人的に1.6%には地獄を見てもらおうと思ていますが。不敬者どもめ、覚悟しておけ。

「考えてもみてください。草臥れ枯れかけた初老と、けなげで献身的な美少女。どちらの下で働きたいか。」
「「「「「「考えるまでもない!!!!!」」」」」」

考え込むことなく、私の質問に部長全員が即答しました。ま、お嬢様と前社長を比較したときにお悩みになるのは地上でたったお一人だけでしょう。
各部長の忠誠を示す言葉を録音した機材をテーブルの上に出し、停止させつつ皆に終了の言葉を贈るとしましょう。

「素晴らしい!同意を得られたようで何よりです。最も重要な皆様の社長への忠誠を確認できたところで、月報会議を終了します。お疲れさまでした。」
「「「「「「!?」」」」」」

なぜか私を見て絶句した部長たちの顔を通信機を操作して消すと、リュミエールの広報官から送られてきた社長の超高解像度プライベート写真が私を出迎えてくれました。

アリシア嬢の私室と思しき空間で、白ネコミミシッポゴスロリ鈴付赤革首輪装備の社長がアリシア嬢の膝の上に座っています。うっすらと笑みを浮かべたアリシア嬢が、デコレートされたケーキをフォークで社長に食べさせている状況です。社長は猫のようにアリシア嬢に体を摺り寄せ、とろけた瞳でどこか堕ちた笑みを浮かべています。

社長が幸せそうで何よりですね。リュミエール事変最大の収穫は、社長があこがれの人物の一人であるアリシア嬢と接触できたことでしょう。CD各社の友好度合いが判明したのもよいことですが、この写真に比べればチリも同然です。

それにしてもこれを含めた一連の写真群は素晴らしい。イヌミミではなく敢えてネコミミをチョイスする当たり、アリシア嬢の審美眼は卓越しているといってよいでしょう。子犬のように無邪気に慕って来る方ですが、その実猫のように気まぐれで相手の注目を自分に集めようとする性格です。そこまで見切ってネコミミシッポをチョイスするとは。このカルセドニー、感服せざるを得ません。

このデータを横流ししてくれたリュミエールの広報官には、後で個人的な返礼の送り物をしたくなってきました。アレクトリス傘下の優良中小企業債、株式の詰め合わせセットにでもしましょうか。そういえば広報官の人物ファイルに資産運用データはなかったですね。でしたら運用ファンドごと差し上げましょう。その方が広報官の手間も省けていいはずです。

社長の倒錯した笑みを眺めつつ食糧技術研究所の新作、カロリーブロック"Mad Freands(食べるレンガ味)"とエナジードリンク”Hell's care - Broken Heart -(飲むセメント味)”を試食します。

レンガ並みに固く、味もレンガそっくりなカロリーブロックを、セメント味の液体でふやかして食べているわけですが、唾液と混ぜることで更に味と香りが引き立ちますね。
所長曰く、これだけで生きていけると豪語した物ですが、何を考えているのでしょう。
おお、ブロークンハートの名に恥じず心臓が破裂しそうなほど過動し始めましたね。ずいぶん即効性があるようです。
間違いなく禁止薬物が何種類か入っているので査察決定ですね。たとえ入っていなくても一般販売は発売させません。自白剤代わりに使えるかもしれません、外務と内務に試供品を流しますかね?
この食料と呼ぶのも恐ろしい何かを胃に収めつつ、今後の予定と財務部の下らない書類を片付けていきます。

ああ、それにしてもなんと充実した日々なのでしょうか。

今後もお嬢様の笑顔を胸に抱き、働くことができるとは。

この身に成せる全てをもって、貴女に笑顔を齎しましょう。

私を救ってくださったナターリア様がそう望まれたのですから。

あの方は私に貴女を好きになり、貴女を守り、貴女を支えることをお命じになったのです。

だから私は命を賭して貴女を支えるのです。

CDも、EAAも、アレクトリスも。この世の全ては等しく価値が無い。

ナターリア様と、あのお方が愛を注ぐモノを除いて。

そう、全てはナターリア様の望みのままにあればいい。

ナターリア様の愛をお受けになるリュドミラお嬢様。

そうあるだけで、私の命は貴女のものなのです。

だからこそ、貴女はナターリア様の望みのままに、常に笑顔でなくてはならない。

そのために必要ならば、貴女の全てを奪いましょう。

貴女の自由を。

貴女の尊厳を。

貴女の感情を。

貴女の自我さえも。

笑うことができないならば、盲目の幸福の中に沈めましょう。

汚れたものの無い、夢幻の底に貴女を押し込めましょう。

そうならないことを祈っております。

ですからどうか、貴女は幸せの中で生きてください。

私に貴女を、ナターリア様の娘を殺させるような真似だけはさせないでください。

私が貴女に願うのは、ただそれだけなのです。