時計仕掛_2-√確定 - uma-musumeになりたい部 @ ウィキ

何やら薄暗いところに、私は立っていた。
頭上には沢山の歯車、振り向けば下への梯子、目の前にはガラス板に大きな「Ⅳ」の記号。月の光が差し込んでいる。すっげえ幻想的で綺麗(小並感)
こんなところに来たことはないけど、目の前の記号が裏返しになったギリシャ数字の"Ⅵ"だとすると多分、トレセン学園の大時計ー創立当初から保存されているーの内側か？
なにか大きな力に突き動かされるように、目の前の大きな大きな裏返しの文字盤(推定)に歩み寄る。

「…綺麗に掃除されてるなぁ」
誰一人寄りつかないような場所であるにも関わらず全く埃っぽさを感じないことに違和感を覚える。
現に今、左手で触れたステンドグラスの文字盤すら、まるで人前に至近距離で晒される場所であるかのように磨かれている。
清掃をしてくださる方々は何を思ってこんなところを掃除しているのだろうか？虚しかろうに、毎度ありがとうございます。

…気を引き締め直す。
私はいつも通り、虹色に輝く宝石でできた、自分の身長ほどあるクソデカハンマーを右手から生成する(？)
それを大きく振りかぶり、全力で文字盤に叩きつけ、

鳴り響く馬鹿でかい鐘の音に叩き起こされた。

「…なんだあの最後の急展開」

どうやら夢を見ていたようだ。そうだそうだ、ホープフルステークスに勝った後、帰ってきてシャワーも浴びずそのままベッドに飛び込んで寝たんだっけ。
にしても本当になんだったんだあの夢。神秘的な光景が突然のクソデカハンマー生成とかいう異能バトルじみた概念で台無しだよ。まあ夢ってそんなもんか(思考放棄)

「シャワー、浴びなきゃ」

チャイムが鳴ったということは、そろそろ朝5時の始業時刻なのだろう。
朝練には遅刻してしまうが、酷く体がべたついていて不快極まりない。
入寮当初に二度見したほどに劣悪なベッドを、ぎい、と鳴らして上体を起こし、何気なく枕元のウマホで時間を確認した。

「…っ！？」

現在は深夜の0時ちょうど。どう考えてもチャイムが鳴る時間ではないがそんなことはどうでもいい。

「未読LANEがカンストしてる…！？」

しかもトレーナーからも十件以上。
専属契約を結んでいる間柄ですら、未読のまま十件以上もメッセージを送るなんてことはそうそうないだろう。ましてや私はチーム所属のウマ娘、トレーナーからは事務連絡くらいしか来ないはずだ。
なんだ？一体何をやらかした？

…恐る恐る、トークを確認する。

『本ッッッ当に悔しいですね。終盤にバ群を恐れてかからなければレコード更新まで有り得たので…』

昨日の勝利インタビューがネットニュースになってる。ウマッタートレンドにも…完全に炎上というやつだ。
ただでさえベトベトな背中が脂汗という衣を纏って最悪の気分だ。
冷静に考えれば当たり前だよな…G1なんて出走できるだけでもすごい名誉なことなのに、勝った挙句あんなこと言ったらネットの海のど真ん中で地獄の門よろしく煌々と燃え盛るに決まってる。
なんならクラスメイトから私のBB素材配布動画が共有されてる。クソコラを本人に送るなこちとらガチで焦ってんだぞ。

「馬鹿やっちまったなぁ…」

トレーナーからは"ありがたいお言葉"と、今後の火消しについて早急に話し合わなければならないだとか、起きていたら返事をしてほしい、最悪明日の朝に緊急でミーティングとのこと。

私の知る限りでは真夜中に学校のチャイムが鳴る理由など考えられない。恐らく誤作動だろうが、中央トレセンの開校当初から稼働し続けている歯車仕掛けの大時計が何をどうしたら誤作動を起こすのか全くもって予想がつかない。
そんなことを考えながらシャワーを浴びた後、ミーティングに備えて再び眠りについた。

時計の夢のことは綺麗さっぱり忘れていた。