第6幕 ―― 黄金
雪山の一角=なだらかな傾斜……数分前までは一面を埋め尽くす白のみ/現在は到るところに鉄屑が立ち並ぶ戦場/そこここに黒煙が吹き上がる=破壊され尽くした純白の景観。
残された、たった二機=〈Ω ZERO〉/鈍色のテウルギア=武器を持たない奇怪な様相。
画面の向こうを伺うユージン――敵がどう戦っているかすらわからないまま/そいつ以外に敵らしき敵が見当たらないまま。
こいつが何者なのか?/何を目的にしているのか?/なぜ戦っているのか?/どこに利害があるのか?/自分≒技仙公司へどんな思いを抱いているのか? ――その全てがわからないまま。
……戦況を未だ読めないまま――狼狽=自分が乗っていた輸送機を撃ち抜いたのは誰か?/落下と同時に飛んできたミサイルはどこからか?
明確な事実=敵であること――交わす言葉もなし。
鈍色のテウルギア――先程までマゲイアだった足元の鉄屑を蹴飛ばす/積み重なった雪に膝の下まで突き入れる/こちらを向く=真正面に、対峙する。
コクピット内=浮かぶ表示系を一瞥/動力は再び回復済み=ゴールデンラインの供給は問題なく可能/残された武装=ストリームナックル+もう一つ。
漆黒のテウルギア/鈍色のテウルギアの間に横たわる、距離・雪・沈黙……最初に一蹴した、鈍色――疾走=雪を豪然と蹴り上げる/雪中を走っているとは思えない速度=テウルギア自体の驚異的膂力。
突然に鳴り響く警告音――表示系の一つ=映り込む飛翔物体=自分を襲ったミサイルが、再び。
「まずい」=先程に味わった大爆発――ガジェットガン+片腕を一撃に喪失=まともに食らって耐えきれるか不明/思わず身構える。
しかし途端に警告音が停止――こちらに向けられていないと判明/生じる疑念:ならばどこへ?/まるで答えるようにミサイルが到着――自分と、尚も疾駆するテウルギア――その中間。
落下=巻き上がる雪塵/バラバラに破片を散らすミサイルの外装らしきもの……内部より出現する、テウルギアより長大な円錐=超・巨大な馬上槍。
「武器!?」――回避のために身構えていたはず/瞬時に体勢を立て直す「ミサイルじゃないのか」
鈍色のテウルギア――スラスターの噴出=雪の蒸発に白くなった空気が散る/突っ込んだままの足が雪を蹴散らして疾駆――勢いのままに馬上槍を拾い上げる/腰だめに構えた。
一気に詰まる距離/ほぼ一直線の軌道=突進に任せた刺突であることは明白――回避そのものは容易/だがその次=鈍色のテウルギアがどんな挙動をするか掴めず――ならば、と改めて構え直すユージン。
腰だめに拳を構える〈Ω ZERO〉=ゴールデンラインが作動――エネルギーの供給/残された腕に金色の光が集中……ストリームナックルへ。
「っ!」
刺突=馬上槍の長大さが、開いていたはずの距離を瞬時に縮める/想定通りの軌道……胸部ど真ん中=コクピット狙い。
突き出した鉄拳――槍の軌道をなぞる=馬上槍の尖端へ……炸裂する閃光が周囲を埋め尽くす。
生じた爆発=衝撃に揺さぶられる機体/画面を埋め尽くす紅蓮――眉根に寄せたしわ=馬上槍が単なる金属の塊なら、爆発しないはず/鳴り響く警告音――腕にわずかな損傷=稼働に支障なし/ストリームナックルが爆発の煽りを受け破断。
燃え広がる炎の向こう――垣間見える鈍色/煽る炎を反射して緋色にチラつく。
接近戦を想定された〈Ω ZERO〉――距離を開ければ、攻撃手段を失うに等しい/次に何が飛んでくるかわからない。
即断=後退。
〈Ω ZERO〉=片腕しか残されていない/武器さえ損失……単純な徒手空拳で、片腕のみで両手を相手取らなければならない――勝ち目が見えない。
加えて確信=ある程度開かれていたはずの距離を、わざわざ突っ込んできた鈍色のテウルギア――ならば次もその可能性が大きい。
緋焔を押し退ける鋼鉄の塊/想定通りに、前へ踏み出した鈍色――武器すらない手持ちで、それでも尚突き進む過激な攻勢。
ユージン=表示枠を一瞥――片腕がない/ストリームナックルもない/ガジェットガンもない……だが、まだ片腕がある/もう一つがある。
本来ならば推奨されない武装――しかしこれしか残れされていない/使わない手立てはない/眼前の敵を葬るための、唯一の力。
「今なら……使わせてくれるか?」=使う、という断言ではない/今にも打ち負かされんという状況でも、強引さを駆使できない下手の質問・要請――依然沈黙を貫く、もう一人へ=レメゲトン:ジェットバッシャーへ。
『――〈ジャッジメント〉の使用を許可する』――解答=徹底された機械的にして冷厳なる女性の声。
背部=幾多ものセキュリティが解除……手中へ収められる巨大な柄/即座にエネルギーラインと接続。漆黒の機体を迸る黄金の輝き……再びその手へ/巨大な柄へ=莫大なエネルギーを供給。
『エネルギー供給に支障あり』――ジェットバッシャー/感情を介在しない機械そのものを具現化した音声『供給効率の低下に伴い、出力制限を施行。60%に……』
激突音がコクピット内を反響/前のめりに倒れそうになる機体/前へ半歩を踏み出して制御/警告音が損害を逐一報告――背中のど真ん中に被弾――内部機械に損傷が出た=装甲が打ち破られたか、装甲そのものが凹んだか……どちらにせよ並大抵の威力ではないことは明確。
「なっ」=表示を見て困惑――振り返る瞬間すらない/レーダーの範囲内、背後に敵影を見つけられず=それほどの遠方、あるいは潜んでいるか……だが明確な敵からの攻撃「狙撃……?」
直後に駆ける紫電/目の前で炸裂=鈍色のテウルギアとの間/雪に突如として開く穴・底の黒々した岩肌が露出。
外した――とはいえ、狙撃とは思えないほど短い発射間隔=このまま被弾を繰り返せば、いくら頑強な〈Ω ZERO〉の装甲といえど長くは保たない。
眼前――鈍色のテウルギアの元へ、再び落着したミサイル=飛び散った外装の中が露出――拾い上げられた大砲。
「挟み撃ちか!」
だがユージンに可能な手立ては一つのみ/たった一つだけの武器=〈ジャッジメント〉――出力に制限がかかっていようとも/眼前の敵へ……鈍色のテウルギアへ。
背後より降り注ぐ雨/駆け抜ける横殴りの砲弾/紫電の煌めきに明滅する画面……唯一見える眼前の敵へ、振り被る。
瞬く閃光/降り注ぐ紫電とは比べ物にならない、周囲に漲る黄金の輝き――大気を切り裂き/雪原をかち割り/岩肌を抉り取る……その軌道にある物体全てを、〈ジャッジメント〉が破断した。
黄金に触れた雪が、たちまち蒸発して吹き荒れる/標高故に一瞬で白く凍りつく/画面を埋め尽くす白一色。
エネルギーの損耗=〈Ω ZERO〉の稼働効率が一時的に減少……振り下ろしたままの姿勢で固まらざるを得ない。
画面の向こう/白煙の奥/切り裂いたはずの地平――鳴り響く爆轟が白煙を蹴散らして、その姿を表す……まだ、鈍色はいた。
スマッシュに喪失した頭部/片腕もどこかへ消滅/胸部に巨大な穴/穴を中心に全身へ走るヒビ……だがまだ、鈍色は立っている。
冷たい手が背筋を鷲掴みにする/体温が下がっていくような怖気が、肌を泡立たせる。
「……このまま、消耗戦は……!」
最終更新:2018年08月01日 18:09