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幕間4.5 ―― 爆炎


 白の雪/黒の煙/赤の炎――雪山の一角で尚も繰り広げられる惨劇/圧倒的小規模かつ、最初に技仙の〈33式小機〉の出現から一時間と経っていない短時間=もはや惨劇の祝ぞとして顕現/標高5,000mの山間部故に他の誰にも気づかれず……どれか一人が生き残るその瞬間まで続くかと思わんばかりの惨憺たる状況。

 灰色の空をかき分けて現われた巨大な――それを突っ切り出現するシルエット=巨大な翼……二度目となる〈57戦略輸送機〉の到来。

 その内部――青年が外景を望みながら問いかける「ここが、目的地ですか?」

「そうだ」――広がる惨状を前にしても揚々さを崩さないパイロットの応答――「投下する。そろそろ準備を――」

 瞬間に空を切り裂く閃光――雷のような速度でコクピット部を貫いた狙撃=貫かれたコクピット――通信が途絶/コントロールを失った輸送機=バランスを崩して途端に傾斜。

「まさか!?」――声と共に、すでに起動していた機体を動かす=傾斜する格納庫内で姿勢を保つ/腕に持ち直した武装を展開=本来なら展開するはずだったハッチを引き裂く光の刃――瞬時に溶断されたハッチを蹴破って、それが宙に身を投げ出す。

 空中での急制動――本来とは違う場所目掛けて両腕・両足を大きく開く――叩きつける暴風を突き破り、猛スピードで落下。

 現れたテウルギア=漆黒の機体――各部のスラスターによる制動=落下状態という的そのものを打破するジグザグ起動/広がる戦場へ向けて猛進。

 圧倒的な重量による落下=生じた真っ白な煙――機体の表面である漆黒を塗り潰す/白煙を通り抜けて垣間見える光=全身を走る金色のライン/頭部に埋め込まれた真っ赤なカメラアイ。

 ――〈Ω ZERO〉が、戦場に姿を表した。

「これは、どういうことだ?」――乗り込む青年の疑念=事前に与えられていた情報との乖離=数を揃えていると告げられていたマゲイアは残り少ない/見たこともない鈍色のテウルギアが一機/閃光のような狙撃をやってのけた別の敵がどこかにいる/仲間と思しき〈33式小機〉に至っては一機しか残っていない。

 真横に迫りきた一機=SSCNのマゲイアを一閃=輸送機のハッチを切り裂いたレーザーブレード=スマッシュの輝き=たった一撃でマゲイア一機が両断/甚大な熱量に赤熱する断面部――その全てが雪中へ沈んで白い水蒸気を散らす。

「何が、起こっているんだ!?」

 絶叫する青年=ユージン・馬――前方=距離のある場所に屹立するテウルギアを一瞥。

 鈍色=武装らしい武装を所持していない/何をするための機体かもわからず/どうやって戦うかもわからず――しかし既に味方が二機も撃破されている事実=何か、尋常ではない力を持っている機体であることのみが明白。

 即座にスラスターの噴出――前方=鈍色の機体へ肉薄/しかし飛び込んできたアラートに横を向く。

 こちら目掛けて飛んできた、巨大な飛行物体――細い長方形=単にミサイルと言うには異質な形状/だが何かしらの攻撃性があることだけはわかりきっている。

 腰部から武装を展開――人間ならば拳銃に等しい大きさの小型兵装=ガジェットガン。

 見る見る接近してくる四角い物体=さながら空飛ぶコンテナへ射撃=反動なし故の精確な射撃/煌めくレーザーの光が、すぐ眼前まで迫り来た四角い物体へ飛び込む――一瞬に破砕した四角い外装/内側に入っていた異常に太い大砲のど真ん中へ吸いこまれる――点火。

 あまりにも莫大な熱量/爆轟の応酬――飛来していた勢いのまま、その爆炎が〈Ω ZERO〉を包み込んだ。
最終更新:2018年06月24日 09:12