悪竜騎士と黄金剣姫-04-
written by LINSTANT0000
注意、これは設定が固まる前の創作物です。まともな剣術描写はほとんどないので、期待しないでほしい。
また、この作品に登場するテウルゴスは特別な訓練を受けています。絶対にまねしないで下さい。死にます。
*
星々を従える真白き夜の女王が、大地をその冷徹な輝きで照らしている。
月の青白い光に染まる荒れ地にて、剣を構える二つの巨大な影が対峙していた。
巨大な宝石をはめ込んだ黄金柄に黒赤の分厚く長い剣身を取り付けた騎士剣を、極限まで剣先を下げた愚者の構えで握る、黒金の竜鎧を纏った異形の黒騎士。
対するは黄金柄に白乳色の剣身をはめ込んだ、一目で宝剣と解る細身の長剣を雄牛の構えで握る、純白の鎧を月明かりに輝かせた白き騎士。
さながら悪竜を討ち倒す英雄譚の如き場面であった。しかし、その様相は常の物語とは異なっていた。
英雄足らんとする白き騎士は、各所から黒いオイルを血のように流し、その剣先はわずかに震えていた。
打ち倒されるべき悪竜はその総身に刻まれた灼血文様を、憤怒に燃える紅蓮竜眼を、胸に埋め込まれた陽光竜玉を輝かせ、空間を焼き払う膨大な熱量を陽炎として纏っていた。
立ち姿のみでも、その差は歴然。もはや白き騎士に成す術などなく、ただ悪竜の爪牙によって打ち砕かれ敗北を喫する事は明白だった。
「加護を寄越せ!我が愛しき三頭魔竜!」
≪我が加護を受け取りなさい!我が愛しき竜討騎士!≫
異形の竜騎士はその咢を開き、喉奥に仕込まれた強大な肺(タービン)によって大気を己の内に取り込んだ。甲高い竜声と共に取り込まれた膨大な空気は灼熱の竜玉(リアクター)によってプラズマ化され、背の竜翼から放出される。
爆発的な推力が生み出され、雷鳴の如き咆哮と同時にその巨体を前に送り出す。
「誇り高き我が父祖よ!いと高き御坐に在られる主よ!どうか私に竜狩りの力を!」
≪父祖より伝わる宝剣に御使いの加護あれ。悪しき竜を討つために主はその力を汝に与えた。≫
白き騎士もまた各所のスリットから大気を取り込み、青白い炎を背から噴き出した。はためくマントの如き噴射炎は戦士の咆哮を思わせる爆音を響かせ、絶大な推力によって白騎士を前に押し出す。
魂(リアクター)より湧き上がる聖気(エネルギー)がその身を伝い、手の宝剣から大気を焼く雷光が放出される。
瞬く間に消えていく彼我の距離。
振るわれる無数の斬線。互いの斬撃が斬撃を打ち、弾き、次の攻撃の一手とする。幾度もの攻防そのものが牽制であり、本命の一撃であった。一撃一撃に対する無数の回答の連続。一手でも損ずれば、数手先に不可避の敗着が来るだろう極限の交錯。
それでも二人は止まることも逡巡することもなく常に最高の一撃を送りあった。
近づいては離れ、剣と剣がぶつかり合うたびに閃光と火花が剣劇を彩り、鋼と鋼の打ち合いこすれる音が荒々しい戦劇音曲を奏でる。
黒騎士の剛剣と白騎士の柔剣。
全く相反するはずの二つの剣は、この時だけ重なり合っていた。
しかし永遠に続くかのごとく思われた剣舞にも、終わりがやってくる。
幾度目かの仕切り直しの後、正面から突撃して振るう剣戟。だが、これまでとは違う点があった。
「その位置から届くものか!」
黒騎士の操り手の言う通り、白騎士は半歩早く右足を地面に落とし、突きを繰り出していた。そのまま突き込めば伸び切った切っ先が黒騎士に届くことはなく、返す刃で打ち取られるだろう。悪竜騎士はわずかな落胆と共に剣を回し、左袈裟で勝負を決める構えを取ろうとした。
「穿ち貫け!真白き鋭角!」
≪一角獣・伸長機構起動!≫
だが、それこそ姫騎士が願う展開であった。姫騎士の叫びと共に、護拳に仕込まれたコンデンサーから白乳色の剣身に雷光が走る。瞬く間に細身の長剣から刺突剣へと変形し、再びの強烈な雷光と共にその伸長が止まる。
超高速度電流性形状記憶合金の瞬間的な変形が、雷瞬の間に黒騎士の長剣よりも長いリーチを生み出した。
「バカな!剣身が、伸びるだと!?」
決して届かぬはずの位置から放たれた突き。だが剣身が伸びる事でその鋭鋒は黒騎士に届く一撃となった。その差は、構えを変えた黒騎士にとって致命的なものだった。
≪させるものですか!≫
しかし黒騎士に加護を与える三頭魔竜もさるもの。踏み込んだ左足を軸にとっさに各部のスラスターをマイクロ秒単位、加圧プラズマをナノグラムオーダーで制御する。
剣を左袈裟構えに右半身を押し出す動き。着弾の瞬間、右足で地面をとらえる。迫りくる切っ先を突き出した右肩の装甲で受け流し、頬あてで逸らしていく。
肩と頬あてから大量の火花を上げさせ、黒騎士の表面装甲を削り飛ばす鋭利な切っ先。
しかし、決して深くない傷を刻み込んだだけに終わり、そのエネルギーは虚空に向かってしまう。
刺突を上に弾き飛ばした黒騎士の姿勢は、右半身が後ろに向かうベクトルを得て大きく崩れるも、それまでに得ていた推進力と灼熱した長剣に乗せた破壊力は、左半身を押し出すように体を回した。
長剣は左袈裟の軌道を描き、そのまま白騎士を襲う。
「その斬線!見切っています!」
≪最大出力!≫
白騎士は逸らされた突きの運動エネルギーに逆らうことなく前進し、右足を踏み切ることでバレルロールするように、体ごと加速した左の裏拳で振り下ろされる剣の腹をとらえた。
膨大な衝撃を側面から受け、限界になっていた黒騎士のマニピュレーターから長剣が吹き飛ばされかける。
勢いに任せて前進していた二騎が、交差する。
互いの一撃が無効化された二騎は、そのまま駆け抜けて距離を取った。崩れ切った姿勢から無茶な反撃と防御を繰り出した二騎に追撃など不可能だった。
ごくわずかな瞬間に交差した攻防は互いの機体に膨大な負荷を与えただけで終わる。
黒騎士のマニピュレーターはもはや剣を握り込むことすら困難であったし、白騎士の脚部は無茶な挙動によって分解寸前であった。
また、過剰出力を吐き出した二騎のジェネレーターは沈黙し、スラスターは爆発寸前になっていた。もはや互いの機体のもつ運動性能のみで戦わざるを得ない。
対峙する二騎は、再び剣を構えてにらみ合う。
「正真正銘、最後の一撃だ。」
「行きます!」
合図の一つもなく、まったく同じタイミングで駆け出す二騎。足音は同一。互いに全くずれはなく、繰り出す一撃もまたコクピット狙いの右刺突。
「「はあああああああ!!!!!!!!」」
そして、まったく同じタイミングで最後の一歩を踏み出す瞬間。
二騎を照らしていた月光が陰る。
「戯けどもめ。」
≪貴族も、平民も、皆聖なる王権にひれ伏すがいい!≫
「「!?」」
爆発する殺気。
二騎は鏡写しのように踏み込もうとした右足を軸に背中合わせになる。衝突による衝撃が二人を掻きまわすが、それにも構わず彼らは恐怖を振り払うがごとく剣をクロスさせるように振り上げた。
剣を掲げ、天を見上げる二騎のセンサーが捉えたのは、月を背に黒の布を脱ぎ捨てようとする黒と黄に塗り上げられた鷲頭の騎士。
そしてその手に握る"聖剣"にまとわりつく紫電の雷霆。
あってはならない存在だった。高性能機二機のセンサーを欺瞞してのけるなど。いかなる高性能ステルスか。
何よりそのカラーリング、その手に握る刃。世界にたった一機しか存在しないはずのその姿。
今この時、この場所にいるはずのない怪物。
だがその怪物が、今この瞬間確かに存在し、二人の勝負を打ち砕く。
天より落ち下る雷撃のごとき雷速の極剣は二振りの刃を弾き飛ばし、その瞬間爆轟と共に解放された大電撃が二騎を打ち据える。
並のテウルギアであれば搭乗者ごと破壊するほどの大電流。だが圧倒的な防御力と安全装備によって、黒騎士も白騎士もその身と引き換えに己が主と従者を守り切った。
ほぼ全機能が破壊され、わずかに生きている通信と外部モニターの一部が二騎のわきに降り立った鷲頭の騎士をとらえる。
「良く反応したな小僧。少しは腕を上げたか。」
≪姫もよくぞ動いた。以前であれば切り伏せられていたであろうな。≫
大地に雷剣を突き立てる鷲頭の騎士。死にかけのモニターに映るのは、白髪の矍鑠とした老人と三種の王権が置かれた玉座。
その姿に、二人のパイロットは血反吐を吐きながら叫びを上げる。
存在してはいけない存在へと。
なぜお前たちがここにいるのだと。
「ふ、ざ、けんな爺、なんで、てめぇが、ここにいやがる!」
「そ、うです、よ、フランツ、おじい様!」
大剣聖、要塞殺し、決闘騎士と呼ばれた時代遅れの怪物。
ハプスブルク=ロートリンゲン家先々代当主にして最強の傭兵と名高い傭兵王。
フランツ・ヨーゼフ・カール・アントン・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンその人と、その愛騎帝冠領へ。
勝負をぶち壊された負け犬が二匹、苦渋の滲む遠吠えを上げた。
最終更新:2018年08月15日 01:04