新潟ジュニアステークスを見事勝利したエノラは、浸るのも程々に次のレースに向けてトレーニングをしていた。
「エノラちゃん、次は京都ジュニアだっけ?」
「うん。私の脚が、中距離でどこまで通じるのか試したい。」
「試すならpre-opでもやれるよ?」
お試しでGIIIもどうかと思うカラレスは聞いた。
「いや、試すんじゃない。そこで通じて初めて、私は三冠に挑めるから。」
「………並走、相手繕ってくるよ。」
これがカラレスにできる精一杯。できるだけエノラの夢をサポートしなくては。
その思いを胸に、部室へと走っていった。
「エノラちゃん、次は京都ジュニアだっけ?」
「うん。私の脚が、中距離でどこまで通じるのか試したい。」
「試すならpre-opでもやれるよ?」
お試しでGIIIもどうかと思うカラレスは聞いた。
「いや、試すんじゃない。そこで通じて初めて、私は三冠に挑めるから。」
「………並走、相手繕ってくるよ。」
これがカラレスにできる精一杯。できるだけエノラの夢をサポートしなくては。
その思いを胸に、部室へと走っていった。
レースまで数週間前の話だ。
「エノラちゃんの、孤独病。」
「うん、私の孤独病がどうしたの?」
体言止めで話をされたので、蹄鉄を打っているエノラも反応する。
「治す目処とか、手立てって、あるの?」
エノラの病気を治さない限り、カラレスの孤独感も治まらないだろう。
「………分からない。でも、それを見つけるために、私は走ってるはず。」
「……そう。」
どうやったら治せるかは、今だ謎のままだ。
「…治ったらさ、エノラはどうなると思う?」
「…………………」
きっと、この声もエノラには届かなかったのだろう。
ボバーの絶叫が、部室に響き渡っていたから。
「エノラちゃんの、孤独病。」
「うん、私の孤独病がどうしたの?」
体言止めで話をされたので、蹄鉄を打っているエノラも反応する。
「治す目処とか、手立てって、あるの?」
エノラの病気を治さない限り、カラレスの孤独感も治まらないだろう。
「………分からない。でも、それを見つけるために、私は走ってるはず。」
「……そう。」
どうやったら治せるかは、今だ謎のままだ。
「…治ったらさ、エノラはどうなると思う?」
「…………………」
きっと、この声もエノラには届かなかったのだろう。
ボバーの絶叫が、部室に響き渡っていたから。
仕上がり十分、レース当日。
エノラにとっては初の中距離重賞となるが、模擬レースで散々走ってきた距離でもある。
控え室でストレッチをしていると、ドアがノックされた。
「エノラちゃん。」
「カラレス。」
入ってきたのはカラレスミラージュ。
「今日はあなただけ?」
「いや、観客席にいっぱいいるよ。」
「そう、ありがとう。」
京都ジュニアステークスということで、お土産目的で着いてきたメンバーが多いのだが。
「八ツ橋、楽しみにしててね。」
「うん、生の、こし餡のでお願い。」
こう見えてエノラはこし餡派なのだ。
細かい注文に苦笑いしつつ、カラレスは部屋を去った。
京都ジュニアステークスが、幕を開ける。
エノラにとっては初の中距離重賞となるが、模擬レースで散々走ってきた距離でもある。
控え室でストレッチをしていると、ドアがノックされた。
「エノラちゃん。」
「カラレス。」
入ってきたのはカラレスミラージュ。
「今日はあなただけ?」
「いや、観客席にいっぱいいるよ。」
「そう、ありがとう。」
京都ジュニアステークスということで、お土産目的で着いてきたメンバーが多いのだが。
「八ツ橋、楽しみにしててね。」
「うん、生の、こし餡のでお願い。」
こう見えてエノラはこし餡派なのだ。
細かい注文に苦笑いしつつ、カラレスは部屋を去った。
京都ジュニアステークスが、幕を開ける。
「ちゃんと自分のレース展開ができてるみたいだね。」
アルケミーの分析に一同が頷く。
「速度も問題ないみたいですし、勝てそう、ですね。」
オウカムーンが言う。しかしそれに、ミントクラウンは首を横に振った。
「いや、あの展開は、どこかで見たことあるぞ………」
「ん……?」
スリーピースピネルが何かに反応し空を見上げる。
「…ちょーっとホラーな予感⚡️」
独特な匂いがみんなの鼻を満たす。
「もしかして…雨?」
ポツポツとカラレスの頭からした音が、正解を伝えていた。
アルケミーの分析に一同が頷く。
「速度も問題ないみたいですし、勝てそう、ですね。」
オウカムーンが言う。しかしそれに、ミントクラウンは首を横に振った。
「いや、あの展開は、どこかで見たことあるぞ………」
「ん……?」
スリーピースピネルが何かに反応し空を見上げる。
「…ちょーっとホラーな予感⚡️」
独特な匂いがみんなの鼻を満たす。
「もしかして…雨?」
ポツポツとカラレスの頭からした音が、正解を伝えていた。
「あっ!あれ!!」
カラレスの悲鳴が耳を貫く。
コースを示す指の先は、エノラとその周りにいるウマ娘に注目させた。
ほぼ全員の顔が青くなる。
「あれって………」
「間違いない………包囲網が作られてる。」
まだ未完成で、GIII級相応の囲いでもあるが、ちょっとずつエノラを中心とした包囲網が完成してきている。
「まさか、狙って…!」
ラピッドの声はオウカムーンに遮られた。
「違う。あれは………偶然よ。」
「そんな偶然あってたまるか!」
ミントクラウンが否定するが、それでもオウカムーンは言葉を続ける。
「見て、みんなの顔。そんな事を考える余裕もないくらい必死な顔をしてる。」
「それは…そうだが……」
「恐らくみんなエノラを警戒してるんだ。それで無意識にエノラをブロックしている。」
アルケミーの推測があっているかどうかは、当人達にしか分からない。
カラレスの悲鳴が耳を貫く。
コースを示す指の先は、エノラとその周りにいるウマ娘に注目させた。
ほぼ全員の顔が青くなる。
「あれって………」
「間違いない………包囲網が作られてる。」
まだ未完成で、GIII級相応の囲いでもあるが、ちょっとずつエノラを中心とした包囲網が完成してきている。
「まさか、狙って…!」
ラピッドの声はオウカムーンに遮られた。
「違う。あれは………偶然よ。」
「そんな偶然あってたまるか!」
ミントクラウンが否定するが、それでもオウカムーンは言葉を続ける。
「見て、みんなの顔。そんな事を考える余裕もないくらい必死な顔をしてる。」
「それは…そうだが……」
「恐らくみんなエノラを警戒してるんだ。それで無意識にエノラをブロックしている。」
アルケミーの推測があっているかどうかは、当人達にしか分からない。
(そろそろ抜け出したいけど……邪魔!)
残り1000メートル、視野狭窄が始まってきたので、早々にけりをつけないといけない。
しかし、偶然が産んだ包囲網と降り注ぐ雨によって、なかなか1歩が踏み出せないでいた。
「はっ、はっ、はあっ………」
息が上がってきている。
なんとか隙間を見つけようとするが、雨で視界が遮られる。
(もうっ………どうする、私。)
ろくに正面は向けないし、足もぬかるんでいる。ラフプレー?論外だ。
(視界の欠陥が、こんなに響くなんてね…)
残り900メートル。視野狭窄は5分の1ほど。
(なにか……なにか手を…)
残り800メートル、どうしようも無いままスパートを掛けようとした、その時。
(……一か八か、やるしかない。)
閃いた。とても危険で、有効的なアイデア。
残り1000メートル、視野狭窄が始まってきたので、早々にけりをつけないといけない。
しかし、偶然が産んだ包囲網と降り注ぐ雨によって、なかなか1歩が踏み出せないでいた。
「はっ、はっ、はあっ………」
息が上がってきている。
なんとか隙間を見つけようとするが、雨で視界が遮られる。
(もうっ………どうする、私。)
ろくに正面は向けないし、足もぬかるんでいる。ラフプレー?論外だ。
(視界の欠陥が、こんなに響くなんてね…)
残り900メートル。視野狭窄は5分の1ほど。
(なにか……なにか手を…)
残り800メートル、どうしようも無いままスパートを掛けようとした、その時。
(……一か八か、やるしかない。)
閃いた。とても危険で、有効的なアイデア。
「そろそろ抜け出さないとマズイよ?あれ。」
アルケミーの言葉は、確かに真実を言っていた。
追い込み走法のエノラにしてはこの辺りで決めないとキツい距離、決めるために包囲網を突破しないといけない事もみんな分かっていた。
「でも、どうするったって……」
ミントクラウンの言葉が総意だった。
このままじゃ、エノラはバ群に沈んでいまう。
その時、エノラの中で何かが変わったのを、カラレスは感じ取った。
「えっ……」
瞬間、エノラがスパートを掛ける体勢で、一瞬止まった。
「「「えっ!?」」」
レースではあまりに大きすぎる一瞬で、エノラは包囲網を後ろから抜けた。
「まさか……」
「ウソっ……」
「いやいや……」
そこから、エノラはスパートを掛けた。
アルケミーの言葉は、確かに真実を言っていた。
追い込み走法のエノラにしてはこの辺りで決めないとキツい距離、決めるために包囲網を突破しないといけない事もみんな分かっていた。
「でも、どうするったって……」
ミントクラウンの言葉が総意だった。
このままじゃ、エノラはバ群に沈んでいまう。
その時、エノラの中で何かが変わったのを、カラレスは感じ取った。
「えっ……」
瞬間、エノラがスパートを掛ける体勢で、一瞬止まった。
「「「えっ!?」」」
レースではあまりに大きすぎる一瞬で、エノラは包囲網を後ろから抜けた。
「まさか……」
「ウソっ……」
「いやいや……」
そこから、エノラはスパートを掛けた。
「オオオオオオォォ!!!」
後ろから抜けて、大外から捲り切る。
それがエノラの思いついた解決策だった。
ぬかるみに足をとられる。雨が顔面にぶつかる。
それでも、エノラは走った。
視野狭窄が物凄い速度で拡がっていくが、それでも足を止めようとはしない。
「勝つ…勝つッ!!勝つために…!!」
腕の振りもめちゃくちゃ、目も霞んで来ている。
残り500メートル。
後ろから抜けて、大外から捲り切る。
それがエノラの思いついた解決策だった。
ぬかるみに足をとられる。雨が顔面にぶつかる。
それでも、エノラは走った。
視野狭窄が物凄い速度で拡がっていくが、それでも足を止めようとはしない。
「勝つ…勝つッ!!勝つために…!!」
腕の振りもめちゃくちゃ、目も霞んで来ている。
残り500メートル。
「あんな走りでっ…!」
エノラのめちゃくちゃな走りに一同は困惑している。
「おー、とってもライトニングな走りだね⚡️」
「………やる…」
最も、ホラーとスピネルは例外のようだが。
「ここから勝てるの!?」
「わかんない!わかんない事だらけだよっ!」
みんなが動揺する最中、カラレスは両手を組んで、エノラをじっと見つめていた。
「お願い…勝って……っ!」
エノラのめちゃくちゃな走りに一同は困惑している。
「おー、とってもライトニングな走りだね⚡️」
「………やる…」
最も、ホラーとスピネルは例外のようだが。
「ここから勝てるの!?」
「わかんない!わかんない事だらけだよっ!」
みんなが動揺する最中、カラレスは両手を組んで、エノラをじっと見つめていた。
「お願い…勝って……っ!」
「がああああアアアッ!!」
着実に先頭までの距離を詰めて行っている。
しかし、このままじゃスタミナ不足で燃え尽きてしまう。
(持たない…!いや、持たせてみせるっ!!)
残り300メートル、エノラは5番手。
「負けてたまるかアアアアッ!!!」
その時、エノラの中で、何かが光った。
着実に先頭までの距離を詰めて行っている。
しかし、このままじゃスタミナ不足で燃え尽きてしまう。
(持たない…!いや、持たせてみせるっ!!)
残り300メートル、エノラは5番手。
「負けてたまるかアアアアッ!!!」
その時、エノラの中で、何かが光った。
[Electragedy-Alone lv 1]
「なにっ………」
心做しか、脚が軽くなる。
(なんにせよ…チャンスッ!)
回復した脚を使って全力疾走。最早ほとんど前が見えないでいる。
残り100メートル。
心做しか、脚が軽くなる。
(なんにせよ…チャンスッ!)
回復した脚を使って全力疾走。最早ほとんど前が見えないでいる。
残り100メートル。
次に視界が晴れたのは、ゴールを抜けて地面に倒れた後。フラフラと立ち上がり、掲示板を見る。
「……………あっ。」
1着。
その事実が確実に映っていた。
「……やった……ガアッ…」
また頭痛、今回のは新潟のときよりもっと酷い。
エノラは、包囲網や雨、重バ場を振り切って1着でゴールした。
「……………あっ。」
1着。
その事実が確実に映っていた。
「……やった……ガアッ…」
また頭痛、今回のは新潟のときよりもっと酷い。
エノラは、包囲網や雨、重バ場を振り切って1着でゴールした。
コンコンコン、控え室のドアが叩かれる。
「あ゙あ゙…」
声にならない声で返事をし、ドアが開いた。
ドっとメンバーが押し寄せてくる。
「待って、体拭いてな…」
「凄い走りだったよ!」
「よく勝てたね!」
みんなの賛辞がエノラに降りかかる。
「待って…まっ……」
「これは八ツ橋いっぱい買わないとね!」
エノラを置いて話が進んでしまっている。
人混みをかき分けてカラレスが前に出た。
「あんな走り、初めて見た。」
「私も…初めてこんなことをしたよ……」
語尾が崩れたエノラの話し方にカラレスは少し笑う。
「ふふっ……お疲れ、エノラ。」
「うん、ありがとう、カラレス。」
健闘を称え、カラレスは人混みに戻って行った。
エノラも、自分の勝利を噛み締めることに集中していた。
「あ゙あ゙…」
声にならない声で返事をし、ドアが開いた。
ドっとメンバーが押し寄せてくる。
「待って、体拭いてな…」
「凄い走りだったよ!」
「よく勝てたね!」
みんなの賛辞がエノラに降りかかる。
「待って…まっ……」
「これは八ツ橋いっぱい買わないとね!」
エノラを置いて話が進んでしまっている。
人混みをかき分けてカラレスが前に出た。
「あんな走り、初めて見た。」
「私も…初めてこんなことをしたよ……」
語尾が崩れたエノラの話し方にカラレスは少し笑う。
「ふふっ……お疲れ、エノラ。」
「うん、ありがとう、カラレス。」
健闘を称え、カラレスは人混みに戻って行った。
エノラも、自分の勝利を噛み締めることに集中していた。