あらすじ
声優学校を卒業した新人声優、水野杏。彼女の初仕事は、新規アニメであるウマ娘の、フラワリングタイム役であった。これは、そんな新人声優としてデビューした彼女の成長を追いかけるストーリーである。

登場人物
水野杏(みずの あん)
声優としてデビューした新人声優。彼女は初仕事でありながらアニメの主役となるフラワリングタイム役を演じることになった。この物語の主人公である。好きな食べ物はあんぱん。
指宿励(いぶすき はげみ)
こちらも声優としてデビューしたばかりの新人声優。彼女の初仕事は、フラワリングタイムのライバル役であるザヴィクトリア役であった。彼女もまた、一人の声優として成り上がっていこうとする。好きな食べ物はステーキ。
本編
第1話 voice actor
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「ありがとうございました!」
万雷の拍手に包まれながら、彼女は階段を降りていく。その手に持たれているのは、卒業記念の賞状筒。声優学校を卒業した者に贈られる代物だ。彼女の名は、水野杏。数多の声優が所属する、アオハルプロダクションに所属する事になった声優の卵であり、期待の新人でもある。 「先生、今までお世話になりました!」 「こちらこそ。これからは一人の声優として頑張るんだぞ」 「はい!」 卒業式も終わり、彼女は声優として歩み始めた。厳しいトレーニングを何度も積んできた彼女は一人前に成長しており、どんな仕事でもこなせそうな雰囲気を纏っていた。そんな彼女を待ち受けていたのは、とあるアニメの声優だった。 「フラワリングタイム……ですか」 「ああ。君の初仕事にはピッタリの仕事だと思うんだ」 「分かりました。オーディション、受けてみます!」 彼女がオーディションを受ける事になったのは、『ウマ娘 開花の刻』というアニメーション。ウマ娘とは、この世界で生まれたサラブレッド達の擬人化コンテンツであり、Cygamesが誇る一大コンテンツである。そんな大きなプロジェクトに、水野は立候補する事になった。 「『凄いですね。トレーナーさん…私が自主練習していた事を見抜いてしまうなんて…』」 オーディションには、多くの声優が呼ばれていた。それもそうだ。今をときめく一大コンテンツのウマ娘。それの新規作品ともなれば、注目は自然と多くなる。 「はい!そこまで!お疲れ様でした」 「ありがとうございました!」 水野が受けたオーディションは、新規プロジェクトの主役であるフラワリングタイムというウマ娘の声優である。フラワリングタイムと言えば、牝馬でありながら長距離路線で活躍した名牝であり、彼女の子孫が今も中央競馬で活躍している事でも有名な馬だ。 「オーディションの結果は、のちほど電話でお伝えします」 「分かりました」 オーディションを済ませ、ひとまず自由になった水野。彼女はお気に入りのカフェに入り、結果を待つことにしたのだった。 「(もし合格したらウマ娘声優かぁ)」 お気に入りの苺のパンケーキをつつきながら、未来の自分をイメージする。ウマ娘はそのキャラクター数の多さから、かなりの人数が声優として採用されている。そのため、新人であっても声の性質が合うならば起用される方針になっている。 「(ウマ娘、結構好きなんだよね)」 彼女はソーシャルゲームとしても、ウマ娘をプレイして楽しんでいる。声優になれるのなら、より一層ウマ娘を楽しめることだろう。 オーディションを受けてから数時間が経過した。そろそろ合否の電話がかかってくる頃だと思い、スマートフォンの充電を確認しておく。電池が切れてしまっては電話を受け取れなくなってしまう。 「(どうかな……手応えはあったんだけど……)」 すると、スマートフォンが震える。電話の相手は、オーディションを行った会社のものだ。緊張しながら、彼女は電話をとった。 「もしもし?」 「もしもし、水野さん?オーディションの結果が出たよ!」 「はい!……結果は?」 「見事合格!フラワリングタイムの声優は君のものだよ!」 「本当ですか!ありがとうございます!」 結果を受けて、思わずガッツポーズを取る水野。数多の声優を押しのけ、主役の座を勝ち取ったのだ。これを喜ばすしていられるか。 「事前に伝えた通り、明日、すり合わせを行うから、スタジオに集まって貰えるかな?」 「分かりました。アオハルのスタジオに集合ですね」 集まるように指示されたのは、所属しているアオハルプロダクションのスタジオ。今回制作されるアニメ『ウマ娘 開花の刻』のスタッフ達が一同に集う集会だ。同じアニメを作る仲間同士、仲良くしておく事が大事になるだろう。 「(よーし、頑張るぞ!)」 水野は気合を入れて、明日の集会に備えるのであった。 翌日。水野は言われた通りアオハルプロダクションに赴き、同じアニメを制作する仲間達と顔合わせを行うことになったのだった。 「主人公役の水野です。よろしくお願いします!」 「よろしく。俺は監督のスミス。アニメの基本的な方針を固める係だ。君とは仕事柄、よく会うことになるだろうな」 「スミスさんですね。よろしくお願いします。アニメの成功を目指してお互い頑張りましょう!」 「ああ。もちろんだ。そうだ、他にも仲間は沢山いるから、皆に声をかけておいてくれ」 「分かりました!」 それから水野は、プロデューサー、シナリオライター、デザイナーとアニメに関わるすべての人に声をかけて行った。全員に声をかけ終わる頃に集合の合図がかかった。 「えー、それでは『ウマ娘 開花の刻』の制作に関わる会議を始めます」 「よろしくお願いします!」 アニメ制作は何度も行ってきた事もあり、初めての水野以外は慣れた手付きで会議を進めて行った。一通り話が終わってから、水野は監督に呼び出された。 「挨拶回りお疲れ様。これから君はフラワリングタイム役として頑張って貰うぞ」 「はい。頑張ります!」 「良い返事だ。早速だけど、フラワリングタイムを演じる上で大事な事を伝えさせて貰うよ」 「大事なことですね。なんでしょうか?」 「フラワリングタイム…彼女について詳しくなってもらう。具体的には、情報を集めてもらう」 「はい。最低限調べはしましたが……それだけじゃダメですよね」 「ああ。擬人化コンテンツとして最先端を行くウマ娘のキャラクターだ。簡単な情報だけじゃ許されない」 そう言ってスミスは、彼女に競馬特集の雑誌を手渡した。少し年季が入ったそれは、フラワリングタイムが現役だった頃に使われていた予想の雑誌だ。 「これは……よく手に入れられましたね」 「彼女のファンなもんでね。とりあえずこれを読んで、当時の感覚を掴んでみて欲しい」 「分かりました。頑張ります!」 まずはスタッフ同士の顔合わせという事もあって、初日はこれで幕を下ろした。水野は受け取った雑誌を丁寧に持ち運び、家でじっくりと読んでみることにした。 「どれどれ……ふーむ、当時はそんなに人気が無かったのかぁ」 雑誌にはフラワリングタイムの評価が記されていた。そこには、低人気であまり注目されていない彼女の姿があった。実際は、この低人気から有馬記念を制覇した名牝なのだが。 「調教は順調で飼い葉食いも悪くないと……」 フラワリングタイムという馬がどんな馬なのか、雑誌から片鱗を感じ取ることが出来た。低人気からの大勝利、そして天皇賞・春の制覇と、シンデレラストーリーを歩んだと言っても過言では無いだろう。 「これで少しは詳しくなれたかな?」 事前に調べていた事もあって、ある程度の知識は頭に入った水野。ひとまず休憩しつつ、どんな風にフラワリングタイムを演じるかイメージする。 「キャラは幼い子なんだよね。だったら声のトーンを変えて……」 「純粋で明るい子だけど、負け続けて落ち込む所もイメージして……」 「彼女のストーリーを考えて…どうすれば盛り上がるか……」 イメージすればするほど想像が膨らんでくる。彼女はそうして、自分の演じる役に没頭していく。「フラワリングタイムの声」を、作り上げていく。 「『私が、フラワリングタイムです』」 こうして、フラワリングタイムのイメージを固めた水野。声優としての活躍もかかった一大プロジェクト。上手く成功させる為に、全神経を注いでいく。 声優として、フラワリングタイム役としての一歩を歩み始めた。ウマ娘の作品を作り上げる一員となり、主役として励んでいく事になった水野。これをきっかけに、彼女を取り巻く全てが、変わっていく事になるのだった。 |
第2話 エウポリア
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「『フラワリングタイムです!よろしくお願いします!』」
最初の顔合わせから数日後。水野はフラワリングタイムの基本的なボイスの収録を行っていた。ウマ娘になるとなれば、アニメはもちろん、ゲームの方にも出演する。そちらに向けた簡単なボイスの収録からスタートしたのだった。 「はいOK!水野さん、良いね!フラワリングタイムらしさ全開だよ!」 「ありがとうございます!」 彼女の出だしは好調。声優として文句無いラインの仕事をこなし、これから始まるフラワリングタイムとしての活動に期待が持てる始まりとなった。 「今日の収録はここまで!…あ、そうそう。スミスさんが呼んでたよ」 「分かりました。行ってみます」 スミスの元へ赴くと、なにやら悩んでいる彼の姿があった。何かと思って水野が声をかけると、彼は困った顔のまま伝えた。 「水野さん。収録お疲れ様」 「ありがとうございます。私に話があると聞いてきました」 「ああ、実は……君にフラワリングタイムをより深く知ってもらおうと思ってね」 「より深くですか。また雑誌を読むとかでしょうか?」 「いや。それだと流石に不足だと思ってる。今回は、競馬場に赴いてもらおうと思ったんだ」 「競馬場。彼女の子孫が走っている所を見てみるとかでしょうか?」 「その通り。彼女の子孫が今も競馬場で走っている。それを間近で見て、彼女の雰囲気を身にまとって欲しいんだ」 「分かりました!見に行きます!……でも、どのレースを見れば良いかちんぷんかんぷんで……」 「そこは大丈夫だ。俺がチケットを取ってある。ちょうど来週、彼女の子孫が走るレースがある。一緒に見に行かないか?」 「はい!行きます!」 そんなわけで、フラワリングタイムの子孫の馬が走るレースを見に行く事になった水野。朝早くから現地に集合する事になったが、水野は遅刻せずに現地に赴いていた。 「おはようございます!」 「ふぁぁ……おはよう。水野さん。フラワリングタイムの子孫が出るのは10R。ちょっと時間に余裕があるから、時間が来るまで楽しんで貰って構わないぞ」 「分かりました。せっかくですし、競馬に挑戦してみます!」 「その調子だ。さて、場所取りは負けられないな……」 スミスは一番前でフラワリングタイムの子孫を撮るため、朝早くから場所取りに躍起になっていたのである。彼は開門と同時にスタートダッシュして、ゴール板の前を陣取るのであった。 「ふう、ここが取れたなら見るのも大丈夫だな。水野さんに連絡しといてと……」 二人はレースを楽しみながら、本番でもあるフラワリングタイムの子孫が出るレースを待つことにした。レース紙面を見て、フラワリングタイムの名前を見つける。 「エウポリア…って子なんですね」 「ああ。第10レースに出るだけあって、勢いのある馬だ。このまま行けば、GIレースで顔を見れるかもしれないな」 「GIレースでもですか。強い馬なんですね」 「そうだな。母親譲りの末脚は見事なものだ。フラワリングタイムを知る上で、最も彼女に近い競走馬はこのエウポリアだ」 スミスの視線の先に居たのは、噂の馬、エウポリア。パドックでのキビキビとした歩み方は綺麗であり、見る人を魅了するような力を持っている。 「とはいえ、今日は4番人気。勝てるかどうかは分からないって所だな」 他にも実績馬が集まっているレースでもあるため、対抗にも人気がとても集まっている。エウポリアの末脚がどこまで通用するのかが、ファン達にとっては期待する所である。 「そろそろパドックの時間も終わるな。水野さん、馬券を買いに行かなくて大丈夫か?」 「大丈夫です!エウポリアちゃんの単勝1000円買っておきました!」 「流石だな。俺も応援馬券を買っておくか。後から行くから、例の場所で落ち合おうか」 「分かりました。ではまた例の場所で!」 そんな訳で、二人は馬券を購入してからゴール板前で応援する事にした。メインレースが近付き、観客は徐々に増え始めていた。 「いよいよですね。エウポリアちゃん、勝てるでしょうか」 「メンバーは悪くないし、勝てると思うけどな……」 ファンファーレが鳴り響き、馬達はゲートに収まっていく。注目しているエウポリアも、大人しくゲートに入って出走の時を待つ。 『係員が離れまして……スタートしました!』 ガコン!とゲートが開き、馬達は一斉に走り出す。出遅れた馬はいないようで、皆スムーズにレースへと参加していく。 「よし!好スタートだ!」 エウポリアは好意の5番手に付けて前の隙を伺う。抜け出せるチャンスが来れば、一気に抜け出す作戦だ。 『さあ集団は第四コーナーに差し掛かります!』 「行けー!エウポリアちゃーん!」 「伸びろー!」 ファンの応援を力に変えて。エウポリアは力強く駆け抜けていく。番手から抜け出し、先頭を目掛けて走っていく。 『ここで抜け出した!エウポリアだ!一着で今ゴールイン!』 大歓声に包まれながら、エウポリアは先頭でゴール板を駆け抜けた。鮮やかな勝利は応援しているファンはもちろん、水野達も大盛り上がりとなる結果であった。 「すごーい!一番ですよ!一番!」 「ああ、凄いな。相手も強いのによくやったよ」 「ですよねー!これは今後に期待できますね!スミスさん!」 「だな。今後は重賞なんかで彼女の名前を見るかもしれない」 「重賞って凄いレースのことですよね。それに出れるんだ、偉いなあ」 「そうだな。とても立派だ。さて、エウポリアが見れるのはここまでだ。つまり、今日やりたい事は済ませたって事だ」 「はい!エウポリアちゃんを実際に見て、レースをどんな気分で演じれば良いか分かりました!」 「それなら良かった。君を連れてきた甲斐があったよ。とりあえず解散って事になるが、何かやり残した事は無いか?」 「そうですね〜……あっ!馬券!せっかく当たりましたし換金しないとですね。でも、ちょっと勿体ないなー」 困り顔で眉をひそめる水野。せっかく応援馬券として買ったので、持って帰りたい気持ちになっていた。 「馬券が惜しいなら、コピー機があるからそこでコピーしよう。そうすれば持ち帰れるし換金もできる」 「なるほど!お詳しいですね。ありがとうございます!」 「まあ、ここに来て長いからな……俺も換金しとくか。そこそこ配当はついたし、夜は豪華なものが食べれるな」 「あはは、そうですね。久々にもやし以外のものが食べれそうです」 「もやしって……苦労してるんだな」 「はい……声優として売れたら、もっといいもの沢山食べます!」 「なるほどな。俺も君を応援するよ。『フラワリングタイム』役として、このプロジェクトで成長して欲しい」 「はいっ!」 こうして、エウポリアの活躍をしっかりと見ることが出来た水野。ウマ娘を演じる上で必要な、レースを走る馬の様子を見る事が出来た。今の彼女なら、問題なくフラワリングタイムを演じる事が出来るだろう。しかし、まだ一筋縄ではいかない事実が彼女へと向かってくるのであった。 |
第3話 ぱかライブTV´
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「はーい!皆さんこんばんは!声優の水野杏です!今日はよろしくお願いしますー!」
「「「よろしくお願いします!」」」 水野が元気いっぱいに挨拶を向けているのは、画面の向こうのトレーナーさん達。彼女はウマ娘の広報番組であるぱかライブTV ´に出演しているのである。 そんな彼女が参加する事になる少し前の日の話。声優としてゲームの『ウマ娘 プリティーダービー』の収録を行っていた時の事であった。 「はいOK!これで必要な台詞は全部収録できたかな」 「ありがとうございました!台詞の収録が終わったということは、いよいよ実装ですか?」 「そうなるね。準備が出来次第、新ウマ娘として、ぱかライブTVで発表される事になるね」 「ぱかライブTV ´ですね!いつも見てるので段取りは掴めてます!」 「それなら良かった。水野さんは新規ウマ娘のフラワリングタイム役として番組に出演して貰うよ」 「分かりました。最初は名前を隠してて、後から発表するんですよね!」 「その通り。これなら出演しても問題ないかもしれないね。次のぱかライブTVで発表予定だから、その日は予定を空けておいてね」 「はい!」 こうして、かなりすんなりとぱかライブTV ´への出演が決まった。それから数週間が経過し、ついに本番が訪れたのである。 「水野さんは新ウマ娘の声優さんなんですよね!」 「はい!今はまだ内緒ですが、後で発表しようと思います!」 和気あいあいとした声優達のグループにも上手く溶け込み、ウマ娘声優の一員として活動を開始する水野。彼女の気さくな雰囲気に、周りの声優達も彼女に優しく手とり足とり教えてくれるのだった。 「ピンボールダービー!さあ、新人の水野さんは上手くトレーナーさんにプレゼントを贈ることが出来るのか!?」 「やらせて頂きます!……それっ!」 がこーん、とボールが発射され、コロコロと台を転がっていく。ぶつかる度にチーンと音が鳴り響き、下のゴールへ向かっていく。そんなボールが入ったのは…… 「おお!ジュエル150個ゲット!お見事です!」 「やったー!やりましたよトレーナーさん!」 水野は一員として大いに貢献し、番組を盛り上げて行った。そして、ついに自分の役がなんなのかを告げる時が来た。 「それでは水野さん!紹介をお願いします!」 「はい!私から紹介するウマ娘は〜……こちらです!」 『今こそ開花の刻……一緒に華を咲かせましょう!』 「私が演じるウマ娘は、フラワリングタイムです!」 おおー、と歓声が上がる。誰もが期待する新ウマ娘の情報なだけあって、かなりの人が注目している。そんなプレッシャーにも負けず、水野はフラワリングタイムに成っていく。 「これからよろしくお願いしますね!トレーナーさん!」 拍手に包まれながら、水野は無事に発表を済ませた。こうして不慣れなぱかライブTV´を完遂し、フラワリングタイムはウマ娘の一員として仲間入りする事になったのだった。 「はーい!お疲れ様でしたー!」 番組も終了し、解散する声優達。夜も遅いので、それぞれ帰るか夕食に行くかという所で、水野は遅めの夕食を取ろうと思っていた。 「ねえねえ、水野ちゃん」 「指宿(いぶすき)さん!なんでしょうか?」 「この後夜ご飯でしょ?良かったら一緒に食べに行かない?」 「はい!行きます!」 水野に声をかけたのは、同じくウマ娘声優として抜擢された新人声優、指宿 励(いぶすき はげみ)。彼女はフラワリングタイムのライバルとして競い合った競走馬のザヴィクトリアを担当する事になった声優だ。 「どこで食べる?予算も無いだろうし合わせるよ」 「ありがとうございます。じゃあ、駅前の安い所で!」 「おっけー!いこいこ!」 彼女と水野は、とても仲が良かった。声優として育った場所こそ違えど、同期である二人。年頃も近い同性ということもあって、あっという間に打ち解けて仲良くなった。 「いやー、それにしても、ついに発表したね。ウチ達!」 「ですね!これからはウマ娘声優の一員として恥ずかしくない行動をしないとですね」 「それなー。まあでも、ウチらなら大丈夫っしょ。声優学校でビシバシしごかれてるしね」 「それもそうですね!思い返すと大変だったなぁ……」 「わかるー。やっぱどこも鍛えるのは厳しいんだね」 声優はほんのひと握りしか成功できない厳しい世界だ。そんな世界に踏み込んだだけの事はあり、学校では生徒達が落ちこぼれたりしないように厳しく指導がなされる。それを耐え抜いた新人達が、晴れてプロダクションに所属する声優になれる。 「でも、これからは声優として活躍する日々を送れそうじゃんね。成り上がってみせるぞ〜」 「そうですね。新人声優ですけど、プロの皆さんにも負けないつもりで!」 「うんうん!……まあでも、声優としてって意味では、ウチらはライバルみたいなものかもね」 「ライバル……確かに、お互いに役割を奪い合う関係になると思います。友達であり、ライバル…ですね」 「そういうこと。おなじプロジェクトに参加できて嬉しいけど、そこは譲れないから!シクヨロ!」 「私だって負けませんよ!競い合って、お互い高め合いましょう!」 「うん!」 こうして、友達でありながら強力なライバルが生まれた水野。声優としての道のりはまだまだ始まったばかりだ。 安い夕食を済ませて家に帰った水野は、湯船に浸かりながら、今日のライブの反応を見ていた。ツイッチャーのトレンドにはフラワリングタイムの文字が並び、彼女の声優役である自分の名前もトレンドに上がっていた。 「うわー、沢山ツイート来てる…ウマ娘効果凄し……」 大半は肯定的な意見だが、中には新人声優である彼女にフラワリングタイムは大役では無いかと心配する声や嫌疑的な声が上がっていた。 「皆不安だよね……大丈夫、私はプロの声優になったんだから!」 水野はそれらを清濁併せ呑んで、自らを動かす原動力に変えることにしたのだった。そんな調子でトレンドを見ていた水野は、ある投稿を見つけた。 「なにこれ?イブすきー?」 決してトレンドとは言えないレベルの小さな流行りだが、確かに流行っている言葉がひとつ。それがイブすきー!であった。何かと思って覗いてみると、ライバルの指宿がツイッチャーで流行らせようと考えた造語である事が判明した。 「凄い……自分でトレンドを作っちゃうつもりなんだ……負けてられないなあ」 水野も負けていられないと、自分のツイートで盛り上げにかかる。声優として初仕事であることを明かし、精一杯挑戦する事を皆に伝えたのだった。 「指宿さんには負けられない!」 果たして、ライバルとなった二人はどのように競い合って行くのだろうか。それはまだ、誰も知らない。 |
第4話 故郷を尋ねて
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「『負けない!勝つのは私だ!』」
力強く声を張り上げ、フラワリングタイムとして役に集中する。今日はアニメの声の収録として、現場に来ていた。 「カット!このシーンの収録も完璧だな」 「ありがとうございます!」 監督のスミスが直接指導し、アニメのシーンに命を吹き込んでいく。これから放映される時までに、すべての収録を終わらせなければならない。 「水野さん、ちょっと良いか?」 「なんでしょう?」 「今度、フラワリングタイム本人に会えるツアーに参加するんだが……水野さんも一緒に来ないか?」 ツアーへのお誘い。以前競馬場に見に行った事もあって、割とスムーズにこの話題が始まった。 「フラりん本人に?それって、牧場見学ってことですか?」 「その通りだ。彼女を演じる上で、本人を知っておくのは大事だと思ったんだ。もちろん、行くかどうかはスケジュールに余裕があればで良いが」 そんな事を言いつつ、スミスは見学ツアーの日時を伝えた。 「その日なら大丈夫です!でも、行くのって北海道ですよね?長旅になりそうですね」 「そうだな。場所が場所なだけに、君への負担も大きくなる。それでも良ければ行こう」 「大丈夫です!元々声優になったら全国飛び回る予定だったので!」 「はは、頼もしいな。今回の旅費はすべて俺が払うから、領収書とかは貰っておいてくれ」 「わかりました。でも、旅費全額持ちって負担大変じゃないですか?」 「全部経費にするから大丈夫。気兼ねなく見学ツアーを楽しんでくれ」 「はい!」 そんな訳で、北海道旅行をする事になった水野。目的地は、フラワリングタイムが放牧に出されているノーズファーム。この牧場は主に引退馬を扱う場所として使われており、多くの名馬がここで余生を過ごしている。飛行機から降りた二人は、大きな荷物をホテルに預けてから、軽装となってノーズファームの見学に来ていた。 「ここがノーズファーム……広い…というか、広すぎませんか!?」 「そうだろ。とっても広いぞ。たくさんの馬を預かるなら、これくらいの土地が必要だな」 「なるほどです…フラワリングタイムちゃんはどこにいるんでしょうかね」 「まあ、馬房だとは思うが……」 案内役に先導されるまま、水野達はノーズファームの見学を続ける。設備を一通り見たところで、お待ちかねの引退馬とのふれあいの時間がやってきた。見学に来ていた人達がそれぞれ好きな馬と対面する事ができる時間がやってきたのだ。 「フラワリングタイムは……いました!ここです!」 馬房の中から姿を覗かせたのは、美しい栃栗毛の馬。既にそこそこの年齢のはずだが、筋骨隆々でとても衰えた姿とは思えない。水野達が馬房の前に立つと、興味を引いたのか顔を寄せてアピールしてくれる。 「可愛い……よしよし」 顔を寄せてくれた彼女の顔を、優しくスリスリする。フラワリングタイムは嫌がる素振りを見せず、丁寧に撫でさせてくれる。大人しくて良い馬だと聞かされていたが、本当に大人しく接しやすい馬である。 「にんじん食べるかな?」 そう思いつつ、餌やり用の人参を取り出すと、フラワリングタイムは待ってましたと言わんばかりに人参にかぶりついて食べ始めた。 「食べた!美味しそうに食べますね」 「そうだな。食いしん坊とは聞いていたが、すごいペースで食べてるぞ……」 あっという間に用意されていた餌やり用人参を完食してしまったフラワリングタイム。人参がもう無いと悟ったのか、首を引っ込めて馬房内をウロウロし始めた。 「あっ、食べ終わったら奥に行っちゃった」 「意外と現金な馬なのかもしれないな」 これ以上の見学は難しいかと思っていたところで、スタッフが声をかけてきた。 「これから彼女を放牧に出すので、良ければ見ていきませんか?」 二人は即答ではいと答えた。そんな訳で、厩務員に連れられて放牧に出るフラワリングタイム。広い草原に出てきた彼女は、思い切り走って広い牧場を堪能していた。 「凄く速い…これが引退した馬の走りなんですかね…」 「現役を退いたとはいえサラブレッドだからな。だが、あの歳であれだけ元気に走れるのはすごいな」 放牧に出されたフラワリングタイムは、砂場でゴロゴロしたり、猫と一緒に遊んだりと、馬らしく楽しい余生を過ごしているのだった。そんな彼女を遠目に見つつ、ツアー終了の時間がやってきたのだった。 「今日の見学を経て、彼女の事を更に知れたと思います。連れてきて下さってありがとうございます」 「良いってことよ。これで君の演技が上手くなれるのならいくらでも機会を用意するさ」 「本当にありがとうございます。でも、私が上手くなるためここまでしてくれるのはどうしてでしょう?」 「それは、俺にとって大切な作品の『ウマ娘 開花の刻』を絶対に成功させたいからだ。俺は彼女……フラワリングタイムの大ファンだからな。監督として出来ることは精一杯やるつもりだ。だから、君が主役に抜擢された時点で、徹底的に役に没頭して貰うつもりでいた」 「なるほど……わかりました。貴方の期待に応えられるよう、私も精一杯声をあげようと思います」 「ありがとう。期待しているよ」 こうして、フラワリングタイムに会うためのツアーは幕を下ろした。本人に出会ったことで、彼女の姿をきっちりイメージできるようになった。水野はまた一歩、ウマ娘声優として成長したのであった。 |
第5話 STARTING LIVE
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「えっ!?次のライブに私達が参加ですか!?」
「マジか……まだ新人声優なのに!?」 水野と指宿が呼ばれて、番組プロデューサーに説明を受けた。彼女達が出るのは、STARTING LIVEというウマ娘の大きなライブイベント。大きなアリーナを貸し切って行われるイベントで、多くのファンが会場に押し寄せて応援を行うライブだ。 「新人だからこそだね。君達の活躍をより直接的にファンに届ける仕事をしてもらうつもりだよ」 「なるほど……分かりました。ライブ、全力で参加させて頂きます!」 「あ、もちろん私も全力でやりまーす!」 彼女達の快諾に、プロデューサーは嬉しそうに頷いた。ライブでやる事と言えば、やはり歌って踊ること。ファンの皆に恥ずかしくないライブをするために、歌を全力で練習する事になったのだった。 「うーっ うまぴょい!うまぴょい!」 しかし、水野はちょっと困った事になった。キャラの声で歌おうとすると、音を外してしまって音痴になってしまうのである。 「うーん、難しいなぁ……」 このままでは、皆の前で歌う時に音痴な歌を披露することになってしまう。誰かに指導を仰ぐのが一番良いとは思うのだが、それを頼める仲間が彼女にはいない。 「指宿さんに聞いてみようかな?」 そんな訳で、LANEを送信。あっという間に既読が付き、彼女から返信が帰ってきた。 『それなら任せてちょ!私キャラの声で歌うのめっちゃ得意だから!』 そんな彼女の厚意に甘え、指宿流のレッスンをすることになった。彼女が指定したカラオケに入り、二人でトレーニングを開始するのだった。 「それじゃ、やろっか!まずはどれだけ苦手なのか知りたいから歌ってみてくれる?」 「わかりました。それでは……」 とりあえず一曲。フラワリングタイムの声で歌えてはいるのだが、音程が外れてしまって難しい感じになってしまっていた。 「なるほど……確かに音程を合わせられて無いかも。キャラの声に集中しすぎてるとかじゃない?」 「そうかもしれませんね…もう少し自然に歌ってみますね」 こうして、二人は歌えるようになるまでみっちりとトレーニングをする事にしたのである。一時間、二時間と時間は過ぎ、気付けば日も沈む時間になってしまっていた。 「うーっファイト!……これでどうでしょうか!」 「上手い上手い!水野ちゃん、だいぶ上達したね!」 「えへへ、ありがとうございます。指宿さんのおかげですね」 「水野ちゃんがセンス抜群だからっしょ!教え甲斐が有ったよ!」 こうして、ライブで歌う時も恥ずかしくない声を手に入れた水野。トレーニングに付き合って貰った指宿に感謝しつつ、ライブに向けて準備を進めていくのであった。 『この前は友達として指導したけど、声優としてはライバルだからね。明日のライブで、どっちがファンを獲得出来るか競い合おうね!』 「もちろん受けて立ちます!…と!」 いよいよライブを明日に控えた二人。声優としては、先輩達に挟まれながら、自分を思いっきりアピールしなければならない。水野は自分が売れるために、歌を最後の最後まで鍛えているのだった。
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『レディース&ジェントルメン!ウマ娘の祭典にようこそ!STARTING LIVEが始まりますよー!』
大歓声に包まれながら、ライブが始まった。声優達は次々と壇上に現れ、水野も指宿も新人声優枠として壇上に登場したのだった。 「『フラワリングタイム、参上です!トレーナーさんの為に、今日は思いっきり歌わせて貰いますね!』」 「『私がザヴィクトリアよ!今日は私の歌声でメロメロになっちゃいなさい!』」 ライバルとして、二人は思いっきり自分の歌をぶつけあった。ウマ娘声優になってから教えられたソロ曲も披露し、ファン達を大いに湧かせて盛り上がった。 「せーのっ!」 「「「君の愛バが!」」」 定番とも言えるうまぴょい伝説を堂々と歌い切り、水野は文句無しの出来でライブを完走させたのであった。皆が最高に盛り上がったところで、締めの挨拶を行う事になった。 「今日はありがとうございました!これからは私達が主役のアニメも始まりますので、応援よろしくお願いいたします!」 「見逃したらダメだぞ!みんな!せーので!」 「「「イブ好きー!!」」」 二人はファンを思いっきり釘付けにし、これから始まるアニメに向けて誘導する事に成功したのだった。SNSもこれには大反響だったらしく、トレンドはウマ娘一色に染まっていた。中でも水野の事とイブ好きは新アニメにガッツリ出ることもあって期待の声が集まっていた。 『今日のライブ最高だった!』 『フラワリングタイムのアニメも楽しみ!』 『水野ちゃん、サイコー!』 自分が褒められている事も含めて、水野は嬉しそうにスマホを閉じた。初めてのライブは大成功となり、水野達にとっても大きな進歩になっただろう。これから始まるアニメの収録も上手くいくはずだ。水野は順調に声優として活躍をはじめているのだった。 |
第6話 ウマ娘実装
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「ぎゃー!爆死したぁー!」
水野はスマホ画面に向き合って悶えていた。彼女は自分が演じるウマ娘であるフラワリングタイムがガチャで実装されると聞いて、引いてみることにしたのだ。 「天井交換券だよ……とほほ〜……」 と、ガチャを爆死した旨をツイートして皆に伝えるのであった。そんな彼女を笑う者や、同情する者など反応は多種多様であった。
そんな彼女が実装される少し前の事。ゲーム版のウマ娘プロジェクトを指導するディレクターに呼ばれて、開発陣が集まっていた。
「水野さんも御足労ありがとう。大事な話だから、心して聞いて欲しい」 「分かりました」 真剣な顔付きで始まる会議。ウマ娘プリティーダービーのプロジェクトを進める上で、大事な新ウマ娘の発表。水野が呼ばれているだけの事はあり、フラワリングタイムの実装なのは誰もがわかっていた。 「収録も既に終わっていると聞いています。更に、アニメが完成する時期という事もあって、実装には最適なタイミングですね」 「そうですね。我々としても異存は無いです。水野さんはどうでしょう」 「私も大丈夫です。追加の収録があっても対応できますよ!」 「良い返事ですね。……では、新ウマ娘の実装は決定ということで」 厳かな雰囲気ではあったが、スムーズにフラワリングタイムの実装の話はまとまった。アニメの主役にもなる大物なだけあって、決定は難航するかと思ったが違った。意外と早く決まった事もあり、水野は早めに帰宅して自由時間を過ごしていた。 「ついに実装かぁ……あっという間だったなぁ」 新人声優となってから、はや半年。フラワリングタイムという役割を担ってから、慌ただしい日々を送っていた。これからはゲームのウマ娘としても、アニメのウマ娘としても、活躍して行かなければならない。 「私にやれるかな……?」 思えば、がむしゃらにやってきた事もあって、上手くいくかどうか悩んだことは無い。しかし、これだけのプレッシャーが、今の彼女に重くのしかかっていた。 「でも、やれるだけの事を精一杯やるだけだよね」 重圧にも負けず、強い気持ちをもっている水野。彼女が大成するまで、これからも多くの苦難が待っているだろう。けれど、彼女が負けることは無いだろう。
「シナリオも読まないとね」
爆死したのもつかの間、水野はシナリオを読み込む事にしたのだった。自分が収録したボイスがあちこちに使われており、なんだかむず痒いような気がする。 「頑張れフラリンちゃん!」 シナリオのレースも熱い演出が使われており、盛り上がるシナリオが練り上げられていた。ライバルとの激闘や挫折と復帰、様々なストーリーがスマホを介して伝わってくる。 「いやー面白かった!これは大満足のシナリオだね」 ストーリーを読み終えた後も、フラワリングタイムをライブに出したりして存分に楽しむ。ウマ娘の遊び方として無駄がないくらいに楽しんだ彼女は、ぼふんとベットに横になる。 「こんな素敵なストーリーに私は主演として出られるんだなぁ」 アプリの実装の後も、アニメの本格的な収録が続く。声優として大活躍する為にも、この機会は逃してはならない。新作アニメの皆の期待に応えるためにも、水野は再び気合いを入れ直すのであった。
ちょうどその頃、一人の声優が夜道を歩いていた。金のふわふわの髪を携えて、ロングヘアでまとめており、それに合わせた綺麗な金の瞳が特徴的だ。そんな彼女は「イブすきー!」で一躍有名になった声優、指宿励だ。
「水野ちゃんすげーなぁ……フラワリングタイムと言えば主役だもんね」 それに比べてみれば、ライバル役の一人でしかないザヴィクトリアはまだ有名ではなかった。もちろんストーリーに関わる上でボイスの収録をしたのだが、水野に比べれば出番は遥かに少ない。 「私が実装されたとして、水野ちゃんみたいに人気になれるかなぁ」 悩んでいても仕方ないと思考を切り替えるのだが、それでも少し不安にかられてしまっている。同期が一気に売れ始めたのだ。置いていかれないか心配になるのも仕方ない。 「ううん、負けない。私にはイブすきー!のファンがいるし!絶対売れてやるぞー!」 えいえいおー!と気合いを入れ直す指宿。彼女も少しずつこそであれ、着実に売れ始めている声優の一人なのだ。ウマ娘としての声優だけでなく、他のコンテンツにも呼ばれるような人気声優になる可能性は高い。 「ん?メール?」 そんな彼女の元に、一通のメールが届いた。所属しているアオハルプロダクションからの連絡だ。そこにはこう記されていた。 『ザヴィクトリアの実装について』 マジか、と胸を高鳴らせる。夢にまで見たウマ娘としての実装。フラワリングタイムが実装されてからすぐに来るだろうとは思っていたが、こんなに早いとは。ワクワクしながらメールを開くと、そこには予想に反した内容が書かれていた。 『ゲーム版、ウマ娘プリティーダービーのザヴィクトリアの実装タイミングは、アニメ版の売れ行き次第で決める事になりました』 多方そんなことが書いてあった。それを見た指宿はそれはもうガックシ落ち込んでしまった。ライバルが主演として頑張っているのに、自分はまだ燻ったまま。その上、仕事も大きく彼女に遅れをとってしまう。 「落ち込んじゃダメ!仕事が少し遅れるだけの事だもん。その間に他の仕事も受けて大活躍してやるぞー!」 がむしゃらに、彼女は自分を鼓舞して立ち上がるのであった。ウマ娘声優としての二人。果たしてどちらがより大きな声優として成り上がるのであろうか。 |
第7話 贈り物
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「『私……まだ諦めきれない…!もう一度、走ってみたいです!』」
アニメの収録が本格的に始まり、水野は多忙な日々を送っていた。主役という事もあって台詞の数は段違いで多く、沢山の収録が彼女を待ち受けていた。 「カット!良い感じだ。今日の収録はここまでだな」 「ありがとうございました!」 収録を終えたら必ずルーティンとしてのど飴を舐める水野。喉が命のお仕事なのでケアは万全だ。そんなあめだまコロコロ最中の彼女に、スミスが声をかけた。 「水野さん、アンタにお客さんが来てるみたいだぞ」 「私にですか?」 「ああ。なんでもノーズファームの人だとか」 ノーズファームと言えば、以前フラワリングタイムに会いに行った時に彼女を管理していた牧場だ。そこからわざわざ会いに来てくれた様子だ。 「分かりました。会ってみます!」 そんな訳で、スタジオ内にある個室に向かう。会議などで使われる小さな部屋だ。その扉を開けて中に入ると、だいぶ歳を召した男性の老人が佇んでいた。 「こんにちは!私に用があると聞いてきました!」 「ああ、こんにちは。水野さん、わざわざ御足労ありがとう」 「こちらこそですよ!ノーズファームから遠かったでしょうに」 「なあに、飛行機でひとっ飛びですとも。ささ、立ち話もなんですし、おかけになって下さい」 「失礼します!」 なんの話だろうかと思いつつ、水野は席に座る。それを尋ねる前に、老人は話を切り出した。 「まず自己紹介しましょうか。私はフラワリングタイム担当の厩務員をしている御陵(みささぎ)です」 「御陵さんですね。ご存知かと思いますが、私は水野杏です!」 「ええ。存じ上げております。フラワリングタイム役としてご活躍なされていますね」 「はい!……それにしても、ノーズファームからわざわざいらっしゃるとは、大事な用事か何かですか?」 「はい。とても大事な用事ですので、直接お会いしたかったのですよ」 御陵はそう言って笑うと、カバンから大切に包装された何かを取り出した。丁寧にそれを開くと、中から出てきたのは菱形の宝石が連なった緑色の宝石のネックレスだった。 「あ!これって……!」 「ウマ娘のフラワリングタイムが着けているネックレスです。これを貴女に渡したくて来たんですよ」 「そうだったんですか!もしかして自作で……?」 「はい。彼女のビジュアルが公開されてから、作りたくなりましてね」 綺麗に連なった宝石は、キラキラと光ってとても美しい。世界に一つしかない、最高の贈り物と言っても良い代物だった。 「それを私に……良いんですか?」 「もちろんですとも。貴女に着けて頂きたいのです」 「……わかりました。大切にします」 水野はネックレスを受け取り、早速付けてみることにした。緑色の宝石が青い彼女のメッシュとコントラストを放ち、より一層輝いて見えた。 「お似合いですよ」 「ありがとうございます。これでフラワリングタイム役に没頭出来ます」 「それは良かったです」 御陵は嬉しそうに笑う。フラワリングタイム役と言うだけで、ここまでしてもらって水野は幸せだった。これは、それだけ期待をかけられているということだろう。その期待に応えられるよう、頑張ろうと胸に誓うのであった。
「あー……どうしようかなぁ」
ちょうどその頃。ザヴィクトリア役で声を吹き込み終えた指宿は悩んでいた。ウマ娘の実装がアニメの売れ行き次第ということは、場合によっては今後しばらくは出番が無いことになる。 「ダチになんか良いツテないか聞いてみっかぁ」 そんなわけで、LANEで友人に連絡する。連絡を入れたのは、同じ声優学校で育った同期達と作ったグループだ。常に誰かしらは見ており、返事も速いびっくりグループである。 『本業が暇気味になっちゃってさ。空いてたらで良いんだけど、誰かいい仕事紹介してくんね?』 あっという間に既読が付き、3分ほどで返事が帰ってきた。 『イブちゃん、ウマ娘声優になったのに暇なん!?』 『そ。詳しくは言えないけど仕事量少なめなの。誰か仕事くれーって感じ』 『そっかぁ……ちょい待ち!空いてる仕事無いか確認してみる!』 『ありがとね。ゆっくり待つよ』 そんな訳で、心優しい友人に仕事を探してきて貰うことに。それから20分ほど経過しただろうか。のんびり待っていた指宿のスマホが震えた。 『あったよ!仕事!』 『マジか!ありがとう!どんな仕事なん?』 『映画の吹き替え版の女性声優を募集してるんだって。画像送るね』 送られてきたのは、海外で流行っていると噂の映画だ。これの吹き替えをやれるのは、かなり大きな仕事だ。 『イブちゃんの声聞き取りやすいし、絶対オーディション受かると思う!』 『ありがとう舩坂(ふなさか)ちゃん。オーディション、受けてみるわ』 『うん!頑張ってね!イブちゃん!』 指宿はさっそく仕事に応募し、オーディションを受けてみる事にした。大切な友人から贈られてきた仕事。絶対にモノにしてやると躍起になるのであった。
「『私は負けないわ!プリンセスだもの!』」
「良いねー!声の質も透き通っていていい感じ。オーディションの合格者は君で決まりかな」 「ありがとうございます!」 数日後。早速オーディションに向かい、吹き替えの仕事の役を手に入れた指宿。彼女もまた、ウマ娘だけでは無い、一人の声優として活躍をはじめたのであった。 「(水野ちゃんに置いてかれたりはしない!)」 同期でありライバル。そんな彼女に少しでも迫る為に、指宿は仕事を複数掛け持つことにしたのだった。ウマ娘声優しかしていない水野より一歩リードしたと言っても良いだろう。果たしてこれから、彼女はどのように成長していくのであろうか。それはまだ、誰にも分からない。 |
第8話 トークショー
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「『勝った……勝ちました!勝てましたよ!トレーナーさん!』」
アニメの収録も終盤を迎え、いよいよ放送日も決定した。最終話の収録も済ませ、ついに『ウマ娘 開花の刻』が完成した。これは監督のスミスはもちろん、関わってきた皆が喜びを分かち合う事になったのであった。 「水野さん、お疲れ様」 「朝倉さん。お疲れ様でした」 朝倉晋(すすむ)。フラワリングタイムのトレーナー役を担当した声優であり、既に何年も声優を行っているベテランの声優だ。 「この後はスミスさん主催でお疲れ様会をやるらしいけど、来るかい?」 「もちろん行きます!」 「ははは、それはそうか。君がいないとこの作品は成り立たないからね」 「そんな……私一人じゃなくて皆がいたからこそ完成した作品だと思うんです」 「そうだね。皆がいたからこそ完成した作品だ。主役からチョイ役まで、皆が頑張るからこそ、良い作品は生まれる。いつだってそうだ」 彼はどこか遠い目をしながら、水野に過去にも作品製作に携わって来たことを語った。先輩の身の上話を聞いた水野は、これも自分の糧にしてやろうと真剣に話を聞いていた。 「おっと、語りすぎてしまったね。僕はやる事があるから、お疲れ様会まで一旦失礼するよ」 「はい、お疲れ様でした!」 朝倉と別れた水野は、お疲れ様会に向かうために準備を始めた。荷物をまとめていると、後ろから声がかけられた。 「水野ちゃん!」 「指宿さん。お疲れ様です!」 「うん、おつかれ〜!主役だし、収録大変だったっしょ!」 「そうですね!台詞も多かったですし、何度か噛んじゃいました」 「そっかそっか!セリフ多いと噛むよねー。ウチもやっちゃった事ある」 べっと舌を出して笑う。指宿の役であるザヴィクトリアはまだ実装されていないが、今後のアニメの売上次第で発表時期が早まるらしい。 「そういえば、指宿さんは他のお仕事も始めたらしいですね」 「うん。ウマ娘の声優だけだと食べていけねーからね。水野ちゃんみたいに主役なら別なんだけどねえ」 「なるほどです……指宿さんは凄いですね。私みたいに一筋じゃなくて、自分で他の仕事を見つけられて」 「ありがとう。でも、ウチもはじめのうちはダチに仕事を教えてもらったりもしたんだ。今でこそいっぱい役貰ってるけど、最初は誰かに頼らないと行けなかったよ」 「そうなんですね。私も新しい仕事を探すなら、指宿さんに頼ったりしちゃおうかな?」 「ちょー、それ照れるし!嬉しいけどね。もち、仕事に困ったら頼ってくれても良いから」 「ありがとうございます!」 そんな事を話しているうちに、お疲れ様会が開かれる時間になった。作品制作に関わった人のほとんどが参加する大型の飲み会となり、居酒屋をまるまる貸し切っての会となった。 「ウマ娘 開花の刻の完成を祝ってかんぱーい!」 「「「「かんぱーい!」」」」 監督であるスミスの音頭に合わせて乾杯をし、皆は思い思いにグラスの飲み物に口をつける。水野はまだ酒には慣れていなかったが、挑戦も兼ねてビールを飲むことにしたのである。 「飲めなかったら言ってね!ウチが処分したげるから!」 「ありがとう指宿さん!でも私負けません!」 お酒をなんとか飲み、酔いすぎにならないよう気を付けながら嗜む。苦くて美味しくなかったが、のどごしだけは悪くないということに気付いた水野であった。 「水野さん、指宿さん、ちょっと良いか?」 飲み会も進んでいる中、スミスがちょいちょいと二人を呼び出した。なんだろうと思いつつ、席を移動してスミスの前に座る。 「アニメが無事に出来上がったのは良いが、君達の仕事はまだ続くんだ。今度、アニメ放映記念としてウマ娘のトークショーがあるからそこに参加して欲しいんだ」 「トークショーですか」 「楽しくおしゃべりする的な?」 「ああ。その認識で構わない。君達の生の声を、トークショーを通じてお客さんに披露して欲しいんだ」 スミスの説明によると、東京競馬場にてウマ娘声優である二人のトークショーを行うらしい。ファンが殺到するので、比較的人の少ない土曜日に行われる事になっている。 「わかりました!皆さんが楽しめるようなトークショーにします!」 「任せといてください!ウチもめっちゃ盛り上げるから!」 こうして、トークショーに参加することを決めた二人。競馬場に来るファン達に、楽しいトークをお届けできるのであろうか。
時は流れ、トークショーを行う日がやってきた。多くのファンが会場に駆けつけ、彼女達のトークを楽しみに待ってくれていた。
「ファンの皆さん!お待たせいたしました!間もなく開演となります!」 歓声に迎えられながら、水野達はそれぞれ持ち場に座ってトークの準備を始める。 「皆さんどうも!フラワリングタイム役の水野と……」 「ザヴィクトリア役の指宿です!今日はテンションアゲアゲでよろしくお願いします!」 「よろしくお願いしますー!」 こうして、二人のトークショーが始まった。最初は何気ない日常的な会話が続いたが、仕事柄ということもあってか、収録などの仕事の話に華が咲いた。 「指宿さんすごいんですよ!本気で臨まれてるから、彼女のセリフの叫び声に驚いちゃったりして!」 「いやいや、それ言ったら水野ちゃんだってすごいよ!レースシーンとかマジで競ってる感出てくるし!」 やはりと言うか、彼女達はお互いに競い合うライバル。相手に負ける訳にはいかないと、より気合を入れて仕事に励んでいるのだろう。そんな二人に観客も面白さを感じ取ったのか、ワラワラと集まってくる。 「おふたりは仕事熱心なのですね!では、そんなおふたりが担当した『ウマ娘 開花の時』について是非コメントをください!」 「はい!まず言うと、結構大変な収録でした。声を張り上げるシーンが多いので、喉を大事にしないと声がカスカスになっちゃったりして」 「それなー!スポ根アニメだからって感じ?激アツなシーンが多い分負担も大きいからね。一緒に演じてくれた皆も大変だったと思うよ!」 現場を経験してきたからこその、生の声。彼女らの言葉にファンたちも頑張ったんだなぁと思うようになっていた。 「苦労してきたからこそ、完成度の高い作品に仕上がったと思います。放映を楽しみにしてて下さい!」 水野の発言に、期待が高まるファン達。主演がここまで言うのだから、期待しない方が難しいという話だ。そんなことを話しているうちに、トークショーの時間は終わりを迎えようとしていた。 「おっと!そろそろお時間のようですね。おふたりには最後に、ファンの皆様に向けたメッセージをお願いしようと思います!」 「はい!私は、フラワリングタイム役として、後悔しない仕事をしてきたと思っています。それだけ自信満々な作品なので、是非皆さんもアニメを楽しんでくださいね」 「ウチも、ライバル役だけど沢山演じてきたからね。水野ちゃんの言う通り、すげぇ作品に出来たと思ってる。私達が全力で命を吹き込んだ作品を、全力で見て下さると幸いです!」 アニメ放映に向けた自信満々の台詞達に、ファン達は温かい拍手を贈るのであった。そんなファン達に水野は照れくさそうにしながら、トークショーを終わらせたのであった。 「終わったー!お疲れ様、水野ちゃん」 「うん、お疲れ様。指宿さん」 トークショーは大成功と言っても過言では無く、多くの人達が彼女達の語る『ウマ娘 開花の時』について知るきっかけになっただろう。あとはアニメが本番を迎えるだけ。水野達はやれるだけの事をやってきたので、楽しみ9割不安1割と言った感じでアニメ放映を待つのであった。 「アニメだけどさ、放映される日になったらウチで一緒に見ない?」 「えっ!?良いんですか?」 「もち!せっかく一緒に沢山収録したしさ。どんなもんか一緒に見ようじゃん!」 「わかりました!喜んでご一緒させていただきます!」 「決まりぃ!じゃあ当日夕方にプロダクションに集合で!」 「はい!」 こうして、一緒に収録したアニメを見ることにした水野達。果たして、アニメは無事に成功をおさめることが出来るのだろうか。開花の時は、少しずつ近付いて行くのであった。 |
第9話 開花の刻
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「お菓子よーし!ドリンクよーし!ついでに友達もよーし!観る準備万全ってやつっしょ!」
約束通り、水野は『ウマ娘 開花の刻』を視聴する事になった。ただし指宿との二人では無く、彼女の友人も集めての大視聴会となった。 「はじめまして。水野です」 「はじめまして!舩坂だよ。イブちゃんとは声優仲間なんだ」 「そうなんですね。私も声優として彼女に良くして貰っています」 「なんだ一緒じゃん!仲良くなれそうだね。私達」 「ですね!今後ともよろしくお願いします!」 そんな訳で、初見の友人達とも仲良くしつつ、アニメの放映を待つことにしたのだった。やがて時間は経ち、待ち望んでいた『ウマ娘 開花の刻』が始まるのであった。 「キタキタキター!」 「主題歌かっこいいですね!」 とても熱いオープニングが流れ、試聴会は早速大盛り上がりを見せる。やがて本編が始まると、指宿がものすごい勢いで食いついていく。 「作画やべー……一回見たはずなのにまた見たくなっちゃう…!」 「ですね……こんなに完成度が高いなんて…これも監督のスミスさんの指導の賜物ですね」 「それなー。あの人に足むけて寝れんわ。……ってか、水野ちゃん演技上手くね!?」 「そうですか?そう言われると嬉しいです……」 照れ照れしつつも、自分の演技が褒められた事にご満悦な水野。そんな調子で、第1話の視聴が進んでいく。フラワリングタイムというウマ娘がどんなストーリーを辿るのか、詳しく知る事が出来て、指宿の友達達も楽しそうだ。やがて第1話が終わってエンディングに入ると、興奮した指宿が飛び跳ねた。 「っかぁー!普通に面白すぎっしょ!これはイブスタランキング間違いなしっしょ!」 「そうかもしれませんね!見てみますか!」 指宿がイブスタ、水野がツイッチャーを確認すると、どちらもトレンドにウマ娘の名前が上がっていた。作品の評判は概ね良好で、沢山の肯定的なコメントが溢れかえっていた。 「やばー!やっぱりトレンド1位じゃん!」 「ウマ娘効果、恐るべしですね」 果たしてこのアニメは評判が良いまま終われるのだろうか。そんな多くの期待がアニメに寄せられている事がわかった。指宿達の試聴会は毎週やる事にしたらしく、予定が空いてたら全員集合!という形になった。
そんなアニメ放映が始まってから数週間が経過した。アニメは今のところ大成功をおさめ、指宿達との試聴会も大いに盛り上がった。そんなある日のこと。水野は声優として次の仕事を探す為に、プロダクションを訪れていた。
「そうか!ウマ娘の仕事も一区切りついただろうし、次の仕事を見つけないとだね」 「はい。でも、今の私がどんな仕事を受ければ良いか分からなくて…」 「そうだねぇ、今の君ならどんな作品でも受けられると思うよ。なんせ天下のフラワリングタイムの声優だ。ネームヴァリューだけでどこかしらの作品が拾ってくれるさ」 「そうですか!ありがとうございます。私としては、主役級の声優がやってみたいんですが……」 「主役か。君なら成功するとは思うけど、ベテラン達と競い合う狭き門だよ。それでも良ければ仕事をいくつか紹介できるけど」 「大丈夫です。落ちても他にチャレンジし続けます!」 「ふむ……どうやら本気みたいだね。わかった。今オーディションを行っているアニメをいくつか紹介するよ」 「ありがとうございます!」 こうして水野は、フラワリングタイムの声優だけでなく、他の作品の声優にもなることに挑戦し始めた。指宿の方が先にこの路線に進んでいた事もあって、彼女を先輩兼ライバルとして接する事にしたのだった。
そんな新しい仕事のオーディションを受けた日の帰り道。諸用でプロダクションに立ち寄った時に、Cygamesからやってきたという渡辺さんが水野を探してやってきたという。何かと思って会いに行くと、ウマ娘のプロジェクトに関する話があるという事だった。
「初めまして。渡辺です。今日はプロジェクトの相談で来ました」 「初めまして。水野です。プロジェクトの相談というと、新しいお仕事ですか?」 「ご名答!鋭いですね。今度のウマ娘のイベントである『GRAND LIVE』に、フラワリングタイム役として参加して欲しいんですよ」 「GRAND LIVEですか!それは構いませんが、私で良いのですか?」 「もちろんですとも。今やフラワリングタイムは時代の中心。出ない方が皆さんに迷惑であろうことです!」 「それもそうですね…分かりました。予定を空けておきますので、日時を教えてください」 「はい……GRAND LIVEは再来月の……」 渡辺に言われるがまま、ライブへの参加を決めた水野。一度出たことがあるので、ライブのおおまかな段取りは分かるが、まだ二回目。成功するか失敗するか不安になる状態だ。ヘタをすれば、フラワリングタイムの人気にも影響が出かねない。 「では本番もよろしくお願いします」 「はい。お任せ下さい!」 こうして、新しいライブへの参加を決めた水野。果たして、GRAND LIVEを通じてファンの皆に新たな喜びを贈ることはできるのだろうか。
「お疲れー!今日も面白かったね!」
「ですね!収録で見たシーンもアニメになると違いますね!」 指宿の試聴会も進んでおり、もはや皆慣れた手つきでお菓子を食べたりジュースを飲んだりしている。 「わかるー。ってか、ウチが出たシーン嬉しすぎて泣いちゃった!」 「ライバルとして本格的に活動しはじめましたからね!今です皆さん!せーので…」 「「「イブすきー!」」」 「ちょ……泣かせにくんなし!ここでのイブすきはずるいっしょ!」 そんなで嬉しさで溢れそうなイブの元に、一通の報せが届いた。なにかと思ってスマホを確認すると、とんでもない内容が書かれていた。 「えっウソ!マジで!?」 「どうしたんですか?」 「ザヴィクトリア……ゲームに実装されるっぽい……!」 プロジェクトから知らされた極秘の情報だが、本人には伝えた方が良いだろうと早めにメールを送ったようだ。 「本当ですか!良かったですね!」 「うん……うん……!」 あまりの嬉しさに、思わず泣き出してしまう指宿。売れ行き次第で出番が来ると分かってはいたのだが、今まではいつ来るかわかったものでは無い状態だった。そんな不安から解き放たれるように、ザヴィクトリアの実装が決まったのだ。 「正式に実装が決まったら、皆でお祝いしましょうか!」 「マジ?超嬉しい……ありがと……」 こうして、指宿もゲーム版に参戦する事が出来たのだった。ところでメールには続きがあり、そんな彼女もGRAND LIVEに参加しないかというお誘いが来ていた。指宿はそれを二つ返事でOKして、本番までに歌と踊りを覚えたのだった。 |
第10話 グランドフィナーレ
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GRAND LIVE当日。水野は控え室で今日の段取りを再確認していた。そんな彼女の隣には、実装が正式に発表されたザヴィクトリアの声優、指宿が座っていた。
「どう?覚えられた?」 「流石にバッチリですが、念の為再確認しているんです」 「えらーい。ウチも確認しとこっと」 声優の卵としてプロダクションに迎えられた二人だが、今や立派なプロの声優になったのである。自分の仕事に責任を持って、活躍していく事が出来る声優になったのだ。 「本番一時間前でーす。そろそろ準備の方お願いしまーす」 「はーい!……行こっか、水野ちゃん」 「はい!」 こうして、ファン達が待ち受けているステージに、声優達は次々と降り立っていく。ベテランはもちろん、水野達に年齢が近い者もおり、多くの声優達がウマ娘として活躍しているのが見て取れた。そんな中で、一番槍を持ったのは、ウマ娘として新規実装されたばかりの指宿。 「みんなー!こんばんは!今日も元気にー!せーの!」 「「「イブすきー!!」」」 お決まりのフレーズに観客席は大盛り上がり。指宿も大変楽しそうにしており、ライブの出だしとしては完璧な立ち上がりを見せたのだった。 それから、ベテラン声優達とも混ざって一緒にライブの歌を歌い始めるのであった。 『ドキドキってもっと ファンタジア』 『どうか全力で射抜いてよ』 『果てしなく続くWinning the Soul』 ライブでは定番の曲から、珍しい曲までずらりと並べられ、それらを声優達が見事な歌唱力で歌っていく。水野達も負けないように、精一杯声を張り上げてライブに挑んだ。 「それではここからはソロパートに入りまーす!ウマ娘ちゃん達の歌を全力で聴いてあげてね!」 そして、一番の課題であるソロパートの歌が始まった。先輩達は問題なくこなせているが、水野達は上手くいくのか不安になる場面である。しかし、水野達はそんな不安など吹き飛ばす程にライブにノっていた。 「『走り競いゴール目指し』」 難しいと言われるソロパートも、二人は問題なくこなして行った。このパフォーマンスには観客も心打たれたらしく、ツイッチャーやイブスタは多くの感動コメントで埋め尽くされていた。 そして、GRAND LIVEは問題なく幕を下ろした。水野達も大好評であり、アニメにより集中する者やグッズを集めるといった者が後を絶たなかった。そんなGRAND LIVEに、もう一押しが投げ込まれた。 「アンコール!アンコール!」 最初は小さな声だったが、やがてそれは大きな響となり、ホールじゅうに響き渡った。アンコールが来るのも想定済であったのか、一度降ろされた幕は再び上がり、ウマ娘達が壇上に上がるのだった。 「アンコール、ありがとうございます!それでは聞いてください!うまぴょい伝説!」 『うーっ うまぴょい うまぴょい!』 水野達もウマ娘の一員として思いっきり声を上げて歌う。場にいる誰もがうまぴょい伝説にノリノリになり、応援のペンライトが激しく振られる。 『君の愛バが!』 こうして、定番の曲であるうまぴょい伝説をエンディングに、GRAND LIVEは大成功を収めた。水野達も一員として大いに盛り上げた事もあり、ライブ後の反応は高評価で埋め尽くされていた。 「(ライブ、楽しかったなぁ。また出られるように頑張らないと!)」 「みーずのちゃん!」 「指宿さん!帰られないんですか?」 「帰ろうと思ったんだけど、その前に水野ちゃんとお話したくてさ。夕飯奢るから一緒に食べない?」 「奢らなくても大丈夫ですよ!私も売れっ子声優になりましたし。夜ごはん、一緒に食べましょうか」 こうしてふたりは、いつものように二人で食事を済ませる事にしたのだった。ライブが終わったという事もあり、どっと疲れていたが、夕飯の美味しさがそれを吹き飛ばしてくれた。 「うーん、美味しいねえ」 「ですね。指宿さん、美味しいお店知りすぎですよ」 「あはは、そう?まあ人生の楽しみの一つだからね。妥協しないのがイブ流!」 「流石です。私も美味しいお店リサーチしてみようかな」 「それオススメ!美味しいご飯って人生を何倍も豊かにするからね」 「そうなんですね。言われてみればそうかも……」 美味しいものを食べられるにこしたことは無い。そんなわけで、水野も食事リサーチを始めることにしたのだった。 「それにしてもさあ、私達、めっちゃ有名になったよね」 「そうですね。ウマ娘声優になってから、あっという間に人気者になれましたね」 「そそ。ウマ娘には感謝しか無いよね。これからも、ウマ娘には真剣に向き合っていきたいって思ってる」 「私もです。フラワリングタイムとして、この声を吹き込んでいきたいと思います」 「あはは。おんなじだね。じゃあ約束しよ!ウマ娘声優として、これからも競い合うって」 「もちろんです!ウマ娘声優として、貴女に負けたりはしませんよ」 「ウチこそ負けねーし!……ふふっ」 「……あははっ!」 二人して笑い合う。二人はこれからも、ウマ娘声優として活躍していくだろう。果たしてこの二人はどこまで活躍していくのであろうか。それはまだ、誰にも分からない。彼女達は走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指して。 |
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