ヌーベルジェネシスのストーリーにございます。
プロローグ
Nega1:Chap-1 サクラメント大学教授監修_アメリカ合衆国ウマ娘史日本語訳版
0:Chap0 Prologue
0.5:Chap0.5 Prologue2
0.9:Chap0.9 Prologue3
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0.5:Chap0.5 Prologue2
0.9:Chap0.9 Prologue3
本編
+ | 第1話 私の名前は |
+ | 第2話 いきなりすぎんだろうが |
+ | 第1話 私の名前は |
Chap1 私の名前は
「今年のスプリンターズSもエドウィナ!
短距離三冠制覇に加えて破竹のスプリントGI4連勝をやってのけました!」
同時期の凱旋門賞と規模を同じくする、全世界のウマ娘が夢見る短距離の祭典。
今日はスプリンターズステークスだ。
もはや怒号のようにあたりに響く、観衆の歓声。
「うおおおおお、やったやった!あいつよくやってくれたよ、なあドーヴァー!」 私と共同でチームを率いる瑛人さんは、私の横でだらしなくはしゃいでいる。 「エドウィナの4連勝、私たちのチームの最多GI連勝記録更新ね。」 「しかもスプリントでだぞ!? こんなに嬉しいことはないだろ、ええ?」 私もとうとうこの大金星に心が抑えられなくなり、瑛人さんと目を合わせて喜ぶ。
これでエドウィナは私たちが担当したウマ娘史上最強のスプリンターになったはず。
でも、 「ここまでやれるエドウィナでも、まだ"スプリンター"は名乗らせてもらえないのね。」 瑛人さんも私の見ている方向に目を向け、後に顔を少ししかめた。
勝ちタイムは1分5秒2。
私たちが目標とするタイムまで、これでもまだ0.4足りない。
「今回もうまいこと走ってくれたね、あの娘。」
「あ"あ"ッぁそれより、ちょっとはしゃぎすぎた...」 「いつまで若いつもりのままでいる気? あなたも私ももう54なんだから。」 控え室で担当と3人でよろこびを分かち合った後、ウイニングライブの確認をする。 それが終わった頃、ようやく気温も30度を切って、涼しくなってきた。 12Rの開始を待つ人混みから離脱して、広場での休憩に向かう最中...
「おや、これはこれはおめでとうお二方。」
声の方をむくとかつての私のトレーナーさんが。
イカしたご自慢の車イスに乗って、それを妻のカナちゃんが押している。 「いえいえ、わざわざ気にかけていただいてありがとうございます。」 「何を言うか!この日曜とエドウィナの勝利、世界で1番楽しみにしていたのはこのワシじゃ!」 「そうなんですよ、ダンナったらスプリンターズSが待ち遠しいすぎて、 わざわざ紙のカレンダーなんて懐かしいもの買って、見つめながらニヤニヤしてて...」
すぐに私たち4人は言葉に詰まる。
きっと思っていることは一緒だけれど各々が声に出さない。
「あいつは自分たちの自慢の担当です...けど」
瑛人さんが空気を読んで皆の心の片隅にある思いを吐いた。 「けどあと0.4足りなかったですよ、ハハハ。」 「じゃな...あれから35年、未だ奴に追いつけるウマ娘はないようじゃな。 わしは、奴をうまく制御してあそこまで育て上げた当時の自分を誉めてやりたい。」 「ええ、当時はご迷惑ばかりおかけしました... 色々ありましたけれどやっぱりあの子はすごい。今となっては胸を張って自慢できる妹ですよ。」 「皆がアイツのこと誇らしく思ってるし、感謝もしてる。 個人的にはサクラメントのこととかもありますけど、何より」
「アイツがいなかったら自分たち4人、ここに居ませんもんね」
言葉もなしに皆で、ふらふらと広場にある銅像の元に吸い寄せられるように歩き寄る。
一方がもう一方の手を引っ張り、共に駆け出す2人のウマ娘の銅像。 「ふふ。この銅像を見ているとあの頃の記憶がパッと脳裏に溢れてきますね。」 「ほんとだな、全員が全員今より青臭かった。麗しきGood old days...」 皆がそれぞれ自身の古い記憶に想いを馳せているようだった。
もう世間的にも昔話の域になっちゃうのかな。
かつて世界中のスプリントを走り尽くし、最終的にGI23勝。 世界中を畏れさせた『ターフの唯一神』と称されるウマ娘がいた。
台座に彫られた、そのウマ娘の名前は...
「ヌーベルジェネシス、私の名前はヌーベルジェネシスっていいます。」
「はい、と言うことで今日からヌーベルジェネシスさんには、
このクラスの一員となって皆さんと切磋琢磨してもらいます。 質問タイムは時間がないので省いて、ここはひとつカンタンな抱負などありますか?」
ざわざわ。
こわばった表情をしながら教壇に立つウマ娘に注目が集まる。
「ねね、Ms.なんちゃら。」
先生の耳にそのウマ娘は囁く。 「その、ホーフってなんだっけ?」 「訳すならAmbition、何か思いつくものはありますか。」
先生に囁き返されたそのウマ娘は正面に向き直った。
「まだレースについて全く知らないので、
とりあえずひたすら勝ち抜くことを考えることにします。 そしてホーフとしては...
『母さんもカナ姉もまとめて超えてやろうじゃんか!』
いつかの春、陽気に包まれた日に、
とある編入生がアメリカからトレセン学園へやってきた。 この物語は彼女の珍奇で、それでいて恐ろしくつまらない第2のアスリート人生のお話。 |
+ | 第2話 いきなりすぎんだろうが |
Chap2 いきなりすぎんだろうが
はぁーっ、はぁーっ、へ”あ”ーっ。
っべ、クソほど緊張したや。
「ではヌーベルジェネシスさん、あなたには窓側のその席を使ってもらいます。お隣のスカイレジェンドさんは手を挟げて。」
「はーい。ここでーす。」
「あともう10分ほどで授業が始まりますから、ヌーベルジェネシスさんは準備を急ぐように。」
新しい担任の女はそう言い放って、早足で教室を出て行った。
私は自分のスクールバッグを手に持ち、さっき手を挟げてくれた子のもとへ向かう。
「私だけ隣の子がいなくてさ。ずっとペアワークの時組む相手がいないからずっと寂しかったんだ。きてくれて本当にありがと。先生に先に名前言われちゃったけど、スカイレジェンドって言うんだ。よろしく。」
私は———。
何かを思わずにはいられなかった。
その夏空のような瞳、冷え切った水のような、明るい水色。
私は、思わず小さな手を伸ばし、微かに振れる二重の瞳の奥をまじまじと見やった。
「えっ...」
スカイレジェンド。天空の伝説。
「やりすぎだろってくらい洗い済んだアイスブルーの瞳に、ブルーブラックって言うのかね。青みがかった美しい黒髪。君はたぶん、可愛い上にいいヤツだろ。初めて知り合うのが君でよかった。変なヤツがいないか内心心配だったけど。」
私の言葉に、教室が大きく息をのみ込んだ。
——だが、次の瞬間、スカイレジェンドは考え込んだ様に意識をただよわせた。
「うーん、えっ。なんか、ありがとう。」
そして、私の眼光を目の前にしながら、一言。
「その、私的には、ヌーベルジェネシスちゃんもかわいいと思いますです、というか。」
言い終わる前に、彼女は視線をさまよわせた。頬にわずかに赤みが差すのが見える。
「んだお前。日本語学び直してる私より言葉の詰まりが多いじゃん。」
からかうように言うと、スカイレジェンドはさらに顔を赤くし、ふっと小さく息を吐いた。
「お前もしかして、コミュニケーションが苦手か?」
その一言で、彼女の表情がぴたりと固まる。そして、わずかに眉を寄せた。
「……そんな、だって初めて口説きに来る相手が、ウマ娘だなんてそんなの、想像もしてなかったし。」
……はい?
口説いた?
言葉の意味を咀嚼する間もなく、私は周囲の視線がじわじわと集まっていることに気がついた。ちらりと見回せば、クラスメイトたちが思い思いの表情を浮かべている。驚き、興味、そして笑いを押し殺す気配。
「……いやいやいやいや!! 口説いたのと違うよ! これはその……なんか、人相を見るための私なりのやり方っていうか、癖っていうか……!」
「いやいやいや! 一応初対面でそんな紛らわしいことしないでくださいよ!」
「……あー! 距離置こうとしてしれっと丁寧語にしやがったな!」
「実際私コミュニケーションは苦手な方だし! というか準備は!? 先生に次の特別授業の準備しておけってさっき言われたでしょ!?」
「ん、やば! て言っても来たばっかだから何用意すればいいのかわかんないぃい!!」
「とりあえずノートとペン! それで凌ご!」
「押忍!」
教室内に残った妙な空気を置き去りにしたまま、私たちはばたばたと準備を始めた。
——そして、私たち二人のやり取りを、クラスは終始冷ややかな目で見つめていた。
(……ンだよあん野郎、いちいちうるせぇなあ。)
「皆さんが入学してから一年が経ちました。トレーナーが決まっている方の中には、今年デビューを迎える人も多いでしょう。本日は改めて、レースの基礎知識を復習していこうと思います。」
担任の声が教室に響く。
特別授業の内容は基礎の復習らしい。何も知らない私にとっては、まさにうってつけの授業だ。
「……このように、皆さんは下の階級から一歩ずつ経験を積み、いずれGIなどの重賞へ挑戦していくことになります。さて、ヌーベルジェネシスさん、授業のスピードは問題ありませんか?」
「はい、大丈夫です。」
まだ手首のケガのせいで綺麗な文字を書けない私は、野球時代に使っていたタブレットと、この前購入した付属キーボードでメモを取っている。
ただ、その様子を横目で見ていたスカイレジェンドをはじめ、クラスのみんなの視線が痛い。
「では、ヌーベルジェネシスさんに問題です。
トゥインクルシリーズには、在籍年数に応じて三つの階級があります。それぞれ答えられますか?」
わかるか!
私はレースのことなんて何も知らないって、さっき言っただろうが、このクソ教師!
「ん、えーっと、リトル級、ミドル級、シニア級……?」
教室に、しばしの沈黙が落ちる。
次の瞬間、笑いをこらえる声がそこかしこから漏れ出した。
「シニア級だけ、正解ですね。正式にはジュニア級、クラシック級、シニア級の三つです。」
「ジェネシスちゃん、よくこの学校に入学できたね……」
スカイレジェンドがクスクス笑いながら囁く。
私は少しムッとしながらも、まあ仕方ないか、と思う。
「……では、ヌーベルジェネシスさん。あなたは何なら知っているのですか?」
「中山レース場の直線の短さと坂の急さだけっす。あと、スプリンターズS、阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞。」
「桜花賞……では、桜花賞以外のトリプルティアラのレース二つを答えられますか?」
「トリプルティアラって、アメリカのやつじゃ?」
「日本にもありますよ……」
先生の顔が、とうとう呆れに満ちたものへと変わる。
「では、先ほどから分かりやすくウズウズしているディアーカロラインさんに、代わりに答えてもらいましょう。」
「ありがとうございます。」
ディアーカロラインは立ち上がり、自信満々に口を開いた。
「桜花賞の後は、府中2400mのオークス、そして京都2000mの秋華賞です。」
「舞台と距離まで。さすがです。」
「当然です。小さい頃からずっと夢見てきた舞台ですもの。」
誇らしげな表情を浮かべる彼女が席へ戻る時、私の方を鋭く見据えた。
(なんだあれ……もしかして睨みをきかせてるつもりなのかな。)
なんとも言えない目線が飛んできた。
きっと、私の存在が気に入らなかったのだろう。
「はい、それではトリプルティアラの一冠目である桜花賞ですが、実は昨日行われ、インセンが無敗のまま制しました。では、来週末に開催されるクラシック三冠ロードの一冠目は何でしょう。わかりますか?」
来週?
来週といえば……確か姉ちゃんのレースがあったような?
でも、あの姉ちゃんに限って、そんなクラシック三冠なんていかついレースに出られるのか?
「……もしかしたらっていう、心当たりはあるっす。でも、もし外したら恥ずいんで、ちょっと確認だけさせてください。」
「なんでしょう?」
「……来週末、の日曜日っすか?」
「はい。」
「舞台は中山レース
場の2000mですか?」
「……はい。」
「そのレースは、バカちんが出ても勝てる見込みのあるレースっすか?」
「えっ……いやぁ、多分違う……ん、そうでもないかも?」
「んー。なら、まあ……たぶん皐月賞っすね。」
唐突に出てきた「バカちん」。
そして、唐突の正解。
担任とクラスは一瞬沈黙した後、なぜか拍手が起こる。
「おお、ジェネシスちゃんお見事!なんか探偵みたい!」
と、スカイレジェンドが笑いながら言う。
「……ええ、正解は正解なのですが、さっきのくだりと『バカちん』という表現は……?」
「いやあ、違うんすよ。本気で思ってるわけじゃなくて、近しい間柄同士のじゃれ合いで。」
「そもそも姉ちゃんが出てなかったら、皐月賞ってレース自体知らなかったっすもん。」
「え?」
クラス全員の口から、驚きの声が漏れた。
『打球は合間!センター、ライト、そしてセカンドが一斉に突進する!』
『捕ったのはセカンド!スライディングしながら強引に行…セカンドランナーは飛び出している! セカンドは、おや…!これは何でしょう!?』 『受けたライトは…刺しました!セカンドランナー困惑の表情!アウトです、とても信じられないプレーが北カリフォルニアの守備から出ました!!』
『スローリプレイでご覧いただきましょう。セカンドは…捕球後、ここでトスを上げていましたか、』
『そしてそのトスを、ライトがボールに突っ込む勢いのまま、なんとセカンドのスライディングを飛び越えながら受けこれを送球しています!!!』
球場に沸き立つどよめき。スロー映像が映し出すのは、まるで計算され尽くしたかのような連携プレーだった。
「えっ……」
「待ってえぐ!マンガのタッグ技みたいでかっこいい!」
驚愕と興奮が入り混じる実況の声を背景に、私は周囲の視線に囲まれていた。
——そう、今日一日で私は散々悪目立ちしてしまった。
「カナ先輩の妹で、小学校からアメリカ行ってて……」
「元々野球の選抜選手で、北アメリカの守備王と盗塁王!?」
さっきからまるで伝説でも聞くように語られる、海の向こうに置いてきたはずの栄光。
「……すごい……」
恥ずかしさに頬を紅潮させながら、私はただ俯くことしかできなかった。
「レースについてはちんぷんかんとはいえ、ちょっと出来すぎよねぇ。」
「でしょ?あんなんでもぬべたんはすごいのです!」
「しょうがないだろ…」
耐えきれず、私は声を上げた。 「ぶっちゃけ今までレースになんて興味なくて、実技のみのアスリート特別編入枠でなんとか滑り込んだだけなんだから!」
「そっか、手のケガで野球できなくなったって言ってたもんね。レースは足しか使わないし……授業のノート取りにタブレット使ってたのも、まだ字が書けないからか」
スカイレジェンドは、まるで全てを見透かすような目で言う。
「……レジェンド、お前もう私を分かったつもりかよぅ。」
「そういえば、ジェネシスさんの呼び名ってどうしよう?」
「さっきから私、ぬべたんぬべたん呼んでるけどこれ呼び名として結構秀逸じゃない?」
「……いつから私はカワイイ系キャラになったんだよ…。」
「ぶっちゃけ、そのキャラもったいないと思うけどなー。ぬべちゃんてば、めちゃくちゃかわいいのに」
「……生まれてこのかた、一度も言われたことないけど?」
「そうよねぇ。キャラ抜いて見たら結構ラブリーな風貌していると思うわ。ホラ実際あの時のレジェンドときたら、がっつり顔赤くしちゃって…w」
「——っ!!!」
スカイレジェンドが勢いよく立ち上がる。
「あーーうるさいなー! しょうがないじゃない! びっくりしたんだもん!」
「やば、ちょっとイジりすぎちゃった。逃ーげよ」
「ちょい待て~~~!」
軽やかな足音を響かせながら、二人は廊下を駆けていった。
「……まあでも、その男の人っぽい口調とか、アウトロー系みたいなキャラ付けは、たぶんやめたほうがいいと思うな」
クラスメイトのひとりが、ふと首を傾げながら言う。
「キャラとかじゃなくて、アメリカ滞在歴が長すぎて、実はこれが素なんよ。……まずいかな」
「素なら、わざわざ変える必要はないけど……」
彼女は、少し視線を逸らした。
「そのうち、"あの子"に目を付けられそうね」
「……そいつは誰なん? 風紀委員とか?」
「真逆よ。うちのクラスにはすでに『アウトロー』がいるの。去年の夏には謹慎まで食らってたわ」
「気をつけるのよ。——そう遠くないうちに、あなたに絡んでくるはずだから。」
んだよおここは。やっぱり変な奴バッカじゃんよ。
私もどうしよ、今日だけで悪目立ちしすぎたし、恥さらしすぎたし。
何より—— "皐月賞有望株、ロードンカナヘビの妹"。
私はこの学園で避けようのない視線を浴びる存在になってしまった気がする。 実際、もうこのことは学内で広まり始めているようで、 さっきみんなと駄弁ってる最中にも、廊下にはちらほらと、 他の教室から私を見に来たであろう連中の影があった。
どこか冷めた目、どこか興味津々の目。
それが好意的なものか、それとも単なる好奇心か、 私にはまだ判断がつかなかった。
(ま、まあいいや。あのバカちんの妹なんて称号、どうせすぐに色褪せるだろ。)
だって、私は
ただの転入生。
ただのアウトロー気取り。 ただの———レースの何も知らないウマ娘なのだから。
そう自分に言い聞かせるように、私はゆっくりと教室を後にした。
廊下を歩く足音だけが、妙に響いて聞こえた。 |
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