…そうか、あの皐月賞からもう百年か。
キリも良く64周目、図書室にて独り、世界の神話・伝承系の書物を机上に整然とぶちまけて、視界いっぱいの情報を一つひとつ噛み締めている。
キリも良く64周目、図書室にて独り、世界の神話・伝承系の書物を机上に整然とぶちまけて、視界いっぱいの情報を一つひとつ噛み締めている。
ここ百年の私がやっているのは専ら情報収集である。レース出走も、ひたすらに運命を覆そうとしていた昔よりは控えめにーー現に、つい一昨日に終えた皐月賞の次走はセントライト記念としたーーどうにか、我々を決まり切ったレース結果に縛りつけた"運命の神"(仮)を、ぎゃふん、と言わせるための手がかりを求め、東奔西走、文字通り海すら渡って知見を深めているわけです。
とはいえ、記憶媒体は己の身一つ。次の周回には付箋一枚たりとも引き継げないので、こうして一度得た情報も誤りがないか度々確認せねばならんのです。
とはいえ、記憶媒体は己の身一つ。次の周回には付箋一枚たりとも引き継げないので、こうして一度得た情報も誤りがないか度々確認せねばならんのです。
…いやしかし私は、皐月賞に他のレースとは一線を画す想いがある。なんせ生まれて初めて観たレースは皐月賞だったし、そのとき一緒にレースを観ていた両親も、祖母も、姉も、幼馴染も死んだ母もクソ親父も店主も妹も祖父も姉もじっちゃんも死んだ父も師範も相棒も兄貴も姉も母もあの野郎もお母様もおばあちゃんも友達も先代も幼馴染も母ちゃんも叔父さんもセバスチャンも兄もパパも姉ちゃんも、俺が皐月賞を勝ってくるのを心待ちにしてるからな。
ああいや、そう考えるとダービーも菊花も春天も秋天も有馬も全部僕が生まれて初めて観たレースだし、同じくらいたくさんの人が待っているか。
ああいや、そう考えるとダービーも菊花も春天も秋天も有馬も全部僕が生まれて初めて観たレースだし、同じくらいたくさんの人が待っているか。
思えば今までいろんなことがあった。
神話とか諸々への造詣を深めるべく、突然宗教にのめり込んてチームメイトから白い目で見られた18周目。
ヤバめのオカルト界隈に入り浸ってたのがバレて謹慎させられた23周目。
結晶を出してるのがバレて、あやうく研究材料にされかけた37周目。
今となっては楽しかった思い出である。…そんなでもないか!おのれ██教の█野郎共ガセ宗教の癖に危うく死にかけたんだぞ。…もう二十数回は不祥事晒して潰してるから気は済んでるけど。
神話とか諸々への造詣を深めるべく、突然宗教にのめり込んてチームメイトから白い目で見られた18周目。
ヤバめのオカルト界隈に入り浸ってたのがバレて謹慎させられた23周目。
結晶を出してるのがバレて、あやうく研究材料にされかけた37周目。
今となっては楽しかった思い出である。…そんなでもないか!おのれ██教の█野郎共ガセ宗教の癖に危うく死にかけたんだぞ。…もう二十数回は不祥事晒して潰してるから気は済んでるけど。
にしても、集めた情報に似通う点はあっても、私の現状と合致しない点が多い。
結局私の目の炎は誰の魂を燃やしているのだろうか。
ケース毎に受け継ぐものが違う"継承"とはなんなのか。
どうして大時計を壊すと二年の時が巻き戻るのか。
…やはり、所詮オカルトといったものなのだろうか。アプローチ変えますかね?…
結局私の目の炎は誰の魂を燃やしているのだろうか。
ケース毎に受け継ぐものが違う"継承"とはなんなのか。
どうして大時計を壊すと二年の時が巻き戻るのか。
…やはり、所詮オカルトといったものなのだろうか。アプローチ変えますかね?…
「あの、」
誰だ?
即座に姿勢を正し、動向を伺う。
即座に姿勢を正し、動向を伺う。
「そのような扱い方だと、本が傷んでしまうのですが。」
…ああ、図書委員の方でしたか。
言われてみれば、開いた本の上にまた開いた本があったり読んだ本を開いたまま裏にしていたりと乱雑に扱われている。
言われてみれば、開いた本の上にまた開いた本があったり読んだ本を開いたまま裏にしていたりと乱雑に扱われている。
「すみません!ちょっと気を配れてませんでしたね、気をつけます」
そんな可哀想な本を目につく限り手早く整頓し、他は広げたままにしてまだ居座る意思を表明する。
「…伝承に、興味がおありですか?」
…こいつマジか?
こちとら図書室の大きめの机を数時間独占してんだぞ?しかも本の内容が悉くオカルト系とかどう考えてもヤバいやつだろ。何話しかけてんだよ危険察知能力イカれてんのか?
それに注意から会話始めるとかちょっと変じゃないですかね?
こちとら図書室の大きめの机を数時間独占してんだぞ?しかも本の内容が悉くオカルト系とかどう考えてもヤバいやつだろ。何話しかけてんだよ危険察知能力イカれてんのか?
それに注意から会話始めるとかちょっと変じゃないですかね?
「神話に興味があるのでしたら、民話や寓話などにも手を出してみることをお勧めします。それらから読み取れる文化にも、神話をルーツに持つものがあったりして面白いですよ?」
面白いから、というよりは必要だから読んでるんだよなぁ。まあ面白いには面白いけど。
「例えば…"想いの力"とか。ウマ娘とヒトの魂は引き合い、共鳴してウマ娘が強くなるとか」
…ウマ娘の魂とヒトの魂…私がトレーナーと共鳴してる、っていうのは考えづらいな。割とドライな関係だし。というか名前も覚えてない。
引かれる、魂が引かれるか…私が燃料となる魂を引き寄せていたら?じゃああの黒い手はヒトの魂で、そいつらが私と共鳴しているのか?…いや、あれはウマの魂だろ。馴染むにつれてヒト視点からウマ視点の夢になってるんだから。
だとしたらなんでウマソウルが私に惹かれる?そういう体質?
…もしや、私がヒトソウルでは?
……そういや私、ウマがいるあの世界には存在しなかったな。私に宿ってるのがウマの魂じゃなくて、どこぞのヒトの魂だとしたら成績表に私の名前がないのも当たり前である。だってそんなウマ居ないんだから。
あー…となると…ウマソウルが宿るはずのウマ娘の身体に、ウマソウルと引き合うヒトの魂か…そりゃ黒い手だって嬉々として飛びつきますわな。
引かれる、魂が引かれるか…私が燃料となる魂を引き寄せていたら?じゃああの黒い手はヒトの魂で、そいつらが私と共鳴しているのか?…いや、あれはウマの魂だろ。馴染むにつれてヒト視点からウマ視点の夢になってるんだから。
だとしたらなんでウマソウルが私に惹かれる?そういう体質?
…もしや、私がヒトソウルでは?
……そういや私、ウマがいるあの世界には存在しなかったな。私に宿ってるのがウマの魂じゃなくて、どこぞのヒトの魂だとしたら成績表に私の名前がないのも当たり前である。だってそんなウマ居ないんだから。
あー…となると…ウマソウルが宿るはずのウマ娘の身体に、ウマソウルと引き合うヒトの魂か…そりゃ黒い手だって嬉々として飛びつきますわな。
「ありがとう、君のおかげで良い発想が浮かんだ」
割とあってるかもしれない。忘れないうちにメモするか。
一言の礼を残して、私は急ぎ足で自室に帰った。
一言の礼を残して、私は急ぎ足で自室に帰った。