第二話 破滅の積み木
「えーと…君が最後の志望者だね」
「はい」
殺風景な面接室に声が響く。
「こうして募集に乗ってくれるのは嬉しいけど…ミスズ・クレナイさん、普段は一体どうしてるんだい?無職ってあるけど…」
「それは…早くして両親を病で失い、弟と妹を養わねばならなくなってしまったため、急ぎお金が手に入るアルバイトを主に収入としているからですわ。リュミエールへ向かおうにも移動費等が高くつく上に雇われる保証もなく、かと言って私の様なか弱き女ではマゲイア、テウルギアでの傭兵業などとてもなれるはずもなく…」
「それは…悪い事を聞いてしまったね。失礼した」
涙ながらに語るその女性の姿を見て、責任者の男は思わず焦り、詫びの言葉を入れる。
「事情は分かったよ。こちらとしても、熱意ある若者は歓迎だ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
男の言葉に、ミスズ─正確に言えば、偽名を使った青華の顔がパァ、と明るくなる。
「若い力で頑張ってくれ。早く就職出来るよう、こちらとしても祈っているよ」
「はい!」
その言葉を最後に、二人は部屋を出る。
翌日になれば改めてスタッフとして登録され、制服などを渡されて現場入りする事になった青華は、誰もいない廊下で一人ほくそ笑む。
『本当に呆れるほど上手い演技ですね』
不意にイヤホンから声が響く。
「あら、聞いていらしたのですか?」
『聞いていたも何も、全部筒抜けな事ぐらい貴方も分かっているでしょうに。白々しいを通り越して一周回って清々しい演技ぶりでしたよ』
「ふふふ、ありがとうございます」
誰もいない廊下を、響く通信に応じながら歩く。
『それで、これからどうなさるのですか?』
「事は明日から始めます。何、時間はたっぷりあるんですもの、少しずつ仕込んでも余裕はたっぷりですし」
明日からが楽しみね、と呟き、邪仙は建物の外へと歩いていった。
───
「ねぇ、詩姫」
「…何?」
「…もし、貴方が自分の目と腕を奪った人達と出会ったら、その時どうする?」
「…うーん…」
しばし考え込む詩姫。
イヴもその質問がそれなり以上深い所を抉るようなものであることは分かっており、答えにくい可能性も十分に織り込み済みだ。
「…分からない。凄い怒ってるかもしれないし、逆に興味無いかもしれない。そもそも、もう死んじゃってるかもしれないし。逆に貴方はどうしたい?」
「そっか…私は…どうするんだろう」
空を眺めて思考に耽る。自らを酷く傷付け、そして数多の人命を奪い地獄を作り上げたテロリスト。それを前にして、果たして私は平静を装えるのだろうか?
そんな疑問が浮かんでは消える。
「…ひとまず、捕まえて法廷に突き出すんじゃないかなぁ…よくわかんないや」
「あはは、それもそうだね。そうね…でも、それも正しいと思う」
「そうかな?」
「うん、そうだよ。だって、怒りや憎しみに我を忘れるのは簡単だけど、誰もそんなのは望んでなさそうだもん」
「そっか…」
缶ジュースを飲みながら、向こうへと飛んでいく鴉を眺める。
「亡くなった皆も、そうだと良いね」
それだけ呟いて、遠くへ消える鴉達を見送った。
最終更新:2019年02月04日 13:06