時計仕掛_5-育成周回 - uma-musumeになりたい部 @ ウィキ

まただ。また鐘の音で目を覚ます。

2度目の二年間を駆け抜けてなお何の成果も得られなかった私は、また時計の文字盤を叩き割って時間を遡った。
今度は怪我の心配を聞き入れてもらえるように該当ウマ娘達との交流を増やしたが…時間も足りなければホープフルステークスでの失言のせいであまりにも初期好感度が低い。あと1日巻き戻ってくれたらとどれだけ願ったことか…

しかし何も進歩がなかったわけではない。
ここ2年かけて頭の中の着順表を実際のものと照合してわかったことだが、あれらには私含む一部のウマ娘の名前だけが載っていない。

名前の消され方には2パターンある。
1つは『存在自体の抹消』
出走したという事実が消去され、その分人気順が繰り上がり、最低人気として本来出走していないウマ娘が記載されているパターン。
こちらには私や母などが該当する。
2つめは『名前だけの置き換え』
人気順等に変動はなく、そのウマ娘の名前だけが全て同じものに書き換わっているパターン。
例えば、頭の中の表においてブロワイエ氏は全てモンジューという名前で記載されている。
…この気づきが、何かに繋がればいいんだけど。

一度目の皐月賞以降、毎年私に取り憑いてくるあのドス黒い手については何もわからない。
あれは1着になりたかったウマ娘の怨念で、着順表はその願望とか？…にしては抹消する相手が2着以降のことがあまりにも多すぎる。多分違う。
じゃあ、あの時引き込まれかけたみたいに一部のウマ娘を神隠ししてあの着順表に合わせようとしている？…現実の着順表を見るに結構なウマ娘が神隠しを逃れていることや、大樹のウロについて私の母に聞いても覚えがないということなので可能性は低め。
私を含む一部のウマ娘が最初から居ない並行世界から来たナニカ、というのが割としっくりくる。ただの直感だが。

あともう一つ奇妙なことに、以前の私では考えられないほどの頻度で夢を見るようになった。
会ったこともないウマ娘になって見知らぬ専属トレーナーと契約してることもあれば、レースで何故か公式に行われている賭け事を楽しんだり、前を走っている子たちを見ていたと思ったら、一瞬だけ視界が半回転してすぐに目が覚めたり…とにかくそれらに共通して言えるのは「夢の中で私は別のウマ娘になっている」ということだ。
前世の記憶ってやつなのかな？にしては多すぎるけど。

…3度目の二年間。今度は事故が起こるレースに出走して、直接順位に手を加えれば、もしかしたら…

やっぱり、今回も駄目だったよ。
五回の該当レース全てに出走、相変わらず事故は発生した。

そして今回確信した。レースの勝敗には所謂『歴史の修正力』的なものが働いている。
だっておかしいだろ？0.1秒単位で前回のタイムを更新してるのにまた写真判定で負けたんだぞ！？
ぶっちゃけ不愉快。すっっっごく不愉快である。なんだか我々の努力を否定されているような気がして。もし神がいるなら死ぬまで殴らせて欲しい。
私としては、タイムさえ良ければ順位なんて心の底からどうでもよかったが…運命とやらがどうしても気に食わない。何度でも繰り返してぶっ壊してやろうじゃないか。

と言っても、今回はいくらか勝ってるんだけどね。

何故かわからないが、私は予後不良が発生するレースでのみ勝つことができた。他の私が勝てなかったレースとは違い、1着の絶対性とでも言うべきものが無いようだ。
巷では「私が勝つと死者が出る」「私がシューズに細工をしていた」「事故が起こったから勝てた」なんて言われている。

…
事故が起こるレースを選んで出ていたからそう思われても仕方ない。それに事故は私のせいじゃないことは完全にわかってる。
わかっては、いるけれど。

…それでも、辛い。

真夜中の泣き声が、シャワーの音に掻き消されていることを祈った。